トップ>>お知らせ・イベント情報>>令和4年度 ブロックセミナー/沖縄セミナー開催報告

2022/12/06

令和4年度 ブロックセミナー
/沖縄セミナーを開催

(ページの最終更新日:2023年1月4日)

令和4年度 ブロックセミナー会場:沖縄コンベンションセンター

令和4年度のがん対策推進企業アクションのブロックセミナー「職域におけるがん対策の最新情報」を沖縄県宜野湾市の「沖縄コンベンションセンター」にて、12月6日に会場とオンラインによる同時配信で開催しました。
当日は、がん対策推進企業アクション アドバイザリーボード議長の中川 恵一氏、沖縄県保健医療部 健康長寿課課長 崎原 美奈子氏、日本トランスオーシャン航空株式会社 人財部勤労グループ 外間 司氏、認定講師 原 利彦氏の講演、そして登壇者4名によるパネルディスカッションを行いました。

■ プログラム

  • 13:00 ご挨拶
    高橋 和那氏(厚生労働省 健康局 がん・疾病対策課 がん指導係長)
  • 13:05 ご挨拶/がん対策推進企業アクション事業説明
    山田 浩章(がん対策推進企業アクション 事務局長)
  • 13:10 沖縄県のがん対策の現状について
    崎原 美奈子氏(沖縄県保健医療部 健康長寿課 課長)
  • 13:20 『コロナ下におけるがん対策』
    中川 恵一氏(がん対策推進企業アクション アドバイザリーボード議長/ 東京大学大学院医学系研究科 総合放射線腫瘍学講座 特任教授)
  • 14:00 休憩
  • 14:10 外間 司氏(日本トランスオーシャン航空株式会社 人財部勤労グループ)
  • 14:30 『45歳、妻子あるサラリーマンが、ある日、突然、がんステージ4で余命半年と告知されるとどうなるのか?』というお話
    原 利彦氏(がん対策推進企業アクション 認定講師)
  • 14:50 トークセッション
  • 16:00 閉会

【ご挨拶】
高橋 和那氏(厚生労働省 健康局 がん・疾病対策課 がん指導係長)

厚生労働省 健康局 がん・疾病対策課 がん指導係長 高橋 和那氏
▲ 厚生労働省 健康局 がん・疾病対策課 がん指導係長 高橋 和那氏

厚生労働省健康局がん疾病対策課 課長の中谷に代わり、ご挨拶を読み上げさせていただきます。
我が国のがん対策は、平成18年にがん対策基本法が制定されたことで一気に加速し、平成28年の改正では、がん患者の雇用の継続や、がんに関する教育の推進など、新たな施策が盛り込まれました。そして、平成29年度から今年度までの第3期がん対策推進基本計画では、「がんの予防」「がん医療の充実」「がんとの共生」の三本の柱に、これらを支える基盤の整備として、「がん研究」「人材育成」「がん教育、普及啓発」を進めてきました。現在、がん対策推進協議会において、有識者や患者代表の方々にご意見をいただきながら、本年度中の次期がん対策推進基本計画の策定に向けた検討を進めております。
このように、がん対策を着実に進めているところですが、依然としてわが国では、昭和56年からがんが死因の1位であり続け、毎年約100万人ががんにかかり、約38万人が亡くなっております。また、医療の進歩などにより、がんは多くの場合、早期発見・早期治療により治る病気となりましたが、男性の肺がんを除き、がん検診の受診率50%の目標には届いておらず、国際的な比較データを見ても日本のがん検診受診率は低いのが現状です。がんを克服するためには、1人でも多くの皆様ががん検診を受診することが必要です。がん検診の受診機会は、受診者の約3割から6割が職域での受診と言われており、受診率向上のためには職域での啓発が非常に重要であることから、厚生労働省では、職域において科学的根拠に基づくがん検診ができるよう、平成30年に「職域におけるがん検診に関するマニュアル」をお示ししております。厚生労働省や企業アクションのホームページに掲載しておりますので、ぜひとも、皆様の職場でもご活用ください。
また、企業アクションは、職域におけるがん検診の受診率の向上、がんになっても働き続けられる社会の構築を主な目的として、平成21年から14年間活動をして参りました。現在では4,500社もの企業・団体様がパートナーとして登録されています。企業アクションでは、がん対策に関する様々な情報を分かりやすくご提供いたしますので、こちらも積極的にご活用いただき、職場でのがん対策に役立てていただきたいと思います。
なお、次期がん対策推進基本計画の策定に向けた協議会の議論では、職域におけるがん検診や、治療との両立支援の推進に関するご意見もいただいております。引き続き、皆様のご協力もいただきながら、職域における取り組みを強化してまいりたいと存じます。
最後になりましたが、本日のセミナーが皆様のがん対策に関する知識を深め、それぞれの職場でがん対策を充実させる契機となることを期待いたします。

【ご挨拶/がん対策推進企業アクション事業概要説明】
山田 浩章(がん対策推進企業アクション事務局長)

がん対策推進企業アクション 事務局長 山田 浩章
▲ がん対策推進企業アクション 事務局長 山田 浩章氏

本日ご来場者数は50名以上、オンラインは150名以上の方にご参加いただいております。ご参加ありがとうございます。では私から、企業アクションの事業概要をご説明させていただきます。
がん対策推進企業アクションは職域でのがん対策を啓発する事業でございます。職域である理由は2つあり、がん検診の受診率全体の約30%~60%が職域での実施であること、そして、定年延長と、女性のさらなる社会活躍の影響を受け、がんの罹患者が職域で増えていることです。企業アクションの運営では、アドバイザリーボードという有識者会議を設置し、東京大学の中川先生に議長をお勤めいただき、その他医療や様々な分野の専門家・有識者の方々から、常に最新の情報をアドバイスいただき、皆様にご提供させていただいております。企業アクションでご提供している全サービスは無料で利用していただけますので、パートナー登録にあたるご負担はほぼございません。パートナー数は現在約4,500で、企業様および健康保険組合様にご登録をいただいており、構成は大企業だけというわけではなく、半数は100人未満の中小企業もしくは個人事業者様です。本日開催の沖縄に関しては、27社とまだ少ない登録状況ですので、本日のセミナーで増えることを期待しております。
我々の活動の三つの指針は、がんを正しく知っていただくこと、受診率を上げること、がんになっても働き続けられる環境作り、でございます。具体的な活動内容は、例えばメールマガジンの月2回の配信や、セミナーや研修会などのイベント実施、企業が主体となってがん対策課題や解決策を話し合う企業連携、e-learningの提供などで、基本的に全て無料でご利用いただけます。ホームページにもたくさんの情報を掲載しておりますので是非ご覧ください。
本日のセミナーを通して皆様に、がんを考えるきっかけや気づきがあり、大切な従業員や家族を守ることに繋がっていくことを切に願っております。
本日の沖縄県でのブロックセミナーでは、沖縄県様、宜野湾市様、沖縄県商工会連合会様、那覇商工会議所様、協会けんぽ沖縄支部様、日本医師会様に共催・後援のご協力をいただきまして、この場をお借りしてお礼を申し上げます。

【沖縄県のがん対策の現状について】
崎原 美奈子氏(沖縄県保健医療部 健康長寿課 課長)

沖縄県保健医療部 健康長寿課 課長 崎原 美奈子氏
▲ 沖縄県保健医療部 健康長寿課 課長 崎原 美奈子氏

2016年から2019年までの沖縄県のがんの罹患数の推移では、2019年の男性は4,815人、女性は3,932人、合計で8,747人ががんと診断されており、増加傾向にあります。2019年の上皮内がんを除く部位別のがん罹患数の上位5つは、男性は大腸、前立腺、肺、胃、肝及び肝内胆管です。全国状況は前立腺が1番で、次に大腸、胃、肺、肝の順です。女性は乳房、大腸、子宮、肺、皮膚の順で、全国では乳房、大腸、肺、胃、子宮の順です。沖縄県も全国と同様、男女とも上位5部位のがんで全がん患者の6割以上を占めております。
がん死亡の状況では、年齢階級別の割合において64歳以下の占める割合が、全国と比べると高い状況です。働く世代のがんの罹患数と死亡数の状況では、ともに40歳を過ぎると増えており、働き盛り世代に対する治療と仕事の両立支援が重要な課題となっております。
沖縄県も全国同様、死因の第1位はがんであり、総死亡の25.4%を占めております。県としては、がん予防および早期発見により県民の健康保持を図るとともに、がん患者およびその家族の療養生活に伴うさまざまな不安の軽減を図るため、生活習慣の改善やがん検診の受診勧奨をはじめとするがんの予防、早期発見対策やがん診療連携拠点病院等を中心とした専門的ながん医療の提供、がん患者に対する相談支援体制の整備を図るなど、総合的かつ計画的にがん対策を推進するため、第3次沖縄県がん対策推進計画を策定しております。計画目標として3つを掲げております。一つ目に科学的根拠に基づくがん予防・がん検診の充実、二つ目に患者本位のがん医療の実現、三つ目に尊厳を持って安心して暮らせる社会の構築、でございます。

本日はがんの早期発見・がん検診、医療提供体制、離島及びへき地対策、がん患者等の就労を含めた社会的な問題について説明させていただきます。
まず、がん検診について、がんを早期に発見し、適切な治療を行うことにより、がん死亡数を減らすことを目的とした検診です。健康増進法に基づき市町村が実施しているがん検診の取り組みと、その市町村のがん検診に対する県の取り組みでは、県はがん検診の主体である市町村への支援として、市町村の科学的に有効な検診の実施支援、市町村検診担当者への研修を行っております。沖縄県の精密検査の受診数が低いのは、結果把握が少々不十分であったこともあり、精密検診受診率の検診結果の統一様式の作成と報告体制を整備しております。また、市町村と検診の集合契約のお手伝いや、その他がん検診の普及啓発に取り組んでおります。
市町村で実施しているがん検診の実施状況は、新型コロナ感染症の流行により受診率が減少しており、受診率向上の取り組みが急務であります。 がん診療の連携体制では、琉球大学病院を県の拠点病院として二次医療圏ごとに1病院、がん拠点病院を整備して連携をしております。がん診療の医療機関の方においては、掲載要件を満たした医療機関を県のホームページにも掲載していますのでご覧ください。
離島及びへき地対策では、沖縄県には数多くの離島があり、放射線治療などの専門人材の確保、治療技術の維持などの理由から、住み慣れた離島で治療が受けられない場合があります。居住地以外での医療機関受診にかかる経済的負担を軽減するため、県および市町村は渡航費や宿泊費の支援等をしております。

がん患者への就労支援に関して3つの取り組みをしております。
一つ目は、拠点病院6病院に設置の相談支援センターが窓口となり、がんの治療や療養に対する疑問や不安、就労や仕事に関する相談を受け付けております。
二つ目は、沖縄県産業保健総合支援センターにて、治療と仕事を両立したい労働者と、両立支援に取り組みたい企業のサポートを行っております。
三つ目は、沖縄労働局のハローワークが医療機関へ定期的に出張し、就労支援ナビゲーターによる個別相談を実施しております。また、ハローワーク那覇やハローワーク沖縄では長期療養者専用の相談窓口が設置されており、県内全てのハローワークと連携し取り組んでおります。
「おきなわ がんサポートハンドブック」は、医療機関や市町村、がん患者会などへ配布しており、がん患者やその家族に必要な情報をまとめた小冊子ですので、参考になさってください。
沖縄県は、第3次沖縄県がん対策推進計画のもと、今後もがん対策に取り組んでまいります。

【コロナ下におけるがん対策】
中川 恵一氏(がん対策推進企業アクション アドバイザリーボード議長/
東京大学大学院医学系研究科 総合放射線腫瘍学講座 特任教授)

がん対策推進企業アクション アドバイザリーボード議長/東京大学大学院医学系研究科 総合放射線腫瘍学講座 特任教授 中川 恵一氏
▲ がん対策推進企業アクション アドバイザリーボード議長/
東京大学大学院医学系研究科 総合放射線腫瘍学講座 特任教授 中川 恵一氏

沖縄県のがん検診受診率がコロナ後に下がっているとのことで、コロナは大変な問題ですが、がんはより大きな問題であり、対策をおろそかにすると結果的にはそれ以上に大きな問題を抱え込むと思います。

日本は事実上、世界で最もがんが多い国です。最新データでは、生涯に何らかのがんに罹患する確率(累積がん罹患リスク)は男性が65.5%、女性は51.2%です。つまり日本の男性の3人に2人、女性も半分を超えてがんに罹患しています。男性にがんが多い理由は生活習慣が悪いためで、悪い生活習慣は短命化しますので日々の暮らしは大切です。

<日本のがん罹患の変遷>
年間100万人の方が新たにがんと診断され、38万人ががんで亡くなっています。かつての日本人の主な死因は、戦前戦中は結核、高度成長期の1981年までは脳卒中でした。病気は時代や生活と共に変わり、結核や脳卒中の減少背景には国が豊かになったことがあげられます。結核は栄養状態の向上により、かからなくなりました。脳卒中は血圧降下剤の進歩や減塩もありますが、十分に肉を食べるようになり血管が強化されて減少しました。血管はタンパク質とコレステロールから出来ており、上の血圧が190でも、今の日本人の血管は切れなくなっています。
多くの病気が克服される中、がんだけは患者数が上昇しております。年間100万人の新規がん患者のうち、3割が64歳以下の働く世代です。先進国の中で日本だけが、がんの死亡数が増加しています。アメリカの人口10万人あたりのがん死亡率では、過去は日本より高かったにもかかわらず1990年代をピークに下がりました。年齢構成の違いはあれど、日本では増え続けて今ではアメリカの1.6倍となっています。
サラリーマンの死因の半分はがんであり、働く人ががんになる社会は日本だけです。在職中に社員が病気で亡くなるのは、自殺を除いて、病気による死亡の9割が、がんです。

多くの日本人はがんについてほぼ習っておりません。ALSや筋萎縮性側索硬化症などの難病は、現状で発症原因も治療法も存在しません。しかし、がんは少しの知識の有無で運命を変えることができます。がんは生活習慣によって罹患リスクが約半分になり、がん検診での早期発見で90~95%完治する制御可能な病気です。がん全体では6割近くが治り、早期であれば9割以上が完治します。
しかしながら、がんと診断されると1年以内の自殺リスクが20倍になります。サラリーマンでは3人に1人が離職し、自営業者では17%が廃業しています。辞めるタイミングは告知をされた診断確定時が32%、告知から最初の治療までが9%であり、4割以上の方が治療を受ける前に辞めているのが現状です。実際に治療を受けてから仕事継続の困難さを感じて辞めるのではなく、頭の中でのイメージ先行で辞める判断をしていると思います。

<乳がん>
がんは男性に多い病気ですが、若い頃は女性の方が遥かに多いです。55歳までは女性の方が多く、30代・40代では女性のがん患者は男性の2倍ほどで、40歳未満の患者のうち8割は女性です。
女性は20歳からがんに注意しておく必要があります。女性特有がんである、子宮頸がん、乳がんでは若い世代で多く、子宮頸がんは30代、乳がんは40代後半に罹患数のピークがあります。日本人女性のがんは乳がんが最も多く、9人に1人が罹患します。女性の大腸がん、胃がん、肺がんの罹患率は男性と同じで、その要因は老化によるものです。しかし、乳がんは40代後半のピーク以降は減少していきます。乳がん増加の最大要因は、女性ホルモンによる刺激です。一方、男性ホルモンで増えるのは前立腺がんです。男性ホルモンと女性ホルモンの大きな違いは、男性ホルモンは一生出続け、女性ホルモンは50歳を過ぎて更年期を迎えると分泌が止まります。生理が止まる閉経となると、女性ホルモンの刺激による乳がんが増えないので罹患率が減ります。
また、少子化は乳がんを増やす要因です。現代の日本人女性は一生涯で平均450回ほど生理を経験するそうですが、100年前はたった85回でした。その理由は、100年前は平均7人のお子さんを持ち、子沢山だったからです。妊娠・出産・授乳まで含めると一人の赤ちゃんに対して2年から3年間は生理が止まり、その間の女性ホルモンによる刺激が減ります。つまり、15年~20年間の生理が止まっている間は乳がんのリスクが減るのです。

<子宮頸がん>
子宮頸がんは30代後半が罹患数のピークですが、どんどん若年化しております。子宮頸がんの原因のほぼ100%は、性交渉に伴うHPVヒトパピローマウイルス感染です。性経験のない女性には子宮頸がんはできないです。今の若い世代のオープンな性行動によって、若い世代にこのウイルスが広まっています。感染は男性から女性にもたらされ、また女性から男性に感染します。罹患率ピークの30代後半は出産のピークにも重なります。
この性交渉に伴うウイルス感染は、性交渉を始める前の女子がワクチンを打つと完全ではありませんが排除できます。17歳未満の接種で発症リスクが12%になり、88%消滅します。日本は先進国の中で唯一このワクチンを打っていませんでしたが、接種をしていた欧米では過去のがんになりつつあります。国や自治体から接種年齢に該当する女子に、接種通知がされない積極的勧奨の差し控えがあり、9年間はHPVワクチンの接種がほぼゼロになりました。その9年間に該当する25歳ぐらいまでの方は無料のキャッチアップ接種の機会が提供されています。接種の対象年齢は小学6年生から高校1年生で、性交渉を始める前が一番効果がありますが、大人でも受けた方が良く、会社員で接種される方も多くいらっしゃいます。会社には25歳までの女性がいらっしゃると思いますので、未接種の方には是非、無料接種の情報提供をしていただきたいです。
HPVワクチン接種と、子宮頸がん検診を行うことで、子宮頸がんで死ぬことはほとんど無くなります。子宮頸がん検診は20歳からの受診が大切で、20歳になると自治体から通知が届いているはずですが、現状の20代前半の受診率は15%と非常に低いです。

がんの要因は、男性では老化ですが、女性では女性ホルモンやウイルス感染と若干異なります。乳がんのピークの40代後半と子宮頸がんのピークの30代後半の女性は、かつては専業主婦の年齢層でした。女性の社会進出や、男女の雇用定年の延長により、会社内のがん患者は増えます。日本は長く働く国で、総就労人口に占める65歳以上の割合は、フランス1%、ドイツ2%、日本は世界最高の13%です。成熟した社会で移民を受け入れなければ、世界の東西を問わず少子化になります。若者の減少を放置すれば経済成長も社会保障制度の維持もできなくなります。例えば、EU中でドイツフランスに対してポーランドなどは相対的に貧しく、その若者はより高い所得を求めて行き来の自由なEU内のフランスやドイツに行きます。日本はそれをやってこなかったため、一生働くことになり、結果的には働くがん患者が増えることになります。

<企業アクションの活動>
職域のがん対策の基本3か条は、「早期発見のためがん検診の受診率を上げる」、「がんになっても働き続けられる環境を作る」、「がんについて会社で学び、正しく知る」です。
企業アクションに登録することのマイナス面はおそらく無く、料金も無料のため登録しないと損と言えます。ぜひ沖縄県のパートナー企業数を増加させていただきたいです。

がん検診の受診率の国際比較では、韓国を含めた先進国の中で日本は最低です。日本人ががんについて習っていなかったことが、先進国の中でほぼ唯一、増加している要因です。
やるべき検診は5つのがん検診(胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、子宮頸がん)で住民検診は安いです。沖縄の自己負担額は、市町村によって異なりますが、無料のところもあれば1,000円や1万円未満です。財政の良い東京都は全て無料で、国内で一番財政の悪い夕張でも1,000円程度です。国民の自己負担が低い理由は健康増進法という法律で定められているからで、5つの検診は、受診でがん死亡率が減ることが科学的に証明されているため法律で指定し、税金を投入しています。配偶者の専業主婦などへの受診勧奨や、会社での検診実施は受診時間を就労扱いにするなどの工夫をしていただくと良いかと思います。

<学校でのがん教育>
実は私もがん患者です。自己超音波検査という変わった方法で自分で膀胱がんを見つけました。日頃、男3人に2人ががんになると説いていますが、発見した時は相当ショックでした。がんになると自殺リスクが20倍になることからも、頭では分かっていても平常心や冷静さを失い、時期尚早な判断をしてしまう方も少なくないです。そのため、がんになる前にがんを知っておくことが重要です。現在、中学校と高校の学習指導要領の保健体育の中に、がん教育が明記されています。教科書にも、受けるべきがん検診などが書かれております。中学校の教科書で興味深いのは、身近な大人をどのようにがんから守るのかを考えるページもあることです。簡単に言えば生活習慣を整えてタバコは吸わない、飲酒は1合まで、運動をすることです。そのような生活でリスクは半分くらい、生活習慣の良い女性は2/3になりますが、あわせて早期発見としてのがん検診も大切です。高校の教科書では、手術支援ロボットや高精度放射線治療装置などの踏み込んだ内容になっています。
放射線治療は99%が健康保険適用、そして、通院だけが基本のため、働くがん患者にとっては最適な治療です。しかしながら、日本でのがん治療は手術が多く、欧米でのがん患者の約6割が放射線治療をするのに対し、日本はその半分以下です。

<コロナとがん>
コロナが流行り始めて2022年10月31日までの1,019日間で、コロナによる死亡者数は累計46,659人で、一日あたり46人です。がんによる死亡者数は年間38万人、一日あたり1,040人です。コロナでなくなっている方の平均年齢は82.2歳で、ほぼ平均寿命と同じです。高齢者がコロナで亡くなって良いとは言いませんが、コロナが無くとも亡くなったであろう方が少し早く亡くなっていることになります。この現状が報道されておらず、コロナによる死亡が至極多い印象を与えていると思います。年齢別の死因のがんは、男性は60~74歳で4割超え、女性は35~74歳で4割を超えています。50~64歳では55~60%の死因ががんです。亡くなっている人数と年齢もコロナとは異なります。
コロナによる在宅勤務の増加で、長時間の座り過ぎの方が増加しています。長く座っているとがん死亡が82%増え、対して、たばこの喫煙は6割、毎日3合飲酒は6割の増加で、長時間座る方が悪影響です。また、コロナ太りなどでの肥満からの糖尿病はがんのリスクが2割増えます。
たった一つのがん細胞が1cmになるのは20年ほどかかります。我々のようながん専門医でも1cmの大きさにならないと見つけることができません。がんか診断可能な1cmから2cmになる期間は1~2年で、自覚症状がありません。そのため、がん検診は元気だとしても2年に1度行うことが大切です。しかしながら、コロナによってがん検診の受診率が下がり、2020年は3割近くが減少、2021年は少し回復したとはいえ、コロナ前に比べて1割減少です。その結果、早期発見が遅れ、進行がんが増加していることが顕在化しております。横浜データでは、コロナの前と後での大腸がんの進行度別の患者数は、ステージ1と2は3割減少、しかし、ステージ3の進行がんは6割以上増えたことが分かりました。大腸がん、肺がん、乳がんは向こう20年間増えると予想されていたにもかかわらず、がん患者のトータル数は減りました。それは、体内にがんがあっても検査されなければ患者として認定されないためです。日本で一番手術をしている、東京のがん研有明病院では、患者が減っているため手術数も減っています。その中で放射線治療は増えております。東大病院の放射線治療の場合は、早期の肺がんは4回の通院、前立腺がんでは、早期から進行がんまで5回の通院で済みます。その1回の治療は、服も着替えず、横になって約7分で病室を退室します。放射線のビームを受けているのは2分も満たないです。治療費は手術の半分で済み、通院で治療できるため収入の減少も抑えることが出来るので、非常にコロナに強い治療と言えると思います。

コロナにより検診が滞った結果、早期がんの患者が減り、がんの患者自体が減るという、信じられない状況になっています。今の学校では、子どもたちへのがんの授業を開始しましたので、今後は日本でも他の先進国と同じようにがんで亡くなる人の数は減少に転じると期待できます。一方で、学校で習っていない、今がんに直面しようとしている大人をどうするのか。その課題に対しては、職場でがんについて知っていただくこと、とりわけ経営者に知っていただきたいです。企業アクションが実施したアンケートでは、経営者のがんへの意識が高いと会社でのがん検診の実施率が高い、あるいは、両立支援のための政策が打たれていることが分かってきました。ぜひ沖縄でも、多くの企業・団体にパートナー企業になっていただき、特に経営者の方にがんを知っていただきたいと思います。

【がん検診受診率向上の取り組み】
外間 司氏(日本トランスオーシャン航空株式会社 人財部勤労グループ)

日本トランスオーシャン航空株式会社 人財部勤労グループ 外間 司氏
▲ 日本トランスオーシャン航空株式会社 人財部勤労グループ 外間 司氏

弊社は社員の健康意識の醸成を図るため、健康経営ホワイト500の認定に取り組み、2018年に初めて認定を受け2022年まで5年連続で認定を受けております。ホワイト500認定とともにがん検診の受診率向上についても取り組んできました。
弊社の飛行機「ジンベエジェット」と「サクラジンベエ」は、沖縄県本部町にある沖縄美ら海水族館のジンベエザメをモチーフにして、水族館とコラボしております。沖縄生まれ沖縄育ちのエアラインとして、沖縄の振興と地域社会への貢献に取り組んでいきたいと考えております。そして、健康経営の取り組みによって、健康意識の向上など良い風土が出来上がりつつあると感じており、健康面からも地元沖縄に貢献できることを目指しています。

弊社の取り組みについて3点お話させていただきます。1点目が健康経営での変化と現状、2点目ががん検診受診率向上の取り組み、3点目が課題と対策です。
JTA、日本トランスオーシャン航空は那覇空港を中心に、県内外合わせておよそ14路線に就航しています。
従業員数は904名おり、男性534名、女性370名です。性別による比率は、男性59%、女性41%です。雇用形態ごとの構成は、正社員が835名、非正規社員が69名です。年齢ごとの構成は20代と30代が、全社員のおよそ半数を占めています。一方、60代も53名おり、いわゆる再雇用社員の皆さまですが、年々比率が上がっております。
健康経営への取り組みについて、弊社はJALグループの一員として事業運営をしており、JALグループ全体として健康課題に取り組んでおります。JTAとしては、社長が責任者となって健康経営を推進するWellness推進事務局がございます。Wellness推進事務局では、がん検診受診率向上、禁煙率向上など、改善目標を定めて2025年度の目標達成を目指しています。
「がん検診」の昨年2021年度の受診状況は、胃がん検診55.8%、大腸がん検診72.3%で目標100%には到達しておりませんが、2025年度の100%到達に向けて取り組んでいます。健康経営ホワイト500の取り組みを通じて、弊社の一般健診の受診率はほぼ100%です。一般健診受診率の高さは、2018年に沖縄県内で初の健康経営優良法人ホワイト500に認定されて以降の継続認定により、従業員への健康経営が定着し「受診は当たり前」化している表れだと思います。
5つのがん検診の受診率は、胃がん検診55.8%、肺がん検診99.1%、大腸がん検診72.3%、乳がん検診51.1%、子宮頸がん検診52%です。項目により受診率の高低のバラツキはありますが、各検診項目のいずれも一般健診の中で行っております。弊社は巡回のバス健診を行っており、肺がん検診はレントゲン検診のため負担感が少ないですが、胃がん検診はバリウムによる検診が負担となり、受診率が伸び悩んでいると考えております。
がん検診受診率向上の取り組みとして、受診しやすい環境づくりを大きく3点ご紹介します。
1点目が勤務の取り扱いです。受診を促すなかで勤務環境の整備は重要ととらえ、受診時間は勤務扱いとしております。残念ながら婦人科検診は現在、有休を使っての受診となりますが、バス健診の受診時間は勤務扱いにしております。また、航空会社の為、運航乗務員、客室乗務員などシフトで勤務する社員も多くいますので、こうした方々がバス健診を受けられない場合は、外来の病院で受診をしていただき、予約体制も社内で整えているところです。
2点目、検診費用は会社が一般健診の費用を負担しております。
3点目に女性への配慮として、レディース健診デーを設けており、技師など検診スタッフは全員女性を配置するようにしております。
受診勧奨・受診状況の会社把握は大きく2つあり、1つ目が全社員への受診勧奨と受診日の案内です。がん検診を含む一般健診、婦人科検診の申し込みが済んでいない方への勧奨メールを定期的に送信し、健診の空き状況を毎週アナウンスするとともに、受診者の受診1カ月前と開始時にリマインド案内もしています。2つ目、受診状況として、会社ががん検診の受診状況を把握することを、全社員から同意のサインを得ており、把握しております。

治療を受けている方を念頭に置いた休暇や相談環境では、「休暇・勤務時間」と「相談しやすい風土づくり」に取り組んでおります。休暇や勤務時間は、時間単位の有休の取得を認めており、コアタイム無しのフレックス勤務制度も導入しております。業務上、適応できない社員もおりますが、できるだけ環境を整えるために取り組んでおります。
また、相談しやすい風土は、がん治療をしながら仕事を継続して欲しいということを社員に発信しつつ、上司や人事、保険担当者などと定期的に相談できる環境づくりに努めております。
課題と対策は2つあり、一つ目が婦人科検診の受診率です。現在の受診率は乳がん検診が51.1%、子宮頸がんが52%です。グループの目標としては、2025年度までに75%達成を掲げております。対策としての受診の啓発では、婦人科検診の自己負担なしでの実施、あるいは、就業時間内に職場で婦人科検診を実施する取り組みの整備をしています。また、全国的なピンクリボンキャンペーンの乳がん検診の啓発活動では、弊社を含めJALグループでパイロットの肩に肩章を着けることや、客室乗務員の胸元にピンバッジを付けるなどをして、啓発活動に取り組んでおります。
課題の2つ目は、喫煙率です。現在の喫煙率は、男性が21.7%、女性が0.7%です。グループ目標の女性3%以下は下回っていますので、女性に関しては目標を達成できている状況です。しかし、男性は目標の20%以下を目指し、もう少し取り組みが必要な状況です。禁煙の促進として、社内での就業時間内は完全禁煙を定めて実施をしております。また、禁煙サポートプログラム、WEB禁煙外来の参加、奨励をしております。特徴的な取り組みとしては、タバコ対策メール「タバコは猫をかぶっている」を毎週配信しております。「タバコは猫をかぶっている」という興味を引くタイトルは、喫煙者はストレス発散やリラックス効果の側面があると思っているが、タバコはニコチン依存症などの本性を隠していることから、「猫をかぶっている」と題しました。弊社の保健師が中心となって取り組み、日本禁煙科学会のHPに掲載されている和歌山工業高等学校、奥田先生の週刊「たばこの正体」を参考に、社内に配信をしています。メール配信のきっかけは、2016年当時の業務拡張に伴い、屋内喫煙室をすべて閉鎖したいと安全衛生委員会で議題にしたそうですが、予想以上に上手く進まなかったようです。その原因を振り返った時に、喫煙室の閉鎖はそれ自体が目的ではなく、喫煙者を0にしたい、社員みんなに健康になってもらいたいという本来の理由のための手段の1つだと気づきました。喫煙者だけではなく、非喫煙者にも害があることを含め、多くの有害物質を含んでいる「タバコ」は、それをうまく隠しながら、これまでもこれからも、多くの人をニコチン依存症にしていく、「タバコ」の本性を知ることでその先の行動が変わるかもしれない、と、社員が健康になる小さな”きっかけ”になることを期待し、この配信を決めたそうです。
日本トランスオーシャン航空は「予約・受診しやすい環境の整備」「受診勧奨などを含めた啓発」「健康経営の推進」を進めて参ります。そして、JTAは健康経営を推進し、沖縄に一番必要とされるフルサービスキャリアをめざします。

【『45歳、妻子あるサラリーマンが、ある日、突然、がんステージ4で余命半年と告知されるとどうなるのか?』というお話】
原 利彦氏(がん対策推進企業アクション 認定講師)

がん対策推進企業アクション 認定講師 原 利彦氏
▲ がん対策推進企業アクション 認定講師 原 利彦氏

私は喉の手術をしているのでちょっとたどたどしいところはありますが、一生懸命お話をさせていただきますので、最後までよろしくお付き合いください。
タイトルの「『45歳、妻子あるサラリーマンが、ある日、突然、がんステージ4で余命半年と告知されるとどうなるのか?』というお話」のどうなるのか?について、がんと言われた瞬間にドラマで頭が真っ白になるなどと言われます。しかし、私はなりませんでした。
私は1972年生まれの現在50歳です。福岡で映像制作会社に所属し、ディレクターとしていろいろな映像コンテンツを作っております。5年前、45歳の時に甲状腺がんと中咽頭がんになりました。どちらもステージ4でほぼ同時に見つかり、非常に大変な状況の中、治療が功を奏して、まだ経過観察中ではありますが、現在に至り、本日はこうしてここに立たせていただいております。九州がんセンター院長を取材する機会も最近あり、頑張っております。
それでは病歴を改めてお話させていただきます。私は5年前、45歳の時にがんが見つかりました。きっかけは左耳のうしろあたり、首にできた小さなしこりです。痛くも痒くもなかったので、2か月ほど放置していたのですが、さすがに気になり、近所にある行きつけの内科に行ったところ、博多弁で言う「こら、おおごとかもしれん!」となり、結局、その3週間後には九州がんセンターで、「同時性重複がん」というのですが、甲状腺がんと中咽頭がんという、全く別の2種類のがんがほぼ同時に見つかりました。いずれもステージ4、このまま治療をせず放置しておくと余命半年の状態と告知され、耳の後ろのしこりはそれらのがん細胞がリンパ節に転移して腫れているものでした。
私の場合、「即入院、即手術、即抗がん剤と放射線の治療を!」ということになったのですが、45歳の会社員が、ある日突然、明日から約4か月入院、仕事復帰までは半年以上かかると言われても、「それは困ります!」という話ですよね。
こうなると、「死ぬかもしれない」とか考える間もなく、家族はもちろんですが、まずは「会社に何という?」「仕事はどうする?」という問題です。私の場合は、最初のかかりつけ医の「もしかして?」から、実は3週間ありましたので、その間に何となく、周囲や取引先に「もしかしたら」と話をしていたので、「やっぱりそうでした!」と伝えるだけで、何とか、何とかですが、4ヶ月入院することに成功しました。

今度は保険の話です。
任意で加入している保険会社の担当者に「がんが見つかりました」と相談したところ、運よく入っていた「がん保険」でぽんと200万円支払われました。ところが、私の場合2つがんにかかっていたので、一つ目のがんで200万円を使ってしまったので、次のがんではもう出ないというような非常に厳しい保険のシステムでした。
その他にも国の傷病手当などがあり、全力でサポートするという話が出て、お金の面では保険会社の人に頼りつつ、スタートすることができたということです。しかし、有給などをかき集めても、約5ヶ月分ほどの給与がほぼゼロになるわけです。しかも、この年の医療費の支払いは約550万でした。
しかし、会社には協会けんぽという非常に強い味方がありまして、なんと550万円のうち実際の支払ったのは60万円程度となり、非常に助かりました。

一応いろいろなことが一段落すると、「そういえば、僕は死ぬかもしれないんだ」とまた恐怖感に襲われるわけです。当然グズグズしている間に、もしかしたら助からない状態やそのまま死んでしまったなんていう恐怖に陥るわけですけれども、私がそこで考えたのがちょっとした備えでした。
先ほど先生からもお話がありましたが、「やっぱり死んでしまうんじゃないか」という気持ちになるわけです。そこで家族宛ての遺書、それから葬式のときに連絡する人たちのリストや、葬式でやってほしいことを書いて妻に渡しました。
妻は当然スルーしましたが、「仕事」「お金」「ローン」「生命保険」そして「家族への気持ち」など、色々なことを確認することで、この時はこれで、「もし死んだら?」という心配をせずに治療に100%向き合えると勝手ながら思ったわけです。だから「死んでもいいや」と思うと、逆にその部分を心配することはなくなるという逆転の発想の中で臨みました。

治療の話ですが、かなり状態が悪かったので手術、抗がん剤、放射線とフルセットで行いました。
親族からはセカンドオピニオンの話などもあったのですが、がんの進行状態から急がなければならないということと、当然、九州でもトップレベルのがんに特化した病院で、うちから自転車で20分程度、これ以上の環境はないだろうと思いました。
ちなみに、主治医が私と同じようなメガネをかけていたことから親近感が湧きまして、この先生を信じようと思ったわけですが、要は何が正解かわからない中、一刻を争う状況だったので、メガネが似ているなんてことも判断の基準にして、前に進むしかなかったわけです。そして、治療そのものは大変辛いもので、それなりの後遺症や副作用はありますが、結果としてうまくいきました。部位や進行度、治療法、環境によっても個人差がありますので、色々ですが、私の場合、今日、ここに無事に元気に立つことが出来ているということが、その答えです。

がん治療から社会復帰してからが非常に大変でした。実はここからがメインと言ってもいいぐらいです。
今は、かなりの確率で助かるというのに、「がん」という病気は他の病気と比べて、相変わらず「死」というイメージが強い病気です。
有名人が「がん」と報道されると、こぞって「何がん?」「ステージは?」「余命は?」という詮索が始まります。
人々の関心の大きな線引きは「死ぬの?死なないの?」です。
そんなイメージの「がん」だけに、治療をしながら、それまでと全く同じように働くというのも難しい問題です。

九州がんセンターの中にも、患者家族支援センターというところがあるのですけれども、そこには社労士さんやハローワークから出向されている方がいます。
スタッフさんに「福岡県の状況はどうなんですか」と聞いたところ、「絶望的です」とおっしゃるんですね。これどういうことかといいますと、要は会社や仕事のせいで何かあったら困る、再発、ましてや亡くなったりした時にということで、会社や同僚たちの接し方も微妙であったり、さらに再就職先として、「がんの治療をしながらなんですが・・・」という人を受け入れてくれる企業においては絶望的に少ないそうです。

私も前の会社では難しくなって離職し、今の会社はいろいろと条件を聞いてくださって何とかうまくはやってはいるんですけども、ひとつ、今はある程度私の健康状態が良いという部分もあります。実際現状はそういうことがあるというお話を伺っております。このようなことから、実際に私も、仕事でもプライベートでも、出来るだけ、私がそういう状態であるということはバレないようにしていました。
一番難しいのが、例えば仕事で、色んな会社のスタッフが混在している現場では、私が、がんでそういう状態にあると知らない人は大声で、「忙しい?儲かってる?」なんて言いますが、知っている人は、小声で「体調どう?無理なくね!」と言ってくれるわけです。やはり、知っている人は、私に無理をさせないスケジュールを組もうとしたり、知らない人には知らせないように言葉を選んだり、気を遣わせてしまうわけです。

今度は家族の話なんですけども、先ほど周りに隠すという面から妻にも「極力、周りには内緒にするように」と言っていました。
ところが、その妻から気を遣わないような言動をとられると、「俺の病気は、風邪じゃない、がんなんだぞ!」と、妻にあたってしまっていたのです。そして、ある時、妻がこう言いました。「私だって、みんなに、夫が、がんとか言いたくないよ!ただ、ずっと風邪を引いているだけ、そう思いたいに決まってるやん!」と、ボロボロ泣きながら言ったんです。それは、私は何と愚かだったのかと気づかされる一言でした。自分のことばかり考え、妻の気持ちを推しはかることができていなかったのです。

一方、当時中学2年生だった娘は、男の子の友達が心臓の病気で手術をして、胸にある大きな手術痕をプールの授業の時に見て、「その子に比べたら、お父さんの傷とか大したことないやん!」と言ってのけ、また「今、2人に1人はがんになって、3人に1人はがんで死ぬって学校で習ったけん、お父さんはその1人やね」と言い放ちまして。映画のワンシーンのような感動的な親子のやり取りもあったのですが、要は「死めわけじゃないよね?」という、やはりそこが、娘にとっても受け入れられる基準ではあったようです。

現在についてです。月並みですが「なぜ、がんになったのか?」とばかり考えていました。しかし、「何のためにがんになったのか?」と前向きに考えるようになってからは色んなものの見え方が変わってきました。今では周りの人にも「病気について」あえて言いはしませんが、違和感を持たれたり、迷惑をかけるような時は事前に話すようにもなりました。今私にしかできないことがあるんじゃないか、それを精いっぱいやろうかと思いだすと、意外と忙しくなり、いろいろと活動の機会をいただき、今日もその一環でお話させていただいております。

ここからはすごく当たり前の話をさせていただくんですけども、がんにならないためにはという話です。
当然心がけられることとして、私はお酒はほとんど飲めなかったんですが、タバコは1日に10本以上吸っていました。仕事柄、早朝深夜など不規則な勤務も多くありました。でも、いくら何でも45歳で、がんになるなんてあり得ないと思っていたわけです。ところが、あり得たわけで、しかも2つのがんが同時に、いずれもステージ4で、このままだと余命半年。なんて思う確率は限りなくゼロに近いものです。ですが、今や単純にがんが見つかる、これは誰にでも起こり得ることです。

だから、皆さんも「自分は絶対大丈夫」だとか思わずに、馬鹿馬鹿しいかもしれないんですけども、もし今自分ががんになったらどうかをシミュレーションしてみてください。
家族、仕事、保険、医療費、お金など、どうなるだろうっていうのを少しでもいいのでシミュレーションしていただけたらなと思います。

そうすると絶対にまずいということになるので、ではどうしたらいいか、できるだけそうならないようにするためには、バランスの良い食事や運動、当然検診を受けるなど、これは当然やらないよりはやった方がいいわけです。このようなことを自分ではわかっていながら、よくよく考えるとやっていないという人が多いのではないかなと思います。私も当然その1人でしたし、今日こうして立っているわけです。しかし、認定講師という肩書きをいただいて、高いところからこうやってお話をさせていただいてますが、はっきり言ってここに立たない方がいいわけです。当たり前の話です。つまり、がんにならなければ、私は今日ここに立っていないわけです。多分福岡で普通に仕事をしていました。今日の私を反面教師だと思っていただいて、福岡から来た人が何か今日こういう話していたなと家に帰った時にふと思い出しもらって、そういえば保険はどうなっているかな、健康診断最近受けてないなって少し振り返っていただいたり、会社で何かテーマを挙げてディスカッションしていただくなど、何かそういうものをきっかけに私のお話をしていただけたら幸いだなと思っております。

当時中学2年生の娘は病院が家に近かったこともあって、度々お見舞いに来てくれて、私は約4ヶ月間のつらい治療をやっていた入院期間を何とか乗り越えることができました。
それもこれも、そういう家族がいたからやはり治療を頑張れたし、治療を終えてある程度良い状態なってからも再発しないように頑張ろうということで、できるだけ再発しないようにする生活を心がけるようにしています。それもこれもやはり自分のためだけでなく、「大切な人がいるからそのためにもそうしなければならない」という強い思いが芽生えたからです。いろいろと駆け足でお話をさせていただきましたが、今日皆さんに私が全ての話を通じてお伝えしたかったことはこちらです。
あなたの人生はあなただけのものではありません。
家族や大切な人のためにも、あなた自身の体をどうか、大切にするということを少しでも考えていただければというふうなことで、今日はお話をさせていただきました。
ありがとうございました。

【トークセッション】
中川 恵一氏、崎原 美奈子氏、原 利彦氏、外間 司氏

右から中川 恵一氏、崎原 美奈子氏、原 利彦氏、外間 司氏
▲ 右から中川 恵一氏、崎原 美奈子氏、原 利彦氏、外間 司氏
動画メッセージを見る 動画メッセージを見る 動画メッセージを見る