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コロナ禍の中の従業員の健康を見守る

富士通株式会社

富士通株式会社
左から、
加藤 博久 氏(健康推進本部 事業推進部)
東 泰弘 氏(健康推進本部 健康事業推進統括部 統括部長)

memo 2019年度 がん対策推進パートナー賞「情報提供部門」を受賞したのが富士通株式会社です。
従業員は約3万2524人、男女比は83:17、平均年齢は43.6歳(2019年3月現在)。世界のICT(情報通信技術)業界で活躍する大企業です。昨年の10月には、総務省が主催する「テレワーク先駆者百選」最高位の “総務大臣賞”を受賞するなど、多様化する働き方に柔軟に対応しています。
がん対策においても、従業員にインターネットを利用したがん教育「eラーニング」を2020年に実施し、その教材をがん対策推進企業アクションで活用できるようにするなど、自社だけでなく他企業への情報提供にも積極的です。
そんな健康経営の第一線で奮闘する健康推進本部の東泰弘氏(健康推進本部 健康事業推進統括部 統括部長)と加藤博久氏(健康推進本部 事業推進部)のお二方にお話を伺いました。

--富士通は今年、インターネットを使ったがん教育「eラーニング」をグループの従業員約7万人に対して実施されましたが、なぜがん教育を従業員に行おうと思われたのでしょうか?

富士通は、企業内健康診断に1971年に胃がん検診を、1989年に大腸がん検診を取り入れるなど、早期からがん検診の受診率向上によるがんの早期発見、早期治療の実現を図ってきました。しかし、近年では高年齢従業員のがん、女性従業員のがんなど、従業員のがん発症者は増加傾向にあります。
そのため富士通では、当社グループの従業員約7万人を対象に健康教育としてがん教育を実施することで、従業員のがんに対する正しい知識の習得を促し、がんの予防につながる生活習慣の改善や、早期発見・早期治療のためのがん検診受診率向上を図りました。

--「eラーニング」はどのようなものでしょうか? また、実施してみて、従業員の反応はいかがでしたか?

まず2020年の1月に、がん対策推進企業アクションのアドバイザリーボード議長でもある東京大学の中川恵一先生による講義「がん予防と、治療と仕事の両立支援」を全社にライブ配信で行い、その後8月までの期間で約7万人の従業員に対し「eラーニング」の受講を推奨しました。93%の受講率となっています。
「eラーニング」は中川先生にご協力をいただき作成したもので、「がんの基礎知識」「がん予防につながる生活習慣」「早期発見・早期治療のためのがん検診の重要性」「仕事と治療の両立支援」などのプログラムで構成されています。
中川先生のセミナーに関しては98%の受講者が新しい知識の習得があったと、また、93%ががん検診や生活習慣に対する意識変化があったと答えています。このセミナー動画はアーカイブとして、今も社内イントラネットで見ることができます。
「eラーニング」についても、93%の受講率が示す通り従業員に好評で、幹部社員で約95%、一般社員で約90%が有益だったとのアンケート結果が出ています。英語版もありますので、外国人の従業員にも「こんなことを実施してくれて嬉しい」「知らなかったことを学べた」と大変喜ばれました。

※上記「eラーニング」は富士通のご協力により、がん対策推進企業アクションで改定されて、今後推進パートナー企業・団体もご利用できるようになる予定です。

東京大学の中川恵一先生による講義「がん予防と、治療と仕事の両立支援」

--コロナ禍ではネットを利用した「eラーニング」は今後も重要性を増していくと思われますが、現在の富士通でのテレワークの状況とがん検診の現状を教えてください。

2019年度のがん検診では、肺がん検診(胸部X線)は100%、胃がん検診(バリウム)は75.9%、大腸がん検診(便潜血)は91.6%、乳がん・子宮頸がん検診は59.4%の受診率でした。肺がん検診は毎年、胃がん・大腸がん検診は、35歳時に1回、40歳からは毎年実施しています。
2020年はコロナ禍により従業員の出社率を25%目標に設定しましたが、それ以上がテレワークに移行しており、出社率は20%程度だと思います。さらに4・5月は検診がストップしましたので、現状では2019年度よりもスタートが遅く、受診率は低くなっています。他の企業も同じだと思いますが、新型コロナは初めての経験ですので今後どのように受診率を上げていくのかが課題です。
また、婦人科検診は、年齢に関係なく全女性を対象に健康保険組合が主体となり乳がん検診と子宮頸がん検診を100%補助で行っています。乳がん検診は、40歳以上はマンモグラフィー、それまでは乳腺エコーで行います。これらの婦人科検診は、健康保険組合と提携している医療機関、事業所に派遣される検診バス、自分で選んだ医療機関の3つのパターンで受診することが可能です。今後さらに婦人科検診の受診率を上げていかなければならないと思っています。
2020年10月には中川先生の女性向けのセミナーをオンラインで開催し、このセミナーも好評で、ご家族にも見ていただきたいことから、自宅からでもアーカイブを視聴可能にしています。

--喫煙率はどの程度でしょうか?

喫煙率は20.6%で、年々低下しています。そして、2020年10月1日から、全国の全事業所の喫煙室を廃止し、禁煙としました。
禁煙サポート対策としては、様々な禁煙教育、会社の診療所などでの禁煙外来に加えて、2020年度は健康保険組合がオンライン禁煙プログラムを自己負担額1万円程度で提供し、すでに400人程度の応募がありました。
また、2019年度からは、喫煙したい人と禁煙を応援したい人がチームを組んで禁煙に挑戦する「みんなで禁煙チャレンジ」も行い、成功したチームには、1万円の商品券をインセンティブとして用意しました。

--出勤率が20%程度ということですが、従業員の健康管理や両立支援などへの影響はありますか?

2020年の3〜5月頃は、従業員がコロナにかからないことが第一優先事項でした。
7月には、固定のオフィスに出勤する従来の勤務の概念を変えて、多様な働き方を実現するための「Work Life Shift」の推進を発表し、オフィスのフリーアドレス化やコアタイムのないフレックス勤務を全従業員への適用、通勤定期代を廃止する代わりに在宅勤務の環境整備費を補助(通勤費は実費精算)するなど、これからのニューノーマルな働き方を推進しています。
働き方が大きく変化し、在宅勤務の機会が増え、運動不足によって生活習慣病リスクが増加していくかもしれない、あるいは上司や同僚とのコミュニケーションの不足によってメンタルヘルス疾患が増加するかもしれないという危惧を持っています。
オフィスに出勤する従来の働き方では、実際に目で見て「きちんと出社できるか」、「体調に問題はないか」を判断することができましたし、健康状態の不調は、出退勤の状況に現れました。しかし、テレワーク中心の働き方では、オンラインで出勤している状態でも本当に体調は大丈夫なのか、精神的に健康に働けているのかなど、判断しづらい部分があります。テレワーク中の従業員の健康状態をどのように把握していくのかもこれからの課題です。
一方、仕事と治療の両立という面では、就業時間や通勤の柔軟性が増し、より両立しやすい環境が整ってきたと言えると思います。

--富士通ならではの、健康への取り組みなどは他にもありますか?

新型コロナウイルス感染症への対応として、従業員の感染予防と不安解消のために、感染予防、消毒、検査、就業などさまざまな情報をHPで発信、医療職による相談窓口、質問を入れると自動的に答えが帰ってくる“チャットボット”を設置しています。
また、コロナ禍、新しい働き方でのセルフケアを支援するため、従業員が自由に「ストレスチェック」を受検できるようにし、随時相談の申し込みもできるようにしています。
在宅勤務中心で従業員が出社することが少なくなったため、快適なテレワークの過ごし方や在宅勤務での健康課題をテーマとした、HPでの情報発信やオンラインセミナーの配信にも力を入れています。
当社では、従業員だけでなく、ご家族の健康にも注力しており、従業員を対象に実施したeラーニングをご家族向けにアレンジして提供したり、中川先生のオンラインセミナーをご家族と一緒に視聴することを推奨したり、本人を取り巻く周囲もがん教育が受けられるようにしています。

--今後の健康施策について考えているものがあれば、教えてください。

全社健康教育「e-ラーニング」に関しては、2019年度はがん教育でしたが、毎年テーマを変えて実施していきます。2020年度は「頭痛」がテーマです。健康教育については、オンライン化を進め、映像教材やwebセミナーを活用して、どこにいても教育が受けられる体制を強化していきます。
ニューノーマルな働き方では、仕事内容・目的・ライフスタイルに応じて、時間や場所を従業員自らが自律的に使い分けるようになり、オフィスへの出社が必須ではなくなります。健康施策についても、これらを前提に「対面」と「オンライン」を目的に応じて使い分けていくことになります。現在はコロナ禍の影響もあり、オンライン中心の施策展開となっていますが、オンライン面談などをさらに有効に活用しながら、対面での施策が必要なものと切り分けていく必要があると考えています。
また、これからの新しい働き方の中で、従業員が早めに自分自身の体調変化に気づき、セルフケアが行えるように、1か月あるいは2か月に一度定期的に自分で体調のセルフチェックをする「パルスサーベイ」のトライアルを模索中です。

--ありがとうございました。

富士通株式会社 概要
■ 設立
1935年6月
■ 代表者
代表取締役社長 時田 隆仁
■ 従業員数
32,524人(2020年3月31日)
■ 本社事務所所在地
東京都港区東新橋1-5-2 汐留シティセンター
■ 事業概要
テクノロジーソリューション、ユビキタスソリューション、デバイスソリューション
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