「がん対策推進企業アクション 東京事業説明会」活動レポート
2013年9月3日、東京都千代田区の大手町サンケイプラザにて、「がん対策推進企業アクション 東京事業説明会」を開催しました。本事業説明会では、「がん対策推進企業アクション」にご興味・ご関心をもって頂いた企業の皆様を対象に、臨床現場でご活躍されている東京大学医学部附属病院放射線科准教授 中川恵一氏と、がんと就労について専門とされている独立行政法人国立がん研究センター サバイバーシップ支援研究部長 高橋都氏をお招きして、「がん検診の重要性」や「がんと就労」についてご講演いただきました。
主催者である厚生労働省からの挨拶、事務局からの事業概要の紹介
主催者である厚生労働省健康局がん対策・健康増進課長 椎葉茂樹氏から現在国家プロジェクトとして推進している「がん対策推進企業アクション」は、職域におけるがん検診受診率向上を企業連携で推進していくことで、がんと前向きに取り組む社会気運を高めることを目標としていること、従業員と家族の安心安全、ひいては企業の経営基盤をより確かなものにするためにも、本事業に「推進パートナー」として参加、協力していただきたいとの要望が述べられました。
続いて、がん対策推進企業アクション事務局より、「がん対策推進企業アクション」の目的と意義について説明し、「推進パートナー」の登録に関するご案内を行いました。
東京大学医学部附属病院放射線科准教授 中川恵一氏による基調講演「がん検診のススメ」
これまで長きにわたり幅広くがん対策に関する活動に取組んでこられ、現在がん対策推進企業アクションアドバイザリーボード議長である東京大学医学部附属病院放射線科准教授の中川恵一氏(以下 中川氏)より、「がん検診のススメ」というテーマで基調講演をいただきました。
はじめに、中川氏はがんの患者数や罹患率といった過去のデータを基に、「がんは稀な病気で、治りにくい病気である」との一般認識と、実際のがん患者の現状には違いがあることを説明しました。
「日本人ががんに発症する確率は、2008年時点で男性が58%、女性が41%。年間75万人が新たに患者となり、36万人ががんが要因で死亡し、毎年上昇傾向にある」、また、「がんは6割近く完治する」とのお話をいただきました。
次に中川氏は、がんの現状把握の一環として、がん患者の動向を日米比較し、「欧米等の主な先進国ではがん死亡者数が減ってきており、日本ではがん死亡者数は増えている」、「日本の場合、がんの割合は戦前から一貫して増えており今後も増加傾向にあること」と解説され、その背景の一つとして「欧米に比べ、国民ががん検診を受けていない」と語られました。
加えて、中川氏は今後がんが社会に及ぼす影響についてご意見を述べられました。「がんは老化による影響が大きいが、女性は子宮頸がんなどの影響から、男性と比較すると発症時期が早く、30歳代にそのピークをむかえる」、そして「女性の社会進出に伴い、今後会社の中で若いがん患者が増えていく」と予想されました。
また、がんで死亡するリスクを減らす方法についてご紹介を頂きました。前提として「がんは一般に認識されているよりも研究が進んでいない」と説明され、がんを予防することの重要性を強調されました。そして予防方法として(1)「喫煙しない、喫煙者に近づかないこと」、さらに、(2)「運動すること、野菜をバランスよく食べること、特に運動をすることはやればやるだけ良い」と2つの方法を勧められました。また、発症した場合であっても「定期的にがん検診を受診することによって早期発見の可能性が高まり、がんで死亡するリスクを減らすことができる」と付け加えました。
最後に、中川氏はがん検診の重要性を強調されました。「がんは医療費が高額になることもあるが、糖尿病や高血圧などと比較して医療費補助が手厚いことから患者本人の負担は抑えられる。しかし、その一方で、日本の社会における女性進出や定年延長を背景に会社のがん患者は今後も増えていくことに伴い、健保組合の支出が増加し財政悪化につながる」と述べられ、がん検診による支出増加の抑制が期待できることから、職域におけるがん検診を推進していくことの効果、すなわち、本事業のような企業連携を通じた啓蒙活動につなげることの有効性についてご示唆をいただきました。
▲講演されている中川恵一氏 |
独立行政法人国立がん研究センター
がんサバイバーシップ支援研究部長 高橋都氏による講演
「働くがん患者への支援―職場関係者に期待されること」
続いて、大学卒業後、内科医として10年に渡って内科臨床に従事した後、がん治療と治療後の就労の問題について社会的に取り組む必要性を痛感して研究を続け、現在は国立がん研究センターがん対策情報センターがんサバイバーシップ支援研究部にて部長として研究に取り組む高橋都氏(以下 高橋氏)からご講演いただきました。
「働くがん患者への支援―職場関係者に期待されること」というテーマにて、今後増加することが予想されるがん治療後の社員を組織として迎えていくための課題や具体的な解決例についてのお話をいただきました。
講演では、がんになって一時的に就労パフォーマンスが低下した社員に退職を迫る企業の対応について問題提起がなされました。一時的に就労パフォーマンスが低下した従業員であっても実際にはその後回復する場合が多くあることから、がん患者となった従業員と十分に向き合うことが必要であると説明をされました。高橋氏は、「がんになっても仕事を続けることができる従業員がいる」、一方で、「企業側にも不利益を被らないよう対策を講じることが必要」と述べられました。
次に、高橋氏はがんに対する一般認識と現状のずれを改めて説明されました。具体例として精巣がんの5年生存確率を取り上げ、がんは実際よりも、「治りにくい病気」、と認識されていることを説明しました。また、「がんは2人に1人が発症し、慢性病としての側面を持ち始めている」と、がんの位置づけが従来から変わってきたことが述べられ、「今後がんとどのように向き合うのかを考えることが重要である」と呼びかけられました。
また、高橋氏は自身が調査にたずさわった「がん治療と就労の両立に関するインターネット調査報告書」の中から、従業員と人事担当者が抱える懸念事項の事例を取り上げられました。
従業員は病名や病状に対する知識の不足により人事担当者などから誤解を受けることを避けるため従業員はがんを発症しても職場に報告しない傾向にあり、人事担当者は個人情報になるため、従業員に健康状態の確認を控える傾向にある、との現状が共有され、治療と就労の両立を阻む事情を語られました。高橋氏は企業人事担当者は企業の生産活動の質低下につなげないためにも、健康状態の確認をすべきであると意見を述べられました。企業側が同業他社の対応や相談窓口を欲していることが判明したことから、高橋氏は就労者支援マニュアルを作成し、従業員と企業に対する支援法を提案されています。
高橋氏は、がんを発症した従業員と企業側の向き合い方の成功事例も紹介されました。その事例では「企業がその従業員にできることやできないことを把握し、業務を再配分することで、従業員そして企業側両方に不利益が発生しない対応がなされた」と高橋氏は述べられました。また、「他の従業員ががんを発症しても同様の対応が期待できることから、このような対応は他の従業員にとっても安心感を与える」との見解を述べられました。
最後に、高橋氏は従業員の観点からは「支援は待つものではなく引き出すものであること」を強調され、企業側の観点からは「がんを発症した従業員を特別扱いするのではなく企業が本人の就労力をフェアに評価・対応するべき」と述べられました。その実現のために、「本人の健康状態を把握し、職場で無理なくできる対応を検討する必要がある」と語られました。「フェアな評価と適切な対応は、従業員がやめざるを得ない状況に陥った場合でも、本人と周囲の納得感があがる」と付け加え、講演をしめくくりました。
▲講演されている高橋都氏 |
▲両名の講演後には、白熱したディスカッションが開催されました |
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