2022/11/22
令和4年度 ブロックセミナー
/金沢セミナーを開催
令和4年度のがん対策推進企業アクションのブロックセミナー「職域におけるがん対策の最新情報」を石川県金沢市の「TKPガーデンシティPREMIUM金沢駅西口」にて、会場とオンラインによる同時配信にて開催。
当日は、がん対策推進企業アクション
アドバイザリーボード議長の中川恵一先生、石川県健康福祉部次長 兼 健康推進課長 木村慎吾様、株式会社オノモリ 総務部長 小野森喜子様、認定講師 藤原
裕子様の講演、そして登壇者4名によるパネルディスカッションを行いました。
■ プログラム
- ご挨拶
- ご挨拶・がん対策推進企業アクション事業概要説明
- 講演①「がん対策の現状と今後の方針について」
木村 慎吾様(石川県健康福祉部次長 兼 健康推進課長) - 講演②「コロナ下におけるがん対策」
中川 恵一先生(がん対策推進企業アクション アドバイザリーボード議長/
東京大学大学院医学系研究科 総合放射線腫瘍学講座 特任教授) - 講演③「がん検診受診率向上の取組み」
小野森 喜子氏(株式会社オノモリ) - 講演④「私が、がん告知を受けるまで」~何故、検診を受けるのか?~
藤原 裕子氏(がん対策推進企業アクション認定講師) - トークセッション
【ご挨拶】
石井 慎太郎氏(厚生労働省健康局がん・疾病対策課 課長補佐)
厚生労働省委託事業である企業アクションは、2009年から実施しており、今年で14年目を迎えます。企業アクションの活動目的は主に二つ、「職域におけるがん検診の受診率向上」「がんになっても働き続けられる社会の構築」です。この趣旨にご賛同いただいているパートナー企業・団体は、現在4500ほどになります。
「忙しくてなかなかがん検診に行けない。」という方もいると思いますが、日本ではがんという病気に毎年約100万人が罹患し、そのうち昨年は38万人が、亡くなっているという話があります。また、がん患者の3分の1が働く世代の方であると言われていますし、がんというのは、非常に身近で非常に恐ろしい病気という印象を持っているのではないでしょうか。しかし、がんは早期発見、早期治療をすれば、多くのがん種で90%以上が治るとも言われています。毎年ほんの少しだけ時間を割いていただき、がん検診を受けていただくだけで、がんから身を守ることができる。これはそれほど難しいことではないと思います。企業アクションでは、こういったがん対策に役立つ情報を積極的に発信しています。この後、企業アクションの紹介もございますが、本日をきっかけとして、パートナー登録をしていない方はぜひ登録を、登録されている方はより一層企業アクションを活用していただきたいと思います。
また、従業員の健康を守る責務をお持ちの経営者の方へ、従業員の方ががんになっていないか、早く見つけられるようにがん検診を促していただく、治療をしながらでも仕事をすることができるように、その手助けをしていただきたいと思っております。
【ご挨拶・がん対策推進企業アクション事業概要説明】
山田 浩章(がん対策推進企業アクション事務局長)
厚生労働省からも話があった通り、1年間で100万人が罹患して38万人が亡くなるがんですが、少しでも減らしていく、なくしていくことを大目的としながら、企業アクションは「職域でのがん対策」にフォーカスして活動しています。定年は年々引き上がっており、女性の社会進出も進む中で、非常に職域でのがん対策が重要性を増しています。また、がん検診受診の全体の約3割~6割が職域のがん検診を受けているという状況です。つまり住民検診だけではなく、職域でもがん対策が非常に大切であるということです。
企業アクションの活動について、「がんについて正しく知る」「早期発見のためにがん検診の受診率を上げる」「がんになっても働き続けられる環境を作る」を指針として、大きく「発信・広報」「イベントの開催」「企業との連携活動」の三つの活動を行っています。
【発信・広報】
企業アクションのホームページは非常に情報量が多いため、リニューアルを重ねながらわかりやすく・探しやすいサイトに作り変えており、後ほどご登壇いただきます中川先生のご協力のもと、YouTubeにて37種類の動画コンテンツの配信も行っています。また「e-ラーニング」という、オンライン上でがんについて学ぶことができるコンテンツも用意しています。これらは企業アクションに登録いただけば、何名でも無料で利用いただけるものです。
【イベントの開催】
本日のように、各地にてセミナーを実施して、地域に根ざしたがん対策を進めていくことへも取り組んでいます。
【企業との連携活動】
「企業コンソーシアム」という、企業による企業のためのがん対策ということで、自社や他社に「どういった課題があるのか」「どのような活動をすればがん対策が進められるのか」ということを議論しながら進めていく活動や、女性の特有がんにフォーカスした分科会、中小企業にフォーカスした活動なども行っています。
【がん対策の現状と今後の方針について】
木村 慎吾氏(石川県 健康福祉部次長 兼 健康推進課長)
石川県では、40~64歳では、毎年約2000人ががんに罹患し、約400人が亡くなっています。単純に計算すれば、この年代だけで約1600人ががんを克服し、就労や社会活動をされていることになります。実際に働く世代はもう少し幅広く、全国の統計では、「治療をしながら社会生活を送っている方」は約36万人とされていますので、本県には約3600人が治療をしながら社会生活を送っておられると推計されます。近年、入院日数が短くなり、働きながらの通院・治療が増えています。また、雇用の延長に伴って高齢の労働者も増えていますので、治療と仕事の両立ができるような体制作りが求められています。
本県では、第3次の石川県がん対策推進計画を策定する際、県内の事業所を対象に実態調査を行いました。
・「過去3年間にがんと診断された従業員の方がいますか」という質問に対し、「います」は4割で、事業所にとって身近で問題であることが分かりました。
・「がんに罹患された方々がちゃんと復職しましたか」という質問に対しては、「復職しました」が7割を占める一方、「復職が難しくて離職した人がいる」も3割を占めていました。
・「仕事とがん治療の両立が実現できる職場作りの必要性を感じますか」という質問に対し、8割が「感じます」を選択し、多くの事業所が両立支援の必要性を認識されていることが分りました。しかし、「実際に取り組んでいますか」という質問に対しては、「取り組んでいる」は2割、「取り組んでいない」が8割で、実行に移すことができていない現状にあることが分りました。
こういった調査を踏まえ、石川県の第3次がん対策推進計画は、「科学的根拠に基づくがん予防・がん検診の充実」、「患者本位のがん医療の実現」、「尊厳を持って安心して暮らせる社会の構築」、「これらを支える基盤の整備」を4つの柱にしており、3つ目の柱の中に、相談支援体制の充実や、就労と治療の両立支援を盛り込んでいます。
本日は企業(職域)と関係の深い点を中心に3点ご紹介させて頂きます。
1点目は「就労と治療の両立支援」についてです。県では、「がん就労支援の手引き」を作成しました。この手引きでは、多くの企業に健康経営という考え方を取り入れていただき、「人は財産」、両立支援を行って、就労継続に繋げていくことを実践していただけるよう、先駆的な取り組みをしている企業の事例紹介などをしています。県としては、労働局などと連携し、好事例を広めていきたいと考えています。
また、就労に関しては、相談窓口が色々なところに設置されています。がんの診療連携拠点病院やハローワーク、石川県の産業保健センターなどに設けられています。石川労働局では両立支援に携わる関係者の両立支援チーム作りをしており、石川県も参加させて頂いています。病院も企業も関係者が協力して、両立支援に取り組んでいけるように、チーム作りも進んでいるところで、平成30年度から、関係者が一丸となってセミナーを開催しています。
2点目は「がん検診」についてです。本県のがん検診受診率は年々増加してきており、様々ながん種で50%に近づいてきている状況です。しかし、令和2年に新型コロナウイルス感染症が流行し、がん検診受診率は2割程度落ち込むことになりました。令和3年は少し回復基調にありますが、落ち込んでしまった受診率をもう一度引き上げていく取組が求められています。また、がん検診だけではなく、精密検査受診に繋げていくことも大切で、事業所で行われている大腸がん検診の精密検査受診率が低いのが本県の課題です。
県では、がん検診受診率向上のために、市町の受診率向上のための研修会、あるいは医師会と協力して医師会かかりつけの先生の協力をいただけるような仕組み、それから多くの企業にも協力を頂けるよう、「いしかわ健康経営宣言企業」の認証を行っています。認証企業は現在約600社にまで増加し、がん検診受診率向上にもご協力を頂いています。企業・事業所の皆様のご協力を頂きながら、がん検診受診率向上を目指していきたいと考えています。
3点目は、「がんの相談支援体制の充実」について説明をさせて頂きます。がんに罹患され、治療や就労、それ以外にも様々な悩みを抱えている方も多いと思います。石川県の特徴は、がん拠点病院の外でも、がん安心生活サポートハウスというものを設け、相談・交流ができるような仕組みを作っています。がん診療連携拠点病院等にも、がん患者のサロンなどを開設して頂いており、相談支援体制の充実に努めて頂いています。
がんの早期発見・早期治療のためにはがん検診の受診率向上に努めていく必要がありますが、受診率はコロナ禍で落ち込んでおり、受診率をもう一度上げていく必要があります。また、がんに罹患しても、仕事を続けられるように治療と仕事の両立支援も進めていく必要があります。さらに、就労以外にも、様々な悩みを抱えておられる方もおられますので、相談支援体制の強化も大切になります。企業・事業所の皆様の協力を頂きながら、また、がん患者やその支援に携わっておられる方々のご意見を伺いながら、行政政策の充実に努めていきたい、と考えています。
【コロナ下におけるがん対策】
中川 恵一氏(東京大学大学院医学系研究科 総合放射線腫瘍学講座 特任教授)
男性は65.5%、女性は51.2%が生涯で何らかのがんになります。長期的には上昇し、男性は3人に2人、女性は2人に1人ががんになります。毎年、年間約100万人が新たにがんに罹患し、38万人近くの方がこの病気で亡くなっています。かつての戦前・戦中は結核、そして、高度成長期は脳卒中が死因のトップでしたが1981年(昭和56年)から現在の死因のトップはがんです。
多くの病気は社会が豊かになったことや医療の進歩により減少に転じていきましたが、がんは年間罹患者100万人、約3割が働く世代です。さらに日本ではがん死亡が増え続けています。人口10万人の死亡率が増え続けている国は、先進国の中で日本くらいです。日米を比較すると、元々アメリカの方が高かったですが、1990年代からがん死亡率は減少し、現在では日本のがん死亡率はアメリカの1.6倍になっています。日本が事実上、世界で最もがんが多い国になっています。特に男性のがんは細胞の老化による影響が非常に強いので、日本が世界一の高齢化社会を迎えたことが一因と言えるでしょう。
大企業における社員の死亡の半数はがんです。日本経済新聞の私の連載コラムで、伊藤忠商事様にお借りしたデータを紹介し、在職中に社員が病気で亡くなるケースの9割はがんであると示しました。つまり、会社員の死因の半分はがんであり、そして、病気による死亡(病死)に限ると9割が、がんが原因になります。
がんはわずかな知識の有無で運命が変わる病気です。大腸がんでは、ステージ1は5年生存率が98%、一方ステージ4だと16%と、7倍ぐらいの違いがあります。この違いは他のがんでも同様です。ステージ1とステージ4は雲泥の差があり、大腸がんにおいてその運命を分けるものは、検便を実施したか、しなかったかの違いです。40歳から毎年、可能でしたら連続2日間に便を取る検査をするかどうかで差が生じます。
がんの10年生存率としては6割近くで、がんは不治の病ではありません。そして、早期であれば9割、多くのがんでは100%近くが完治します。一方でがんと診断されると1年以内の自殺のリスクが20倍になります。また仕事においては、会社員の場合はがんと診断されると3人に1人が離職、自営業者の場合は17%が廃業になることを示したデータもあります。また、辞めるタイミングは、診断確定時の告知を受けた時に32%、そして告知から治療までの間で9%が辞めています。つまり、治療が始まる前に4割以上の方が辞めており、実際に治療を受け、辛くて両立して仕事を継続できないことだけが理由ではありません。
次に、がんは男性に多い病気です。しかしそれは一生涯を通しての話で、50歳半ばまでは女性の方が多いです。30代40代のがん患者では女性は男性の2倍になり、40歳未満の患者の8割は女性です。女性特有の子宮頸がんと乳がんの二つのがんが若い世代に多く、罹患率のピークは、子宮頸がんが30代、乳がんは二つピークがあり、その一つは40代後半です。40代後半にピークが来る乳がんは老化以外のファクターで、女性ホルモンによる刺激です。一方で女性の大腸がん・胃がん・肺がんは年齢とともに急激に増えますが、男性と同様に遺伝子の老化といえる病気です。男性ホルモンで増えるがんは前立腺がんです。男性ホルモンと女性ホルモンの大きな違いは、女性ホルモンは50歳を過ぎると多くの場合は分泌されなくなります。生理が止まり、以降は卵巣の機能が止まるので、50歳以降は乳がんを増やす大きな要因が消滅することになります。
現在、日本人女性のがんでは乳がんが一番多く、また、急増しており、9人に1人が罹患しています。1975年から現在では4倍ぐらいに増えています。なぜ、乳がんがそれほど増えているのか。それは少子化です。現代の日本人女性は生涯で平均450回ほど生理を経験するそうですが、100年前はたった85回でした。その当時は平均7人のお子さんを持ったそうで、1人のお子さんを妊娠、出産、授乳まで含めると2年から3年の間、生理が止まります。その間は乳がんのリスクが格段に減ります。7人のお子さんがいるということは、15年から20年間生理が無いことになります。それがかつての乳がんが少なかった理由です。また、栄養状態が良くなったので初潮が早く、閉経が遅くなり、そして、お子さんを持たない女性も増えた結果、長い間、生理・女性ホルモンの刺激にさらされていることになります。
自己触診という言葉が消え、その代わりに「ブレスト・アウェアネス」となりました。がん検診の指針の中では医師による触診・視診は推奨していません。その理由は専門医であっても、触って乳がんを見つけることは大変難しいからです。ご自身で触診、触って診断するのも非常に難しいですが、ご自身の乳房が先月と同じか、いつも通りかのチェックは行っていただきたいです。
子宮頸がんは、最も早期の上皮内がんを含めると30代後半がピークです。子宮頸がんの原因のほぼ100%がHPVと略される、ヒトパピローマウイルスで、基本的に性交渉に伴って感染するウイルスです。17歳未満でHPVワクチンを接種すると子宮頸がんのリスクは9割近く減ります。そのため子宮頸がんは防げるがんの代表です。大変残念ですが平成9年度から17年度に生まれた女性については、HPVワクチン接種の積極的な勧奨がされていない時期でした。対象年齢である小学校6年から高校1年までの女子に接種通知が行われなくなり、接種率は以前の8割からゼロになりました。その方々はいま無料でキャッチアップ接種を受けることができますが、SEXデビューの前に打たないと効果が乏しいです。10歳から17歳の間の接種で9割近く発症率が減りますが、年齢が上がるとそれほどの効果が出ません。子宮頸がんは、HPVワクチン接種と子宮頸がん検診の2つを組み合わせることによって95%ほど防げます。子宮頸がんのピークは30代ですが、子宮頸がん検診は20代前半の受診率が15%ほどと低く、大きな問題です。
私が所属している東大病院の総合放射線腫瘍学講座と、女性の健康管理サイト「ルナルナ」が共同でがん検診を受診しない理由を調査しました。調査の対象者はルナルナユーザーのため、リテラシーの高い層ですが、それでも受診しない理由は検査に伴う苦痛に不安があることがトップでした。人によっては確かに痛いとおっしゃる女性もいるようですが、痛くないとおっしゃる方も多いです。また、検診はカーテン越しで行われますので、勇気を持って受けていただきたいです。
子宮頸がんがどんどん若年化した背景には、申し上げにくいですがオープンな性行動があるわけです。子宮頸がんではなく、中咽頭がんの7割がこのHPVです。このことを知らないのは残念な話です。
働く女性が増えたこと、定年が55歳から60~65歳に引き上がったことで会社内でのがん患者が増えることが予想されます。かつての若い女性は専業主婦でしたが、現代は皆さん働いていらっしゃるので女性社員も多いです。企業でのがん対策は経営課題であることを、先ずは社長が認識していただく必要があります。
企業アクションは三つの課題を挙げており、1)がん検診の受診率の向上、2)両立支援、3)知る、ことです。職域がん検診の受診率は非常に重要な問題です。日本の受診率は先進国の中でとても低く、その理由は「大人になったらがん検診に行くように」と言われていないからです。今の子供たちは学校で教わって育っていますから、そうでない上の世代をどうするかが大きな問題です。
受けるべき検診は基本的には住民検診です。科学的な有効性があり、国が指針を定めて公金投入をしているため安価に受診できます。世の中には様々な検診があり、高い検診もたくさんあります。高額な理由は、科学的な有効性に関して検証がされておらず、公金を投入できないためです。
がん検診を受診している方の4割~6、7割近くが職域で受けています。国ががん検診で今一番に力を入れているのは職域の分野だと思います。推進パートナー企業の中で、がん対策のエリート企業といえる企業に回答いただいた受診率についても、子宮頸がん検診の受診率は35%にとどまっています。会社でのがん検診の実施率と、経営者のがん対策への関心は見事に相関します。経営者ががんに関心を持っていただくことが何よりも大事だと思います。がんが現役の会社員の病気になってきたため、仕事と治療の両立支援が重要な課題になります。「がんでも辞めない、辞めさせない」をキャッチフレーズにしていきたいです。
私も膀胱がんを経験しました。自分で超音波検査をして発見しました。2018年12月9日に膀胱の癌を見つけ、翌日に内視鏡でがんが確定し、年末の12月28日に内視鏡切除して31日に退院、1月4日から通常勤務を開始しましたが、がんに罹患したのは相当ショックでした。偉そうに男は3人に2人がなると言っていましたが、自分ががんになるとは全く思ってなかったです。一般の方が非常に冷静さ、平常心を失うことはよく理解できます。やはり、がんになる前にがんのことを知ることが大切です。欧米では当たり前のように学校でがんについて教えています。ついに日本の中学校と高校の学習指導要綱にがん教育が明記されるようになりました。ただし、保健体育の先生の喫煙率が一番高いという、何とも言えない現実があり、課題でもあると思います。
中学校では昨年度からがん教育の全面実施が開始されました。高校では今年から始まっています。教科書の内容は、受けるべきがん検診、住民検診など、また、高校の教科書では放射線治療も学べる内容でとても充実しています。習った世代で検診受診をしないのは本人の問題になりますが、がん教育を受けていない大人にとっては、一種の強制力のある職場でのがん教育が課題になると思います。
がんが1cmから2cmの大きさになるのは1〜2年です。1cmになってようやく見つけられるのが早期がんで、この1cmになるまでは10年〜20年ぐらいかかります。住民検診でも2年あるいは1年に1回の受診を案内しています。二次検診の精密検査の受診率が非常に悪いです。住民検診はまだマシでありますが、そうとは言っても大腸がん検診で要精密検査になったにもかかわらず、3割が検査をしていません。社員が精密検査が必要になったということを知ることは、会社にとっては難しいと思います。職域のがん情報の取り扱いについて、企業アクションのホームページで詳細に取り上げていますので、ぜひご覧いただきたいです。
【コロナとがん】
昨日までにコロナで亡くなった方は累計4万6659名であり、1日あたり46名という計算になります。一方でがんは年間38万人が亡くなり、1日あたりでは1,040名と圧倒的な差になります。コロナで亡くなっている方の平均年齢は全体で82歳です。年齢分布は、男女とも80代がピークで、女性は90代がほとんどで若い世代は非常に少ないです。がんが牙をむくのは遥かに若い世代であり、60歳から74歳男性の死因の4割超え、女性は35歳から74歳で4割超えがかんです。数の違いだけでなく、亡くなる年齢も違います。従ってコロナの中でも、がん対策の手綱を緩めるわけにはいきません。
コロナ禍のがん対策には三つの問題があります。
1)在宅勤務による生活習慣の悪化、2)がんの早期発見の遅れ、3)がん治療への影響。
在宅勤務では座りすぎが悪影響です。コロナの前でも日本人が座っている時間は世界一の7時間です。長く座ることは、がん死亡が82%増え、非常にがんのリスクを高めます。コロナによって81%の方がさらに長く座っており、コロナ太りだけではなく糖尿病を発症しますとがんのリスクは全体で2割増えます。
コロナによってがんが増えていきますが、早期発見できるがん細胞が1cmになるのに20年かかりますから、明らかになるのは20年先です。そして、早期発見の遅れは既に起きています。2020年の検診受診者はコロナ前より3割近く減りました。昨年は少し回復しましたが、コロナ前と比べると1割も減っています。これは早期発見の遅れになり、進行がんの増加は既に顕在化しています。
横浜の、大腸がんの進行度別の患者数をコロナの前後で比べた月当たりの患者数のデータでは、ステージ1の患者は3割減ですが、リンパ腺への転移があって抗がん剤が必要なステージ3の患者は6割以上の増加です。見かけ上、がん患者が初めて減りましたが、体の中にがんがあっても検査しなければ、がん患者とはならない、ということです。その結果はがん治療へ大きく影響し、手術が減りました。日本で一番手術をしている東京のがん研有明病院の手術件数は、肺がん・乳がん婦人科がん、胃がんの全てが減りました。患者が減っているので手術が減るのは当たり前です。しかし、放射線治療は顕著に増加しています。東大病院の場合、早期の肺がんの放射線治療は4回、前立腺癌では進行がんでも5回の放射線治療で済みます。
治療は、服の着替えもなく、治療室への入室から退出までは7分ほどで終了です。この治療は5回だけで手術と同じ効力があります。
コロナは大変重要な問題ですが、がんは遥かにリスクが大きいです。コロナにより、リスクの大きいがんの検診受診率が低下し、がんの患者数の低下に繋がっていることは大きな問題です。ぜひ皆さんの力を得て、がんによる不幸を増やさないようにしたいと思います。
【企業事例発表】
小野森 喜子氏(株式会社オノモリ)
弊社は繊維機械製造メーカーを成り立ちとし、今年で56期目となります。圧力容器製造、ステンレス加工、ロールTOロール搬送技術をコア技術とし、開発設計から部品加工、組立・試運転・搬入据付までの一貫生産体制を強みとしています。現在は、EV関連設備、半導体関連設備、食品関連設備を中心に、様々な業界企業様より自社製品・受託製品の、ご依頼をいただいております。従業員は正社員54名・嘱託社員11名の合わせて65名に役員6名を加えた、比較的何事も取り組みやすい、こぢんまりとした企業だと思っています。
弊社の健康経営への歩みについて、弊社は平成28年に「かがやき健康企業」を宣言し、平成29年にかがやき健康企業の認定を協会けんぽ石川支部より頂きました。平成30年には石川県から「いしかわ健康経営宣言企業」の認定をいただき、令和2年には「健康経営優良法人2020」の認定を取得し今日に至っています。そうした中、社内においては平成30年に「健康推進委員会」を発足させ、「働きたいと思う年まで働ける健康づくり、職場づくり」をスローガンに健康経営を目指して、様々な取り組みを行っています。そして今回、お声掛けを頂いたことをきっかけに、「がん対策推進企業アクション推進パートナー」に登録し、がんについて社員への情報提供などを始めたばかりというところです。
私事ですが、健康経営を考える上で、忘れられない一人の社員がいます。
12年前、会社のがん検診で便潜血があり、その4か月後大きな病院にかかった時はすでに、直腸がん、多発肝、リンパ節転移という診断でした。病室で「もっと前から症状があったんじゃないの?しんどかったんじゃないの?」と尋ねると「仕事忙しかったからなあ・・」という言葉が返ってきました。
以来その言葉は私の耳から離れず、その時どうしてもう少し彼の様子に気づいてあげられなかったのか、申し訳なさや悔しさが健康推進委員会の発足や健康経営に取り組む起点ともなっています。
働く事は健康で暮らすための基盤でなければなりません。会社は健康を損なう場所であってはいけません。おりしも「働き方改革」が叫ばれ、会社全体で労働基準監督署の御指導を真摯に受け止め、まだまだ道半ばですが時間外労働の削減に努め、工場の冷暖房完備など働きやすい職場環境の整備、安全対策など健康経営とセットで推進しているところでございます。
ここで弊社の健康推進委員会の活動を紹介させていただきます。
一つは、協会けんぽからご提供いただく様々な講座の利用です。「簡易歯科検診・歯周病予防出前講座」や「筋力測定・立ち上がりテスト」や「腰痛・肩こりの為のストレッチ講習」などの開催です。何事も悪化する前に自分自身の体の状態を知るという意味で大変役立っています。また、毎月届く「かがやき通信」や「石川の社会保険」など健康だよりは隅々まで読んで、社内へ記事の配信をしたり、協会けんぽが企画した「わくわく健康カップ」や「職場の健康づくり標語」への応募など、イベントへの参加を呼びかけています。ちなみに令和2年度の標語コンクールで金賞に選ばれた「ありがとうの一言で高まる心の免疫力」は当社の総務課長の応募作でした。
健康推進委員会が心の癒しと題して独自に企画する「寄せ植え教室」や「ガラスキューブ・クリスマスリースづくり」などは予想以上に男性社員の参加も多く、仕事場を離れ気分転換のできたみんなの顔を目にすることができ、出来上がった作品を家庭に持ち帰ると、ご家族は仕事以外の社員を知ることとなり、家庭内のコミュニケーションUPに一役買っていると聞いています。
健康推進委員会が取り組んでいる中での強敵は、喫煙者への対応です。弊社の喫煙率は、27.8%と大変高い状態です。禁煙推進ポスターの掲示や禁煙外来の勧めなど取り組んではみるものの、禁煙がなかなか進まないのが現状です。それでも1年に一人でも減らせたらと禁煙成功者へのプレゼントも考えました。ちなみに昨年は煙草の匂いがしなくなったお口で「旬の味覚を実感してください」とフルーツを贈呈しました。がんになる原因のなかに、わずかですが果物の摂取不足というのがあり、あながちこのフルーツのプレゼントは的はずれではなかったかと、安堵しています。今年も1名禁煙成功者が現れ、プレゼントをすることができます。コロナ下で喫煙室の入室が1人ずつとなり、「一人でタバコ吸っていてもつまらないんですよねえ」と言った社員がいました。今がチャンスだと思います。壁は高いですが、一歩一歩進めていきたいと思います。
さて、当社は、定期健康診断実施日にがん検診車に会社構内に来てもらい、同時に受診することによって、受診率UPを図っています。当日、出張・欠勤等で不在の社員の受診についても、総務課で手配をして別の日の受診に繋げています。各がん検診については、胃がんは掲示板に申し込み用紙を張り出し希望者に名前を書いてもらっています。大腸がん検診は検査キットを35歳以上の社員全員とその他希望者に配布しています。肺がん検診は、定期健康診断の流れで全員受診としています。また、安全衛生委員会を通じて、要精検者が休みを申し出た場合など、各職場快く便宜を図ってあげて欲しいと発信しています。がん検診車両が会社構内まで来て受診できることはとても便利なことではあるのですが、令和2年には新型コロナの感染流行で定期健診も含め社内で受診することができず、医療機関に出向いて検診を受けることがありました。その後アンケートを取ると、多少金額負担があってもオプションで検査内容を追加することができたり、その場で結果が出る検査項目に対して医師から説明が受けられて良かったなどの意見があり、相当数医療機関での受診を希望する声がありました。もっと詳しく検査をしたいという意見が多く、健康に関する関心が高いことがわかりました。今後は、こうした意見も取り入れ、会社においてより早期発見につながるがん検診体制を考えていこうと思います。
精密検査対象者には、協会けんぽのサイトにあるフォーマットを使っています。家族や会社にとっていかに大事な存在なのかなど一言二言ですが、メッセージを添えて、本人に直接渡して精密検査を促しています。検査に行ってくると、その結果を記入して、総務課に提出してもらいます。中には、再検査が怖いという人もいますが、「安心するために行くんだよ」と総務課員みんなで背中を押してあげています。行ってくると「大丈夫でした!!」と安堵した顔を見せる人、がん関連ではないけれど「薬を飲むことになりました」という報告など、手遅れにならないための手助けになっていると思っています。
「治療と仕事の両立支援」を考えるうえで、定期健康診断やがん検診の結果をどう会社としてとらえるかはとても大事なことだと思っています。何事も最初が肝心だと思うのです。「あなたの検査結果を案じています」というメッセージは、その後の会社と社員の関係性を構築するうえでの最初の一歩になると思います。
胃がん健診は希望者のみという形をとっているので、バリウムが苦手ということで受診しない人が多く、どう受診率UPに持っていくか、毎年の課題です。胃がんだけでなく、ほかの箇所のがん発見にもつながる内視鏡検査の検討も考えています。大腸がん検診は、当日検査キットの提出ができなかった人にも、別の日に提出できるよう配慮し、40歳以上100%を目指したいと思います。また、私の認識不足や女性社員の数が少ないこともあり、女性対象の2つの検診については、会社として受診状況の把握さえしていませんでした。この発表準備をしている期間に、女性対象のがん検診費用の会社負担を認めてもらったり、女性陣みんなで「働く女性の健康課題と理解」というセミナーを受講したりして、一歩前に進むことができました。私がいうのも何ですが、当社の女性社員は皆さん、とても働き者で頑張り屋さんばかりです。これからもみんなで話し合って受診率UPに繋げていきたいと思っています。
早期発見で90%の人ががんを克服できる今、その早期発見の一助となるべく活動することは企業として当たり前、そしてがんになっても安心して働ける職場づくりは、会社と社員がともに信頼しあって構築していくものと考えます。
当社は、残念ながらこれまでに二人の現役社員をがんで亡くしました。今回の発表機会を機に、改めて彼らの入退院の記録と会社での就業の記録を照らし合わせてみました。金曜日に退院すると翌週月曜日には出社している。そんなことの繰り返しでした。本人のつらさは想像に難くないですが、彼らの職場の仲間もまた、辛抱強く受け入れ見守ってくれていたと思っています。どんな風に接していけばいいのかは、手探りでした。一人の方は仕事のことを気にしていましたので、見舞いに行っては人事異動があったとか、こんな仕事を受注したとか、新しい設備を入れたとか、そんな話をしてきました。入退院が重なり、「今後は休職扱いになるね」と病室で伝えるのはつらかったのを覚えています。またもう一人の方は出社すると、今どんな治療をしていて、どういう症状になっているかなど事細かに説明をしに総務課を訪ねてくれました。今考えると、一人で抱えるには重すぎる荷物だったのでしょう。この当時、「治療と仕事の両立支援」のセミナーにも参加して、医療機関との連携も聞いていましたが、当時はハードルが高いように感じて何もできませんでした。もし相談していたら就労許可は出ない病状だったのではと思います。当社は重量物を扱う製造業ですので、職場から「何をやってもらったらいいのかなあ」と上司の悩む声もあった一方、「一人で家におれんのやろうと思う」と本人の不安に寄り添う声も聞こえました。
制度として出来てはいなかったけれど、やってもらえる仕事は何か、就業時間をどのくらいにするか、休職の扱いをどうするか、出勤率80%以下だけど有給休暇付与をどうするか、などなどその都度周囲と相談し、皆さん好意的に対処していってくれたように感じています。収入が減る中、会社が加入している保険で入院費用を補助してあげられたことも、少しは彼らの負担を軽くする助けになったかなと思っています。二人とも、最後まで「会社をやめる」という言葉は口にしませんでしたし、会社からも「やめてもらいなさい」という言葉はありませんでした。しかし、それが正しいやり方だったのかどうかはわかりません。会社も従業員もまだまだこれからが勉強です。
がん対策推進パートナーに登録したことにより、中川先生を先頭に各地で行われている「がん予防と両立支援」のセミナーやe-learningを知ることができました。現在当社ではe-learningを社内サイボウズに掲載し、全社員に受講者番号も発番し、受講を呼びかけているところです。がん知識チェックは「難しかった」「易しかった」など、意見はさまざまですが、身近でがんになった方に思いをはせ、改めて早期発見・がん検診の大切さを再認識するきっかけとなっている、という意見も受講者からもらっています。
私自身も受講してみて、食生活や運動不足を反省させられました。自分がもしがんになったらどうするかなあと考えたら、もうこの年なので、働くことは家族が心配して許さないだろうなと思ったり、それでも働き続けている自分が想像できたり、その場合どんな仕事を受け持たせてもらえるだろうかなどなど思いを巡らせました。今後はコロナ下の中、どうしても人間関係が希薄になりがちですが、それぞれの委員会活動などを通じてコミュニケーションをはかり、「がんに対する正しい知識と理解」の啓発をはじめ、健康経営に向けた様々な情報発信をおこなっていきます。また、これまでその場対応でやり切ってきたところを、平等な対応のために「治療と仕事の両立支援」を制度化していきます。
喫煙率低下の方策も、これまでは喫煙者にのみ目が向いていましたが、吸わない人に目を向けた非喫煙手当といった案も出され、来期からは実行される見通しです。禁煙者が増えるのではと、期待が持てます。
また、冒頭でもお話しましたが、弊社には11人の定年後再雇用の嘱託社員がいます。皆さんフルタイムで、勤めて頂いています。これも健康あっての事です。働きたいと思う年まで、働ける健康づくり、職場づくりにこれからも努めていきます。
健康経営に向けた会社の思いやこれまでの取り組み、今後考えている取り組みなどについて改めて社員全体の前で話す機会を設けることができ、社員からは新たな提案をもらうこともできました。
「治療と仕事の両立支援」は100人100様、柔軟な対応を心がけていきたいと思っています。
【『私が、がん告知を受けるまで』~何故、検診を受けるのか?~】
藤原 裕子氏(がん対策推進企業アクション 認定講師)
朝は、4匹の猫達に癒されながらのスタートです。そして乾いた喉を水で潤し、まだ半分寝ている脳と身体を起こすため、シャワーを浴びるのが、毎朝のルーティンです。
ある日のことです。いつものように熱めのシャワーを浴びていると、ボディソープをつけた指が、ある違和感を感じて止まりました。もう1度、同じところを同じように滑らせてみます。今度は、動きが止まったところを、ピンポイントで触れてみます。コリコリしたものが、指に当たります。これは……シコリ!?その時はゆっくりしていられず、出かける準備をして家を後にしました。
夜帰宅後、シャワーを浴びた時に、ずっと気になっていた部位に触れてみました。何度も何度も、集中して確認するように、触れてみました。それを繰り返していくうちに、あるワードが頭をよぎったのです。「これって、がん!?」、がんだ!直感で、そう思いました。
ふと、リビングのテーブルの上に置いてあった封筒が、目に飛び込んできました。それは、ポストの中に入っていたいくつかのダイレクトメールと一緒に、無造作に置かれていた「山」の1番下にあり、「山」からはみ出ていた状態になっていた封筒。取ってみるとそれは自治体から届いていた、乳がん検診のクーポンでした。これまで、届いていてもチラッと見るだけで、全く気にも留めず、封を開けることさえなかった検診クーポン。初めて封を開けてみました。そこには、受診できるクリニックの一覧が記載されています。ネットで、クーポンで乳がん検診が受けられるクリニックを検索し、そのまま予約を入れました。 マンモグラフィーを受けるのは、実に10年ぶりです。上下左右を板のようなもので挟まれて痛いのと、めんどうという気持ちから足が向かず、気がつけば10年経っていました。「自分でシコリを見つけた事」「自治体から、乳がん検診のクーポンが届いていた事」この2つのタイミングが重なっていなかったら、私は今も、乳がんの検診を受けていなかった事でしょう。
予約していた日時にクリニックに行くと、受付で「マンモグラフィーの他に、オプションでエコーを追加できますが、どうしますか?」と問われました。マンモグラフィーではわからないところをエコーでカバーできるというので、どうせなら、とお願いする事にしました。
10年ぶりのマンモグラフィー。上下左右を板のようなもので挟まれ、相変わらずの痛さを感じました。その後、エコー検査を終えて待っていると、クリニックのドクターに呼ばれたので、診察室へ入りました。診察室の椅子に座ると、ドクターは開口一番、「クーポンの検診のシステム上、結果は3週間後に伝えることになっているんだけど、どう見ても怪しいから。近いうちに、うちにある、最新のマンモグラフィーとエコーで 再検査して欲しい」と言われました。現状を把握するために検診に来たのだから、徹底的に調べてやろう!という軽い気持ちで、数日後に再検査をしました。前回とは別の、より詳細な画像診断ができる検査機器で、マンモグラフィーとエコーの検査。その日のうちに「黒に近いグレーだから、細胞を採取して病理に出す、細胞診という検査をします」とドクターに言われました。えっ!?と思ったのと、そうだよね。と納得した部分と両方あり、感覚的に、もう引くには引けないところまで来たのだなと感じて、検査をする覚悟を決めました。
1週間後に予約を入れて、当日を迎え、「藤原さーん」と名前を呼ばれて、処置室のベッドに横になります。胸に麻酔をされた後、いよいよ鉛筆くらいの太さの針が刺さるようです。私は臆病なので、針を見ないようにしました。かなり大きな音がし始めて、細胞を吸い取っているような感じが伝わってきます。ある掃除機メーカーの特徴のように、パワフルな吸引力という表現がしっくりきます。ただ、麻酔が効いているので痛さは感じず、少し押されているような感じがするだけです。
実際はすぐに終わったのでしょうが、私にはその時間がとても長く感じました。
ドクターから「2週間後に、検査結果がどうなったか、クリニックに電話してください。何かあれば、その前に、うちの看護師から連絡します」そうお話しされて、終わりました。そして検査日から、何事もなく数日が過ぎていき、2週間経たないうちに、クリニックから着信がありました。「治療が必要な結果となりましたので、 ご家族の方と一緒に、検査結果を聞きにクリニックにいらしてください」との事。「あら?これって、がん告知されるのよね???」そう思って、すぐ娘に連絡しました。私は「元」シングルマザーで、娘は成人して自立し、別々に暮らしています。シコリを見つけた時点で、娘には「がんだと思うから」と伝えてありましたが、改めて「がん告知されると思うから、一緒に結果を聞きに行ってくれない?」話したところ、「うん、わかった。いいよ」と軽い返事。
数日後、娘と待ち合わせてクリニックに向かい、診察室に呼ばれました。ドクターは検査の画像を見ながら、「検査の結果ですが、結論から言うと、乳がんです。大きい病院を4つ提案しますので、藤原さんに選んで頂き、そちらの病院で主治医となる先生と相談して治療してください」と淡々と説明し、がん告知が終わりました。
意外とあっさり告知するものなのだなと思いました。その後看護師さんにいろいろ訊きながら、相性の良さそうな、通いやすい病院を選択。普通なら1ヶ月かかるのを、クリニック枠で5日後に予約を入れてくれました。クリニックを出た瞬間、「意外と淡々と告知されたね。イメージしていたのと違ったなぁ。」と能天気な事を娘に話しました。他人事です。自分ががん告知を受けるのは現実味がなく、まだまだそんな感じで受け止めていたのでしょう。娘も同じ気持ちだったようで、いつもと変わらず、お茶をして帰りました。
紹介された病院で主治医の元、オペに向けていろいろな検査をしました。
血液検査やレントゲン、心電図などの他、肺活量の計測に、他に転移していないかを調べるPET検査。2日がかりです。全ての検査結果が出揃い、主治医が今の状況を私に説明してくれました。
「紹介してくれたクリニックの先生の見立て通り、左側の乳がんで脇リンパ節に転移で間違いないですね」
「ええっ!転移は聞いていないんですけど」
「ほら、ここ。リンパに転移していますね」
と、PET検査の画像を指し示しながら、想定外の事を口にする主治医。口あんぐりの私を気にせず、「シコリは1.5センチで小さいから、ステージで言うと1なんだけど、脇リンパに転移しているから、ステージは2aで初期の部類ですね」と淡々と説明。「それで今後の治療なんですが」と本題に入りました。
普通は、「治療するとこんなメリットがある」というスタートだと思うのですが、主治医は、治療のデメリットから話し始めました。がんとは一生のお付き合いになるんだろうけど、先生と私との相性はどうなんだろう?と、ずっと気になっていましたが、ドクターが治療のデメリットから説明した事に、私はとても信頼がおけるドクターだという印象を受け、「この先生に全てをお任せしてみよう!」と心から思えたのです。病気や治療について、分からない事や疑問に思った事は事前に調べ、それでも解決できない時は主治医に尋ねるようにし、主治医も外来の患者さんがたくさんいるのに、私が納得するまで時間を割いてくださいました。そんな事を数回重ねて、主治医との信頼関係を築いていき、治療方針を決めました。シコリが小さいのと、脇のシコリも小さく胸に近いところにあるので、温存手術で大丈夫だという事。オペと放射線はセットになり、月曜日から金曜日までの同じ時間、週に5回を5週間、合計25回照射しなければならない事。抗がん剤はした方がいいけど、してもしなくてもいい、という事。
そして主治医は、私にこう尋ねました。
「オペは、安全性と審美性、どちらを優先しますか?」
私は女性です。これまでオペを受けたことがなく、「身体にメスを入れる=傷が残る」という事が気がかりでした。それに加えて、女性の象徴である胸の一部が欠けてしまうのです。審美性は絶対に譲れない私は、「両方です!!」欲張ってそう答えました。
「先生、傷の大きさはどれくらいになりますか?女性として、やはり傷というのは、目につかないところでも気になってしまうので」と言うと、主治医も「私」を理解してくれたのか、「女性はノースリーブ着るよね。脇から真っ直ぐ15センチくらいの傷になると思うけど、ノースリーブを着た時に、隠れるようにやりましょうか。」そう言ってくれました。人生初めてのオペ。全身麻酔。考えただけで、少しドキドキしましたが、全てを主治医にお任せしようと、改めて思いました。入院は10日前後になるだろうとの説明で、いざ入院。オペも終わり、順調に回復していって、入院ライフを満喫していました。
とはいえ、看護師さんがこまめに様子を見にきたり、検温、3度のお食事、毎日お見舞いに来てくれる娘と、他愛のない会話を楽しんでいると、あっという間に1日が終わってしまいます。これまでの人生の中で、こんなにゆっくりできたことがあっただろうか?というくらいです。回復が早かったこともあり、当初の予定通り、10日間の入院でした。女性ホルモンを抑制する薬を服用するホルモン治療が始まり、タイミングを見て放射線治療もスタート。着替える時間を入れても、10分足らずの放射線治療のために、毎日往復3時間弱かけての通院です。日を追うごとにストレスになり、行きたくないと葛藤する事も、しばしばありましたが、どうにか25回を終える事が出来ました。
「がんかもしれない」という気持ちになったのは、自分でシコリを見つけた瞬間からです。
「がんだったら、どうしよう?」というところから派生して、「なってしまったものは、仕方ないのではないか?自分と向き合い、治療して、より良い人生を送るためには、どう過ごしていくのが良いのか?」など、自問ばかりしていました。離婚してシングルマザーになってから10年以上、1人娘を女手一つで育てるために働きっぱなしでした。 人生の半分以上、フルマラソンを全力疾走で、走り続けてきた状態でした。いつも、どんな時も、宝物の娘を優先。自分の事は、常に二の次三の次の生活です。
母親でありながら、父親の役割もこなさなくてはならなかった私は確かに、これまで自分と「向き合うフリ」をしたことはあっても、本気で向き合うということは、ありませんでした。がんという病気になった事で一度立ち止まり、自分自身を見つめることになったのです。昔と違って、がんは適切な治療をしていけば、治る病気になってきました。以前の私のように、がん検診を面倒くさいと感じている方々も多いと思いますが、今は自治体がクーポンを発行し、健診のサポートをしてくれていますし、それが早期発見につながっています。安心して前向きに治療に取り組める、環境があるのです。
ところで、私が不安になった事が1つあります。びっくりするくらい、お金がかかるのです。自分でシコリを見付けてから治療方針が決まるまでにかかった費用は、交通費を入れて、約13万円でした。それ以降の入院・オペの費用は、限度額認定証を予め申請しておいたので、設定金額の医療費に、食事代やタオルや部屋着のレンタル代や雑費。放射線治療は3割負担でも1回通院すると、交通費込みで8000円程。これが1週間に5回で4万円。そして5週間となると、もう25万円ほどになり、とても高額です。これも限度額認定証をうまく使えば、負担が少し軽くなります。また、ホルモン治療のお薬も1錠100円程なので、月に3000円かかります。そして私の場合は、3ヶ月に1度、経過観察のために主治医の診察と血液検査、エコー検査があります。これも毎回数千円かかります。それらに加えて1年に1回は、マンモグラフィー検査。がんは、治療費が高いですね。ビックリしました。実は私、告知の半年前に、医療保険・がん保険を解約してしまっていました。元気だし、この先病気にはならないだろうと思っていたからです。しかし、皮肉にも、解約して半年後にシコリを見つけてしまいました。こんなにお金がかかる病気だとは思わず、備えておくのは、必要だと痛感しました。
私が罹患した乳がんは、女性特有の、非常にデリケートな病気です。全摘か、温存か?
放射線治療、ホルモン治療、抗がん剤治療などの副作用も、 個々によって出方が様々で、重い軽いなどの個人差もあります。副作用についての辛さは本人にしか分からないので、まだまだ周りの理解が得られにくいと、強く感じています。抗がん剤は見た目にも副作用が現れますし、女性の象徴とも言える乳房にメスを入れるという事は、全摘・温存、年齢関係なく、精神的に参ってしまうケースが非常に多いのも事実です。
個人的な考えですが、私は「闘病」や「サバイバー」という表現が好きではありません。がんに対しては、「闘う」のではなく、「共生」し、「共存」していくものだと思っています。結構厄介な存在ですが、うまく付き合っていくイメージですね。がんという病気のイメージ上、難しいかもしれませんが、極度に恐れず、不安を抱かない事も、少しは必要なのかなと感じます。「不確実な未来」に不安や恐れを感じながら、日々を生きるのは、何かもったいないような感じがします。がんの事ばかり頭にあっても、今日交通事故に遭うかもしれない。先の事は、誰にもわかりません。だからこそ、「今」を、「その瞬間」を、意識して精一杯生きる事は大事だなと、この病気になって思います。時間は有限だと、忘れていた事を思い出させてくれましたし。私は毎日、将来やりたいことを想像するのが楽しくて仕方ありません。私はしこりを見つけた時から、 SNS に画像付きで検査やがん告知の事、入院ライフやオペの事、放射線治療の事、がんに対する自分の気持ちなどを発信しています。私が体験した、患者目線の発信です。そして、がん認定講師に就任し、今日、このように直接お話しする機会を頂いています。
実はこのお話には続きがあるので、またお会いできた時にお話しできたらと思いますし、その日を楽しみにしております。