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イベントレポート

2019/03/05
平成30年度統括セミナーを開催しました。

がん対策推進企業アクションの平成30年度の統括セミナーが、東京都文京区の東京大学にある鉄門記念講堂にて3月5日(火)に開催されました。140名ほどの参加者と、20名ほどの取材メディアにご来場いただきました。

講演の様子

セミナーは、がん対策推進企業アクション事務局の大石健司事務局長の開会の挨拶で始まり、厚生労働大臣政務官の新谷正義氏の挨拶、そして「がん対策推進企業表彰」受賞企業の発表では、 “がん対策推進パートナー賞”として「検診部門」「治療と仕事の両立部門」「情報提供部門」の 3部門から各1社、そして“厚生労働大臣賞”1社の合計4社が選ばれ、表彰されました。

その後、厚生労働省健康局がん・疾病対策課 課長の佐々木 昌弘氏、がん対策推進企業アクションアドバイザリーボード議長である東京大学医学部附属病院 放射線治療部門長の中川恵一准教授の講演の後、表彰企業4社によるがん対策への取り組み事例が発表されました。

セミナーの後半には、同事業と連携して自発的にがん対策に取り組む企業の 有志活動「企業コンソーシアム」の報告、そして中川氏、日本経済団体連合会 労働安全衛生部会委員、表彰企業各社代表、企業コンソーシアム代表、がんサバイバーによる「企業におけるがん検診と就労支援の取り組み」についてのパネルディスカッションが行われ、大変な盛り上がりを見せました。

「開会の挨拶」
(がん対策推進企業アクション事務局 事務局長 大石健司)

2010年にスタートしたがん対策推進企業アクションは、職域でのがん検診受診率の50%以上への向上、がんになっても働き続けられる社会の実現を目指して様々な活動を行う国家プロジェクトであり、厚生労働省の委託事業です。

2019年2月28日現在の推進パートナー企業・団体数は2869、約734万人の方々に参加していただいています。

講演の様子

現在、がん対策を取り巻く新たな動きが3つあります。

まず1つ目は、小・中・高等学校でのがん教育がスタートしていることです。平成28年度より学習指導要領にもがん教育の実施が明記され、自治体の取り組みも活発化しています。

2つ目は「職域におけるがん検診に関するマニュアル (https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000200734.html) 」が策定されたことです。このマニュアルにより、職場で科学的根拠のあるがん検診が受けられるよう環境整備が進んでいます。

3つ目は「大人へのがん教育」を職場で提供することが求められていることです。子供だけでなく、大人もがんについての正しい知識を得ることが、企業の成長にとって大きなメリットをもたらしてくれます。

がん対策推進企業アクションでは「推進パートナー企業・団体数の拡大」「がん対策を啓発するコンテンツ制作と情報発信の推進」「がん検診受診の現状把握と課題の整理」を継続しつつ、本年度は新たに「がん経験者認定講師の採用」「企業への出張講座の拡充」「企業コンソーシアム活動の立ち上げ」などの新しい取り組みも行ってきました。

まだ推進パートナーにご登録していただいていない企業・団体様には、ぜひご登録をお願いします。

「主催者挨拶」
(厚生労働省大臣政務官 新谷正義氏)

がん検診につきましては、昨年3月に閣議決定しました「第3期がん対策推進基本計画」に基づいて“がん検診受診率50%以上”を目標に掲げています。

企業等におけるがん検診受診率向上、がん患者・経験者の就労支援対策に大きな役割を果たすがん対策推進企業アクションは、計画の目標達成のための重要なポジションです。

本日は、推進パートナーの中から、特に熱心にがん対策に取り組まれている企業を表彰させていただき、表彰各社からはがん対策への取り組み内容をご紹介いただきます。ぜひみなさまの今後の取り組みの参考として、お役立てくだされば幸いです。

講演の様子

平成30年度 がん対策推進企業表彰

がん対策推進パートナー賞 検診部門
企業・団体名 受賞理由
研冷工業株式会社
講演の様子
社長自らが新聞等で入手したがんに関する情報を朝礼で発信するなど、社員への周知や意識向上に努め、35歳以上の対象者の胃がん、肺がん、大腸がんのがん検診受診率100%を達成していることが評価されました。(代表取締役 酒井巳喜雄氏/プレゼンター:中川恵一氏)
がん対策推進パートナー賞 治療と仕事の両立部門
企業・団体名 受賞理由
株式会社ローソン
講演の様子
専門スタッフが常駐する「ローソングループ健康推進センター」を新設し、相談窓口など支援体制の整備を進めるほか、個別事情によっては在宅ワークを認めるなど、就労の意志を尊重する柔軟な対応をとっていることなどが評価されました。(人事本部人事企画 マネジャー 田村朋子氏/プレゼンター:中川恵一氏)
がん対策推進パートナー賞 情報提供部門
企業・団体名 受賞理由
株式会社ポーラ
講演の様子
2018年より「がん共生プログラム」をスタートさせ、情報冊子を従業員のみならずビジネスパートナー版も作成しているほか、独自のセミナー開催や健康情報を発信するポータルサイトの導入など、様々な手法で情報提供を行っていることが評価されました。(取締役執行役員 人事・経営企画・情報システム担当 髙谷誠一氏/プレゼンター:中川恵一氏)
厚生労働大臣賞
企業・団体名 受賞理由
ヤフー株式会社
講演の様子
がん検診の受診率向上のための全社員を対象にしたeラーニングの実施など、社員の意識の向上に資する取組を行っているほか、社内独自の「治療と就労の両立支援プログラム」の策定や、社員のみならず家族も含めた情報提供を行っていることなどが総合的に評価されました。(執行役員 コーポレートグループピープル・デベロップメント統括本部長 湯川高康氏/プレゼンター:新谷正義氏)

受賞者コメント
(ヤフー株式会社 執行役員 コーポレートグループピープル・デベロップメント統括本部長 湯川高康氏)

この度は、名誉ある賞をいただき誠にありがとうございます。

今、弊社では働き改革への取り組みを数年前から行っており、その中でも特に「社員の健康」に課題を感じています。そういった中で、健康を社員任せにするのではなく、企業としてどう取り組めるのかということを念頭に置いています。特にがんについては、罹患された人の気持ちの尊重、そして罹患した後も安心・安全で働ける環境を提供することが企業としての責務だと感じています。

今後も従業員への正しい知識や治療の啓発を行うとともに、インターネットメディアのヤフーとしても、がんに対する正しい情報や啓蒙を一般社会へ向けて発信・貢献できればと考えています。

講演の様子

「我が国におけるがん対策について〜第3期がん対策推進基本計画〜」
(厚生労働省 健康局 がん・疾病対策課 課長 佐々木昌弘氏)

現在、厚生労働省では「第3期がん対策推進基本計画」という6カ年計画がスタートしています。この計画は閣議決定されたものであり、日本国政府としての指針でもあります。

第1期・第2期の計画では「がん医療の充実」をメインに、全国どこに住んでいても等しく標準的な専門治療を受けられる、がん医療の均てん化が進められ、医療技術などの格差是正が図られてきました。第3期計画の特徴は、医療とともに「がんとの共生」や「がん予防」を並列に位置付け、さらにそれらを支える基盤づくりを行うという立体的構造になっていることです。

講演の様子

がん対策に関する、ここ1年間の大きな動き流れをご説明したいと思います。

がん予防に関しては、大きな動きが3つありました。

1つ目はがんにならないための予防、つまり一次予防の部分での、喫煙や受動喫煙の対策です。昨年の7月に健康増進法が改正され、罰則付きの受動喫煙対策が法律として成立しました。

2つ目は昨年の12月に、脳卒中や心臓病などの血管系の病気に対する法律に“禁煙”という言葉が、わが国で初めて盛り込まれて成立しました。それが「健康寿命の延伸等を図るための脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法」です。

3つ目はがん検診。昨年3月にこれまた我が国で初めて「職域におけるがん検診に関するマニュアル」が策定されました。これにより、職場でのがん検診が多角的に行えるようになりました。

「がん医療」については、遺伝子情報に基づいてがんの治療を行う「がんゲノム医療」が注目されました。昨年の4月から全国11カ所の中核拠点病院を整備し、全国135の連携病院を患者さんの窓口としてがんゲノムの検査を行い、最適な治療を行うという取り組みがスタートしました。

希少がんの対策も進められました。国立がん研究センターを中心に日本病理学会と提携して、希少がんにおいても日本中どこに住んでいても適切な医療が受けられる仕組みが今年度スタートしました。

さらに、AYA世代(Adolescent and Young Adult)におけるがんについても対策が講じられています。日本では大体15歳〜30代が概念的に当てはまると思いますが、小児がんと大人のがんの狭間のがんに対する対策です。治療はもちろん、学校との両立、就職への対応など、支援が進められています。

最後に、がん対策推進企業アクションでもメインテーマの1つである「がんとの共生」においては、特にがん患者の就労支援・社会課題の対策が進められています。就労支援を支えるための一環として、昨年6月に「働き方改革関連法」が成立しました。その中で治療と仕事の両立の基本指針を国が定めることと法律に明記されました。

今後は厚生労働省が中心となって指針作りをしていく予定ですが、ここには企業のみなさんの協力が必要です。試行錯誤しながらではありますが、よりよい相談支援・情報提供の質の向上、ライフステージに応じたがん対策を進めていきたいと思います。

「両立支援におけるがん早期発見の意義~自身のがん経験を踏まえて~」
(東京大学医学部附属病院 放射線治療部門長/がん対策推進企業アクション アドバイザリーボード議長 中川恵一氏)

現在、全国の小・中・高等学校ではがん教育が始まっています。日本のがん教育は今まで遅れてきましたが、今ではおそらく世界最高と言ってもよいと思います。

実は、先進国の中でがんによる死亡者数が増えているのは日本だけです。その状況をがん教育が大きく変えていってくれることを切に願います。

私は34年間、臨床医としてがん患者を診てきました。しかし病院で患者を待っているだけでは、がんの不幸を減らすことはできません。がんにならないのが一番ですが、もしなったとしてもできるだけ楽に、経済的にも負担を少なく治療していくことが必要です。

そのために重要なのは、がんを知っていただくということです。最も効果的なのは、学校での教育です。今後は学校でのがん教育は行われていくわけですが、学校を卒業してしまった人たち、つまり「大人のがん教育」が大きな課題です。そして、がん対策推進企業アクションの大きなミッションの1つが大人のためのがん教育でもあります。

講演の様子

実は、私もがんになりました。

お酒が原因なのですが、私はまだら脂肪肝を持っていまして、自分で超音波検査を行っていたところ、偶然にも膀胱に腫瘍を見つけました。翌日内視鏡検査を受け、膀胱がんがわかりました。

私は、自分ががんなったことがショックでした。毎日がん患者と向かい合い、がんに対する講演を行っている私でも、まさか自分ががんになるとは、と思ってしまいました。膀胱がんは10万人に1人の確率であり、男性の膀胱がんのリスク要因は喫煙が50%ですが、私は喫煙しません。血尿などの症状もありませんでした。がんとは、症状を出しづらい病気であり、まさに運の要素もあるという実例でもあります。

がんという病気は、禁煙や生活習慣などである程度自分でリスクを減らすことのできる病気ですが、運の要素も持ち合わせているということを理解しておかなければなりません。ですから、どんなに健康な生活を送っていても、体に不調がなくてもがん検診を必ず受け、早期発見・早期治療が必要なのです。

私の場合は早期発見だったため、その後内視鏡手術をし、翌日には仕事もある程度できるようになり、今では仕事に完全復帰しています。もしも、発見が遅れていたら膀胱の全摘ということにもなり、仕事や生活に大きな影響を与えていたでしょう。早期発見することは、生活の質が保たれ、仕事への影響が非常に少なくなります。つまりは、早期発見が仕事と治療の両立支援の基本だということです。

また、私ががんになってわかったことは、がんは症状を出しにくい病気であるということ、自分はがんにならないと思うものであることです。

がんにならないと思っている人たちに、いかにしてがん検診を受けてもらうかということを考えなければなりません。

がんについて知っておいて欲しいことは以下の7つです。

・ 早期がんは95%が治る

・ がんは罹患リスクを減らせる病気

・ がんになるのは運の要素もある

・ がんは症状を出しにくい病気

・ 早期発見+早期治療が大事

・ 早期発見≒がん検診

・ 治療法が選べる

がんは早期であれば治るということ。がんになるリスクは禁煙などの生活習慣の見直しで、リスクをある程度コントロールできるということ。ただし、がんには運の要素もあり、ヘビースモーカーで大酒飲みでもがんにならない人もあれば、正しい生活習慣をしていてもがんになる人はいます。がんは症状を出しにくい病気で、よほどの末期になるまで症状はほとんど出ません。ですから生活習慣を整えながら、運悪くがんになってしまったらがん検診で早期に発見し、早期治療を行うのが大事ということ。そして、がんの治療法には手術だけでなく、放射線治療や抗がん剤治療などがあり、自分で選ぶことができるということです。

早期発見という意味では、がん検診はもちろんですが、例えば乳がんではセルフチェックが非常に有効です。あるアンケート調査によりますと、日本人女性のうち日常的に乳がんのセルフチェックを行っている人はたったの7%しかありませんでした。乳がんは自分で触って発見できる唯一のがんと言われており、セルフチェックを行わないのは、ヘルスリテラシーが低いと言わざるを得ません。

このヘルスリテラシーを15カ国で国際比較したデータを見てみると「医者に言われたことを理解するのは難しい」と答えた人が日本人では44%、EUでは15.3%、オランダでは8.9%です。ヘルスリテラリー項目全体の平均点を見ても、日本は調査対象国の中で、インドネシア、ミャンマーやベトナムよりも低く、断トツの最下位となっています。

がんは、特にリテラシーの有無によって大きく運命が変わる病気ですので、このリテラシーの低さは問題です。今後は学校でのがん教育で、リテラシーが上がってくることを期待したいところです。

平成30年度のがん対策推進企業アクションのアンケート調査を報告したいと思います。2018年の11〜12月に推進パートナー2752社・団体に対してweb調査を行ったもので、235社・団体から回答をいただきました。

アンケート調査

アンケートに回答した中小企業は、大企業と同程度の対策を行っていることがわかりました。

会社、経営者の理解、熱意次第で、中小企業でもがん対策は進むということです。

また、過去のアンケートから所属する健康保険組合に関わらず、担当者のがんに対するリテラシー度が高いほど、検診の受診率が高いこと。協会けんぽに所属するより、健康保険組合に所属する企業の方が検診受診率が高いことがわかっています。

事例発表1

厚生労働大臣賞
ヤフー株式会社
(コーポレートグループピープル・デベロップメント統括本部 グッドコンディション推進室 産業医 下方征氏)

弊社は、1996年に設立されたまだまだ若い会社です。従業員数は6618人(2018年12月31日現在)、平均年齢35.3歳。インターネット上の広告事業、イーコマース事業、会員サービス事業を行う会社で、ほとんどの従業員が東京のオフィスで働いています。

弊社の健康への施策は、まず代表取締役から社員に向けて「働く人の心身のコンディションを最高にする」という健康宣言を行っています。ここで“健康”ではなく“コンディション”という言葉を使っているのは、若い社員にも自分ごととして捉えてもらうために、広い意味で理解が得られやすいような配慮からきています。

講演の様子

がんに対する弊社の取り組みは、1次、2次、3次予防からなっています。

1次・2次予防は全社員を対象に行っているもので、1次予防は、がん教育、喫煙対策、生活習慣の改善など、がんにならないためのもの。2次予防は、がんになっても最小限で終わらせるための予防で、がん検診がメイン。3次予防は、がんになられた方へのサポートで、がん治療と仕事の両立支援、自由度の高い働き方、就労環境の調整など、早期社会復帰をしていただく取り組みです。

1次予防では、毎年eラーニングを行っています。がんについて、自分ごととして捉えてもらうために全社員必須です。がんについて理解が深まってよかった、家族のがんで困っていたのでよかったなどの肯定的意見がある一方、全社員がやるのは大変ではないか、との意見もあります。しかし、若い社員に正しくがんを知ってもらうためには、全員が受けることが大切だと考えています。

また、喫煙対策は6年前にプロジェクトチームを発足させており、禁煙セミナーや禁煙治療費全額補助などの様々な施策により、徐々に喫煙率が低下しています。中でも一番効果的だったのは、2年前に本社の喫煙室を20室から4室に減らしたことで、これにより喫煙者の1割程度の方が禁煙されています。2020年度中に喫煙室を0にすることを目標としています。

加えて、社内レストランでも朝・昼・晩の食事提供を通じて、社員の健康を支援しています。

2次予防のがん検診ですが、弊社のがん検診の受診率は比較的高いのですが、女性の乳がん検診、子宮頸がん検診の受診率が、受けづらい、クリニックの空きがないなどの理由でやや低めでした。今年度は本社ビルに検診クリニックがテナントとして入居したので、連携を強化し、マンモグラフィーやエコーを導入していただいたり、水曜日をレディースデーとして女性の受診がしやすくなるような協力をしていただいています。

また、新たに今年度ヤフーグループの健康保険組合が設立されましたので、今までの対策型検診に加え、積極的にがん検診を行っていきたいと考えています。

3次予防に関して、がんに限りませんが、多様な働き方を支援する「どこでもオフィス」という制度を設けています。全社員が利用でき、月に5日間、貸与されているノートパソコンや携帯電話を使って、出社しなくても在宅や旅行先、公園など、連絡さえつけばどこでも仕事ができる環境づくりを進めることで、治療と仕事の両立を支援しています。

また、週4日勤務へと変更できる「えらべる勤務」、1日6時間勤務に短縮できる「短時間勤務」なども用意しており、治療のほか、介護や育児にも柔軟に対応しています。

そのほか、トイレに近い席や空いている席など、自由に働く席を選ぶことができるフリーアドレス制を導入しております。

以上が、社員に対するサポートになりますが、検索サービスを提供している弊社では、ネットを利用する一般の方々へも正しい情報をわかりやすく提供したいと考えております。検索エンジンで表示される検索結果において、学会が出しているガイドラインを広告よりも上段に表示するなど、信頼できる情報を優先して表示することを心がけています。

事例発表2

がん対策推進パートナー賞 検診部門
研冷工業株式会社
(代表取締役 酒井巳喜雄氏)

弊社は、新潟県で空調や給排水の工事や点検・メンテナンスをしており、創業は昭和48年です。

講演の様子

まずはがん対策推進企業アクションに加入したきっかけからお話ししたいと思います。

弊社のOB社員2名が、退職から3年でがんで亡くなりました。1名は肺がんでした。在職当時から咳をしており、「たばこをやめたほうがいいのではないか」と私も伝えましたが、本人から「たばこをやめるくらいなら、がんになったほうがいいよ」と言われました。私ども建設業界では、10時や3時の休憩に仲間同士で「一服する」というのが慣例化しており、その一服が情報交換や親睦の場になるなど、やめられないのはそういった影響もあったかと思います。しかし実際に肺がんで入院して、鼻にチューブを入れ、肩で息をしている様を見て、あの時なんとかしなくてはならなかったのではないだろうか、という後悔が強く今でもあります。

それからは、このような悲しい出来事をなくすためにと、がん対策推進企業アクションに加盟し、がん検診のススメの小冊子を全社員に配布したり、毎朝の社内朝礼で、社長自らが新聞等のがんに関する記事を発信したり、意見交換会や健康講座に参加したりと、さまざまな施策を行ってきました。

社長自らが発信・行動することによって、それまで社員の中でがん検診が「面倒」だったものから「よしやろう!」に変化しました。

このようなことから、がん検診受診率は3年連続対象年齢者の受診率100%を達成できました。社員だけではなく、パートの従業員も正社員と同じ検診を受診でき、好評をいただいています。

今後は、35歳以下の社員へもがん検診を強力に推奨したいと思います。また、一定年齢に達したら人間ドックの受診と補助も行いたいと考えています。

そして、もしもがんになってしまった社員がいたら、その社員を支え、働き続けられる会社の環境や体制づくりをしていきたいと思います。

仕事はもちろん、プライベートも充実し、健康に過ごせることを最優先にしていきます。社員は仲間ですから。

事例発表3

がん対策推進パートナー賞 治療と仕事の両立部門
株式会社ローソン
(人事本部人事企画 マネジャー 田村朋子氏)

弊社はコンビニエンスストアのチェーン展開をしており、社員数は単体で4900人、就労拠点数は400拠点あります。

「私たちは“みんなと暮らすマチ”を幸せにします」という企業理念をもとに、お客様の健康生活全般をサポートしていきたいという思いから、2013年から「マチの健康ステーション」をコーポレートスローガンとして取り組んでいます。

社長自らがCHO(Chief Human Officer)として、そして健康ステーション推進委員会の委員長として、社内およびお客様に向けて健康への取り組みや健康経営を強化・牽引しています。また、グループ社員の良好な健康状態を維持・向上するために専門スタッフの常駐するローソングループ健康推進センターを昨年度、社長直轄組織として設置しました。

講演の様子

健康増進施策の一部をご紹介します。

1、健康診断および再検査の100%受診。2012年度より未受診の場合は、本人と上司の賞与を一部カットするというディスインセンティブ制度を設けながら、受診勧奨・治療促進を進めてきました。現在では100%受診が実現しています。

2、スポーツ大会の開催。毎年全国の7つのエリアでスポーツ大会を開催しており、社長も参加することで社内コミュニケーションの活性化に繋がっています。

3、元気チャレンジ。2016年度よりアプリを使った歩数チャレンジや食事記録チャレンジを実施しています。個人参加だけではなく、チーム参加も取り入れることによって参加人数も増加しており、健康への関心が低い方も楽しんで取り組むことによって、意識向上に繋がっています。

健康診断は、会社と健康保険組合で共同実施をしています。年齢に関係なく、特定検診項目を実施し、大腸がん検診も全員実施しています。人間ドック、がん検診も定期検診と同時に受診が可能です。

検診後のフォローとしては、ローソン独自の数値判定で、リスクが高いと思われる層を3段階に分けて重点管理をしています。

がん治療と仕事の両立支援の事例としては、隔週の抗がん剤治療が必要となった社員に勤務時間内の通院時間を確保しました。また、1年間の治療の後、復職を希望する社員について、退院後は1カ月間自宅療養した後、時短勤務から少しずつ仕事に復帰し、主治医の見解を基に産業医面談をし、約1年かけて通常勤務に戻しました。抗がん剤の副作用で電車通勤が困難な社員に対しては、体調を確認しながらの在宅ワークを認めました。

このように、今までは個別の対応の事例が多かったのですが、2018年4月より勤務地限定制度(フレキシブル正社員制度)を導入し、同年9月より時短勤務制度の適用事由にがん治療を追加しました。

弊社では、2005年度より新卒採用において女性の採用比率目標を50%とし、女性の積極採用を行っており、女性社員を対象に健康セミナーを実施しています。女性がライフワークバランスを考える際には、将来の妊娠・出産・子育てを視野に入れた20代のうちからメンテナンスが必要ですので、乳がん検診や子宮がん検診を定期的に受診するように推奨しています。今後さらに、各種セミナーや研修でより一層の情報提供や教育を行っていきたいと考えています。

これからも、みんなが明るく元気に楽しく、そして働き続けられる会社でいられるように、取り組んでいきたいと思っています。

事例発表4

がん対策推進パートナー賞 情報提供部門
株式会社ポーラ
(CSR・コーポレートチーム マネージャー 齋藤明子氏)

弊社のがん共生プログラムは昨年の4月からスタートしており、まだまだ手探りで進めている段階です。

このプログラムは、弊社の場合は従業員に加え、昔ポーラレディと呼ばれていたビジネスパートナー(今はビューティディレクター)たちのがんと就労の両立、そして健康について考えていきたいということと、トップダウンからスタートしたいわば経営課題であるとの意識から経営企画部で担当しています。

講演の様子

弊社は今年で90周年を迎えます。従業員の約70%、ビジネスパートナーのほとんどが女性という、大変女性の多い会社です。昨年4月、定年再雇用者の年齢制限を撤廃しましたので、長らく活躍する社員やビジネスパートナーが多いのも特徴です。

ある年、社長が地方の拠点を周っていたところ、乳がんで余命1年のビジネスパートナーが治療を乗り越え、病院でがん患者向けのボランティア活動をしていることを知りました。社長は、弊社でもきちんと対応する必要があるのではないか、学ぶことがあるのではないか、と感じ、自らが旗振りをしてスタートした経緯があります。

がんについて学んでいくと、日本人の2人に1人はがんになること、就労世代では女性の方ががんになるリスクが高いことがわかりました。また、女性の方が治療しながら就労するケースが多いことも学びました。

弊社のがん共生プログラムには、3つのテーマがあります。

1、健康診断やがん検診、婦人科検診を含めた「がんに対する理解を深める」。

2、治療期における就労支援や心のケア、不安要素の低減といった「安心してがんと向き合う」環境づくり。

3、がんと向き合った経験そのものを貴重なものと捉え、会社全体が共有し合える風土を作り、社会に広めていく「経験を大切に学ぶ」。

今回の受賞の理由ともなった、1つ目の「がんに対する理解を深める」をご説明します。

まず、昨年スタートして最初に取り掛かったのが従業員とビジネスパートナー向けのプログラムブックの作成です。このプログラムブックには、がんに対する基礎知識、がんになったときの就労のサポート制度、実際にがんに罹患した仲間の体験談などが掲載されており、万が一、自分ががんになったときに、どういう心構えでいればいいのかを発信しました。

さらに、プログラムブックに載り切らないことなどは、イントラネットで発信しています。

その他、ビジネスパートナー向けの表彰大会で、乳がんのセルフチェックのブースを構えるなど、がん検診の啓蒙活動を行ったり、経営層ががんに関するイベントに出席し発言するなどしています。

また、早期発見・早期治療のために、子宮頸部細胞診と子宮経腟超音波は全年齢に補助しており、定期健康診断でワンストップ受診ができます。おかげさまで婦人科検診の受診率は80%を誇っています。今年からは男性の前立腺がん検診も50歳以上に補助しています。

さらに、就労支援の取り組みとして4時間から1時間単位で選べる傷病短時間勤務制度をはじめ、やむなくがんで退職してしまっても退職後2年間以内であれば、産業医の指導のもと待遇を変えずに職場復帰できるカムバック制度、時間単位での有給休暇制度、フレックスタイム制、リモートワークなどにも取り組んでいます。

企業コンソーシアムの報告
(がん対策推進企業アクションアドバイザリーボードメンバー 第一生命保険株式会社 生涯設計教育部 次長 真鍋徹氏)

本年度から、がん対策推進企業アクションの中でスタートした、企業コンソーシアムですが、これは企業による企業のためのがん対策をともに考え、共有・発信する場として、自発的に誕生しました。

講演の様子

10年続いてきたがん対策推進企業アクションには、すでに2800を超える推進パートナーが加盟し、毎年優れたがん対策を行っている企業が表彰されます。そのノウハウやマニュアルを自分の会社や社会貢献に役立てることが、もう少しできないかと活動を開始しました。本年度は、4回のミーティングを行い、業種・企業規模・地域の垣根を越えて「企業におけるがん対策」情報を発信しています。

また、企業におけるがん対策は、即経営によい影響、医療費削減といった具体的なメリットを求められがちですが、コンソーシアムでは知識習得と好事例共有をもとに、何が障害なのか、どうすれば企業としての取り組みメリットが活かせるのかなど、主に課題解決プロセスを検討する場と位置づけています。

現在は78社がコンソーシアムに参加いただいています。

コンソーシアムの発足にあたり、3つの目標を掲げました。

1つ目は、事例共有や知識習得による、参加企業のがん対策推進。つまり、がん検診の受診率の向上やがんと就労支援をどうするかといったこと。

2つ目は、「企業目線のがん対策」について、情報発信による社会への貢献。例えば国がこういう形でやるからとか、こういう制度ができたからということではなく、我々企業が取り組んだことを発信することで社会貢献をするということ。そのために年4回のミーティングを開きました。

3つ目は、参加企業による持続的ネットワークの構築。業種・企業規模・地域を越えた「企業がん対策の輪」をつくること。そして、コンソーシアム参加企業の増加です。

これらは、がん対策推進企業アクションの3つの目標ともリンクしています。

企業コンソーシアムに参加することで得られる企業のメリットは、コンソーシアム企業の人事・採用や働き方改革等労働関係制度の情報・意見交換が可能になること。企業内がん対策に関し、参加メンバーと共に学びたいことや発信したいことを企画・運営することができること。厚労省委託事業の会議体の下部組織のため、行政等のがん対策の最新情報も比較的早期に入手可能なこと。発信力が高く、日本のがん対策に関して企業として社会貢献ができること。企業への出張講座の依頼が可能(容易)であること。ビジネス上でのつながりに発展する可能性もあること等です。

そして、本年度4回行われたミーティングでは、様々なことがわかりました。

まずは「企業におけるがん対策への関心」が高く、人事・労務担当が中心となり、企業のがん対策に関する情報を得る場としての参加が多いことが挙げられます。参加者からは、企業版のマニュアル的な情報を求める声も強く出ました。

次に「がん対策」について、企業ごとに取り組みが大きく異なることがわかりました。がん検診の項目、対象者や補助制度など、同規模でも全く異なること。中小企業においては経営側の姿勢(トップダウン)で対応が分かれること。企業における予算措置に左右される現状があることなどです。

そして、企業側はがん対策を「改善」したいという意欲が高いこともわかりました。自社の取り組みの現状で満足している企業は少なく、他社事例などを参考に自社に活かしたいという意見が多く出ました。

来年度からは、さらに企業規模を分けたり、全国規模の活動に発展させていきたいと考えています。

パネルディスカッション
「企業におけるがん検診と就労支援の取組み」

座長

・東京大学医学部附属病院 放射線治療部門長/がん対策推進企業アクション アドバイザリーボード議長 中川恵一氏

登壇者

・日本経済団体連合会 労働安全衛生部会委員/がん対策推進企業アクションアドバイザリーボードメンバー/キヤノン株式会社 人事本部ヒューマンリレーションズ推進センター 安全衛生部 部長 田原弘巳氏

・がん対策推進企業表彰企業/ヤフー株式会社 コーポレートグループ ピープル・デベロップメント統括本部 グッドコンディション推進室 産業医 下方征氏

・がん対策推進企業表彰企業/研冷工業株式会社 取締役 酒井明美氏

・がん対策推進企業表彰企業/株式会社ローソン 人事本部 人事企画マネジャー 田村朋子氏

・がん対策推進企業表彰企業/株式会社ポーラ 取締役執行役員 人事・経営企画・情報システム担当 髙谷誠一氏

・企業コンソーシアム/第一生命保険株式会社 生涯設計教育部 次長 真鍋徹氏

・がん対策推進企業アクション認定講師(がんサバイバー)/昆広海氏

講演の様子
中川氏 まず、昆さんにご自身の体験を話していただきたいと思います。
昆氏 私は乳がん経験者で、まさに先週抗がん剤の治療が終わり、来週から仕事に復帰する予定です。年齢は30歳。夫と1歳の娘の3人暮らしで、大手の監査法人に勤めています。
経験したがんはステージ2の乳がんで、0歳の娘を保育園に預けて育児休暇から仕事復帰しようとした直前に見つかりました。術前抗がん剤治療を4回しながら仕事を続け、手術したのち休職し、術後抗がん剤治療を4回行いました。
乳がん発見のきっかけは、娘とお風呂に入っていた時に何気なく自分の乳房を触ったことです。消しゴムのような感触のしこりを見つけ、乳腺クリニックを受診したところ、乳がんが発見されました。2人に1人ががんになる時代と言われながら、まだがん検診の受診率は低いままです。そんな中で偶然にも私は、自己触診で乳がんを早期に発見することができた、まれな存在ではないかと思います。
講演の様子
早期発見すると何がいいかというと、治療が短期間で済むということだと思います。私は当初は3カ月の抗がん剤治療のあと手術をし、仕事に復帰する予定でした。しかし、術後に追加の抗がん剤治療が必要となり、治療期間は当初より伸びてしまいましたが、それでも抗がん剤の治療期間は半年ほどで済みましたので、本当に自分で触ってリンパ節転移もない早期に発見できてよかったと感じています。
私の会社では、定期検診に対する補助は何もありませんでしたが、企業で30歳以上の人に補助金を出すなどをすれば、受診率は上がるのではないかと思います。特に家庭を持つ女性は、お金を出してくれるなら行こうかな、と考える人も多いのではないでしょうか。
治療と仕事の両立については、通院治療がメインになると思います。これは個人によって治療内容が違いますし、術後もそれぞれに通院頻度が異なります。私の場合は、これからも3カ月に1度定期的に検診を受けなければなりません。ですから、有給を消化して通院するわけですが、時間単位での有給取得制度などの柔軟な制度が充実していけばいいなと感じます。
私が実際に経験してよかった会社の対応があります。それは抗がん剤の副作用で、ある夜に髪の毛がドッサリと抜けてしまった時のことです。夜なので美容院も開いておらず、もちろん自分でカットする技術もなく困りました。そこで、夜にも関わらず上司に電話して事情を説明したところ、翌日の午前中を休暇にしてもらえたので美容室に行くことができ、午後は在宅勤務にしていただきました。その後、ウィッグを被って出社しましたが、みんなからは似合ってるね、と言われ受け入れてもらえたので、すごく安心した記憶があります。
抗がん剤治療は副作用が強く、最初は治療を終えてすぐに仕事に行けるかなと考えていましたが、とてもそういう状況ではなく、私の場合は抗がん剤治療のあと1週間の休養をとり、その後に通常勤務に戻るということを許可していただきました。がん治療というのは何が起こるかわからないので、その都度その都度会社と話をして対応してもらえると非常に助かります。
休職から復職において、一番不安なことは体調面よりもメンタル面です。復帰したときにできる仕事があるのだろうか、周りから受け入れてもらえるだろうか、という心配が大きいです。その時に一番励みになったのは、復職後もできる仕事があるよ、と言ってくださった上司の言葉でした。
がん治療と仕事の両立は十分に可能です。ただその大前提として、早期発見がとても大切だということをお伝えしたいです。がん検診の受診率の向上に加え、乳がんのセルフチェックも知ってもらい、がんでも働ける社会になってくれればいいなと思います。
中川氏 ありがとうございました。
ディスカッションに移る前に、田原さんに経団連の立場とキヤノンの立場での、がん対策についての話をお伺いしたいと思います。
田原氏 経団連と言いますと、歴史ある大企業のイメージがありますが、最近では産業構造の変化に伴いいろいろな企業が加盟しています。その従業員数や年齢構成、男女比などは様々で、疾病リスクも異なってきますし、各社の就業規則等も異なります。このような前提に立つと、一律に経団連ががん対策の課題や優先事項を決めるというわけにはいきません。これが第一義的な経団連の考え方です。
一方、治療と仕事の両立が叫ばれる中で、医学の進歩、それから就業の多様化に伴い、がんは働きながら治療する病気となりました。事業者としては、より一層働き方改革を進めることによって職場環境も改善していきたいですし、就業ルールも改善していくことが大切です。何よりも働きやすい環境を用意して、より多くの雇用を継続できるようにしていきたいという思いです。
講演の様子
このような考えから、経団連の労働安全衛生部会としては、がん検診や就業支援に関する情報提供やセミナーの開催等により、できる限りの後押しを会員企業にしていく考えです。それを参考にしながら各企業においては、自分たちにふさわしいがん対策を計画したり、実行したりしていただければと思います。
キヤノンにつきましては、80年ほど前から創業者が医者ということもあり、健康第一主義というものを企業理念に定めて健康支援活動を行っています。がん対策についても古くから行っていますが、目新しいところでは健康保険組合が去年の4月から、罹患率の高い5大がんに絞った定期検診をやるようにしました。
また、間接的にはがん対策にもなりますが、3年前から国内外の全40拠点の構内を全面禁煙としました。ポイントとしては、禁煙しなさいではなく、構内では吸ってはいけないということです。結果的に、喫煙率は構内全面禁煙措置前の22%から、去年の数字では17%まで減りました。
中川氏 ありがとうございました。
昆さんに質問があります。がん検診は受けておられたのでしょうか?
昆氏 乳がんの検診は、国で40歳以上からと思いますので受けていませんでした。ただ子宮頸がんなどの20歳から受けられるものは、自治体から送られてくるハガキをもとに住民検診で全て受けていました。
中川氏 それは正しいと思います。基本は対策型検診、住民検診がベースだと思います。税金が投入されて行われるものですから、きちんとしたエビデンスがあるからです。企業が行うものについては、バリエーションがあってしかるべきだと思います。
実際には検診の対象年齢を外れてがんになる事例が、最近では少なくありません。これをどう考えるかは非常に難しいところです。
昆さんは、実際にセルフチェックで乳がんを発見されたわけです。企業の中でもセルフチェックなどを常識化していくことがとても重要だと思います。
そういった意味で、ヤフーさんのeラーニングなどはとても良いことだと思います。
この受講率は100%ですか?
下方氏 対象は100%なんですが、実際に受けているのは79%ぐらいです。しかし、がんを他人事ではなく自分ごととして捉えて欲しいので、もっと受講率を高めていかなければならないと考えています。
実際にがんになった従業員がいましたが、eラーニングの効果かすぐに私どもの方に上司を通じて相談がありまして、着実にその成果は出ていると思います。
中川氏 今がんはほぼ100%告知されます。がんを告知されると皆さん動揺されます。今のヤフーさんの事例では、たぶん上司の方もeラーニングを受けておられて、それで冷静に対応されたのだろうと思います。
酒井さんにお伺いしたいのですが、建設業界の方は喫煙率が高いのではないかと思われますが、禁煙対策はいかがされていますか。
酒井氏 先ほどの弊社の社長の話でもあったように、喫煙がある種のコミュニケーションになっている面もあると思いますが、それでもやはりがんにはなって欲しくありません。たばこをやめてもらえるように言葉がけや、努力をしていますが、やはりたばこをやめないという人は多いです。社長も強い言葉で禁煙を勧奨しています。
講演の様子
中川氏 特に中小企業の場合は、経営側の思いは強く影響します。大企業もしかり。ぜひ本日お越しの皆さんには、経営者にがんのことをお伝えいただくことがとても重要です。
ポーラさんの特徴は女性従業員が多いということですが、働く世代では女性の方が乳がんや子宮頸がんが多いのです。男性のがんは割と純粋な老化現象の1つと言えますが、女性の場合はウイルス感染や女性ホルモンの影響があり、がんの発生理由が違います。そういった中で、社員とビジネスパートナーに対する取り組みの違いやご苦労はありますか?
高谷氏 社員は、普通の企業でいう福利厚生や健康保険の枠で検診の充実が可能です。しかし、弊社のビジネスパートナーは4万5000人いますが、雇用関係はありません。ですからこそ啓蒙活動を一生懸命にやらなければなりません。先ほどお話ししましたプログラムブックにビジネスパートナーのがん経験者の体験談を載せることで、共感・共鳴が自然に広まっています。また、同時にイントラネットなどを活用して、さらに深めていくことが非常に大事だと考えています。
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中川氏 ビジネスパートナーの方の定年年齢を撤廃したと伺いましたが、そうすると仕事をしながらがんになるリスクはもの凄く上がります。男性の場合は、75歳になると3人に1人の方ががんになっています。日本は世界でもっとも高齢者が働く社会です。どの会社でも長く働くことになりましたから、がん対策は重要です。
経団連ではどのようにお考えでしょうか?
田原氏 経団連に限りませんが、現状では労働力の確保をどうしようか、ということが企業の第一の課題となっていると思います。その先にある、がん対策というところには、まだ考えが及んでいないのではないでしょうか。そういった意味では、我々のような部会や人事部門などが、健康支援の施策をどのように計画・推進していくのか、ヘルスリテラシーをどうやって高めていくかが課題であると思います。
中川氏 経営者にとって、やはり経済の問題が重要だと思います。私は富士通健保さんの協力で大腸がん検診の経済的有効性を分析しました。その結果、大腸がん検診を受けた人ががんになった場合の医療費、大腸がん検診を受けなかった人ががんなった場合の医療費を比べた場合、大腸がん検診を受けた人の方が医療費が安いということがわかりました。ですから、検診費を払っても検診を社員に受けてもらった方が、企業としても経済的に得だということです。
ローソンさんは、フランチャイズの問題があると思いますが、そのあたりは社員との違いなどはあるのでしょうか?
田村氏 我々のフランチャイズのオーナー様も雇用関係にはありませんので、一事業主としてむしろ皆さんが雇用されている社員やアルバイトなどの健康対策を進めていただく必要があります。本部としてもサポートはしていきますし、現在オーナー様にも協力いただき、尼崎市や京都市を中心に市が行う検診の検診カーを店舗の駐車場で受け入れて、市民の検診の受診促進に協力していくといった取り組みも進めています。こういったものを利用しながら、加盟店の受診促進に取り組んでいかなければならないと考えています。
中川氏 ポーラさんのビジネスパートナーやローソンさんのフランチャイズ加盟店、あるいは中小企業においては住民検診を上手に活用して、例えば就労時間内に検診が受診できるようにするなどの施策が必要だと思います。
真鍋さんには、企業コンソーシアムを動かしていただいているわけですが、何か追加でおっしゃりたいことはありますか?
真鍋氏 企業コンソーシアムの発足は、実は昨年のこの統括セミナーがきっかけです。各社素晴らしい取り組みをされていて、それを利用しない手はないと。これからの企業は定年延長などでがん対策のニーズが増加します。どの企業もがん対策のノウハウやマニュアルを欲していて、コンソーシアムに参加することにメリットを感じていただいています。ぜひ、コンソーシアムのミーティグだけでなく運営にも参加していただければ、得るものは大きいと思いますので、よろしくお願いします。
中川氏 会場の方からご質問はありますか?
会場 ローソンさんに質問です。検診受診率向上のためにインセンティブではなく、あえてディスインセンティブ制度を取られていますが、その考え方のもととなるものと実際に行ってどう変わったのかをお聞かせください。
田村氏 弊社の健康への取り組みの最初のきっかけは、重要なポジションにあった社員が病に倒れたことです。当時検診受診率100%ができていなかったために起こった、悲しい出来事であります。このことから経営トップの強い意志のもと、健診受診は社員の義務であるし、上司あるいは会社も健診を受診させることが義務であるといったメッセージから始めたものです。
ですから、ディスインセンティブ制度においては会社側がそこからお金を回収しようというものではなく、上司が健診受診をしっかりと勧めることが目的です。最初は同意していない者もいたかもしれませんが、別に悪いことを言われている訳ではなくて、ぜひ受けに行ってくださいと言われているだけですので、それほど悪い反応はなかったと認識しています。今では健診受診は当たり前になっていますので、特段ディスインセンティブがどうのという反応は、ほぼなくなっています。
中川氏 ありがとうございます。
昆さん、本日いろいろな制度がご紹介されましたが、興味のある制度はありましたか?
昆氏 まずヤフーさんの、柔軟な勤務制度ですね。1つの制度だけでなく、いろいろな働き方を組み合わせられるのは素晴らしいと思います。そして、ポーラさんの病気で退職しても2年以内なら復帰できるカムバック制度も魅力的です。まずは治療に専念することができるので、とてもよいモチベーションになると思います。
中川氏 がんになるとサラリーマンの4割の方が仕事を辞められています。3割の方は告知直後、残り1割の方が治療前に辞められています。つまり、治療と仕事の両立をやってみてつらくて辞めるのではなく、がんと告知されたことがショックで会社を辞めてしまっているのです。私や昆さんのように、がんは早期であれば、仕事と治療の両立は十分に可能です。
なぜ、仕事を辞めてしまうのかというと、間違ったがんのイメージがあるからではないでしょうか。1年以内の自殺率も20倍になるというデータもあります。がんという病気を正しく知れば、このようなことは起こらないと思います。そういった意味では、ヤフーさんのeラーニングなどは、がんを正しく知るよい方法で、がんになった本人は動揺しても、正しい知識を持った周囲がサポートできることが大きいと思います。
会社の中で、全員ががんのことを正しく知っておくということが重要だと思います。
田原氏 経団連ということではなく、キヤノンの人事制度の話ですが、働き方改革の推進に伴って柔軟な人事制度が必要になっています。がんに限らず、育児や介護、Uターンして故郷に近い事業所での勤務など、様々な人事制度が出てきています。
その上で重要なポイントは、2つあると我々は考えています。1つは周りの人の納得感です。「あの人だけずるい」と思われる制度はたぶんダメです。「これはしょうがないよね」とみんなが思うかどうかです。もう1つはノーワークノーペイの原則です。ヤフーさんの時短勤務についても、8時間勤務から7時間勤務になれば7時間分の給与しか支払われないということです。人事制度を作ってしまうと、硬直的になってしまう部分もありますので、この2つが貫かれていれば、はっきり言って人事制度を構築しなくても回っていくのではないでしょうか。
このような話をキヤノンの中では、中期計画として夢のあるような話をしていますので、共有させていただければと思います。
中川氏 ありがとうございます。
10年間このがん対策企業推進アクションを続けてきて、10年前と比べるとがんに対する考え方や環境が本当に変わったと思います。それは、日本の社会の変化とともにがんになる方が増え、がんになっても働き続ける方が増え、会社もその方たちに頑張ってもらわなければならないということが根底にあるのかもしれません。しかし、これは日本人の働き方をよくすることだと思います。
今後もこのがん対策推進企業アクションを、皆様とともに育てていく必要があります。本日お越しいただいている皆さんにおきましては、今後もお力添えをいただければと思います。
本日は、ありがとうございました。
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