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イベントレポート

2016/10/12
がん対策推進企業アクション「札幌セミナー」を開催しました

2016年10月12日、札幌市中央区のホテルポールスター札幌で〈がん対策推進企業アクション「札幌セミナー」〉を開催しました。全国7ブロックで開催されるセミナーの第二弾。約110名が参加しました。開催概要はこちらをご覧ください。
会場
▲会場
受付
▲受付
厚労省による「国の取り組み」紹介からスタート
司会者の紹介を受けて最初に登壇したのは、厚生労働省健康局がん・疾病対策課主査の鉾之原健太郎氏です。鉾之原氏は『我が国におけるがん対策について』のテーマで、がんの現状や国が行ってきた施策を紹介しました。病気による死亡原因1位であるがんへの対策として、平成18年に『がん対策基本法』が議員立法により成立したこと。以降、がんの予防・早期発見に寄与する各種施策を行っていることが語られ、がん対策推進基本計画は5年ごとに見直され、現在は第2期計画に基づいて施策を展開していると説明がありました。

そして第1期計画で定めた『10年間に年齢調整死亡率を20%下げる』目標達成が難しい状況にあるため、平成27年12 月に『がん対策加速化プラン』を打ち出し、第2期計画に上乗せする形で取り組みを強化していることも語られました。取組み強化の一例として、厚労省による就労支援施策を紹介。ハローワークで治療と両立できる求人の紹介など就職支援を始めていること、労働基準局は治療と職業生活の両立支援プランを策定し、企業などの相談に対応していることを語って鉾之原氏は降壇しました。
厚生労働省健康局がん・疾病対策課 鉾之原主査
▲厚生労働省健康局がん・疾病対策課 鉾之原主査
北海道におけるがん対策の取り組み
続いて壇上に立ったのは、北海道保健福祉部 健康安全局地域保健課 がん対策グループ主幹の田中研伸氏です。田中氏は北海道のがん対策を説明。まず平成24年に『北海道がん対策推進条例』を策定し、自治体として全国17番目のスピードで施策を開始していることを紹介しました。そして北海道は、がん死亡率が全国ワースト2位で、きわめて深刻な課題になっているとも語りました。

推進条例の全体目標は、〈1〉がんによる死亡者の減少/75歳未満の年齢調整死亡率20%減少※平成17年比〈2〉がん患者と家族の苦痛軽減と療養生活における質の維持向上〈3〉がんになっても安心して暮らせる社会の構築の3つで、〈1〉は未達。また個別目標の1つである、がん検診受診率50%以上(肺・胃・大腸は40%以上)も平成25年の数値で30%台。さらなる取り組みが必要と現状を分析しました。

その後はがん患者への就労支援について説明を移行。まず170名への聞き取り調査で判明したデータを紹介しました。それによると、がんに罹患(りかん)した会社員の1/3が退職。退職者の60%以上が自ら職を辞していることが判明。一方で、仕事を継続した人の80%以上は事業主の理解が得られたとし、休暇を取りやすい環境を用意してもらったことが、就業継続に役立ったと回答していることが明らかにされました。

これら調査などを参考として、啓発と相談支援の2軸で就労支援に関わる取り組みを推進。具体的には、北海道がん対策サポート企業登録制度を立ち上げ、ここに48社が参画。職域での意識啓発を進めていることや、北海道がんサミットなど一般向け啓発イベントも行っているという紹介がありました。また相談支援については、がん拠点病院ならびに道が指定した病院あわせて計45拠点に、がん相談支援センターを設置。療養や就労に関する相談に応えていることなどを説明し、田中氏は降壇しました。
北海道保健福祉部 健康安全局地域保健課 田中研伸氏
▲北海道保健福祉部 健康安全局地域保健課 田中研伸氏
「治療と職業生活の両立支援ガイドライン」について
次にステージに立ったのは、北海道産業保健総合支援センターの関 建久氏(道東脳神経外科病院 副院長)です。がん・脳卒中・心疾患・糖尿病・肝炎などの治療を要する会社員に対し、企業はどのように支援するべきか、厚労省が今年4月にまとめた指針『治療と職業生活の両立支援ガイドライン』を説明しました。

関氏は、「仕事を持ちながら、がんで通院している人は32.5万人に上り、事業主の意識変革が不可欠。人材確保や生産性の向上という観点から、企業あげての就労支援が必要です。」と、がんになった会社員・企業・医療機関三位一体の施策が必要と訴え、またガイドラインの意義を強調しました。

続いて取り組みの現状や企業に必要な環境整備について説明。当サポートは労働者(会社員)が主治医を通じて事業所に申し出ることからスタートするなど支援のフローにも触れ、北海道で間もなく事業所(産業医)への取組み紹介が本格化すると説明。最後に改めて同施策の意義を語って降壇しました。
北海道産業保健総合支援センター 関 建久氏
▲北海道産業保健総合支援センター 関 建久氏
がん検診対策企業アクションの取り組みと現状の紹介
その後登壇したのは、がん対策推進企業アクションの事務局の水株隼人。職域における『がん検診』の受診率向上、がんに関する基本知識の提供といったプロジェクトの目的と活動内容を紹介しました。そのなかで昨年度からスタートした表彰制度に触れ、積極的にがん対策を推進している企業を今年も表彰すると語りました。

そして2016年9月末現在、がん対策推進企業アクションに参画している企業は2150社で、その従業員は550万人以上におよぶこと、全国47都道府県に活動の輪が広がっている現況などを説明。北海道からは48社の参画があると紹介し、プロジェクトへのさらなる参画を呼びかけて終了しました。
がん対策推進企業アクション事務局 水株隼人
▲がん対策推進企業アクション事務局 水株隼人
中川先生の基調講演「職域におけるがん教育の必要性」
続いて東京大学医学部附属病院 放射線科准教授・中川恵一先生(がん対策推進企業アクション・アドバイザリーボード議長)が、『職域におけるがん教育の重要性』のテーマで講演を行いました。冒頭、先生は配布された〈がん検診のススメ〉をぜひ一読くださいと呼びかけて本題へ。

日本人ががんに罹患する確率は男性63%・女性47%とデータを紹介しました。さらにこのデータは4年前のもの。現在はもっと高い数値が推計され、2016年の概算値で男性67%・女性51%になると説明。つまり男性の3人に2人、女性の2人に1人ががんになると語り、がんが増え続けているのは先進国で日本だけと語りました。

その上で働き盛りの女性に子宮頸(けい)がんや乳がんが増えていることを指摘。定年延長で男性会社員のがんもますます増えていく日本は『がん社会』。職域での対策が重要と強調しました。がん発生のメカニズムも解説。部位にもよるが総じて言えば、早期がんと呼べるのは2cm大までで、タイミングを逸することなく発見するには、毎年のがん検診がきわめて有効と解説しました。

さらに2017年4月より全国の小学校・中学校・高校で『がん教育』が始まると紹介し、一方、大人への教育が遅れていることを指摘。がんを告知された会社員の1年内自殺率が、それ以外の20倍になっているデータを示し、これはがんを知らないからと語りました。中川先生はここで再び職域における『がん教育」を強く呼びかけ、講演を終了しました。
中川恵一先生
▲中川恵一先生
「失敗だらけだった!!~がんになった私の人生設計」
10分の休憩を挟んで壇上に立ったのは阿南里恵さんでした。がん対策企業アクションのアドバイザリーメンバーでもある阿南さんは、23歳のとき子宮頸がんに罹患。子宮を全摘出しました。抗がん剤・放射線治療を行い、5年の経過観察後に講演活動を開始。現在は大阪のゼネコンに勤務する阿南さんが、自身の体験を『失敗だらけだった!!~がんになった私の人生設計』という題目で講演しました。

阿南さんが語った失敗は次の5つです。〈1〉人間関係ができていた職場を(がんになった自分を見られたくないなど)プライドのために辞めた〈2〉病気を隠して再就職。リンパ浮腫の後遺症が出て隠しきれなくなった〈3〉打ち明けた上司や同僚の理解を得られたものの、迷惑をかけていると退職。生活と収入が不安定になった〈4〉ならば自分でやろうと計画不十分のまま起業。大きな借金を抱えた〈5〉講演活動を始めた後は誰かのためにという意識ばかりで、自分のキャリア設計ができなかった。

自ら負のスパイラルだったと語る時期を乗り越え、現在は病気を隠さず入った建設会社でインテリアコーディネーターとして活躍している阿南さん。リンパ管静脈吻合手術によって後遺症も改善したことを語って、壇上を降りました。
阿南里恵さん
▲阿南里恵さん
「伊藤組土建株式会社」のがん対策を紹介
次に伊藤組土建株式会社の辻ひろみさんが登壇し、同社のがん対策を紹介しました。平成24年から26年にかけて現役社員の数人ががんで死亡。治療のため休暇を取得する社員も増えたため、対策を強化しているという同社。健康診断の受診率100%を達成。健診内容には、胃・肺・大腸がん検診が組み込まれていて(胃がん・大腸がんは30歳以上が対象)充実した内容です。

それでも辻さんは、「喫煙者の肺がん検診には喀痰検査が有効と中川先生から伺い、まだ不十分だなと思いました。またバリウムに抵抗がある社員が多く、胃がん検診に限っては70%の受診率。ここが課題と捉えています。」と語りました。要精密検査とされた社員への受診勧奨も積極的に行っている同社。〈がん検診のススメ〉を全社員へ配布し、中川先生のニューズレターを社内LANに掲示するなど啓発活動も活発です。

がんと診断された、あるいは長期欠勤を余儀なくされた社員への就労支援も手厚いものでした。社員の58%が施工管理職という職場。外部で仕事をしている人ががんと診断されたら、本社勤務へ配置転換するなど柔軟に対応しており、また半日有給など通院に便利な制度も整備されていました。そして勤続年数によって欠勤を許容する期間+休職扱いの期間を設定。勤続10年超の社員は最大18カ月の休業が可能で、給与減額も最大40%という手厚いサポートがありました。

伊藤組土建株式会社の取り組み説明後は、中川先生、阿南さん、辻さんのパネルディスカッションがあり、札幌セミナーは終演となりました。
伊藤組土建株式会社 辻ひろみさん
▲伊藤組土建株式会社 辻ひろみさん
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