2018/2/28
平成29年度がん対策推進企業アクション統括セミナー パネルディスカッション
「企業は変われる!企業を変える!~がん対策は企業に利益をもたらすのか?~」
今回のパネルディスカッションは、がん対策推進企業アクションパートナーで構成された企業コンソーシアムのメンバーである、以下の7名の皆様で企画されたものです。(敬称略)
株式会社古川 山田智明
株式会社ツムラ 熊倉宗一
GEヘルスケアジャパン株式会社 木場律子
ヤフー株式会社 白川史麻理
アフラック 伊藤春香
第一生命保険株式会社 真鍋徹
がん対策推進企業アクション 元アドバイザリーボードメンバー 近咲子
株式会社古川 山田智明
株式会社ツムラ 熊倉宗一
GEヘルスケアジャパン株式会社 木場律子
ヤフー株式会社 白川史麻理
アフラック 伊藤春香
第一生命保険株式会社 真鍋徹
がん対策推進企業アクション 元アドバイザリーボードメンバー 近咲子
(登壇者/敬称略)
パネリスト
・厚生労働大臣賞受賞/伊藤忠商事株式会社 代表取締役専務執行役員CAO 小林文彦
・検診部門受賞/ヤスマ株式会社 総務部長 角地博
・がん治療と仕事の両立部門受賞/テルモ株式会社 人事部長 竹田敬冶
・がんの情報提供部門受賞/朝日航洋株式会社 航空事業本部営業統括部 渡部俊
・厚生労働大臣賞受賞/伊藤忠商事株式会社 代表取締役専務執行役員CAO 小林文彦
・検診部門受賞/ヤスマ株式会社 総務部長 角地博
・がん治療と仕事の両立部門受賞/テルモ株式会社 人事部長 竹田敬冶
・がんの情報提供部門受賞/朝日航洋株式会社 航空事業本部営業統括部 渡部俊
コーディネーター
・第一生命保険株式会社 生涯設計教育部次長 真鍋徹
・がん対策推進企業アクション元アドバイザリーボードメンバー 近咲子
・第一生命保険株式会社 生涯設計教育部次長 真鍋徹
・がん対策推進企業アクション元アドバイザリーボードメンバー 近咲子
近
コーディネーターの近咲子です。がん対策推進企業アクションの中に企業コンソーシアムというものができました。最初に企業コンソーシアムについて真鍋さんからご説明いただきます。
真鍋
一言で申しますと、2,553社の推進パートナーによる企業目線でのがん対策を考えていこうという新しい取り組みです。各社で課題は様々です。例えば企業間で課題解決のプロセスを考えたり、他社の取り組みを共有したり、自分たちにも周りにもいい影響を与えることを企業目線で考える取り組みです。社員ががんになった際の逸失利益の問題、費用対効果など具体的に話し合い、共有化していく取り組みと言えます。
▲コーディネーター がん対策推進企業アクション 元アドバイザリーボードメンバー 近 咲⼦⽒ |
▲コーディネーター 第⼀⽣命保険株式会社 真鍋 徹⽒ |
近
新たな取り組みが企業アクションの中にできたということですね。楽しみです。では早速、表彰企業の皆様にお話を伺いましょう。今回の受賞は皆様にとってどのような意味合いを持ちますか?
伊藤忠/小林
大変名誉な賞を頂いたと思います。当社の取り組みは社員と社長との個人的なメールが始まりでその内容を全社員に共有したことがきっかけです。社長の決意表明である「がんに負けるな」というメッセージを全社員に発した訳ですが、現社長在籍のこの8年間で最も大きな反響があり、社員の心を強く打ちました。今回の受賞は日本一良い会社と言ってくれた社員の思いを実現させていくことに弾みがつくものと考えています。
▲伊藤忠商事株式会社 ⼩林 ⽂彦⽒
近
弾みがついたという素敵な言葉をいただきました。ありがとうございます。
ヤスマ/角地
当社は社員の健康づくりを会社のミッションにおいています。40年ほど前に季節労働者を雇っていたましたが、食生活が不規則で体調を崩す社員が多く出たことでオーナーが健康経営の観点から見直しました。健康づくりの基本はがん検診、健康診断であるととらえています。今回、第三者から自分たちの取り組みを評価されたことは、自信になり、嬉しいことです。総務部の負担は大きいですが、この受賞は関わっている社員のモチベーションに繋がります。
近
関わる社員の方のモチベーションになるということですね。ありがとうございます。
テルモ/竹田
厚生労働省から評価いただいたことは、非常に嬉しいことです。社員とその家族に、自分たちの会社はこういった取り組みを行っていて安心ができるということが伝わります。そして我々の推進力を増して行くことに繋がります。
近
推進力を増すということですね。ありがとうございます。
朝日航洋/渡部
社内でもまだまだがん対策について深く認知されていません。今回の受賞で活動を広く知ってもらうきっかけとなります。会社の上層部にもがん対策の取り組みの重要性を強く伝えることができ推進につながります。広報の面でも会社のHP等で受賞告知することで会社の評価も上がり、それがリクルーティングにも良い影響が出ると考えられ、大変名誉なことです。
近
社内外でも認知、インパクトを与えられそうだということですね。ありがとうございます。皆様、今回の受賞は大変名誉だと言っていただき大変ありがたいことです。
近
それでは、皆様に個別にいろいろお話を伺いたいと思います。まず検診について伺いたいと思います。ヤスマ様は検診受診率がこの5年間100%とのことですが、ここまでの検診受診率を達成するまでのご苦労や取り組みについてお聞かせください。
角地
当初は半ば強制でした。検診を受けていない社員を集め、日程も決めて総務担当者が検診に同行までして受診をさせていました。個人の予約まで取るという総務の緻密な作業のおかげで、だんだん社員の意識も変わってきています。我々の課題は検診を受けて異常な点がある場合は再検査を行い、嘱託医の指導を受けることでがんの早期発見に繋げることです。この点を重要視しています。
▲ヤスマ株式会社 ⾓地 博⽒
近
一人ひとりに丁寧に対応することが秘訣なんですね。素晴らしいと思います。
近
次にがん対策にかかる費用の点に関してお伺いします。テルモ様では、法定健診にがん検診を加えており、二次検査の費用も負担されており素晴らしいプログラムですが、これは費用の面も含め御社独自に作られたものなのでしょうか。それとも他社の事例などを学ばれたのでしょうか。
竹田
過去の健康保険組合の諸先輩方が地道に取り組んでこられたことをベースに作り上げたものです。実は5年前に健康保険料率を上げました。これは実質賃下げになりますが、労働組合の理解を得ることができたのは、将来に投資しよう、予防に投資しようということでした。予防に向けてできることを社内で議論を重ね、がん対策を含め施策を講じてきました。例えば二次検診は公用外出として就業中に行くことができ、費用も健保負担で行うことなどを意思決定ができたということは、その効果を会社も社員も認識しており、投資すべき価値があると判断をした次第です。
近
将来への投資ということが大きなキーワードですね。
竹田
予防ということに関しては、がんに罹患した社員も含め、それぞれの立場で感じていたことなので、比較的短期間で意思決定することが出来ました。
近
では伊藤忠商事小林さんに伺います。御社では国立がん研究センター中央病院との連携や両立支援のコーディネーターの配置など手厚い対策を取られていますが、費用負担も大きいと思います。これらの費用負担に対するメリットについてどのように考えて推し進めていらっしゃいますか?
小林
お金がかかる部分もありますが、多くの部分はお金とは関係なく推進出来ることがたくさんあります。会社が「あなたの居場所はそこだから、支援をとことんしますよ」という姿勢を示すこと。各社が持っている休暇制度をがん罹患者が取得しやすくしたり、がん治療との両立のための有給休暇制度を創設したり、工夫次第で費用をかけずにできる余地が必ずあると思います。先進医療といっても保険もありますし、単純にお金がかかるということでは無いと考えています。しかも二人に一人ががんになるわけですから、どのような方でも、がんの患者に対して会社が手厚くするというメッセージは胸に刺さるメッセージだと思います。それによって組織が締まる効果もあります。
家庭で家族の誰かが、がんに罹ったら邪魔者扱いするでしょうか?みんな協力するようになるのではないでしょうか。当社はそれを職場で実現したい。組織力の強化ということは単純な福利厚生コストということではなく、いわば戦略投資であると思います。
近
素晴らしいお話をありがとうございます。心意気であり知恵であると教えていただきました。我々もすぐできることがたくさんあると、ヒントをいただけたと思います。
近
次は社内の旗振り役、いわゆるプロモーターの存在について、社内でいろいろな知恵を出した場合、誰が推進役になるのかについてお聞きします。
角地
発端は社長です。200人ほどの規模ですから社員は財産です。当初は社員の健康を会社が守るというスタンスで社長が音頭をとり、健康づくりを始めました。いまでは健康づくりの一つとして、フットサルやヨガ教室なども健康づくりのために推奨していますが、これは総務部をはじめとし、各部署から安全衛生委員を出してアイデアを出し、会社に認めてもらいお金を出してもらうというスタイルになってきています。もともと社長が推進した取り組みですので、承認されやすい環境です。
近
当初は社長の肝いりでしたが、進めていくに従って推進していく人が変わっていくということなんですね。ありがとうございます。
近
では次に渡部さんにお伺いします。ご自身がサバイバーでもある渡部さんは大変推進力がある方のようにお見受けいたします。人事や広報などがんに罹患された社員の方を巻き込んで推進されていったと伺いましたが、渡部さんの推進力以外に仕組みとして社内を変えていくことに困難はありませんでしたか?
渡部
困難という意味では特にありませんでした。私の上司にがん対策の推進方法について相談したときに、ただ一言、「好きなように進めてみたら」と助言されましたので、
自分で自由に考え、がんに罹患した経験のある社員や人事部、広報の人間も勝手に巻き込み、まずは一緒にやっていこうとチームを組みました。上司には追認してもらう形で、突っ走っていけば何とかなると考え進めていったので、特に困難は感じませんでした。
近
とはいえ、渡部さん以外のサバイバーの方がご自分のことを話すことに、抵抗はなかったでしょうか。
渡部
私自身がためらいもなくがん罹患者であることを打ち明けると、実はこれまで隠していたがん罹患者の社員から相談を受けるようになり、結構社内にもがん罹患者がいるということを知りました。それならば一緒に活動をやっていこうと話しかけ、私のように公表しながら活動することに何人かの社員が賛同してくれました。まず自分がさらけ出さないと相手もさらけ出してもらえないと感じました。
近
スピークアウトすれば同じような思いをしている人も現れるということですね。素晴らしい取り組みだと思います。
近
先ほど角地さんが社長の肝いりで始めた取り組みだから、会社からお金も出していただけると伺いましたが、このような取り組みを行っている方々からは、社長、経営層をどのように巻き込んでいけばよいのか、どうやれば良いのかということをよく耳にします。多くの企業で「社長、経営陣にがん対策は経営課題として取り組むべきです」と説得するにはどうすればよいのか。経営陣である小林さんのお立場から是非、ヒントを我々にいただきたいと思います。
小林
当社で本施策がスムーズだったのは、前出の社長と社員との間の物語が全社員で共有できていたからです。全社員が社長と同じような気持ちをもっており、社長の決意に対して全社が一致団結したことが大きなメリットです。通常はそのような形にはならないので、一般的にどうすべきかと問われて助言できるとすれば、二つあります。
一つは物語がないのであればストーリーを作られたら良いと思います。他社がこうしたからこうすべきだ、厚生労働省がこういっているからこうすべきだというのでは全く心を打たない。これを社長、従業員の心に浸透させるにはストーリー仕立てにしないと駄目です。それをやるのが社長のスタッフ、人事部門の仕事であって、そのようなストーリーがないのであれば作って示すことが必要です。社内、職場で各社各様に職場なりのストーリーはあるはずです。それをストーリーに仕立てなくてはなりません。企業がその実力を世に示すのは定量的な成果がないと示せませんが、社員の心は定性がないと動きません。定性を形成する最大のものはストーリーだと思います。
もう一つは日本人であればどんな場所、どんな立場の方であれ、がんは身近な問題であり、自分の問題です。この問題に対して会社がコメントする、コミットすることは自分の問題として胸に響きます。このような話題は世の中に殆どありません。従ってこの問題に対して経営が無関心でいるということはあまりにもったいないことです。ここを成就すれば企業競争力を生み、組織力を強化できます。会社としても株主としてもメリットがあると考えます。
近
ストーリーが大切ですね。社長といえども人間ですから、心を打たれることで変わっていくのだということですね。また、二人に一人ががんになるのですから、周りに必ずいるだろうということで、そういった事例を上手く作ってストーリー仕立てにする。それが我々下の人間の役割だという、非常に素晴らしいアドバイスをいただきました。小林さん、ありがとうございます。
では、次にテルモの竹田さんに伺いたいと思います。竹田さん自身は人事の責任者でいらっしゃいます。人事の責任者という立場から、御社の社長自らが旗振り役だと思うのですが、人事の立場から、「がん対策がうまくいってない」という企業に対してアドバイスがあるとしたらどういうことでしょうか。
竹田
私たち人事と一緒に仕事をしている本社地区の衛生管理室には、看護師、産業医がいます。役員のクラスでは、元々、がんへの思いや健康増進の必要性がベースとしてはあったと思います。そして衛生管理室の看護師や産業医の力を借りながら、社員と同様、役員にも健診を一定の期間の中で受けてもらっています。あとは、私たち人事の立場からいいますと、いわゆる多様性、ダイバーシティというような、がんに残念ながら罹患した人も一つの多様性と捉えています。それぞれのいろんな状況の中において何ができるのかということや、一人ひとりの成長やそれが組織の力に変わっていくことを考えています。我々がハッピーなのは、世の中に健康の側面から大きく貢献するということに繋がっていくというようなところがあるからです。活性化につながる一つのアプローチとしてこのようなテーマは非常に重要であるということを、経営者ともよく議論しています。
あと一つ、喫煙の話ですが、家族見学会をした時に、社員のお子さんを集めて健康セミナーを行いました。その時に、タバコは身体に悪いというセミナーを行い、ある取締役のお孫さんが見学に来ていて、子どもたちから親やおじいちゃんに手紙を書いてもらいました。タバコというのは体に悪いということを手紙でおじいちゃんに渡してもらいました。そうしましたらその取締役が40年位タバコを吸っていた状況でしたが、お孫さんの手紙で瞬時にタバコをやめました。かつ、各事業所、子会社まで回ってもらって、がん対策も含めて、タバコというのは身体に害が大きい、俺もやめたんだから、みんなタバコをやめないかとPRしてくれました。そういう動きも会社にとってはありがたい動きでした。
▲テルモ株式会社 ⽵⽥ 敬治⽒
近
ありがとうございます。いろんなことに取り組まれているのですね。ダイバーシティの一環として位置づけることや、受動喫煙の問題などは最近非常にホットになっています。そういう活動をすることで、いろいろ変わってくるのではないか、というアドバイスですね。
では、渡部さんに聞いてみましょう。ご自身も非常に推進力、突破力のある方です。経営層からの支援も突破力で得られたのでしょうか。それとも何か、こんなメリットがあるというロジックを展開するなど、何かそういうところでヒントをいただけるようなことはありませんか。
渡部
まず、先ほどから出ていますように「突破力」。これが大事です。当社の社風なのですが、どちらかというと出てくる杭を抜かれる、抜きなさい、というところがあり、何にも言わないと多くが淘汰されていく所があります。そのため、「まずは動いてしまいました」と会社にいい、実際に動いているので、「正式に我々このチームを会社が組織として認めてください」と話しました。そして、ある上層部の人間に、次の経営会議でこれを言って欲しい、とお願いしまして、言ってくれたらそれは既成事実になるから我々は動きやすい、ということを伝えました。でも、その人からすると「何を言ったらいいのか」というのがあります。当社の経営理念の一つなのですが、「人を生かし、人を育てる」という言葉があります。「人を生かして人を育てるのであれば、こういう病気をしている人間もしっかり保護をしなければ、そういう理念に沿わないのではないですか」と言いました。また当社がやっている事業として、ドクターヘリや大規模災害時の救援物資輸送など、人の命を救うという大事な事業があります。そういう人の命を救うという仕事をしているにもかかわらず、社員の命も救えないのであれば、そんな事業はやめてしまえ、という考えもありました。最終的に経営会議にあげてもらって、晴れてめでたくお墨付きをもらいました。会社員としては、やってはいけない禁じ手ですね。
近
ありがとうございます。突破力と、既成事実を作るということですね。もう一つ、渡部さんがおっしゃったのが、企業の経営理念についてで、健康や人についてどこの企業もおそらくおっしゃると思います。そういうところに結びつけて既成事実を作るということです。素晴らしいアイデアですね。
では次に、いろんな取り組みを推進し、それがどんなふうになったのか、ということを伺ってみたいと思います。4社とも非常に素晴らしい取り組みをしていました。いろんなご苦労もあったかと思いますが、がん対策が進んでくると、どんないいことがあったか、「いいこと」「成果」「変化」についてお伺いしたいと思います。まず、小林さん、御社では対外的にどんな「いいこと」があったのかを教えてください。
小林
「対外的にいいこと」といいますと、私ども一企業の取り組みであるわけですが、思いがけず非常に多くの関心を呼びました。中川先生も新聞に書いてくださったりして、いろんなところから注目していただいて、数限りないお問合せをいただきました。それから全国津々浦々からお手紙も頂戴しまして、そのお手紙の中には、全く見ず知らずのがんの経験のある方から、「この制度の素晴らしいところは、がん患者あるいはその家族を孤独から救ってくれること」と綴っておられました。そういうものを沢山頂戴することによって、私どもが気付いたことがあります。私どもの企業理念は、「豊かさを担う責任」です。これは非常に大きな企業理念であり、「豊かさを担う責任」といっても実際に社員が日頃そのようなことを仕事で感じる場面もそんなに多い訳ではありません。しかし、もし私どもがやっている仕事が世の中の関心および世の中の参考になり、そして世の中の改善につながっていくことができるとすれば、これは「豊かさを担う責任」となっているのではないかと今回の事例を通して私どもが感じることが出来ました。これは私どもにとって大変ありがたいことです。
近
ありがとうございます。豊かさを担う責任ですね。これを体現できたということだと思います。
では角地さん、検診受診率100%はあまりにも素晴らしいので、そこに焦点をあてて伺います。100%が実現して、どういったことが変わりましたか。社内、社外、なんでも結構です。
角地
社内的には自分の健康に関心をもつ人が増え、健康診断の結果をすごく気にするようになりました。その結果、ありがたいことに、社員が長期に病気で休むことがなくなりました。休むと当然ながら代替社員をアルバイトや派遣の方で補わなければいけないので、そのような費用がかからなくていいという社内的ないいことがあります。それから、「健康経営の推進」というのを企業方針として掲げています。先日もある大学生が健康経営について研究しているということで取材にお越しになるなど、社員を大切にしている会社であることが社外や対外的に広まるのが非常に大きいです。いろんな団体に参加すると、ヤスマは健康経営や社員を大切にしている会社であるというのが聞こえてくるという点で、お金のかからないコマーシャルになっていると思います。
近
ありがとうございます。社内はもちろんのこと、対外的にも健康経営をしているヤスマというブランディングができている、ということですね、お金のかからないPRですね。
では、テルモの竹田さんにお伺いします。テルモ様は日本有数のヘルスケア企業でいらっしゃいます。少し意地悪な質問かもしれないのですが、ヘルスケア企業の御社がこういう社内のがん対策を進めてらっしゃるということで、ビジネス的に何かいいことはありましたでしょうか。
竹田
先日アエラに掲載いただきましたが、社内の取り組みと社外の取り組みがあります。私たちの医療の展開としては、患者さんの安全を守ることや患者さんのご病気を治療していくという働きとともに、経営の柱の中に、「安全と安心の提供」があり、医療従事者の安全を守るという仕事があります。例えばがんの治療に関しても、看護師さんやドクターにとって危険な薬品を扱うため、安全に薬品を取り扱えるように、セーフティ機能を設けたデバイスがあり、そのデバイスの普及と啓発活動に力を入れています。そのような会社であるが故に、足元は(社員に対しては)どうなのかと当然見られます。今、このような形で社員に対しての健康、ご両親またご家族に対しての健康増進の取り組みをしていることを伝えられ、非常にいい機会になっています。また二つ目は職場の理解が深まることによって、生産性が高まるのではないかと思います。そういう職場は、得てしてモチベーションが高まって協力関係が出来て、最終的には生産性が高まると感じます。三つ目には企業価値が高まるということです。株主様だけでなく、最近は学生さんも良く見ていて、なでしこ銘柄や健康経営という部分も意識をして就職活動に来られます。そのため、がん対策は学生や意識の高い社員の採用などにもつながっているので、短期的にも中長期的にも大きくメリットはあって非常にありがたいと思っています。
近
ありがとうございます。足元を固める。それから、モチベーションを高める、そして対外的にもいいイメージを作っていけるということですね、いいことづくめでよかったです。では、渡部さんに伺ってみましょう。渡部さんのキーワード、突破力ですが、渡部さんだけではなく、御社の航空事業からみますと、いろんな職種の方がいらっしゃると思います。例えばパイロットの方ががんになった時に、今回のような取り組みがどのように役に立ってくるのでしょう。
渡部
まずがん患者が辛いこととして、病気による痛みや副作用による吐き気がありますが、それは実は2番目、3番目くらいなんですね。働いている患者が一番辛いのは、自分の居場所がなくなることなんです。精神的に状況が悪くなっていくと、どんどんどんどん鬱になっていって、こんな私も、突破力、突破力といいますが、家の中で物を壊したり、正直ここから飛び降りちゃおうかな、と思うことも実は何回かありました。そういう精神的な状況が一番辛いです。私の場合、前線の営業だったのですが、治療するのであればバックアップ部門に異動してゆっくりと治療しなさいと言われたのです。それを言ってくれた方は私のことを思って、身体を休めなさいと言ってくれたのですが、そんな精神状態のときに言われると、「お前はもう使いものにならないから引っ込んでいろ」と、そういうふうに聞こえてしまったことはありました。
パイロットはどうか、といいますと、パイロットは年に1回の航空身体検査を受けなくてはならず、それをパスしないと乗務できません。がんの治療、手術、抗がん剤治療の期間中は一切乗ることはできません。そうするとパイロットは、空を飛びたいという強い気持ちを持って航空業界に入ってきているので、飛べないとなると「自分は何をしているのだろう」と思います。そこで私の事例を話しました。前線からバックアップ部門に行った時、自分も同じように辛かったけれども、前線部門にいた時、実はこうしてほしかったということをバックアップ部門でやることによって、自分の居場所を見つけられたという話をしました。そうしたら、パイロットも飛べない期間については、今まで学んできた航空的な知識や気象状況の確認の方法、シミュレーターをつかった教官などをやっていければ自分の居場所があると認識してもらえたのではと思っています。まずは「居場所」を見つけてもらうことが大事です。
▲朝⽇航洋株式会社 渡部 俊⽒
近
ありがとうございます。職種に限らず、必ず居場所を見つけて、活躍してもらう。そのように作ったということですね。
渡部
そうですね、はい。
近
渡部さん自身も元々はバリバリの営業マンで、別の部門に移られたのですか。
渡部
はい、前線の営業から、営業統括というところへ移りました。営業の方々に対して支援するところです。
近
ありがとうございます。「居場所」というキーワードをいただきました。
いろいろ伺ってまいりましたけれども、今度は最後に、企業コンソーシアムのことにお話を戻したいと思います。企業コンソーシアムができたということを最初に真鍋さんにお話しいただきました。では、18年度、この4月からどのような活動をするのかをお話しいただきたいと思います。
真鍋
ありがとうございます。今まさに、4社の皆様、このディスカッションの中で、いろんな取り組みやその背景を語っていただきました。こういう情報を聞きたい、知りたいという意見をよく聞くことから、今回、このようなディスカッションを提案させていただいた経緯があります。今回伺った内容も、先ほど冒頭でご紹介があった7名で練り上げたのですが、企業として、企業目線で聞きたかったことをこのように共有化させていただくことを今後活動にできればよいと思っています。具体的にはこの企業アクションの推進企業として、実際に参加するメリットをこのように深堀りしていきたいということと、今のような各社様の好事例の共有化、あるいは各界の専門家の方々にいろいろ知識を教えていただくなど、企業の自発的な会にできればと思っています。
今回は、本当にそういう意味では、聞かれている側の参加企業の皆さま、今回の表彰企業の素晴らしい4社の皆さま、我々企業コンソーシアムと名乗っていますが、立場は全く一緒でございます。これらの取り組みを企業の目線で今後広めていかない限り、企業アクションという取り組みのひとつの大きな柱としては伸びていかないのではという思いはありました。
大変すばらしい今日の4社の皆さまのお話を聞いて、今後、定期的に研修会のような形で年4回を目標に事例の共有ですとか、情報発信していきたいと考えています。直近の開催は5月ぐらいを目標にしたいと思います。
▲パネルディスカッションの様⼦
近
ありがとうございます。好事例の共有ですね。今日4社の皆さんにしていただいたことをもっと、仕組みとして作り、まずは5月位にそういった場を提供したいということでございます。
もし、こういう枠組みができて、定期的に勉強会や外へ発信ということを進めるということができましたら、それは今回表彰を受けた企業さんにとっては、どんな意味があるのでしょうか。あるいは、自分たちはやってみたい、というお気持ちはおありでしょうか。ぜひ一言ずつ、お伺いしたいと思います。
竹田
今日も、伊藤忠様、ヤスマ様、朝日航洋様、そして渡部さんの個人としてのお話も伺うことができました。いろんなノウハウややり方は別の形で認識することはできるのですが、こういった場でこそ大きいと今日は思いました。どのような背景から、それぞれの立場の方が、どのような思いをもってやっていらっしゃるかということは、こういう機会でないと伝わらないと思います。いろんな本を読み、学ぶ機会やツールはあると思うのですが、感じ取る場面というのはこういう場でしかできないと思うので、今日は本当に参考にさせていただきました。今後もこういう機会があれば、勉強し続けて社内に取り込んでいきたいと思っています。
近
ありがとうございます、角地さんいかがですか?
角地
竹田さんとほぼ同じなのですけれど、今までは自分の会社の中で、いろいろ考えて動いてきたものが会社様によっていろいろ違います。今日も他の3社様の発表を聞きながら、自分の会社で、「これはできるな」とか、「これはちょっと難しいな」といろんな情報をいただける機会でした。今日、初めて参加させていただいたのですが、いろんなことを学べる場だったと思っています。感謝しております。
近
ありがとうございます。渡部さんいかがですか?
渡部
私が活動を始める際にまずしたことは、他社の事例を把握することからでした。このようなセミナーや親会社のトヨタを訪問し、どういう制度か教えて欲しいと言って始めました。そうすることによって、良いところを勝手に真似して当てはめていくということがやれたのです。今回のような企業コンソーシアムになってきますと、他社の事例を見て、売上で負けても制度では負けたくないというような、企業間競争にできたらと思っております。
近
ありがとうございます。では最後に小林さん、ぜひ一言コメントをお願いします。
小林
がんの種類、ステージ、個人の環境などが全然違うので、一律の施策を会社側が作ったとしても、それが果たして実際的なのかについては確証を持てない中で進むことになると思います。その中で多くの企業と交流し、意見を交換し、情報を知り、それを参考にするということは、企画側の人間にとっても参考になり、また自信になると思います。またそれは上司、上長、社長を説得する材料になると思います。このコンソーシアムには厚生労働省も含めて専門家の方が多数ご参加されているわけですから、そのように一堂に会して話し合い参考にすることができる場というのは、なかなかないと思いますので、非常に有益ではないかと思います。私どももできる限り今後も発信を続け参考にしていただける点があるようであれば、いかようにでもご協力させていただきたいと思います。今日、私自身もパネラーの方々のお話を伺いまして、いくつも参考にメモさせていただいたことがございますので、有意義だったと思います。ありがとうございます。
近
ありがとうございます。4社の代表の皆さま、非常に素晴らしいご発言でしたが、一方でお互いに学ぶこともあったということでした。ぜひ、このような緩い連携ではございますが、フロアの皆さんも学ぶことは多いと思われたのであれば、ぜひご参加ください。本日はどうもありがとうございました。