トップ>>お知らせ・イベント情報>>令和4年度女性メディア向けセミナー開催報告

2022/10/21

令和4年度 女性メディア向けセミナーを開催しました

がん対策の普及促進を目指し、企業内における「がん検診受診率向上」「治療と仕事の両立支援」に向けた啓発活動を行う「がん対策推進企業アクション」(厚生労働省委託事業)では、2022年10月21日(金)にメディア関係者様向けに「乳がん・子宮頸がん検診受診率向上に向けた取り組み」「子宮頸がんに関する意識調査と治療法のあり方」をテーマにしたセミナーを実施いたしました。

セミナーでは、「がん対策推進企業アクション」のアドバイザリーボード議長を務める中川恵一氏(東京大学医学部附属病院放射線科 特任教授)と、自身も子宮頸がん罹患の経験を持つ「Working RIBBON」リーダーの難波美智代氏(一般社団法人シンクパール代表理事)が登壇し、解説しました。以下、当日のレポートをご紹介いたします。

セミナー趣旨説明
がん対策推進企業アクション事務局長 山田 浩章

がん対策推進企業アクション事務局長 山田 浩章
▲ がん対策推進企業アクション事務局長 山田 浩章

がん対策推進企業アクションとは、職域におけるがん対策の啓発を行う厚生労働省の委託事業です。
発足は2009年、今年度で14年目を迎える事業となり、9月末の時点で約4500の企業・団体様にご参加をいただいています。
大きく柱として三つ、「がんに対して正しい情報を発信する」「がん検診の受診率を上げる」「がんになっても働き続けられる環境を作る」を中心に、ホームページやYouTube、メールマガジンといったような広報宣伝や、講師を招いたイベント型の研修会、無料で受講できるeラーニングの提供など、様々な形で企業・団体様のがん対策のサポートをしています。
本日の女性メディア向けセミナーのテーマは「女性のがん対策」です。がん対策推進企業アクションの取り組みや、専門的な情報など、メディアの皆様を通して広く知っていただくことを目的としています。

乳がん・子宮頸がん検診受診率向上に向けた啓発活動について
一般社団法人シンクパール 代表理事 難波 美智代氏

一般社団法人シンクパール 代表理事 難波 美智代氏
▲ 一般社団法人シンクパール 代表理事 難波 美智代氏
がん対策推進企業アクション女性会議「Working RIBBON」について

現代の日本では、女性が生涯でがんに罹患する確率は50%を超え、二人に一人ががんになる時代です。特に20代、30代の就労世代においては、がん患者の8割を女性が占めています。このような現状を踏まえ、一昨年に、がんになっても安心して働ける環境を目指し、「Working RIBBON」を発足し、11月を「Working RIBBON月間」と制定いたしました。乳がん・子宮頸がんの検診受診の促進と、治療と就労の両立支援を呼び掛けています。11月22日(火)には、女性の経営者ないしはその組織における意思決定の立場にある女性の皆様方をオフィシャルサポーターとしてお招きした会議も開催予定です。後日、改めてご案内させていただきますので是非ご着目ください。

がん対策推進企業アクション女性会議「Working RIBBON」
HPVワクチンに関する最新動向~キャッチアップ接種開始・9価ワクチン公費助成決定~

直近の国の動きとして、HPVワクチンの積極的推奨が再開しました。この9年間、積極的推奨が差し控えられてきた中、接種の機会を逃した方々のために約2年半に渡って、キャッチアップ接種が行われます。各自治体において4月から個別推奨通知が始まっています。また、つい先日9価ワクチン接種の公費助成も決定いたしました。こういった情報発信も積極的に行ってまいります。

企業・団体の乳がん・子宮頸がんの検診受診率80%を目指す「80%チャレンジ」スタート
Working RIBBON「80%チャレンジ」とは?

4500社以上のがん対策推進企業アクション加盟パートナー企業のうち、704社のアンケート結果によれば、2021年度の検診受診率は乳がんで44%、子宮頸がんで35%と大変低い状況にあります。
そこで、がん対策推進企業アクションでは、正しい検診の在り方やその必要性、社内整備について呼び掛けると同時に、乳がん・子宮頸がんの検診受診率80%を目標とする「80%チャレンジ」をスタートいたしました。前述のアンケート結果においても、乳がん検診受診率が80%を超える企業は109社、子宮頸がんにおいては検診受診率80%を超えている企業はわずか83社という結果でした。従業員の検診受診状況を把握している企業も半数に満たないことから、まずは現状把握を呼びかけてまいりたいと思います。
また、アンケートの結果、高い検診受診率を誇る企業において、その取り組みについて伺ったところ、当初から高い受診率だったわけではなく、長い時間と努力によって高いレベルに達していました。その取り組みにおいて共通するのが以下3点です。

①新入社員研修からがん教育をスタート
②検診費用、日時・場所の工夫
③両立支援制度により理解の不安を払拭

がんに罹患した際に安心して社内の人や管理職に相談できる環境や、がんに罹患した方々同士が情報共有できるような環境づくり等、さまざまな工夫をされていました。こちらの取組事例については、がん対策推進企業アクションHPで随時ご紹介してまいります。まずは、がん対策推進企業アクションとWorking RIBBONに登録いただき、いきなり検診受診率80%は難しくても、現状のプラス10%、20%の目標も可能ですので、「80%チャレンジ」にご参画いただければと思います。

子宮頸がんに関する意識調査と治療法のあり方
東京大学医学部附属病院 放射線科総合放射線腫瘍学講座 特任教授 中川 恵一氏

東京大学医学部附属病院 放射線科総合放射線腫瘍学講座 特任教授 中川 恵一氏
▲ 東京大学医学部附属病院 放射線科総合放射線腫瘍学講座 特任教授 中川 恵一氏
防げるがんでありながら、増加傾向にある子宮頸がんの実態

女性特有のがんとして乳がん・子宮がんなどがありますが、中でも子宮頸がんが増加傾向にあります。また、女性特有のがんに限らず、メジャーながんの中で年齢調整死亡率が増加しているのは子宮頸がんだけです。通常、年齢調整死亡率は自然減となるところ、これは異常な事態とも言えます。また、子宮頸がんの罹患が最も多いとされるのは30代で、ちょうど出産のピークにも重なります。
子宮頸がんの原因は100%、性交渉によるヒトパピローマウィルス(HPV)とされており、いわば防げる感染型のがんの代表でもあります。

女性特有のがん発症状況(20〜30代)
若いうちのワクチン接種でリスクは9割減に、
更に検診との組み合わせでそのリスクはより削減可能

スウェーデンの調査によれば、ワクチンの接種により浸潤性子宮頸がんの発生リスクは全体で6割削減され、特に10代から30代までに接種することで37%にまでリスクを抑えるというデータが出ています。10歳から17歳までの接種では、12%にまでリスクを削減、約9割のリスクを抑えることができます。性交渉を開始する年齢前の接種が重要であることがわかります。日本の場合ですと、小学校6年生から高校1年生にあたります。
このようにワクチンを接種することで、子宮頸がんのリスクは大きく削減することができますが、完全に予防することはできません。しかし、検診と組み合わせることによって、そのリスクはより削減することが可能です。諸外国のように、HPVワクチン接種85%、検診受診率85%が達成できれば、95%の子宮頸がんを防ぐことができます。
ワクチンや検診により、子宮頸がんは撲滅できるものであるにも関わらず、国内の子宮頸がんの年齢調整死亡率が増加している現状は大きな問題でもあります。

検診とHPVワクチンによって防ぐことが可能な子宮頸がんの割合
HPVワクチンの接種年齢と浸潤性子宮頸がん発症比率
84%がHPVワクチンを接種していないと回答、20代でも半数が未接種

このような実態を踏まえ、東京大学とルナルナ(株式会社エムティーアイが運営する女性の健康情報サービス)は共同で大規模なアンケート調査を行いました。健康への意識調査とあわせ、子宮のがん、放射線治療に関して〇×のクイズ形式でそのリテラシーを問うものです。意識調査の結果によれば、HPVワクチン接種については83%が接種していないと回答、20代でも約半数は接種していないという結果となりました。また、定期的に子宮頸がん検診を受けているという人は約3割と低く、受診しない理由としては「検査に伴う苦痛」「時間がない」「費用がかる」といったものが挙げられました。検査に伴う苦痛に関しては個人差もあるようですが、費用に関しては企業で接種する場合はほぼかからず、住民健診でも少額負担で接種することができます。住民健診は、健康増進法という法律の裏付けのもと、死亡率を下げるという科学的な根拠に基づいて税金が投入されているものですので、効果があり、かつ個人での負担を抑えつつ接種できるものと言えるでしょう。
また、「TVやインターネットなどから得た健康リスク(危険性)の情報が信頼できるかどうか判断するのが難しい」と答えた人は約8割という結果となりました。聖路加国際大学の中山先生によれば、ヘルスリテラシーに関する国際比較を行ったところ、日本は世界最低レベルだったという結果も出ています。保健教育の欠如が大きな原因として考えられます。
実際に今回のクイズの結果では、放射線治療において通院で治療が可能なことを4割弱の方が認知しておらず、保険がきかない高額な治療だと思っている方は半数以上にも上りました。「放射線治療によりがんを根治できる」ことを知っている人は16%という低い正答率でした。

子宮のがんに関する〇×クイズ
放射線治療に関する〇×クイズ
手術と放射線治療、化学放射線治療それぞれの生存率

子宮頸がんの治療法についてですが、手術と放射線治療の生存率を見るとほぼ同じという結果が出ています。また、化学放射線治療(抗がん剤と放射線の同時併用)と放射線治療を比較すると、化学放射線治療が優位という結果も出ています。化学放射線治療と手術の比較はおこなわれていませんが、2つの結果から、化学放射線治療が手術よりも優れているという風に読み取れます。
子宮頸がんの放射線治療には、体外照射と腔内照射の2つの方法があります。体外照射は極めて一般的な手法で、原発巣と骨盤リンパ節と若干広く放射線をかける手法で、5週間に渡って週5回行います。腔内照射は子宮の中と膣の一番奥に放射線同位元素を挿入するもので4、5回に渡って行います。

子宮頚がんの治療:手術と放射線治療は同じ生存率
子宮頚がん生存率:化学放射線治療>放射線治療
子宮頸がんの国際的なガイドラインからかけ離れた日本での治療実態

子宮頸がんでは、Ⅰ期、Ⅱ期、Ⅲ期とそれぞれステージがあり、治療法も異なります。Ⅰ期に関しては国際的な合意もあり全摘などの手術が一般的に行われており、これは日本でも同様です。Ⅲ期に関しては、すべて放射線治療とされ、日本でも手術が行われることはほとんどありません。ですが、Ⅱ期、特にⅡB期(子宮・子宮頸部から若干その外側に浸潤しているけれども完全に骨盤まできていない局所進行の状態)において、日本では国際的なガイドラインからかけ離れた実態となっています。
国際的なガイドラインNCCN(2022年版)によれば、子宮頸がんのⅡB期について放射線治療・化学放射線治療しか選択肢に挙げられておらず、各国においても、このガイドラインに従い、Ⅱ期(特にⅡB期)においては化学放射線治療が最適である、とされています。
実際、スウェーデンにおける子宮頸がんの治療法では、Ⅱ期全体で手術は7.4% 放射線治療が86%、ⅡB期においては手術が 4.3%と、 放射線治療が89.7%と9割近い結果となっており、ごく例外的なケースにおいてのみ手術が行われている状況です。

スウェーデンにおける子宮頸がんⅡ期の治療法

もともと子宮頸がんに限らず、欧米各国と比較して日本では放射線治療が積極的に行われていません。がん治療においてアメリカ、ドイツ、イギリスでは約5割から6割が放射線治療を受けていますが、日本では少し増えたといってもまだ3割にも届かず、各国の半数に近い割合です。子宮頸がんにおいては特にその傾向が顕著に見られます。
2003年、国内で子宮頸がんにおいて放射線治療が行われたケースは手術の半数ほどでした。2019年には放射線治療の方が上回りましたが、それでも4割のケースで手術が行われています。先ほどのスウェーデンの7%という数字と比較しても、日本のⅡ期の手術比率は約6倍にも上ります。Ⅱ期以上の子宮頸がんにおいて手術を行うのは世界的には例外であるにもかかわらず、日本では手術が行われているという状況です。

欧米では、がん患者の5〜6割が放射線治療。日本では、欧米の半分程度
子宮頚がんが、もっとも手術に偏重!
日本における子宮頸がんの治療とその変遷、手術後の放射線治療に伴う患者の負担

日本の子宮頸がん治療ガイドラインによれば、2007年にはⅠB期からⅡ期では広汎子宮全摘が推奨されてきました。2011年には広汎子宮全摘あるいは化学放射線治療が推奨されています。2022年度の最新のガイドラインでは、ⅡB期の治療法において化学放射線治療が第1に推奨されるようになりましたが、「手術手技に十分習熟した婦人科腫瘍専門医による手術」も挙げられています。これは国際的なガイドラインにはないことです。

子宮頚がんⅡB期の治療法:子宮頸がん 治療の推移

ⅡB期における子宮頸がんの治療法を手術系(手術単独ということではなくて、手術に抗がん剤を入れる、手術の後に放射線を入れる等、広汎子宮全摘が中心の治療群)と放射線治療とで比較したものです。2008年時点では、手術系、放射線治療はほぼ同等です。近年では手術系は減少傾向にありますが、それでもまだ4分の1の子宮頸がんⅡB期の患者が手術を受けていることになり、国際的なガイドラインとはかけ離れた現状にあることがわかります。

子宮頚がんⅡB期の治療法:手術療法の詳細

ⅡB期の手術療法の詳細を表したグラフです。2001年から2020年にかけて手術単独(薄い青)はごく例外的です。手術に加え化学放射線治療を行うケース(黄色)が半数から6割にも上ります。もともとⅡ期に関して、国際的には化学放射線治療が唯一の選択肢であるはずのところ、手術を行うことで後から化学放射線治療を行う必要があり、結果として治療期間が長引き、治療費の負担も大きくなります。手術後の放射線治療では、その後の下肢リンパ浮腫も大きな問題になっています。このようにⅡB期の子宮頸がんで手術を行うことで患者の負担が大きくなります。あらためて国際的なガイドラインに沿った治療を行う必要性があるのではないかと思います。

子宮頸がんに関しては、ワクチン、検診、治療法について若い女性の皆さんに情報を提供していく必要があると考えています。現在、中学校と高校の学習指導要領にがん教育が明記され、中学校では2021年度から全面実施、高校でも今年4月から実施されています。中学校の教科書では、受けるべき検診として20歳からの子宮頸がん検診が記載され、高校ではロボット手術や高精度放射線治療まで紹介されています。保健教育にしっかり取り組むことで、リテラシーの向上、検診受診率の増加に繋がればと思います。

動画メッセージを見る 動画メッセージを見る 動画メッセージを見る