2017/08/17
平成29年度【がん検診受診率向上推進全国大会】を開催しました
神奈川県横浜市にある商業施設、MARK ISみなとみらいにて、国民のがん検診受診率を向上させ、がんによる死亡者の減少を目的とした「平成29年度がん検診受診率向上推進全国大会」が行われました。がんに関する知識や検診の重要性がいっそう注目されている今、休日ということもあり、満席となり、来場者たちは買い物の足を止めて熱心に耳を傾けていました。開催概要はこちらをご覧ください。
▲がんの情報コーナーも設置
講演に先立ち、厚生労働省の渡辺課長からご挨拶がありました。 がんは昔と比べると治りやすくなってきており、がん全体での5年生存率は62.1%にまで上がってきていると説明。それを踏まえ、がんと共存し、罹患したとしても働き続けることができる社会になっている、と繋げ、「生存率が上がっているとはいえ、早期発見・早期治療が大事であることに変わりはない。より多くの人に関心を持ってもらいたい。できれば、イベント後に周りの人たちにも検診の重要さをわかってもらえるように、今日感じたり、考えたことを周囲に伝えたりしてほしい」と話し、がん検診の重要性を強く訴えました。
佐々木 つぐ巳氏(神奈川県 保健福祉局 保健医療部 がん・疾病対策課 課長) 続いて、開催地である神奈川県のがん・疾病対策課の佐々木課長より、神奈川県が行っているがん対策について説明がありました。 がんは、自覚症状がない段階から定期的に検診に行くことで生存率が上がるということを、県内で集めているデータに基づき明らかにしました。そして神奈川県のがん対策として、神奈川県がん克服条例、神奈川県がん対策推進計画の2つを挙げ、中でも早期発見の大切さは重点施策の1つであると強調しました。 がん検診の受診率については、胃がん・大腸がん・肺がんは40%以上、子宮頸がん・乳がんは50%以上を目標として掲げて対策を推進していることを説明し、胃・大腸・肺がんは達成できているが、乳がん・子宮頸がんはまだ目標達成に至っていないという現状を述べました。そこで乳・子宮頸がんも含め検診受診率向上のために「がん対策推進員」を設置して、検診の推奨や情報提供を行うようにしていることを紹介しました。 最後に、自分の健康は自分で守る、という意義があるので定期的に検診を受けてほしいと述べ、今日の話を持ち帰って周りと話し合って共有してほしいと訴えました。
中川 恵一先生(東京大学医学部附属病院 放射線科 准教授)
中川先生の講演は、「日本は世界一のがん大国である」という提示から始まりました。年齢やがん種によって異なるものの、総じて男性の方ががんになりやすいと説明。がんの原因となるタバコや食生活を正してもがんを完全に防ぐことはできないため、早期発見して万が一に備えることの大切さを訴えました。
続けて新たにがんに罹患する人のうち、3割が働く世代であるとも説明しました。この原因の1つとして、30代、40代でがんになりやすい女性の社会進出が進んできたことや、定年の延長を挙げました。国から「働き方改革」が提唱されたのも、がんになりながら働く必要が出てきたからであるとし、仕事と治療の両立に向けて会社、主治医、産業医やカウンセラーが相互に連携する重要性を述べました。
また、今年から小中高校でがん教育が始まったことに触れ、がんを知ることががんの予防に非常に重要であると述べました。がんをよく知り、早期発見すれば費用もかからず生存率も上がることを映像を用いて解説しました。例えば放射線治療ならば仕事帰りでも簡単に治療が受けられる所もあると紹介し、放射線に限らず色々な治療を知ってがん治療と仕事の両立に努めてほしいと強く訴え、講演を終えました。
生稲 晃子さん(女優)
続いて、女優の生稲晃子さんによる講演が行われました。生稲さんは2011年1月、乳がんであるとの診断を受けました。発見が早期のステージ1だったため、医師からの「小さくてもがんはがん」という言葉を重く受け止めつつも命が続くことに安堵したとのことです。
その後同年5月に温存手術を受けたり放射線やホルモンによる治療を続けたりしていましたが、翌年再発。娘に話すとたいそう悲しんだと話し、大病を患ってつらいのは自分だけではないことを強く感じたと述べました。
2013年には2度目の再発。同年12月に右胸の全摘手術を受け、同時に再建手術にも入りました。
自身の経験から、今でもなくなった右胸を見て悲しんだり後悔したりすることがあるが、そのような感情を抱けるのも、現在こうして生きているからだと述べ、仕事や子育てで忙しい世代にこそ、がん検診に行ってほしいと訴えました。1年に1度、がん検診に行くことは、毎日頑張っている自分へのご褒美であると考えて、是非とも積極的に検診に行ってほしいと述べて講演を終えました。
中川 恵一先生、生稲 晃子さん、西口 洋平さん(キャンサーペアレンツ代表、胆管がん経験者)
最後に、講演を行っていただいた2名に加え、ピアサポートサービス、キャンサーペアレンツの代表で胆管がん経験者の西口洋平さんを交えてのトークセッションが繰り広げられました。
胆管がんの経験
西口さんは、「2015年2月に胆管がんと診断されました。腹膜とリンパ節にも転移があり、2年4か月経った今も抗がん剤治療中です」と語りました。
これに対して中川先生は「胆管がんは胃がんや乳がんと比べると珍しいがんであり、早期発見も難しいものです。がん検診を全て受けていれば大丈夫ということはないが、検診を受けることで早期発見できるがんもあるので、検診はきちんと受けてほしい」と述べました。続けて西口さんは、自身の仕事や活動について、「子どもを持つ若いがん患者同士、情報交換する場が必要だと思い、キャンサーペアレンツというソーシャルネットワークサービスを立ち上げ、活動しています。仕事と両立させるため、正社員ではなく、アルバイトとして、現在も仕事を続けています。正社員として仕事をすれば収入はより多くなりますが、キャンサーペアレンツとしての活動をしたいため営業から内勤にしてもらい、治療とキャンサーペアレンツの活動を続けながら仕事をしています」と答えました。
続いて、中川先生は「がんと闘いながら子育てをしている」という生稲さんと西口さんの共通点を指摘し、西口さんに対して、自身の病気をどう伝えたか質問しました。西口さんは「病気の告知を受けたとき、娘は5歳で、自分の口から伝えることはできませんでした。どうすれば良いのかもわからず、顔も見られませんでした。しかし妻が子どもに話してくれたようで、今では心強い味方です」と答えました。これに対して、先ほどの講演内で娘に病気のことを話した過去を語った生稲さんは「家族に言える場合とそうでない場合、どちらが正しいのかはわかりませんが、つらくて言えない、という気持ちもよくわかります」と共感しました。2人の話を受けて、中川先生は「がんは罹患した本人のみの問題ではなく、配偶者や子ども、家族全体の問題です」と語りました。
中川先生から「がんは飲酒や喫煙と大きく関係があります。生稲さん自身はどちらもおやりにならないとのことですが、受動喫煙をどのように考えますか」という質問がありました。生稲さんは「タバコを吸う人は多いと感じます。わたしが経営する飲食店もできるなら全面禁煙にしたいです」と答えました。中川先生は「受動喫煙によって、がんのリスクは3割上がります。法律を通して変えていってほしいと強く思っています」と主張しました。
喫煙者であったという西口さんは検査入院の翌日にタバコをやめたと言い、中川先生は「がんになった途端にタバコをやめられる人は、元々禁煙できない人ではない。がんもタバコも自分だけの問題ではないという意識を持ち、発病する前にやめるべき」と述べました。
総括として、中川先生は「がんという病気は人間を磨いてくれます。収入よりもやりがいや人を助けたいという思いを持った人が、がんによって離職してしまうのは非常にもったいないことです。西口さんの会社のように、会社内全体、とりわけ経営者ががんを知ることが重要といえます。また、会社に限らずひとりひとりががんについて理解することが大事です。今日知ったことを是非、周りの大切な人にも広めてください」と述べ、イベントは幕を閉じました。