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イベントレポート

2018/12/14
「職域におけるがん対策の最新情報」東北セミナーを開催しました。

がん対策推進企業アクションの東北ブロックのセミナー「職域におけるがん対策の最新情報」(主催:厚生労働省、がん対策推進企業アクション)が、岩手県盛岡市のホテルメトロポリタンニューウイングにて12月14日(金)に開催され、150名ほどの参加者にご出席いただきました。

同セミナーは12月4日に開催された近畿ブロックセミナーに続くもので、今年度全国で6回目の開催となりました。

講演の様子

「我が国におけるがん対策について」
(厚生労働省 健康局 がん・疾病対策課 相談支援専門官 小野由布子氏)

我が国では昭和56年から死因の第1位ががんになっています。年間約37万人、約3人に1人ががんによって亡くなっています。

平成18年にがん対策基本法が成立し、以降3期に渡ってがん対策推進基本計画が定められ、各種のがん対策が行われています。以降12年が経ちますが、その間にはがん登録推進法が成立したり、がん研究10か年計画が開始されています。昨今ニュースなどで取り上げられている“がんゲノム”という新しい領域についても平成28年よりフォーラムが開催されています。

本年3月に閣議決定された第3期計画では、「がん患者を含めた国民が、がんを知り、がんの克服を目指す」をスローガンに「科学的根拠に基づくがん予防・がん検診の充実」「患者本位のがん医療の実現」「尊厳を持って安心して暮らせる社会の構築」を全体目標に掲げています。そして「がんの予防」「がん医療の充実」「がんとの共生」を3本の柱に、これらを支える基盤の整備として「がん研究」「人材育成」「がん教育、普及啓発」を位置付けています。

講演の様子

がん検診には、「対策型検診」と「任意型検診」の2種類があります。

対策型検診は、健康増進法に基づいて市区町村などの自治体などで行っているものです。対象集団全体の死亡率を下げることを目的としており、公的資金を使用することから、限られた資源の中で利益と不利益のバランスを考慮して集団にとっての利益の最大化を求めた検診です。

任意型検診は、個人で受ける人間ドックなどが当てはまり、各個人でがんなどの死亡リスクを下げるために受診されているものです。こちらは、個人のレベルに応じ自由に選択されています。

がん検診受診率の国の目標は50%ですが、これに達しているのは、男性の肺がん検診のみとなっているのが現状です。受診率は年を追うごとに伸びてきてはいますが、まだまだ受診率の向上を目指さなければなりません。

がん検診の受診率を国際的に比較してみても、日本は諸外国に比べて低く、乳がん・子宮頸がんにおいては世界の中でも低いレベルで止まっています。

実際に日本ではどこでがん検診を受診しているか、というと3〜6割の人が職域でのがん検診であり、いかに職域でのがん検診受診ががん対策の重要な役割を担っていることがわかります。

職域におけるがん検診は、福利厚生の一環として実施されているところが多いのですが、その検査項目や対象年齢など実施方法はさまざまです。また、対象者数や受診者数等のデータの集約などが組織的に行われておらず、受診率の算定や精度管理が困難でもあります。

こういったことから厚生労働省では、職域におけるがん検診の実施に関して参考となる事項を示し、科学的根拠に基づく検診ができるよう「職域におけるがん検診に関するガイドマニュアル(https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000200734.html)」を策定しております。

性別・年齢別のがん罹患者数のデータを見てみると、高齢になる程がん患者は増えています。なかでも20〜64歳の罹患者は全体の約1/3を占めており、定年延長などで職域におけるがん患者は今後も増えてくると予想され、仕事と治療の両立が重要な課題となってきます。

国では、働き方改革実行計画を基に、治療と仕事の両立支援を開始しています。具体的には、経営トップや管理職の意識改革、柔軟な休暇制度や勤務制度など、会社の意識改革と受け入れ体制の整備をはじめ、今年度からは、新たに患者と主治医、会社・産業医をつなぐ両立支援コーディネーターを養成し始めました。そして、その両立支援コーディネーターが患者に寄り添い、治療と就労の両立のために、患者と医療機関や会社をスムーズに連携させてサポートする「トライアングル型支援」も推進しています。

こういったがん患者の就労に関する取り組みは、厚生労働省において健康局がん・疾病対策課だけではなく、ハローワークを所管する職業安定局や労働基準局が連携を密に取りながら進めています。

【がん対策推進企業アクション事業説明】
(がん対策推進企業アクション事務局 事務局長 大石健司)

がん対策推進企業アクションは、職域でのがん検診受診率を向上させるための国家プロジェクトであり、厚生労働省の委託事業です。「今年も行こう、今年は行こう、がん検診」をキャッチフレーズに、がんになっても働ける社会を目指して活動しています。

講演の様子

現在の日本は、女性の社会進出、定年延長などを理由に、働く人の7人に1人ががんになる時代になっています。がん対策は、いまや福利厚生ではなく経営課題といえます。従業員ががんになっても働き続けられる環境を整えること、そして人財(材)を守るがん対策が必要とされており、がん対策推進企業アクションでは、そういった企業のがん対策をサポートする事業を行っています。

がん対策に関する環境も変化しています。小・中・高等学校でのがん教育がスタートするとともに、平成28年度より学習指導要領にがん教育の実施が明記され、就労前にがんに対する正しい知識を得ることができるようになりました。同時に、自治体の取り組みも活発化しています。

がんに対する正しい知識を得ることが、今後の企業の成長にとっても大きなメリットとなることからも、職場での「大人へのがん教育」を提供することが求められています。

日本は人口比におけるがんの死亡率が世界と比べて高く、企業にとって人財損失リスクは大きな問題となっています。

がん患者の年齢別男女比では、50代前半までは女性の方が比率は多く、特に30〜40代では女性が大きく男性を上回ります。これは乳がんや子宮頸がんが若い頃になりやすいがんだからですが、さらに定年延長により男性のがん患者は急増し、就業者におけるがん患者は増えていきます。

このような状況にも関わらず、がん検診の受診率はOECD加盟30カ国の中で最低レベルです。毎年受診率は向上してきているものの、国が目標としている受診率50%にはまだ及んでいません。

がんは早期発見であれば治癒する可能性は高くなるとともに、経済的・心因的負担も少なく、仕事と治療の両立もしやすくなります。

平成29年度にがん対策推進企業アクションで行ったアンケートの「経営者側のがんへの理解度と事業者におけるがん検診実施状況」では、がんに対する正しい知識を持っている経営者や従業員のいる企業は、がん検診受診率が高いことがわかりました。いかに「がんに対する正しい知識(教育)」が必要かわかります。

現在は、医療も進歩し治療成果が上がってきただけではなく、仕事と両立しながら治療が行えるようになってきました。診断時点で勤めていた会社に、現在も勤務中あるいは休職中の人は57%と過半数を超えていますが、一方で依願退職・解雇された人も34%おり、ここでも、がんになっても仕事は両立できるという「がんに対する正しい知識」が必要です。

今後、企業が取り組むべきがんアクションとは、健康診断にがん検診を加えたり、検診の効果を啓発して受診率の向上を目指す「がん検診の受診を啓発すること」。がんは早期発見が重要だということ、がんになっても働き続けられること、高額医療費制度で治療費の負担が抑えられること、正しい生活習慣でがんになるリスクを減らせることなどの「がんについて会社全体で正しく知ること」。治療のサポート体制づくりや柔軟な休暇制度などの「がんになっても働き続けられる環境をつくること」の3つです。

がん対策推進企業アクションは、職域でのがん検診受診率を挙げるためのサポートをしています。がん対策を啓発する科学的根拠のあるコンテンツ制作とマスコミなどへのパブリシティやパートナー企業相互間での情報共有。推進パートナー企業へのがん教育講師派遣や全国各地でのセミナー開催、がんに関する知識やがん検診の大切さがまとまった小冊子「がん検診のススメ」の無料配布(上限1000部)、推進パートナーのがん対策事例の公開、各種データやツールの提供など、企業のさまざまながん対策をサポートしていますので、ぜひご利用ください。

【がん対策推進企業アクション 推進パートナー申請ページ】

https://www.gankenshin50.mhlw.go.jp/about/registration.html

【治療と就労の両立を支えるがん検診】
(東京大学医学部附属病院 放射線科 准教授/がん対策推進企業アクション アドバイザリーボード議長 中川恵一氏)

がんに対して知ってほしいことは、それほど多くはありません。

がんは早期であれば95%が治るということ。がんはある程度防げる病気であるということ。しかし、運の要素もあり、100%防ぐことはできないということ。だから、生活習慣を見直してがんを予防するともに、もしもの場合に備えてがん検診による早期発見が必要だということ。がんは症状を出しにくい病気であるから、どんなに絶好調でもがん検診を受けなければならないということ。がんの治療には、手術以外にも放射線治療があり、自分で選べるということなどです。

厚生労働省の2014年のデータでは、男性の62%、女性の47%が生涯に何らかのがんになるとされています。長期的には、この累積がん罹患リスクは上昇傾向にあります。がんは遺伝子の老化と言える病気ですから、長寿になればリスクは上がります。

男性の方が数字が高いのは、喫煙や暴飲暴食など、生活習慣が男性の方が悪いからです。がん細胞は、10年20年の長い年月をかけて1cm程度の早期がんに成長するわけですから、今発見されているがんは、10年20年前の喫煙率や生活態度の数字が現れているということです。

また、55歳までは女性の方ががん患者は多く、30代では男性の約2.5倍多くなっています。これは乳がんのピークが45歳、子宮頸がんは30代前半に最も多いためです。がんは細胞の経年劣化による病気といえますが、女性は乳がんなら女性ホルモン、子宮頸がんならヒトパピローマウイルスなど、老化以外にもがんになる要素があるということがわかります。

つまり、女性の社会進出、そして定年の延長によって、従業員のがん罹患者は今後も増えていくと予想されます。

がんになる原因は何か?日本では「がん家系」などという言葉があるように、遺伝が多くの理由だと思われている方が多いのですが、実は遺伝が原因のがんは5%しかありません。

アメリカの調査によると、がんになる原因は喫煙が1/3、食事(生活習慣)が1/3を占めます。とくに喫煙はNGです。残りの1/3は何かというと、残念ながら「運」ということになります。がんは遺伝子の経年劣化ですから誰にでも起こります。どの部位の遺伝子が傷つくかは運ということになります。聖人君子のような生活をしていてもがんになる人はいますし、ヘビースモーカーでもがんにならない人はいます。ただし、全体でみるとヘビースモーカーの人の方が、聖人君子よりもがんになる確率は圧倒的に高くなります。つまり、1/3は運だとしても、残りの2/3は、禁煙をする、生活習慣を整えるということで、がんになる確率を下げられるということを理解してください。

講演の様子

実は、私もとうとうがんになりました。もともと脂肪肝があり、当直先の病院で自分で超音波検査を行っていたところ、肝臓はよくなっていたのですが、膀胱にがんらしき腫瘍を発見しました。その画像を泌尿器科の専門医に診てもらったところ、がんの疑いが濃いということになり、内視鏡検査の結果、膀胱がんと診断されました。

非常にショックでした。自分で見つけておきながら、内視鏡をやるまでは、もしかしたらがんではないのではないか、と認めたくない気持ちもあったのです。膀胱がんは人口10万人あたり10人程度の発生率と確率が低いがんです。なおかつ確立されたリスク要因は喫煙で、膀胱がんの男性の50%以上、女性の30%が喫煙が原因で発生します。私はタバコを吸いませんが、実際には膀胱がんになったわけです。このように、がんには運の要素もあるということです。

私が膀胱がんを発見したのは偶然ではありますが、体をもっと大事にしようと思うことは重要です。例えば、乳がんであれば自己触診をするなどです。

がんという病気は、ほんの少しの知識の差で運命が変わります。一番大事なのはがんにならないということですが、もしもがんになってしまった場合にどうするか、がとても重要です。

がんは最初の治療で勝敗が決まるといっても過言ではありません。がんの治療は「敗者復活戦のない一発勝負」といえます。最初に間違った選択をしないことが重要です。正しい治療をすれば、がんは治せます。がん全体で見ても5年生存率は65%、早期がんに限れば95%が治癒します。決して不治の病ではないのです。ですから、試合に臨む前に相手(がん)のこと、ルール(治療方法)を知っておく必要があります。

国立がん研究センターの資料によると、がんと診断された患者の1年以内の自殺・事故死率は、他の病気の20倍になっています。

とりわけ、がんの告知を受けてから2週間くらいは、強い抑うつ状態にありますから、この2週間が大切となります。自殺だけではなく、データによるとがんになって退職する人は30%。特筆すべきは辞める時期で、診断確定時が32%、診断から最初の治療までが9%と、実に40%超の人が実際に治療を開始する前に退職しています。実際に治療をしてから本当に辛くて辞めるのではなく、がん治療は大変だと予測のもとに辞めてしまう。こういうことになる原因は、がんという病気を知らないからになりません。

現在はがんの告知率は100%ですから、がんになる前に、がんという病気を知っておかなければ、こういった不幸を減らすことは難しいと思われます。

日本は健康や医療に関する知識、ヘルスリテラシーが低いのも特徴です。例えば、よくいわれる「日焼けすると皮膚がんになる」。これは嘘です。紫外線に弱い白人、北欧やヨーロッパ系の人が植民地を持ち、突然そこの強い紫外線に当たると適応できず、がんになりやすくなりますが、日本人はずっと日本に住み続けているわけですから適応しています。むしろ、紫外線には適度に当たった方が、皮膚がコレステロールを元にビタミンDを生成し、がんになりにくくなるのです。そのほか、コゲを食べない、酒は百薬の長など、間違った情報を信じている人が多くいます。

ヘルスリテラシーの国別の調査ではインドネシア、ミャンマー、ベトナムなどより断トツで低く、調査対象国の中で最下位となっています。これは学校で習ってこなかったからです。しかし、昨年の4月から小・中・高等学校でがん教育が始まりました。学習指導要領にも明記され、次の教科書改訂では、がんの項目が教科書に追加されます。このような正しいがん教育を受けた子どもたちが大人になることで、将来的にはがんの正しい知識が広がり、ヘルスリテラシーも上がることが期待できます。

最後にがんの治療について。日本人はがん治療は手術だと思っている人が多いでのすが、がん治療には「手術」以外にも「放射線治療」「抗がん剤」があります。欧米ではがん患者のうち6割が放射線治療を受けていますが、日本ではまだ3割。手術なら入院が必要ですが、放射線治療なら通院で可能ですし、通院なら働きながら治療を行うことも可能です。今では放射線医療機器も技術も進歩していますので、たった数回の通院で治療を終えることも可能です。

がんの種類や病状によってはさまざまな治療の選択肢があるということを、がんになる前に知っておくことが大切です。

「5度の手術を乗り越えて…今」
(女優・乳がん経験者 生稲晃子氏)

私は、若い頃から病院が好きではなく、風邪をひいても、どこかが痛くなっても、相当ひどい状況にならなければ病院には行きませんでした。ですから、検診というものも真面目に受けたことはありませんでした。ただ、自治体からの無料検診の案内が届くようになってからは、毎年受診するようにはしていました。

私ががんになったのは2011年ですが、前年の2010年は仕事や育児でバタバタしていて、無料検診に申し込むのを忘れていました。どこの病院も検診の受付は終了していたため、来年でいいかと思っていたところ、友人の医者から「もういい歳なんだから、人間ドックを受けなさいよ」と言われました。お金もかかるし、正直面倒くさいなと思いましたが、久しぶりだから受けてみるかと思い、病院に予約を入れました。

乳がん検査では、マンモグラフィと超音波検査の2つを受け、マンモグラフィでは異常はなかったものの、超音波検査で再検査となり、その結果悪性(がん)が見つかりました。

この日のことは、今でもよく覚えています。夢を見ているようで、ただただショックでした。今日からの自分は、昨日までの自分とは違う。“不安”という文字で頭の中は埋め尽くされました。

マンモグラフィでは異常なしだったのに超音波検査では異常が見つかったことに疑問も抱きました。後にお医者さんから、同じ乳がんの検査でもマンモグラフィと超音波検査にはメリット・デメリットがあり、しこりの場所や乳腺の状態によっては、マンモグラフィだけでは見つかりづらい場合もあり、超音波検査も併用したほうがよいとの説明を受けました。自治体の乳がん検診は、マンモグラフィだけの場合が多いと思いますが、私のような例もありますので、時々は超音波検査も受けられることをおすすめします。

講演の様子

悪性と診断されたしこりですが、幸いにも発見が早期であり、その大きさは8mm程度のステージ1の乳がんでした。無事手術も終わり、命を繋げたことに安堵しました。

人間ドックをすすめてくれた友人の医者は、今となっては神様のような存在ですが、その医者から「目標ができてよかったじゃない」と言われました。「目標?」と聞き返すと「生きるという目標だよ」と。

それまで、生きているのは当たり前で、目標などと考えたことはありませんでした。でも一度がんになった私には、重くてとても大切な言葉に感じられました。

その医者はこうも言いました。「あの時、無料検診を先送りにし、次の年も万が一受けなかった場合、子供にお母さんはいなくなっていたかもしれないよ」と。私には娘が1人います。当時はまだ5歳でした。この言葉を聞き、私はとても怖くなりました。大きな病気をしてつらい思いをするのは自分だけではなく、家族や友人、仕事仲間など、自分の周りの人間はもっとつらい思いをするのだと理解しました。

この頃最も悩んだのが、子供にがんのことを言うべきかどうかでした。私は、娘にもきちんと病気のことをわかってもらいたかったので「ママのおっぱいの中に悪いものがあって、それを取らないとママは死んでしまうかもしれない」と正直に伝えました。娘は「ママの入院が嫌だ。ママが死ぬのは嫌だ」と泣いていました。その泣く姿を見て、ああ小さいながらも理解してくれたんだなと安心しました。

2011年5月に乳房温存手術を受け、その後は放射線治療を30回、ホルモン治療で最低5年間は薬を飲み続けるという長いスパンの治療が始まりました。がん細胞は取ったら終わりではなく、そこからが戦いの始まりだということを学びました。

よく5年生存率と言われますが、医者からは、乳がんは進行がゆっくりなこともあるので、10年様子をみて、それで異常がなければやっと治療から卒業だと教わりました。

しかし、私の場合は翌年の2012年に再発し2度目の手術。さらに2013年に再発し3度目の手術をするという不運な道をたどってしまいました。2度の再発と手術により、今でもホルモン治療の薬は飲み続けています。

抗がん剤の副作用のことは、比較的よく知られていますが、このホルモン治療薬の副作用にもやっかいなものがあります。他人にはわからない、内面から起こる副作用が多いように思います。私の場合は、倦怠感、軽い鬱(うつ)症状、ホットフラッシュ(のぼせの強いもの)があり、今でもこの副作用と戦っています。

2度目の再発の時は“右胸全摘”を告げられ、先生の前で初めて泣きました。一緒に先生の話を聞いていた夫が、全摘しない治療方法を聞いてくれたのですが、2013年時点では症例数が少なく「この病院では確実に命を優先します」との答えが返ってきました。でも、私はあまり悩むことはありませんでした。娘のためにも、娘が成人するまでは死ぬわけにはいかないと、自分自身でも命を優先することが最善だと納得しました。

ただ納得していながらも、この日から心はジェットコースターのように揺れ動きました。仕事場ではテンションを上げて頑張るのですが、家に帰るとその反動で一気に不安が襲ってきました。それでも何とか家事をこなし、また笑って仕事場に戻ることを繰り返しました。今考えると、大変な毎日でしたが、仕事や娘がいたからこそ頑張れたと感じています。

右胸がなくなる日が近づいてきた時、以前から娘が近所の銭湯に行きたがっていたことを思い出し、2人で手をつないで行きました。右胸がなくなってしまったら、人前で裸になる勇気は持てないかもしれない、この子と銭湯に来るのも今日で最後になってしまうかもしれない、と感傷的になっている自分がいました。はしゃぐ娘を見て、時間が止まってほしいとも思いました。とても楽しく、とても悲しい思い出です。

2013年12月、乳房全摘同時再建術という4度目の手術を受けました。乳腺外科医の全摘手術のあと、形成外科医による乳房再建のための手術です。その2年後、シリコンを入れる乳房再建術という5度目の手術を行い、乳がんの発見から手術、再発、全摘、そして再建を経て、つらかった出来事が完結しました。

人間ドックから始まった乳がんとの戦いは、現在は10年生存率の経過観察とともにホルモン治療中です。乳がんになったことで、今まで当たり前のようにあると思っていた命、その命の大切さを改めて知ることができました。これから人生の後半戦、その命の大切さを1人でも多くの人に伝えることができたら、私の闘病生活は決して無駄ではなかったと、そう思えるような気がします。

私は2017年3月まで、内閣府の働き方改革実現会議の民間委員として会議に参加していました。この実現会議では、治療をしながら仕事をしていく労働者の代表として、治療と仕事の両立支援について発言させていただいていました。

がんになると、自分のキャリアを失うことを恐れて会社には報告せず、日々の治療と仕事に耐えていらっしゃる方が非常に多いと伺っています。その大変さつらさを考えると胸が痛みます。ある乳がんの患者さんは、がん患者は会社から切り捨てられると感じた、とおっしゃっていました。今や2人に1人ががんになると言われている日本ですが、まだまだがんに対する偏見が多いと痛感します。

私も何度も心が折れそうになったことがあります。しかし、仕事場や家庭で私が必要とされているんだ、と感じることで乗り切ることができました。仕事場に自分の居場所がある、自分の働きや言葉に期待してくれている人がいるということが、どれだけ病と戦う励みになったかわかりません。これは、がんだけではなく、大病を患った方みなさん同じ気持ちだと思います。

私は、がんの告知を受けてから5年間公表していなかったので、手術直後や治療中の痛みやつらさを仕事中に言えず、我慢していました。現場に告げていれば、肉体的にも精神的にももう少し楽だっただろうと振り返ります。

病気と闘っている労働者が、会社に隠す必要がなく、痛いときに痛いと、つらいときにつらいと言える職場。経営者や上司、同僚に同情ではなく、理解と共感をしてもらえる職場、そうなれば幸せとやる気を感じることができるのではないでしょうか。

そして、がんは取った後からが闘いです。治療は長年にわたります。長期的なフォローアップが必要です。そのためには、患者の体のことを一番わかっている主治医などの医療側、患者の働き方がわかっている産業医や心理カウンセラーなどを含んだ会社側がしっかりと連携を取ることが必要ではないかと思います。私が働き方改革実現会議で提案させていただいた、医療側と会社側とのコミュニケーションをサポートする両立支援コーディネーターを活用したトライアングル型支援が広まり、しっかりと定着していくことを願っています。

がんや大病を患った労働者も、会社にとっては1人1人が財産です。その人たちが仕事に感謝して、生きがいを感じながら働ける環境が私の理想です。働くことを諦めてしまったり、生きることに自信をなくしたりすることのない社会を実現していって欲しいと思います。

最後に、私は今元気に暮らしていますが、失ってしまった自分の右胸を見て、もう元に戻ることはないんだと、悲しくなったり後悔する日もあります。お風呂場で鏡を見ながら、涙が出る日もあります。

しかし、悲しんだり泣いたりできるのは生きているからです。今生きていることにとても感謝しています。人間ドックで早期に発見できたことで今があり、改めて検診の重要性を感じています。

乳がんを経験して、普通に生きることのありがたみ、そして普通を保つことがいかに難しいかを実感しました。穏やかな心で、普通を保ち、今自分の持っている全てに感謝して日々を送ることが、苦難に負けない最良の生き方であると、この闘病生活が私に教えてくれたような気がします。

「地元企業による従業員へのがん対策の取り組み」
(東北大学大学院医学系研究科産業医学分野 准教授 色川俊也氏)

就労支援の具体的な事例を2例紹介します。

1例目は、理科系研究科の教員で50代の女性で、子宮頸がん(ステージ3b)に罹患された方です。

月経以外の不正出血があり、定期健康診断で高度の貧血が見つかりました。自宅で夜間に大量出血があり、大学病院に入院。ステージ3bで手術ができない状態でしたので、化学療法同時放射線治療を3カ月間行い、1カ月の自宅療養のあと、職場復帰を希望して産業医面談を実施しました。

面談では本人から

・ 今後も外来で3カ月ごとに化学療法を続けたい

・ 仕事は続けたい

・ 入院前の仕事量が続けられるかが心配

・ 通院(化学療法)で時々休むことに上司の理解が得られるかが心配

との意向が示されました。

治療については、上司や事業場長に病状などを説明し、了解を得ました。仕事との両立については、主治医と連絡を取り合い、勤務内容について確認をとるとともに、上司・事業場長に仕事量・内容について調整を依頼しました。通院については、産業医の復職意見書に内容を記載して理解を得ることができました。

その後は、化学療法同時放射線治療によってがんが小さくなったので手術・術後化学療法を行い一度は完全奏功となったのですが数ヶ月後再発し、再手術・術後化学療法を3コース行い、今でも3カ月に1度の化学療法を継続しながら勤務を継続しています。

現在では、研究チームの室長として活躍され、海外などへの学会出張なども精力的にこなされ、准教授に昇格されています。また、がんを抱える女性職員のよき相談相手として、支援活動も行われています。

2例目は、小売業のお客様相談室担当の30代男性で、脳腫瘍の方です。

突然の痙攣発作にて発症し、MRIにて脳腫瘍が見つかり、脳腫瘍摘出手術の後、放射線治療と化学療法を実施して3カ月間の治療後退院。その後、半日勤務から始め、完全職場復帰しましたが半年後に脳腫瘍が再発し、手術後退院。職場復帰可能の診断書が提出され、復職の可否について産業医との面談を行いました。

産業医が主治医と連絡をとったところ、患者は家にいてももんもんとして病気のことしか考えられず、働きたいとの意思があることから、やれることがあればぜひやらせて欲しいとの状況を確認。退院2日後に本人と職場の上司を交えて面談し、午前中勤務や電話を受けない電子メール対応の仕事内容で試し出勤を開始しました。しかし、5日間勤務した後自宅で痙攣発作を起こして救急搬送され、約3週間の入院をされました。退院後に職場復帰の意思があり、産業医との面談も行いましたが、その後病状が進行して視野障害の後遺症もあり、職務遂行が不可能であろうとのことから、残念ながら退職されました。

講演の様子

がんを抱える労働者の職場復帰・就業の意味を考えますと、まずは“生きがい”です。病院と自宅の往復だけでは、息が詰まります。仕事をすることで同僚などとのふれあいや、社会とつながりを確認することが患者の生きがいとなり、治療生活にも張り合いが出るのではと思います。

そしてもう1つ“経済的な理由”があります。がんの治療にはお金がかかりますし、生計を維持するためにも仕事をしなければなりません。

企業側が両立支援において配慮しなければならないことは、まずは職場の人々、特に上司の理解が必要です。そして、復職者が体調を正直に言える環境と周囲の支援。これは、助けてあげようなどの同情や上から目線ではなく、共感や思いやりが大切だと思います。

病状や体調に合わせた職務遂行能力の適正な評価も必要です。治療直後としばらく経ってからでは体調も変わりますから、その時の評価に応じて勤務時間や職務内容を柔軟に変えていく必要があります。

また、本人への安全配慮はもちろんですが、周囲の他の社員への配慮も必要です。病気や治療によって性格なども変化する場合がありますから、本人だけではなく周囲への影響も考慮しなければなりません。

あとは、経済的な問題です。保険や制度などのことを知らない方もいらっしゃいますので、それらを正しく利用してもらうことも重要です。

治療と就業の両立について、いくつか措置の例を挙げます。

長期休業者には復職後当面の間、残業禁止、シフト固定、出張禁止措置などの体力低下を考慮した業務負荷軽減。

放射線治療中は短時間勤務を認め、平日朝一番に病院受診後に出社するなどの治療・通院に関する時間的配慮。

抗がん剤治療中の脱毛や倦怠感がある場合は、一定期間接客業務から外して後方支援業務に転換するなどの治療の副作用に対する業務内容の変更。

大腸がん手術後の排便障害の場合は、トイレに行きやすい出入り口近くの席への移動など、手術後の体調不良に対する職場環境の配慮。

職場での咳エチケットの徹底、時差出勤を利用した通勤時間の緩和などの免疫力低下に対する周囲の配慮。

といったことを踏まえ、本人や主治医・産業医の意見を考慮して立案した医師の意見書を会社(人事)へ提出すれば、本人も安心して治療と仕事を両立できるようになると思います。

職場において両立支援を行う場合の注意点としては、個人情報となる健康情報の取り扱いに注意すること。これは、どのように働いてもらえばよいかがわかるための情報があればいいので、予後や余命などの詳細な情報は産業医以外には不要だと思います。

そして、医師や保健師(看護師)などの産業保健スタッフの確保です。適正な産業保健サービスの展開には、健康情報の内容を正しく理解できる者に取り扱いさせる必要があります。誤った健康情報の解釈による誤解や偏見を防がなければ、安全や健康が確保できなくなる恐れがあります。

両立支援の体制整備や健康情報取り扱い等のルールを作ることも大切です。ルール作りには、衛生委員会を活用するとよいのではと思います。

また、管理職や同僚の社員への、両立支援・健康情報取り扱いについての教育や研修を行い、理解を深めることも重要です。

ぜひ、思いやりと勇気を持って、治療と就業の両立支援を行ってもらいたいと思います。

【質疑応答】

回答者

中川恵一氏(東京大学医学部附属病院 放射線科 准教授)

色川俊也氏(東北大学大学院医学系研究科産業医学分野 准教授)

私は衛生管理者で、会社の中で健康診断を推進する立場です。
バリウム検査でアレルギーが出ることはあるのでしょうか?
【回答:中川氏】
ないとは言えません。そういう方には、次からは内視鏡をおすすめしていいのではないでしょうか。
がん治療において、今後新しい治療方法や海外からの技術導入などはあるのでしょうか?
【回答:中川氏】
基本的には、日本の保険診療で99%はOKだと思います。昔は海外で承認されている薬が日本で承認されるまでに時間がかかったこともありましたが、今ではその期間もだいぶ短縮されています。
ただ、別の問題としてオブジーボなどに代表される高額な薬は、高額療養費制度が適用されるがんとそうでないがんがあり、ほかのがんに有効だとしても高額療養費制度が適用されないがんの場合は自費治療となってしまうことや、もしも高額療養費制度適用であっても、その保険料は国民や企業から集めたものですので、がん患者が増え続けて医療費が増大すると保険の仕組み自体が成り立たなくなる可能性が出てくることは今後の課題だと思います。
私は、治療と就労の両立支援について企業を回って啓発している立場です。
企業側が両立支援について、もっと興味を持っていただけるようなエッセンスがあったらお教えください。
【回答:中川氏】
多くの日本人は、がんは痛い病気、苦しい病気と誤解しています。しかし、がんは症状を出しづらい病気なので、本人が元気でもがんでないとは限りません。誰にでもがんの可能性があるということを、本日の講演などを例に出して話していただければいいのでは、と思います。
私も両立支援を行っています。
治療と仕事の両立で相談に来られる方もいらっしゃいますが、1度だけの相談でその後お見えにならなかったりして、なかなか継続しての支援ができないことがあります。もっと支援をしやすくするにはどうすればよいでしょうか?
【回答:色川氏】
がん患者さんの中には、会社にがんのことを話すと辞めさせられるのではないか、と思われる方もいらっしゃいます。まずは、会社側に対して、がんになっても仕事と治療は両立できる、そして両立支援は経営者の努力義務だということを知ってもらうことが大切です。会社側に両立支援の意識が芽生えれば、患者さんの側も相談しやすくなると思います。
【回答:中川氏】
患者さんと会社、両者が情報を共有することが、患者さん本人にとっても仕事との両立に対して得であるということを、理解していただく必要もあると思います。
また、人はがんを経験することによって、その人の格が上がると思います。大変な経験をしたことで、仕事も一生懸命やられますし、他人に対する思いやりも大きくなります。会社にとって、がん経験者は必要な人材だと本当に思います。
講演の様子
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