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イベントレポート

2019/10/11
北海道セミナー「職域におけるがん対策の最新情報」を開催しました

令和元年度の全国3ブロックセミナーの「北海道セミナー」が、北海道・札幌市のホテルポールスター札幌において10月11日(金)に開催されました。

当日は、厚生労働省健康局がん・疾病対策課課長補佐の猪股研次氏からの挨拶、がん対策推進企業アクションの事務局長の大石健司より本事業の説明のあと、東京大学医学部附属病院 放射線科准教授の中川恵一先生より「自分のカラダをがんから守るために」、がん経験者である花木裕介氏より「9ヶ月間休職していたがん罹患社員でも活躍できる企業風土とは」、JR札幌病院保健管理部部長の佐藤広和先生より「職場のタバコ対策を通じたがん予防」の講演が行われました。講演のあとには、登壇者に株式会社オープンソース代表取締役の宮本昭持氏を加えたパネルディスカッションが行われました。

講演の様子

【挨拶】

猪股研次氏(厚生労働省健康局がん・疾病対策課課長補佐)

我が国において、がんは1981年から国民の死因の第1位であり、生涯のうち2人に1人ががんに罹患し、3人に1人が亡くなっています。

がんの予防には、がん検診が早期発見・早期治療のために大変重要です。がんについて関心を深め、より多くの人にがん検診を受診していただくとともに、精密検査が必要な方には積極的に検査を受けていただくことが重要であると考えています。

がん対策は、平成18年にがん対策基本推進法が制定されたことにより、加速していますが、現在はこの法律に基づき、平成30年3月に策定された第3期がん対策推進基本計画により実施しています。

がん対策基本法は、平成28年に改正され、がん患者の就労等、がんに関する教育の推進が盛り込まれました。第3期計画では、がん患者を含めた国民ががんを知り、がんの克服を目指すこととし、「がんの予防」「がん医療の充実」「がんとの共生」を3本の柱に、これらを支える基盤の整備として、「がん研究」「人材育成」「がん教育、普及啓発」を進めています。

がん検診の受診率は50%を目標としていますが、年々上昇傾向にあるものの、肺がん検診以外は依然50%に届いていません。国際的に見ても日本のがん検診受診率は低いのが現状です。

がん検診の受診機会は、受診者の約3〜6割が勤務先での受診となっており、受診率向上のためには職域での啓発が重要です。

今年7月に実施された世論調査によると、がん検診未受診の理由のトップ3は「受ける時間がないから」「健康状態に自信があり、必要性を感じないから」「心配な時はいつでも医療機関を受診できるから」となっています。がんに対する正しい知識がまだ普及していないことも要因の1つだと考えられます。がんは発見が早ければ早いほど完治する可能性は高まりますので、早期発見のためにもがん検診を受診しやすい環境づくりと効果的な検診を目指しています。

厚生労働省では職域におけるがん検診受診に関して、参考となる事項を示し、科学的根拠に基づく検診ができるよう「職域におけるがん検診に関するマニュアル」を作成しておりますので、ぜひ活用してください。

がん患者の就労について、7月の世論調査では、がんの治療や検査のために2週間に一度程度病院に通う必要がある場合、働き続けることを難しくしている最も大きな理由は何だと思うか、という質問に対して、「がんの治療・検査と仕事の両立が体力的に問題」が1位、次いで「代わりに仕事をする人がいない、いても頼みにくい」「職場が休みを許してくれるかどうかわからない」「休むと収入が減ってしまう」の順となっています。

また、前回調査でも、働くことが可能で、働く意欲のあるがん患者が働き続けられるようにするために必要な取り組みは何か、という質問では「病気の治療や通院のために短時間勤務が活用できること」「1時間単位の休暇や長期の休暇がとれるなど柔軟な休暇制度」「在宅勤務を取り入れること」などが求められています。

別の調査でも、日本の労働人口の約3人に1人が何らかの疾病を抱えながら働いており、アンケートからも治療を続けながら働くための制度や社内の理解が必要だとわかります。

治療と仕事を両立するためには、働き方改革実行計画に基づいて、経営トップや管理職などの意識改革、両立を可能とする社内制度の整備促進、傷病手当金の支給要件の検討など、会社の意識改革と体制の整備が必要です。

また、計画では、主治医、会社・産業医、両立支援コーディネーターの3者により患者の治療と仕事の両立をサポートする「トライアングル型支援」を推進しています。

がん患者の就労に関する取り組みは、厚生労働省健康局がん・疾病対策課、職業安定局首席職業指導官室、労働基準局産業保健支援室の3部局によって連携を密に取りながら進めています。

本日ご参加されている皆様の職場におけるがん検診受診率の向上やがん患者の治療と就労の両立支援、従業員への情報提供などの取り組みが推進されることを期待しています。

厚生労働省健康局がん・疾病対策課課長補佐 猪股研次氏

▲厚生労働省健康局がん・疾病対策課課長補佐 猪股研次氏

【がん対策推進企業アクション事業説明】

大石健司(がん対策推進企業アクション事務局長)

がん対策推進企業アクションは、職域でのがん検診受診率を向上させるための国家プロジェクトであり、厚生労働省の委託事業です。“がんでもやめない、やめさせない「今年も行こう、今年は行こう、がん検診」会社が始めるがん対策”をキャッチフレーズに、がんになっても働ける社会を目指して活動しています。

がん対策推進企業アクションは2009年にスタートし、今年で11年目を迎えました。推進パートナー数は、今年の7月に3000社を突破し大企業から中小企業まで業種を問わず全国からご参加いただいています。参加企業の従業員数は約760万人を超え、日本の総就労人口の11.3%になります。今後のさらなる事業発展で、未来の日本のがん対策の重要な一翼を担っていきたいと思っています。

日本で1年間にがんになる人は約101万人、その1/3が働く世代であり、64歳までに何らかのがんに罹患する確率は男女ともに15%。会社員の死因の約半数ががんとなっています。

今後、企業が取り組むべきがんアクションには3つあります。

健康診断にがん検診を加えたり、検診の効果を啓発したりして受診率の向上を目指す「がん検診の受診を啓発すること」。有効な検診を実施することや精密検査の受診フォローも大切です。

がんは早期発見が重要だということ、がんになっても治療しながら働き続けられること、高額療養費制度で治療費の負担が抑えられること、禁煙などの正しい生活習慣でがんになるリスクを減らせることなどの「がんについて会社全体で正しく知ること」。

治療のサポート体制づくりや柔軟な休暇制度などの「がんになっても働き続けられる環境をつくること」です。

これらを実践することにより、がんによる人材の流出が抑えられ、社員が安心して働き続けられる環境が作れます。

本事業は、このようなことへの対応策を模索し、がんから従業員を守る、国民を守るという壮大な国家プロジェクトに進化させようとしています。

本年度の取り組みとしては、「がん検診のススメ」小冊子の配布、中央・地方でのセミナーの開催、最新情報の発信、専門医やがん経験者による出張講座の開催、大企業・中小企業向けのコンソーシアム活動、経営団体や自治体等との連携・推進を行います。

また、がん経験者で自身の体験を啓発活動に役立てていただける10名の「がん経験者認定講師」を昨年度採用しました。ブロックセミナー、メディアセミナー、出張講座、市民公開講座などですでに活躍されています。

ポスターやパンフレットなどの啓発ツールは、パートナー企業・団体に加え、47都道府県への配布を行いました。全国の自治体に行き渡り、活用されることを期待しております。

がん対策推進企業アクション事務局長 大石健司氏

▲がん対策推進企業アクション事務局長 大石健司氏

【講演①】

「自分のカラダをがんから守るために」

中川恵一氏(東京大学医学部附属病院 放射線科 准教授/がん対策推進企業アクション アドバイザリーボード議長)

現在、サラリーマンの死因の半分ががんで、在職中の自殺を除く病気死亡の9割ががんといわれています。

日本人全体で見ると、男性の方ががん患者は多いのですが、働く世代に絞ると女性社員の方が多くなります。若い時は乳がんや子宮頸がんなど、女性の方ががんになりやすいからです。男性の方が女性よりもがん患者が多いのは、喫煙や飲酒などの生活習慣が悪いからです。

今後は女性の社会進出による働く女性のがんの増加に加え、定年延長による従業員の平均年齢のアップに伴うがん患者が増えていきますので、企業におけるがん対策は非常に重要になってきます

現在の日本の累積がん罹患リスク、つまり一生でがんになる確率は、2014年のデータで男性が62%、女性が47%です。2019年にはおそらく男性は3人に2人、女性は2人に1人ががんになるのではと予想されます。

私自身もがんになりました。男性の3人に2人ががんになるわけですから、私がなっても不思議ではないのですが、自分ががんになるとは全く予想もしていませんでした。

私はお酒好きが原因で、肝臓にまだら脂肪肝を持っています。昨年12月9日、当直の日に自分で肝臓の超音波検査をし、膀胱も検査したところ、偶然にも膀胱がんを発見しました。

その後12月27日に入院をして翌28日に経尿道的内視鏡切除の手術、12月31日に退院し、1月4日からは通常勤務に戻れました。ほとんどの早期がんであれば、仕事にも暮らしにも大きな影響は与えません。両立支援にもいろいろありますが、まずは早期に発見して治療することが、最も重要なことではないでしょうか。

がんになってわかったことがあります。それは、「がんは症状を出しにくい病気」「自分はがんにならないと思うもの」ということ。いくら体調が絶好調でも検診は受けなければなりません。

私の場合は、特殊な環境であったため自分でがんを発見した訳ですが、普通の人でも見つけられるがんもあります。例えば、乳がんは発見契機の5割以上が自己触診です。会場の女性の皆さんは、自己触診をしていますか?(3名が挙手) このようなセミナーに来られている、意識の高い方々で3名しか自己触診をしていない。これがパリやニューヨークであれば、皆が手を挙げます。

自己触診で乳がんを見つけなくても、毎月触っていれば自分で変化に気付けます。また、リンパ腺は首と脇の下と足の付け根しかありませんから、これもたまに自分で触って変化がないか確かめるといいと思います。

触り心地のポイントは、がんは固いということです。がんは、細胞分裂のスピードが早いので、密度が高く固くなります。とにかく固いものがないかを気にしておくべきです。

がん家系という言葉がありますが、実は遺伝が原因のがんは5%しかありません。がんの原因は男性の場合は、6割近くが生活習慣、そのうちの半分が喫煙で、タバコはがんの原因のダントツで1位です。残りの原因は何かというと、残念ながら「運」ということになります。がんとは、運の要素のある病気で、特に女性のがんにおいては、運が最大の要因となります。

がんは遺伝子の経年劣化であり、遺伝子も時間が経てば痛みます。そのたまたま傷んだ遺伝子が、がんに関連する遺伝子だった場合にがんになります。これは運です。

この運の要素に対応するのががん検診による早期発見です。早期発見すれば、早期治療が行われ、早期発見・早期治療ができれば早期がんの95%が治癒します。つまり、生活週間+早期発見が重要です。

がんと診断されると、1年以内の自殺率が20倍になるデータがあります。それは、がんが不治の病というイメージがあるからではないでしょうか。

がんになる前にがんのことを知っておくことが必要です。

現在先進国の中で、がんによる死亡が増え続けているのは日本しかありません。10万人あたりがんの死亡数は、アメリカに対して2倍です。

これは日本人のヘルスリテラシーが低いことが要因の1つとなっています。国別のヘルスリテラシーの平均点調査では、調査国の中で、インドネシアやベトナムよりも低く、ダントツの最下位です。

日本はがんに対するすべてが遅れています。その最たるものが受動喫煙対策です。WHOの視察では日本の受動喫煙対策は、前世紀並に遅れているとされました。その他にもHPVワクチン接種率、がん検診受診率、放射線治療利用率、緩和ケアなど、がんに関するすべてのことが遅れています。

学校ではがん教育が始まりましたので、今の子供たちはがんのことを学んで大人になります。問題はがんのことを知らない大人たちです。がんは、わずかな知識の差が運命を分ける病気です。がんに直面する大人たちに対して、一種の強制力を持つ企業が大人のがん教育を行うことが必要です。

特に企業の経営者が、がんについて知る必要があります。本事業が行ったアンケートでは、経営者のがんに対するリテラシーが高いほど、がん検診受診率も高く、就労支援も高いことがわかっています。

多くのがんは放射線治療で治すことができます。日本ではがん治療は“切る”ことと思われており、多くの人は放射線治療は、がんを抑え込むもの、進行を遅らせるものと思っていますが、実際は手術と同じようにがんを消すことができます。

放射線治療は、切らないので体にやさしい治療といえます。また、放射線治療の99%は保険がきくので治療費が安く、通院で行えるので体への負担が少ない治療でもあります。治療と就労の両立支援としても有効ながんの治療方法として放射線治療があるということも知っておくといいでしょう。

がんのことを正しく知り、がんによる不幸を減らしていただきたいと思います。

がん対策推進企業アクション アドバイザリーボード議長 中川恵一先生

▲がん対策推進企業アクション アドバイザリーボード議長 中川恵一先生

【講演②】

「9ヶ月間休職していたがん罹患社員でも活躍できる企業風土とは」
~「健康経営優良法人 ホワイト500」認定企業でのリアルな働き方~

ティーペック株式会社 花木裕介氏(がん対策推進企業アクション認定講師/がん経験者)

私の勤める会社は、健康、セカンドオピニオン、メンタルヘルスなどの電話相談などを行う医療関連企業です。

2017年の12月に中咽頭がんの告知を受けて、抗がん剤と放射線治療を行い、2018年の9月から仕事に復帰し、復職から1年ほど経っています。現在は働きながら、がん体験を活かしたブログ活動や本の執筆なども行なっています。

私が体の異変を感じたのは、2017年の10月38歳の時。ふとした時に頬杖をついたところ、首のリンパの腫れに気づきました。最初は風邪かな、と思いましたが精密検査を受けたところ、がんと診断されました。しかも、転移まであると。

今後の自分のキャリアのこと、子供のこと、お金のこと、いろいろなことが頭をよぎり、これからの人生がどうなってしまうんだろうと、真っ暗な気持ちになり、途方に暮れました。

幸い私の会社は医療関連で、さまざまな治療と仕事の両立支援のサービスがありました。治療休暇、傷病手当や高額医療費制度等の申請方法支援、メンタルヘルスカウンセリング、セカンドオピニオンの手配などです。セカンドオピニオンの先生には、治療方法決定における力強い後ろ盾と、治療に立ち向かう勇気をいただけました。

治療は抗がん剤と放射線でしたが、抗がん剤の副作用で食欲不振と嘔吐、脱毛、口内炎などを経験しました。その後、約2カ月35回にわたる放射線治療では、味覚障害が起こるとともに、喉のただれによる胃ろうも体験しました。

辛い治療期間でしたが、会社のメンバーからの温かい支援で耐えることができました。会社の制度面での支援も大切ですが、こういった仲間からの励ましが大きなモチベーションとなりました。

会社への復帰の際は、喜びの反面、再発への恐怖も感じていました。当時会社では、集団禁煙プログラムが行われており、従業員の喫煙率は0%。受動喫煙や3次喫煙の心配がないということが、心理的にずいぶん楽でした。

また、肉体的負担の少ない部署への異動や残業の抑制、メンタルヘルスカウンセリングによる心理的サポートなど、会社のさまざまなサポートがスムーズな復職を助けてくれ、大変理解のある会社でよかったと感じています。

健康面は回復傾向にあります。しかし、現在もっとも不安なのは金銭面、特に2人の子供の教育費です。習い事をさせてあげられるだろうか、行きたい学校に行かせられるだろうかなど。外食や旅行を控えるなどして、節制をしています。

こうした不安を抱かないためにも、特に働き盛りの方々にはがんになって欲しくありませんし、後悔してほしくありません。1人でも多くの方ががん検診を受診し、早期発見に努めるとともに、がんにならない生活習慣をこころがけ、病気を防いでほしいと思います。

認定講師 花木裕介氏

▲認定講師 花木裕介氏

【講演③】

「職場のタバコ対策を通じたがん予防」

佐藤広和氏(JR札幌病院 保健管理部 部長)

私はJR北海道で産業医をしています。

平成28年の国民生活基礎調査では、男女併せた成人喫煙率1位は北海道、政令指定都市別データでは札幌市が1位となっています。非常に由々しき問題です。

タバコ対策は、がん対策の1次予防です。日本で1年間にタバコが原因で亡くなる方は12万9000人と推定されており、そのうちの6割ががんによる死亡と言われています。受動喫煙による死亡者も1万5000人と推定されています。交通事故で亡くなる方は年間3500人ほどで、それと比べても大変に大きな数字です。

全がんにおけるタバコが原因として占める割合は、38.6%。中でも口腔・咽頭がんは52%、食道がんは60.8%、喉頭がんは73.4%、肺がんは69.2%と高い割合を示しています。ほぼ全身のがんがタバコと関係しています。

受動喫煙における疾病リスクも肺がんは1.28倍、虚血性心疾患は1.27倍、脳卒中は1.25倍になることが、はっきりとわかっています。

タバコの煙に含まれる発がん物質は79種類。2003年には健康増進法により、受動喫煙の防止が定められました。2018年には健康増進法が改正され、学校や病院などでも敷地内禁煙、飲食店やホテルなどでの屋内禁煙などが決められました。

喫煙率は年々下がり、平成30年で男性27.8%、女性8.7%、全体で17.9%となっています。第3期のがん対策基本計画では、2022年までに成人喫煙率を12%まで下げることを目標としています。

JRにおける列車禁煙の取り組みについては、タバコ規制に関するWHO枠組み条約が発効した翌年の2006年3月にJR北海道が、2007年3月にJR東日本が、2009年3月にJR九州、6月にJR西日本、JR東海といった具合になっています。(一部の寝台車・新幹線を除く)

JR札幌病院も2006年1月1日より、敷地内禁煙化を行っています。また、小学校での禁煙教育も年間15回ほど行なっています。

職場における喫煙対策では、事業者による基本方針や推進計画の策定、安全衛生委員会が中心となった禁煙に対する社員の合意形成、健康診断や人間ドック、健康教育を利用した禁煙の啓蒙などが重要です。特にトップダウンによる対策の推進は非常に効果があると思います。

2020年の4月より、改正健康増進法が施行されます。JR北海道本社でも2019年の10月1日より敷地内禁煙を実行しました。また、より禁煙の流れを進めていくために、禁煙促進のための講演会・研修会の実施、ポスターの掲示、パンフレット配布などの啓蒙活動。禁煙外来の周知、禁煙相談窓口の設置、健康診断時の禁煙指導など、個人向けのサポートもしていく予定です。

がんの原因として、タバコ対策は必須の課題です。改正健康増進法の趣旨をよく理解し、タバコの害から社員を守るためにも職場の屋内禁煙化を進めるとともに禁煙サポートを通じて、健康な職場生活が送れるようにサポートを続けて行きたいと思います。

佐藤広和先生

▲佐藤広和先生

【パネルディスカッション】

登壇者
中川恵一氏
花木裕介氏
佐藤広和氏
宮本昭持氏(株式会社オープンソース代表取締役)

中川氏
がん対策推進企業アクションのパートナー企業は、従業員数100名以下の企業が半数近くです。やはり、中小企業でのがん対策を今後どうしていくかが大きな課題です。
本日は、株式会社オープンソースの宮本社長にお越しいただいていますので、具体的ながん対策の実践状況をお伺いしたいと思います。

宮本氏
私どもは従業員が40名ほどのIT関連企業で、自社勤務者は7名ほど、その他はお客様の企業で勤務しています。社員のほとんどが直接顔を合わせることがありません。社員すべてが転職者や定年退職者で平均年齢は高く45歳で、健康経営を目指しています。
がん対策の取り組みは、去年の7月に札幌市からの案内で健康経営セミナーを受講し、札幌商工会議所から健康経営の取り組みを推奨されたことがきっかけとなりました。同8月には健康経営宣言をしました。日本健康会議、日本商工会議所、厚生労働大臣、経済産業大臣からのメッセージをいただいたことも大きな要因です。
健康診断と同時にがん検診を受けることでのがん検診受診率の向上、Eメールでのがん教育、社員やその家族、友人、取引先を対象としたスポーツ大会なども行なっています。また、タバコ対策については、敷地内禁煙を実施しています。

中川氏
Eメールでのがん教育の発信とは、具体的にどのようなことですか?

宮本氏
禁煙や運動、食事といった情報です。

中川氏
平均年齢は45歳ということですが、定年は何歳をお考えですか。

宮本氏
70歳を考えています。

中川氏
現在、日本の総就労人口に占める65歳以上の割合は13%で、アメリカ5.1%、イギリス3.2%、ドイツ1.9%などと比べても世界でもダントツの1位です。なぜ、日本はこんなに長く働くのでしょうか。
洋の東西を問わず、社会が成熟すると少子化になり、放っておけば経済成長も社会保障制度の維持も難しくなります。しかし、欧米などではその少子化を移民で補っています。日本は高齢化が進み、少子化も進んでいます。働き手として移民を入れない限り、歳をとっても働かなければならないのは当たり前です。
そして、高齢者の働き手が増えるということは、従業員のがんが増えるということなのです。
花木さんががんになられたのはおいくつの時で、その時お子さんは何歳でしたか?

花木氏
38歳で、子供は7歳と4歳です。

中川氏
今、実は子育て世代のがん患者が増えています。その理由はなんだと思いますか?

花木氏
晩婚化でしょうか。

中川氏
正解です。晩婚化、晩産化が原因です。つまり、昔よりも子供を持つ年齢が上がってきたことにより、がんのリスクも高まっています。そして子育て世代はお金がかかり、稼がなければならない時期です。
会社員のがんが増えるわけは、女性の社会進出が増え、かつて専業主婦として家庭を支えていた人たちが会社員となり、女性特有の若い頃になる子宮頸がんや乳がんになることに加え、定年の延長により、かつては引退して年金暮らしをしていた人が現役会社員としてがんになるからです。つまり、かつては働いていない人のがん問題が、今では働き手として社会や家庭の経済を支えている人のがん問題に変わってきているということです。
がんの治療と就労の両立が大きな問題となっていますが、JR北海道では、どのような就労支援をなさっていますか?

佐藤氏
特別な就労支援というよりも以前からある制度の枠組みの中で就労支援を行なっています。肺がん、胃がん、大腸がんなどの患者さんがいます。

中川氏
JR北海道さんなどの大きな会社であれば、しっかりと検診を行なっていると思いますし、検診を行えばがんを早期で発見することができ、早期であれば治療も短期間ですみ、就労支援も必然的に少なくてすむということになるでしょう。もちろん、進行がんの患者さんにとっては、治療と就労の両立支援は大きなテーマです。
実は私の実家はガテン系の40名ほどの従業員を抱える自営業でした。当時の従業員は、たばこを吸い、酒を飲み、自分の体のこと、健康のことを考えるなんて男としてカッコ悪いみたいなムードがあったことを覚えています。宮本社長はどうでしたか?

宮本氏
私も若い頃には、そういう感じがありました。しかし、今はそうではありません。歳を取ると自分の体を自分でメンテナンスしないとなりません。
私の会社は、他の会社を定年退職した方にも働いてもらっています。大きな会社にいると、なかなか自分のやりたい仕事はできないものです。しかし、リタイヤしたあとは自分のしたい仕事で活躍してもらう。フルタイムではなく、週3日など、自分のサイクルで働いてもらっています。

中川氏
おそらく昔の日本では、男が自分の体のことを気にするなんてカッコ悪いという雰囲気があったと思います。しかし、これからの日本人は長く働かなければならず、体のメンテナンスは非常に重要です。
一方、働く世代は自分の体のこと、がんを始めとする病気のこと、健康のことを習ってこなかった世代でもあります。学校で習わなかったことを、企業が教えていくことが重要です。
また、高額医療費支給制度や傷病手当金などは、黙っていても適用されず、申請が必要ですので、このようなことも知っておくことが必要でしょう。
さて、JR北海道はいち早く車両の禁煙を決めたわけですが、それはどうしてできたのでしょうか?

佐藤氏
当時の社長が禁煙にしたいと、それで決まった経緯があります。今回の敷地内禁煙も制度の後押しはありましたが、社長の決断です。やはり、トップダウンの指示は大きいと思います。

中川氏
先ほどの講演でも申し上げたように、経営者のリテラシーが高いほど会社のがん対策が進むことがわかっています。中小企業ではなおさら、社長を巻き込むことがスピード感のあるがん対策を進める上で重要です。
2016年12月の改正がん対策基本法では、「事業主は、がん患者の雇用の継続等に配慮するよう努めるとともに、国及び地方公共団体が講ずるがん対策に協力するよう努めるものとする」と、事業主の責務が新設されました。また、がん患者の雇用の継続等も新設されています。法律で会社ががん対策をしなければならないのですが、知っている人が少ないのが現状ですので、ぜひ経営者側にも皆さんが率先して伝えて欲しいと思います。

パネルディスカッションの様子

▲パネルディスカッションの様子

【質疑応答】

質問者A
私は毎年会社の人間ドックを受診していて、なんの問題もありませんでしたが、腎臓がんに罹患しました。がんの対策として会社のやっている人間ドックの項目は果たして正しいのでしょうか。

中川氏
腎臓がんはどうやって見つかったのですか?
質問者A
たまたま、高熱が出て盲腸の検査でCTを取った時に見つかりました。

中川氏
難しい問題です。住民検診の項目は、胃がん、肺がん、大腸がん、乳がん、子宮頸がんです。住民検診には税金が導入されているのでしっかりとした根拠があります。しかし住民検診の中には、すい臓がんや腎臓がんの検診は含まれていません。なぜなら、すい臓がんはとても進行が早く、1年毎の検診では遅すぎることや見つけるのが非常に難しいことが挙げられ、じゃあ3カ月に一度すい臓がん検診をするのかというと、ほとんどの人にはすい臓がんはなく、そんなことをすれば膨大な無駄が発生します。
人間ドックを含め、がん検診が全てを網羅しているかというとそうではなく、合理的な範囲でできるだけ不幸になるリスクを下げるためのものです。
検診の項目を増やせばいいというものでもありません。
典型的な例が韓国の甲状腺がんです。韓国では甲状腺がんの検診をやることで、甲状腺がんの患者が20年間で15倍に急激に増えています。女性のがんの第1位です。しかし、甲状腺がんで亡くなる人の数は一向に減っていません。なぜなら、甲状腺がんで死亡する人はもともと少ないからです。しかし、一旦甲状腺がんがみつかると手術で甲状腺を切ります。すると一生甲状腺ホルモンを飲み続けなければなりません。これは、はっきり言ってマイナスの効果しかありません。
このように、がん検診は目を細かくして全部を網羅した方がいいというものではありません。がん検診は何でもかんでも早期発見すればいいものではなく、受けた方の人生の不幸を減らすためのものです。色々ながん検査がありますが、がんを見つけることが全て善ではないということも知っておくことも重要です。

質問者B
産業保健師をやっております。花木さんにお伺いしたいのですが、ハード面だけでなくソフト面が重要だというお話ですが、メンタルサポートとして、どうすればより相談しやすい雰囲気を作ることができるでしょうか。

花木氏
私の場合は、医療関連企業であったという特殊性があると思いますが、カウンセリングを受けたくない理由によく聞くのは、カウンセリングを受けることで自分のメンタルが弱いと思われたくないということです。
いざとなった時にカウンセリングを受けやすくするためには、何でもない時にもカウンセリングをトライアル的に経験し、カウンセリングが特別なものではないこと、そしてカウンセリングを受けやすい環境を作ることが必要なのではないでしょうか。

中川氏
私も産業医もしていますが、実はがん患者の両立支援に一番最初に必要なものは、患者自身の両立支援をして欲しいという意向です。これがないと、何も動けないのです。がん患者が両立支援をして欲しいと発することは、要するに自分の病気をカミングアウトするということです。そのカミングアウトしやすい雰囲気や環境をいかに整えるかが大切だと思います。
両立支援は会社の態度や姿勢が試されているのではないでしょうか。
質問者C
治療研修をしているものです。経営者のリテラシーが大切だということですが、なかなか経営者を含めて健康に対する意識が低いのが現状だと思います。どうすれば、経営者のリテラシーを上げることができるでしょうか。

佐藤氏
JR北海道でも3年ほど前から健康経営を掲げていますが、そのきっかけは同業他社、つまり本州のJRが健康経営を始めたということがきっかけです。あそこができるなら、うちもできるだろうというということが大きいです。
健康経営はいろんな企業が取り組んでいると思いますので、経営者の方にもそんな情報を伝えるのがいいのではないでしょうか。

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