2022/11/22
令和4年度
Working RIBBON会議開催報告
<開催概要>
開催日時:2022年11月22日(火) 13:30~15:00
開催場所:TKPガーデンシティ御茶ノ水カンファレンスルーム3F
働く女性のためのがん対策プロジェクトWorking RIBBON(W RIBBON)会議を今年度はオフライン(対面)形式にて開催いたしました。
モデレーターに、難波美智代氏(一般社団法人シンクパール 代表理事)を迎え、企業で活躍する経営者・女性幹部で構成されるオフィシャルサポーター10名が集い、職域における乳がん・子宮頸がん検診の現状や、今後の啓発手法などが話し合われました。
聖マリアンナ医科大学 客員教授 林 和彦先生よりご挨拶
Working RIBBONは、女性の経営幹部やリーダーが中心となり、企業の女性のがん対策をけん引するプロジェクトです。
女性のがんというのは30代〜40代の若い世代にも多く、職域でも罹患される方が多いことが特徴です。その中で重要なのは「知る」ということで、知らないことが無防備になり、不利益に繋がります。ここにいるオフィシャルサポーターの皆様には、まずご自身がよく理解していただき、外部に影響を与えていただきたいと思います。
臨床医の仕事を通じて残念だと感じるのは、がんになって会社を辞めてしまう方が多いことです。辞めてしまう方は、まじめで責任感が強い傾向があるため、「会社の皆さんに迷惑をかける前に辞めよう」、「今は病気の治療に専念して、病気が治ったらまた復帰してがんばろう」と思いがちです。社会あるいは組織・会社が病気になった方々を当たり前に受け入れるようなダイバーシティがあってこそ、日本が良くなっていくと思っています。
中川先生ビデオメッセージ
今日はがん対策推進企業アクション 3回目のWorking RIBBON会議ということで、オフィシャルサポーターの皆様には是非、自由闊達なご議論をいただきたいと思います。
また、リーダーとしての影響力を活かして、会社で働く女性社員に向けたがん検診の啓発に力を貸していただければ幸いです。乳がん・子宮頸がんは若い女性に多く、乳がんのピークは女性ホルモンと関係する40代後半、子宮頸がんは上皮内がんを含めると30代がピークです。したがって、30代、40代のがん患者さんでは男性の2倍になります。働く人にとってのがん対策は女性が大変大切で、女性社員のがん検診受診は非常に重要です。
本日の会議が盛会となることを祈念して、私からのメッセージとさせていただきます。
難波様ご講演
女性が生涯でがんに罹患する確率は50%を超えました。二人に一人ががんになる時代であり、働く世代のがんにおいては20、30代のがん患者さんの8割が女性です。20、30代はとりわけ子宮頸がんが高い割合を占めています。Working RIBBONは、そのような中で「企業として何ができるか」を真剣に考えようというプロジェクトでございます。
私も子宮頸がんに罹患してから女性の健康に携わるようになりました。女性の健康に対する関心は世界中で日々高まっています。
日本では最近、HPVワクチンの積極的推奨が再開しました。積極的推奨が差し控えられてきた9年間で接種の機会を逃した方々のために、約2年半に渡ってキャッチアップ接種が行われます。各自治体にて4月から個別推奨通知が始まっています。また、つい先日9価HPVワクチン接種の公費助成も決定いたしました。こういった情報発信も積極的に行ってまいります。
がん対策推進企業アクションパートナー企業704社のアンケート結果によれば、2021年度の検診受診率は乳がんで44%、子宮頸がんで35%と低い状況にあります。そこで、企業アクションでは、検診の必要性、社内整備について呼び掛けると同時に、乳がん・子宮頸がんの検診受診率80%を目標とする『80%チャレンジ』をスタートさせました。前述のアンケート結果では、乳がん検診受診率が80%を超える企業は109社、子宮頸がんの検診受診率80%を超えている企業はわずか83社という結果でした。従業員の検診受診状況を把握している企業も半数に満たないことから、まずは現状把握を呼びかけてまいりたいと思います。
また、アンケートの結果、高い検診受診率を誇る企業において、その取り組みについて取材で伺ったところ、当初から高い受診率だったわけではなく、長い時間と努力によって高いレベルに達していました。その取り組みにおいて共通するのが以下3点です。
- ①新入社員研修からがん教育をスタート
- ②検診費用、日時・場所の工夫
- ③両立支援制度により理解の不安を払拭
がんに罹患した際に安心して社内の人や管理職に相談できる環境や、がんに罹患した方々同士が情報共有できるような環境づくりなど、さまざまな工夫をされていました。
2社への取材に関する報告
■ 取材者 株式会社encyclo 水田様
取材させていただいた中で、他企業でも取り入れられる、重要だと感じたポイントを3点共有いたします。
- ・全ての取り組みがアフラック様の社風、風土に根ざしていること。
『がん・傷病 就労支援プログラム』の設計や運用が、「社員を家族のように大切に」という風土に基づいていて、それが定着のカギになっていると感じました。 - ・検診受診や行動を起こしてもらうために、「がんが見つかるのが怖い」など、ハードルになっている心情に真摯に向き合って、行動しやすいようにアプローチしていること。
- ・担当部だけでなく、取り組みに関わる人を増やしていること。
実際に罹患された社員さんに経験をシェアしてもらう、部下が罹患した場合に備える管理職向けの研修を実施するなど、立場や部門を超えて関わる人を増やしながら、取り組みを拡大されています。
■ アフラック生命保険株式会社 伊藤様
取材内容の補足
私どもは、1974年に日本で初めてがん保険を発売いたしました。
その際の、創業の想いというのが「がんに苦しむ人を経済的苦難から救いたい」であり、それが今も、企業風土の根幹として脈々と受け継がれ、「『生きる』を創る。」というブランドプロミスのもと、保険販売だけではなく、社内外に対するがんの啓発活動にも、取り組んでおります。
取材は主に、人財戦略第二部健康推進室が対応しました。
実は、元々は、社員のがん検診受診率は、今ほど高くなかったことを産業医から聞きました。
そのような状況のときから、毎年、社員に対するがん啓発(e-learning)を実施するとともに、社員が検診を受診しやすい環境を整え、検診受診促進を社員に働きかける取り組みを継続してきた結果が、今の受診率に至っていると考えます。
■ 取材者 大同生命保険株式会社 谷口様
取材させていただいた中で一番印象に残っていることは、東京材料株式会社の担当者の、社員に検診を受けてほしいという想いの強さでした。そのきっかけも伺いました。
どうしたら自発的に検診に行ってもらえるか。決して強制はせず、看護師からのアドバイスや研修を受けたり、新入社員の入社時から啓発を行っていらっしゃいました。取り組みを開始してから実際に現在のような高い受診率になるまでには、地道な取り組みの継続と、推進する担当者の意志が大切なのだと学ばせていただきました。
大同サーベイについて
大同生命保険株式会社 谷口様
私からもう1点、がん対策推進企業アクションと大同生命保険が共同で、3年連続となる調査を行いましたので少しご紹介します。
中小企業経営者への調査によると、毎年、経営者の70%程度が「従業員のがん対策に関心がある」と答えており、その割合は毎年僅かながら上昇していることから、社員の健康に対する関心の高まりを感じています。一方で、会社が社員に対してがん検診を実施した割合を聞くと、乳がん検診、子宮頸がん検診ともには10%台と低い数字に留まっています。
企業アクションパートナー企業のがん検診受診率は、乳がんが57%、子宮頸がん46%と聞いているため、大きな差があります。国が推奨する5つのがん検診のなかで、女性2がんの受診率が低いという課題に加えて、企業規模などによってもがん対策の進捗状況に差があるのではないかと感じています。小規模な企業の経営者にとっては、費用の面や、人事のマンパワーの面で、がん対策を進めることを躊躇してしまうこともあると想像していますが、実は、協会けんぽや自治体での検診などをうまく活用することで費用の負担は小さくて済みます。マンパワーの面でも、がん対策推進担当リーダーを社内で一人決めて、朝礼や社内の連絡メールで、がんに関する知識を少し広報するだけでも、ずいぶん空気が変わってくると思います。小規模な会社ほど、社員一人ひとりの活躍が会社に与えるインパクトは大きいのではないでしょうか。大切な社員を守るために、経営者は先手を打つ必要があると考えます。
ディスカッション
■ 阪急阪神ホールディングス株式会社 下瀬様
当社では人事、保健師、健保組合と一緒に健康経営プロジェクトに取り組んでおり、女性の健康プロジェクトにおいては、取り組み当初10%台だった乳がん・子宮頸がんの受診率を、2021年度は国の平均受診率程度まで引き上げることができました。社内ヒアリングなどから受診率UPにおける課題を整理し、来年度から健康診断と乳がん・子宮頸がん検診をセットで外のクリニックに受診すること、検診バスの用意など受診機会の提供を増やすことなどの取り組みを実施してさらなる受診率UPを目指しています。
企業によっては、所属している健保によって検診の補助金額や、「指定された医療機関でのみ補助対象」「乳がんと子宮頸がんセット受診のみ対象」などの実施内容に差があり、「受診したくても日程が合わない」など、働く世代のがん検診受診率向上の機会を逃してしまっている点は今後の課題と考えております。受けたいのに受けられない人たちへの対策があれば、ヒントをいただけますと嬉しいです。
(中野先生)
協会けんぽは予算の枠組みで動いていると思いますので、アッパーになったところで打ち止め、定員のような形で整理されているかと思います。手を上げたらどうぞということになると思うので、積極的に活用されたらいいのではないかと思います。
■ 健康保険組合連合会 中野先生
健康保険組合連合会は大企業や業界ごとの健保組合を取りまとめている組織であり、健保連としての予算や施策ではなく、各健保組合が予算を持って、施策を決めています。一方で協会けんぽ(全国健康保険協会)は主に中小規模の企業が入る健康保険組合ですが、協会けんぽ全体としてその時々に応じた適切な予算や施策が決められており、その枠組みで活動されているかと思います。企業の健康担当者におかれては、自分の会社が属する健康保険組合に応じて、出来る施策を確認し、積極的に活用されるのが良いと思います。
■ 聖マリアンナ医科大学 林先生
法定健診ではないがん検診において、会社にとっては経済的な負担もあります。しかしながら、社員の健康のためには、まずは検診を受けていただくことが大事です。検診受診率が上がることは、大切な社員の命を守ることになるということを、重要視していただきたいと思います。
■ 株式会社ワーク・ライフバランス 大西様(小室様代理)
健康リスクを考えるうえで、睡眠の問題が大事です。寝不足の場合、上司と部下とのコミュニケーションでは受け手側の部下は傷つきやすく、上司は部下に侮辱的な言葉を使いやすいということが、アメリカの研究で確認されています。健診などにおいては、例えば社員が身体に違和感があるからコアタイムを使って追加で検査をしたいと思った時に、上司の機嫌が悪い場合は言い出しにくいはずです。睡眠の管理を含めて、心理的安全性のとれる職場を維持することは、社員の健康を維持していく上で非常に重要だと考えます。
■ リントス株式会社 川崎様
がんと診断された社員は、ひっそりと辞めてしまうケースが多く、企業にとっては大きな損失となります。第三者であるコンサルタントには吐露してくれますが、会社には正直に話せないという点が大きな問題です。まず経営者、人事部、管理職の皆様に検診受診の重要性を周知することが大事です。そして個人に対してのコミュニケーションでは、「今は二人に一人ががんになる時代だよ、あなただけじゃないよ」ということを前提にお話しすることが、言い出しにくいことを話してくれる糸口になると思います。
■ 東京都社会保険労務士会 成田先生
会社は、傷病手当金申請で病名を記載しなければいけないため、そこで社員の病気の内容を知ることが多くなっています。治療と仕事を両立していく上で、会社に何も伝えず、簡単に復帰できるような状況の方であれば良いのですが、継続して治療をしながら仕事を続けていくような病状の場合には、どうしても職場に理解を求める必要が出てきます。その際にどのように自分の病状を告白するか、あるいは報告しやすい会社なのかが非常に大きな問題になります。もし、「完全に治ってからフルタイムで復帰してください」と言われてしまうと、復帰の道を絶たれたと考える方が多いのです。また、半年雇用や一年雇用のように期間の定めのある社員が、入社3ヵ月後にがんが発覚してしまったような場合、契約が終了になってしまう恐れがある場合の対応など、医療機関などで就労支援をやっていると、様々な相談をいただく機会があります。
顧問先の会社の場合には、経営者の意向を確認しつつ「人材を失ってしまうことが会社にとってどれほどマイナスか」といったことを経営者や人事担当者にお話しさせていただくなど、アドバイスに努めています。
がんに罹患した方同士の情報共有も非常に重要になると思います。病気になってから今後に不安があったり、生きづらさや働きづらさを抱えている人たちが、少しでも働きやすい方法を模索するきっかけになっていくと思いました。
■ 株式会社Blanket 秋本様
私自身がコロナの後遺症に悩まされましたが、後遺症を抱える当事者同士のコミュニティというものがあり、そこでは情報交換が非常に活発にされていました。
中にはメンタルに不調が出てしまった方や、身体が動かしづらいなどで仕事に影響が出てしまって、実際にフルタイムで働けなくなった方もいらっしゃいました。その経験から、当事者のコミュニティというのは、生きづらさや働きづらさを抱えている人たちが働きやすくなるきっかけになっていくのだろうと思いました。
私は介護の領域で仕事をしていますが、非常に女性が多いです。女性が活躍している領域であるということと、やはり大きな企業ばかりではなくて中小企業が多いという特徴もあります。数人で運営している企業が多い中で、もっと検診や両立支援の啓発を推進していかなければいけないと感じました。まだアイデアベースですが、80%チャレンジの取り組みと、私達介護福祉の領域ならではのコラボレーションをして、情報発信をしたり、介護福祉の業界で80%チャレンジに参画している企業はこういう企業があるということをオープンにしていくような動きなどを、一緒にやれたら良いと思います。
■ 株式会社レーマン tokco様
弊社も人数の少ない会社ですが、女性の比率が高く、検診率も昨年は100%の目標を達成していましたが、今年は反省が残ってしまいました。小さな会社の良いところであり、工夫が必要なところでもありますが、例えば、会社に大きな変化やチャンスがあって、一致団結すればするほど、夢中になって働きすぎて勤務時間が増えてしまい、結果的に検診のことも忘れてしまう、という事があり、目標達成できず100%から低下してしまったのです。
私共の会社は、医療医学に特化し、ビジュアルコミュニケーションのためのコンテンツを作っており、2Dのイラストレーションだけでなく、時代の変化とともにアニメーション3DCG、そのコンテンツが今でいうAR,VRなどに進化してきています。理解できなければ伝わらないため、立場の違う方々に、その立場によって見せるべき、共有すべきツールも変わってくると思います。知識の差や言語の壁、理解度も人によって違い、興味によっても共有すべきツールは違ってくると思います。根本的な教育に関して、教育ツールというところを20年近く作ってきた立場ですので、社内だけに限らず、社会全体の検診率向上のためにはより良い教材を作っていきたいと常に思っております。そういった面で何かご協力したいと思っております。
■ 株式会社サンリオエンターテイメント 小巻様
当社の検診啓発イベントでは、エンターテイメント要素を取り入れつつ、ゲストで来てくださったアーティストの方たちからファンの方たちに向けて、「検診に行こう」と呼びかけたり、女性へのリスペクトの思いなどを発信することで自分を大切にしようと思っていただくような活動をしています。イベントを始めて12年ですが、当初と変わらず多くの方から「知らなかった」や「子宮頸がんには偏見があり、怖い」などの声をいただきます。「知ること」は本当に大切だと思います。
罹患した方が肩身の狭い思いをしないよう、罹患した方のメンタルケアや情報共有のコミュニティ運営などを行う必要性を感じており、今年度から取り入れていきます。
当社のアルバイトや社員との面談時に「検診に行ってください」と個別で声掛けも行っていますが、十分に行き届いていないこともまだあるように思います。
林先生の総括
「知る」ことは非常に大切です。ただ、“知識”を“意識”に変えていくことはなかなか大変な作業です。学校でがん教育が行われるようになってきていますが、実際にがん教育を行った学校から「林先生のがん教育の授業を受けて、ゼロの知識であった子どもたちが2年経った時に素晴らしい意見を言うようになっている」と聞きました。明らかに進歩しています。その生徒にまたがん教育をすると、さらにその2年後、もっと大きな進歩があると思います。
さて、今日の会議の話し合いはここだけで終わりにせず、我々が持ち帰り、国の会議(がん対策推進企業アクションのアドバイザリーボード会議)にも報告し、職域での女性がん対策の現状を理解してもらうことが大切です。オフィシャルサポーターの皆様は、国を救う立場でいらっしゃると自覚していただくと、我々も有難く思います。