2013/03/29
平成24年度「がん検診企業アクションシンポジウム」を開催しました
平成24年度「がん検診企業アクション」事業の総括として開催したシンポジウムには、推進パートナー企業・団体の人事・厚生担当などの方々や、これから推進パートナーとして当事業へ参加を検討している方々に、数多く参加いただきました。
▲厚生労働省 健康局 がん対策・健康増進課長 宮嵜雅則氏が冒頭のあいさつを行う |
新日鐵住金株式会社 君津製鐵所 安全環境防災部 上席主幹 産業医 宮本俊明先生
宮本先生は、企業の健康管理の重要なミッションとして、『従業員が「病気が原因で十分に働けない」という事態はできるだけ避ける、もし従業員が病気になってしまった場合は治療しながらの就労が必要』、『従業員が「働くことが原因で病気になる」という事態は、絶対に防ぐ』という2つのポイントがあることを説明されました。そして、企業におけるがん検診の実施上の留意点として、過度の期待とそれに伴うトラブルを避けるため、がん検診の「意味と内容」をきちんと周知することが重要であると説明されました。社員に提供するがん検診はあくまでスクリーニング検査であり、確実に『がん』を発見できるという検査ではなく、がんに罹患している可能性のある人に対して、次のステップである精密検査へ進んでもらうための検査であると説明されました。そして、がん検診によってがんに罹患している可能性のある者を早期に掬い上げ、次のステップで適切に対処することにより、がんによる死亡率を低減させることが最終目的であると説明されました。
がん患者の就労支援については、「産業医と主治医の連携がカギ」であることや、がん患者に対する就業配慮の事例が紹介されました。最後に、がん患者の就労は企業にとって不可避的課題で、職場の理解やどこまで就業配慮可能かといった課題があることを述べられました。
▲企業におけるがん対策、がん患者に対する就労支援の事例について、講演された新日鐵住金株式会社の産業医宮本先生 |
社団法人日本医師会 副会長 今村聡先生
今村先生から、市町村が実施するがん検診は、厚生労働省が「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」を定めており、科学的根拠に基づいた指針に基づいて推進されているが、企業(職域)が実施するがん検診には、実施義務やガイドラインが定められておらず、検診方法、対象年齢、受診間隔等の指針は存在していないことが指摘されました。
企業のがん検診については、ルール(指針・ガイドライン)がないため、健診方法、対象年齢、受診間隔など企業によって異なる状況で、実態に関する統計は、検診の提供者側にもない現状であり、まずは、実態を把握し、さらに各検診の有効性を示すエビデンスを準備していかねばならいと考えていることを述べられました。がん検診の推進にはパワーがかかるが、この「がん検診企業アクション」事業とともに推進していきたいと述べ、「がん検診企業アクション」への期待も感じられました。最後に、現在のがん検診について、「市町村との連携」、「産業医の活用とがん検診に関する教育の推進」(日本医師会が主催する研修カリキュラムの中に、『がん』に関する研修がない現状を変えていかねばならない)、「研究成果をまとめて検診ガイドラインを作成・更新する常設機関の設置」、「がん検診における実態の明確化と精度管理の徹底がなされた検診の普及」というがん検診に関する改善提案を提起されました。そして、日本医師会としても、今後「がん対策」に力を入れていくことを強く述べられました。
▲今後「がん対策」に力を入れていくと語る社団法人日本医師会副会長の今村聡先生 |
(コーディネーター)
東京大学医学部附属病院放射線科准教授 中川恵一先生
(パネリスト)
新日鐵住金株式会社 君津製鐵所 安全環境防災部 上席主幹 産業医 宮本俊明先生
社団法人日本医師会 副会長 今村聡先生
株式会社ローソン 上級執行役員CEO補佐(HR担当) 鈴木清晃氏
パネルディスカッションの冒頭、中川恵一先生(東京大学医学部附属病院放射線科准教授)より、「がん検診のススメ」というテーマで講演いただきました。
講演で中川先生は、まず、『がん』による死亡者数が、先進国の中で日本だけ増え続けていることが紹介され、『がん』は細胞分裂の過程で起こるコピーミスであること、長く生きていれば少なからずコピーミスは発生する、つまり、 『がん』とは老化であるとも言えること等、『がん』が発生するメカニズムを説明されました。そして、「雇用年齢の長期化」と「女性の社会進出」によって、今後就労世代の『がん』を確実に増やすことを説明されました。その後、「国民皆保険制度」は日本が長寿社会を実現するのに極めて重要な役割を担ってきたものの、がん治療の現場において、分子標的薬の登場により、非常に高額ながん治療が行われるようになったことから、国民皆保険を支える健康保険組合の財政はますます厳しくなることが予想されること、そのため、がん検診を実施し、早期発見・早期治療に努めることが重要であること等を紹介されました。
そして、推進パートナー企業・団体向けに実施したアンケート結果について解説されました。本アンケートは、今年1月8日から2月28日にかけ、調査時点の全ての推進パートナー(917社・団体)を対象に実施し、がん検診推進に関する実態や取組みと、がん罹患者の就業支援の実態について調査したもので、全体の22.9%にあたる210社・団体から回答を得たものです。回答いただいた推進パートナーのうち、受診率を把握している企業・団体(162社・団体)の平均受診率は、73.7%と非常に高い実績を残していました。こうした推進パートナーは、いわば日本を代表する職域がん検診の先進企業と考えられますが、逆に、受診率を把握していないや、回答していない企業が多数あるため、そのような企業へのサポートが今後も重要であることを語られました。また、がん検診に関する受診者の費用負担の観点からみると、受診者の費用負担をなくすことが受診率向上のために効果があると考えられる一方で、受診者の費用負担がある企業・団体においても、平均受診率は約60%と、がん検診企業アクションの目標である50%を上回っていました。健康保険組合の財政が厳しくなるなか、費用負担以外の推進施策として、「受診時間を就労扱いにするなど受診しやすい環境づくり」や、「医療職の専門スタッフが積極的に関与する」など、職場や健診関係スタッフの取組みが、受診率向上に有効ではないかと解説されました。
また、がん検診推進に関する課題点として、「被扶養者への効果的な受診勧奨」や、「人材不足」、「企画力不足」などが多かったこと等を説明されました。
がん罹患者の就業支援の実態については、回答した210社・団体のうち、全体の69.0%にあたる145社が健康保険法で定められている休業補償制度とは別に独自の支援制度を設けていること、また、産業医を配置している企業・団体では、その他の支援制度も充実していること等を説明されました。就労支援の課題としては、「就労支援をしなければならないという意識はあるが、何から始めたら良いのか分からない」(35社・団体)、「就労支援の制度に関する情報が不足している」(28社・団体)、「がん罹患者の取り扱いに関する医学的な情報が不足している」(24社・団体)など、情報不足による項目が目立つことから、本事業としても、こうした項目に対してサポートしていかなければならないことを語られました。
▲がん検診を実施し、早期発見・早期治療に努めることが重要であると語る東京大学医学部附属病院放射線科准教授の中川恵一先生 |
年末に報道された「定期健康診断・人間ドックを受診しなかった社員とその上司に対して賞与を減額する」制度を導入するに至った新浪社長の想いや、株式会社ローソンで現在行っている社員の健康を守るための「健康アクションプラン」について紹介されました。「健康アクションプラン」では、摂取したカロリーを毎日記録するカロリー管理、体重管理、毎日歩いた歩数を歩数計から記録する運動管理の3つの機能からなるスマートフォンのアプリを利用して、健康に良い食事・運動を習慣化させることを目指していると説明されました。今年の対象者270名に対して、アプリを配布、利用率は98%にものぼったということが紹介されました。アプリを利用していない対象者については、本人とその上司にも直接連絡が届くようになっており、利用を促しています。ここまでやるのは、やはり新浪社長はじめ経営層の、「誰一人損なってはならない」という強い想いによるものとのことです。定期健康診断・人間ドックによって病気を早期に発見し、「健康アクションプラン」によって生活習慣の道筋を立ててあげることで、社員の健康を守っていきたいと述べられました。
▲株式会社ローソンの取組みを紹介する上級執行役員 CEO補佐(HR担当) 鈴木清晃氏 |
パネルディスカッションでは、株式会社ローソンの取組みや、がん予防、たばこ対策、がん教育、かかりつけ医(開業医や産業医)の役割など内容は多岐に渡りました。
株式会社ローソンの取組みについて、産業医である宮本先生は、「報道内容と本日の説明を聞いて、アプリ開発やローソン店舗でデータ転送できる仕組み構築・機械設置・個人機器貸与など、全国にネットワークを張り巡らせているローソンならではの取組みだと思った」と語られ、今村先生は、「義務という社員にとっては、決して快くない、ネガティブなことを押し付けるだけでなく、本人が楽しみながら積極的に生活習慣を変える行動をとれる仕組みを構築していることはすばらしい」と語られました。そして、鈴木氏から、「「みんなと暮らすマチを幸せにする」を理念とする会社として、『マチのみんなの健康を守る』そしてその為に先ず、「社員が健康である」ということに対して、様々な施策を束ね、今年度から導入できるようになった」と語り、今後も健康保険組合、産業保健師、管理栄養士など、様々な立場の人々とが協力し、社員の生活習慣改善に全力を尽くしていくということを語られました。
そして、中川先生が、「生活習慣改善はがん予防にも有効、たばこ対策も効果が高い」と説明され、宮本先生は、「喫煙率を下げたい対象について、喫煙による有害性をきちんと説明するとともに、受動喫煙を防止するため、分煙を進めている。」と説明されました。また、お酒についても、飲み過ぎないことが『がん』の予防になることが中川先生から語られ、「アジア人はお酒を飲むと、顔が赤くなる方がいる、そういう人が深酒すると、『がん』になる確率が高くなる。」と語られました。それに対して、今村先生は、「たばこについてもそうだが、お酒についても、正しい情報を発信していくことが重要である。そのため、がん教育がますます重要になってくる。」と語られました。
中川先生から、「がん対策において、かかりつけ医(開業医や産業医)の役割が今後ますます重要になってくる」というご指摘があり、今村先生から、「開業医の間で、これまで『がん』という切り口で、何ができるかという議論がされてこなかった、今後、がん対策において開業医に何ができるのか、真剣に議論していきたい。」と述べられました。そして、宮本先生は、「産業医に求められる役割が非常に広範囲に及んでいる、ローソンの取組みのように、予防対策は医師でなくてもできることがあると思うので、医師・医師以外の医療従事者・医療従事者以外で何ができるのか、話し合っていく必要がある。」と述べられました。
最後に、中川先生から、「来年度以降もこの国の取組みに積極的に取り組んで欲しい」と、中川先生から企業へのより一層の取り組み強化を呼びかけて、セミナーは終了しました。
▲パネルディスカッションの様子 |