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2022/01/25 WEB配信

令和3年度 第2回
企業コンソーシアム研修会
を開催

今回は新型コロナウイルス感染拡大予防のためウェビナー配信形式で開催しました。
参加者はパートナー企業や一般参加を含めて136名となりました。

<特別基調講演>
会社で取り組むべきがん対策(人事労務・産業保健担当者向け)
東海大学医学部基盤診療学系衛生学公衆衛生学 立道 昌幸先生

▲立道 昌幸先生 説明スライド
▲立道 昌幸先生 説明スライド

がん対策を論じる前に、新型コロナウイルスによるパンデミックが始まる2020年以前の事業主が社員に対して行わなければならない健康管理の課題を整理しておきたいと思います。

2015年以降の労働安全衛生法に関連する法律の改正を振り返ってみますと、2015年にストレスチェック制度が導入され、メンタルヘルス対策の集大成が図られ、2016年には仕事と治療の両立支援のガイドラインが出され、「両立支援」という言葉が広がっていきました。2018年には、過労自殺事件をきっかけとして、働き方改革法が制定されました。2019年には以前はVDTと呼ばれていた情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドラインが17年ぶりに改訂されたこと、そしてこの年は、職域でのがん対策として重要な「職域でのがん検診マニュアル」が出されました。

<産業医の役割の強化と心身に関する健康情報取り扱いの適正化>
2018年の働き方改革法は非常に重要な法改正であり、長時間労働者に対する面接指導と健康管理の重要性が位置づけられ、産業医は、会社と労働者から中立性、独立性をもって、健康障害の危険を予見したのであれば、事業主にすすんで意見を述べ、時には勧告等、強い手段を用いるなど健康障害を回避すべき重大な責務を持つということ。そのような重要な行為に際して、産業医は医学的知識・能力の維持向上に努めなければならないということが法律上明記されました。本改正法では、労働者の心身の情報の取り扱いが重要な位置づけになったため、誰がどこまでの情報を取り扱ってよいかを定める健康情報の適切な取り扱い規定策定の義務化が新たに104条として追記されました。

<両立支援を進めるためにも心身の健康情報の適正な取り扱いが重要>
社内での心身の健康情報管理については、両立支援を進める上でも最も重要なステップとなります。なぜなら両立支援は、ご本人からの申告が必須であるため、がんに罹患した事を会社に報告する事で、降格など不当な扱いや、解雇につながるのではないかという不安を持つからです。情報管理の仕組み作りについては、2019年に手引きという形で一般公開されていますので是非参考にしてご検討ください。

<手引きを見ながら、事業所の事情に即した規定を作成する>
職場での健康情報の管理はとても重要で、本日のメインテーマであるがん検診の精密検査の推奨(精査勧奨)につながります。職場での心身の健康情報情報は大きく3つに分類され、1)法令で定められ事業主が直接扱う必要がある情報、例えば、産業医からの意見書等が該当します。2)法令で定められているが、事業主や人事権者が直接扱うべきではない情報。例えば、法定健診項目の検査データなどは、医療職か、医療職がいない場合は衛生管理者に限定する必要があります。3)主に法定外項目が該当します。この収集には本人の同意が必須となり、がん検診の結果が主な例となります。いずれにしても、健康情報を扱う場合は、医療職の有無などで事業所毎で多彩でありますので、事業所の実情に合うように誰がどの範囲までの情報を取り扱うのかを事前に労使で規定して、規約として作成しておく必要があります。

<職域でのがん罹患の実態把握が重要>
現在は年間100万人近い方ががんに罹患しており、その3分の1が労働年齢層にあたります。また、統計上は、65歳までには15%の方が何らかのがんにかかるということになります。15%という数値は糖尿病の有病率と変わらないインパクトを持ちます。特に職域では、女性のがん、子宮頸がんや乳がんが増えています。職域でのがん対策は、労働安全衛生法のどこに記されているかというと、69条に「事業主は労働者の健康の保持増進を図るため必要な措置を継続的かつ計画的に講ずるよう努めなければならない」と規定されています。産業医の職務においては、労働安全衛生規則に「健康管理や労働者の健康保持増進に対する措置」として規定されております。これまで、がんは私傷病で事業責任ではないと言われてきましたが、既知の発がん物質を取り扱わない業務でも、例えば、交代制勤務のようにがんのリスクを上げるかどうかはまだ未知の部分が多いことから、自分の会社では特定のがんが増えていないかどうか?常に、情報収集(これをサーベイランスと言います)をして頂きたいと思います。

<職域でのがん対策の進め方>
具体的ながん対策に関しては、がん対策基本計画の中に記載されています。まずがんとはどのような病気かを正しく知って頂くこと、すなわちがん教育が重要です。罹らないように予防すること(一次予防)、罹っても早期発見・早期治療(二次予防)ができれば、2~3日の入院で1週間後には会社に復帰できるという事も可能になってきており、体に優しい治療法が非常に進んでいます。そしてもしがんに罹っても「両立支援」という枠組みで治療しながら仕事をする(三次次予防)の仕組みが整いつつあります。

<がん検診には利益と不利益があるので職域でのがん検診マニュアルを参考に企画>
がん検診には様々な問題があります。健康診断の血圧や体重などは毎日図っても問題はなく健康な生活習慣に導くものです。一方で、検診は症状がない健康な人に対して病気を見つける事なので、偽陽性の問題や、見つける必要のないがんを見つける(過剰診断)リスクがあり、また、がんは体から組織を取り病理で診断しますので、体への負担や影響など得られる利益より不利益の方が大きくなるという場合もあるのです。そのためがん検診は、検査を受ければ受けるほど良いとは必ずしも言えず、常に利益・不利益のバランスから検査項目や実施する年代が決まります。そのためには、しっかりとした科学的根拠に基づき実施する必要があることから、それをまとめた「職域におけるがん検診に関するマニュアル」を参考にして頂き、がん検診を企画頂きたいと思います。

<がん検診は福利厚生で実施するものではない>
がん検診は、これまで福利厚生の一環として実施されてきましたが、そのためがん検診の実施後のフォローはほとんどされてきておりません。実は職域でがん検診を受け、精密検査が必要な場合でも企業により大きな差があり平均すると50%程度しか精密検査を受診していないという事もわかってきています。事業所で精査勧奨をする仕組みを、会社で、あるいは、検診機関や健保組合と協力しながら作って頂きたいと思います。なにしろやりっぱなしの検診ほど無駄なものはありません。

<がん検診は実施すること以上に精査までフォローすることが大切>
精査勧奨を実施するには検診機関に委託することが現実的です。検診は、検査項目が多い方が良いと錯覚されるかもしれません。検査はピンポイントで精度の高いことをすべきです。従って、検診委託する場合は、検査項目の数ではなく、結果説明・精査勧奨・がん特定までのフォローアップに力を入れている施設を選択することが必要です。結果的に、その分、費用が高くなるかも知れませんが、委託側がそのような意向を示せば、受託側(検診機関)の意識も変わっていきますので、是非ともお願いしたい点です。つまりがん検診の本質を理解して、委託先を決めて頂くことが大切です。

<好事例発表>
「がん検診受診後の精密検査受診勧奨」
野村證券株式会社 人事戦略部 水野 晶子氏

水野 晶子氏 説明スライド
▲水野 晶子氏 説明スライド

野村證券は、本社の他に国内に約120店舗を展開しており、社員数は約1万4000人強、男女比はほぼ半々という構成になっています。
野村グループの企業理念では、社会的使命として、「真に豊かな社会の創造に貢献する」ことを挙げており、この企業理念と照らし合わせてみても、健康経営を推進することは非常に重要な取り組みであると考えています。健康経営において、当社で働くすべての人が、肉体的にも精神的にも社会的にも満たされた状態、Well-beingになることを目指しています。
具体的な施策の1つとして喫煙対策についてご紹介すると、当社では若手を中心に全国平均と比べて喫煙率が高いという課題がありました。そこで昨年の10月より就業時間内の全面禁煙を導入しました。まだ開始してから期間は短いですが、オンラインの禁煙プログラムに参加する社員が急増しております。
がん対策に関しては、「早期発見」、「早期治療」、「治療と仕事の両立」、「リテラシーの向上」という4つのポイントに重点を置いて取り組んでいます。
1点目の早期発見につきましては、当社では以前より30歳以上は婦人科健診を含め、本人負担無しで人間ドックを受けることができておりましたが、2020年度からは、20代の社員も子宮頸がん検診を受けられるようにいたしました。5,000円相当の子宮頸がん検診を自己負担なしで受けられるということや、30歳以上の社員の8割以上が受診しているという、ナッジを使った啓発を行うことで、多くの人に受診してもらうよう努めています。
2点目の早期治療については、万が一何かしらの病気が見つかった場合、とにかく早く治療に繋げることが重要です。このため会社と健保組合では、健康診断・人間ドックで二次検査が必要となった社員に対して、健康経営プラットフォーム「WellGo」を用いて受診勧奨を行っています。また、健保組合が提供しているサービスで、セカンドオピニオンや専門医の紹介などが受けられるサービスもあります。
3点目の治療と仕事の両立に関しては、最近は通院しながら治療するケースが増えてきましたので、働きながら治療を受けられる体制作りにも力を入れています。時間単位の有給休暇の導入や、当社オリジナルの両立支援ガイドブックの作成もしています。こちらは本人用・上司用があり、本人用では働きながら治療を続ける場合の注意点や、休むことになった場合の手続き、休暇の過ごし方、復職してからなど具体的に書かれています。上司用では、部下から相談を受けたときの対応方法や、復職後の注意点などについて説明しています。

また、風土づくりという観点で、治療と仕事の両立をしている社員の体験談をイントラサイトに掲載しております。
最後のリテラシー向上については、がんをテーマにイベントを開催したり、社員や健保加入者向けにがんの動画を配信するなどして職場風土の醸成へと繋げたいと考えています。
がん検診受診後の精密検査受診勧奨に関しては、以前から定期健康診断は事後措置として産業医が受診勧奨等をしていましたが、がん検診については法定外となるため、精密検査の受診が本人任せになっていることを健保組合とともに課題として認識していました。そこで、2019年度より健保組合が5つのがん検診において、精密検査が必要とされた社員に対する受診勧奨を開始しました。要精密検査と判定された場合、二次検査休暇を活用するなどした早急な精密検査の受診と「WellGo」からの受診状況報告をすることで、「受けっぱなしではないがん検診」にしたいと考えています。2020年度の精密検査受診率は、初年度の2019年度と比較して5つのがんすべてで向上しています。

最後にまとめとして、そもそも健診の受診勧奨などは会社で行っておりますが、がん検診の精密検査の受診勧奨となると会社から直接アプローチをするのが難しい部分もありますので、周知や各種制度の策定、両立支援など環境整備を会社がしっかりと行った上で、機微情報となる精密検査の受診勧奨やがん検診の精度管理などは、健保組合に実施してもらうという方法をとっています。会社と健保組合が双方の不足点を補い、得意分野を各々推進することで、絵に描いた餅とならないがん対策ができるのではないかと考えております。

質疑応答

質問A
野村證券様の精密検査受診状況(2020年)として子宮頸がん90.2%、乳がん87.1%、肺がん86.7%などかなり高い数字となっていることに驚いているのですが、この素晴らしい受診率はどのように達成されたのでしょうか?

水野氏
30歳以上の社員はがん検診を含む人間ドックを定期健康診断の代替としているため、社員は毎年人間ドックを受けることが習慣化しております。結果的にがん検診の受診率も国の数値と比較しても高めになっていると考えております。

質問B
就業時間内禁煙にすることにした時の反発や反対意見はありましたか?それをどのように納得理解していただき、実行できたのでしょうか。

水野氏
社員の約8割が非喫煙者のためか大きな反応はありませんでしたが、社内での喫煙対策に対するリテラシー向上のため、衛生委員会にて討議をしたり動画を作成するなどしてさらなる啓発に努めています。

<好事例発表>
「職場の健康診断とがん検診を同時に行う職場作りについて」
医療法人社団 俊秀会 エヌ・ケイ・クリニック 梁川 晋治氏

梁川 晋治氏 説明スライド
▲梁川 晋治氏 説明スライド

団体の活動としては、巡回健康診断、施設ドック健康診断を中心に、各種がん検診、産業医活動、保健指導などを行い、生活習慣病の改善やがんの早期発見に努め、健康作りのサポートを行っています。
がん検診を提供する企業の取り組みとして、職場の健康診断とがん検診を同時に行う環境作りについて、職域健診とがん検診の同時受診をおすすめしています。さらに平日のがん検診受診が難しい方には、日曜日検診を実施しています。
職員がん検診の取り組みに関しては、① 社内講習会の開催、社外講習会の参加による正しい検診知識の共有と受診意識の向上を目指しています。② 経営人と組織部署内での協力、受診環境の整備により、検診を受診しやすい環境を提供します。③ 保健指導と医療面談の実施、検診受診の啓発を行うことにより、健診後のフォローと未受診者への再勧奨並びに受診機会を増やすことに努めています。
社内講習会では、検診のエビデンス、発見率、費用などを社内の専門医師と職員が検討し発表します。社外で行われる講習会にも積極的に参加しています。経営組織から提供する受診環境の工夫としては、当法人理事長の直轄プロジェクトとして、がん検診推進事業部を設立しました。この事業部は健康指導部と連携し、職員と家族にがん検診を推進します。検診は希望する職員家族も受診が可能で、項目内容と自己負担金については、職員の意向に配慮して決めます。がん検診は、健診と同時に就業時間内に行います。女性職員については、体調に合わせて別日にがん検診を受診することもできます。検診後のフォローでは、精密検査受診勧奨や専門医との面談を行います。書面での結果説明だけではなく臨床画像を用いて説明を行います。
令和2年と3年度の受診率の比較では、大腸がんを除いて令和3年度の方が高く、胃がん、肺がん検診は100%、乳がん、子宮頸がん検診は85%です。対象者は男性30人、女性63人です。がん検診自己負担金は、無料で行っていた項目が職員の話し合いにより今年度から一部が有料になりました。
今後の課題は、受診率と結果の把握と考えます。この資料を作成するにあたり個別に聞き取り調査を行ったところ、すべての職員が5つのがん検診を受診しているとの返答があり、検診受診時期から大きく外れて地域のがん検診や別の医療機関で受けている職員がいました。この場合は結果の把握は社内でできず、本当に受診しているか、受診率に含めて良いのか判断がつきません。将来的に個人の受診結果は個人で管理をするようになると思いますが、会社としてどこまで把握していいのかが難しい判断になります。また、職員家族の検診を受けやすくしたが、希望に沿った検診を行えたか、医療機関に勤務する家族として無理に受診することはなかったのか、などについては次年度にアンケートを実施する予定です。

質疑応答

質問A
よくコロナ禍に健診の受診率が下がると聞きますが、特にワクチン接種時期にも健診実施率を上げるために、どんな工夫をされましたか?

梁川氏
健診を提供する企業としては、多くの方に健診、検診を提供できるように実施時間を延ばしました。受入れ時間を延長したり日曜日健診、検診を新たに開始しました。
職員の健診、検診については、受診期間を1ヶ月に延し、それでも受けられない方については、更に延長しました。

質問B
弊社では未受診者へのメール周知、予約可能日の案内を行っておりますが、なかなか受診率が上がらないです。検診未受診者のフォローで具体的にどのようなことをされてますでしょうか?

梁川氏
受診機会を増やすために特に女性職員の健診・検診について、体調により個別の検査を別日でも行えるように調整をし、マンモグラフィ、子宮頸がん、大腸がん検診、尿検査などについては上長の判断で、就業時間内で再受診を行っています。これにより、女性職員の受診率は上がりました。最初に未受診者を減らす環境作りを行い、次に具体的な再勧奨としては、検診を受けないことの不利益について説明を行っています。何らかの理由でどうしても受診しようとしない方については、職場の検診以外で受診できることを案内しています。但し、結果の把握はできなくなります。

<総括>
第一生命保険株式会社  生涯設計教育部 次⾧  真鍋 徹氏

▲真鍋 徹氏 説明スライド
▲真鍋 徹氏 説明スライド

コンソーシアムの理念は自社と他社の従業員をがんから守るために企業同士が知恵を出しあったりする場面を設ける目的で活動しています。
2022年4月以降の活動案として、年2回の研修会実施(検討中)を考えております。内容としては医師等講師による「企業のがん対策」をテーマとした講演の実施、コンソーシアム参加企業による「取組み好事例」の発表、業種・規模別ディスカッション等による情報共有となります。参加企業数増大により効果向上に向けた取組みを実施してノウハウを蓄積して情報発信による社会への貢献をしていくこと、持続的ネットワークを作っていこうという目的で活動を続けています。

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