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職員をがんにさせない!
がんになっても絶望させない、辞めさせない!
皆で支える!

社会福祉法人 聖隷福祉事業団

社会福祉法人 聖隷福祉事業団
常務執行役員 総務部長 彦坂 浩史 氏
特別顧問 東北大学名誉教授 大内 憲明 先生
聖隷健康保険組合 係長 深田 裕子 氏
法人本部 総務部次長 労務課長 請川 哲也 氏
聖隷健康保険組合 事務長 田中 達也 氏

memo 医療、保健、福祉、介護サービスなどの事業を幅広く手がける聖隷福祉事業団。1都8県に158の事業所を持ち、その職員は正職員で約9,800名(平均年齢38歳)、パート等を含めると約15,700人の職員を誇る社会福祉法人です。
2017年には聖隷健康宣言を策定、2019年2月には経済産業省が実施する健康経営優良法人認定制度の大規模法人部門「ホワイト500」にも認定されています。
医師や看護師など、病気の治療と向き合うたくさんの職員を抱える聖隷福祉事業団ですが、職員に対するがん対策はどうなっているのでしょうか。常務執行役員の彦坂浩史氏と事業団の特別顧問であり厚生労働省の「がん検診のあり方に関する検討会」座長でもある大内憲明東北大学名誉教授(医学博士)にお話をお伺いしました。

▲右) 特別顧問 東北大学名誉教授 大内 憲明先生、左) 常務執行役員 総務部長 彦坂 浩史氏
▲右) 特別顧問 東北大学名誉教授 大内 憲明先生
 左) 常務執行役員 総務部長 彦坂 浩史氏

--聖隷福祉事業団では、「職員をがんにさせない!がんになっても絶望させない、辞めさせない!皆で支える!」をスローガンにされていますが、具体的な施策についてお伺いさせてください。

彦坂氏

聖隷福祉事業団では、2019年度から従来の予防や治療への支援に加え、長期にわたる通院や治療による体調の変化に配慮した休暇制度などを導入しました。私どもは医療福祉の専門家集団です。働く職員すべてが最善の医療を受け、がんと付き合いながら働き続けられる環境と支援する体制を今後もさらに整えていきます。
まずは、がんにならないための「予防」についてですが、健保組合が施設ごとの喫煙率調査や、ニコチンガムの無料支給など、職員の禁煙対策を積極的に行なっています。さらに職員が加入している互助会が禁煙外来にかかる費用すべてを負担し、無料で禁煙治療を受けることができます。また、職員の健康増進を応援するために、法人内でのソフトボール大会などのスポーツイベントへの助成金の給付、職員の自発的な健康増進活動(スポーツクラブでの運動など)に対しても支援をしており、2018年にはスポーツエールカンパニーの認定をスポーツ庁より受けています。

スポーツエールカンパニー
大内氏

がんの予防には、まずがんにならないようにする「一次予防」。がんになっても早期発見を迅速に行うがん検診の「二次予防」。治療、再発防止、リハビリなどをしながら仕事との両立を行うなどの「三次予防」がありますが、この3つすべてを並行して行うことが重要です。
がんという病気は誰の身に降りかかっても不思議ではない国民的病気です。早期発見・早期治療をすれば生存率はとても高くなります。がんになったからといって仕事を辞めたり、極度に落ち込んだりしてそれまでの普段の生活リズムを崩すことは、よくありません。いかにがんにならない生活を送り、がんになっても早期発見・早期治療をし、治療を継続しながら働くことが求められています。

--二次予防であるがん検診については、どのようなことをされていますか?

彦坂氏

聖隷では、通常の職域での健康診断と希望者による1日人間ドックを行なっています。人間ドックでは、各種がん検診を受けることができます。35歳以上の本人は無料で胃がん、肺がん、大腸がん、乳がん、子宮頸がんなどのがん検診を受けられます。扶養家族と35歳未満の本人でも希望者は互助会と健保の補助により、安価で受診することができます。また、婦人科検診などのさまざまなオプション検査にも補助が使えます。
現在健康診断の受診率は100%、人間ドックの受診率は昨年で65%となっています。

大内氏

実は、職域におけるがん検診には自治体で行う健康増進法に基づいた住民検診のような法的根拠がなく、保険者や事業者が福利厚生の一環として任意で実施しているため、検査項目や対象年齢等、検診の実施方法が様々です。そのデータの集積もできていません。現在、厚生労働省と対策を協議中ですが、今集まっているデータだけを見ると、職域ではまだ3〜6割のがん検診受診率でしかないといわれています。聖隷のがん検診(=人間ドック)受診率が65%と聞くと、少ないと感じられるかもしれませんが、実際は平均値よりもかなり高いといえます。しかし、ここからさらに上げていくことが大切です。
また聖隷では、保健事業部において、検診後に要精密となった人に対する事後強化支援プロジェクトを立ち上げ、フォローアップも行なっています。検診後に要精密となった人が再検査を受ける割合は、市町村の場合は大腸がんで7、8割が再検査を受けていますが、職域では5割にも満たないのが現状です。聖隷では6割ほどと、全国でもトップクラスですが、さらに強化していかなければなりません。しかし実際は、個人情報の取り扱い等の問題があり、再検査受診勧奨の壁となっていました。厚生労働省では、「職域におけるがん検診に関するマニュアル」を策定しています。これを参考にして科学的根拠のあるがん検診を職域で推進していくとともに、精密検査の受診勧奨もしていかなければなりません。
大切なのは、がん検診を受けたから安心ではなく、受けた人がその後どうなったのか、再検査は受けたのか、不利益を受けていないのか、適切な治療が受けられ、仕事との両立もできているのか、といったことを事業主が踏み込んで調べられる環境を作り、国民全員をがんによる不幸から守ることです。聖隷ではがんになっても辞めさせない、そして治療をしながら働き続けられる環境づくりを率先して行なっており、がん対策に対して積極的だと思います。

彦坂氏

がん検診だけでなく、聖隷では本人や扶養者の医療費、自己負担分も互助会が見舞金を出しており、医療費は実質的に無料です。家族の扶養者も補助を使っての人間ドック受診が可能です。出産費用も無料です。そのお陰かもしれませんが、職員の出産は毎年500件ほどあり、うれしい悲鳴を上げています。
また正職員の約70%が女性ですので、女性の働きやすい環境や制度設計を行っています。女性の活躍に関する取り組みの実施状況が優良な企業に認定される、厚生労働省の「えるぼし」にも認定されています。

えるぼし
https://white-job.com/library/?page_id=328

--がん治療と仕事の両立支援対策はどのようなことをされていますか?

彦坂氏

聖隷の健保組合のデータによると、毎年60〜70名の職員のがん罹患者が出ています。職員が心配なく治療を受けながら、働きやすい環境を提供するために今年の4月より新たにがんに罹患した職員向けに制度をいくつか始めました。

  1. 「失効年休積み立て制度」
    2年間で使い切れず失効してしまった有給休暇を、10日を上限に積み立てられ、がん治療のために使用できます。
  2. 「短日・短時間勤務制度」
    がん治療後の一定期間に、勤務日数を週3日や週4日、勤務時間を1日4.5時間と6時間の中から選べます。
  3. 「両立支援相談窓口」の設置
    治療と仕事の両立をしていくために「何をすればよいのか?」「どのような制度があるのか?」など、がん治療との両立支援についての相談窓口を聖隷健保組合と総務部で連携して相談に応じます。これは職員の家族も利用できます。
  4. 「両立支援ハンドブック」の作成・配布
    育児・介護・病気(がん治療)に関する両立支援制度について紹介しています。がんによる離職者の約4割(国立がん研究センター「働くがん経験者の実態調査(都道府県、支援団体、研究班等)」より)が治療開始前に退職してしまうことは「びっくり退職」といわれており、病気になった時には、まず安心してもらうことが重要です。両立支援に関する制度や体制を冊子にまとめて全職員に配布し、知ってもらうことでこれを防いでいこうと思っています。

また、このような施策は、法人内のイントラネットで閲覧できるとともに、小冊子などを配布して周知徹底に努めています。

両立支援 ハンドブック

--今後、さらに考えられている健康対策や課題があったらお教えください。

彦坂氏

聖隷の場合、医療に従事する専門職の職員が多く、一般企業と比べてヘルスリテラシーは高いです。その人たちをいかにしてがん検診受診につなげるかが課題です。施設ごとに健康推進委員を配置して、さらなる勧奨を行なっていきます。さらに検査で要精密となった人への受診勧奨、フォローアップも課題です。個人情報の取り扱いもあり、情報をどのレベルで管理していくかを検討し、早急に対策を立てたいと思っています。
失効年休積立の日数も治療に対応できるよう増やしていきます。制度の周知徹底とともに、制度を使った職員がどうなったのかなど、さまざまなデータを集積し、修正を加えてよいものにしていきたいと思います。
また事業所が全国広範囲に渡りますので、職員全員が均等にサービスや制度を受けられるということ。具体的には、全国どこからでも保健師にテレビ電話などで、マンツーマンの相談が受けられるなど、勤務地による不公平感をなくしていきたいと思っています。
これからも聖隷では「職員をがんにさせない!」「がんになっても絶望させない!」「みんなで支えて辞めさせない!」を全力で実践していきます。

--ありがとうございました。

取材日2019年10月3日

社会福祉法人 聖隷福祉事業団 概要
■ 設立
1930年5月
■ 基本理念
キリスト教精神に基づく「隣人愛」
■ 代表者
理事長 山本敏博
■ 職員数
15,718名(2019年9月現在)
■ 所在地
静岡県浜松市中区住吉2丁目12番12号(法人登記)
■ 施設・事業数
158施設・355事業(2019年11月現在)
■ 事業概要
医療事業(病院・診療所・ホスピスなど)、保健事業(健康増進・健康診断・人間ドック・疾病予防・労働環境測定など)、福祉事業(特別養護老人ホーム・身体障がい者支援施設・救護施設・無料または低額診療・保育事業・有料老人ホーム事業など)、介護サービス事業(介護老人保健施設・通所事業・訪問看護ステーション・在宅訪問事業など)
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