2025/1/22
令和6年度
長崎ブロックセミナー「職域におけるがん対策の最新情報」を開催しました
11月28日(木)に、長崎ブロックセミナーを開催しました。
主催者挨拶
厚生労働省 健康・生活衛生局 がん・疾病対策課長補佐 磯 高徳 氏

我が国のがん対策は、がん対策基本法に基づき行われており、令和5年3月に閣議決定された第4期のがん対策推進基本計画では「誰ひとり取り残さないがん対策」を推進し、がん対策は着実に進めているところではあるのですが、依然としては国では昭和56年からがんが死因の第1位であり続け、国際的な比較データを見ても日本のがん検診の受診率は低いという現状です。がんを予防するためには、1人でも多くの皆様ががん検診を受診し、早期発見早期治療に繋ぐことが非常に有効です。本日のセミナーが、それぞれの職場でのがん対策を充実させる機会となることを願います。
ご挨拶
長崎県知事 大石 賢吾 氏

日頃から皆様におかれましては、従業員とそのご家族のご健康作りに多大なるご理解とご支援をいただいていますことに感謝を申し上げます。人生100年時代と言われ、やはり長く健康で楽しむことは非常に重要になってきています。そのためにも健康作りですね。健康な時間をどれだけ長くしていくかという視点で、様々な取り組みがなされています。こうして皆様が一堂に会して議論、勉強されることは非常に意義が深いものだと考えます。
長崎県は生活習慣病の患者数が多く、1人当たりの医療費も高いです。がんの罹患率と死亡率も高く、がん検診の受診率も低い状況です。県としましては、こういった状況を鑑みて、運動、食事、禁煙、健診の4つを柱とした健康革命のプロジェクトのほか、地域や企業の皆様方と協力をして検診受診率の向上に向けた啓発活動、がんの治療と生活を両立するための相談支援体制の構築等を行っています。
日本人の2人に1人ががんになる今、各企業や事業所におけるがん対策といったものは、ますます重要性を増すと理解し、従業員の健康作りが企業の発展を支える大きな財産にもなっていくと考えています。本日のセミナーが、職場でのがん対策、健康対策の強化に向けて具体的な行動を起こしていただける契機になりますことを祈ります。
長崎県のがんの現状について
長崎県福祉保健部 医療政策課長 猪股 慎太郎 氏

まず長崎県におけるがんの罹患状況ですが、令和2年度にがんに罹患された患者数は1万1,682人で、人口10万人当たりの年齢調整罹患率は全国と比べて悪く、ワースト3位となっており、特に子宮がんはワースト1位です。令和4年度のがんによる死亡者数は4,795人で、長崎県における全死亡者数の約25%を占め、最も多い死亡原因となっています。令和4年度の75歳未満年齢調整死亡率が人口10万人あたり72.5となっており、令和9年度には57.2まで引き下げることを目標にしております。
目標達成のため、長崎県が行うがん対策の主な取り組みを紹介します。長崎県は、野菜摂取量、一日の歩数、喫煙率といった生活習慣に関する指標が、全国と比べて悪く、その結果、外来患者数が多く、人口1人あたりの医療費がワースト3位となっています。そこで、令和4年度から「長崎健康革命」をキャッチフレーズに、食事・運動・禁煙・健診を4つの柱として健康づくりに取り組んでいます。生活習慣の中でも様々ながんのリスク因子となっていることが知られる喫煙への対策として、禁煙チラシの配布、世界禁煙デーの啓発、敷地内禁煙の推進に取り組むとともに、事業所に専門の講師を派遣して健康教育を行う、「職場の健康づくり応援事業」や飲食店における受動喫煙防止に向けた取組を行っています。また、がんによる死亡率を下げるためには、早期発見・早期治療することが必要であり、定期的ながん検診の受診が非常に大切です。しかし、長崎県のがん検診受診率は40%前後と全国と比べて低いため、目標のがん検診受診率60%を目指し、様々な取り組みを行っているところでございます。今年度は大学生を対象に子宮頸がんについて出前講座や検診体験などを実施しています。また、がんの拠点病院や協力協定企業と連携して、県民公開講座の実施や、出前講座・イベントの開催、チラシ作成・SNS等による周知啓発、県民に向けたアンケートなどを行っています。ここで皆様へのお願いですが、ぜひ職域でがん検診を実施していただき、従業員の皆様に受診を勧めていただきますようお願いします。検診の実施については、ご加入の協会けんぽなどにお尋ねください。もし検診の実施が難しい場合は、市町が実施する検診の受診を従業員及び扶養者に勧めていただきますよう、よろしくお願いします。
がん診療の県拠点病院として長崎大学病院があり、本土地区に拠点病院が5か所、推進病院が2か所、離島には中核病院として4病院があります。
県内の8ヶ所の拠点病院等に設置したがん相談支援センターで無料相談を実施しています。また、ピアサポート事業として、同じような経験や悩みを持たれている患者さんやご家族をピアサポーターとして養成し、相談対応いただいており、現在16名の方々が活動されています。長崎産業保健総合支援センターでは、治療と仕事の両立など、保健師が無料で支援されています。他にも各労働局やハローワークでも相談対応されており、拠点病院などに職員が出向する出張相談が行われています。
また、長崎県では妊孕性温存療法の費用の一部を助成しています。それ以外にも、39歳以下の小児・AYA世代は介護保険が適用されず、末期患者の方が訪問介護等のサービスを受ける際の経済的負担が大きいですので、サービス料金の一部を助成する制度を今年度創設しています。
がん対策推進企業アクション事業説明
がん対策推進企業アクション事務局長 山田 浩章 氏

日本人の中で男性では3人に2人、女性にはでは2人に1人とかなり多くなっております。私たちは職域でのがん対策の啓発を企業様とともに推進している事業です。やはり定年の延長、女性も長く働くこと、特に40代30代の女性ががんのリスクにさらされていることから、やはり職場でのがん対策を進めていく重要性を感じています。本事業は、がん検診の受診啓発、がんについて会社全体で正しく知る、がんになっても働き続けられる環境をつくる、この3つを大きく進める事業となっており、現在約5,500社のパートナー企業・団体に登録いただいています。長崎県におかれましては、現在まだ30社という登録数になっておりますので、この機会にぜひ企業アクションに登録をいただきたいなと考えております。
ご登録は無料、提供資材や啓発ツールも無料で利用可能、啓発する企業・団体を表彰する制度もあり、会社のパフォーマンスとしてアピールいただけますので、ぜひ皆様のご参加を心よりお待ちしております。
職域がん対策の進化
東京大学大学院医学系研究科 総合放射線腫瘍学講座 特任教授 中川 恵一 氏

大石知事も精神科医をされていたそうで、医師が首長になる時代と感じています。日本人にとってがんは大変大きな課題であり、例えば総就労人口に占める65歳以上の割合は、日本が世界トップの14%という側面もあります。しかし、がんは非常にコントロールできる病気でもあります。
実は私もが膀胱がんの患者ですが、自分ががんになるとは全く思っていませんでした。自分で超音波検査をして発見し、内視鏡切除手術を受けた6日後から通常勤務でした。私は自分で自分の体を守ったんです。皆さんの場合、やはりがん検診が自分を守ることなんです。薬物療法や抗がん剤を受けながら仕事をすることもできますが、何よりも早期で見つけておくこと。これが何よりです。
社員ががんになると、会社が試される大きな機会だと私は思います。残念ながら、会社員ががんになりますと、34%が離職、そのうち4%は解雇。自営業者さんの場合には17%が廃業という現実です。両立支援のために一番必要なことは、時間単位の短時間勤務の導入です。放射線治療の一例で言うと、前立腺がんは6分30秒くらいの治療、5回の通院で終わり、手術と同等の治癒率です。
今では中学校と高校の学習指導要領の中にがん教育が盛り込まれ、放射線治療について子どもも習っています。子どもはがん教育を受けていますが、大人のがん教育が問題です。遺伝によるがんはたった5%で、がんは細胞の老化、遺伝子に傷が積み重なってできます。一番問題なのは煙草で、お酒も相当悪いです。あとはウイルスで、子宮頸がんの原因のほぼ100%がヒトパピローマウイルス感染です。しかし、これらの要因がなくても偶発的な遺伝子の損傷でがんができることはあります。
がんに備える基本は単純で、生活習慣プラスがん検診、2段構えのリスク対策。煙草やお酒を控え、生活習慣を整え健康に気を付けること。糖尿病はがんのリスクを2割増やします。長く座ることもよくありません。
検診に関しては、健康増進法が定めている住民検診を受けることです。これらは科学的に最も有効である、がんの死亡リスクを下げるというエビデンスがあるから法律で定めています。これを職域でも推奨することが大切で、中小企業が加入している協会けんぽの生活習慣病予防検診、これを受けるべきです。ただし子宮頸がんと乳がんの検診がオプションなので、会社が負担していただきたいです。がんは男性に多いですが、55歳までは女性のほうが多いです。子宮頸がんと乳がんは老化とは関係ない要因で、若い頃から増えるからです。子宮頸がんに関しては、HPVワクチン接種で発症リスクが1割程度まで抑えられます。一時、副反応に関する報道で接種率がゼロになりましたが、その間対象年齢だった方のキャッチアップ接種も行ています。3月末で終了予定でしたが、期限も延長しています。
55歳定年の頃とは違い、70過ぎても働く人が増えています。55歳までに男性ががんになる確率は5%、それが65歳まででは15%となり、70歳までとなると男女ともに2割を超える確率でがんになります。
子どものがん教育は学校で始まっていますが、大人のがん教育をどうするか。これはやはり、職場でやるしかないと思います。そのため、企業アクションもがん教育のコンテンツが充実しています。特に経営者ががんを知ることが大切で、経営者のがんへの関心は従業員の検診受診率にも影響します。がん対策基本法の中で、がん対策は事業主の責務であると定められています。企業で健康経営がなされているかは、採用面にも離職率にも大きな影響を与えてしまいます。企業でのがん対策は、今後もますます必要な課題となります。
会社員。ある日、突然、がんで余命半年と宣告されたらどうなるか?
がん対策推進企業アクション 認定講師 原 利彦氏

私は現在52歳で、妻と大学生の娘がおります。福岡市の会社員で、映像制作会社に勤務しています。がんになったのは7年前で、甲状腺がん、中咽頭がん、いずれもステージ4を同時に罹患しました。
45歳のときに耳の後ろに、痛くも痒くもない小さなしこりができました。近所の内科に行くと大事かもしれないということで病院を転々とし、最終的に九州がんセンターで首の周り、心臓の近くまでリンパ節に転移している、治療しなければ余命半年と診断されました。「明日から約4ヶ月ぐらい入院し、復帰まで半年かかる」と突然言われ、死ぬかもしれないという状態なのに、家族とか仕事はどうしようと冷静に考えてしまう自分がいました。
まずお金に関して慌てましたが、がん保険に入っており、国の傷病手当なども利用できましたが、会社は半年以上休みました。その間の給料はほぼなかったわけですが、この年の医療費は550万という恐ろしい金額でした。しかし強い味方、協会けんぽさんのおかげで実際の支払いは60万ぐらいで済みました。治療は手術と抗がん剤、放射線、いわゆる3大治療を経て現在に至っています。
問題は、がんになって治療で命が助かっても、という話です。がん治療から社会復帰しても、非常に大変な思いをしました。治療を終えても、それまでと同じ生活をするのは非常に難しいものです。私はディレクターという職業柄、興味持っていろんな取材させていただき、九州がんセンターの支援センターで、ハローワークから出向されている方とか、社労士の方にお話を聞きました。しかしがんの治療をしながらの再就職は難しく、会社側も受け入れ体制が非常に厳しい。実際に「絶望的」という言葉を使われましたし、私も当時勤めていた会社を辞めました。
そうしたこともあり、仕事やプライベートでも私はできるだけ自分ががんに罹患したことを隠していました。妻にもできるだけ周りには言うなと強いていました。しかし妻には「俺はがんだぞ、風邪じゃない」と強く当たったこともあり、「私だってみんなに、夫ががんだなんて言いたくない。風邪をひいているだけだと思いたいに決まっとうやん」と泣かれまして、非常に苦しい思いをさせてしまいました。すると当時中学2年だった娘が「今、2人に1人ががんになって、3人に1人はがんで死ぬって学校で習ったけん」と割とクールに言ったんです。そんな妻の涙と娘の言葉で、私も気持ちが変わりました。それから自分の経験を役立てられるよう、外部講師の資格を取り様々なところに参加しています。
私は体質上、お酒は全然飲めないのですが、煙草は1日10本は吸っていたと思います。食業柄不規則な生活、それから偏った食事という状態でしたが、45歳でがんになることはないだろうと思っていたんです。つまり、誰でもなり得る可能性があるということです。みなさんも、自分は大丈夫と思わず、可能であれば「もし自分ががんになったら」とシミュレーションしていただければと思います。お金、仕事、治療費、保険などですね。
あとは当然、がんにならないように生活習慣に気を付け、検診を受けてほしいです。自分だけではなく、ご家族やパートナーもかなり慌てると思います。逆に、自分の身の回りの大切な人ががんになったらどうだろうということを考えていただけたらと思います。
トークセッション
中川 恵一氏、大和 浩氏

がん対策推進企業アクション議長である中川先生と、産業医科大学教授の大和浩先生お二人によるトークセッションを行いました。喫煙ががん発症リスクに及ぼす影響や、コーヒーが糖尿病やがんのリスクを下げることなどについて、活発に話し合われました。