2026/09/30
令和8年度 第1回 企業コンソーシアム研修会 報告
(ページの最終更新日:2026年09月30日)
令和8年度 第1回 企業コンソーシアム研修会を実施しました。
日時:2026年9月15日(火)
形式:Zoomミーティング
ご挨拶
厚生労働省 健康・生活衛生局 がん・疾病対策課 課長補佐 栢沼 優二 様
職場におけるがん対策は、健康経営の観点からも非常に重要な取り組みです。本日は聖路加国際大学大学院の中山先生から、職場でも役に立つご講義をいただきます。ぜひその内容を皆様の職場にお持ち帰りいただき、経営層も含めて職場で活かし、実践していただくことで、がん対策を進めていく一助となれば幸いです。
特別講演
職場のがん対策を「伝える」から「選べる」へ
~がん予防・検診から治療、仕事との両立までの意思決定支援~
聖路加国際大学大学院 看護学研究科 看護情報学分野 教授 中山 和弘 先生
私は子どものころ体が弱く、よく学校を休んでいました。小児科から帰ると、漢方だといってミミズを煎じたものを飲まされたものです。においも味も嫌でしたが、飲まなければいけないものだと思って飲んでいました。10年ほど前、母から「あんたミミズ好きやったね。出したら必ず飲んだから」と言われて驚きました。出された側には選択肢がなく、出した側は好きだと思っていたのです。飲んだからといって、好きで選んだわけではありません。
同じように、「同意した」ことが「自分で選んだ」こととは限りません。企業のがん対策は、正しい情報を伝え、検診を勧め、制度を案内するだけで十分でしょうか。予防、検診、治療、そして仕事との両立と、がん対策には「決める場面」が続きます。情報を伝えるだけでなく、理解し、比べて、自分で選べるところまで支えることが大切です。
ヘルスリテラシーとは「健康を決める力」であり、情報を入手し、理解し、評価して、意思決定する力です。国際比較では、日本は調査対象となった国・地域の中で平均点が最も低く、特に情報の評価や意思決定が苦手という傾向がみられます。
なぜ苦手なのか。日本の学校教育では長らく「理解する」ことがゴールで、評価し、意思決定する力を教えてきませんでした。実際、評価や意思決定の方法を学校で学んだことがある人は5%にすぎず、職場でも独学です。私はいま、小学6年生に「か・ち・も・な・い」と「お・ち・た・か」を教える実証研究を始めています。子どものころから身につけるのが理想ですが、大人になってからでも遅くはありません。
情報を評価するときは「か・ち・も・な・い」(書いたのは誰か、違う情報と比べたか、元ネタは何か、何のための情報か、いつの情報か)を確かめてください。そして選ぶときに役立つのが「お・ち・た・か」です。選べるオプション(選択肢)がすべてそろっているか、各選択肢の長所と短所は何か、それらを比べて自分にとって何が大切か(価値観)をはっきりさせます。
がん検診も「受けてください」で終わらせず、早期発見などの利益と、偽陽性や過剰診断などの不利益を同じ土俵で示すことが必要です。前立腺がんのPSA検査のように「受けない」も選択肢の一つです。これは「受けない」を勧めるのではなく、選択肢と利益・不利益を知ったうえで考えられる状態をつくるということです。
選択肢・長所・短所・価値観を同じ土俵に並べる道具が「ディシジョンエイド(意思決定ガイド)」です。多くの研究で、使わない場合に比べてリスクを正確に理解し、自分の価値観に合った選択ができるようになることが示されています。
がんの治療も、医学的な効果だけでは決まりません。仕事を続けたい、家族と過ごしたいといった本人の生活や価値観を同じ土俵に並べ、医療者と患者が協働して選ぶ「シェアード・ディシジョンメイキング」が求められています。仕事との両立でも、通常勤務を続ける、働き方を調整する、一定期間休むといった選択肢それぞれに長所と短所があります。
ヘルスリテラシーは個人の力だけの問題ではありません。米国の健康政策「ヘルシーピープル2030」でも、分かりやすい情報を伝えるだけでは足りず、本人が意思決定できるようシェアード・ディシジョンメイキングとディシジョンエイドを活用するよう明記されており、「組織のヘルスリテラシー」の大切さがますます強調されています。
これまで企業の役割は、分かりやすく信頼できる情報を用意することが中心でした。いま求められているのは、その先です。企業は「答えを出す人」ではなく、「本人が選べる環境をつくる人」です。
企業がしてはいけないのは、本人に代わってどの治療を選ぶかを決めること、特定の選択肢に誘導すること、本人の価値観を決めてしまうことです。一方で、企業にできることはたくさんあります。信頼できる情報を届けること、相談先や支援制度をすぐに見つけられるようにしておくこと、治療と働き方を相談できる環境を用意すること、そして本人が医療者に質問し、考えて選ぶための時間と関係をつくることです。
つまり企業の役割は、従業員が情報を入手し、理解し、評価して、自分で決めるというプロセスをたどれるように、情報を提供し、時間をつくり、相談制度を整えることです。
明日からできることとして、まずは自社のがん情報や検診案内を、選択肢と長所・短所がはっきり分かる形に整理してみてください。できれば一覧表にすると、比べながら理解できます。そのうえで「お・ち・た・か」を社員向け研修の共通言語にしていただければ、健康の話に限らず、あらゆる意思決定の場面で使える力になります。
結果は選べなくても、選び方は選べます。日本人の幸福感は低く、人生の選択の自由度も世界で最低ランクにあります。そして、選択の自由と幸福感には強い相関があります。納得した意思決定こそが自分らしさであり、幸せにつながるのです。
令和8年度 企業コンソーシアム活動について
企業コンソーシアム座長 / 大同生命健康保険組合 常務理事 増岡 博史 様
がん対策推進企業アクションは厚生労働省の委託事業で、職域でのがん対策を啓発する国家プロジェクトです。18年目を迎える2026年4月時点で、約8,400の企業・団体に「パートナー企業・団体」として参画いただいています。企業コンソーシアムは「自社と他社の従業員をがんから守るために」という理念のもと、企業による企業目線のがん対策を共に考え、具体的なアクションとして実現していく共同体です。その中核を担う「コンソ40」は、過去の企業コンソーシアム研修会にすべて参加された企業や、企業アクションの年度表彰を受賞された企業などで構成しています。
令和8年度は、本研修会のほか、8月25日に第1回コンソ40運営会議を開催し、「検診受診率」「両立支援」「リテラシー向上」の3つのテーマに分かれてグループディスカッションを行いました。第2回は2027年2月に開催を予定しています。また、「職域でのがん検診に関する情報の取扱い」と「企業における治療と仕事の両立支援」の2つの分科会では、7月に第1回を開催し、10月、1月にも開催を予定しています。
なお、当アクションでは、企業アクション認定講師(がん経験者)による出張講座、またがん研有明病院とのコラボ企画として、がん専門医による出張講座もご用意しています。パートナー企業・団体の皆様は低廉な料金でご利用いただけますので、自社のがん対策やがん教育にご活用いただければ幸いです。