2018/12/18
「職域におけるがん対策の最新情報」中国・四国セミナーを開催しました。
がん対策推進企業アクションの中国・四国ブロックのセミナー「職域におけるがん対策の最新情報」(主催:厚生労働省、がん対策推進企業アクション)が、広島県広島市の広島県医師会館にて12月18日(火)に開催され、130名ほどの参加者にご出席いただきました。
「我が国におけるがん対策について」
(厚生労働省 健康局 がん・疾病対策課 課長 佐々木昌弘氏)
我が国では、1981年から現在まで40年近くがんが死因の1位になっています。
がんは細胞の変異ですから、年齢が経てば経つほどがんになる確率も上がってきます。高齢化してくるとがんになる確率が上がるのは、避けられない事実です。ただ、正常な細胞ががんになるということと、がんで亡くなるということは別の問題です。病気になることを防ぐことも大事ですが、病気になってから亡くならないように努めることも重要です。
さらに、がんは確率的には2人に1人がなるわけですから、それとどう付き合っていくのか。社会人になると、職場での時間が起きている時間の大部分を占めるわけですから、職場でのがんとの付き合い方が大きなテーマになってきます。
そのために厚生労働省では、このがん対策推進企業アクションで企業の皆さんにがん対策に取り組んでいただこうと考えているわけです。
我が国のがん対策としてのスタートは、昭和58年の中曽根内閣のもとで策定された対がん10カ年戦略です。その後平成18年に、がん対策基本法という法律ができ、ここからがん対策が加速的に進んできました。翌年のがん対策推進基本法ができて今日に至っています。
がん対策基本法にのっとったがん対策基本計画は、閣議決定されて国会報告されたものです。つまり、我が国の政府そのものの取り組みということで、ここ10年来のがん対策は我が国の国策として進められてきたといえます。
そして今年3月、がん対策基本計画の第3期が決まりました。同じく3月には、受動喫煙対策を盛り込んだ健康増進法の改正が閣議決定されました。7月には、東京オリンピック・パラリンピックに向けての受動喫煙対策が罰則付きに強化されました。タバコは、がんの原因の30%を占めるといわれており、がん対策としても極めて大きな意味を持ちます。
もう1つ、今年前半の国会で成立した大きな法律が働き方改革推進法です。この中に、治療と仕事の両立が明文化されました。
がん対策推進企業アクションでは、企業ががんと向き合っていく、そもそもがんにならないように早い段階で発見できるように企業の立場でも促していく、その点で今年は、健康増進法と働き方改革推進法の2つの法律が改正された、大きな節目の年でもありました。
今年決定された第3期がん対策推進基本計画ですが、「がんの予防」「がん医療の充実」「がんとの共生」を3本の柱にしています。
第1期・第2期では、「がん医療の充実」をメインに、全国どこに住んでいても同じような標準的な専門治療を受けられる、がん医療の均てん化が進められ、医療技術などの格差是正が図られてきました。
第3期では、がん医療の均てん化がある程度の目処が立ったということで、予防・がんの早期発見・がん検診などの「がんの予防」、がん患者等の就労を含めた社会的問題などの、医療だけではなく社会全体としてどうやってがんに取り組んでいくのかといった「がんとの共生」が並列で加わりました。
がん検診の受診率は伸びてきていますが、国際的な比較をすると日本はまだまだ低いのが実情です。この理由には、日本は医療を受けやすいということがあります。例えば、アメリカなどは高額な医療費がかかりますから、がんになって高額な治療を受ける前に検診で早期に発見し、治療費が安く済むうちに治そうという考えがあります。対して日本では国民皆保険や高額療養費制度などで、比較的安価に医療が受けられますから、よい悪いは別にして動機付けが異なってくるといえます。
また、働く世代ががん検診を受診する機会は、職域が3〜6割と多いため、企業でのがん検診を受けやすい仕組み作りが重要です。
がん検診の未受診の理由の1位は「受ける時間がないから」となっていますが、これは言い訳ではないかと敢えて言わせてもらいます。今、厚生労働省を含む政府全体として、来年に向けて打とうとしている大きな政策の中に、がん検診を含む各種検診をより受けようという動機付けをしようと、取り組んでいます。
厚生労働省の中でも、さまざまな部局ががん対策に取り組んでいきますので、ご協力よろしくお願いいたします。
【がん対策推進企業アクション事業説明】
(がん対策推進企業アクション事務局 事務局長 大石健司)
がん対策推進企業アクションは、職域でのがん検診受診率を向上させるための国家プロジェクトであり、厚生労働省の委託事業です。「今年も行こう、今年は行こう、がん検診」をキャッチフレーズに、がんになっても働ける社会を目指して活動しています。
現在の日本は、女性の社会進出、定年延長などを理由に、働く人の7人に1人ががんになる時代になっています。がん対策は、今や福利厚生ではなく経営課題といえます。従業員ががんになっても働き続けられる環境を整えること、そして人財(材)を守るがん対策が必要とされており、がん対策推進企業アクションでは、そういった企業のがん対策をサポートする事業を行っています。
がん対策に関する環境も変化しています。小・中・高等学校でのがん教育がスタートするとともに、平成28年度より学習指導要領にがん教育の実施が明記され、就労前にがんに対する正しい知識を得ることができるようになりました。同時に、自治体の取り組みも活発化しています。
さらに「職域におけるがん検診に関するマニュアル(https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000200734.html)」が策定され、科学的根拠に基づくがん検診が職場で受けられる環境整備も進んでいます。
加えて、がんに対する正しい知識を得ることが、今後の企業の成長にとっても大きなメリットとなることからも、職場での「大人へのがん教育」を提供することが求められています。
日本のがん検診受診率はOECD加盟30カ国の中で最低レベルです。毎年受診率は向上してきているものの、国が目標としている受診率50%にはまだ及んでいません。日本人は、がん検診を受けている人が少ないのが現実です。
がんは早期発見であれば治癒する可能性は高くなるとともに、経済的・心因的負担も少なく、仕事と治療の両立もしやすくなります。
平成29年度にがん対策推進企業アクションで行ったアンケートの「経営者側のがんへの理解度と事業者におけるがん検診実施状況」では、がんに対する正しい知識を持っている経営者や従業員のいる企業は、がん検診受診率が高いことがわかりました。いかに「がんに対する正しい知識(教育) 」が必要かわかります。
現在は、医療も進歩し治療成果が上がってきただけではなく、仕事と両立しながら治療が行えるようになってきました。診断時点で勤めていた会社に、現在も勤務中あるいは休職中の人は57%と過半数を超えていますが、一方で依願退職・解雇された人も34%おり、ここでも、がんになっても仕事は両立できるという「がんに対する正しい知識」が必要です。
今後、企業が取り組むべきがんアクションとは、健康診断にがん検診を加えたり、検診の効果を啓発して受診率の向上を目指す「がん検診の受診を啓発すること」。がんは早期発見が重要だということ、がんになっても働き続けられること、高額療養費制度で治療費の負担が抑えられること、正しい生活習慣でがんになるリスクを減らせることなどの「がんについて会社全体で正しく知ること」。治療のサポート体制づくりや柔軟な休暇制度などの「がんになっても働き続けられる環境をつくること」の3つです。
人材を守るためには、がんの早期発見・早期治療、そして働き続けられる環境作りが必要です。
がん対策推進企業アクションは、職域でのがん検診受診率を挙げるためのサポートをしています。推進パートナー企業・団体(健康保険組合など)数と従業員数の拡大を行い、がん検診、がん対策の重要性を啓発しています。さらに、がん対策を啓発する科学的根拠のあるコンテンツ制作とマスコミなどへのパブリシティやパートナー企業相互間での情報共有。そして、がん検診受診の現状把握と課題の整理などを行い、受診率の向上を目指しています。
推進パートナー企業へのがん教育講師派遣や全国各地でのセミナー開催、がんに関する知識やがん検診の大切さがまとまった小冊子「がん検診のススメ」の無料配布(上限1000部)、推進パートナーのがん対策事例の公開、各種データやツールの提供など、企業のさまざまながん対策をサポートしていますので、ぜひご利用ください。
【がん対策推進アクション 推進パートナー申請ページ】
【治療と就労の両立を支えるがん検診】
(東京大学医学部附属病院 放射線科 准教授/がん対策推進企業アクション アドバイザリーボード議長 中川恵一氏)
2014年のデータですが、日本では男性62%、女性47%の方が生涯でがんになるとされています。男性の方が3〜4割ほど女性より高いのは、男性の方が生活態度が悪いからに尽きます。
とりわけタバコはNGです。タバコはすべてのがんの発生率を高めます。たった1個のがん細胞が1cm程度まで大きくなるには、約20年かかります。つまり、現在の喫煙率の男女差ではなく、20年前の喫煙率の差が今現れています。
生涯のがんリスクは、日本の人口構成が高齢化していけばさらに上昇し、現在では男性は3人に2人、女性は2人に1人ががんになると予想されます。
がんの不幸を減らすためには、がんにならないことが一番。もしもなってしまっても、できるだけ早期に発見して楽に治療することが、お金にも仕事にも人生にも影響を与えない方法です。
がんは、およそ全ての病気の中で「基本的な知識の有無で運命が変わる」病気であるといえます。
がんになる前に、がんのことを知っておいて欲しいと思います。
少し古いデータになりますが(1999〜2003年)、サラリーマンが在職中に亡くなる原因の約半分ががんです。現在においては、もっと数字は上がってきていると予想されますし、実際に伊藤忠商事が独自に行った自社の調査では、在職中に病気で亡くなった社員の9割ががんでした。
がんになる原因は何か?日本では「がん家系」などという言葉があるように、遺伝が多くの理由だと思われている方が多いのですが、実は遺伝が原因のがんは5%しかありません。
アメリカの調査によると、がんになる原因は喫煙が1/3、喫煙以外の生活習慣が1/3を占めます。残りの1/3は何かというと、残念ながら「運」ということになります。がんは遺伝子の経年劣化ですから誰にでも起こります。がん抑制遺伝子が傷つけられるとがんになってしまいます。ただし、1/3は運だとしても、残りの2/3は、禁煙をする、生活習慣を整えるということで、がんになる確率を下げられるということを理解してください。
がんは最初の治療で勝敗が決まるといっても過言ではありません。がんの治療は、例外はありますが「敗者復活戦のない一発勝負」といえます。最初に間違った選択をしないことが重要です。正しい治療をすれば、がんは治せます。がん全体で見ても5年生存率は65%、早期がんに限れば95%が治癒します。決して不治の病ではないのです。
男性は3人に2人、女性は2人に1人ががんとの闘いに臨まなければならない時代ですから、試合をする前に相手(がん)のこと、ルール(治療方法)を知っておく必要があります。
ともかく、がんになる前にがんのことを正しく知っておくことが必要です。
国立がん研究センターの資料によると、がんと診断された患者の1年以内の自殺・事故死率は、他の病気の20倍になっています。
がんの告知を受けてから2週間くらいは、とくに強い抑うつ状態にありますから、この2週間が大切となります。自殺だけではなく、データによるとがんと診断されると40%超の人が退職しています。実際に治療をしてから本当に辛くて辞めるのではなく、がん治療は大変だと予測のもとに辞めてしまう。こういうことになる原因は、がんという病気を知らないからになりません。
がんに対する悪いイメージはテレビや映画かもしれません。ドラマではがんになった主人公は必ず死んでしまいますが、決して治らない病気ではないのです。
現在はがんの告知率は100%ですから、がんになる前に、がんという病気を知っておかなければ、こういった不幸を減らすことは難しいでしょう。がん対策推進企業アクションでは「がんでも、やめない、やめさせない」というキャッチフレーズを使っていますが、企業側にもこの意識を持っていただければと思います。
皆さんの会社にもいらっしゃると思いますが、タバコは吸うけど俺はがんにはならないと確信している人、がんがわかると怖いから検診は受けない、などと訳のわからないことをいっている人にこそ、がんの話を聞いてもらわなければならないのですが、困ったことにこういう人は聞く耳を持ちません。
どうすればそういう人たちに話を聞いてもらえるか、というと企業です。企業はある程度の強制力を持っていますから、従業員(大人)に対して正しいがん対策を講じる必要があります。大人のがん教育の主戦場は企業だということです
同じようにがん検診も、企業が先頭に立って受診機会を設けることが、受診率向上につながります。
がんに対して知って欲しいことは、それほど多くはありません。
がんは早期であれば95%が治るということ。がんは、リスクを0にすることはできませんが、ある程度のコントロールはできる病気だということ。しかし、運の要素もあり、100%防ぐことはできないということ。がんは症状を出しにくい病気であるということです。
がんにならないためには正しい生活習慣が必要で、禁煙や適度な運動、節度ある食事などで、がんになる確率を1/3程度まで減らすことができます。
しかし、どうしても運の要素もあるため、がんになってしまった場合は、早期発見をすることが重要です。
がんは痛い病気、苦しい病気というイメージがありますが、実際はほとんど症状を出しません。本当につらい症状が出るのは末期の末期、亡くなる2週間ほど前程度ではないでしょうか。ですから、いくら体調がよくてもがん検診を定期的に受けることが必要です。
そして、がんの治療には、手術以外にも放射線治療があり、自分で選べるということを知っておくことが大事です。
日本人はがんのことを知りません。それは、義務教育で習ってこなかったからです。
内閣府の世論調査(平成21年)では、がんを予防するために気を付けているものは、という質問の答えで最も多かったのが「焦げた部分は避ける」でした。コゲを食べるとがんになると誰に教わったか?これは全くの勘違いで、コゲはトン単位で食べない限りがんになりません。
日本人はお酒はがんと関係ないと思っていますが、実はすごく関係があります。とくに顔が赤くなる人は、気をつけなければなりません。この顔が赤くなる症状をアメリカでは「asian flush(アジアン・フラッシュ)」といいます。つまり、アジア人だけに見られる症状で、日本人は約45%の人が当たります。この状態でお酒を飲み続けると、食道がんのリスクが高まります。欧米人はお酒とがんの関係性は低くても、日本人は違います。日本酒なら1合程度が適量といえます。
今日本では、年間約101万人ががんになり、約38万人ががんで亡くなっており、この数字は右肩上がりに増えています。新規がん罹患者のうち、3人に1人は15〜64歳の働く世代です。今後、定年が延長されれば働く人のがん罹患ももっと増えていきます。
一方、欧米ではがんによる死亡数は減少しています。人口10万人あたりのがん死亡者数は、日本がアメリカの1.6倍にもなります。
がん細胞は、正常な細胞の遺伝子が傷ついて不死化したものです。通常であれば、このようながん細胞は免疫細胞がやっつけてくれるのですが、見逃したたった1個のがん細胞がクローン増殖し、1個が2個にと倍々に増えて行きます。そして約1cm程度の大きさに育つまでに約20年かかります。
早期がんとは、1〜2cmほどの大きさのものをいいます。1cmに満たないものは、MRIやCTスキャンを行っても見つけることはできません。1cmのがんが2cmに育つ期間は、肺がんなどで1年、乳がんは2年。ですから、肺がんなどは毎年、乳がんは2年に1度の検診が必要になってくるのです。
日本は健康や医療に関する知識、ヘルスリテラシーが低いのも特徴で、調査対象国の中で最下位となっています。これは学校で習ってこなかったからです。しかし、昨年の4月から小・中・高等学校でがん教育が始まりました。学習指導要領にも明記され、次の教科書改訂では、がんの項目が教科書に追加されます。がん教育を受けた子どもたちが増えることで、将来的にはがんの正しい知識が広がり、ヘルスリテラシーも上がることが期待できます。
企業においては、経営者のヘルスリテラシーが高いほど、がん検診の受診率が高いこと、就労支援も行われやすいことがわかっています。とりわけ、中小企業においては、経営者ががんのことを知れば、自ずとがん対策がなされると思います。
全体では男性の方ががんは多いのですが、若い世代では女性のほうが多くなっています。女性がなる乳がんは40代がピーク、子宮頸がんは30代前半がピークだからです。乳がん罹患においては女性ホルモンが大きく関係しますから、栄養状態のよくなった現代は生涯での月経の回数も多くなるとともに、女性の社会進出などにより子どもを産まない選択が増え、昔に比べて増えています。約10人に1人が乳がんになると言われています。
乳がん対策としては、マンモグラフィーはもちろんですが、ぜひ自己触診を行っていただきたいと思います。
実は、私もとうとうがんになりました。もともと脂肪肝があり、当直先の病院で自分で超音波検査を行っていたところ、肝臓はよくなっていたのですが、膀胱にがんらしき腫瘍を発見しました。その画像を泌尿器科の専門医に診てもらったところ、がんの疑いが濃いということになり、内視鏡検査の結果、膀胱がんと診断されました。
非常にショックでした。自分で見つけておきながら、内視鏡をやるまでは、もしかしたらがんではないのではないか、と認めたくない気持ちもあったのです。また、膀胱がんは人口10万人あたり10人程度の発生率と思われるほど確率が低いがんです。なおかつ確立されたリスク要因は喫煙で、膀胱がんの男性の50%以上、女性の30%が喫煙が原因で発生します。私はタバコを吸いませんが、膀胱がんになったわけです。このように、がんには運の要素もあるということです。
最後にがんの治療について。日本人はがん治療は手術だと思っている人が多いでのすが、がん治療には「手術」以外にも「放射線治療」「抗がん剤」があります。欧米ではがん患者のうち6割が放射線治療を受けています。日本ではまだ3割。手術なら入院が必要ですが、放射線治療なら通院で可能ですし、通院なら働きながら治療を行うことも可能です。今では放射線医療機器も技術も進歩していますので、たった数回の通院で治療を終えることも可能です。
がんの種類や病状によってはさまざまな治療の選択肢があるということを、がんになる前に知っておくことが大切です。
「地元企業による従業員へのがん対策の取り組み」
(マツダ株式会社 産業医 奈良井理恵氏)
弊社では、治療と就労の両立支援の相談窓口として健康推進センターというものがあります。広島には保健師が22名、産業医が6名常勤しています。
がん対策の一次予防について。
発がん性のある物質への対策として、代替物の検討、作業環境や作業方法の改善を行っています。また、一次予防からは少し離れますが、石綿の取り扱いをしていた方には在職者、退職者に関わらず健康診断を実施しています。
喫煙対策としては、個人の健康を守る禁煙支援対策と、企業責任として受動喫煙対策を行い、屋内の禁煙化を実施しています。また10年ほど前からは、タバコの自動販売機を撤去しています。喫煙率は下げ止まっており、30%程度となっています。
教育としては、年代別・リスク別の生活習慣の改善や感染症対策を行っています。
予防接種に関しては、海外赴任者で希望される方にはB型肝炎の予防接種を行っています。
二次予防について。
がん検診は、肺がん、胃がん、大腸がん、前立腺がん、乳がん、子宮頸がん、肝がんの7項目を実施しており、前立腺がん検診は自己負担ですが、その他の検診は会社や健康保険組合が負担しています。
受診率向上のために、労働安全衛生法で決められた健康診断時にがん検診も合わせて実施しています。受診率は自ら申し込む必要のある乳がん・子宮頸がん検診などで50%、高いものは100%です。
早期発見・早期治療のために、健康診断の結果表に加え、精密検査の案内用紙を別途送付し、受診者の注意を喚起するようにしています。
海外赴任中に早期発見できた事例を紹介します。
54歳の男性で、海外赴任中に一時帰国休暇制度を利用して、日本で健康診断を受診。胃内視鏡検査にて生検を行ったところ、出国直前に胃がんと診断されました。主治医から手術が必要との説明を受け、本人にはあと半年の赴任期間がありましたが、産業医より帰任の指示を出し、手術を受けられました。
術後2カ月で復職され、現在は特に制限もなく元気に就労中です。
不調があっても検診を待ち、発見が遅れた事例も紹介します。
57歳の男性で、以前より高血圧症で通院加療中でした。便潜血検査は40歳の時に受けて以来15年間受けておらず、体重減少や下痢、便秘、頻尿、残尿感が続くも主治医には相談せず、健康診断まで待って便潜血検査を受けられました。
その結果、便潜血陽性、貧血、腎機能低下が認められ、産業医から至急の受診を指示しました。大腸がんが発見され、抗がん剤治療が開始されましたが、転移などもあって復職できず、療養中に休職期間満了となり退職されました。
弊社のがん検診の課題は「がん検診を受けないこと」「がん検診を受けても、精密検査を受けない」ことの2つです。
がん検診を受けない理由としては、乳がん・子宮頸がん検診では拘束時間が長いことから、婦人科検診の時間帯をより受けやすいように変更しました。また、乳がんセルフチェックの推進として、全社員と家族を対象に乳がんの専門医の講和をしていただきました。
胃がん検診においては、時間がかかることと、バリウムを飲むことで体調不良になるため受診しないという事例があったため、検査体制の見直しとかかりつけ医での検査を勧めています。
精密検査を受けない方への対策としては、病院の予約可能時間帯が短かったため、休憩時間が決まっている工場勤務者でも予約が取りやすい体制へ見直しをしました。
また、がん検診の自己負担がないためか、検査結果への関心が低いので、検査の意義についての情報発信をさらに強めてまいります。
三次予防について。
就労支援制度として、半日単位での有給休暇。看護・介護・子供の学校行事・不妊治療・ボランティアを対象としたハートフル休暇を設け、賃金の70%を支給し、年間10日間付与しています。こちらも半日単位での取得が可能です。
復職支援休暇として、病気などから復職された場合に有給休暇が少ない場合の通院時間の確保を目的として、賃金は支給しませんが査定に響かない形で、次回の有給休暇付与までの期間に応じた日数を付与しています。
休復職制度では、傷病による欠勤は3カ月、傷病による休職は2年で、合計2年3カ月休むことができます。1カ月以上休業したものに関しては、主治医の意見、職場の業務内容を踏まえて、産業医による就業の可否や就業制限の要否を判断するため、産業医による復職面談を実施しています。
また、がんの通院時間確保のための制度があります。対象は、人工透析やがんの化学療法・放射線療法など、平日の勤務時間帯に繰り返し通院が必要な方です。賃金は支給されませんが、無事故扱いとしており、通院時間の確保に使っていただけます。
弊社のがんによる休業者を直近の7年間のデータで見てみますと、年間約30人程度の方ががんになられています。大半は50代の方ですが、造血器・婦人科に関しては40代後半となっています。
発見経緯としては、がん検診で見つかるのは消化管系が約4割。呼吸器が3割強。婦人科が5割強です。
休業された方の約6割の方が復職されており、そのうちの2割の方は夜勤や残業の免除などの就業制限が付与されていますが、これは工場勤務者が中心で、大半の方は職場の配慮や時差勤務制度、フレックス勤務制度で対応しています。
退職者のうち3/4は療養中の退職で、がんによる在職時の死亡は社内在職者死亡の約半数を占めています。
1カ月以上休業された方が、どの程度の期間で復職されたかのデータでは、消化管系のがんでは2カ月程度の比較的短期で復職されていますが、造血器がんでは1年以上の長期になる傾向があります。
産業医の立場として目指す両立支援としては、本人と会社の間に立ち、過剰な配慮による本人のやりがいを低下させないこと、職場への過大な負担にならないことなどに配慮し、双方の負担が過重とならない範囲での就労支援を目指しています。
「健康経営の取り組みから」
(株式会社フレスタホールディングス 人事総務部 部長 渡辺裕治氏)
弊社のキャッチコピーは「ココロ、カラダに、スマイル」です。
フレスタは広島県を中心に岡山県・山口県でスーパーマーケットを全54店舗展開しており、5年前より「健康経営」を目標としています。
“健康”を考える上で、私たちは食に関しては比較的前向きに取り組めますが、それ以外にも医療や運動などの分野も必要となってきます。最終的には健康に関する様々な分野と連携して、フレスタが出店すると街が健康になる“フレスタウン構想”という街作りまでできればと考えています。
街が健康になれば、私たちも長くビジネスができますし、私たちの食品を買って食べ続けていただければ、それだけ健康寿命が延びることを期待しています。そして、街の健康をリードするためにも「最上級の健康提案企業」でなければならないと考えています。
自分で自分のことをやれる期間が健康寿命ですが、広島県は全国でも健康寿命が短く、広島・岡山・山口との比較でも最下位です。検診も受診率が低く、悪くなってから病院に行くために、病状が重篤化する傾向が見られます。
こういったことから、私たちは健康に取り組んでいるわけです。
私どもの調査では、従業員の満足が高い店舗ほど、お客様の満足度も高くなっています。これはがん検診も含め、会社が従業員のことをきちんと考えているかどうかが、お客様の満足度につながっていくということです。
そこでまずは従業員の健康を創るために、健康を維持してほしい従業員向けにヨガの体験レッスンやウォーキングレッスンを無料で行っています。一方で健康になってほしい従業員向けに、社歌に体操を振付して、毎日の運動を習慣化しています。
また、フレスタの従業員は健康目標を1年に1度決めて、ネームプレートに書くことで、健康に対する動機付け・意識付けをしています。
従業員の健康経営の中心には「フレ・スマートプロジェクト」というものを据えています。同プロジェクトは、従業員の中からメタボ基準値を上回る該当者に対し、食事指導を行います。食事指導といっても食事を写真に撮ってLINEで送るだけです。食事についてのダメ出しなどはしません。しかし、食べたものが記録に残り、他人に見せることで食事内容に対する意識が変わり、結果的にダイエットができます(レコーディングダイエット)。
該当する社員は強制参加で22名、パートタイマーは希望者のみで76名が参加しています。
禁煙対策としては、社内で禁煙をしたい人を募集して、1人ではつらいことをみんなで頑張る禁煙プロジェクトを立ち上げ、実際に禁煙ができた方には、方針発表会で表彰しました。
がんになった時に、なかなか会社に言えないという問題があると思いますが、その理由には直属の上司はもちろん、その上の人事部長などに急に相談や報告がやりづらいといったことがあるかと思います。
こういったことをなくすために、毎年600人の全社員に人事面談をしています。面談では、これからのキャリアデザインの話もしますが、主に職場や店舗での人間関係がうまくいっているかどうか、そしてナイーブですが家庭環境のことなどを親身になって聞きます。
ここ10年をかけて、こういった親密な関係性を作ったおかげで相談しやすい環境が醸成され、特に女性の社員が長期で働いてくれるようになりました。
安いものを売るのがスーパーマーケットの代名詞みたいになっていますが、今やアマゾンや楽天といったネット販売などもあり、スーパーマーケットの役割は変化しつつあります。
その1つが地域コミュニティへの貢献です。福山市の医師会と協業して、買い物のついでに検診をするという取り組みを行いました。2時間程度のイベントでしたが、300人くらいの方が参加していただき、予想を上回る来場となりました。
女性の活躍推進のためには、女性を理解しなければなりません。ピンクリボンアドバイザー制度の資格取得を会社として推進し、現在ピンクリボンアドバイザーが21名誕生しています。
弊社では男性の管理職が多く、乳がんや子宮がん、出産や育児などの女性の疾病や生活サイクルがわからないことが多いので、外部から専門家を招き、教育や研修をしていくことが必要だと考えています。
実際のがん罹患からの復帰に関しては、どういうプロセスで復帰してもらうのか、どこで何のチェックを入れるのかといった職場復帰プログラムを1人1人に作って対応しています。
また、管理職に上がる場合においては、両立支援の進め方を仮のケースを例に挙げて話し合い、業務復帰に関しての配慮をシミュレーションして、実際に治療と仕事の両立問題が起こった場合に対応できるように心がけています。
「乳がんの経験を通して伝えたいこと」
(がんサバイバー 柳田真由美氏/国立大学法人広島大学 学生支援グループ)
私が乳がんを発見したのは、自己触診がきっかけです。2008年の5月、お風呂でしこりに気づき、翌日病院を訪れました。マンモグラフィーを撮り、生検をしましたが、そのしこりはがんではありませんでした。しかし、ドクターがマンモグラフィーの画像から疑問を抱いたため、MRIを撮ることを勧められました。その結果、しこりとは別の場所からステージ1の乳がんが発見されました。とてもショックでした。
翌月に部分切除の手術を受け、術後は放射線治療を4カ月で30回、その後ホルモン治療を5年間続け、今に至っています。
私は3年前から、広島大学の医学部・歯学部・薬学部の学生支援グループで働いています。学生は皆、将来医者や薬剤師になるために勉強に励んでおり、私の仕事も誰かの命につながっていると感じられる素敵な職場です。
私は乳がん宣告を受けた時、とてもショックで恐怖を覚え、誰にも相談できず1人で退職を決断しました。しかし、がんは早期発見なら95%が治る病気で、私も再発も転移もしておらず、今も元気に働いています。がんは不治の病から生活習慣病へと変化しており、がん全体の10年相対生存率は約60%と、がん=死では無くなっています。
ですが、何を隠そう私も乳がんの発見時は、病気を受け入れられませんでした。情報を得ようとインターネットを検索しましたが、自分に合った情報は1つとしてありません。そして思い込みが先行し、もんもんと悩む日が続きました。
当時私は、病気になんかなる訳ない、なってはいけないと思っていました。罹患時はホテルの管理職として働いており、毎日が忙しく、楽しく、普通なら出会うことのない世界中のVIPの方とも触れ合えて刺激を受け、職場からも期待されて将来に対して希望がありました。しかし、突然のがん宣告で翼をへし折られるようなショックを受けました。
主治医からは「初期でよかった、ラッキーだよ」と言われるとともに「治療をしながらの仕事は無理かなぁ」と言われ、仕事を続けることができないのか、ラッキーなんて冗談じゃないと思いました。
上司や後輩になんて言えばいいのか。管理職なのに健康管理もできないのか。情けなさや恥ずかしさを感じるとともに、会社に迷惑をかけてしまって申し訳ないと感じていました。仕事は続けたいけれど、本当に治るのかも不安でした。
とにかく、入院も嫌、手術も嫌、治療も嫌と、前に進めない状態で、精魂尽き果てて歩くこともできなくなりました。
2カ月間くらい、ずっと家にこもっていました。その間情報を求め、インターネットで調べたりしましたが、色々な情報があふれ、自分に合う情報はありませんでした。私はインターネットを見るのはおすすめしません。わからないことは、主治医に聞くのが一番です。もしも聞かれることに嫌な顔をする医者であれば、主治医を変えるのも1つの手かと思います。
当時のがんに対する社会通念は、長期治療を強いられて自宅には戻れず、会社という土俵から外されるといったものでした。私のイメージも、小学生時代に見た、主人公ががんで亡くなるテレビドラマそのもので、不治の病、怖いといったものでした。
がんの診断を受けた5カ月後に、私はあっさりと退職してしまいました。荷物を下ろして楽になったと思われるかもしれませんが、会社を辞めてからの方が、何をしていいかわからず、辛く、虚しく、寂しく、どうやって生きていけばいいのか、毎日が憂鬱でした。
「仕事を辞めなければよかった」と、そのとき初めて仕事とは収入だけではなく、生きがいにつながると実感しました。辞めたことを後悔する日々を過ごし、もう1度働きたいと思いました。
イキイキとしていた自分を取り戻したい、仕事をしている緊張感を味わいたい、社会とつながっていたい、という思いが今の私を支えています。現在は元気で働いていますが、しんどい時は素直に休むことを心がけています。こういう生き方が、かっこいいと思えるようになりました。
がんは国民病です。がんになったことは誰が悪いのでも、何が悪かったのでもありません。がんになったことよりもこれからの未来を考えていくことが大切だと思います。
がん罹患時は疲労困憊します。仕事、家事、治療など、やることがたくさんあっても、一番の優先は治療です。家事などは、緩いくらいでちょうどよいでしょう。掃除なんて1日2日しなくても死にはしません。緩めることを自分に許すことが大切だと思います。
仕事を辞めるという重大な決断に焦りは禁物です。辞めるのはいつでもできます。辛いからといって辞めることはしないでください。
今は、がんになっても働ける社会になっています。
長期入院から通院治療へ大きくシフトされています。1人で抱え込むよりも、社会全体で支援できる環境も整いつつあります。がんになったからといって退職するのではなく、柔軟な働き方を選ぶことができます。
私が乳がんの経験を通して伝えたいことは、定期的な検診を受けるということ。おかしいな、変だなと思ったらすくに検診へ行くこと。私は検診に行ったから、今元気でここにいます。
よい生活習慣を守って、タバコは吸わず、三度の食事を大切にしてください。
そして、がんは働きながら治すということです。がんと診断されても早期なら95%は完治します。私のようにあわてて、焦って、退職などの大事な決断をしてはいけないと思います。
私はがんになり、右胸の半分を失いましたが、私そのものは何も変わっていません。今日この場で、私の経験をお伝えできたことはとても幸せです。今後も厳しい状況に直面しても希望を持ち続け、チャレンジを続けていきたいと思います。
がんの特性を知り、正確な情報を得て、周りの人と知識を共有して、がんに罹患した社員の方々が仕事と治療の両立ができるよう、やさしくサポートしていただきたいと思います。
がん対策を推進するということは、人材を守るだけではなく、がん社会となった日本の保険にもなるのではないかと思います。