2025/03/14
令和6年度
徳島ブロックセミナー「職域におけるがん対策の最新情報」を開催しました
2月5日(水)に 徳島ブロックセミナーを開催しました。
以下は本セミナーの概要報告です。
挨拶
厚生労働省 健康・生活衛生局 がん・疾病対策課長補佐 磯 高徳 氏
令和5年3月に閣議決定された第4期のがん対策推進基本計画では「誰ひとり取り残さないがん対策」を推進し、全ての国民とがんの克服を目指すことを全体目標としています。しかし依然として我が国ではがん検診受診率が低迷し、年間約100万人の方ががんにかかり38万人を超える方が亡くなっています。平成21年度に開始したがん対策推進企業アクションは、がん対策に関する様々な情報をわかりやすくご提供していますので、ぜひご登録いただき、職場でのがんリテラシー向上にお役立ていただきたいと思います。
ご挨拶
徳島県知事 後藤田 正純 氏

この徳島県でのブロックセミナーを開催していただき誠にありがとうございます。本日お集まりの諸先生方、体験談をお話しいただくサバイバーの方々に、共催者として心よりお礼を申し上げます。我が県におきましても、毎年約6,000人の方ががんと診断をされている現状で、残念ながら、本県のがん検診受診率も大変低い状況にあります。人口減少社会で、半世紀で日本から3割の人口が減ると見られており、そうなると労働力も3割減る、会社や組織は選ばれる時代になってくると思います。私は父をがんで亡くし、身内の女性にも子宮頸がんや乳がんで苦労された様子を目の当たりにしました。その経験から、県知事として徳島市長と協力し、県民の皆さまにがん検診を勧め、その重要性を広めてまいりたいと思います。
ご挨拶
徳島市長 遠藤 彰良 氏

日本は世界有数の長寿国でありますが、2人に1人が生涯でがんに罹患し、4人に1人が亡くなるなど、30年以上に渡りがんは日本人の死因の1位であり続けています。医療レベルが世界トップレベルにも関わらず、がんで亡くなる方が多いのは、私たちのがんに対する意識がまだまだ低いことも理由のひとつではないでしょうか。日本のがん検診の受診率は、欧米諸国と比較して大変低いと言われています。がんの早期発見、早期治療のため、多くの方にがん検診を受けてほしいと思います。
実は私も妻をがんで亡くしておりまして、この思いは人一倍強く持っております。徳島市におきましても、啓発活動などにより一層力を入れていきたいと考えており、職域との連携も非常に重要な対策のひとつであると考えています。この先、自分や自分の家族がいつがんと診断されても不思議ではありません。そのときに備え、私達はがんに関するできるだけ多くの知識や情報を身につけておく必要があります。
本日のセミナーは、中川恵一先生によるがん対策に関するご講演や、がんサバイバーの方々のリアルな経験をお聞きすることができる貴重な機会でございますので、ご参加されたみなさまが、がんに対する理解を深め、少しでも不安を解消できますことをご期待申し上げます。
がん対策推進企業アクション事業説明
がん対策推進企業アクション事務局長 山田 浩章 氏

日本のがんの罹患者数は年間で約95万人、がんで亡くなる方は38.5万人という現状です。男性に関しましては55歳から圧倒的に罹患数が増え、女性に関してはまさに働き盛りの世代で、がんのリスクが高くなっています。
そうした背景から職域でのがん対策を推進するため、私たちのプロジェクトは16年続いています。令和6年度は約5,500の企業・団体にパートナー登録をいただいていますが、がん検診受診率は、パートナー企業・団体でも国が目標とする60%を超えられていないという現状です。
私たちのプロジェクトの取り組みとして「がん検診の受診を啓発すること」「がんについて、会社全体で正しく知ること」「がんになっても、働き続けられる環境をつくること」と3つのがんアクションを定めています。登録された企業・団体にはパートナー登録証を発行しており、中川恵一先生著作のがんに関する小冊子を従業員数分無料で進呈するほか、社内のがん教育最適なe-ラーニングなども無料でご利用いただけます。がん対策や啓発の取り組みに関して優秀な企業・団体を表彰する制度もありますので、ぜひご登録いただければと思います。
がん対策の現状と今後の方針について
徳島県保健福祉部 医務技監 鎌村 好孝 様

全国がん登録によりますと、徳島県では年間で約6,000人ががんと診断されています。令和2年のがん罹患者のうち、20歳から64歳の働き盛りの世代が1,185人と全体の21%を占めています。男女別では5,637人のうち男性が3,199人で、前立腺がん、肺がん、大腸がん、胃がんの順に多くなっており、女性は2,438人で、乳がん、大腸がん、肺がん、胃がんの順に多くなっています。令和5年では2,477人の方ががんで亡くなられ、40歳代で34%、50歳代で31%、60歳代で40%を占めています。
がんのリスクを高める原因としては、煙草やたくさんの飲酒、ピロリ菌やHPV、肝炎ウイルスなど細菌やウイルスの感染、放射線やアスベストなどの発がん性物質の摂取、生まれつきの遺伝子異常などがあります。がんの予防には健康的な生活習慣や、飲酒や喫煙を控えること、バランスの取れた食事や適度な運動などが挙げられますが、それに加えてがんに関わる感染症の検査が罹患リスク低減につながると期待されます。
徳島県では生活習慣改善と健康づくりへの意識向上を図るスマホアプリ「テクとく」を活用した「とくしま健康ポイントプロジェクト」を運用しています。歩数や体重などの登録、検診受診、健康イベント参加などでポイントを貯めることができ、協賛店での特典が受けられるほか、徳島県産品が当たる懸賞に応募ができます。
徳島県は肝臓病による死亡率が全国の上位となっています。県の6ヵ所の保健所と委託医療機関で肝炎ウイルスの無料検査を実施しており、HPVワクチンも平成9年度から平成19年度生まれの女性は無料でのキャッチアップ接種が可能です。
また、紅白歌合戦出場歌手である木山裕策さんにご協力をいただき、がん検診啓発活動の動画を作成しました。官民一体となって啓発活動にともに取り組んでくださるパートナーとして、徳島県がん検診受診促進事業所を募集しています。県内でがん治療が可能な医療機関についてホームページで公表していますのでご参照ください。がんと診断された方やその周囲の方々のため「とくしまがん療養サポートブック」を作成しています。こちらもホームページからダウンロードが可能で、拠点病院等でも配布しています。
徳島県ではがん対策推進計画を策定し、今年度から第4期計画がスタートしています。県の取り組みを、県民の方を始め、企業や関係者のみなさまにご協力をいただきながら、総合的かつ計画的に進め、がんで苦しまない社会をみなさんと作ってまいりたいと考え取り組んでいます。
職域がん対策の進化
東京大学大学院医学系研究科 総合放射線腫瘍学講座
特任教授 中川 恵一 氏

およそ40年間、がんの専門医として3万人くらいのがん患者を見てまいりましたが、多くの方が台風や地震とがんを同じように捉えています。しかし、がんはある程度コントロールし制御できる病気です。
がんは6割が治りますが、まだまだ不治の病というイメージもあり、がんと診断された方の自殺率は23倍に上がります。かくいう私自身も膀胱がんを経験しており、とある病院の当直中に自分で検査をし、自分で発見しました。すべてのがんは臓器の上皮から発生します。私の場合は内視鏡での切除で済み、抗がん剤治療は全く必要ありませんでした。入院も3泊で済んでいます。
日本は痛みを取らない文化であり、オーストラリアやドイツと比べると20分の1です。がんは痛みを取ったほうが長生きすることもわかっていますので、これは損をしていると思います。女性でも乳房のセルフチェックをやる方はすごく少ないです。
例えば、東大病院では、早期の肺がんは4回の通院、前立腺がんは進行したものでも5回の通院で手術と同等以上の治療が可能です。1回の治療も6~7分で済みます。働く人が仕事をしながら治療するには放射線治療はとてもよいですが、日本ではまだ手術と思われています。欧米ではがん患者の6割が放射線治療を受けます。日本でも29%まで上がりました。
現在、中学と高校の学習指導要領にがん教育が正式に盛り込まれています。高校の教科書には高精度放射線治療も掲載されています。子どもは学ぶ機会がありますが、大人のがん教育が大変重要なキーワードで、職場でがん教育をしていくことも、がん対策推進企業アクションの課題の1つです。
遺伝によるがんは全体の5%程度ですが、遺伝が重要となるがんは乳がん、卵巣がん、前立腺がん、膵臓がんです。その中でもすい臓がんは要注意で、近親者にすい臓がんの方がいるとリスクが相当上がります。しかし、すい臓がんは国が定めるがん検診にもありませんので、今後どう扱うか。こちらも課題と考えています。
がんは遺伝子の老化に起因し、遺伝子に傷がつくことで起こります。遺伝子を傷つける要因としてはタバコ、お酒など。子宮頸がんに関してはほぼ100%が性交渉によるHPV感染、肝臓がんもC型もしくはB型の肝炎ウイルス感染、胃がんの発生原因の95%はピロリ菌感染によります。
しかし、がんの原因の半分から6割くらいが運です。遺伝子の偶発的な損傷で、これは避けられないものです。たまたま運悪くがんの遺伝子が傷むとがんができます。免疫力の働きを下げる要因をストレスと言い、長期間ストレスを自覚している人はがんが多いというデータもあり、この免疫力も年齢とともに衰えます。コロナ情勢の際も高齢者が多く命を落とされたことでおわかりと思います。つまりがんは、遺伝子の経年劣化と免疫力の老化によるので、年齢とともに増えていきます。
1つのがん細胞は10年から20年かけて1cmになります。1cmから2cmのがんを早期がんと呼び、この段階で発見できることが望ましいです。しかし1cmや2cmで症状を出すことはありません。だからこそ、がん検診で早期発見する必要があります。
がんを防ぐ生活習慣は、なんといってもタバコを吸わないこと、お酒を控えること。活発に暮らす、体型の維持、細菌やウイルス感染に気をつけることです。糖尿病はがんのリスクを挙げますし、座りっぱなしも危険です。
総就労人口に占める65歳以上の割合は、日本が13%、ドイツが2%、フランスが1%です。単一民族であった日本の少子化は進みます。移民を入れないということは高齢者が働く社会となり、就労期間が増えるなら、仕事とがんの治療の両立も増えてきます。したがって経営者の方のがん教育が大切です。企業でのがん対策は経営課題であり、努力目標です。会社でのがん対策は事業主の責務です。ぜひ、その重要性を知っていただきたいです。
がんサバイバーとして経験を伝える大切さ
がん対策推進企業アクション 認定講師 中 美佳 氏

私は2012年の10月に乳がんがわかりました。幸い転移はありませんでしたが、抗がん剤の副作用が苦しかったです。抗がん剤のあとに全体切除の手術をし、再度の抗がん剤と10年ほどのホルモン治療を経て、現在は経過観察中です。
がんの診断時、仕事をどうしようというのが念頭にありました。保育の仕事をしていましたが、半年ほど休職しました。今はがんになっても働ける時代ですので、罹患者と企業側が話し合いをして、より良い方法を見つけていけることを願います。認定講師として自分の経験を伝えることで、人の価値観が変えられたり、良い方向に繋がっていったりすることが嬉しいです。今後もこの活動は続けていきたいと思っております。
命を救う早期発見 ~乳がんを経験して~
がん対策推進企業アクション 認定講師 大西 幸子 氏

私は47歳で乳がんに罹患しました。右胸を全摘出の後、5年間のホルモン治療を経て、半年ごとの経過観察を現在も続けております。職場の健康診断でのがん検診でわかりました。特殊型の浸潤性小葉がんというタイプでした。手術した結果、幸いリンパ節の転移はなくステージ1でしたが、片胸をなくしてしまいつらかったです。
入院前から2ヶ月の休職をいただき、復職しました。復職に関しての問題はございませんでしたが、私自身、がん罹患に関しての周囲の反応につらく感じ、がんになる自分が悪いような負い目を感じました。ですが、がんになるのは運の要素もある事を知り、運が悪かっただけだと思うと気持ちが楽になりました。反対に早期発見できたのは運が良かったと思います。がんは早期発見で治る病気です。どうか経営者のみなさまは、従業員の方にがん検診を推奨していただきたいです。従業員の方の健康を守ることは命を救うことでもあり、それはまた、そのご家族も救うことにもつながります。
トークセッション
中川 恵一 氏、鎌村 好孝氏

ご講演いただいた中川恵一先生と、鎌村好孝さんとトークセッションを行いました。中小企業のがん対策の重要性、がんになったときに患者としてなにに気をつけるべきかなど、お話しされました。