2014/03/31
「がん対策推進企業アクション 中国ブロック事業説明会」活動レポート
2013年11月6日、広島県広島市のTKPガーデンシティ広島 ブルーダイヤにて、「がん対策推進企業アクション 中国ブロック事業説明会」を開催しました。本事業説明会では、「がん対策推進企業アクション」にご興味・ご関心をもって頂いた企業の皆様を対象とした、臨床現場でご活躍されている東京大学医学部附属病院放射線科准教授 中川恵一氏と、産業医の立場としてマツダ株式会社 健康推進センター 奈良井理恵氏、新日鐵住金株式会社 名古屋製鐵所 安全環境防災部 安全健康室産業医 田中完氏をお招きして、ご講演いただきました。
主催者である厚生労働省健康局がん対策・健康増進課長 椎葉茂樹氏のご挨拶を事務局が代理で述べました。現在国家プロジェクトとして推進している「がん対策推進企業アクション」は、職域におけるがん検診受診率向上を企業連携で推進していくことで、がんと前向きに取り組む社会気運を高めることを目標としていること、従業員と家族の安心安全、ひいては企業の経営基盤をより確かなものにするためにも、本事業に「推進パートナー」として参加、協力していただきたいと説明しました。
続いて、がん対策推進企業アクション事務局より、「がん対策推進企業アクション」の目的と意義について説明し、「推進パートナー」の登録に関するご案内を行いました。
幅広くがん対策に関する活動に取組んでこられ、現在がん対策推進企業アクションアドバイザリーボード議長である東京大学医学部附属病院放射線科准教授の中川恵一氏(以下 中川氏)より、「がん検診のススメ」というテーマで基調講演をいただきました。
中川氏は2008年のがんの罹患データを用いて「日本人ががんに発症する確率は男性が58%、女性が41%。年間75万人が新たに患者となり、36万人ががんが要因で死亡し、毎年上昇傾向にある」と紹介し、また「がんは6割近く完治する」とご説明をされました。また、中川氏は「罹患率が年々あがっており、2013年度には男性は62%、女性は48%になるだろう」とも推測され、このような状況はあまり認識されていないことなど、日本のがんに対する教育があまり進んでいない状況や教育制度の整備に注力する必要性についてご意見を述べられました。
次に、中川氏はがんについて、「がん細胞は栄養があるかぎり不老不死であり、栄養を求めて全身に広がり、死に至らしめる病気である」と説明されました。また、「がん細胞は細胞の設計図であるDNAが複製を失敗することで発生する」とも説明されました。「がんは成長するために相当の時間を要する。」ことに加え、「DNAが経年劣化することでがん細胞の発生数が増加する」ことから2重の意味で「がんは老化の一種である」と述べられました。
最後に、中川氏はがん検診の重要性を強調されました。「がんは医療費が高額になることもあるが、糖尿病や高血圧などと比較して医療費補助が手厚いことから患者本人の負担は抑えられる。しかし、その一方で、日本の社会における女性進出や定年延長を背景に会社のがん患者は今後も増えていくことに伴い、健保組合の支出が増加し財政悪化につながる」と述べられ、がん検診による支出増加の抑制が期待できることから、職域におけるがん検診を推進していくことの効果、すなわち本事業のような企業連携を通じた啓蒙活動につなげることの有効性についてご示唆をいただきました。
▲講演する中川恵一氏
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広島県では、6つの柱で日本一のがん対策を目指す第2次がん対策推進計画を作成し、「がんで死亡する県民が減ること」、「がん患者や家族の苦痛が減り、療養生活の質が向上すること」そして「がんになっても,自分らしく豊かに生きることのできる地域社会を構築すること」を目標に、がん対策を推進されています。本事業説明会では広島県のがん対策というテーマにて、広島県健康福祉局がん対策課 課長 武田直也氏(以下 武田氏)よりご講演いただきました。
武田氏は広島県のがん対策の柱である6つの施策をご紹介いただきました。
一つ目の柱は「がん予防」であり、具体的な取組みとして健康促進にむけたイベント等を実施する「ひろしま健康づくり県民運動」、禁煙支援プログラムなどを提供する「たばこ対策」、そして肝疾患患者にフォローアップシステムを提供する「肝炎対策」をご紹介されました。
二つ目の柱は「がん検診」であり、自覚症状のない早期のがんの疑いを発見し、精密検査で診断・治療につなぎ死亡リスクの軽減と体に優しい治療の選択を可能にすることを目標に『対策型がん検診』および『任意型がん検診』を推進していると述べられました。また、「平成28年までにがん検診受診率50%以上」を目標に、さまざまなイベントやキャンペーンを開催しているとも述べられました。
三つ目の柱は「がん医療」であり、広島県では県内に存在する7つの二次医療圏全てにがん診療連携拠点病院を整備するなどがん医療の水準を向上するための取組みを説明されました。また、広島県がん医療ネットワークを構築するなど、検診から治療、経過観察まで切れ目のない高度な医療の提供を実現できる体制を整備していると述べられました。
四つ目の柱は「緩和ケア」であり、「がんと診断された時から、患者・家族の希望に応じた緩和ケアが提供できる体制作りを支援する」とご説明を頂きました。
五つ目の柱は「がんに関する情報提供・相談支援」であり、具体的な取組みとしてがん情報サポートサイト「広島がんネット」の運営、がん患者さんのための「地域の療養情報」サポートブックの作成などをご説明頂きました。
六つ目の柱は「がん登録」であり、健康増進法やがん対策基本法に基づき実施しているがんの統計についてご説明を頂きました。
最後に「県民,医療者,企業など県内のさまざまな皆様と協働して『がん対策日本一』を実現し、安心な暮らしづくりを進めます」と述べられ、講演を結ばれました。
▲講演する武田氏
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「マツダにおけるがん対策の現状と就労支援の実際」
大学卒業後、上場会社の産業医としてご活躍。その後、2005年より現職にてご活躍されている奈良井理恵氏以下 奈良井氏)より、「マツダにおけるがん対策の現状と就労支援の実際」というテーマで基調講演をいただきました。
奈良井氏は「がん対策の現状」と「就労支援」の2つのテーマを取り上げられました。
はじめにマツダ株式会社(以下マツダ)が就労者に向けて実施している4つのがん対策について説明をされました。1つ目は発がん性のある物質への対策として石綿取り扱い作業者・退職者への健診や有害性が未知の化学物質へのばく露低減対策、2つ目は喫煙対策として禁煙支援対策に加え受動喫煙対策、3つ目は生活習慣の改善や感染症予防に関する教育、そして4つ目に海外赴任者に対する肝がんのリスクとなるB型肝炎の予防接種です。また、「マツダでは従業員にがん検診を実施しており、希望者には労働安全衛生法の健診と同時に実施している。また、自己負担ではあるものの、会社の福利厚生制度を使って、負担を低減することも出来る」とご説明されました。そしてその結果、多くの方ががん検診を受診していることも付け加えられました。
次に就労支援について、マツダでのがんによる休職者状況を踏まえて、ご説明されました。「マツダでは、3年間に累計76人ががんが原因で休職しており、大腸がん・胃がん・肺がんについては年間3~4人が休職する」と語られ、発見経緯としては「自覚症状が最も多く4割弱で、がん検診からは3割程度」と説明されました。
一方、「復職できたのは3割、うち半数は夜勤禁止などの就業上の配慮を行うことで、復職後も就労継続」と述べられ、復職にはまだハードルがあることを説明されました。
奈良井氏はマツダではがんに特化した就労支援制度はないものの、復職制度や勤務制度が整っており、安心して使用できる状況にあると述べ、実際にがんになった従業員が復職にいたるまでの事例についてご紹介いただきました。
最後に奈良井氏は「がんは会社にとっては、貴重な人材の損失リスクにつながることから、企業のがん対策は今後、さらに重要となってくることそして会社の実情と本人の治療状況にあった就労支援が大切である」と講演を結ばれました。
▲講演する奈良井氏
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田中完氏による講演「がんと就労に関する現状と受診率向上の具体的事例」
総合病院 救急総合診療部での勤務後、専属産業医として従事される新日鐵住金株式会社 名古屋製鐵所 安全環境防災部 安全健康室 産業医 田中完氏(以下 田中氏)から「がんと就労に関する現状と受診率向上の具体的事例」というテーマにてご講演いただきました。
講演では「がんと就労に関する課題」と「受診率向上の具体的事例」をテーマに取り上げられました。
がんと就労に関する課題として、田中氏は「離職・復職」および「予防」の問題があると語られました。「離職する要因は、体力・能力の低下や治療に必要な時間の制約に対して、人員・仕事量・制度に対して会社が対応できない、仕事がコントロールできないといったことがあげられる」と語られ、「就労支援をすることで離職を防ぎ、復職を促すことができる」と述べられました。
また、予防の方法としてがん検診について言及されました。新日鐵住金株式会社(以下 新日鐵住金)名古屋製鐵所では、がん検診について従業員にアンケート調査を行い、がん検診に対する意識調査を実施していると述べられました。
次に受診率向上の具体的事例をご紹介されました。新日鐵住金では、「環境整備」、「リスク層別の受診勧奨」、そして「教育による行動変容の促進」の3つの軸で受診率向上に取り組まれています。また、そして目的の共有化のために、チームを作ることが大切だと語られていました。実際に新日鐵住金名古屋製鐵所でも関連部署と協力(チームを組む)をし受診率向上に取り組んだところ、胃がん・大腸がんにおいて、20%台だった受診率は40%まで上昇し、検診受診率の上昇につながり、在職中死亡、就業制限者が大幅に減少したと説明されました。また、これからも受診率は上昇すると予測されていました。
最後に「がんになった従業員であっても、その状態を勘案しフレキシブルに人材活用すれば、決してマイナスにならない」と述べられ、講演を結ばれました。
▲講演されている田中氏
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