第4期「がん対策推進基本計画」について
「がん対策推進基本計画」とは、国としてのがん対策の方針を決めた「がん対策基本法(2006年立法)」に基づき、「では、具体的に何を行うか」を期間を決めて計画をたてたものです。これが、都道府県がん対策推進計画の基本ともなります。
2023年3月に策定された第4期基本計画では、「誰一人取り残さないがん対策を推進し、全ての国民とがんの克服を目指す。」を全体目標とした上で、「がん予防」「がん医療」「がんとの共生」の3本を柱とし、4つめに「これらを支える基盤」を掲げています。各分野における現状と課題、それらに対する取り組むべき施策などが詳細に記載されています。実行期間は2023年度から29年度までの6年です。
第4期「がん対策推進基本計画」に見る、今後のがん対策の注目点
(がん対策推進企業アクション版)
1. 子宮頸がん予防の「9価HPVワクチン」公費接種がスタート
年間約1.1万人が罹患し、約2,900人が死亡する子宮頸がんを防ぐため、従来のHPVワクチンより効果の高い9価ワクチン(8~9割の予防)の公費接種が令和5(2023)年4月からスタートしました。小学校6年生~高校1年生が対象ですが、接種機会を逃した平成9(1997)年度~18(2006)年度生まれの女性も対象となります(キャッチアップ:令和6(2024)年度まで実施)。従来のワクチンは3回接種ですが、9価ワクチンは1回目の接種を15歳になるまでに受ける場合は、接種は2回で済みます。
2. がん検診受診率は、50%から60%へ目標を引き上げ
これまで胃・肺・大腸・乳・子宮頸部の5がんの検診受診率は50%達成が目標でしたが、今回、「60%をめざす」と引き上げられました。女性や障害者・非正規雇用労働者などが受診しやすい体制も整備します。保険者や事業主が福利厚生の一環として任意で実施している職場でのがん検診は、受診対象者が3~7割と多いにも関わらず、受診率が低いことから、今後、職域検診の法定化を検討していきます。
3. 海外で主流となっている放射線治療の推進を目指す
海外では、身体に優しい放射線治療が主流ながら、日本では普及が遅れています。日本放射線腫瘍学会の強い意向を受け、今回、基本計画に放射線治療の重要性が明確に記載されました。放射線治療専門医や医学物理士の育成の他、取り組むべき施策として、粒子線治療、核医学治療、MRIを用いた高精度放射線治療が明記されました。
4. がん緩和ケアは、検討部会でまとめた“重要3点セット”を記載
厚労省の「がんの緩和ケアに係る部会」(座長=東大・中川恵一特任教授)でまとめた、
1. 診断時に緩和ケアを実践するポイント
2. 診断時の医療従事者の対応についての説明文書(医療チームからお伝えしたいこと)
3. 痛みへの対応について(神経ブロックなどの専門的な治療の活用
の3点について、基本計画にしっかりと明記、「必要な体制整備を推進」としました。「3点セット」の記載のページには全てURLを入れて「3点セット」の全容がわかるようになっています。
5. がん教育は、学習指導要領踏まえ医師等の積極活用求める
中学・高校の学習指導要領に「がんも取り扱う」と明記され、教科書にも記載されて、がんの授業が本格化し始めたことから、停滞気味の医師やがん経験者などの外部講師活用を積極的に進めて小・中・高校でのがん教育を充実する方向性を改めて強調。そのために市町村レベルまで教育委員会と衛生主管部局が連係して取り組むよう求めています。
6. 事業主や医療保険者に、がん対策推進企業アクションの事業活用促す
今回の基本計画に「がん対策推進企業アクション」(厚労省委託事業)に関する初めての記載がなされました。14年間の職域のがん対策推進が評価されたと言えます。注目すべきは事業主や医療保険者に「企業アクション事業の活用」を求め、職域でのがんに関する知識の普及・啓発、そこからがん検診や治療と仕事の両立といったことへの対応をなすように期待しています。この記載により、企業アクションの役割が一層高まりました。