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2023/11/29

令和5年度「がん検診受診率向上推進全国大会」を開催しました

(ページの最終更新日:2023年11月29日)

「がん検診受診率向上推進全国大会」登壇者の皆様
会場となった大阪府大阪市北区の中央公会堂
客席内の様子
イメージキャラクター「けんしんくん」

今年度は、10月4日に大阪府大阪市北区の中央公会堂で、
WEB配信を併用したハイブリッド形式にて全国大会を開催しました。

【主催者挨拶・国のがん対策の現状について】
西嶋 康浩氏(厚生労働省 健康・生活衛生局 がん・疾病対策課長)

西嶋 康浩氏(厚生労働省 健康・生活衛生局 がん・疾病対策課長)
▲厚生労働省 健康・生活衛生局 がん・疾病対策課長
西嶋 康浩氏

厚生労働省がん・疾病対策課長の西嶋と申します。令和5年度がん検診受診率向上推進全国大会の開催にあたりまして、ご挨拶を申し上げます。
我が国におきましては2人に1人ががんに罹患し、3人に1人ががんで亡くなるという状況になっています。また、がん患者さんのうち3人に1人が、いわゆる働き盛りである20代から60代の方々という状況です。つまりご本人、ご家族の負担というだけではなく、我が国の社会全体として考えなければいけない課題と言えます。

がんの予防と言いますと、例えば肺がんを予防するためにはタバコをやめるなど、いくつか生活習慣を直すことによってがんを予防するということはできますが、それだけでは十分ではありません。本日のテーマでもある「がん検診」が早期発見・早期治療、がんの死亡率を減らすという観点から、非常に重要なことです。しかしながら、我が国ではなかなかがん検診の受診率が高くならず、概ね50%という状況です。がん検診受診率の目標値を60%と掲げており、そこに向けて一体となり、社会全体となって取り組んでいきたいと思っています。

本日お集まりのみなさまには、この大会の参加を機に、がんに対する知識を深めていただき、ぜひ同僚の方やご家族など周りの方々にがん検診を受けるよう勧めていただければ幸いです。
また職場におけるがん検診の受診率向上と、がんになっても働き続けられる社会の構築、この二つを目的として「がん対策推進企業アクション」が2009年からスタートし、現在推進パートナー数は約5000社を数えるまでに成長しています。この場をお借りしまして、関係者のみなさまに厚く御礼を申し上げます。
最後になりますが、お集まりのみなさま方の今後の益々のご発展ご健勝をお祈りいたしまして、私からの挨拶とさせていただきます。

◆現在のがん対策の状況
先ほど少しお話しましたが、我が国における死亡率について、がんが原因で死亡する方が右肩上がりで増えてきています。その他、心不全、心筋梗塞等の心臓疾患が原因で亡くなる方も増えています。
実はここに敢えて表記していない死因は老衰です。高齢化社会が進み、老衰が原因で亡くなられた方々も増えていますが、その中においてもがんによる死亡がダントツに多いという現状は変わっていません。男女とも、がんで死亡する確率が非常に高いという状況です。

では、どんながんが死亡の原因になるのか、あるいはどういうがんになりやすいのかを説明します。左側の表「部位別がん罹患数(2019年)」を見ていただくと、男性のみでは前立腺がん、女性のみでは乳がん、男女全体で見れば大腸がんの患者さんが最も多くなっています。「部位別がん死亡数(2021年)」によりますと、死亡原因となるのは、男性は肺がん、女性は大腸がん、男女全体では肺がんとなっています。

そうしたことを受け、我が国ではがんについて定めた「がん対策基本法」という法律に基づいて政策を進めています。がんの早期発見、そして予防というのが1丁目1番地と法律の中で位置づけられています。その他にも、どこにいてもがんの医療をきちんと受けられるようにしましょうということ。がんの研究はこの10年ぐらいで非常に進んできて、死ぬ病気と言われていたがんも死亡率自体は減ってきており、治療をして生きられる疾患に徐々に変わりつつあります。こういったがん研究の推進、そして就労の支援等々について法律の中で位置づけられています。

その中で、今日のテーマでありますがん検診を少しご紹介させていただきます。がんの経済負担について日経新聞等にも掲載されていました。国の病院、研究所である国立がん研究センターで推計をしますと、経済的な負担が国内で2兆円を超えるというような試算がされています。どういった部位のがんが原因かということが下にありますが、胃だったり、肺だったりということで、こうした部位の患者さんが多いということ、働き盛りの方々に多いということもあり、経済的な損失に繋がっていると考えると、単に医療だけの問題ではないことがわかっていただけるのではと思います。
実際に、国では五つのがん――特に患者さんが多いがん、実際に早期発見すれば治せるがんを中心に、がん検診を定めています。胃がん、子宮頸がん、肺がん、乳がん、大腸がんの5つで、国が推奨する検査方法で2年に一度、ないし1年に一度受けていただく必要があります。
特にこの数ヶ月検討しているのは、子宮頸がんについてです。諸外国の状況など新しい情報を組み入れ、新しいがん検診の方法を来年度以降取り入れる方向で、国の検討会で議論していただいている状況です。

しかし新しいがん検診の方法を導入したとしても、受けていただかないと意味がありません。男性は肺がんが一番多いわけですが、それ以外はがん検診の受診率は大体4割ぐらいのみに留まっている状況です。年々受診率は上がってはいますが、さらにがん検診を受けていただく方々を増やしていく必要があります。
特に女性の乳がん、子宮頸がんについてはがん検診の中でも非常に受診率が低く、諸外国と比べてもダントツに低いという状況です。乳がんについても治療法はかなり良くなってきており、発見がそれほど遅くなければ乳房を残す形で治療ができるようになっていたりと、医療の進歩は目覚ましいと思います。しかし医療の進歩の恩恵を受けるためには、がんを早めに見つけることが必要です。

実際にがん検診をどこで受けているかというアンケートをとってみると、お住まいの市町村からがん検診のご案内があると思いますが、働き盛りの方はお勤め先でがん検診を受けている方が最も多いです。市町村もですが、勤め先でがん検診を推奨することが非常に大事だと考えています。逆にがん検診を受けていない方が、どういう理由で受けていないのかというアンケートをしてみると「時間がない」「そもそも必要性を感じない」といった理由が挙げられます。市町村のがん検診はほぼ無料で受けられますので、ぜひこうした制度を活用していただくとありがたいです。
予防という観点で言えば「予防できるがん」があり、冒頭でも申し上げましたが、例えばタバコによる肺がん、HPVウイルスに感染による子宮頸がんなどについては、喫煙の生活習慣を見直す、HPVワクチンを接種することで予防できます。そうした取り組みを、がん検診と合わせて進めていきたいと考えています。

今日のテーマと直接関わりませんが、がんは治る病気になってきていますので、治療をしながら仕事をする「両立支援」も非常に大事になってきています。
その例をいくつか示します。「平均在院日数の推移」、つまりがんで入院する方々の入院日数は、2002年から20年の間に非常に短くなってきています。例えばがんで入院し、手術や化学療法による治療をして、大体20日で退院し、その後は外来でフォローすることがもう主流になってきています。生活をしながら、仕事をしながら病院に通って化学療法を受けるなどに主眼が移っているのではと思います。今回お集まりのみなさまそれぞれの企業での「両立支援」の取り組みが非常に重要になってきます。
実際にそうした就労の状況を見てみますと、働いている方ががんになったら、それをきっかけに退職する方がやはり一定数いらっしゃいます。退職のタイミングについても、がんの疑いがあり、まだ診断が確定する前から、ご自身もなかなか両立が難しくやめざるを得ないと判断される状況というデータもございます。これはもったいないことです。そうしたことがないように、受診がある場合に職場でお休みを取りやすくするなど、治療と仕事の両立ができるような取り組みをしていただきたいと思います。

実際にアンケートをしますと「外来受診のためのお休みが欲しい」であるとか「在宅勤務を取り入れて欲しい」などの患者さんのニーズがありますので、医療機関、国、そして企業のみなさま方と一緒にがん患者さんの支援をより深く進めていきたいです。国としてもハローワーク等も活用しながら、そうした取り組みを今進めているところです。
最後になりますが、こういった治療と仕事の両立支援のガイドラインを国で整備していますので、みなさま方にもぜひご覧いただき、企業・医療機関連携マニュアルなどもご一読いただけるとありがたいと思います。
私からのご紹介は以上になりますが、このシンポジウムを機に、がん患者さんを取り巻く様々な環境が少しでも良くなればいいなと思っております。みなさま方にも今後ご協力いただき、今日のご理解を深めていただけるとうれしいです。以上です。ありがとうございました。

【大阪府知事ビデオメッセージ】
大阪府知事 吉村 洋文

大阪府知事 吉村 洋文様から、ビデオメッセージをいただきました。

【がん対策推進企業アクション事業説明】
藤田 武氏(がん対策推進企業アクション事務局)

がん対策推進企業アクション事務局 藤田武
▲がん対策推進企業アクション事務局 藤田 武氏

私からは本事業の説明をさせていただきます。日本は男性の3人に2人、女性の2人に1人ががんに罹患する時代です。企業では人材を守るために、がん検診受診率向上、治療と仕事の両立支援などのがん対策が必要です。

私たちは、企業での「がんアクション」をサポートする活動を行っております。先ほどの就労問題を踏まえ、企業が取り組めるがんアクションを三つ挙げます。
一つ目、がん検診の受診を啓発すること。二つ目、がんについて、会社全体で正しく知ること。三つ目、がんになっても、働き続けられる環境を作ることです。人材を守るために、がんの早期発見、早期治療、そして従業員ががんになっても働き続けられる環境が必要になってきます。
今年度から国の掲げるがんの検診受診率が60パーセント超となりました。我々の活動は、職域でのがんの検診受診率を上げるために、企業団体をサポートすることです。そして治療と仕事の両立支援も重要ながん対策の一つです。がんに罹患しても、診断技術や、治療法の進歩により、近年は働きながら治療することができます。

企業アクションでは、企業さん向けに就労支援情報などを提供し、治療と仕事の両立支援をサポートします。具体的な活動は三つです。一つ目、推進パートナー企業・団体数の拡大。二つ目、がん対策を啓発するコンテンツ制作と情報発信の推進。三つ目、がん検診受診の現状把握と課題の整理です。がん対策推進企業アクションは、今年度で15年目を迎えます。主なトピックスを記載しておりますが、長きにわたり様々な取り組みをしてまいりました。現在は5000以上の企業・団体がパートナーとしてご登録いただいております。
ここからは、令和5年度の活動をもとに具体的にご紹介できればと思います。発信と広報、イベント、企業連携。主に三つの内容についてご説明いたします。
最初に発信と広報に関するものをいくつかご紹介いたします。まずはフィロソフィーです。本イベント冒頭のがん対策推進企業アクションのフィロソフィー動画をご覧いただけましたでしょうか?
企業アクションも15年目に突入することを機に、検診受診率の向上、治療と仕事の両立支援、職場でのがん教育という3大課題を俯瞰した新たなステージを見据えるように、企業アクション自らフィロソフィーを掲げました。また、企業アクションのロゴもカラフルに変更しました。

続いて、小冊子、ポスター、ニュースレターです。小冊子はがんについて非常にわかりやすく記載しておりますので、ご自身が読み終えたあとにぜひご家族、同僚の方にもおすすめください。ニュースレターでは、がんについての最新情報をわかりやすく発信し、メールマガジンも、がんに関する様々な情報を月に2回お届けしています。
続いてパンフレットも作成しました。先に述べましたフィロソフィーについて、中川先生からのメッセージを始め、アドバイザリーボードメンバーのご紹介や、各施策の企業事例や代表者のご挨拶も掲載しています。

YouTubeとe-ラーニングですが、YouTubeは中川先生にがんについてわかりやすく教えていただいています。月1回更新し、最近は認定講師との対談動画もございます。e-ラーニングは、今年度新たに修了書を作成いたしました。従業員のみなさまだけではなく、家族の方も受講でき、がんのことを知ってもらうきっかけになります。
続いてイベントについてです。今年度は三つの地域、秋田県、香川県、宮崎県でのセミナーを実施予定です。中川先生による最新のがん対策情報や、認定講師による罹患経験、県庁がん対策担当者様による県内の課題や施策などのご講演、地元企業による事例発表などの実施を予定しています。県庁と協力、共催することで、開催地域にがん対策が根付いていくことも目標としています。今年度は、秋田県の佐竹知事、香川県の池田知事もご登壇予定です。

企業連携についてです。企業連携については企業コンソーシアム、WorkingRIBBON、中小企業コンソの三つの柱がございます。企業コンソーシアムでは約40社の企業を中心に、企業アクションでの議論、研究を発信し、あらゆる情報から啓発に有効な施策や情報を見極め、積極導入とその活動事例を随時発信しています。職域におけるがん対策の推進で社会に貢献します。
WorkingRIBBONでは女性特有の乳がん、子宮頸がんを対象に、専門医やオフィシャルサポーターを加えて議論・取材を実施しております。今年度は特に子宮頸がんについての話題が多く、子宮頸がんにフォーカスしたチラシも作成中です。

中小企業コンソは、中小企業のがん対策について考えております。経営者の関心やリテラシーが高いほど、従業員の検診受診率は向上します。本日、ご来場いただいた方はお手元にあるかと思いますが、経営者や働く従業員の方々に向けたチラシも作成いたしました。

その他、セミナーのご紹介、企業への出張講座、パートナー企業の取り組みのご紹介、調査結果の公開などもしております。最後になりますが、今後もがんに関する様々なことを発信し、企業のがん対策を全力で応援できればと思っております。ぜひ一度ホームページをご覧ください。最後までご清聴、ご視聴ありがとうございました。

【大阪府がん対策の概要説明】
志村 和哉氏(大阪府 健康医療部 健康推進室室長)

大阪府 健康医療部 健康推進室室長 志村 和哉氏
▲大阪府 健康医療部 健康推進室室長 志村 和哉氏

まず1981年以降、がんは死因の第1位となっており、現在日本人の2人に1人ががんになり、3人に1人ががんで亡くなっています。また大阪府に限りましても、年間で約7万人の方が新たにがんにかかっており、約2万7000人の方が亡くなっています。しかし今、がんは早期に発見し、治療すれば治る病気と言われております。がんの早期発見のためには、がん検診の定期的な受診が非常に重要であると言えます。

こうしたがんの状況を踏まえ、大阪府ではこれまでがん検診受診率を上げていくためターゲットを絞った受診の啓発、それから市町村支援など様々な取り組みを行ってまいりました。これにより、大阪府のがん検診受診率は少しずつではありますが、上昇している傾向にあります。しかし令和4年度に実施されました、国民生活基礎調査という国の調査によりますと、大腸がんを除く四つのがんにおきましては、大阪府が定める受診率の目標値を達成できていません。全国の受診状況と比較しましても、この順位が肺がん検診で45位、胃がん検診が43位と、大阪府の受診率というのは依然として非常に低い水準にあります。

大阪府はインターネットでアンケートを実施しています。このアンケートで、令和4年度に5つのがんの検査内容につきまして、がん検診として認識しているかというご質問をした結果によりましても、がん検診を理解している方のほうが、よりがん検診を受けていることがわかります。

なぜがん検診を受診しないのかという理由を、過去にアンケート調査したことがあります。ここでご紹介しますと、一番多い理由が「費用がかかるため、経済的に負担がある」という理由でした。続いて「検診の予約が面倒である」、3番目に多かったのは「受診する時間がない」という理由が比較的多かったです。その他の理由をいろいろ見てみましても「健康に自信があって必要性を感じない」あるいは「がんが発見されるのが怖いからと」とあり、こういった理由を見ましても、やはりまだまだがんやがん検診に対する正しい知識と正しい理解が、今後の普及としてしっかり取り組まなければというところで、大阪府としましても、がん検診の受診促進に繋がる啓発を継続して行うこととしています。

大阪府では、第3期大阪府がん対策推進計画を策定しております。現在、次期の計画も検討中ですので、こうした計画に基づき、がんの死亡率、罹患率の減少を目標に掲げ、受診率向上のための様々な取り組みを進めていきたいと考えています。

大阪府ではがん検診受診率向上事業において、令和4年度に企業の経営者や健康管理担当者向けに、職域すなわち職場単位におけるがん検診について、わかりやすくまとめた啓発のリーフレット等を作成し、約2万ヶ所の事業所あるいは220ほどの保険者に配布しています。
がんにかかる方の3人に1人は20歳から60歳代の働く世代と言われており、今後定年延長によって就業しているがん患者は増えていくのではないかと考えられています。また国民生活基礎調査でも、がん検診の受診者のうち職域における受診者は、がん検診の種類によって30%台から70%台となっており、まだまだ職域におけるがん検診について、しっかり対策を立てて、受診を進めていく必要があると考えています。皆様方におかれましても、こういった私どもで用意していますような資料や啓発のリーフレット等を活用いただき、職場での適切ながん検診の実施にご協力いただければ幸いと思っています。

また大阪府では平成27年より「がん検診受診推進員制度」を創設しています。こちらの制度は、がんの正しい知識の普及啓発を行い、がん検診受診率向上によってがんの死亡者数の減少に繋げるということを目的に創設した制度となっています。大阪府と包括連携協定を締結した民間企業のみなさま方に所定の養成研修を受けていただくことで推進員になっていただき、職場や地域においてがん検診の受診勧奨の取り組みを行っていただくというものです。

次に大阪府の、がん検診のキャッチフレーズを使った啓発資材をご紹介します。こちら左にリーフレットのお写真が載っておりますが、「元気でももしものためですがん検診」――この標語を使った啓発資材を市町村、保健所、それから民間企業の方々のご協力のもとに配布をさせていただいています。こういう形でのがん検診の呼びかけも行っています。
この他がん検診の受診率向上のため、府民向けの啓発動画の作成も行っています。市町村、府内の保健所、企業への啓発物品の配布なども行っており、イベントなどでも広くがん検診の受診を呼びかけているところです。

次に、ターゲットを絞った啓発の取り組みの一例をご紹介します。女性に向けた乳がんや子宮頸がん検診の啓発動画の作成、公開も行っています。こちらの啓発動画は、大阪府の健康づくりポータルサイト「健活10」の「けんしん」のページや、大阪府の健康づくり課の公式YouTubeからも見ていただくことができます。また、大阪府では、毎年関係機関とともに「がん予防キャンペーン大阪」を実施しております。今年度のキャンペーンは子宮頸がんをテーマに、早期発見・早期治療の大切さや、HPVワクチンの普及につきまして、パソコンスやスマートフォンから無料でご覧いただける講演動画を、大阪がん循環器病院予防センターのホームページで、10月1日から来年3月まで公開しています。「がん循」と検索をかけていただくと、ご覧いただけます。

次に、協会けんぽ、市町村と協力して、大腸がん検診キット事業を実施しております。これは専業主婦など被扶養者向けに、特定健診と大腸がん検診の同時実施を促し、がん検診の受診者数の増加と定着を目的としています。令和3年度に大阪府が実施した調査によりますと、大企業の健康保険組合では被扶養者向けのがん検診が進んでいますが、社会保険のご加入者で最も多い協会けんぽの方ではそこまでまだできていないこともあり、こうした協会けんぽ加入者の、被扶養者向けのがん検診の受診促進に向けて、キットを送付し、特定健診会場で予約なしでがん検診の受診をしていただける取り組みもしております。

それから先ほど少し触れましたが、大阪府で実施しております「健活10」それから「アスマイル」という健康サポートのアプリ、これも連携してがん検診受診の啓発にも取り組んでいます。10の健康づくり活動、そのうちの9番目のところに「けんしん(健診・検診)を受けましょう」と啓発呼びかけをしています。
他にも「健活10」サイトの「けんしんページ」からは各市町村のがん検診に関するホームページや、がん検診の集団予約ができるページにアクセスが可能となっています。それから健康サポートアプリの「アスマイル」、こちらを活用していただき、府民のみなさまの健康もサポートしております。「アスマイル」は府内にお住まいの18歳以上の方が利用できるアプリとなっていますが、大阪府外から府内に通勤通学されている方でも、その所属する企業、学校が企業コードを申し込んでいただいている場合はアプリが利用できます。歩く、朝食を取る、歯磨きをするといった日々の健康活動の記録をして健康管理をしていただくとポイントが貯まり、このポイントが貯まると抽選に参加できて、当たると特典がもらえます。がん検診との連携におきましては、検診を受診することで、アスマイルの方にポイントがつくという取り組みをしています。

最後に本日ご参加のみなさまにおかれましては、がん検診に対する正しい知識をさらに深めていただき、大切な従業員をがんから守ることはもちろんですが、いつまでも元気に働けるように、健康づくりの取り組みを、日々の生活に取り入れるきっかけにしていただければと思います。とりわけがん検診を受ける従業員の方が1人でも増えますように、積極的な受診の呼びかけをしていただければと思っています。大阪府におきましても、がん対策推進計画の次期計画を策定中ですので、今後も更なるがん対策の推進に尽力してまいります。本日はご清聴誠にありがとうございました。

【企業におけるがん対策のご紹介】
丸尾 亮好氏(一般社団法人エル・チャレンジ 理事兼事務局長)

一般社団法人エル・チャレンジ 理事兼事務局長 丸尾 亮好氏
▲一般社団法人エル・チャレンジ 理事兼事務局長 丸尾 亮好氏

まず私たちエル・チャレンジという会社がどんなことをやっているのか、簡単に企業の説明をさせていただきます。
エル・チャレンジは三つの会社を経営しており、一つは障害のある人の就労支援を行っている会社(大阪知的障害者雇用促進建物サービス事業協同組合)です。この会社の設立は1999年で、大阪府下で、障害者の就労支援を、清掃業務を中心に実施しています。現在までに1000人を超える障がい者が一般企業に就職していきました。二つ目は事業協同組合では実現できない課題などを実現する会社として、一般社団法人エル・チャレンジです。この法人は、障害福祉サービス事業を活用しながら障がい者ある人の“働く”と“学ぶ”を実現する組織として、「エルズカレッジおおさか」という支援学校高等部を卒業した人を対象に次の学びの場(大学)として、「えるえる」を働くことに特化した事業所“ソーシャル・ファーム”として設立しました。三つめは、一般社団法人エル・チャレンジ福祉事業振興機構という法人です。この法人は、大阪府下の主に障害福祉サービス事業所「B型」を対象に作業工賃を向上することを目的として、共同受発注センターを設置するなど工賃向上を目指すB型事業所のサポートを行っております。

就労支援ということで、当方も20年近くこうしたお仕事をさせていただいていますが、私どもはこの障害のある人に、働くということを応援しているわけではなく、障害のある人が社会人としてどういう活躍をしていくのか、そういったことをしっかりと見つめていく。これが私たちの仕事ではないかと思い、スタート支援と長い人生の所々で関わらせていただいています。
エル・チャレンジの3つの会社をあわせても、従業員数は50人にも満たないような小さい会社ですが、職員の健康を第一に健康診断を行い、がんの早期発見に努めていかなければいけないという方針で事業運営しています。

健康診断はまず初めに、当然のこととしてしなければいけないという認識のもと、協会けんぽの定期検診を設立当初から実施しております。現場で働くということは、なかなか健康管理と直結しないことがたくさんあり、どうしても忙しいことを理由に日頃病院に行かない人もいます。ですから、健康診断を受けていただく、年に1回ではありますが自分の体を見つめていただくことができたらいいなということで、現在やっております。
基本的には一般的な協会けんぽの仕組みを活用しながらやっていますが、その結果、中には再検査、要精密検査という結果の人がいます。そういった人に関して、必要に応じて地域産業保健センターの医師からの就労可能の有無を判断していただき、社内でフィードバックし「ちゃんと二次検査に行ってくださいよ」と言えるような環境作りに取り組んでいます。
特に私は事務局長という役職をさせていただいていますが、なかなか私だけでの啓発は難しいものです。トップダウンで健康診断を受けようとメッセージは出すようにしていますが、それぞれ働いている個人が、どうしても私に相談しづらい環境があってはいけないので、相談ができる窓口として総務の中で担当者を決め相談窓口を作り、健康診断そのものを、やりっぱなしにしないという意識で取り組んでいる次第です。

このような体制で社内の意識を変えようと取り組んでいたところ、過去に3人の方にがんが見つかりました。なかなか私自身も会社で職員から感謝されることは少ないですが、復職されるときに、“ありがとう”と3人全員の方から言われました。「本当に健康診断しっかりやってくれて良かった」「早期で済んだから助かった」――と、私自身もすごく良かったなと感じています。
また、胃がんの検診に関して、55%となっていますが、これはバリウムを飲むというところの結果です。数名の人はここに入っておらず、この11名以外の方で内視鏡の検査で受診されている方も何人かおられるということなので、もう少し受診率で言うと上がってくるかなと思います。

企業風土の醸成ですが、喫煙者が多いことや、就労支援の仕事上ストレスを溜めることもあるなど、やはり、健康管理が非常に難しいと私自身も考えています。協会けんぽの活用、社内でも積極的に声掛けができる環境を作っていくことを重要視することを心がけています。私自身がなぜこれだけ一生懸命取り組むかと言いますと、私はこの仕事を20年していますが、その前職、まだ20代の頃にビルメンテナンスの業界にいまして、現場の従業員が大体500人近くいました。
このときに毎年誰かが亡くなったり、がんになったりといろんなお話がありました。私自身が最後までお付き合いし、亡くなった人もたくさんおられます。その業界は高齢の方もたくさんいて、現場で亡くなられる人は“がん”だけではありませんでした。朝、会社に出てこない。「なんでだろう?」家に行ったら亡くなっていた――こういったことが1人や2人じゃありませんでした。年間に数名です。そういったことを考えたときに、何とか自分の現場で働いていただいている職員の人を、そういった結果を生まないように、どうするべきかということを熱心に考えました。やはり健康診断をやって、そういう人を1人でも少なくしたいという思いがありました。

もう一つは、私の母親が、私がまだ10代の頃に胃がんになりました。まだ母親は40代でした。当時、もう40年近く前の話ですが、胃を全摘出することになりました。当時ですから、会社を1年近く休まなければいけない状態になり、私自身が10代だったこともありショックを受けました。母親がそういう状態になってしまったと。ただ、母親は1年後にはその会社に復帰させていただきました。そのことを私もよく覚えていたこともあり、このがんという病気に対しての取り組みはしっかりやらなければいけない、自分自身のこととしてやらないといけないと思っていました。

40歳を超えたときから私も健康診断とは別に、内視鏡で大腸がんの検査を受けるようになりました。3年から5年に1回は行かなければいけないと思って。48歳のときに私も大腸の検査を受けました。そうするとやはり親子ですね、私は48で病変が見つかってしまったわけです。ただ、しっかり検診をしていたこともあり、幸い早期で取り除けてよかったなと思います。これはがんではなく、医療に詳しい方はご存知かもしれない、直腸カルチノイドという病気です。なかなかこの大腸の検査では出血までいかない、ちょっとややこしい病気になりました。検査、早期の発見ということに対して向き合っていくことが大切で、自分が早期発見できたように自分の社員が早期発見すれば、すぐに復職できます。会社の中で私が病気になったとして、復職するのもおそらく気づかれない、1日2日で帰ってこられます。早期の発見でしたら、それぐらいで帰ってこられるということです。

しっかりとみんなにも共有しながら、何とかこういう形で取り組んでいけたらということで、私の周りの会社も含め、できる限り検診というのは受けていただきたいです。私はこの社員に対するフィードバックはすごく大事と思っていまして、こうした会話を社内でできる環境をどう作っていくか、私自身もまだまだこれから勉強していかなければいけないことがたくさんあると思い、先日も追加で数年に1度もう少しこういう検診をやったほうがいいのではないかという話もしました。
正直、会社のためというわけではなく、やはり個人のため、会社のために周りで働いてくださる人のためです。自分の体というのは財産と思っています。ですから、まずはできることからということで、これからも取り組んでいきたいと思っています。
今日はこのようなお時間をいただきまして、ありがとうございます。私もこれからしっかりと進めていきたいと思っていますし、またみなさんと一緒にこういう考える機会をいただき、がんになった人が相談できる社会をどうやって作っていくか、また一緒に考えていけたらと思っております。

【受けてや、がん検診】
中川 恵一氏(東京大学大学院医学系研究科 総合放射線腫瘍学講座 特任教授)

東京大学大学院医学系研究科 総合放射線腫瘍学講座 特任教授 中川 恵一氏
▲東京大学大学院医学系研究科 総合放射線腫瘍学講座 特任教授 中川 恵一氏

日本は世界で最もがんが多い国と言えます。累積がん罹患リスク、生涯で何らかのがんに罹患する確率、男性65.5%、女性51.2%でありまして、事実上これは世界トップです。
これはがんが、簡単に言えば一種の老化と言える病気なので、日本が世界一高齢化すれば、必然的にこういうことになります。ちなみに、がんは男に多い病気です。主な理由はやはり男性の方が生活態度が悪いというところだと思います。
ただ、55歳までは女性が多いです。結果的には働くがん患者さんという点では、女性の方が多いということになります。ただ、これまで日本の会社組織というのは、言ってみれば男性中心だったと思います。その結果、実際には会社でのがん、社員ががんになるという点では女性が多いですが、会社の中でのがん検診で、女性に対する乳がん、子宮頸がんの検診がなされてこなかった――そういう問題があります。

今、年間100万人が毎年新たにがんと診断されて、38万人以上の方が、がんで命を落としています。1981年にがんが死因のトップに出て、それ以降ひたすら増え続けています。これは大変重要な問題です。
そして大阪、日本の中でも非常に重要な場所だと思っています。大阪のがん対策を進めるということが、日本のがん対策を進めるということになるだろうと、これはかねてから思っていました。
47都道府県の「がんの年齢調整死亡率」、2005年、2010年、2015年、2020年のがん死亡率で、47都道府県の中で一番がん死亡率が高いのは、この4年間全て青森です。
青森と、東京、大阪でもいいですが、青森と大阪で人口10万人あたり、どちらががんの患者さんが多いか、がんで亡くなる人が多いかというと、これはもちろん青森です。これは青森の方が、高齢者が多いからです。
従って、単純に人口10万人当たりがんで亡くなる人の数を比較するのでは、フェアではない。そのために年齢調整という作業が必要で、年齢構成を揃えた上で、フェアに47都道府県の死亡率を見て、大阪府は第39位。下から数えた方が早いということであります。それでも先ほど大阪府健康医療部の志村室長からのお話にもあったように、下がってはいます。下がってはいますが、47都道府県の中で39位ということは、知っておいていただきたい。何とかしないといけないということです。

我が国のがん検診の受診率ですが、これも厚生労働省西嶋課長からお話があったように、徐々に上がってきています。例えば、大腸がん、男性と女性ですね。肺がん、男性と女性。例えば男性の肺がん、あるいは男性の胃がんについては、5割を超えました。しかし、それ以外については5割に達しない。そして国は元々5割だったこの受診率の目標を6割に上げたということですが、実はアメリカでは、がん検診の受診率は8割程度、つまり日本の倍なんです。この辺は日本の大きな課題だと思います。例えば乳がんにしても、子宮頸がんにしても、韓国を含めた先進国の中で、我が国の受診率は最下位でして、アメリカは日本の倍の受診率を誇っている。
アメリカはご承知のように、がんの医療費が非常に高いです。だからむしろ、経済的に恵まれない方々については、無料のがん検診をすすめています。その結果、日本とはかなり受診率が違います。

またもう一つ、これも後で少し触れますが、今、日本ではようやく学校でがんの教育が始まっています。ご存知でしょうか。学習指導要領にも、中学と高校の指導要領の中にがん教育が盛り込まれて、教科書も変わっています。このことはもっと知られるべきだと思います。おそらく今後長期的には日本でも、がん検診の受診率は上がっていくのではないかなと思います。

大阪府のがん検診受診率です。47都道府県の中で、例えば胃がんは47位、肺がんは46位、乳がんは43位です。がんとは、防ぎようがない病気、そんなイメージがあるのではないかなという気がします。確かに世の中には、運命的と言わざるを得ないような難しい病気、難病というのはあります。ALSなどがそうです。筋萎縮性側索硬化症、これの多くのタイプは、発症原因もわからなければ治療法もない。もし発症したら、全身の筋肉が衰えていって、呼吸筋も衰えて、人工呼吸器になり、最後は目を動かす筋肉だけが動くという病気で、もし発症したら本当に進行が遅いことを願うばかりです。
しかしそういった難病と違って、がんというのは、ある程度ですが、コントロール可能な病気です。
がんは台風とは違います。ある程度ですが制御可能な、あるいは備えることができる病気で、そのことをより多くの方に知ってほしいです。ではどうコントロールするのか。案外ここがシンプルでありまして「がんを防ぐ生活習慣」プラス「がん検診による早期発見」このことは、もうみなさんはよくわかっていると思います。
ただし、このことをはっきり伝える。これ一次予防、二次予防ですが、そういう言い方をすれば、やっぱりなかなか受けられないです。ですから「生活習慣プラスがん検診」そのようにはっきり伝えていただきたいということです。
それから、がんは遺伝によるという意識も多くの方がありますが、遺伝は5%です。よく私も聞きますが、遺伝が原因のがんはどれぐらいですかと聞くと、50%、20%、5%のうちどれかと聞くと、5%と答える人が一番少ないです。20%という回答が一番多いですが、50%と答える人もそれに近いですよ。もし50%だったら、これ台風じゃないですか。要するに自分ではどうしようもないですよね。生まれたときに運命が決まっている。しかし、がんはそうではないということを、これも伝えていかないといけない。

がんとは一種の老化です。遺伝子を傷つけるもの、実は最大の要因が、遺伝子の経年劣化で自然に発症する。もちろんタバコ――これが男性の発がん原因のトップですが、それからウイルスによる感染ですね。それから福島で問題になった放射線。しかし何といっても一番重要なのは、年齢とともに、時とともに遺伝子が傷む、自然に傷むこと。これが大変重要で、ということは、がんは一種の老化ということになります。
できたてのがん細胞は、免疫の細胞が殺してくれている。これを皆さんの体の中でやっているわけです。しかし、例えば、私のできたての膀胱がん細胞。これは私の免疫の細胞が本来殺さなければいけないんですが、私の免疫の細胞から見て、私のがん細胞というのは、もともと私自身の細胞ですから異物に思えにくいんです。免疫の細胞って、有害なものを見つけて殺しているのではなくて、自分ではないもの、「非自己異物」ですね。異物を殺すんです。
そうすると、がんというのは厄介ということになります。もともと自分の細胞なので。そしてまた免疫の働きが年齢とともに衰える。このことは、コロナで高齢者が亡くなったということでもおわかりの通りです。がんとは一種の老化、もっと言うならば二重の意味で老化、「遺伝子の経年劣化」と「免疫力の老化」この二つの要因が重なっています。

従って日本が、男性の3人に2人、女性の2人に1人ががんに罹患する、こういう社会になったというのは当たり前ということです。日本が世界で最も高齢化すれば、世界で最もがんが増える。そしてもう一つ重要なことは、西洋社会と違って、日本は戦後に急激に高齢化が進みました。これは急激にがんが増えることを意味します。
従って人々の知識とか、心構えとか、あるいは教育そういったものが遅れてしまった、間に合わない、そういうことが背景にあると思います。ぜひみなさんに、みなさんの会社、あるいは地域にこのがんの情報の提供をお願いしたいと思います。

そしてたった一つの免疫の細胞が取り逃がした細胞が、分裂を始めるわけです。1個が2個になり、それぞれ分裂して4個になり、ですから1、2、4、8、16、32と増えていく。
がんは、1センチになってようやく診断可能です。この診断可能な1センチの大きさになるのに20年という時間を要する、これも重要なことです。この図は、中学校の教科書から持ってきたものでありまして、がん細胞がたった一つ、免疫の網の目をかいくぐって生き残った。これが20年かけて、早いものは10年、遅いものは30年、60年というものもあります。おそらく20年ぐらいが平均だと思いますが、1センチになり、ここから診断可能になります。そして早期がんとは何かというと、厳密にはいろいろ難しい話がありますが簡単に言うならば、2センチくらいまでが早期がんというふうに考えてください。
要するに、発見可能な早期がんって1センチから2センチの間です。がんになったら1センチか、1センチから2センチの間で見つけましょう。私の場合は自分で超音波検査で見つけたんですが14ミリで、もちろん症状はありませんでした。1センチ2センチといった早期がん、ここでは症状を出すことはありません。このことも非常に重要です。がんとは少々進行しても症状を出さない、あるいは少々転移があっても症状を出さない、ましてや早期がんで症状を出すことはないということです。がんは症状を出しにくい病気です。
テレビとか映画とかドラマで主人公ががんになると、基本的には亡くなります。がんはそういうイメージを持たれているわけですから、がんと診断されると1年以内の自殺リスクが20倍になるというデータもあります。しかし、現実にはがんとは症状を出しにくい。そのこともぜひ伝えていただきたいというふうに思います。

成人T細胞白血病という変わったタイプの白血病があります。これはHTLV-1というウイルスが原因の100%です。これはほとんど母乳からうつります。元宮城県知事の浅野史郎さんは、これに61歳で発症しています。母乳ですからね。せいぜい、一、二歳までですよね。要するに60年かかってがん、白血病が出る病気ということです。
また大腸がんの例ですが、上皮内がんから始まり体の奥の方に進んでいって、ステージ3だとリンパ腺の転移、ステージ4だと遠隔転移ということですね。ステージ4になるとなかなか治療が難しくなります。そしてこのステージによって、どのがんもそうですが、5年生存率はどんどん減っていくということです。
さて、がんに備える基本です。シンプルと言いました。「生活習慣」プラス「がん検診による早期発見」です。生活習慣で一番重要なのは三つです。タバコ、お酒、そして細菌ウイルス感染です。実は、日本人の男女別の発がんの要因は、男性では1位がタバコ、2位が感染です。3位がお酒で8.3%となっています。女性の方はタバコ、お酒は低い。ただ感染というのは重要でして、男性の場合43%が予防可能な要因です。女性の場合、25%だけが予防可能ということになります。男女合わせると、感染が発がん原因のトップであります。

日本人の発がん原因のトップは実は感染でして、2位がタバコ、3位がお酒。男女合わせると36%が予防可能な要因ということになります。これを多いと見るのか、少ないと見るのか、ここは微妙ですが、感染がトップです。
重要なのが3つあるいは4つ、胃がんは子どもの頃のピロリ菌感染が原因の98%です。子宮頸がんは原因のほぼ100%が、性行為に伴うHPV感染、ヒトパピローマウイルスです。ピロリ菌の場合には除菌でリスクは減ります。子宮頸がんの場合にはワクチンによってリスクは1割まで減ります。肝臓がんでも7割から8割がC型B型の肝炎ウイルスです。これに対しても経口の飲み薬の抗ウイルス薬が有効です。先ほど申し上げたように、母乳によってウイルスが感染するタイプの白血病もあります。
予防可能な発がん要因は36%ということは、64%が予防できないということです。ここには、遺伝子の経年劣化など、つまり簡単に言うと、運と言える要素もあるということです。だからこそ、生活習慣を完璧にしても、早期発見が必要です。この辺をご理解いただくのも大変重要と思います。
がんは1センチから2センチの間で見つけたい。この間で症状を出すことはない。だから定期的に検査をするしかない。多くのがんでは1センチが2センチになる時間は2年です。早いものは1年ですから、がん検診を2年に1回あるいは毎年受けましょうというのはそういうことです。

ちなみに一辺1センチの立方体の中にがん細胞は、約10億個入っています。10億って2の30乗ですね。従って、一辺1センチになるのに30回の細胞分裂が必要です。一方、一辺1センチが一辺2センチになるのに、体積だと8倍ですよね。つまり細胞の数で8倍、8って2の3乗ですから、ここまでに30回の分裂を要するのに対して、1センチが2センチになるのはたった3回つまりこの時間の10分の1ですから、1年あるいは2年ということになります。
がん検診で見つかった場合とそうでない場合の5年生存率では、どのがんでも簡単に言うと9割近く、5年生存率があります。しかし検診以外の理由で発見されると、大きく減ってしまうということです。
がん検診は住民検診が基本となります。例えば大阪市の場合には大阪市からがん検診の通知が来るはずです。これは非常に安いです。東京都の場合、例えば中央区や千代田区は、自己負担ゼロです。要するに東京都の財政がいいからです。大阪も決して高くありません。これは健康増進法に基づいて国が指針を定め、例えば子宮頸がん検診は20歳から2年に一度、乳がん検診は40歳から2年に一度と、国が指針を定めています。法律に基づいて指針を定めて、そして公金を投入することによって個人の負担が非常に安くなります。
安くて駄目だというのではありません。多くの場合、効果価値のないものって安いと思いますが、実はがん検診の場合は、死亡率を下げるということが科学的に証明されているものを、国が定め、そして、公金を投入しているから自己負担が低いわけです。そのことをやはり理解していただく必要があるのではないかと思います。

まず、住民検診をやるということが基本になります。法律で定めている科学的な根拠があるから法律で指定して、公金を投入しているということも理解していただきたいです。
学校でがんの教育が始まっている、こちらは中学生の保健体育の教科書から持ってきたものです。先ほどと同じく、受けるべきがん検診が記載されています。子宮頸がんは20歳からっていうことですから、女子中学生高校生にとってはもう数年後、受けるべきものです。学校でがんの教育が始まった今、この授業を受けた女子生徒が、20歳になって子宮がん検診をどれだけ受けていただくかというのを、非常に私も関心を持っています。

さてこれは既にお話があったかもしれませんが、がん検診を受けない理由として最も多いのが「受ける時間がないから」いうことです。これに関して、子宮頸がんは先ほど申し上げたように、HPVというウイルスの性交渉に伴う感染が原因のほぼ100%で、HPV検査を使ったがん検診を国が進めていまして、今年度中に子宮頸がんの指針の改定が行われるようです。
現行は20歳から2年に一度の細胞診が推奨されています。しかしこのガイドラインではHPV検査を推奨グレードAとしていて、検診間隔を5年ごとに延ばすことができます。このHPV検査では受診者の約8割から9割が5年ごとにすればいいということになります。ですから、今までと違い受ける時間がないということに対する解消、解決策が提示されています。これが一番重要ですが少しわかりにくくて、20代では今までと同じよう2年に1回細胞診です。
しかし30歳から5歳刻みで、具体的には30歳、35歳、40歳、45歳、50歳、55歳、60歳。この5年ごとに、まずウイルスがいないか診ます。いなければ、次は5年後、30歳の方だったら35歳まで検査を受けなくてよい。もしウイルスがいた場合には、HPV検査陽性の検体で細胞診を行う。液状検体といってHPVを取る際に、細胞診も取れる状態、細胞診も検査できる状態にしておくということです。つまりHPVが陽性であっても、また新たに検査をする必要がなくて、そのHPVを取った検体を使って今度は細胞診をする。もしこの細胞診が陽性だったら、今度は婦人科での検査で、生検をするということになります。
そして「HPVは陽性で、細胞診が陰性だった場合」は次の年、30歳だった場合には31歳、次の年にまたHPV検査をして、ここで陰性だったら今度は35歳のときに、またHPVを見るということになります。ここでまた陽性だったら今度は、一緒にとってある細胞診の検体で診る。ここ陰性だったらまた次の年で陽性だったら細胞診、こういうことを繰り返す。
だからHPVで多くの方が陰性になるのですが、その場合には、30歳35歳40歳と5歳刻みで検査しますから、受ける時間がないということに対する解決策にはなっているということです。
20代は今まで通り30歳からは自治体によって、現行法の細胞診、今申し上げたHPV法を選ぶことができます。胃がんの検査は、受診者がバリウムか内視鏡かを選びます。この子宮頸がん検診に関しては、自治体ごとにどちらかを選ぶことになります。20代は今まで通りで、30歳になってからは、大阪市がどうされるかはわかりませんが、どちらかを選んでいただくことになります。

がん検診未受診の理由について、全国的には「受ける時間がない」というのがトップですが、大阪府の場合は「費用がかかるために経済的に負担」がトップでした。例えば大阪市は、胃がんのバリウム500円、子宮頸がん400円、大腸の便潜血検査300円です。安いです。人間ドックや、他の検診と勘違いされていることが多いのではないかなと思います。
実は私の近親者が48歳で大腸がんで命を落としました。最初に転移がありまして、ステージ4で、見つかりました。大腸がん検診をやっていませんでした。もしやっていたら5年生存率98%、結局4年半で命を落としました。抗がん剤、分子標的薬、そういったものを延々と4年半行うわけですが、これは全国平均ですけれどもステージ4の大腸がん、抗がん剤を治療に使うと1年目の治療費は750万です。これ基本的に2年目3年目4年も同じです。これだけかかる。
もし早期で見つかって、内視鏡切除ができたとすると40万です。そして、ご承知のように早期がんで治療が終われば薬物療法一切かからない。つまり最初の40万、それに対して3割負担、そして高額療養費制度が使えるわけです。医療費も全く違うということを知っていただきたいと思います。

それから精密検査についてです。大腸がんでは3割の方が精密検査を受けていないです。他のがんと比べて高いです。会社の中での精密検査受診率が、実は住民検診以上に、低いということです。胃がん肺がん大腸がん、これは5割に達していません。むしろ、子宮頸がん、乳がんの方が高いです。
こちらは被扶養者の方です。精密検査というのはがんの疑いではありません。しかし職域ではがんの疑いというイメージがあるので、大きな機微情報として扱われてしまい、同意がないとこの受診勧奨ができません。その結果、職域での精密検査受診率が非常に低いという大きな問題があります。
大腸がん検診を1,000名が受けるとすると、66人が要精密検査となります。その66人のうち、大腸がんと診断されるのは2人です。ですから30分の1の確率ですね。ですので、要精密というのは実はがんの疑いというよりも、早期発見のチャンスだと考えていただきたいと思います。
私もよく知っている岡山の検診センターでは、便潜血検査の結果を当日にわかるようにして、陽性者に対してはその場で受診勧奨を行うそうです。全てできているのかはわかりませんが、しかし、こうした取り組みもあります。

企業アクションの中ではですね、やはりこの女性のがんの受診率が低いという大きな問題があります。そして経営者の方の関心度に、この受診率が大きく依存している、経営者の方ががんに大いに関心があるという企業は、がん検診の受診率、実施率が上がってきます。実は、両立支援も同様です。ですから事業所においては、まず経営者の方にがんに関心を持っていただくことが大事かと思います。
フィロソフィーの話は上映されていたと思いますが、がん対策は今、経営課題である。このことも、みなさんにご理解いただいて、そして発信をお願いしたいと思います。ご清聴ありがとうございました。

【ABCラジオ公開収録「Changeの瞬間~がんサバイバーストーリー」】
ゲスト:麻木 久仁子氏 中川 恵一先生
パーソナリティ:八木 早希氏

東京大学大学院医学系研究科 総合放射線腫瘍学講座 特任教授 中川 恵一氏

ABCラジオ様との共同企画で「Changeの瞬間~がんサバイバーストーリー」の公開収録を行いました。パーソナリティの八木 早希様が、麻木 久仁子様、中川 恵一先生をゲストにお迎えして、がんと向き合う中で気持ちを前向きに変えることができた瞬間、Changeのときについてお話を伺い、今と未来について考えました。

詳しくはABCラジオ公式YouTubeにて

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