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イベントレポート

2019/11/19
大阪セミナー「職域におけるがん対策の最新情報」を開催しました

令和元年度の全国3ブロックセミナーの「大阪セミナー」が、大阪市のグランフロント大阪のカンファレンスルームにおいて11月19日(火)に開催されました。

当日は、厚生労働省健康局がん・疾病対策課課長補佐の猪股研次氏からの挨拶、がん対策推進企業アクションの事務局長の大石健司氏より本事業の説明のあと、東京大学医学部附属病院 放射線科准教授の中川恵一先生より「自分のカラダをがんから守るために」、がん経験者である中美佳氏より「がんになって気づかされたこと」、森本産業医事務所代表の森本英樹氏より「企業のがん対策〜一歩ずつあゆみを進める方法〜」の講演が行われました。

講演のあとには、登壇者によるパネルディスカッションが行われました。

講演の様子

【挨拶】

猪股研次氏(厚生労働省健康局がん・疾病対策課課長補佐)

我が国において、がんは昭和56年から国民の死因の第1位であり、平成29年には年間の死亡者数が約37万人にのぼっています。

がん対策は、平成18年にがん対策基本法が制定されたことで加速され、全国どこでも専門的・標準的ながんの医療が受けられるようにするなど、がん医療の充実を中心に進められてきましたが、平成28年に法律が改正され、がん患者の就労等、がんに関する教育の推進が盛り込まれました。

このため、平成30年の第3期がん対策推進基本計画では、がん患者を含めた国民ががんを知り、がんの克服を目指すこととし、「がんの予防」「がん医療の充実」「がんとの共生」を3本の柱に、これらを支える基盤の整備として、「がん研究」「人材育成」「がん教育、普及啓発」を進めています。

がん検診の受診率は50%を目標としていますが、年々上昇傾向にあるものの、肺がん検診以外は依然として50%に届いていません。諸外国のデータと比較しても日本のがん検診受診率は低いのが現状です。

がん検診の受診機会は、受診者の約3〜6割が職域での受診となっており、受診率向上のためには職域での啓発が非常に重要です。

しかし、職域におけるがん検診は、福利厚生の一環として実施されていて、検査項目や対象年齢など実施方法はさまざまで、対象者数や受診者数のデータ集約が行われておらず、受診率の算定や精度管理を行うことが困難であると言われていることから、厚生労働省では職域におけるがん検診受診に関して、参考となる事項を示し、科学的根拠に基づく検診ができるよう平成30年3月に「職域におけるがん検診に関するマニュアル」を作成しておりますので、ぜひ活用してください。

また、がん患者の約3人に1人は、就労可能年齢で罹患しており、年齢が高くなるにつれて罹患率は増加していきます。定年の延長など、働く期間が長くなれば職域のがん対策はさらに重要になってきます。

治療と仕事を両立するためには、働き方改革実行計画に基づいて、経営トップや管理職などの意識改革、両立を可能とする社内制度の整備促進、傷病手当金の支給要件の検討など、会社の意識改革と体制の整備が必要です。

このため、同計画では、主治医、会社・産業医、両立支援コーディネーターの3者により患者の治療と仕事の両立をサポートする「トライアングル型支援」を推進しています。

がん患者の就労に関する取組は、厚生労働省健康局 がん・疾病対策課、職業安定局 首席職業指導官室、労働基準局産業保健支援室によって連携を密に取りながら進めています。

今後もがん対策を一層推進してまいりますので、ご協力よろしくお願いします。

猪股様

▲猪股様

【がん対策推進企業アクション事業説明】

大石健司氏(がん対策推進企業アクション事務局長)

がん対策推進企業アクションは、職域でのがん検診受診率を向上させるための国家プロジェクトであり、厚生労働省の委託事業です。

「がんでもやめない、やめさせない」「今年も行こう、今年は行こう、がん検診」「会社が始めるがん対策」をキャッチフレーズに、がんになっても働ける社会を目指して活動しています。

がん対策推進企業アクションは2009年度にスタートし、今年で11年目を迎えました。設立当初は、全国大会、記者説明会、推進パートナー会議、小冊子「がん検診のススメ」の制作・配布を行いましたが、年を重ねるごとに、推進パートナーとの勉強会、全国7ブロックでの啓発セミナー、シンポジウム、企業表彰制度、女性誌セミナー、医師による出張講座、企業コンソーシアム、がんサバイバー認定講師など、発展的に活動をしてきました。

日本で1年間にがんになる人は約101万人、その1/3が働く世代であり、64歳までに何らかのがんに罹患する確率は男女ともに約15%となっており、会社員の死因の約半数ががんとなっています。企業のがん対策は待ったなしの状況であるといえます。

今後、企業が取り組むべきがんアクションには3つあります。

1.「がん検診の受診を啓発すること」

健康診断にがん検診を加えたり、検診の効果を啓発したりして受診率の向上を目指す。また、有効な検診を実施することや精密検査の受診フォローも大切です。

2.「がんについて会社全体で学び、正しく知ること」

がんは早期発見が重要だということ、がんになっても治療しながら働き続けられること、高額療養費制度で治療費の負担が抑えられること、禁煙などの正しい生活習慣でがんになるリスクを減らせることなどを知る必要があります。

3.「がんになっても働き続けられる環境をつくること」

治療のサポート体制づくりや柔軟な休暇制度など、治療をしながら働き続けられる環境を整備することが大切です。

これらを実践することにより、がんによる人材の喪失が抑えられ、社員が安心して働き続けられる環境が作れます。

女性の社会進出は今後ますます増えるとともに、定年の延長などで高齢化が進めば、従業員のがん罹患問題はより深刻になっていきます。本事業は、対応策を模索し、がんから従業員を守る、国民を守るという、より壮大な国家プロジェクトに進化させようとしています。

大石氏

▲大石氏

【講演①】

「自分のカラダをがんから守るために」

中川恵一氏先生(東京大学医学部附属病院 放射線科 准教授/がん対策推進企業アクション アドバイザリーボード議長)

日本人は、自分のカラダを守るという意識が非常に低く、おそらく先進国でも最低レベルでしょう。これは、学校でカラダのことを習って来なかったということも影響していると思います。

日本は世界一がんの罹患者が多く、先進国の中で唯一がんの死亡数が増えています。

1999年から2003年の調査では、サラリーマンの死因の半分ががんでした。おそらく現在では、女性の社会進出や定年の延長などで、もっと割合は増えていると思われます。

また、伊藤忠商事の調べでは、在職中の社員が病気で亡くなるケースの9割ががんでした。

がんのことを正しく知る必要があります。

実は、ここ大阪のがん死亡数はよくありません。年齢調整をした上で、日本でがんでの死亡率の高いのは青森県、佐賀県、大阪府です。全国平均よりも多く死亡している人の数も大阪市は非常に多くなっています。

大阪は喫煙率も高く、がん検診も受診率が低いのが実状です。

がん罹患者の男女比を日本人全体で見ると、はるかに男性の方が多いのですが、働く世代に絞ると女性社員の方が多くなります。若い時は乳がんや子宮頸がんなど、女性の方ががんになりやすいからです。ちなみに男性の方が、女性よりもがん患者が多いのは、喫煙や飲酒など生活習慣が悪いからです。

今後は女性の社会進出による働く女性のがんの増加に加え、定年延長による従業員の平均年齢のアップに伴うがん患者が増えていきますので、企業におけるがん対策は非常に重要になってきます

現在の日本の累積がん罹患リスク、つまり一生でがんになる確率は、2014年のデータで男性が62%、女性が47%です。現在はおそらく男性は3人に2人、女性は2人に1人ががんになる時代と予想されます。

実は、私自身もがんになりました。男性の3人に2人ががんになるわけですから何ら不思議ではないのですが、まさか自分ががんになるとは全く予想もしていませんでした。

私はお酒好きが原因で、肝臓に塊状に脂肪が貯まるまだら脂肪肝を持っています。去年の12月9日、当直の日に自分で肝臓の超音波検査をし、膀胱も検査したところ、偶然にも膀胱がんを発見しました。

12月27日に入院をして翌28日に経尿道的内視鏡での検査切除、検査結果が悪性ではなかったため12月31日に退院し、1月4日からは通常勤務に戻れました。

このように、ほとんどのがんは早期であれば、仕事にも暮らしにも大きな影響は与えません。両立支援にもいろいろありますが、まずは早期に発見して治療することが、最も重要なことではないでしょうか。

私の場合は、特殊な環境であったため自分でがんを発見した訳ですが、普通の人でも見つけられるがんもあります。例えば、乳がん。乳がんの発見契機の5割以上が自己触診です。毎月触って、今月も先月と同じ触り心地かどうかを知るだけでいいんです。乳がんは触れるがんですから、毎月触っていれば自分で変化に気付けます。リンパ腺は首と脇の下と足の付け根しかありませんから、これもたまに自分で触って変化がないか確かめるといいと思います。

触り心地のポイントは、がんは固いということです。がんは、細胞分裂のスピードが早いので、密度が高く固くなります。とにかく固いものがないかを気にしておくべきです。

がんになってわかったことがあります。それは、「がんは症状を出しにくい病気」「自分はがんにならないと思うもの」ということです。いくら健康に気をつけた生活をしていても、いくら体調が絶好調でも、がんには運の要素がありますから、検診は受けなければなりません。

私ががんを発見した時、全く痛みや症状はありませんでした。しかし手術後は七転八倒の痛みを経験しました。がんの診断は将来の時間を稼ぐために、現在の時間を犠牲にすることでもあります。

今は長く働かなければならない時代です。その時間を得るためにがん検診を受けなければなりません。

現在、がん全体での5年生存率は68%ほどです。三分の二程度は治るということです。がんかがんでないか、何がんか、よりも早期か早期でないかの方が大切です。例えば、胃がんの場合早期の1期であれば97.6%の5年生存率がありますが、4期になると8.0%しかありません。どのがんも早期で発見することが大切です。

大腸がんの検診方法は検便です。とても簡単で、住民検診で受ければ料金も税金の補助がありますので、非常に安く受けられます。なのにそれをやらない人がいます。

私の義理の妹は48歳の時に大腸がんで亡くなりました。見つかった時はすでにステージ4で転移もありましたが、何の自覚症状もありませんでした。検便をしていれば、この不幸は起きなかったと思います。

ですから、どんなに体調がよくてもがん検診は受けなければなりません。

現在日本では年間約101万人ががんになり、約38万人が亡くなっています。この死亡数は年々増えて続けています。しかし、欧米ではがんの死亡数は減っています。

現在先進国の中で、がんによる死亡が増え続けているのは日本しかありません。10万人あたりがんの死亡数は、アメリカに対して2014年で1.6倍、最近ではついに2倍になりました。大腸がんの死亡数では、アメリカ全体より日本の方が多くなっています。

これは日本人のヘルスリテラシーが低いことが要因の1つとなっています。国別のヘルスリテラシーの平均点調査では、調査国の中で、インドネシアやベトナムよりも低く、ダントツの最下位です。

このリテラシーの低さは、学校で健康について習っていないことがあげられます。すでに小中高校ではがん教育が始まりました。将来的にはもう少しヘルスリテラシーは高くなると思いますが、現在がんに直面している大人は、自分で学ばなければなりません。あるいは、従業員に対してある程度の強制力を持っている企業側が、従業員にがん教育をする必要があります。

自分で自分のカラダを守る文化を作らなければなりません。

中川先生

▲中川先生

【講演②】

「がんになって気づかされたこと」

中美佳氏 (がん対策推進企業アクション認定講師/がん経験者)

私の乳がんがわかったのは、2012年10月3日。右乳房の乳がん告知を受けました。

中川先生のお話にもありましたが、私も乳がんがわかるまで痛みやヒキツレ、分泌物が出るなどの症状は全くありませんでした。

乳がん発見の契機は、40歳になると自治体から送られてくるマンモグラフィーの無料クーポンでした。それまで一度も乳がん検査をしたことがなかったので、冬休みにでも行ってみようと思っていたところ、急に休みができて近くのクリニックに行きました。

その日は土曜日で、クリニックは閉まっていました。いつもの私なら「じゃあ、冬休みでいいか」と思うのですが、なぜだかその日に受けなければならない気がして、他のクリニックに行き、予約なしで2時間待ってマンモグラフィーを受けました。

結果が出るまで待ち、診察室に入ったところマンモグラフィーの画像を見せられ、右の乳房に異常があるからとMRIの検査を勧められました。

私は保育の仕事をしています。9月末は運動会の準備などもあり忙しい時期だったのですが、なるべく早いうちにということで、何とか都合をつけMRI検査を受けました。それから2日後に電話があり、一刻も早く大きな病院で組織検査をしてくださいと言われました。

悪い予感がし、先生に「私はがんですか?」と聞きました。「私の見立てだと99.9%悪性だと思います」と答えられました。この時、私の命のカウントダウンが始まったのかと、恐怖を覚えました。

大きな病院での検査でやはり悪性だとわかり、右胸の下の方に5cmくらいのしこりがありました。転移があるかどうかの検査には1週間ほどかかりましたが、この1週間が一番怖かったです。「世の中から色が消える」という表現がぴったりで、何を見ても灰色に見え、何を食べても味がわかりませんでした。

そして1週間後、10月3日に乳がん告知を受けました。

治療は、乳がん範囲が広かったため、微小転移を防ぐために抗がん剤から始めることとなり、3週間に1度のクールで8回、約半年間抗がん剤治療をしました。初回だけ入院して、あとは通院治療です。

当時は「なんで私なんだろう、なんで今なんだろう」と、悲しさよりも悔しさで涙が出ました。

抗がん剤治療では、100%髪の毛が抜けるという説明を受けたので、前もってウイッグを作りました。抗がん剤治療から10日目の夜、シャワーを髪の毛に当てたところ、その水圧で一気にバサバサと大量の髪の毛が抜けました。あまりにも大量に抜けたため、その日はびっくりしてシャワーもやめ、家族にも言えませんでした。

ウイッグを着けて過ごすことになりましたが、やはり髪の毛がないことはショックでした。

私の場合は、抗がん剤治療を受けた日の夜が一番つらかったです。友達からどのくらいつらいのかと聞かれますが、「ものすごい船酔いと、インフルエンザのような高熱が一気に襲ってきて、それが4〜5時間続く感じ」と説明します。

その後の手術は、先生と相談して右乳房の全摘をしました。当初は同時再建をしようかと思っていたのですが、形成外科の先生などから詳しく話を聞いて、再建はしないことを選びました。今もしていませんが、特に不自由は感じません。

手術後は1年間、3週間に1回、再発予防の点滴を続けました。点滴に関しては、それほどの副作用はありませんでしたが、私は髪の毛が伸びてくるのがすごく遅かったです。

その後は、ホルモン療法の薬を毎朝1錠飲んでおり、今も続いています。この薬は女性ホルモンを止める薬なので、冷え、のぼせ、ほてりなど、更年期障害に似た症状が出ます。

今となっては、乳がんになる前の自分がどうだったのか思い出せません。今の感覚が普通になっています。

治療をしている間、特にウイッグを着けている期間は、保育の仕事ということもあり、自分では仕事は無理だと判断しました。ウイッグが子供とのふれ合いで取れてしまわないか、親御さんや周囲の遠慮を感じるのが苦手、味覚障害など、いろいろな理由がありました。しかし、働きたいと思う人はどんどん働いた方がいいと思います。

その後、自分で納得して仕事に戻れると思った時に元の職場に戻りましたが、治療期間に自分のことを考える時間があったことで、違う自分を発見し、当時の職場に違和感があり、1年間勤めたあと違う保育園に転職しました。

乳がんを経験して、今は自分の命は生かされているんだと実感しています。それまでは、自分の人生なんだから好きなように生きると考えていましたが、いざ死ぬかもしれないと思った時に、身近な人だけでなく周りの人みんなに生かされている、仕事をさせてもらっていると感じ、それまでの自分に恥ずかしさを感じました。

現在はホルモン療法を続けながら元気にしていますが、自分の命は自分1人の命ではない、そして自分が乳がんになったのには意味があると感じ、このような認定講師活動などをさせていただいています。

皆さんの前で自分の経験を話すことで、がん検診に行ってもらえれば、そしてご自身だけでなく大切な方にも検診を勧めていただきたいと思います。実際に私の周りでも、私の乳がんを知って乳がん検診に行き、ゼロ期の乳がんが見つかり早期の治療で元気にされている方もいます。

私の乳がん体験が、1人でも多くの人ががん検診受診のきっかけとなり、早期発見・早期治療の手助けになれば嬉しいです。

中さん

▲中さん

【講演③】

「企業のがん対策〜一歩ずつあゆみを進める方法〜」

森本英樹先生(森本産業医事務所 代表)

産業医と日常から接していらっしゃる方は少ないと思います。そして産業医は、医者の中でもどちらかといえば派手ではないポジションです。

日本医師会が認定する産業医は、定期的に更新をしなければいけません。現在、資格の保持者は全国で約10万人、更新者は6〜7万人ほどいるといわれ、着実に増えつつあります。ただ、資格は持っていても実働している人は6割程度といわれ、実働していても本職は開業医や勤務医などで、月に1日、週に1日等の本職の合間で稼働されている方がほとんどだと思います。私のように産業医だけをやっている方は全国で1000人程度だといわれています。

つまり、産業医を専門としている医者は少なく、産業保健の第一線を担っているのは、ほとんどが専業ではない産業医というのが実情です。ですから、治療と仕事の両立支援を広げるためには、このような専業ではない産業医や臨床で治療を行なっている医者や看護職の方の協力が必要となりますし、人事担当者の役割も重要です。

私が耳にした事例を2つ紹介します。

1つ目は、片方の肺を切除した肺がん患者さんの方の事例。

溶接工をされており、防塵マスク着用が必須の業務でした。健康な方がこのマスクをして動くのも息苦しさを感じて大変です。主治医からは復職可の判断が出て、現場作業に戻りましたが、防塵マスクを着けての作業が困難で就業不可であることが判明しました。

この状況に至るまで、本人、主治医、そして会社側も肺がん患者が防塵マスクを着けて作業ができるかどうかを確認する必要性に気づいていませんでした。誰か1人でも気づいて相談できていれば、治療開始から復職までの期間にきちんとした準備ができていたはずです。

2つ目は55歳の独身男性、独居で身寄りなし、ステージ4のがん患者さん。

ステージ4はかなり進行したがんです。現実問題として、歩くのも苦しく安全な通勤も確保できない状態で、職場復帰は難しそうでした。

しかし、本人は給与がないと生活ができず、首をくくるしかないと、会社に対してどんな仕事でもいいからと復職をお願いしていました。

このケースの問題点は、本人が傷病手当金をはじめ、各種社会保障制度を知らなかったことに加え、人事部等からその点について何の説明もなかった点にあります。「知らない」ということは果たして自己責任でよいのか、由々しき問題です。

人は健康だから働けているわけですが、働くことで生きがいややりがい、達成感などを感じられ、それが健康でい続けられる要因にもなっています。きちんと働くことで健康でいられるのです。

日本では高齢化が進んでいますから、働く能力と意思のある人が働くことの意義は大きいと思います。働いて給料を得ることは普段の生活が安定することはもちろんですが、治療費を得て治療を継続することにもつながります。自殺の予防にもなるでしょう。

職域でのがん対策のポイントは、まずがん検診を受診するということです。厚生労働省の「職域におけるがん検診に関するマニュアル」をベースに、適切な年齢、頻度、項目を選ぶといいと思います。

そして、関係者は検診をしたら必ずフォローアップをすること。受診しない人への勧奨はもちろんですが、検診で精密検査の必要が出た人には、きちんと精密検査を受けてもらえるように勧めなければなりません。その際、産業医や産業保健スタッフなどが関われればベストです。健康情報管理も法律で定められるようになりました。規定を定めると共に、不適切な利用がないようにしなければなりません。

がんになったからといって必ず働けなくなる訳ではありませんし、逆に必ず働けるという訳でもありません。正しい就労評価のためには、産業医等が関与し、適切に対応することが肝心です。

特に検診後の精密検査をきちんと受けるためには、会社としてのサポートも大切です。上司側の「忙しい時に有給とらないで」「残業ができない=頼りにできない」「研修を受けさせる余裕がない」などの思い。従業員側の「忙しいから検診は後回し」「健康異常なんてみんな持っている」「体が悪いと思われたら最悪」などの思い。これらの気持ちがあるのは十分承知していますが、それでも管理者が体調管理も含めて先導する中で、懸念を少なくしていかねばなりません。

健康に関しては口先だけではなく本気で従業員のために思いやれる社風を作っていくことが重要です。

両立支援は総力戦です。一部の人だけに負担がかかってもダメですし、一部の人だけが頑張って何とかなることでもありません。

医師や看護職、サイコオンコロジーといわれる心理的側面をカバーする精神科医、公認心理師、産業カウンセラーなどの医療側と、単に働くことだけでなく労務管理や今後のキャリアを見る側である産業医、人事労務、上司、社労士、キャリコンなど、そして社会保障制度などのお金の面などを扱う医療ソーシャルワーカー(MSW)、精神保健福祉士(PSW)、社労士、ファイナンシャルプランナー、行政、地域保健などが連携することが必要です。

また、患者さん側の相談窓口として、病院の相談窓口、各種患者会、NPO法人がありますし、会社の相談窓口として産業保健総合支援センターなどがあります。さらなる窓口の多様化と会社が相談できる窓口の普及・拡充に期待しています。

とてもいいリーフレットをご紹介します。

国立がん研究センターのがん情報サービス「診断されたらはじめに見るがんと仕事のQ&A

実際にがんになられた方が読むと、とても役に立つと思いますし、担当者は一度目を通してもらうと、両立支援の幅の広さを感じると思います。

がん検診の受診や相談窓口の整備など、「がんを見つける」「がんの治療をしながら働き続ける」体制は、徐々にですが整備されて来ています。さらにこれからの普及、使い勝手のレベルアップが必要です。

この分野は、多くの関係者が少しずつでいいので、力を合わせることで達成できると考えていますので、皆さま今後ともご協力よろしくお願いします。

森本先生

▲森本先生

【パネルディスカッション】

登壇者
中川恵一氏
中美佳氏
森本英樹氏
中川氏
先ほどお話ししたように、大阪市は全国平均に対してがんで亡くなる人が多いです。
大阪府から塩田尚子主査がいらっしゃっていますので、府の対策のお話をお伺いします。
塩田氏
私は、大阪府のがん検診を担当しております。
大阪府のがんによる死亡者が多いのはご指摘の通りです。大阪府の胃がん・肺がんのがん検診受診率は、全国ワースト1位となっております。女性のがん検診もよくありません。受診率の向上に取り組んでおり、年々数字が上がっているものの、他の都道府県の取り組みもあり、まだ最下位を脱出しておりません。
大阪府のがん対策としては、がんの拠点病院を独自に認定しており、医療体制の充実を図っています。
がん検診は内容が大切です。また受診後の精密検査をきちんと受けて、早期発見・早期治療に取り組むことも大切です。大阪府では住民検診における精密検査の受診率が近年上がってきています。医療機関から市町村にきちんと結果を返す体制を整えたことが大きいと思います。
本日の講演を聞かれて、皆さまもがん検診の大切さがよりわかっていただけたと思います。中さまの講演にもありましたように、誰かに言われたり、誰かの話を聞いたりすることが、がん検診受診のきっかけにもなりますので、ぜひ周りの方にもお声がけいただければと思います。
中川氏
行政と企業が手を取り合うことは、とても重要だと思います。小さな企業であれば、住民検診を活用すれば会社の負担も少なくなります。検診にかかる時間を就業時間として認めたり、かかったコストを会社負担とするなどの方法も十分考えられます。行政側においても、利用者側によりわかりやすく説明するとともに、検診を受けようと思える工夫もしていただきたいと思います。
中さんの無料クーポン券のお話がありましたが、急に土曜日が空いたのでということでしたが、それまでは乳がん検診に行っていなかったのですか?
中氏
行っていませんでした。
中川氏
気にはなっていたんでしょうか?
中氏
直接の症状があった訳ではないんですけど、よくよく思えば夏頃からは右胸だけが張っているような違和感があったのかなと思います。
中川氏
たまたま休日になった土曜日に思い立ってクリニックに行き、がんが見つかった。これって運ですよね。がんになるのも運の要素があるんです。
中さんのおっしゃった言葉で印象的だったのは「悔しい」「何で私だけ」というものです。私も膀胱がんになりましたが、そのような気持ちにはあまりなりませんでした。なぜなら、私ががんになったのは“運が悪かった”とはっきりと認識しているからです。
私がなった膀胱がんを増やす要因としてわかっているのは、たばこだけで、1.6倍にリスクが増えます。私はたばこを吸いませんが、がんになりました。ヘビースモーカーで大酒飲みの人でもがんにならない人もいれば、健康に気を使って正しい生活習慣を心がけている人でもがんになります。がんには運の要素が確実にあるのです。
男性の場合、がんになる最大の要因はたばこです。しかし女性の場合は、実は運なんです。アメリカのデータになりますが、がんの中で遺伝が要因なのは5%しかありません。一方で男性の場合は、喫煙を含めた生活習慣が2/3、その半分がたばこです。残り1/3が運ということとなります。女性の場合は、たばこを吸われる方が少ないですから、1/3が生活習慣、2/3が運ということになります。
がんとは、がんに関連する遺伝子が偶発的に損傷して不死化することです。どの遺伝子が壊れるかはランダムで、まさに運としかいいようがありません。歳を重ねれば、細胞分裂の数も増えますから、当然遺伝子損傷のリスクは高まる訳です。物も人も年月を経れば当然経年劣化します。
例えば、55歳でがんになる確率は約5%ですが、65歳になると約15%、75歳になると男性では3人に1人ががんになります。
中さんのがんも私のがんも“たまたま”そうなってしまったということです。がんに限らず、人生の中には必ず運の要素が存在します。だから、がんも我々の人生の中の出来事の1つなんです。
例えば突発的に起こる交通事故は避けることは難しいですが、がんは生活習慣を見直すことでリスクを減らせますし、もしも運悪くがんになってしまってもがん検診で早期発見できれば、ほとんどの場合は治すことができるのです。
中氏
病気になったからこそ見えた世界や出会えた人もいます。がんにならないにこしたことはありませんが、がんが自分の人生のプラスにもなっていると思います。
中川氏
がんの患者さんは物事を深く考えるようになります。アメリカでは「キャンサーギフト」という言葉もあるように、人生を無駄に生きなくなり、確実に生産性は上がります。がんになった従業員がいても、その人がよりよい方向に会社を引っ張っていってくれると思います。
森本先生、大阪の会社の特徴などはあるのでしょうか?
パネルディスカッションの様子
森本氏
大阪商人的な、目の前の利を大切にするという部分がクローズアップされやすいかもしれません。とはいえ、大阪的か否かよりも、どちらかといえば社風の差の方が大きい気がします。
それぞれの会社の考え方によって産業保健のあり方が変わってきますので、私は会社に合わせて柔軟に対応するように心がけています。一方で、産業医は月に半日しか行かないような場合も多いと思います。人事労務担当者が他人事ではなく“自分ごと”として取り扱うことが、かなり大きいと思います。
地域性や社風は、変えづらいものではありますが、少しずつこつこつとやっていくことで、徐々に変わっていくことを経験していますので、これからも続けたいと思います。
がんとも関係の深いたばこの話に関してですが、改正健康増進法によって2020年の4月から原則屋内での喫煙が禁止となります。今までは会社の休憩室に灰皿おいていればセーフでしたが、これからはダメです。喫煙室と休憩室を分ければいいのかというと、喫煙室は風量の測定をしなくてはならないなど、きちんと管理された喫煙室でないとNGとなります。会社として喫煙室自体をおくかどうかも含めて考えなければなりません。
ハローワークの求人票の中にも、企業の受動喫煙対策を書く項目ができます。企業が受動喫煙対策をしなければならない環境が続々とできています。今一度、ご自分の会社の受動喫煙防止策を見つめ直すよい機会ではないでしょうか。
中川氏
がん対策推進企業アクションの取ったアンケートでも、中小企業の経営者のリテラシーとがん対策、検診受診率などが見事に相関しています。大企業の場合には、健保組合の担当者のリテラシーとなります。
皆さんが、正しく理解して、それを会社の中で活かすということが従業員を守るということにつながりますので、ぜひご協力をお願いします。

【質疑応答】

質問者A
人事総務を担当しています。職場ではがん検診に関する補助を行なっています。腫瘍マーカーのオプション検査に対しての補助を検討しています。腫瘍マーカー検査は必要でしょうか?
中川氏
厚生労働省は推奨していません。料金も高いですし、エビデンスがゼロですので、やめておいたほうがよろしいかと思います。PSA検診がギリギリのラインではないでしょうか。基本的に一番エビデンスがあるのは、住民検診の項目です。
会社の検診は任意型検診ですから何をやるかは自由なわけですが、合理的な範囲の中で各社にとって何がいいかを考えるといいと思います。
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