2019/12/5
2019年12月5日 第7回企業コンソーシアム開催
がん対策推進企業アクションの推進パートナー企業の中から自発的に立ち上がり、企業の担当者や産業スタッフががんに対する対策、事例や情報の交換などを行う「企業コンソーシアム」が12月5日に東京にあるTKP赤坂駅カンファレンスセンターにて「がん治療と就労の両立支援における就業に関する考え方」をテーマに開催しました。
第一部では、ヤフー株式会社の白川史麻理氏の司会のもと、企業コンソーシアム代表である第一生命株式会社の真鍋徹氏より挨拶の後、朝日航洋株式会社の渡部俊氏、富士通株式会社の東泰弘氏、ヤフー株式会社の市川久浩氏から各社の取り組み事例の発表や、東海大学医学部の立道昌幸教授からの「がん治療と就労の両立支援」の講演が行われ、第二部では参加企業によるグループワークを実施。各社の好事例や制度の紹介、今後のがん対策などについての活発な意見が交わされました。
第一部
「企業コンソーシアムについて」
真鍋徹氏
(第一生命株式会社 生涯設計教育部 次長)
企業コンソーシアムとは、がん対策推進企業アクションの推進パートナー企業の有志が集まり、企業の企業によるがん対策を共に考え、共有・発信する場として発足し、現在、「事例共有や知識習得による、参加企業のがん対策推進」「企業目線のがん対策について、情報発信による社会への貢献」「参加企業による持続的ネットワークの構築」の3つを目標として活動しています。
企業コンソーシアムに参加することにより、人事・採用、働き方改革等労働関係制度の情報の吸収ができ、厚労省からの情報もいち早く入手が可能です。またビジネス上での発展に繋がることもありますので、ぜひ参加して有意義に活用していただきたいと思います。
【事例発表1】
「朝日航洋の取組事例」
渡部俊氏
(朝日航洋株式会社 航空事業本部 営業統括部 係長)
朝日航洋は航空機を使用した事業を展開しており、報道ヘリ、山への物資輸送、ドクターヘリ、ビジネスジェットなどを飛ばしています。
私は、2012年に大腸がんに罹患し、転移再発を肝臓がん3回、肺がん1回と繰り返し、今も闘病中です。
大腸がんが見つかった当時はかなり忙しく、有給休暇が丸々残っており、それを使って入院手術をしました。手術の後、抗がん剤治療のため、180日程の治療期間がかかることが判明しました。すでに検査や手術で有給休暇の残りは30日ほどになっており、180日も休むことは不可能なので、通院治療を選びました。
退院後、人事部にこれからの治療スケジュールを説明したところ、そこで初めて「積立失効有給休暇制度」を知りました。就業規則には書いてありましたが、詳しく読んでなかったため私も上司も知りませんでした。
積立失効有給休暇制度は、失効した有給休暇を積み立てておき、私傷病の際に有給休暇として使用できる制度で、失効後3年分積み立てられ、有給と合わせると最大100日利用できるものです。これを事前に知っていれば無理をして治療スケジュールを組む必要はありませんでした。
このようないい制度があるのに知られていないことに疑問を覚えた私は、もっと社内制度を明文化し、上司をはじめとする役職者への周知徹底、入院などの手続き方法の詳しい解説、正しいがん教育等が必要だと思い、会社に対して提言書を出しました。それにより、人事部にがん経験者を加えた委員会が設置され、私傷病と治療の両立分科会の設置やがん知識を知るセミナーの開催、社内イントラネットを利用したがん情報の提供等が行われました。さらに就業規則もわかりやく、制度が使いやすくなるように改定しました。
また、ハンドブックを作成して、がんに対する正しい知識を周知するとともに、全国の拠点に出向いての講習、新入社員へのがん教育等を行い、「慌てない」「すぐ辞めない」ことを伝えています。そして、上長のヘルスリテラシーを高めるとともに、罹患者も制度に甘えるのではなく働く従業員としてまずは傷病報告と何ができるか報告するという責務を植え込む活動を続けています。
【事例発表2】
「がん治療と就労の両立支援の事例」
東泰弘氏
(富士通株式会社 健康推進本部 統括部長)
当社の社員の平均年齢は43.2歳ですが、あと5年もすると50歳以上が50%を超える見込みで従業員の高齢化が進みます。
富士通グループでは、グループ全体で健康経営に取り組んでおり、重点施策として、生活習慣病対策、がん対策、メンタルヘルス対策、喫煙対策、職場環境等の改善と健康意識の向上に力を入れています。
富士通単体でのがんによる死亡者は少しずつ増えており、2014〜18年度で亡くなった従業員のうち男性は89名中36名が、女性は41名中25名ががんで亡くなっており、女性は死因の半数以上ががんとなっています。当社では、がんによる死亡は非常に大きな問題と捉えています。
がんの新規発生数は、会社が把握している数だけで毎年50名ほどが罹患しており、男性は横ばいですが、女性は増加傾向にあります。これは、女性の社員が増えていること、平均年齢が上がっていることも関係していると思われます。
富士通健保の調べによると、年齢階層別がん新規発生率は、男性は年齢が上がるほど発生率が上がり、女性は若い世代で発生率が男性よりも高くなり、日本の平均と同様、女性の30〜40代の発生率が高くなっています。
がんの部位別の発生状況は、男性は結腸・直腸、気管・肺、胃・食道の順、女性は乳房が48%、子宮が14%を占めており、女性の乳がんは大きな問題となっています。
富士通の考える基本的な就業支援は「きちんと治療して治してから仕事に復帰する」というものです。
有給以外にも、傷病に使用できる最大20日の積立休暇制度、1カ月間の待機療養期間、6カ月までの病気欠勤(無給)、1年〜2年3カ月まで使える病気休職(無給)など、安心して休職できる制度を設けており、しっかりと休んで治療できる体制を取っています。
就業上の配慮や支援に関しては、フレックス勤務制度、テレワーク制度等を職場の状況により適用しています。
さらに昨年には、がん、脳卒中、心疾患、糖尿病、肝炎、腎不全と厚生労働省の指定難病、不妊について、継続的な治療を必要とする者には、産業医の意見を踏まえた上で会社が必要と認めた場合、所定労働時間の短縮等の措置をとることにしました。これは、治療期間終了後はフルタイムで就業できることが前提となっています。
産業医・保健師・看護師等の医療職に対しては、がんを理解し、患者(従業員)の気持ちを理解するために、精神科医で緩和ケア専門の先生に講師となっていただき、がん罹患従業員への接し方の教育を行いました。
2020年1月からは、がん対策推進企業アクションアドバイザリーボード議長の中川恵一先生の講演を全社にライブ配信し、全社員を対象としたe-learningを実施することで、がん教育・啓発活動の推進を行なってまいります。
【事例発表3】
「がん治療と就労の両立支援事例」
市川久浩氏
(ヤフー株式会社 グッドコンディション推進室長)
ヤフーのグッドコンディショングループが目指しているものは、ヤフーグループの社員とその家族が、10年、20年先も幸せな生活を送り続けられるように、働く人が心身ともにグッドコンディションを維持し、 公私ともにベストパフォーマンスを発揮できるよう支援を行うことです。
がん対策における基本方針は、がんにならないための予防策と、がん診断後も治療しながら働き続けられる支援です。予防として、全社員を対象としたeラーニングでのがん教育、生活習慣の改善などを行なっています。そして、がん検診による早期発見。費用は会社負担で、受診率は90%以上、精密検査の受診率向上にも努めています。もしもがんが発見された時には、早期治療・早期復帰を目指して、治療をしながら働き続けることができるような就労支援をしています。
就労支援のポイントは、がんを罹患した社員が関わる多数の関係者間のコミュニケーションだと考えています。これらの関係者とコミュニケーションを取りながら、適切なタイミングで治療を受け、また治療と就労の両立をするため、3つのつながりを整備しました。
① がん罹患社員と会社のつながり
がんと診断された社員へのサポートとして、グッドコンディション推進室の産業医や産業保健スタッフに相談できる体制があるということを伝えます。相談することで病気や就労への不安解消になり、また医療費負担などの情報提供も行います。
② 会社と医療機関のつながり
産業医と主治医の連携です。産業医から主治医には、職務内容や勤務時間、社内制度等を、主治医から産業医には、症状や治療計画、業務上必要な配慮等の情報を交換します。
③ グッドコンディション推進室と、罹患者の上司や人事担当者とのつながり
職場復帰のための両立プラン作りを関係者全員で行い、就労上の配慮などを共有できるようにします。
こういった支援体制は、eラーニングを通して全社員に周知しています。
がん治療に活用できる社内制度は、多様な働き方の一環として整備された社内制度をベースに就労支援としても使えるようにしました。具体的には、リモートワーク(「どこでもオフィス」)、時差勤務、時短勤務、週休3日(「えらべる勤務」)、残業制限、オフィス内フリーアドレス等があります。これらを組み合わせることにより、通勤による体力的負担の軽減、副反応への対処等、就労を阻害する要因に柔軟に対応することが可能であると考えています。
このような就労支援制度が見直されたのは2017年ですが、それまでと比べがん罹患者全体の就労支援の利用率は1.8倍と大幅に向上しました。
今後は、がん治療をしながら働く社員が、治療と就労を両立し、会社に貢献をしながら治療継続できる安心・安全な職場を目指します。数値目標としては、就労支援制度利用者100%、治療困難による退職者0%、制度満足度100%です。
【講演】
「がん治療と就労の両立支援―企業にもとめられる両立支援―」
立道昌幸先生
(東海大学医学部 基盤診療学系 衛生学公衆衛生学 教授/がん対策推進企業アクション アドバイザリーボード)
これまでの安全衛生法の概念では、事業主は健康診断に基づいて就業上の配慮をすることが基本的な考え方でした。身体的な病気の場合は、90%以上完治した段階で復職することが求められていました。しかし、2000年以降メンタル疾患が増えてきたこともあり、リハビリ期間や時短勤務などの配慮をしつつの就業対応が求められています。
治療と仕事の両立に関しては、2017年に厚労省が「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」を出していますので参考にしてください。
治療と仕事の両立支援の課題としては、「どこまで働かせてよいのかわからない」ということがよく話題となりますが、会社ががんの再発、進行、悪化を予測するのは不可能です。しかし治療の副作用によるパフォーマンス低下による事故は回避可能ですから、配慮することが必要となります。
配慮とは何かというと、治療中に出現する症状、一番多いのは疲労感ですが、それを軽減するために時差出勤、残業制限、時間短縮、出張制限、交替性勤務の解除、事務作業への転換、作業時間の短縮など、原則は会社の現行制度の中で工夫して配慮をするというものです。制度が足りない場合は新たな制度作りも必要とされるでしょう。
どのような症状にどのような配慮が必要なのかは「順天堂発・がん治療と就労の両立支援ガイド」や国立がん研究センターの「がん就労者」支援マニュアルなどを参考にされるとよいでしょう。
がんは治療に専念する病気から治療しながら働く病気に変わってきています。なぜならがん治療は、数年に及ぶ慢性疾患へと変化しているからです。こうした配慮を決めるのは産業医の職務です。働き方改革実現会議でも「治療と仕事の両立支援に当たっての産業医の役割の重要性に鑑み、治療と仕事の両立支援に係る産業医の能力向上や相談支援機能の強化など産業医・産業保健機能の強化を図る」と明記され、2019年の4月より「産業医・産業保健機能」と「長時間労働者に対する面接指導等」が強化されています。ぜひ産業医を活用してください。
両立支援は、基本的に患者本人が申請して事業主が決めるものですので、患者本人が働きながら治療を受けようと思うことが大切です。そのためには、本人が手を挙げやすい環境を作らなければなりません。自分ががんであると会社に言っても大丈夫だということを、トップメッセージとして出す必要があると思います。また、日々の広報や衛生委員会等での議論、産業医等への窓口の整備も必要です。これは、健保で把握するがん罹患数と手を挙げてくれる社員数を比較することで、会社での手の挙げやすさがわかると思います。
がん患者の情報の管理徹底も重要です。誰がどこまでの情報を取り扱うかを事前に決めておく、健康情報取扱規約を策定しておきましょう。これは厚労省の「事業場における労働者の健康情報等の取扱規程を策定するための手引き」を参考にしてください。
復職については、まず本人に復職の強い意志があるかどうかが大切です。がんは人生観を変えますので、無理やり復職を迫るのはマイナスに働きます。そして、疲労感はどうか、生活のリズムが安定しているか、睡眠は安定しているか、安全に通勤できるか等の、働ける状態にあるかが重要です。
よく起きる職場での問題として、病状について本人と周囲との認識のズレがあります。本人の希望を尊重しすぎると周囲のサポートや精神的配慮等の職場の負担が大きくなり、なぜ彼・彼女だけ優遇されるのかといった他の労働者との不調和が起こり、患者が孤立化してしまいます。
社内制度の運用についての周知・理解と同時に、主治医、産業医、両立支援コーディネーター等と相談しながら進めることが大切です。また部署や周囲の理解のためには、会社でのがん教育も重要となります。
がんを予防するためには、喫煙対策、受動喫煙対策、生活習慣の改善等のがんにならないようにする一次予防、がんを早期発見・早期治療するがん検診等の二次予防、がんになっても働き続けられる両立支援等の三次予防があり、この3つの予防が同時並行して行われなければなりません。
特にたばこはがんの原因の30%といわれており、対策を進めなければなりません。一次予防が最も費用対効果に優れます。がん検診については、きちんとした科学的根拠のある検診の実施と、精密検査の必要がある方には必ず精密検査を受けてもらうように受診勧奨が必要です。
働く世代では15%の人、つまり7人に1人ががんになります。両立支援は、みんなががんを“自分にも起こり得ること”として関心を持ち、それぞれの立場で予防や検診も含めた「がん対策」に取り組む環境を作らなければなりません。がん対策推進企業アクションのホームページに、衛生安全委員会の討議資料がありますので、参考にしていただければと思います。
第二部
【グループ討議】
参加企業が7つのグループに分かれ「がん治療と就労の両立支援」について話し合い、問題意識を共有するとともに、成功事例の共有や今後の課題についてディスカッションを行いました。
グループ討議後には各グループより、会社の両立支援制度の適正化、働きやすい環境作り、産業医と主治医の連携のあり方、企業間の連携、精密検査の受けやすい環境作り、がん経験者のコミュニティ作り、社員の家族のがんへのサポート、禁煙対策、社内データの活用、制度の使える環境作り、金銭保証制度、復活有給制度、企業にいる両立支援コーディネーターや社労士の企業の枠を超えた情報交換、企業間の好事例の交換、新入社員からのがん教育、管理職の研修、地域格差の是正、就業規則の理解度アップ等が大切であると発表されました。
【総評】
立道昌幸先生
(東海大学医学部 基盤診療学系 衛生学公衆衛生学 教授)
がんは個別性が高く現代では罹患率も高いことから、両立支援がクローズアップされていますが、今後はがん以外でも不妊治療やさまざまな疾病についても両立支援が行われるべきだと思っています。
両立支援は、制度が充実しても患者が職場で孤立しては最終的に自立することができません。必ず職場内の共感力が必要で、がんという病気について、制度について周知し、正しく理解してもらうことが必要だと感じました。
産業医と主治医の連携は私どもも非常に重要視しています。忙しい臨床医が病状などの書類を作成するのは大変です。もっと産業医と主治医の意思疎通がスムーズにいくように心がけていきたいと思います。
この会のように企業連携が深まり、好事例の共有や問題提起ができることは非常に意義あることだと感じましたので、今後ともぜひよろしくお願いします。
【挨拶】
猪股研次氏
(厚生労働省健康局がん・疾病対策課 課長補佐)
厚生労働省でもがん対策を進めており、治療と仕事の両立にも力を入れています。企業コンソーシアムは昨年度からスタートしましたが、企業のがん対策の現状を知ることができ、非常に有意義に感じます。
今回の参加をきっかけに、今後もコンソーシアムに参加いただきたいと思うと同時に、ここでの経験や情報を周囲にも発信していただければ幸いです。
今後ともよろしくお願いいたします。