2023/02/08
令和4年度 ブロックセミナー
高知セミナーを開催!
(ページの最終更新日:2023年3月3日)
令和4年度のがん対策推進企業アクションのブロックセミナー「職域におけるがん対策の最新情報」を高知県高知市の「高知会館」にて、2月8日に会場とオンラインによる同時配信で開催しました。
当日は、がん対策推進企業アクション アドバイザリーボード議長 中川 恵一氏、高知県健康政策部医監(兼)健康対策課長 川内 敦文氏、廣瀬製紙株式会社 馬醫 光明氏、認定講師 和田 智子氏の講演、そして登壇者4名によるトークセッションを行いました。
■ プログラム
- 13:00 ご挨拶
高橋 和那氏(厚生労働省 健康局 がん・疾病対策課 がん指導係長) - 13:05 ご挨拶/がん対策推進企業アクション事業説明
山田 浩章(がん対策推進企業アクション 事務局長) - 13:10 高知県のがん対策の現状について
川内 敦文氏(高知県健康政策部医監(兼)健康対策課長) - 13:20 『コロナ下におけるがん対策』
中川 恵一氏(がん対策推進企業アクション アドバイザリーボード議長/ 東京大学大学院医学系研究科 総合放射線腫瘍学講座 特任教授) - 14:00 休憩
- 14:10 健康経営に向けた取組み
馬醫 光明氏(廣瀬製紙株式会社 取締役) - 14:30 子宮頸がん よもやま話~体験談・HPVワクチン・お金のこと~
和田 智子氏(がん対策推進企業アクション 認定講師) - 14:50 トークセッション
- 16:00 閉会
【ご挨拶】
高橋 和那氏(厚生労働省 健康局 がん・疾病対策課 がん指導係長)
本来であれば当課の課長中谷が参りまして直接ご挨拶を申し上げるところですが、公務のため、私より課長の挨拶を代読させていただきます。
厚生労働省健康局がん疾病対策課の中谷です。本日は公務が重なってしまったため残念ですが、この場に立つことができず、挨拶をお届けする形となりました。
本日は皆様お忙しい中、がん対策推進企業アクション高知セミナーにご参加いただき、誠にありがとうございます。また、本日のセミナー開催にご尽力いただきました皆様には厚く熱く御礼申し上げます。
我が国のがん対策は平成18年にがん対策基本法が制定されたことで一気に加速し、平成28年の改正では、がん患者の雇用の継続やがんに関する教育の推進など、新たな政策が盛り込まれました。
平成29年度から今年度までの第3期がん対策推進基本計画では、「がんの予防」「がん医療の充実」「がんとの共生」を3本の柱に、これらを支える基盤の整備として、「がん研究」「人材育成」「がん教育、普及啓発」を進めてまいりました。次期がん対策推進基本計画については、現在パブリックコメントを実施しており、本年度中の策定に向けた検討を進めております。
このようにがん対策を着実に進めているところですがおりますが、依然として我が国では、昭和56年からがんが死因の第1位であり続け、毎年約100万人ががんに罹り、約38万人が亡くなっております。
また、医療の進歩などにより、がんは多くの場合、早期発見・早期治療により治る病気となりましたが、男性の肺がんを除き、依然としてがん検診の受診率50%の目標には届いておらず、国際的な比較データを見ても、日本のがん検診受診率は低いのが現状です。
がんを克服するためには、1人でも多くの皆様ががん検診を受診することが必要です。
がん検診の受診機会は、受診者の約3割から6割が職域での受診と言われており、受診率向上のためには職域での啓発が非常に重要であることから、厚生労働省では、職域において科学的根拠に基づくがん検診ができるよう、平成30年に「職域におけるがん検診に関するマニュアル」をお示ししております。厚生労働省や企業アクションのホームページに掲載しておりますので、ぜひとも皆様の職場でもご活用ください。
また、企業アクションは、職域におけるがん検診の受診率の向上、がんになっても働き続けられる社会の構築を主な目的として、平成21年から14年間活動してまいりました。現在では4,500社もの企業・団体様がパートナーとして登録されております。企業アクションでは、がん対策に関する様々な情報を分かりやすくご提供して参りいたしますので、こちらも積極的にご活用いただき、職場でのがん対策に役立てていただきたいと思います。
なお、次期がん対策推進基本計画の策定に向けた協議会の議論では、職域におけるがん検診や、治療と仕事の両立支援の推進に関するご意見もいただいております。引き続き、皆様のご協力もいただきながら、職域における取り組みを強化してまいりたいと存じます。
最後になりましたが、本日のセミナーが、皆様のがん対策に関する知識を深め、それぞれの職場でがん対策を充実させる契機となることを期待しています。
大切な人の行動が変わることを願っております。
【ご挨拶/がん対策推進企業アクション事業説明】
山田 浩章(がん対策推進企業アクション事務局長)
がん対策推進企業アクションの事業について簡単にお話をさせていただきます。
当事業は職域でのがん対策を啓発していく事業です。人生100年時代と言われるように、定年も伸び、がんにかかる年齢層が職域にいらっしゃるため、対策を講じている事業です。
企業アクションの運営は、有識者会議というアドバイザリーボードを設置し、あらゆる分野の専門家の皆様から常にご意見を頂戴しながら、最新の正確なエビデンスに基づいた情報を提供しています。
当事業にご賛同いただける企業・団体様にはパートナーとしてご登録をいただいており、基本的に無料でご利用いただけるコンテンツをご提供しています。昨年9月30日時点で約4,500社の企業・団体様にご参画をいただいております。地方ブロックセミナーということで、今回は高知県にて実施をさせていただいておりますが、高知県内の登録はまだ19社と少ない状況でございます。本日のセミナーを通じて参画いただける企業様・団体様が増えることを願っています。
企業アクションの三つの指針である、会社全体でがんを正しく知る、早期発見のため受診率向上、治療と仕事の両立ができる環境を作る、に沿って活動をしております。活動内容は皆様への発信や、セミナーなどのイベントで知っていただくことや、企業様と共同・連携してプロジェクトを進めることなどによるがん啓発です。ホームページに詳細を記載しておりますので、ご覧いただければと思います。
本日のセミナーが、がん対策を考えるきっかけや気づきとなり、大切な従業員や家族を守ることに繋がることを強く願い、引き続き企業のがん対策を全力で応援してまいりたいと思います。
【高知県のがん対策の現状について】
川内 敦文氏(高知県健康政策部医監(兼)健康対策課長)
高知県のがん対策の現状をご説明させていただきます。
高知県の死亡原因の1位はがんで、死因の約4分の1を占めます。県内のがん罹患数の順位は、男性では1位:大腸がん、2位:前立腺がん、3位:胃がん、女性は1位:乳がん、2位:大腸がん、3位:子宮がん、となっており、全国とあまり変わらない状況です。一方、死亡では、男性は1位:肺がん、2位:胃がん、3位:大腸がん、4位:膵臓がん、5位:肝臓がん、そして、女性は1位:肺がん、2位: 膵臓がん、3位: 大腸がん、4位:胃がん、5位:乳がんという順位で、罹患と死亡の状況は少し異なります。これは予後の良し悪しの影響もあるかと思います。がんの死亡数は、ここ数年は横ばいで、これは人口減少や死亡率自体の低下の影響も大きいと思います。年齢構成を調整した年齢調整死亡率では、男女とも全国平均よりは少し高く、女性より男性の方が高いです。年齢別では、働き世代でもがん死亡の割合が非常に高いです。
がんの生涯罹患率は2人に1人で男性では6割ですが、早期発見の5年生存率が9割には期待できますので、早期発見、がん検診の受診が非常に重要です。
高知県のがん対策の歩みについて、国のがん対策基本法ができたのは2006年、翌年の2007年にがん対策基本条例が制定され、以後は国の計画に基づいてがん対策推進計画が策定されています。
高知県の基本方針は国が掲げる方針とあまり変わりません。目標は死亡者数の減少と、がん患者、その家族及び遺族の満足度の向上で、医療の質がこの満足度に反映されます。数値目標は、胃がん、大腸がん、子宮頸がんの検診の受診率50%以上です。肺がん、乳がんの検診受診率は、この計画策定時に既に50%を超えていますので維持・上昇を目指します。
高知県のがん検診受診率については、肺がんと乳がんは数年前から50%を超えていますが、胃がん、大腸がん、子宮頸がんが50%をなかなか超えずに伸び悩んでいます。新型コロナの影響もありますが、事業所の方々が受ける検診は、新型コロナの影響がもうほとんどない状況ですので、引き続きしっかり取り組んでいただきたいと思っております。
精密検査受診率では、職域での大腸がん検診分が非常に低く、大きな課題となっています。通常の初回の検診よりも精密検査は時間がかかること、受診場所の情報が少し不足していることもありますので、情報発信を強化していきます。
現在、精密検査を受けられる医療機関というものを県に登録していただいて広報するという取り組みを進めています。もう少ししたらスタートできると思います。そういうところの精密検査の受診に対しての各職場での勧奨、そして受けやすい環境作りをぜひお願いできればと思います。
がんと診断をされて治療を続けている方々の就労の支援について、高知県が2年に一度行っている患者満足度調査では、がんと診断された方の2割弱がこれまで続けてきた仕事を辞めていること、また、治療が始まる前に離職される方も3割いることが分かりました。これをしっかり企業の方々と問題共有していきたいと思います。
県としての取り組みは、受診率の向上として、あらゆる広報媒体を活用して行っています。近年は商工関係の団体さんにもご協力いただき、県の広報をそれぞれの団体さんの広報誌に掲載をしていただくなども行っています。がん検診やHPVワクチン接種勧奨のポスター、チラシを提供しており、特に県内企業の方々におかれましては、ご要望いただければお渡しできると思います。相談窓口の情報提供では、がん診療連携拠点病院等に設置している「がん相談支援センター」を周知し、労働局主催の両立支援推進チームの一員として情報発信などをしています。
がんを含めて病気を抱えながら働く仲間を守る組織文化作りに期待をしたいと思います。企業・団体の皆様におかれましては、病気を抱えていてもどんな役割があるか、働き方をどう変えると働き続けられるか、という話し合いをぜひお願いします。そして、企業としての取り組み姿勢を従業員の方々、社外、社会に向けて発信していただければと思います。
【コロナ下におけるがん対策】
中川 恵一氏(がん対策推進企業アクション アドバイザリーボード議長/
東京大学大学院医学系研究科 総合放射線腫瘍学講座 特任教授)
沖縄県のがん検診受診率がコロナ後に下がっているとのことで、コロナは大変な問題ですが、がんはより大きな問題であり、対策をおろそかにすると結果的にはそれ以上に大きな問題を抱え込むと思います。
8年ほど前から毎年、高知県総合保健協会さんのご支援で、命の授業をさせていただいています。昨日の高知高校1年生に授業をした様子が高知新聞で掲載され、昨晩のテレビでも放送されました。生徒さんはとてもしっかり受け止めてくれました。今は中学校と高校の学習指導要領にがん教育が盛り込まれていますので、学校で学んでいない大人に伝えることが課題だと思います。
職場でのがん教育を大事にしていただきたいと思います。企業アクションのホームページが非常に充実しており、eラーニングなどはパートナー企業に登録いただくと無料で受けられます。残念ながら高知県は登録企業数が19社と少ないのでぜひ増やしていただきたいです。
男性は65.5%が生涯でがんに罹患します。100人の男のうち66人ががんになるということです。つまり3人に2人。女性の方は51%で、2人に1人です。
がんの年齢調整死亡率は下がってはいます。がんになる人、亡くなる人の数だけを見ると増加しています。戦前戦中は結核、高度成長期は脳卒中が日本人の死因のトップでしたが、1981年の昭和56年以降はがんがトップになり、以降も増え続けています。
年間に約100万人の方ががんと診断されて、38万人の方ががんで亡くなっています。
がんは細胞の老化といえる病気で高齢者に多いですが、専属産業医がいる大きな会社の社員さんが在職中に亡くなっている原因の半分ががんです。
私は日本経済新聞で「がん社会を診る」という連載を9年近く続けていますが、その中で伊藤忠商事さんの在職中に社員が病気で亡くなるケースの9割はがんが原因と掲載しました。要はサラリーマンの死因の半分ががんであり、そして病死に限ると、その原因の9割はがんということです。サラリーマンにとって非常に大きな病気です。
そして、定年の延長によって長く働くようになるとさらにサラリーマンのがんが増えてきます。55歳までの男性のがん罹患率はたった4%ですが、65歳まででは15%で、75歳まででは3人に1人ががんに罹患します。
日本は移民を入れてこなかったので、高齢者が働かざるを得ない国です。したがって、今後もがんで亡くなる比率が上がっていくことになります。今はサラリーマンががんになると34%の確率で離職となります。つまり、サラリーマンでがんになった人の3人に1人が依願退職、あるいは解雇になっています。自営業者さんでは17%が廃業になっています。
問題は辞めるタイミングですが、診断確定時、つまり「あなたはがんですよ」と告知された時が32%で、9%が告知から最初の治療までの間ですので、4割以上の方が実際の治療を受ける前に辞めています。がんの治療を受けて「これは辛くて仕事はできない」と思って辞めているのではなく、頭の中で考えて辞めています。これはがんのイメージの問題もあると思います。
現在、前立腺がんは10年生存率が全体で100%です。ステージ4以降は5割を切りますが、ステージ4で診断される方はほとんどいないので、全体としてはほぼ100%です。膵臓がんは全体で7%未満です。しかし、多くのがんではステージ1で8割~9割は完治します。全体でもがんの10年生存率は6割です。一方で、告知された後1年以内の自殺リスクは20倍になります。
がんは男性に多い病気ですが、55歳までは圧倒的に女性が多く、30代・40代では女性のがん患者さんは男性の倍ぐらいです。とりわけ、39歳以下の若い世代の20代・30代のがん患者さんは8割が女性になります。
子宮頸がんと乳がんの女性特有の二つのがんは非常に若い世代に多く、子宮頸がんのピークは30代です。乳がんのピークは二つあり、その一つは40代後半です。特に乳がんは日本女性のがんで一番多く、日本女性の9人に1人が罹患します。女性の大腸がん、胃がん、肺がんは男性と同じで老化によるもので、遺伝子に傷が積み重なって、死なない細胞が増えるパターンです。それに対して、乳がんは女性ホルモンが乳がんを増やすため、罹患ピークが40代後半になります。女性ホルモンは50歳過ぎの更年期になって分泌が止まって閉経となると、リスクが減るという大変特殊ながんです。
子宮頸がんはさらに若い30代後半がピークです。ほぼ100%の発症原因が性交渉によるヒトパピローマウイルスの感染のため、性的に活発な30代が多いことになります。HPVワクチンについて、スウェーデンのデータでは17歳までにワクチン接種しておくと、リスクは88%減り、罹患リスクが1割です。日本では9年間、積極的な接種勧奨をしてこなかったので、今の25歳ぐらいまでの女性が受けていません。過去は8%ほどだった接種率がほぼゼロになりました。その方々にはキャッチアップ接種の制度もありますので、ぜひ会社で案内していただきたいと思います。
子宮頸がんは国際的にも撲滅可能と言われており、ワクチン接種によってリスクが1割ほどまで下がります。検診も行えば、子宮頸がんで大きな手術を受けるような方はほとんどいなくなります。子宮がん検診の受診率は、20歳から25歳までの20代前半の方は15%です。受けることを習ってこなかったので、やむを得ないと思います。「がん検診に行くように!」とは一切言われてこなかったわけです。
そもそも日本は保健の先生が一番タバコを吸う国ですので、もう少し保健の教育をしっかりとやるべきです。昨日の高知高校での授業は16歳の女生徒たちに聞いていただきました。4年後には20歳になるので、20歳からの子宮頸がん検診を受けられます。
検診に来た人たちに、昨日のがん教育を受けたかどうかのアンケートを実施し、がんの教育の効果判定をしようと校長先生と話しをしました。
昔の若い女性は専業主婦が多かったですが、現代は会社員が多く、その方々ががんになるということです。55歳が定年だった昔は、定年退職後に年金生活者としてがんと診断されていました。その方々が今や会社員としてがんと診断されることになります。高齢化と年金の支給開始年齢のアンバランスがありますので、定年は65歳から70歳あるいはそれ以上になると思います。女性が働き、男女とも長く働くことによって会社にがんの患者が増えるということを示します。
社会が成熟すると少子化になります。何も対策しなければ、これは経済成長も社会保障制度の維持もかなわないわけです。EUのポーランドの若者は数が多く、その方々がドイツ、フランスに行くので、ドイツ、フランスの高齢者は働きません。日本は移民を受け入れてこなかったので高齢者が働くしかないのです。
企業アクションは今年度で14年目の事業で、来年度も継続予定と伺っています。15年というロングランを続けているのは、やはり我が国の社会にとって、企業の中でのがん対策が必要不可欠だということの表れだと思います。
さて、コロナ感染では死亡者が増え、大きな影響を与えています。がん検診の受診率が下がりました。
がんの教育が学校で始まっています。働く世代からシニアの方まで、学校でがんを習うことは全く想像できなかったと思います。欧米では昔からがんの教育をしています。取り寄せて見た、オランダやスウェーデンの教科書は日本以上にしっかり出来ています。このような教育を受けていれば自然に検診も受けます。
がんは症状が出にくい病気で、早期であれば症状を出すことはまずありません。がんは1cmになって発見が出来ます。5mmの肺がんなどを見つけたことはありません。早期がんは2cmくらいまでの大きさを指し、発見可能な早期がんは1cmから2cmの間で、ここで症状が出ることはありません。がんの種類にもよりますが、がんが1cmから2cmにとどまる期間は約1、2年です。そのため、体調が絶好調であっても定期的に検査をするしかありません。中学生用の教科書では、たった一つのがん細胞が1cmになるのに10年、20年かかることが載っています。がんは本当にわずかな知識の有無で運命が変わるのが、他の難病とは違います。欧米の子供たちは学校で習い、それを実践しています。検診受診率は、韓国では6割近く、アメリカは8割を超えていますが、先進国の中で日本だけが半分にも達していません。今後は、学校でのがん教育によって変わってくるはずで、大きく期待出来ます。しかし、問題は学校で習っていない大人で、この大人に対してどのように教育をするかが非常に大事です。
一方で、コロナによって元々低かった日本のがん検診受診率がさらに減りました。日本政府もステイホームを推し進めたので、やむを得ないところもありますが、がん検診の受診率は、コロナの前と比べて2020年は3割近く減りました。2021年は少し盛り返しましたが、コロナ前と比べ、1割ほど減りました。2022年はコロナ前のようにかなり回復しましたが、コロナ前と比べてプラスになったわけではありません。検診受診による早期発見が出来ていない方々は進行がんになってしまいます。がん検診の自粛というのは早期発見の遅れに繋がるということです。その結果、進行がん、早期がんの発見が減り、進行がんが増えてしまいました。
横浜市立大学の大腸がんの進行度別の発見数をコロナの前と後で比べたデータでは、上皮がんのステージ0、ステージ1、ステージ2の月平均患者数が3割程度減ったことが示されています。一方、リンパ腺の転移があり、抗がん剤が必要なステージ3は6割以上増えてしまいました。がんの患者数は全数登録が行われており、増え続けているがん患者数が2020年で初めて減りました。これは、がんが体の中で拡大しても検査をしない限り、がん患者とカウントされないことが理由で、見かけ上減ったに過ぎません。進行がんが増えていて、早期がんが減っているということです。これは非常に恐ろしい話です。
患者数が減ったので手術も減りました。日本で一番がんの手術を手がけている、東京のがん研有明病院では、肺がん、乳がん、婦人科がん、胃がん、大腸がんの全てが軒並み減りました。
胃がんは元々減少傾向にあります。その理由は、冷蔵庫の発展や水道の管理により、ピロリ菌の感染が減ったことです。このピロリ菌が胃がんの原因の98%とされています。6歳ぐらいまでに感染します。元々人類は100%感染していました。現代では感染率は激減し、80代では8割、60代で5割、20代・30代で1割、10代では5%です。今後はさらに胃がんは減っていきます。おそらく10年後などには集団健診、がん検診の対象から外れる可能性もあるように思います。
手術数の減少の中、放射線治療は増えています。胃がんが多かったこともあり、日本は元々がんを手術で治してきた国です。欧米先進国では、がん患者さんの6割前後が放射線治療を受けますが、日本はその半分程度です。しかし、がんの種類が欧米化しているので、欧米と同じように放射線治療が普及してしかるべきと思っています。通院期間も短期になり、東大病院での治療回数は、早期の肺がんは4回、進行している前立腺がんでも5回です。1回の治療時間は10分もかからず、手術と同等の治癒率になります。働く人にも非常に合っているにもかかわらず、知られていないことが大きな問題だと思います。
東大病院での放射線治療の患者さんは、服も着替えず、ある意味、適当に横になって治療を受けます。CT検査をすることで幹部の位置を特定して治療するので、適当で問題ありません。放射線治療室入室から6分30秒ぐらいで治療が終わり、入室から約7分で退室します。これを通院で5回行います。入院して全身麻酔をする外科手術とこの治療が同じ治癒率をもたらします。手術と比べて長らく放射線治療は行われない傾向がありましたが、コロナ下で初めて手術を放射線治療が上回りました。放射線治療はコロナに強い側面があるように思いますし、働く人のがん治療の選択肢に入れていただきたいと思います。
【健康経営に向けた取組み】
馬醫 光明氏(廣瀬製紙株式会社 取締役)
本日は廣瀬製紙の取り組み事例を少しご紹介させていただきます。初めに、我々の会社紹介をさせていただきます。
廣瀬製紙は高知県の土佐市にあり、1958年創業で60年以上つづく老舗会社です。売上はおよそ46億円、従業員数は、廣瀬製紙株式会社としては100人、グループ全体では160人です。
私達はBtoBビジネスのため、廣瀬製紙という社名に馴染みがないかもしれませんが、意外と家の中にある商品を製造しております。
まずは乾電池の絶縁紙セパレータです。乾電池は分解するとプラスとマイナスの正極・負極があり、それを絶縁するのがセパレータです。創業以来から製造しております。
次は、海水を淡水化するフィルターの膜で、これが一番伸びている分野です。日本では蛇口をひねればどこでも水が出ますが、世界では毎年8,000万、1億人の人口増や気候変動により、水が非常に不足しています。このような状況下で、海水を淡水化する、ろ過フィルターの需要は非常に高くなっています。そして、コロナワクチンを精製するフィルターなどの医療系製品も製造しております。
廣瀬製紙は2020年版「グローバルニッチトップ企業100選」に選定されました。高知県は4社、四国では7社が認定されています。このようにニッチな分野でトップシェアを持っている企業に選ばれるような商品になっております。
私達の魅力を三つだけ挙げると、機械で漉く技術、海外売上の高さ、多様な従業員です。
薄くて均一で綺麗な土佐和紙の伝統を受け継いでおり、機械で漉いたものでは世界で一番薄いと言われており、透き通るぐらい薄い不織布を作っています。この技術でマスクのフィルターやスマートフォンにも入っている電磁波シールド材を製造しております。
続いての海外売上では、工場の場所が高知県土佐市の田んぼに囲まれたエリアにもかかわらず、製品のほとんどを輸出しており、海外売上比率は8割です。大企業の海外売上比率8割の企業は、ソニーやトヨタとなり、我々の海外売上比率も同等に非常に高いことになります。
そして最後に、バラエティー豊かな仲間です。地元のメンバーも多いですが、Iターンや外国人の社員もたくさん在籍しています。私の出身は京都で妻が高知県出身のため、私もIターンとして入社しました。外国人従業員は5名で、ドイツ、ミャンマー、台湾、ペルーと様々な国から会社に来てくれました。
次に健康経営の取り組みをご紹介させていただきます。
まず、安全衛生の管理体制では、5つある工場の衛生管理者は私、産業医は地元土佐市のひろせクリニックの先生に依頼しています。工場は3つが土佐市、残り2つが日高村にあるため物理的に離れていますが、月2回の安全パトロールを行っています。工場の課題や、衛生状況なども確認して、産業医の先生や課長レベルのメンバーも出席する月1回の安全衛生委員会にて議論をしています。
「健康診断および面接指導などの実施並びにこれらの結果に基づく労働者の健康保持のための措置に関すること」として、産業医の先生に、非常に丁寧に健康診断のフィードバックをしていただいています。産業医の病院が会社から車で2〜3分のところにありますので、すぐに相談できる状態です。
健康診断については、基本的には会社が検診費用を全額負担しております。我々の所属は協会けんぽで、毎年2月から3月に年1回の実施をしております。グループ全体の従業員160人のうち100名ほどが工場勤務者です。工場は基本的にフル稼働のため、夜勤の方が多く、そういった方は年2回検診をします。夜勤の方の受診日調整が難しいため、バス検診を土佐の工場と日高の工場で場所と時期をずらし、片方に行けなかったらもう一方で受診する、という方法にしています。
なかには受診日に朝ご飯を食べてきてしまう人もおり、その場合は高知県の検診クリニックでの受診日を調整します。日程調整はとても大変ですが、経営管理グループで調整し、全員が確実に検診を受けられるように運営をしております。
結果の全てをフィードバックしています。産業医の先生には、全資料を収集し、所見4ランク以上をスクリーニングしたものにコメントをもらい、安全衛生委員会では個人名を伏せて、個別カウンセリングの実施を案内していただいております。会社からもアプローチをし、精密検査やカウンセリングを受けてもらうように啓発しております。
がん検診は35歳以上を対象にしておりますが、肺がんや子宮頸がんは35歳未満の方も対象です。胃がん、大腸がん、肺がんの検診は、社外での検診受診を希望する方々の受診を含めると、受診率は100%です。しかし、乳がんと子宮がんは、35歳以上でも全員が受けているわけではない、という状況です。
また、社内の喫煙率は全社員のデータで約27%ほどであることが分かりました。喫煙による高血圧のリスクもありますので、減らしていくことが課題です。
これまで直面した課題は、長期療養する人が出てきたことと、採用難の二つがありました。
職場によっては急に一人が抜けると、代わりの人がいないため混乱して社内的にも問題となりました。コロナ下にもあわせて、担当者がいなくなった場合のリスクの洗い出しと、代わりに対応できる人をピックアップしました。代わりの人をどのようにローテーションして業務するかを今、検討しております。
そして、採用に関しては、いろいろな方法を行っていますが、労働人口が減っていく中での採用はなかなか難しく感じております。その策としてのメディア戦略政策と繋げて健康経営をPRしています。広告を出すにはお金がかかりますが、テレビメディアや新聞に取り上げられて掲載になると0円になるので、そこをうまく活用することを考え、がん対策推進企業アクションの取り組みを開始しました。一番初めに行ったのはe-ラーニングです。どのようなものなのかを知るため、まずは経営管理部門6名が受講し、全社導入できるかを確認しました。「とても分かりやすくて、すごくいいよね」、「こんなこと知らなかった」との意見があがりました。
その次に、中川先生にWeb講義をしていただきました。メディア戦略と絡めて、実施前にはプレスリリースをして、当日の講義の様子をテレビ報道してもらいました。
そして、企業アクションの小冊子「がん検診のススメ」が非常に分かりやすいので、全従業員に配布して、がんの理解を深めてもらいました。高知県で企業アクションの推進パートナーに登録している企業は19社でとても少なく、今は推進パートナーであることが際立つため、アピールとしてホームページに載せています。
今後は、がんや、がん以外の病気の対応策を産業医と連携して一層強化していきます。現在、健康経営の優良法人を認定申請中です。取得することで採用に繋がるPRもできると思いますが、取得だけではなく発信も大切ですので、インスタグラム、ツイッター、YouTubeなどのSNSなども使いながら取り組んでいきたいと思っております。
【子宮頸がん よもやま話~体験談・HPVワクチン・お金のこと~】
和田 智子氏(がん対策推進企業アクション 認定講師)
私の子宮頸がんの体験についてお話をさせていただきます。
まずは私が子宮頸がんに至った経緯をお話しさせていただきます。私は毎年、会社の健康診断で必ずがん検診を受けています。2007年までは異常なし、そして2008年に初めて中等度異形成という結果が出ました。
この異形成という言葉を知りませんでしたが、この言葉の感じからただ事ではないと思い、すぐにネットで調べました。「子宮頸がんは、中等度異形成、高度異形成を経て子宮頸がんになる。しかし、異形成になったからといって、必ずしも子宮頸がんになるわけではない。」と書いてありました。初めて「もしかしたら自分が将来、子宮頸がんになるかもしれない」と思い、子宮頸がん検診を毎年受けると心に決めました。
覚悟はしていましたが、2011年に要精密検査の結果が出てショックを受けました。すぐに病院に行くと、「組織が悪いものかどうか調べてみよう」とのことで、円錐切除術という検査手術を受けました。その結果、上皮内がんと判明しました。不幸中の幸いで、円錐切除術時に悪い箇所が全て取りきれたので、抗がん剤治療や放射線治療をしなくて済みました。この時に、毎年がん検診を受けて早期発見することのありがたさを非常に感じました。
早期発見であった私でも、円錐切除術は2泊3日の入院が必要でした。その後の診断書には「出血が止まるまでの1ヶ月間は仕事をせず、家で療養すること」と書かれていました。
1ヶ月も会社を休まなければいけないことを「どのように会社に伝えよう」、「上司はどう言うだろう」、「同僚に迷惑かけてしまう」、「1ヶ月休むと給料はどうなるのか」など、たくさんの不安が頭を駆け巡りました。当時の私は営業所長で部下もいましたので、管理職から降格になったらどうしよう、という不安も大きかったです。
私の会社には前年度使わなかった有給を病気時に繰り越して使える制度があり、40日間の有給が使えることを人事部が連絡してくれました。そのため、1ヶ月の自宅療養は有給でしたのでお給料の心配をせずに済みました。そして上司・同僚は「和田さん、しっかり休んでください!仕事のことは心配しなくていいですから。」と言ってくれました。
病気になった社員は、体の負担だけでなく心の負担も非常にありますが、会社の制度と一緒に働く上司・同僚のサポートなどの企業風土がとても大事だと実感しています。
当時は子宮頸がんワクチンがありませんでしたが、現在は予防できるワクチンがあります。HPVワクチンは子宮頸がんを治すものではなく、子宮頸がんになる前の異形成を予防する効果がありますので、がん検診だけではなくHPVワクチンの利用も必要かと思います。日本では子宮頸がんワクチンの公費対象は女子のみです。しかし、子宮頸がんは性交渉での感染で発症することもあるので、世界では男子も受けています。
産婦人科の友人の息子さんはHPVワクチンを接種しました。接種前に「お母さん、なんで僕たちがワクチンを受けないといけないの?」と言われたそうです。「将来あなたたちの大切なパートナーを守るために必要だと思うよ。」と、家族で話し合いをされたそうです。私の講演では「ワクチンを子供に接種させた方がいいか」の質問がとても多いですが、まずは親子間で話し合うことも大事かと思います。
公費で接種できる期間は限られています。自費接種料金をホームページで調べると、1万5000円から3万円前後のようです。気軽に接種しようと思える金額ではないと私は感じますので、もしワクチン接種を検討していましたら、公費で接種できる期間を逃さないようにしていただきたいです。最近は、9価ワクチンが23年4月から公費接種スタートするニュースも出ています。
続いて、「ヘルスリテラシーの高い人の方が仕事のパフォーマンスが高い」という文献がありましたので、ご紹介させていただきます。
日本医療政策機構発表の働く女性の健康増進に関する調査では、「女性の健康に関することで健康管理のためにあなたが実施していることはありますか」の質問に対して、ヘルスリテラシーの高い方はがん検診の受診など、知識のある方は行動をしているという結果が出ています。一方、ヘルスリテラシーの低い方の回答は、「特に何もしていない」が多かった結果になっています。
例えば、花粉が飛ぶ時期は、花粉症の方は目の痒みや鼻水が出るなどの症状がありますが、ヘルスリテラシーの高い方は、花粉症の症状は薬で抑えられることを知っているため病院で薬を処方してもらうなど、コントロールされると思います。しかし、ヘルスリテラシーが低く、薬でコントロールできることを知らない方は、目の痒みや鼻水が出る中での仕事ため、集中が低下するかと思います。ヘルスリテラシーの高さは仕事のパフォーマンスや生産性向上に繋がってくると思います。
社員の健康に関する意識を上げることを実践してみることをお願いしたいと思います。私は3人の子供を産んだ後に子宮頸がんになりましたので、円錐切除術による妊娠や出産のライフイベントに大きな影響はありませんでした。年齢別の子宮頸がん罹患率のグラフでは、20代から右肩上がりで罹患率が上がっています。私が受けた円錐切除手術は初期の子宮頸がんの手術ですが、流産や早産の影響も懸念されますのでワクチンでの予防や、検診受診が大事だと思います。
次は、お金の話です。私は子宮頸がんになった時に二つの生命保険に入っていました。
当時は健康に対する意識が低く、契約している保険内容を知らないまま、「生命保険に入っているから女性のがんに罹っても保険が出る。備えは万全だ。」と思っていました。
そして、2社とも同等の給付額だろうと思っていましたが、退院後に保険会社に保険給付の請求をすると、1社からは「上皮内がんは補償対象外」、もう1社は「上皮内がんも保険の給付対象」という異なる返答に衝撃を受けました。まずは病気のことをよく知って、自分自身がどのような備えをしているのかを理解する必要があったととても反省しました。今の保険の商品は私が子宮頸がんになった10年以上前よりも進化しています。「病気にならなくても精密検査の受診で保険給付」、「抗がん剤治療による脱毛にはウィッグも給付」など、健康な生活の後押しをしてくれる保険商品がいろいろあるようです。もし、万が一の備えをしたいと考えていらっしゃる方は、どのような病気のどういう状態の時に、どういった対象になるのかをしっかり知っておくことをお勧めします。
健康診断やがん検診の受診は、自分の健康のため、家族のため、社会のためにもなると思います。私は夫をがんで亡くしておりますが、自分ががんになった時よりも家族ががんになったと聞いた時の方がショックは大きかったです。大切な家族に心配をかけないためにもがん検診を受けていただきたいです。そして、医療費が年々増加する社会保障の問題があります。私のように早期発見で抗がん剤治療や放射線治療を受けない場合は医療費が発生しないため、健康診断やがん検診を受けることは社会貢献にも繋がると信じています。
また、家族のがん治療では大変輸血のお世話になり、献血制度のありがたみを感じました。コロナ禍で献血がしづらいことや、若い人の献血の減少をニュースで聞くと、がん治療の一つとして献血の制度が必要ではないかと思います。がんの治療を支える社会についてみんなで考えていく必要があるのではないかとも思います。
さて、がん対策推進企業アクションのYouTube講座では、中川先生が3、4分で大人のがん教育について様々なテーマでお話をされています。数分でちょっとした知識を得られる気軽さが私は気に入っています。様々なテーマがアップされていますので、関心のある動画をチェックしていただきたいと思います。
子宮頸がんで毎年3,000人の方が亡くなっているそうです。もし私があの時に異形成という言葉を調べず、毎年がん検診を受けようと思わなかったら、私は今この場に立っていないかもしれません。知識を得たことで自分の行動が変わりました。ワクチンと子宮頸がん検診をセットで受けることが私は大事だと思います。本日のセミナーを通じて、皆さんご自身や周りの大切な人の行動が変わることを願っております。