2015/01/07
がん対策推進企業アクション「仙台セミナー」を開催しました
2014年12月9日、宮城県仙台市の「仙台サンプラザ」において〈がん対策推進企業アクション「仙台セミナー」〉を開催しました。全国7ブロックセミナーの最後を締めくくる今回も開場前からたくさんの人が訪れ、盛況の中、本年度最後のセミナーが開幕しました。
▲本年度最後のセミナーを仙台で開催しました
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国のがん対策の説明。就労支援が課題
司会者によるセミナー開幕の挨拶に次いで、厚生労働省 健康局 がん対策・健康増進課の宮田課長補佐が登壇。平成19年度に「がん対策推進基本計画」が策定されてから今日まで、国がどのような施策を行ってきたか概要を語りました。そして「がん対策推進企業アクション」が、国家プロジェクトとして推進されてきたことも説明。次いで最近のがん対策について…がん検診・50%受診に向けた検診の実情と、就労支援に時間を割いて解説しました。
それによれば平成25年の国民生活基礎調査で、がん検診受診率は平成22年の前回調査から全分野において向上。なかでも顕著だったのは男性の肺がん検診で、47.5%と20ポイント超もアップしていると解説。宮田氏は受診率向上の要因として、自治体における受診勧奨・再勧奨の取り組みを指摘。さらに職域での受診率向上が顕著で、がん対策推進企業アクションの貢献度も大きいと語りました。
そして、今後はがんになった人が治療と仕事を両立させる就労支援にさらなる注力が求められると語り、ハローワークや拠点病院などへの働きかけとともに、2014年2月から就労支援の検討会を設置していることを紹介しました。
▲厚生労働省・宮田課長補佐。就労支援の重要性を語りました
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次いで登壇したのは、がん対策推進企業アクション・事務局長の大曽根哲氏です。「がん対策推進企業アクション 事業概要」として、まず日本におけるがんの実情を紹介。日本は年間約80.5万人のがん患者が生まれている「がん大国」であり、「日本人の2人に1人」はがんに罹患(りかん)し、「3人に1人」は、がんがもとで死亡していること、年代別・性別では、働き盛りの女性にがん患者が増えていることなどを説明しました。
その後、がん対策推進企業アクション活動を詳細に紹介。平成26年10月現在で1353の企業ならびに健保組合がプロジェクトに参加していること、その従業員数は295万人におよぶと語られ、セミナー開催地の宮城県から25の企業・団体が参加していると説明しました。
また当プロジェクト参加にあたって費用負担は一切なく、参画によってさまざまなメリットがあることを訴求。今年度からはホームページに問い合わせコーナーを設け、企業・団体担当者からの個別質問に答えていることもアピールし、未加入団体へプロジェクト参加を呼びかけた後、降壇しました。
▲事業概要を説明する大曽根事務局長
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第2部は推進パートナー勉強会
第2部は推進パートナー勉強会。株式会社キャンサースキャン代表取締役・福吉潤氏が壇上に立ち、パートナー企業に実施したアンケート結果を報告しました。福吉氏は調査の理由について、そもそも「がん検診」には自治体と職域の取り組みがあり、前者は厚労省からの指導や情報共有があるのに対し、職域の活動は連携もなく、他社・団体の好事例を学ぶ必要があったと語りました。
当調査で明らかにしたかった内容として「現状の把握=課題の可視化」「受診率向上に寄与する取り組みの調査=どうやって受診率が上がったかを知る」「就労支援の実情把握=がんになった人への支援はどうなっているかを把握する」といった3点を説明しました。
そしてプロジェクト参画企業(社員数1000人以上から100人未満まで)の411社・団体から得たアンケート結果を「平成25年度推進パートナーがん検診受診率現状調査より」と題して分析・解説しました。概要は以下のようなものです。1社あたりのがん患者(社員)は平均8.0人で最大値が370人。驚くべき数字を伝え、がん対策は今や大きな経営課題であると説明しました。
また、企業・団体をがん検診の受診率により「低(40%以下)」「中(80%以下)」「高(81%以上)」と3グループに分類し、施策を調べた結果も発表されました。それによると…全体結果として「企業が検診費用を負担する・しない」は受診の阻害要因になっていないことが判明。しかしそれは一般健診との同時受診が行われている胃がん・肺がん・大腸がん検診についてで、別で予約などが必要な乳がん・子宮頸(けい)がん検診は結果が異なると語られました。
つまり『ついで検診』である胃がん・肺がん・大腸がん、『わざわざ検診』である乳がん・子宮頸がん検診には別のアプローチが必要で、後者は費用負担と受診時間の就労扱いなどのサポート、行動を促す啓発が必要との示唆がありました。報告の最後には就労支援への問題提起も。がんの罹患は個人情報かつセンシティブな事柄で、社内にがん患者がいるかどうか突っ込んだリサーチがなされていないと語られ、知らない限り支援はできないこと、90%の企業・団体が就労支援を全くしていないと指摘。事実の把握やがんになった人へのサポートが重要と語りました。
▲就労支援について問題提起を行った福吉氏
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メインプログラムは中川先生の基調講演
▲がん検診の重要性を説明する中川先生
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第2部のメインプログラムとして本年度セミナーの掉尾を飾ったのは、東京大学医学部附属病院放射線科准教授・中川恵一先生による基調講演。「がん対策推進企業アクション」アドバイザリーボードの議長でもある中川先生が、長年のがん治療に基づいて「がん検診」の重要性を訴えました。先生は「先進国でがんによる死亡が減っているにも関わらず、日本だけが増えている」、しかもそれが「史上空前のハイペースで進んでいる」と説明。がん発生リスクは老化によって高まるため、急激に高齢化が進んだ日本で1981年から死因のトップに躍り出ていること、その対策が追いついていないと説明しました。
がんに対する誤解もきわめて多いと指摘。「がんにならないためどうしているか」と尋ねられ、一般人が多く答える「焼き魚・焼肉の焦げを食べない」「日の光を浴びない」などは誤った認識だと説明。「うちはがん家系」という言い方についても、遺伝は5%程度のファクターでしかないと語りました。次いで、がん発生のメカニズムを解説。1日に1兆回といわれる細胞分裂の過程で、5000個程度のコピーミスが起き、多くは免疫細胞によって退治されるものの、ひとたび見逃されたがん細胞は成長。塊としての「がん」になっていくと説明。がん発生の最大要因は老化だが、生活習慣の乱れによってリスクは一層高まると語り、さらに喫煙・飲酒・食の欧米化・運動不足などの影響を詳細に解説しました。
また、日本は働き盛りの20~30代女性に乳がん・子宮頸がんの罹患が多く、同世代のがん患者数は男性を大きく上回っている事実を紹介。一方で40代を超えると男性がん患者が一気に増え、女性の社会進出と高齢化や雇用延長が進む日本で、がんは人材損失の大きな問題であると指摘。いちばん良いのはがんにならないこと。しかしがんは老化なので、健全な生活を徹底していても発生リスクがあり、早期発見・治療することがポイントと語り、がん検診の重要性を次のように説明しました。
一般的に早期がんは大きさで1~2 cmを指す。腫瘍が1 cm大になるまでには10年~20年を要し、それ以前は専門医も発見が難しい。発見できる1 cm大から2cmへの成長は約1、2年で、年1回必要ながん検診を受けていれば、早期発見と治療が可能。いつできるかわからないがんに網を張っておくというのが「がん検診」である…と語り、職域におけるがん検診のさらなる取り組み強化を促し、早期発見なら通院治療も可能。仕事をしながら治療を受ける人への就労支援も重要であると呼びかけました。
講演後は先生への質疑応答コーナー。学校で子どもたちにがん検診の重要性を説いている先生に、「教育・指導の難しさ」を尋ねる質問がありました。先生は「親ががんで亡くなった子供も少なからずいて、また稀ではあるが小児がんの生徒もいるため、十分に配慮しながら教えている」と語り、その結果として子どもたちも良く耳を傾けてくれると説明。その他の複数の質問にも丁寧に回答し、講演を締めくくりました。
▲質疑応答では、参加者から複数の質問が寄せられました
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