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2022/10/24

令和4年度「がん検診受診率向上推進全国大会」を開催しました

イメージキャラクタ「けんしんくん」
▲イメージキャラクタ「けんしんくん」
令和4年度はオンライン598名、会場108名(昨年対比約140%)と多くのご参加を頂きました。
▲令和4年度はオンライン598名、会場108名
(昨年対比約140%)と多くのご参加を頂きました。

毎年10月を「がん検診受診率50%達成」に向けた集中キャンペーン月間としています。今年度は、新型コロナウイルス感染症の影響を考慮し、10月5日に東京都千代田区の一ツ橋ホールでWEB配信を併用したハイブリッド形式にて全国大会を開催しました。

【ご挨拶・国のがん対策の現状】
原澤 朋史氏(厚生労働省 健康局 がん・疾病対策課 がん対策推進官)

厚生労働省 健康局 がん・疾病対策課 がん対策推進官 原澤 朋史氏
▲厚生労働省 健康局 がん・疾病対策課 がん対策推進官
原澤 朋史氏

◆ご挨拶
我が国では、2人に1人ががんになり、3人に1人ががんで亡くなっています。さらに、がん患者の3人に1人は働く世代です。

がんを予防するために、たばこなどのリスク要因を避け、適度に運動する、といった生活習慣の改善も効果的ですが、そういった取り組みをしてもなお、がんを完璧に予防することはできません。そのため、皆様がそれぞれがん検診を受け、早期発見、早期治療に繋げていくということが非常に有効となってきます。
しかしながら、我が国のがん検診の受診率につきましては、諸外国と比較しても依然として低い水準と言わざるを得ず、目標としている受診率50%はほとんど達成できていない状況です。がんによる死亡者を減らしていくためには、受診率を上げる必要があると考えています。
本日お集まりいただいた皆様におかれましては、本大会への参加を機に、がんに関する知識を深め、同僚、家族、友人にがん検診を受けるよう、勧めていただければと考えています。

◆国のがん対策の現状
昭和56年から、がんが国内での死亡原因の第1位となり、依然としてその状況が続いています。男性の累積がん罹患リスクが65%、女性は50.2%であり、日本人の概ね2人に1人ががんにかかる、男性においては3人に2人程度の割合となっています。がんの5年相対生存率は医療従事者の皆様の努力や、医療の日々の進歩もあり、徐々に改善されているため、必ずしも不治の病というわけではありません。また、平成28年にがん対策基本法が改正され、その中でがん患者の就労等や、がんに関する教育の推進が位置づけられております。こういった取り組みには、企業の皆様のご協力というものが非常に重要です。
今、申し上げたがん対策基本法に基づいて、がん対策推進基本計画というものを定めております。こちらは、がん患者を含め国民ががんを知り、がんの克服を目指すということを目標としており、三つの柱として、「がん予防」「がん医療の充実」「がんとの共生」を、これに加え、基盤の整備として「がん研究」「人材の育成」「がん教育普及啓発」を位置づけ、これらを中心に、国としてがん対策を進めています。
がん対策推進基本計画は、6年に一度のペースで見直しを行っており、まさに今、第4期を策定するための改定の作業を行っていますので、定まりましたら内容をご確認いただければと思います。厚生労働省としても、情報提供に努めていきたいと考えています。

がん検診には対象集団全体の死亡率を下げることを目的とした「対策型検診」というものと、個人の死亡リスクを下げる「任意型検診」という二つの種類があります。国として進めているのは対策型検診ですが、例えばがん検診を行うことで、そのがんによる死亡が確実に減少すること、検査が安全で精度がある程度高いこと、検診を受けるメリットがデメリットを上回ること、などの科学的根拠に基づいてお示ししている、5つのがん種「胃がん」「大腸がん」「肺がん」「乳がん」「子宮頸がん」の検診を推進しています。これらのがん種に対する検診受診率の推移ですが、受診率そのものは上昇傾向にありますが、全体の受診率50%を目標にしている中で、男性の肺がん以外はまだ、目標値に届いていないのが現状でございます。したがって引き続きの取り組み、受診率をより高めていくための努力が必要であるという状況でございます。
国際的な比較をしても、乳がん、子宮頸がんそれぞれ国際的に見ても低い水準と言わざるを得ない状況ですので、受診率を高めたいと考えています。

がん検診の種類にもよりますが、検診受診者の約3割から6割と高い割合が、勤務先での受診となっています。受診率を高めていくなかで、職場での啓発というものはとても重要な位置づけであるということが見てとれると思います。続いてがん検診未受診の理由について、トップ3を見ていきますと、上から「検診をうける時間がないから」「健康状態に自信があり、必要性を感じないから」、「心配なときはいつでも医療機関を受診できるから」となっています。がんは症状が出てからでは遅い病気であり、早期に発見し、治療を受ければ多くのがん種で9割以上が完治するとも言われていますので、がん検診を受けやすい環境を作っていき、がんについてよく知っていただくというのも、非常に重要な取り組みだと考えています。
新型コロナウイルス感染症の流行下においてがん検診がどのように変化したか。2020年4月、2020年5月のがん検診受診者数は、前年同月比で大幅に減少しており、2020年6月以降については前年同月比とおよそ同程度に回復しておりましたが、年間を通じて見ると一、二割減少していました。このため受診勧奨資材を厚生労働省として作成し、「決してがん検診は不要不急の外出ではない」と、広くお知らせし、感染症流行下であっても受診が必要であるということをご理解いただくよう促しています。

職域におけるがん検診というのは、福利厚生の一環として実施していただいているという状況で、検査項目や対象年齢など実施方法は様々であるというのが実態です。また、対象者数や受診者数などのデータの集約などが行われておらず、受診率の把握や精度管理といったものがなかなか難しいというのが現状でございます。厚生労働省はこういった状況を踏まえ、職域におけるがん検診の実施に当たって参考となる事項をお示しし、科学的根拠に基づいた検診を実施していただくように、「職域におけるがん検診に関するマニュアル」を策定しておりますので、ぜひ企業の皆様にご活用いただきたいと考えています。

がんの罹患者数と、仕事を持ちながら通院している方の推移ですが、がん患者の3人に1人は就労可能な年齢で罹患しており、最新の2017年の統計では、全体で97万7393人の患者のうち、20歳から64歳の罹患者は全体の25.2%で約4分の1。20歳から69歳まで広げると、全体の40.5%となります。がんにかかって、どういう形で医療を受けているか、長期にわたって入院するケースは昔に比べると減っており、多くの場合、治療は通院で行うようになっていることは、残日数の推移や、外来患者数の伸びなどでおわかりになろうと思います。外来で治療ができるような環境になってきていますので、通院で治療をしながら仕事に取り組むという、両立への支援というものがますます重要になっています。
両立支援に必要な取り組みに関する世論調査ですが、上から「病気の治療や通院のために短時間勤務を活用できること。」「1時間単位の休暇や長期の休暇が取れるなど柔軟な休暇制度が必要である」「在宅勤務を取り入れること。」といった回答もありました。
両立支援の取り組みについて、日本の労働人口の3人に1人が何らかの疾病を抱えながら働いているというのが現状であり、治療を続けながら働くための制度や、社内の理解が必要だということがおわかりになるかと思います。治療と仕事を両立するためには、働き方改革実行計画に基づき、トップ管理職等の意識改革、両立を可能とする社内制度の整備促進、傷病手当金の支給の検討など、会社の意識改革と体制の整備が必要だと考えられます。実行計画は、主治医、会社や産業医、両立支援コーディネーターの3者による患者の治療と仕事の両立をサポートする「トライアングル型支援」というものを推進しております。
治療と仕事の両立支援、がんと診断されたときからの相談、就労支援を円滑に進めるための環境整備、これらは、「厚生労働省健康局」「職業安定局」「労働基準局」の3部局によって、連携を密にとりながら対策の検討を進めております。

最後に、本日ご参加の皆様により、職場におけるがん検診の受診率向上、加えて、がん患者の治療と仕事の両立支援などの取り組みがますます広がっていくことを、大いに期待してございます。

【がん対策推進企業アクション事業概要説明】
山田 浩章(がん対策推進企業アクション事務局長)

事務局長 山田 浩章
▲事務局長 山田 浩章

職域におけるがん対策を、企業と連携しながら進めている、厚生労働省の啓発事業でございます。職域でのがん対策が進むことで、結果としてがんで亡くなる方が減っていくということを目指して様々な活動をしています。

なぜ職域なのか、人生100年時代、定年も延長し、職域に属する方は年々増えています。また女性の社会進出を受け、職域でのがん対策というところが、世の中において非常に重要性を増しています、加えて、がん検診を受診する方の全体の約3割から6割が、職域でがん検診を受診しているという背景を受け、非常に重要視されている職域がん対策を、進めています。

活動に関して、指針として3つ設けており「がんについて正しく知りましょう」「早期発見をするために受診率を上げましょう」「両立の支援、治療と仕事の支援をしていきましょう」を、目的・目標として掲げて活動しています。企業アクションですが、2009年に事業をスタートし、14年の歴史を持つ事業です。厚生労働省の方からもパートナー数のお話がありましたが、順調に新規参画パートナー数を増やしており、昨年令和3年度は、1年間で568という登録数でした。今年度に関しては、半期終了した時点で既に432、年間では860〜870程度の新規パートナーが参画する見込みです。なお2022年9月30日時点では約4500の企業様および健康保険組合といった団体様にご参画をいただいており、最近の傾向としては、中小企業や個人事業主の皆様の参画が増えています。

最後に注力施策をご説明申し上げます。大きくは「情報の発信や広報」「リアルもしくはオンラインでのイベントの開催」「企業との連携」という3つの活動を行っております。

◆情報の発信や広報
主にホームページです。14年間分の情報を整理し、目的に真っすぐたどりつくような形で導線の整備を行いました。続いてYouTube、現在37種類、視聴数は計18万回を超え、チャンネル登録数も2600ということで、順調に増加しています。中川先生に非常にわかりやすくご説明をいただいておりますので、初期のがん教育にも使いやすいという声をたくさんいただいています。そしてe-ラーニングです。パートナーに登録すると無料で使えるコンテンツで、令和3年度で5800名、令和4年度で8500名の、累計14000名以上の方に受講いただいており、教育のコンテンツとしてご利用いただいています。

◆リアルもしくはオンラインでのイベントの開催
ブロックセミナーついて、中川先生や認定講師の方のご登壇、また開催地の県庁や、地域に根ざした団体様との協力で開催し、実施した地域において「がん対策が根付いていく」ということをミッションとして、実施を進めています。今年度は11月に石川県、12月に沖縄県、2月高知県3ヶ所での実施を予定しています。

◆企業との連携
企業コンソーシアムとは、企業アクションの登録パートナーの中でも、特に積極的にがん対策に取り組んでいる企業様と連携しながら、進めていくプロジェクトです。大きくは年間で2回ほど、ゲストの先生をお呼びした研修会を実施しており、非常に内容も充実し、注目を浴びている活動でございます。また、Working RIBBONという、女性2がんの対策に特化したプロジェクトですが、「女性2がんの受診率を80%に引き上げていこう」と目標を置いた会議を行い、女性向けアプリを運営する企業様と連動して共同調査したものを結果分析し、メディアへと発信予定です。
また、中小企業のがん対策として、経営に直結する非常に重要な問題であると同時に、経営者自身のがん対策への興味関心そのものが、社員の受診率に直結している、ということもわかっており、注力ポイントとして活動しています。

【がんの罹患経験を経て】
(座長)中川 恵一氏
(演者)石山 美行氏、風間 沙織氏、河野 美和氏、昆 広海氏、鈴木 信行氏、
原 利彦氏、藤原 裕子氏、松本 眞由美氏、和田 智子氏

東京大学大学院医学系研究科 特任教授 中川 恵一氏
▲東京大学大学院医学系研究科 特任教授 中川 恵一氏

【中川恵一氏】
私は膀胱がんの経験者ですが、今日ご参加の皆様も、実際がんに罹患したことのある方、あるいはそういったお話を聞かれたことのある方は少ないと思います。実際にがんを経験された方々から、直接お話を聞く機会はそれほど多くないです。結果的には、そういったことががん検診の受診率アップを阻害する要因になっていると思います。がん対策推進企業アクションでは、独自にがん経験者の方々に認定講師になっていただき、各種セミナーや企業への出張講座などで講演をいただいています。この活動は非常に評価が高いです。今回はオンラインを含めて認定講師8名にご出席いただいておりますので、生の声を聞いていただければと思います。

◆お名前と経験されたがんの種類、現在の仕事について

石山 美行氏
▲石山 美行氏

【石山 美行氏】
石山美行、乳がんです。
現在、ヤフー株式会社でデザイナーをしています。会社の他に、一般社団法人でがんの罹患後の運動に関する活動をしていて、今は国立がん研究センターの先生方と一緒に行うイベントの準備中です。

風間 沙織氏
▲風間 沙織氏

【風間 沙織氏】
風間沙織と申します。
私は人材派遣会社で30年近く働いておりまして、業務プロセスの構築などをしておりますが、2018年からリモートワークを推奨する企業で、現在はほぼ100%自宅で仕事をしております。

河野 美和氏
▲河野 美和氏

【河野 美和氏】
河野美和と申します。
私は乳がんを5年前に経験しました。トリプルネガティブというタイプで、左側を全摘しました。がんになる前はフリーアナウンサーや研修の講師をしていましたが、がんになった時に仕事をやめようと思って、しばらくは何もしていませんでした。これからはやりたいことをしようと思っていたら、娘がやりたいことをすると言って海外に留学にいってしまって、その関係もあって今は留学カウンセラーをさせていただいております。

鈴木 信行氏
▲鈴木 信行氏

【鈴木 信行氏】
鈴木信行と申します。
私は大学3年20歳の時に精巣がんになり、24歳に再発の治療が必要になったという経験と、46歳の時に甲状腺がんになりました。大学卒業後は製薬企業にいましたが、現在は自分のがん体験や身体障害者という立場から、医療職の皆様に向けた研修活動、講演活動をする自営業をしています。

和田 智子氏
▲和田 智子氏

【和田 智子氏】
和田智子と申します。
11年前のちょうど10月に子宮頸がん手術をしました。そのときに仕事と治療の両立を支援していただいた会社に現在も勤めていて、製薬会社で流通の仕事をしています。

原 利彦氏
▲原 利彦氏

【原 利彦氏】
福岡市に在住している原利彦と申します。
がん種は甲状腺がんと中咽頭がん、いずれも喉のがんですが、2つ同時に見つかっていずれもステージⅣでしたが、治療がうまくいって、現在は経過観察中です。仕事は映像の制作会社に所属して、ディレクターとしてテレビ番組やCMの制作を行っています。

松本 眞由美氏
▲松本 眞由美氏

【松本 眞由美氏】
2013年に膵臓がんの経験をした松本眞由美と申します。
がんと診断されたときに治療に専念をするためにお仕事を辞め、現在は膵臓がんの患者支援団体で活動、この企業アクション認定講師として講演やコラムの執筆などをさせていただいています。

昆 広海氏
▲昆 広海氏

【昆 広海氏】
認定講師の昆広海と申します。
私が罹患したがんは乳がんでして、子供が0歳のときに乳がんが発覚して、公認会計士としてちょうど職場に復帰する直前だったのですけれど、乳がんということがわかって、手術と抗がん剤治療ののちに職場復帰を果たして、今も同じ仕事を同じ事務所で続けている状況です。子供は無事に0歳から4歳になりまして、今も元気に育っています。

◆医師からがんと宣告された時の率直な心境

【鈴木氏】
私は2回がんの宣告を受けましたが、最初のがんは30年も前で、当時はがんの宣告をするという文化が医療現場にはありませんでした。
治療が終わったあとに自分で調べたらがんだったという感じなぐらい、そもそも宣告がない時代でした。
2回目は6年前の甲状腺がんですが、このときにはこのがんは10年生存率も高いがんだという知識があったので、正直がんという言葉で驚いたというよりは、このがんという言葉を両親や妻にどうやって説明しようかというところに悩んだり、仕事がだいぶ詰まっていた時期だったのでどう調整していけばいいのか、悩みました。特に、もう自営業でしたので自分が全てやらなければいけないので、生活と治療とのバランスをどう取っていくかっていうところで頭を悩ませました。

【河野氏】
私は乳がんの知識もあまりなくて、近所のクリニックにちょっと何か水がたまったのかしらと思って検査に行って、そこでいきなり先生に「乳がんです」って言われたんですが、全然自分で疑っていなかったので、本当にまさかっていう感じでした。その頃二人の娘が小学校6年生と幼稚園でしたので、「乳がんと言われても困ります」と先生に言って、子供たちが小さいし、塾に行って送り迎えやお弁当を作ったり、仕事以外での私の役割というのがあって、誰でもできることなんだけど誰も変わりがないという状態だったので、今病気になるのは困る、どうしよう、どうしてこんなふうになったんだったんだろう、なぜ今のタイミングで、どうして私なんだろうとすごく後ろ向きなことばかりを考えて、頭の中がぐるぐる状態でした。

【原氏】
お二人がおっしゃったことに近いのですが、私の場合は死ぬのが怖いというより、まず仕事をどうしようという焦りが強かったです。私の場合、左耳の後ろにできた小さいしこりが気になって病院に行ったら、いきなり甲状腺がんです、ステージⅣです、さらに喉のところにもがんがあります、そちらもステージⅣで余命半年の状態ですと突然言われ、即入院即手術で抗がん剤と放射線となっていくのですけれども、それはいつからですかと聞くと、来週すぐ入院してくださいと言われ、どのくらいの期間ですかと聞くと、最低でも2ヶ月です、と。結果として4ヶ月入院して、半年仕事を休みました。突然来週から2ヶ月会社を休むのは無理だと思い、焦りました。本当に大変でしたし、言われた瞬間は死ぬのが怖いとか家族がというよりも、会社になんて言おう、仕事どうしよう、お金どうしようとそういう気持ちでいっぱいでした。

◆ご自分ががんになったということを会社に伝えるのは難しかったと思うのですが、会社は率直に受け入れてくれましたか。

【石山氏】
最初に英語で検索したら、アメリカでは友達みんなが応援してくれると出てきて、それで勘違いして、ネットを通じて会社の知っている人に一斉にばらまいてしまいました。結果的にはみんなが色々な支援をしてくれて手術と治療の時はよかったです。しかし、何年かして新しい上司になった時、がん患者が働けるわけない、働けないんだから給料を下げると怒り出して、どう説明しても聞いてもらえなくて困りました。

【風間氏】
私は「あなたは乳がんです」と確定診断を受けた日にその足で会社に行き、上司部下全員に「私は乳がんです」と打ち明け、その時点で見つけるに至った経緯、現在の状況、その後の治療の予定、休む予定、仕事の振り方まですべて説明しました。そのおかげでみんなは余計なことを考える間もなく、「あ、そうなんだ」という受け入れざるを得ない状況を自分で作ったというのと、やはりこういうことは自分の知らないところで噂になって、重病説が流れるのが嫌だったので、復帰した時にはこんなに元気でこんなに働けてというのをどんどんアピールして、周りに「あ、そういうものなんだ」と理解してもらうようにしました。

【昆氏】
私もお二人と似ていて、普通に会社の直属の上司に伝えました。私の場合は子供が生まれて産休育休から復帰する時でもあったので、産休育休明けの仕事のスケジュールと合わせて治療も入ってくるということで、淡々と業務連絡のように今後の仕事について調整をして、対応していった感じです。そこの命の不安とか、死ぬんじゃないかみたいなそういう不安は本当になくて、というのも早期発見だったので、治療さえ終わればまた元の生活に戻るだろうという確信があったので、やはり検診で早めにがんが見つけられてよかったなと思います。

◆がんに罹患されて失ったものは何か、得たもの

【松本氏】
失ったものは、膵臓がんの手術の影響でインスリン使用の糖尿病になり、食事制限が出てきてしまい、好きなものを好きなだけ食べるような、今までやっていたような生活ができなくなりました。得たものは、ごく普通の日常生活が、実は私にとってはとても大切なものであったんだなっていうのが実感できたことと、普通のことができることは実はとても生かされてることなんだなっていうふうに繋がって、それが感謝の気づきという形になりました。

【和田氏】
私自身のことと、夫のことを紹介したいと思います。
私自身は早期発見だったんですが、年間経過観察というところで、最初2年間は半年に1回、後は1年に1回だったんですが、やはりこの5年間再発するんじゃないかという不安を抱えたまま、楽しくない人生を送ってしまいました。本来であれば、楽しく過ごしていたんだろうなというところがありました。
実は夫もがんになっておりまして、要精密検査だったのにも関わらず、すぐに病院に行かなかったものですから、病院にかかった時にはすでにがんが進行しておりまして、残念ながら夫は亡くなってしまいました。
ですので、私の場合は楽しく過ごせなかった5年間ではありますが、夫の場合はがんにかかって命をなくしてしまったというところがあります。

逆に得たものということなんですけれども、夫の死もあって、夫が亡くなったのは39歳のときだったんですが、やはり人生長く生きられるというふうにそれまでは思っていましたし、病気になって不自由な生活になるとは思っていなかったのですが、やはり身近な人の死を経験したことによって、自分自身どういう人生を歩んでいきたいのかを本当に真剣に考えましたし、バケットリストというんですか、死ぬまでにやりたいことを作って、それを毎年見直して実現していっています。
なので、行動力や自己実現力が増して、夫の分まで充実した人生を生きているという実感があります。

◆がんになったことを運が悪かったと感じていますか。いや、それはそれで人生だからいいんだとお感じでしょうか。

【石山氏】
何事に関しても運がどうという考え方をしたことがなくて、病は誰でもなるし順番かなみたいに思ってました。
ただ時期的なことで言うと、私シングルマザーなのですが、息子が大学卒業した後でしたし、お金をやっと貯めて、マンションを買って、住宅ローンを組んだ後だったので、時期的にはまだよかったかなと思ったことはあります。若い方や子育て中の方はより大変ですよね。

【河野氏】
運が悪かったというか、私はそう思っていた方だと思います。
抗がん剤でまずすぐに髪が抜けてきて、もう誰にも会えないって思っていましたので、あの頃の私が見たら今の私は見違えるように元気になってキラキラしてると思っています。
がんになる前は、よく言いますよね、がんを乗り越えて第2の人生を謳歌しているみたいな方たちを見て、ああいう人たちは特別な人なんだというふうに思ってたんですけども、今回がんになったことで本当にいろんな出会いがあって、今お世話になっている英語の塾で、留学のカウンセラーをやっているんですけれども、それも実は病院の手術が終わった次の日に、病院の隣のベッドにいた方が英語の塾をやっていて、ママ友みたいになって、一緒に私も手伝うよって言って、娘が留学したり、病気になったことで広がったご縁がたくさんあって、こうやって今日もここでお話しさせていただくことももちろんそうなんですけど、怪我の功名といったらなんですけど、だからといって皆さんに「がんになりませんか」とは絶対言いませんが、病気になることは良くはないですけども悪くない人生だなと思っています。

【鈴木氏】
運が悪かったかといえば、もしかするとそのがんになったばかりの頃は、そういう気持ちがあったのかなと思わなくもないんですが、今になって思えば、例えば20歳の大学3年で就職活動をする時にがんになった、だから抗がんに興味を持ち、求人も来ないような製薬企業にアタックする、それで自分の人生が決まっていくというように、結果としては、逆に運が良かったと思っています。この発想の転換を持てるようになったというのも、やはりがんになった仲間から発想転換の術を教わったみたいなところもあり、そういうことも含めて運が良かったんだなと思います。ただ当時はそんなことは思っていなくて、気持ちが切羽詰まっていたのも確かなのですが。
当時と今とではだいぶ考え方が違って、気持ちの切り替えができたっていうのも、がんになったおかげだなって、そういうふうに前向きに捉えられるようになりました。

◆皆様に向けて訴えたいこと

【風間氏】
10人10がんなんです。
同じがん種、同じステージであったとしても、同じ状況になるということはまずありません。

例えば抗がん剤治療、私は働きながら抗がん剤治療をやりましたけれども、中には同じ薬を使っても家に帰って1ミリも動けなくなる人もいます。
皆さんご自身ががんになったとき、テレビや知り合いの人のことを聞いて「俺は大丈夫だ」「私は死んじゃうんだ」とか、周りの方に「私、がんなんです」と言われたときに、「○○さん働きながらやってたから、あなたも大丈夫よね」とか、最初から「休職決まりね」とか決めつけないでください。
それぞれの体調や気持ちに耳を傾け、どうしてあげればいいのか、自分自身であればどうしたいのかというのを、がんという病気にかかったときに1人1人考えていただきたいなと思っています。

【原氏】
私はいわゆるサラリーマンなんですが、今50歳で5年前の45歳のときにステージⅣのがんが二つ同時に見つかるという奇跡的なことあったんすけども、当然そんなこと絶対にあり得ないと思ってたんですけども、あり得たわけなんですね。
私もそんなこと絶対にあり得ないと思っていたから、何の準備もしていないですし、対応にも非常にあたふたしてしまったわけですけれども、みなさんも45歳でそんなこと絶対にないと思われていると思うんですが、私がしくじり先生ではないですけども、経験してますので、もし今自分がステージⅣで治るかどうかわからないと言われたらどうなるかなという、ちょっとでもいいので、シミュレーションといいますか、考えていただければ、今の保険大丈夫かなとか、今の生活大丈夫かなとか、しばらく検査受けていないなとか、そういう見直しをする気持ちもちょっと沸いてくるんじゃと思って、今日この機会を何かそういうものに役立てていただければと思います。

【和田氏】
最近私の同僚が前立腺がんの手術をしたんですね。出社してきたので「大丈夫?」と声をかけたんです。そしたら明るく「和田さん、しばらくオムツ生活なんだよ」っていうふうに言ってくれました。私は女性なので、男性の前立腺がんの病気をよく知らなかったですし、手術したあとにオムツを履いて過ごさないといけないことを初めて知ったんですね。

でもやはりそういうことを自分が知ったことで同僚に対して配慮してあげたりとか、何かできることが増えたんじゃないかなととても感じました。私自身は11年前に子宮頸がんの手術をしたんですけれども、子宮頸がんは女性の病気ですが、その子宮頸がんになる前に異形成という状況が健康診断の結果で返ってきていたんですが、私自身その女性の病気であるにも関わらず異形成という言葉も知りませんでした。

そういった病気になってからがんのことを知るのではなくて、健康なうちからそういったことを知ることで、知識を得ること自分自身や周りのプラスになることができるんじゃないかと感じています。
私は個人的には「オトナのがん教育」のYouTubeで情報をアップデートしています。

【昆氏】
私は4歳の娘を抱えながらフルタイムで働いているのですが、今元気に子育てをしながら働けるのも早期発見だったからだなと実感しています。私の場合は定期検診ではなく、左胸にしこりを自分で見つけて変だと思って、職場復帰する1週間くらい前に乳腺クリニックに行ってそこで乳がんを発見したというパターンなんですけど、たまたましこりが乳がんかもしれないという知識があったからこそ、早期発見することができたんですね。
ちょっと知識の有無が今後を左右するということもあると思うので、私はたまたま知っていましたけども、YouTubeの動画で知識をアップデートするというのもいいと思いますし、定期健診というものにまずは関心を持つというだけでもそこから周辺知識的にいろいろな情報を得ることも思うので、皆様ぜひ定期検診を受けることから始めていただきたいなというふうに思っています。

【松本氏】
私は検診がきっかけで当時ステージⅣの膵臓がんの発見に繋がりました。それで命を繋ぐことができました。手術をして今年で10年目となります。
私は検診を毎年受けていて、たまたま要精密検査で行った病院でたまたま腫瘍マーカーが引っかかって、たまたまが重なってうまく手術ができる形になったので、こうやって命が繋げられたのかなと思うんですけど、元々はやはり検診を受けてなければ今の私はちょっと存在していなかったかなというふうに思います。
なので、まず自分自身が命を守ることに繋がったり、大切な人の命を守ることに繋がる検診や正しい情報で多くの人たちの命が守られることを切に願っています。

【石山氏】
先ほどみんなに「がんになりました」とばらまいてしまったと言った続きなのですが、その中に「実は僕も毎年健康診断で要検査になってるんですよ。そういうのを放置しておくとがんになって危ないよね」と言ってきた人がいるんですね。
「私は人間ドッグ全部Aだったのに、それでもがんになったのよ」って言ったら驚いてました。
要検査で毎年その後放置しているのは言語道断なんですが、そうじゃなくても私みたいに全部人間ドッグAで健康優良児みたいでもいきなり見つかることがあります。それもあるので検査は必ず、そして要検査になったらすぐ病院へ行くようお願いしたいです。

【鈴木氏】
私が認定講師としてお伺いする企業さんでは、いつも話すことなんですが、企業の中の産業保健スタッフの皆さんを、うまく活用していただくという、社内風土を期待しています。この会場にも産業保健スタッフの方がいらっしゃったら、自分たちの持っている技量や行っている取り組みなどを、広く従業員の皆さんにお伝えする広報活動にぜひ力を入れていただきたいです。
そうすることによって従業員の皆さんがより的確な医療を受けられて、それが最終的には企業の方にいい意味で返ってくると考えています。なので、産業保健スタッフ、産業医含め、保健師、人事部など、いろいろな人が関わっているかと思っていますが、そういうみなさまの活用というところに着目、注目していただければと考えています。

【河野氏】
私が乳がんになった時に、誰かに助けてもらわないと実家が九州で親戚もいなかったので、幼稚園のママ友とか何人かに話しました。話さざるを得ませんでした。それで助けてもらったんですけど、そのときに「私、乳がんになったのよ」って言ったら「私の姉も」とか「お母さんも」とかすごくいろんな方が、こんなに多くの人ががんに罹患している方がいるんだということにまずびっくりしました。

話してもみんな受け入れてくれるんだというのがわかったので、少しずつ話していて、こういうお仕事もさせていただいてるんですが、先日ピンクリボンフェスティバルのお手伝いをした時にピンクリボンのバッジをいただいて、2ついただいたので5年生の娘に一つあげたんです。娘が「何のバッジなの?」聞くので、「こういう意味があるんだよ」って話をしたら、「ランドセルにつけて学校に行く」って言うんですね。「誰かに聞かれても大丈夫?」と言ったら、「うちのお母さん乳がんになったんだ」って言えるって、つけてくれるようになりました。ママ友と話していると、うちの主人は会社で「人間ドッグいつまでに行ってください」って言ってくださるので、きちんと行っているんですけど、主婦はなかなか行くのが遅くなっちゃって、私もそうなんですけど、子供のテストが終わったらとか来年受験が終わったらとか言ってると、延び延びにになってしまうことが大変多いです。なので、奥様方のその健康診断とか健康状態とかを、ご主人たちが少し考えてくださったら嬉しいなと思います。

【中川氏】
私は膀胱がんの経験者ですが、たまたま自分で自己超音波検査という非常に珍しい見つけ方をしました。見つけたときは夢かと思いました。何かの間違いじゃないかというふうに私は思いました。38年間がんの臨床医をやってきて、男性3人のうち2人ががんになるなんて偉そうに言ってきたのに、そうでしたね。
そのようにやはり我々も生き物の一つですから、やっぱり自分ががんになるとか死ぬとか、あまり考えないようにプログラミングされているような気がします。皆さんの話を聞くと早期発見の重要さ、それからやはり少し知っておくということですね。元々我々はがんにならない存在かもしれないが、それもやはりちょっと知るということが大事だと思いました。ありがとうございました。

【職域がん対策における企業アクションの役割】
中川 恵一氏
(東京大学大学院医学系研究科 総合放射線腫瘍学講座 特任教授)

東京大学大学院医学系研究科 特任教授 中川 恵一氏
▲東京大学大学院医学系研究科 特任教授 中川 恵一氏

私は自分自身で膀胱がんを発見しました。自分ががんになるとは思っていなかった一方で、がんのリスクは感じていたので、定期的に自己超音波検査を行っていました。
2018年12月9日の検査時に偶然にも尿が溜まっていたため、普段行わない膀胱の検査を自分で行ったところ、がんを発見しました。早期発見だったため、同年12月28日に内視鏡切除し、31日に退院しました。1月4日には勤務開始しました。このように早期発見は仕事と生活への影響が少なく、とても重要なことです。
職域がん対策の企業アクションは、厚生労働省の委託事業で平成21年度から今年度で14年に渡り継続しています。パートナー企業数は現在4,500まで伸びており、そのうち約半数が100人未満の中小の企業です。

年齢別のがん罹患者数は、50歳半ばまでは女性の方が男性より多いです。女性のがん罹患者数のピークは、乳がんは40代後半、早期の上皮内がんを含めると子宮頸がんは30代前半です。男性のがんは老化に伴う要因が多く、50歳半ばから罹患者数が増加します。乳がん、子宮頸がんの要因は老化とは異なります。乳がんは女性ホルモンの刺激、子宮頚がんは性交渉に伴うウイルス感染が要因で、若い世代ががんに罹患をする特徴があります。女性が企業で働くことは若い従業員のがん患者が増えること、そして、定年の引き上げで性別に関係なく働く年齢の人々ががん宣告を受けることになります。日本の総就労人口に占める65歳以上の割合は13%位で、世界でも群を抜いて1位です。そのため、働く人ががんに罹患する日本の社会は、世界的にも特徴的です。このデータは専属産業医がおられる事業所における、サラリーマンの死因の約半分ががんということを示しています。私は、日本経済新聞で「がん社会を診る」を8年連載させていただており、やはりこういったがんに関する、特に働く世代に対してがんのことを知ってもらうことの必要性の証という気がします。私が執筆したこの記事で伊藤忠商事を例にとっていますが、これも伊藤忠だけではなく、在職中に社員が病気で亡くなるケースの9割はがんであることを示しました。死因の半分はがんであり、病死に限ると9割ががんで、つまり働く者にとって実は非常に大きな壁になります。

医療費についても、健保連のデータで見ると、最も支払いが多い医療費が新生物(がん)と示されています。そして、がんの支払いは増加しており、医療費構成は令和元年で12%ですが、令和二年では13%です。女性が働き、かつ、男女共長く働く社会では、医療費はがんが首位で増え続けています。また、がん対策は健康経営にとっても非常に重要で、就活生は給与よりも健康を重視する、というデータもあります。企業ブランドよりも健康対策を重視している、これは採用だけではなく、離職率にも関係します。健康経営の優良法人における離職率が非常に少ないことや、全国平均に対して少ないことからも分かります。その中でも、今申し上げた女性の就労、そして、これまで働くという背景、こういうこともあって、健康経営の中でもがん対策が非常に重要だということ。こうした流れを受けて健康経営優良法人申請書の中にも、がん検診の受診率あるいは受診勧奨が、この申請項目としてあげられています。職域におけるがん対策のメリット三つは、「がんにおける離職率が減る」「治療費を抑えられる」「社員の健康に配慮する会社のため人材を集めやすい」という点です。これらは非常に重要になってきております。また、両立支援が社会的に評価され従業員の満足度が上がることも考えられます。職域のがん対策は基本的に三つにまとめられると思います。企業アクションの目標としても挙げおりますように1つ目が、「早期発見のためのがん検診の受診率の向上」、2つ目が「がんになっても働き続けられる環境と両立支援」3つ目が、「がんについて会社で学び正しく知ること」検診、両立支援そして、会社でのがん教育の三つが課題だと思っております。このことに関する現状あるいはこれまでのまとめを少ししておきますと、まずこれは既に厚労省側からもご説明がありましたが、日本のがん検診の受診率は残念ながら、韓国を含めた先進国の中で最低水準であります。また、コロナの影響も大変大きく、これは日本対がん協会のデータでありますが、コロナ前と比べて2020年は2,3割減少し、2021年は多少盛り返したとはいえ、コロナ前と比べると1割の減少となっています。

日本人はがんに関するイメージが誤っていると思います。がんはよほど進行しても症状を出しにくい病気で、痛み、苦しみは終末期のことであって、もちろん私の場合も全く症状はありませんでした。早期がんで症状が出ることはまずあり得ません。したがって絶好調の体調であっても検査をしなければならないのです。がんは1cmの大きさになれば、がんの専門医でも見つけることができます。そして、早期のがんの定義は若干ややこしいんですが、簡単に2センチくらいまでのがんを早期がんと考えていただいて、1cm~2cmの間のがんが発見可能な早期がんです。「1㎝~2cmで見つけましょう」と一つのキャッチフレーズにすべきかな、企業アクションでも使ったらいいなというふうに今、思いました。1cm~2cmでいる期間は長くて2年、多くの場合は1年です。つまり万全の体調でも1年あるいは2年に一度は検査をしていただかなくては早期がんが見つからず、結局は進行がんが増えてしまうことになります。横浜市立大学の大腸がんの発見数のデータでは、大腸がん患者数をステージ別ごとに月当たりで見ると、コロナ前と比べ、ステージ1、ステージ0の上皮内がん、ステージ1、2は軒並み3割減で、早期がんが減っています。そしてリンパ腺転移があって抗がん剤を要するステージ3では6割以上の増加となっています。早期がんが減り、進行がんが増えています。そもそも、がんの患者数が減っています。元々ここ55年ぐらいは患者さんの数が増えるというふうに見込まれているんですが、しかしですね今大腸がんしても肺がんにしても、乳がんにしても、胃がんはピロリ菌感染が減っていて、がんの患者さんが減っているんですね。これは驚異的な話で、要するに体の中にがんがあっても検査していただけなければ、がんの患者にならないということです。

先ほど厚労省の原澤さんから不要不急じゃないというアニメーションもありました。日本のがん検診は先進国の中で最低水準ですが、どこで受けているかというと、がんの種類によりますが、36%から68%、とくに男性も受けるべき三つの胃がん、肺がん、大腸がんは6割から7割が職域で受けています。ですから、職域のがん検診は非常に重要だということであります。毎年パートナー企業さんに対してアンケートを行い、検診の受診率を出しています。昨年2021年度の受診率データは、胃がん51%、肺がん75%、大腸がん65%、一方、乳がん44%、子宮頸がん35%とかなり低いです。これは意識を高く持ちパートナー企業に登録し、かつ受診率が算出できている優良企業においてもこの状態です。特に子宮頸がんは35%にとどまっており、20年度と21年度と比べても、残念ながらこの受診率は上がってはいません。

静岡県がんセンターのデータでは、サラリーマンの方ががんになると3人に1人が離職に繋がっており、自営業の方ですと17%が廃業になっています。そして辞めるタイミングは診断確定時です。先ほどの話、認定講師の鈴木様が言われたように、30年以上前は告知率ゼロでした。ずいぶん告知をしようという運動をやっていました。今は、余命を告げるなど正直デリカシーのない告知も多いです。辞めるタイミングは、告知時が32%で、診断から最初の治療までが9%、つまり治療が始まる前に41%の方が仕事を辞めています。実際に治療を受けて、これでは仕事と両立はできないと感じて辞めているのが6割程度で、自分のイメージが先行して辞める決断に至っている気がいたします。「がんでも辞めない、辞めさせない。」を企業アクションのスローガンにもしています。先ほどの認定講師の方々の話でもありましたが、がんは少しの知識の有無で運命が変わる病気です。本来は学校で教えるべきで、欧米では当然学校で教えています。これについて私はずいぶん申し上げてきて、今は中学校と高校の学習指導要領にがん教育が明記されています。そして、中学校では去年の4月から、高校では今年の4月から学校でのがん教育がなされています。

学校でがん教育が始まっていることを知っている方、挙手をお願いします。少ないですよね。あまり知られていないですよね。これは非常に重要な出来事だと思っていて、日本のがん対策上、エポックメイキングだと思っていて、もう少し知られていただきたい。知っていただくことで大人が焦るんですよね。さらに、学習指導が変わりましたから教科書も変わりました。中学生用の教科書でがんの章ができています。ぜひ中学校、高校のお子さんやお孫さんがいる方は、教科書を借りたり、買ってみていただきたい。非常によくできていて、例えば、受けるべきがん検診、対策型検診、住民検診、子宮頸がんは20歳から2年に一度受診と載っている。しかし、実際の20歳代前半の女性の子宮頸がん受診率は15%程度、もしくはもう少し低いかもしれません。中学校の女子生徒にとっては遠い未来の話ではなく、数年後からやらなくてはいけないことになると思います。子供たちはがんを習って大人になっていきますが、問題は学校で習えない大人に対するがん教育だと思います。繰り返しですが、がん検診の受診、がん検診、両立支援、がんを知るということを職場で進めていく必要があります。

これに関して企業アクションの取り組みをご紹介いたします。

〈ホームページ〉
ホームページが進化していますので、ぜひ、「企業アクション」とグーグル等で検索いただいて、企業アクションのホームページをご覧ください。10年間ずっと使っていたのでかなりごちゃごちゃしていましたが、かなり整理されて分かりやすくなったと思います。そういったことからかアクセスが増加しています。昨年、今年度の事務局が一生懸命やっていただいて、変な話ですがこの場をお借りして感謝したいと思います。

〈アドバイザリーボード会議〉
アドバイザリーボード会議という会議を毎月2時間ほど行っています。最近はオンラインが多いですが、7月は対面方式でやりました。2時間、熱い議論をしています。

〈推進パートナー数〉
パートナー企業も増えつづけて、4,500社まで到達しております。そのうちの半数が中小企業というふうに申し上げましたが、令和3年、令和4年度の新規パートナー数に限っては100人以下の企業が8割を超えています。大企業のがん対策はかなり成熟してきており、今後重要なのは中小企業のがん対策だと思います。

〈パートナー企業になるメリット〉
パートナー企業のメリットは、国の事業のため費用が一切かからないことです。世の中の事はプラスだけでマイナスが無いなんてことはありません、がんの治療も同じで、抗がん剤や放射線もかけない方が良いです。ただ、そのマイナスを上回るメリットがあるからやっています。ところがこの企業アクションに関してはマイナスが見当たらないので、ぜひ参画していただきたいと思います。パートナー企業には最新の情報を定期的に無料で発信しています。メールマガジンは月2回配信し、そのうちの1回は専門家のコラム等が載っており、私が読んでも参考になります。ニュースレターは私が書いています。

〈YouTube「大人のがん教育」〉
YouTubeの再生回数は18万回と人気であります。多く視聴されているのは、放射線治療の体への負担や何故知られていないか、などで、放射線の馴染みのなさが理由だと思います。
放射線治療は両立支援にとても適しています。副作用は減っており、がんの病巣にだけに放射出来たら副作用は起こりません。東大病院での治療回数は、肺がん4回、前立腺がんは進行がんでも5回で、1回の治療時間は5分程度のため、仕事をしながらの治療ができます。

〈e-ラーニング〉
e-ラーニングはもともと、とある企業向けに開発し、それを頂戴してパートナー企業に開放しているコンテンツです。これも多くの方に見ていただいて、そして一部の企業から英語版を作って欲しいと言われて英語版を作ったりしています。受講後のアンケートでは、知識が深まったとやや深まったを合わせると、ほとんど100%近くになります。

〈「認定講師」による企業への出張講座〉
先ほどご登壇いただいた認定講師の方々が企業へ出張講座をしており、大変高い評価をいただいています。

〈地方連携の加速〉
地方連携について、企画アクションでは地方セミナーを継続開催しており、今年度は石川、沖縄、高知の3回が予定されています。ただ開催するだけではなく、現地の組織、県、商工会議所、協会けんぽの支部等、地元の皆さんとの連携を強めています。

〈緩和ケアの重要性を啓発〉
それから先般、メディア向けに企業アクションとしての緩和ケアの重要性のセミナーを開きました。緩和ケアの重要性で、早期発見とは少し違うんですけれども、100万人の方ががんに罹患し、38万人が亡くなってます。この38万人のほぼ全員に緩和ケアは必要なことです。緩和ケアは終末期のイメージがあるかもしれせんが、告知を受けた時点から緩和ケアが必要です。告知の時からの緩和ケアの必要性は文章にして、医師会あるいは都道府県、がん対策推進拠点病院に配布しています。日本は強い痛みに対して医療用麻薬を中心に進めてきましたが、神経ブロックあるいは緩和的放射線治療についても先ほど同様に都道府県、医師会、拠点病院などに配布しています。そして、告知時に医師と看護師の署名付きで患者さんとご家族に読んでいただく書面も作成しました。診断時の緩和ケア、強い痛みに対する対処、診断時に使っていただきたい書面の三つです。企業アクションのセミナーで公表し、新聞等でも取り上げられました。

〈職域でのがん情報の取り扱いについての手引きの作成〉
がん検診の受診勧奨、特に精密検査と言われた方に関して、「受けてください」ということを言うためには、やはり個人情報保護法などとの整合をとる必要があります。
この辺は国としても手引きなどを作っていただいているんですが、わかりにくいですね。ここを整理して、今日から企業アクションのホームページで公開しています。どうぞお目通しください。これについては、第二部にて東海大学の立道先生から詳しく教えていただく予定です。

〈企業コンソーシアム〉
コンソ40はコンソヨンゼロと読み、元々40社ぐらいから始まったのですが、40社にとどまらないので、ヨンゼロと読んでいます。この40社の企業はパートナー企業の中でもリーディングカンパニーで、他の企業を引っ張っていただくと、そういうつもりでお願いしています。
相談しながら、そして最終的には国の職域がん対策全体を中心的な企業が先導してもらう、という取り組みであります。コンソ40企業のがん検診受診率を全体と比べると、やはり受診率は高いですが、しかし、それでも子宮頸がんの受診率48%にとどまっているので、更なるアップをお願いしたいというふうに思っています。

〈中小企業対策〉
今後の重要な職域がん対策のフィールドが、中小企業だと申し上げました。中小企業向けには、各種のチラシを用意しています。私も非常に気に入っています。こういったものを中小企業の経営者が手にとってもらえるような仕組みが、今後重要だと思います。中小企業に関しては、100人以下企業の受診率の把握率を、令和7年度に7割にすることや、令和5年度は把握率を50%にするなどの中長期の目標を立てて、中小企業でのがん対策を進めています。特記すべきは中小企業の実態調査を行っていることです。

〈中小企業の実態調査(大同サーベイとの共同調査)〉
大同生命が中小企業、特に小規模企業に対して定期的に調査している中で、企業アクションと共同で、8000~1万の規模でがんに関する実態調査を行っております。経営者のがん対策への関心は2020年から2021年でも高まっています。
経営者の方のがん検診受診率は7割ですが、従業員に対してのがん検診実施は4割にとどまっており、経営者は受診しているけれども、会社としては実施が足りないことが分かります。また、実施したがん検診の種類は、乳がんと子宮頸がんが少ないということも分かってきました。それからコロナの影響は、がん検診の実施を延期し控えているのが5%に上っています。小さな会社でも4社に1社はがんの患者さんが現れています。そして、がんに罹患した従業員は3割程度退職しております。経営者の方にがんに関心を持っていただきたいと思っています。がん検診の実施状況を、大いに関心がある、関心がある、あまりない、等で分けて見ますと、やはり「大いに関心がある」と「全く関心がない」とでは見事に相関しています。経営者の関心が高くなれば、がん検診が実施されます。これは就労支援も同様で、中小企業の経営者の方にがんに関して関心を持っていただくことが大変重要であるということが分かりました。この内容を7月5日に東京大学の安田講堂でセミナーを開いてご報告いたしました。

〈Working RIBBON〉
Working RIBBONは女性の子宮がん、乳がんへの対策です。職域でのがん検診のウィークポイントの乳がん、子宮頸がんの二つの女性のがんで、若い世代に多いことが非常に重要な問題です。乳がんに関しては日本女性の9人に1人がかかります。子宮頸がんは30代前半がピークといった問題もあります。この二つのがんに関する啓発運動をWorking RIBBONとして行っています。女性の皆さんが中心になって、例えば東京材料様、アフラック生命様へのインタビューなど非常に興味深いものがございます。また、女性の出産・妊娠等のルナルナ様と東大病院が共同で大規模な意識調査を行いました。結果を分析してみますと極めて興味深い結果が出ています。この内容についてはメディア向けに10月21日に公表を予定しています。

〈パートナーアンケートとアドバイスレポートの提供〉
信頼できる受診率のデータがようやく出せるようになってきました。このデータは第36回の国のがん検診のあり方検討会で私が報告させていただきました。アンケートに答えた企業には、アドバイスレポートとして一社一社、個別のアドバイスを出しています。内容として、同規模企業、あるいは同業種企業の取り組みなどをリスト化して、それに対して御社はどうなのか、というようなアドバイスを個別に出しています。次にやるべき事はこれです、と各社別にレポートをお渡ししています。それから、アンケートを通して分かった、「受診率の向上に効く12の取り組み」があり、これはホームページにも載っています。精密検査の受診状況を把握する仕組みがある等の、12の取り組みを各企業が前年と今年に行っていたかを2年評価しています。就労支援についても同様に個別のアドバイスをしており、非常に高い評価をいただいております。そして、今年度のアンケートはさらに進化しています。例えば、検査方法では、胃がん検診を実施したかどうかではなく、内視鏡なのかバリウムなのかABCなのか、乳がんならマンモなのか超音波なのか、等のかなり踏み込んだ内容もあります。

〈最後に〉
職域がん対策における企業アクションの役割は三つで、早期発見のためのがん検診の受診促進、がんになっても働き続けられる環境の整備、そして、今は学校での教育が始まっている中の大人のがん教育を職域で行う、ことです。 この三つの目標の達成に向けて14年目の企業アクションはさらなる進化を遂げてきていると思います。

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