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2021/10/15

令和3年度メディアセミナー開催

マスコミ関係者を招いた普及啓発を目的とした説明会を開催。本推進事業の取り組みやがんについての有益な情報等を提供し、マスコミ関係者への啓発活動を行いました。

【メディアセミナーの開催】
2021年10月15日 令和3年度メディアセミナーを開催

令和3年度メディアセミナー (主催:がん対策推進企業アクション)が、10月15日(金)に東京・ワイム貸会議室神田において、新型コロナウイルス感染拡大予防対策をとり開催されました。
セミナーでは、がん対策推進企業アクション事務局長の山田浩章より本セミナーの趣旨説明のあと、東京大学大学院医学系研究科 特任教授の中川恵一氏から「職域がん対策の在り方~コロナで増大するがんリスク、健康経営・がん対策の企業事例~」、株式会社古川の山田智明氏から「中小企業におけるがん対策先進事例」、ドイツ銀行の中野知彦氏から「グローバル企業が持つがん対策の視点」、株式会社プロセシングの横垣祐仁氏から「がん検診・定期健診におけるDX事例と職域のがん検診精度管理について」をテーマにした講演が行われました。

令和3年度メディアセミナーを開催

【本セミナー趣旨説明】
山田 浩章(がん対策推進企業アクション事務局長)

本事業は、企業などにおけるがん検診の受診率向上やがん患者・経験者の就労支援対策等の職域がん対策の推進を図り、もってがんによる死亡者の減少を図ることを目的としています。本セミナーの趣旨ですが、本事業の取り組みやがん及びがん検診の最新情報を周知し特にメディアの方々にご協力いただき、普及啓発をより推進する目的としています。

「職域がん対策の在り方~コロナで増大するがんリスク、健康経営・がん対策の企業事例~」
中川 恵一氏(東京大学大学院医学系研究科 特任教授)

東京大学 特任教授 中川 恵一氏

▲東京大学 特任教授 中川 恵一氏

日本は事実上世界で最もがんに罹患している国で、累積がん罹患リスクが2018年国立がん研究センターのデータによると、男性では65%、女性では50.2%となっています。ちなみに私も膀胱がん経験者ですが、37年間研究をしてきた私が「まさか。自分が」と思いました。
がんは全体を通すと男性の方が多い病気ですが、若いときは女性の方が多い。このことはもっと知られるべきです。社会の中でとりわけ定年が65歳といわれていますが、もし仮に男女が1:1の割合で働いていたとしたら、圧倒的に会社には女性のがん患者が多いことになります。今後、定年延長と女性の社会進出は、会社員のがんを増やすことになるわけです。
会社員ががんになるのは歴史的にも日本くらいで、私はこれを「がん社会」と名付けました。
がんは生活習慣を変えるだけでリスクが半分くらいになるし、早期で見つければ早期がんで9割は治るのでそのリテラシーの差が効いてきます。ヘルスリテラシーの低さが顕著に出てくるのががんの領域です。またこれも報道されていませんが、中学・高校の学習指導要領(保健体育)の中にがん教育が明記されていて、中学では今年の4月から全面実施で高校からは来年度実施予定です。予防や早期発見は中学、がん治療や緩和ケアは高校で学びます。
聞きたくもないような話をある程度強制力を持って聞いていただくというような、子供にとっての「学校」=大人にとっては「会社」となります。だから会社でがんの話をいかに伝えてもらうかということでセミナーを実施しています。今日主催をしているがん対策推進企業アクション、これは平成21年から13年目の事業となります。
今、推進パートナー数は約3500社、総従業員数は約790万人いるということをぜひ広めていただきたいです。企業アクションのミッションは①がん検診の受診を啓発する②がんについて、企業全体で正しく知る③罹患しても働き続けられる環境をつくる、の3つあります。②が一番の基礎で様々な取り組みをしており、「がん検診のススメ」は第4版をパートナー企業の従業員に人数に応じて無料配布しています。

コロナとがんについて

がんによる死亡が年間38万人ということは1日で1,040人の換算ですが、新型コロナウイルスによる死亡者は、10月14日は1日で33人でした。また直近1年間では平均1日あたり44人。がんとは桁が違います。リスクの大きさという点ではがんと比べものになりません。
コロナ禍のがん対策の3つの問題として①在宅勤務による生活習慣の悪化 ②がんの早期発見の遅れ ③がん治療への影響 が挙げられます。
去年の医療費は過去最大に減少しています。検診に行かなくなる、病院に行かなくなることで偶発的な早期がんの発見が減ってしまい、逆にステージ3以上の進行がん発見が6割以上増加となり、がん死亡数は増えることが予想されます。なお、放射線治療はコロナに強い治療と考えます。少ない治療回数で済み、入室から退室まで6分30秒で終了。実際の照射時間は2分もかかりません。

職域がんについて

今後の課題として、大同生命との共同調査データによると「自社ではがん検診をしていない」と答えた経営者は52%であり、中小零細企業ではそもそもがん対策があまり行われていないという実態がありました。大企業のがん検診に関して、従業員に対する精密検査の受診率は一般の住民検診よりもかなり低く、さらに配偶者に対するがん検診も不十分ということも大きな問題であります。職域のがん対策は非常に大変な時期を迎えています。ぜひみなさん記事にしていただきたいのです。

「中小企業におけるがん対策先進事例」
株式会社古川 山田 智明氏

株式会社古川 山田智明氏

▲株式会社古川 山田智明氏

弊社は1911年(明治44年)の創業、今年で110周年となります。従業員数はグループ含め90名ほど、神奈川県西部を中心に多岐にわたって事業を行っています。
さて、私たちががん検診について真剣に考えるようになったのは弊社が応援している湘南ベルマーレFCがきっかけです。がんサバイバーとして活躍されており、昨年12月に亡くなった久光重貴選手。彼のフットサルリボン(がんの啓蒙啓発活動と小児がん患者の支援)を通して、得たことは、健康や体調管理ができている人でもがんになるということです。私どもの会社は、「従業員ががんになってもおかしくない」と考えるようになり、社内でもがんについての取り組みをしなければという思いになりました。
3つのことを方針として対策をはじめました。①久光選手をなくした経験から、がん対策推進企業アクションへ参加する。②がん検診を会社負担で実施する。③配偶者も含めて会社負担で実施する。具体的には早期発見・早期治療のため、がん検診受診率100%を目標とし動き出しました。

がん検診にかかるのはわずか半日の時間です。もし仮に従業員にがんが進んでいる状態で見つかった場合、会社の損失は1ヶ月、1年、といった長期にわたり貴重な戦力を失うことになる可能性もあります。その代償は多くのお客様を失うことにもつながります。がん検診はリスク減少への投資だと考えています。

2014年の年末にはがん対策推進企業アクションに参画しました。翌年も講演会・勉強会を実施しました。2015年・2016年ともにがん検診・健康診断検診率が100%に近い数値となりました。小さい企業では経営と現場の距離も近く、意志も伝わります。全員で達成する喜び、それを健康と営業で従業員の共有・共感ができるのです。今後も会社としてフォローしたいと考えます。

「グローバル企業が持つがん対策の視点」
ドイツ銀行 中野 知彦氏

ドイツ銀行 中野知彦氏

▲ドイツ銀行 中野知彦氏

弊社は創立が1870年、ドイツのフランクフルトを拠点としています。
我々の取り組みに ㏈RIBBONsがあり、この夏に始まりました。きっかけは私が従業員の闘病体験について聞いたこと。小学生のお子さんがいるワーキングマザーとして、少なくとも病気や治療でつらかったということ以上に、この子をどうしようかというメンタルの方がつらかったようです。私が日本の代表のところに行き、従業員のサポートの体制をつくろうと持ち掛け、ぜひやろうということになり社内でのがん対策が始まりました。我々が目指すこととしては大きく2つ。まずは早期発見のためのがん検診の実施、もし仮に罹患したらメンタル面のサポートということです。

㏈RIBBONsを通して伝えたいメッセージは「がんになってもあなたの居場所であり続けますよ」ということです。
7月の末には㏈RIBBONsのスタッフイベントを行いました。がんサバイバーによるパネルディスカッションではがんと告知されたときの気持ちや治療にどう向き合ったのか、家族の問題(サポート面)、仕事との両立について話し合いました。私が心に残ったことは、「がん検診の大切さ」とがんに罹患された方からは「病人扱いしないで」というようなメッセージがあったことです。逆に参加者の方からは、どう接していいか分からないところがあったので非常に助かった、と言葉がありました。

自社の従業員サポート体制において今一番機能しているところは、健康管理のための健康診断や人間ドックです。最後にドイツにおけるがんの検診について。弊社のドイツ人に聞いてみたところ、がん検診についても公的保険で法定の最低限と決められている項目についての検診が提供されていて、民間保険で補完するという体制でした。

「がん検診・定期健診におけるDX事例と職域のがん検診精度管理について」
株式会社プロセシング 横垣 祐仁氏

株式会社プロセシング 横垣祐仁氏

▲株式会社プロセシング 横垣祐仁氏

初めにDX事例についてですが、今日はLINEを使った事例を紹介します。背景として検診の受診勧奨がどうしても電話やはがき(DM)といったアナログな手段で扱うことが多かったが、この10年でコミュニケーションの主流が大きく変わったことがあります。国内のSNS利用率について、データを見る限り他SNSに比べてLINEの利用率が最も高く、職域のターゲットでもある20代~60代となります。20~30代は若い世代なので90%以上が利用しています。一方で50代を見ても80%が利用、60代を見ても75%以上の利用率があります。検診受診率は当然、ある一定迄上がってしまうとなかなか飛躍的に伸ばすのは難しく、かつなかなか電話ではつながらないという事例もあり、LINEを導入しました。LINEで何ができるかですが、検診に関する問い合わせをチャット・オペレーターに接続したり、検診予約ができたりします。11月に稼働して11月末には8000人登録。これでもすでに成功事例といえます。

効果事例としては年賀状兼受診勧奨のようなものをLINEで送りました。未登録の方には従来通りハガキを送付しました。すると、その後の受診率がLINE35%に対し、ハガキ送付の場合6%とおよそ7倍の差が出ました。もともとLINEに登録する方はリテラシーが高いということもあるかもしれませんが、これだけ差が出るなら頑張ってLINE登録してもらいましょうというような励みにもなったと聞いています。自治体の事例として浜松市では子宮頸がんの検診にLINEを利用しています。子宮頸がんにした理由として、自治体のがん検診で20~30代の検診=子宮頸がん検診の実施率が低いということが根本にあり、このようなツールを導入したいということで活用いただいています。

続いて職域の精密検査受診率の管理について、A健保さんでも被扶養者の精密検査受診率を見てみると国保の半分以下となっています。私の考える課題・原因は、職域のがん検診ではこれまでは自治体のような精密検査受診率の管理が求められていませんでした。そもそもがん検診の結果を集めなければいけないのです。
精密検査の受診勧奨をしたいので結果をくださいとなると、その結果を受け取るのに別費用が掛かってきます。精密検査の対象者を把握していないのです。富士通さんでも750の検診機関を利用しているためバラバラのフォーマットで来て整理するのが大変ということです。これまで精検受診の確認を行ってこなかったため、ツール・環境がありません。全部の健保さんで世の中のすべてを把握するとなると標準的な仕組みの提供が必要になります。このような課題は、健保組合や検診機関だけでは根本解決は難しく、現場の課題をまえたマニュアルやツールの整備が求められています。今後も職域のがん検診普及及び品質の向上に寄与したいと考えています。

まとめ

中小企業のがん対策、外資系企業での取り組み、LINEを使った勧奨あるいは精密検査の受診勧奨をどうするかを話していただき非常に印象的でした。

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