2014/11/26
がん対策推進企業アクション「福岡セミナー」を開催しました
2014年11月5日、福岡県福岡市のJR博多シティにおいて〈がん対策推進企業アクション「福岡セミナー」〉を開催しました。全国7ブロックセミナーの第三弾。今回も13:30の開場前からたくさんの人が訪れ、盛況の中、セミナーが開幕しました。
▲当日の受付風景
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国のがん対策と企業アクションの概要説明
最初に登壇したのは厚生労働省 健康局 がん対策・健康増進課の藤下真奈美・課長補佐でした。平成19年度より本格的な活動をしている「がん対策推進基本計画」のここまでの歩みを紹介し、そのなかで「がん対策推進企業アクション」が、国家プロジェクトとして推進されてきたことも説明。その後、がん検診・50%受診に向けた平成28年度までの計画概要と、最近のがん対策施策を解説しました。
平成25年の国民生活基礎調査によれば、がん検診の受診率は平成22年の前回調査から全分野においてアップしており、たとえば男性の肺がん検診は47.5%と20ポイント超向上。受診率向上の要因として、藤下氏は自治体における計画的施策の推進を指摘しました。さらに職域での受診率向上が顕著で、がん対策推進企業アクションの貢献度も大きいと語りました。そして今後は、がんになった人への就労支援にさらなる注力をしていくと語って降壇しました。
次に登壇したのは、がん対策推進企業アクション・事務局長の大曽根哲氏です。「がん対策推進企業アクション 事業概要」として、まず日本におけるがんの実情を最新データで紹介。日本は年間約80.5万人のがん患者が生まれている「がん大国」であり、「日本人の2人に1人」はがんに罹患(りかん)し、「3人に1人」は、がんがもとで死亡していること、年代別・性別では、働き盛りの女性にがん患者が増えていることなどを説明しました。また国民生活基礎調査についても触れ、受診率は向上しているが、まだ国の目標値に達していないと補足説明をしました。
その後、がん対策推進企業アクションの詳細な活動状況を紹介し、平成26年10月現在で1353の企業ならびに健保組合がプロジェクトに参加していること、その従業員数は295万人におよぶことを紹介。セミナー開催地の福岡県からは68の企業・団体が参加していると説明しました。当プロジェクトへの参加にあたって、企業・団体の費用負担は一切なく、参画によってさまざまなメリットがあることもアピール。未加入の方々へプロジェクト参加を呼びかけました。
▲厚生労働省・藤下課長補佐。最近のがん対策施策の状況などを説明しました
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▲事業概要を説明する大曽根事務局長
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福岡県のがん対策の取り組み
がん対策推進企業アクション事業説明の後に用意されていたプログラムは、「福岡県のがん対策の取り組み」でした。福岡県保健医療介護部 健康増進課の篠原係長が登壇。まず、福岡県が平成24年から本格的に受診率向上の施策を展開している背景を説明しました。それによると、福岡県においても「がん」は死亡原因の第一位。一方、がん検診の受診率は低迷しており、「福岡県働く世代をがんから守るがん検診推進事業」としてプロジェクトを推進しているとのこと。
篠原氏はその後、施策を具体的に説明。企業・団体の参加登録を募って職域で啓発していること、活動のためポスター・チラシ・がん検診ハンドブックなど多様なアイテムを提供していることが語られました。また、登録事業者向けのフォーラムを年1回開催していることや、市町村や医療機関への働きかけについても説明。未参加の企業・団体に参加を呼びかけて降壇しました。
▲福岡県保健医療介護部 健康増進課の篠原係長が県の取り組みを説明しました
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第2部は推進パートナー勉強会
第2部の冒頭に講演を行ったのは、株式会社キャンサースキャン 代表取締役 福吉潤氏でした。福吉氏はパートナー企業に実施したアンケートの調査結果・分析を事務局の立場から報告。「平成25年度推進パートナーがん検診受診率現状調査より」と題された報告・分析の概要は以下のようなものです。
2014年度末(2月)にパートナー企業・団体1206社を対象にEメールでアンケートを実施。回答企業・団体は社員数1000人以上の大企業から、100人未満の中小企業まで411社。福吉氏は当調査の実施目的について三つポイントを挙げ、「課題の可視化」「受診率向上に寄与する取り組みの掘り起こし」「がん患者の就労支援の実情把握」と説明しました。そして調査の結果、回答企業1社あたり平均8.0人のがん患者(社員)がいること、最大値が370人だったことを伝え、がん対策は今や大きな経営課題であると指摘しました。
また回答企業を受診率によって「低」「中」「高」グループに分類。グループごとの施策を調査分析した結果も発表されました。全体結果として企業による受診費用負担の有無は阻害要因になっていないと語られ、しかしそれは胃がん・肺がん・大腸がん検診についてであり、乳がん・子宮頸(けい)がん検診は、費用負担や企業のサポートがポイントになるという説明がなされました。サポート内容では受診時間を就労扱いとすることや、社員の自発を促す啓発の必要性などを指摘。「低」→「中」→「高」へステップアップする際に、見習うべき他社の取り組み・ポイントも詳細に解説されました。
また罹患は個人情報かつセンシティブな事柄で、会社にがん患者がいるかどうか突っ込んだリサーチがなされていないという現状を伝え、今後は事実把握と就労支援の取り組みがきわめて重要であると示唆しました。
▲「推進パートナー勉強会」の講演を行う福吉氏
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メインプログラムは中川先生の基調講演
▲がん検診の重要性を説明する中川先生
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セミナーのメインプログラムは、東京大学医学部附属病院放射線科准教授・中川恵一先生による基調講演。「がん対策推進企業アクション」アドバイザリーボードの議長でもある中川先生が、長年のがん治療に基づいて「がん検診」の重要性を訴えました。先生は、まず「がん」発生の要因は老化であると説明。日本で急激に高齢化が進んだ結果、1981年から死因のトップに躍り出ていること、その対策が追いついていないと解説しました。また、がんは細胞分裂の過程で起きる遺伝子のコピーミスというメカニズムを説明。生活習慣の乱れによって「がん」発生のリスクが増えると語り、喫煙・飲酒・食の欧米化・運動不足などの例を挙げて詳細な解説をしました。
さらに日本では、働き盛りの20代・30代女性に乳がん・子宮頸がんの罹患が多く、同世代のがん患者数は男性を大きく上回っている事実を紹介。一方で40代を超えると男性がん患者が一気に増えるため、女性の社会進出や高齢化・雇用延長が進む社会では、今後、人材損失の大きな問題になっていくと示唆。また延命治療は進化したものの完治に導く治療はさほど進化しているわけではないと続け、がん死亡を減らすには今でも「予防」と「早期発見・治療」がポイントと説明しました。
一般的に早期がんは腫瘍の大きさで1cm~2cmのステージを指し、1cm大になるまで10年~20年を要すること。それ以前は発見がきわめて難しいことも説明。検診で発見が容易になる1cm大から2cmへの成長は約1、2年。だからこそ年1回、必要ながん検診を受ければ、早期発見と治療が可能と解説。数年内には学校で「がん」の授業が始まることも紹介し、子供と大人の知識格差をつくらないため職場における啓発がさらに必要と呼びかけました。
講演後は先生への質疑応答コーナー。出席者の「参考となる企業・団体の取り組み事例を紹介してほしい」という質問に、「がん対策推進企業アクションのサイトにたくさん掲載されています」と語った後、部下の受診が管理職の評価に反映されるローソンの事例などを紹介。複数の質問に丁寧に回答した後、講演を終了しました。
▲質疑応答では、参加者から複数の質問が寄せられました。
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