2022/03/04
令和3年度 統括セミナーを開催しました
令和3年度「がん対策推進企業アクション統括セミナー」を、3月4日(金)、東京都千代田区の星陵会館にて開催しました。なお一般来場者の傍聴を予定しておりましたが、新型コロナウイルス感染防止の観点から、今回はオンライン配信での視聴とさせていただきました。
オンライン視聴数は250名となりました。
当日は、がん対策推進企業アクション事務局 山田事務局長より開会挨拶を行い、今年度優れた取り組みを行った、がん対策推進パートナー賞4社の表彰とともに、厚生労働大臣表彰を行い、最優秀賞はアフラック生命保険株式会社が受賞しました。
また、受賞企業の取り組み事例発表や、厚生労働省から「我が国におけるがん対策について」、株式会社キャンサースキャン福吉氏から「受診率に効く12の取り組み」、がん対策推進企業アクション アドバイザリーボード議長 中川先生から「進化する企業アクションとコロナで減る“がん患者”」の講演が行われました。
統括セミナー開会挨拶
がん対策推進企業アクション事務局 事務局長 山田 浩章
がん対策推進企業アクションは今年で13年目を迎え、小冊子の配布や勉強会の実施、SNSの配信、がんサバイバーによる出張講座の実施など様々なツールを通して職域がん対策の推進を行ってきました。
現在のパートナー数は、約3500社(団体)・従業員数は約790万人です。2022年2月に公表されている日本の就業者数は6659万人という数字でありましたが、約12%弱の規模感となっています。令和3年度に関しては新規で登録いただくパートナー数も増え、3月3日時点で520パートナーと昨年度の倍を超える登録をいただいております。
令和3年度の注力施策としては、
【発信・広報】
- ① YouTubeでの配信17コンテンツを追加しチャンネル登録数は2000、総視聴回数は10万回超
- ② e-ラーニング令和2年4月から受付開始し、申込数92社、約5800名が受講済
- ③ ホームページ改修スマホ最適化・パートナー専用ページのコンテンツ充実化、リンク整備対応等
【ブロックセミナーの実施】
- ・青森:94名参加
- ・和歌山:91名参加
- ・松山:91名参加
【企業連携】
令和3年度 がん対策推進企業 表彰式
- がん対策推進パートナー賞(プレゼンター:中川恵一先生)
[検診部門]
サントリーホールディングス株式会社 ピープル&カルチャー本部 部長 後藤 アキ子氏
受賞理由:
5大がんの検診を定期健診に組み込み、受診を必須としているほか、子宮がんと乳がんについては、婦人科専門医による「健診の重要性を啓発するミニ動画」を作成し、対象者に配信するなど受診率の向上に努めていること、また、婦人科専門医による相談窓口も設け、検診への不安や、がんが発見された場合にも気軽に相談できる体制を整備している点などが評価されました。
[治療と仕事の両立部門]
日本電気株式会社 健康管理センター マネージャー 山角 真二氏
受賞理由:
がんや難病を対象に、罹患しても安心して働くことのできる環境を整備するため、会社の姿勢や進め方、本人や職場上司の留意事項などを「治療と仕事の両立のためのガイドライン」として策定し、主治医の意見書を参考に、本人・上司・産業医・人事部門担当者で面談を行い、「両立プラン」を策定の上、その内容に従って勤務を継続している点などが評価されました。
[情報提供部門]
ブラザー工業株式会社 人事部安全防災グループ健康管理センター 統括産業医 上原 正道氏
受賞理由:
2020年度より、楽しんでがんについて学ぶことを狙いとした「がん予防スタンプラリー」を実施しており、「がんと感染」、「がん予防の真実」などのテーマを定めてシリーズ化した情報提供やセミナー、がん体験者の話を聴ける会などを開催し、今年度はがん情報を延べ8,000名以上が閲覧し、スタンプラリーには1,500名以上が参加しました。参加者には特典をプレゼントしたり、表彰状を送ったり、工夫をしながらがん教育を推進した点が評価されました。
[中小企業部門]
日本ナレッジスペース株式会社 ITソリューション部東京4課 課長 青木 哲哉氏
受賞理由:
全体会議にて、がん患者の具体的な例を交えながら、がんに関する研修を全社員に向けて行っており、「がんの一次検査」「医療機関でのがんドック(特別休暇付与)」「がん治療の通院・入院」の費用を全額会社で負担する制度を整備したほか、24時間いつでも医師や保健師等に相談できる窓口、がんと仕事の両立支援をサポートする窓口、セカンドオピニオンサービスなども提供することで、がん検診を受診しやすい環境を整備している点が評価されました。
- 厚生労働大臣表彰[最優秀賞]
(プレゼンター:厚生労働省 健康局 がん・疾病対策課 課長 中谷 祐貴子氏)
アフラック生命保険株式会社 常務執行役員 森本 晋介氏
受賞理由:
社員が「がんや病気にかかっても安心して自分らしく働ける」ために、アフラックの「がん・傷病 就労支援プログラム」を整備し、「相談」「両立」「予防」の3つの柱を掲げ、様々な取組みを行っています。主な取組みとして、「相談」では、2017年に立ち上げたがんを経験した社員によるコミュニティ(「All Ribbons」)のピアサポートにより、相談窓口の開設や体験談の公開、パネルディスカッションなどを社内で開催しています。
「両立」では、時間や場所の制約がない柔軟な働き方の制度の整備に加えて、職場環境づくりが重要と考え、部下を持つ全管理職にロールプレイング研修を実施しています。「予防」では、受診率100%を目指し、e-ラーニングでのがん検診の必要性の啓発、がん検診の費用や交通費の会社負担、業務時間扱い、徹底した受診勧奨などの取組みを行い、高いがん検診受診率を維持しています。こうした様々な取組みを行っている点が評価されました。
令和3年度 表彰企業 事例コメント
- がん対策推進パートナー賞[検診部門]
サントリーホールディングス株式会社 ピープル&カルチャー本部 部長 後藤 アキ子氏
弊社における、従業員・ご家族の健康増進支援についての取り組みについてご説明させていただきます。
全従業員が心身ともに健康でやる気に満ちて働いている状態を目指し、職場の環境整備やヘルスリテラシー教育を土台として、身体と心の健康づくりを推進しています。まずは一人ひとりが自分自身のからだに向き合い、状態を把握することが、病気の予防、早期発見・治療に重要ですが、その手段が定期的な健康診断です。
弊社では国が推奨する5つのがん検診に加え、前立腺がん検診を定期健診に組み込み受診を必須化しています。また検診の重要性啓発のため、2020年は全社員向けに講師による「働く世代のがん」セミナーを実施、21年はピンクリボン月間にあわせて女性がん対策の啓発動画を社内向けに配信しました。その他に、婦人科系の相談窓口の設置や、社内制度をまとめた就労支援ハンドブックのイントラ掲載等も行っています。これらの支援とともに、従業員が本当に必要とする支援は何かを今後も模索しながら、積極的にがん対策を推進していきたいと思います。
- がん対策推進パートナー賞[治療と仕事の両立部門]
日本電気株式会社 健康管理センター マネージャー 山角 真二氏
弊社では2019年に「NECグループ健康宣言」を掲げ、全社的に健康を推進するという体制を取りました。また、2018年には主治医の判断、及び本人の就業継続希望を尊重し、治療と仕事の両立のためのガイドラインを作成・公開しました。両立支援のフローとして①上司と支援プログラム利用可否の相談②利用可の場合主治医に意見書作成を依頼③意見書返却④産業医・人事担当と面談日程調整⑤両立プラン決定 このプランに沿って就業しフォローアップのための面談を準備し、面談にてプランの見直しを図りこれを繰り返し行っていきます。
また、休暇制度として、年次有給休暇とは別に取得できるファミリーフレンドリー休暇や、勤務の場合は在宅勤務やスーパーフレックスなど、その他産業医との健康相談可能な制度を設けています。
NECとしてこれからも治療と仕事の両立支援を行っていきます。
- がん対策推進パートナー賞[情報提供部門]
ブラザー工業株式会社 人事部安全防災グループ健康管理センター 統括産業医 上原 正道氏
2020年にwebアプリを導入し、一貫性のある活動にしたい、楽しく学んでほしいと考えて、がん予防スタンプラリーを開催しました。教育資料をイントラに掲載し、QRコードを読み取ることでスタンプが貯まる仕組みになっています。また希望する部門に対して健康管理センターの保健師による健康教室や、労働組合・健保組合と一緒に専門医によるがんのコラボセミナーを実施しました。また、広報部門と一緒に実際にがんを経験した従業員によるオンラインサバイバートークなども行いました。そのほかにも様々工夫しながら情報発信を行い、従来よりも多くの従業員が参加してくれました。今回頂いた賞を励みに今後の活動において参加者を増やしていきたいと思います。
- がん対策推進パートナー賞[中小企業部門]
日本ナレッジスペース株式会社 経営企画課 責任者 桒原 健一氏
弊社では「働く人の健康は、まさに経営によって創造される未来である」を理念と掲げ、全社員の健康増進の取り組みを積極的に実施しています。会社としては健康経営優良法人の認定を受け、代表取締役自ら健康経営エキスパートアドバイザーの資格を取得し、健康への取り組みを率先垂範しています。特にがん対策については、定期健康診断の100%受診はもちろん、全社員を対象に年1回の任意でがんのリスク評価を行います。もしリスクが高いと評価された場合は、全国の医療機関で「がんドック」を受診できるサービスを取り入れ、受診日は、特別休暇を付与し受診しやすい業務体系へ、加えて、入院治療が必要となった場合は、その入院費用まで補助出来る制度を整備しています。根本的に健康を維持し「がん」に罹患しづらい体づくりを目指し、日々の食生活改善が必須と考え、食事セミナーを開催しました。さらに遺伝子検査の結果に基づき最適とされたサプリメントを毎月社員にプレゼントする企画も実施しました。今後も、社員の健康増進の取り組みを進めて参ります。
- 厚生労働大臣表彰[最優秀賞]
アフラック生命保険株式会社 常務執行役員 森本 晋介氏
当社は、「がんに苦しむ人々を経済的苦難から救いたい」という創業の想いがあり、がん保険からスタートした会社です。「お客様第一」のコアバリューを掲げて、がんで苦しむお客様に寄り添っていくために、社員も大切にする取組みを積み重ねてきました。2018年に整備した「がん・傷病 就労支援プログラム」では、「がんや病気にかかっても安心して自分らしく働ける」を支援すべく、「相談」「両立」「予防」の3つの柱を掲げ、様々な取組みを行ってきました。
「相談」では、2017年に、がんを経験した社員コミュニティ「All Ribbons」を立ち上げました。がんに罹患した社員の「自分の経験を役立てたい」という声から生まれたもので、“ピアサポート”として、パネルディスカッションや、対話型イベント、そして社員の相談窓口、体験談の社内公開などの活動を行っています。
「両立」では、治療と仕事を両立するために、時間や場所の制約をなくす制度(フレックスタイム制度、サテライトオフィス、在宅勤務など)を整備しました。制度が実際に活用されるためには、周囲の社員も含めた職場の環境づくりが重要です。そこで、両立しやすい環境づくりのためには、まず現場で本人とかかわる上司への啓発・情報提供が大切と考え、すべてのライン管理職にロールプレイング研修を実施しています。また、全社員には、「がん・傷病 就労支援ハンドブック」を公開しています。こうした取組みは、がんに罹患した社員だけでなく、それ以外の社員の安心感・エンゲージメントにもつながっています。
「予防」では、がん検診の受診率100%を目指した取組みを行っています。もしがんの早期発見・早期治療ができれば、身体への負担も少なく、復職しやすくなることもあります。
だからこそがん検診が重要であることを、毎年社員にeラーニングで啓発しています。さらに、検診受診を勤務扱いとすることや、交通費や検診費用の会社負担、個別受診勧奨を丁寧に行うことなどにより、高いがん検診受診率を継続しています。
当社では、がん患者が主体的に自分らしい人生を生きることができるよう、社会全体で支え合うこと(がん患者本位のエンゲージメント)が重要と考えています。当社だけではできることが限られますが、安心して納得した治療を受けられる、安心して暮らしていける人生を歩んでいくことができる社会にしていくために、病院やさまざまな企業・団体などとも連携しながら大きな活動に広げ、企業としてできることにベストを尽くしていきたいと思います。
講演1 「我が国におけるがん対策について」
厚生労働省 健康局 がん・疾病対策課 課長 中谷 祐貴子氏
かつて、死亡原因としては感染症が多かったが、その後、脳卒中など生活習慣病が増えて、現在ではがんが最も多く、3人に1人ががんで亡くなるといわれています。がん対策の歩みとしては、平成18年6月にがん対策基本法が議員立法により成立したことからスピードが加速してきました。国のがん対策推進基本計画を元に都道府県などが対策を進めていくフレームワークができた事が非常に大きく、法律の中には国民の努力義務として認識していくという事も記載されています。
検診については、対策型検診(集団で行う事で死亡率を下げる効果があり、公的資金で受診できる)と任意型検診(個人の死亡リスクを下げるもので、対策型で認められるまでは自己負担で対応する)の2種類があります。がん検診の受診率は50%を目標に掲げ、年々上がっていますが、まだ目標値に到達していない項目も多いため、地道な取り組みが重要だと思います。また、国際比較をすると日本は低い水準となっており、がん検診未受診の理由としては「受ける時間がない」「費用負担があり経済的に負担がかかる」などが挙げられています。
新型コロナウイルスのがん検診への影響ですが、2020年4月(緊急事態宣言期間中)は、2019年の同時期に比べ受診率が大きく減少しています。
緊急事態宣言が解除された後、受診者は増えましたが、年間の通算では減っていました。この新型コロナウイルスの流行下において普及啓発に力を入れており、検診の受診は自身の健康を守るためで、医療機関の受診も同じで不要不急の外出には当たらないので、緊急事態宣言が出ていても検診は受けましょうという啓発をするため、動画を作成しましたのでぜひご覧ください。
職域におけるがん検診に関するマニュアルを策定し、保険者によるデータヘルス等の実施の際の参考として保険制度も活用しながら職域のがん対策が進められないかという事を考えています。長く対策を進めてきましたが、職域におけるがん検診に関するマニュアルは、第3期で初めて有識者などの意見を参考に作成しました。最後に、就労支援についてですが、がんに罹患している3人に1人は20~60代の就労世代です。早期で検診を受診すると仕事をしている若い世代にがんが多く発見されるため、仕事との両立について対策を進めていかなければなりません。また、定年も伸びてきているため、ヘルスアップが進むとより重要な課題になると考えています。働き続けられるために、フレックスを導入したり在宅勤務を取り入れるなどの多くの意見が寄せられました。また、両立支援にはがんに罹患された方の就労環境を整えるべく、主治医や会社と連携したコーディネーターなどのキーパーソンを配置することも大切で、さらに診療報酬も2022年4月に改訂され、がんのほか心疾患や糖尿病などにも適用されるようになりました。
講演2 「700社アンケートで明らかになった、受診率に効く12の取り組み」
株式会社キャンサースキャン 代表取締役社長 福吉 潤氏
- 調査概要:パートナー企業・団体(健保組合を含む) を対象にアンケートを実施
- 調査目的:がん検診受診を向上させるための取り組みについて、会社にて費用負担すること、申込方法を簡素化させる、受診勧奨を徹底するなどの36個の取り組みをピックアップしました。
その中で受診率に効果のある取り組みは何か、相関が高いものが何かを解析してみました。
アンケートの結果から分かってきたことは、受診率を把握していない・しない方針の企業も多かったのですが、把握している企業のみを参照すると、肺がん検診は80%を超える高い受診率、一方、乳がん57%・子宮頸がん46%とこちらは低い数字となっていて、特に子宮頸がん検診の受診率が低いことがわかりました。企業・団体におけるほぼすべての女性従業員にとって関係のあるがん検診と考えると、子宮頸がん検診の受診を向上させることが重要であると思います。
企業規模別でがん検診受診率を見ていくと、胃がん・乳がん・子宮頸がん検診は、中小企業の受診率の方が高い傾向にあることがわかりました。しかし、注視すべき点として受診率を把握できているかという別の質問をしたところ、大企業の方が受診状況を把握しているということがわかりました。把握する仕組みを持っていると回答したのは大企業が多く、中小企業では少ない。一方で受診率は大企業が低く、中小企業が高い結果となりました。つまり、把握する仕組みを持っているという数少ない中小企業の受診率は高く、非常にやる気のある企業と理解します。全体を通してみて、受診状況を把握する仕組みを整えてまでやろうと思っている企業が取り組みを実施していたことがわかりました。がん検診受診を把握しないという方針の企業・団体もあると思いますが、把握をして受診していない人には受診勧奨をしていくことが対策の一丁目一番地だと思います。
注目した36個の取り組みを、企業規模別に状況を見ていったところ、大企業になればなるほど取り組んでいる傾向が見えました。例えば、Q1がん検診費用負担しているという大企業は90%近くあり、中小企業にでは50%にとどまっている状況を見ると、費用負担は予算がかかるため限られた資源・資産の中でできることが限られるという状況なのかと推察されます。
取り組み状況と受診率の相関をさぐるため、企業群を3つのクラスタに分類して見ていきました。
- クラスタ1:取り組みを積極的に実施している企業群:241社
- クラスタ2:取り組みをある程度実施している企業群:32社
- クラスタ3:取り組みを積極的に実施していない企業群:136社
群ごとの比較をしてみたところ、ある程度実施していると回答したクラスタ2は、ほとんど実施していないと回答したクラスタ3との受診率に大きな差が見られたが、積極的に実施していると回答したクラスタ1とは同程度の受診率であったことがわかった。このことから、クラスタ3の企業はいきなりクラスタ1を目指すのではなく、まずはクラスタ2を目指すべきではないかと考察しました。
さらに、クラスタ2企業群の取り組みを検診体制、結果把握、受診勧奨啓発の分類分けを行い、「受診率に影響を与える12の取り組み」として整理をしました。中でも最も影響が大きいのは「受診対象者には文書・メール・口頭などで受診を促すお知らせをしている」ということでした。また、そのためにも2つ目の検診の受診状況を把握があり、結果的に受診勧奨をすることにもつながるとデータ上でも見えてきました。また、3つ目は精密検査の受診状況を把握し、精密検査の受診勧奨をするということでした。
当初の仮説では「費用負担をしていること」が最も受診率向上に影響が大きいと考えていましたが、費用負担以外にも、受診率に効く有効な取り組みあるということをご認識頂き、出来ることから取り組んで頂きたいと思います。しかし、12の取り組みそのものが受診率向上につながるのか、取り組みを取り入れていくプロセスの中で起きる議論によって社内の機運が高まり受診率を上げているのかはまだ、不明です。例えば、管理職から従業員へ受診勧奨する取り組みを行っている企業は受診率が高かったが、管理職が受診勧奨する役割を負うことを決めるのであれば現場レベルではなく、経営も巻き込んだ経営会議での議論があるのではないかと思います。すると管理職が受診勧奨することも大事であると同時に、管理職が受診勧奨するように義務付けようという議論が社内経営層で起きるということが社内でのがん検診・がん対策の位置づけを向上させるのではないかと考えます。
講演3 進化する企業アクションとコロナで減る“がん患者”
東京大学大学院医学系研究科 総合放射線腫瘍学講座 特任教授
がん対策推進企業アクション アドバイザリーボード議長 中川 恵一先生
現在、コロナでがん患者が減っていることはご承知でしょうか?データによりますが5~10%程度まで減っています。国立がん研究センターの研究では、15年~20年以降はがん患者が増えると言われています。コロナによってがん検診受診率が減っており、体内でがんが成長している方であっても検査をしていないため、見かけ上はがん患者が減っているのが現状です。
日本人の男性が3人に2人、女性が2人に1人が何らかのがんに罹患するというデータがあります。職場では、会社員の約半分、病死に限って言えば、在職中の約9割の人はがんが原因で亡くなっているというデータもあります。しかし、国で見ると日本のがん対策は進んできているものの、人口10万人当たりのがん死亡率はアメリカの1.9倍です。今、日本はがんの欧米化が進んでいてもともと日本のがん罹患は胃がんが多い傾向でしたが、肥満や生活習慣病が原因で大腸がん罹患がトップとなっています。また、大腸がんによる年間死亡率もアメリカより多いのが現状です。それはがん検診受診率の低さが原因の一つとされています。
がんは簡単に言うと「細胞の老化」です。しかし、免疫細胞とがん細胞の組織が近ければ見逃してしまう可能性があり、それは致し方が無いことです。遺伝子の老化と免疫力の老化によって見過ごされたがん細胞は、1つから2つ、2つから4つへ分裂していき、20年かけて診断可能な1センチとなり、1センチから2センチのがんが見つけられる早期がんとなります。そのため2年に1回、あるいは1年に1回がん検診に行く必要があるのです。
日本人ががんに持っているイメージですが、「痛い病気、苦しい病気」という事がぬぐえていないと思います。これは亡くなる数か月以内に思う事で、私が罹患した膀胱がんも全く症状はありませんでした。体調がよくても検診は必要で、この「早期がん」を早く見つけるために今後更なる啓発活動が必要となり、日本は平均寿命が延びてきていることから、がんに罹患するあるいは亡くなる方が増えているのは当然です。
がんは老化が原因でもありますが、女性は老化以外の要素もあります。また50歳前半までは女性の方ががんに罹患する方が多いです。その理由としては、子宮頸がんのピークは30代、乳がんの1つのピークは40代後半であるからです。例えば、定年が55歳で女性はすべて家庭にいるとした場合、会社にはがん患者はほとんどいないことになります。女性が社会進出し、定年が伸びたことにより、職域におけるがん患者が増えてきました。さらに定年が伸びると65歳までに15%、75歳までだと男性では3人に1人、女性では4人に1人となっていきます。60代の過半数が70歳まで働くとなると働く世代にがん患者が増えます。私はそれを「がん社会」と名付けております。国としても職域でのがん対策を熱心に取り組んでいます。
【企業アクションの歩み】
その最たるものが「がん対策推進企業アクション」で、13年目と長きにわたる事業が示すように国も非常に重視しているように思います。
職域がん対策の基本3か条として
- ①がんについて会社全体で学び、正しく知る
- ②早期発見のため、がん検診の受診率をあげる
- ③がんになっても働き続けられる環境を作る
企業アクションは啓発ツールとして初年度から「がん検診のススメ」(小冊子)を作成しており、現在の第4版まで累計約488万部発行されています。
2021年度のパートナーアンケートにおいてはアクティブな企業からは約4割の回答を得ることができました。結果から、2020年度と比べて肺がん以外の受診率は低くなっていました。これは新型コロナウイルスも原因と考えられます。
「企業コンソーシアム」の活動は「自社と他社の従業員をがんから守るために」を理念として
- ・企業目線のがん対策をともに考え、具体的なアクションとして実現
- ・「コンソ40」が牽引し、課題解決につなげる
- ・自発的・持続的な企業のがん対策として、社会に広がる活動を目指す
また、パートナーアンケートにおいて「コンソ40」の受診率を見ていくと他パートナーより5がん(胃がん・肺がん・大腸がん・乳がん・子宮頸がん)すべての受診率が高いことがわかりました。ぜひコンソ40企業が他パートナーの受診率を上げるようにアドバイスしてほしいと思います。詳細に見ていくと、受診勧奨や受診率の結果把握、被扶養者への受診勧奨においてもコンソ40が高い比率であることがわかりました。
中小企業のがん対策について
- ・チラシの作成や中小企業に特化したセミナーを開催
- ・商工会議所とも連携し「商工会議所ニュース」に寄稿
- ・大同生命保険株式会社と共同調査を行い中小企業の実態を把握した
→国民生活基礎調査(2019年)と大同生命サーベイ(2021年) はほぼ同率であった
コロナとがんについて
新型コロナウイルスによる死亡率は2022年2月28日時点で1日30人、がんで亡くなる数は1040人となり、さらにコロナウイルスによる死亡年齢の平均は82.2歳(東京都)ですが、がんは男性60~74歳、女性は35~74歳までが4割を超えていることがわかっています。冒頭で述べたようにコロナ禍においてがん検診の受診率は減っており、乳がんと子宮頸がんにおいて、2030年までに「過剰死亡」が1万人とアメリカの論文で発表されています。
今後も、皆さんのお力を借りながらがん対策を啓発していければと思います。