トップ>>活動・イベント情報>>令和3年度女性メディア向けセミナー開催報告

2021/09/07

令和3年度 女性メディア向けセミナーを開催しました

令和3年度女性メディア向けセミナー (主催:がん対策推進企業アクション)が、
『コロナ禍で検診率が低下する女性特有がんの予防』~がん早期発見が遅れる現状の課題と対策・フェムテックの可能性~をテーマに、9月7日(火)に東京・神田のワイム貸会議室神田 Room8Aにおいて開催されました。

本セミナーは、女性特有のがんである乳がんと子宮頸がんにスポットを当て、早期発見のための検診の重要性だけでなく、男性を含む社会全体としてどう理解していくかということを、女性向けのメディアとともに考えることを目的にしたもので、本年度で5回目となります。なお、セミナーはコロナ禍の状況を鑑み、オンラインスタイルも並行して行われました。

セミナーは、自身が子宮頸がんの経験者である一般社団法人シンクパール代表理事の難波美智代氏の司会のもと、がん対策推進企業アクション事務局長の山田浩章、難波氏より本セミナーの趣旨説明から始まり、東京大学大学院医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授中川 恵一先生の「コロナとがん」の講演、質疑応答が行われました。

(左から)中川恵一先生、難波美智代氏

▲(左から)中川恵一先生、難波美智代氏

【本セミナー主旨説明】
山田 浩章(がん対策推進企業アクション事務局長)

本事業は、企業などにおけるがん検診の受診率向上やがん患者・経験者の就労支援対策等のがん対策の推進を図り、もってがんによる死亡者の減少を図ることを目的としています。女性の社会進出と定年の延長を背景とした職域でのがん対策が重要性を増す中、2009年の発足から13年目となり現在はパートナー企業3,500社の社員数は約750万人という組織となっています。企業アクションでは各啓発イベント、YouTube配信、e-ラーニングの提供等を通じ、5がんの対策に取り組み、「がん検診率向上に向けた啓発」「がんに関する正しい知識」「がんになっても働き続けられる社会」の実現を目指しています。
本セミナーは、女性特有のがんを中心にがん検診をはじめとしたがん対策の重要性について、特にメディアの方々にご協力いただき、働く若い世代を対象として普及啓発をより推進していく目的で実施しています。

「コロナ禍におけるがん検診率の低下の危険性とその対策」
難波 美智代氏(一般社団法人 シンクパール代表理事)

難波 美智代氏

▲難波 美智代氏

コロナ禍におけるがん対策の課題と現状

生活習慣の乱れ、検診・受診控えが課題となっており、これは早期発見や治療にも影響があります。検診を見送っているうちに未発見のがんが進行がんになってしまい治療の選択肢を狭める可能性があります。日本対がん協会32支部で実施された調査によると、5がん検診に関して対前年比で約172万人、約30.5%が減少したこと。さらに、2018年度の各がん発見率をかけて推計してみると計約2,100の未発見がんの可能性があることが明らかになりました。コロナ禍におけるがん検診の3つの課題として①「3密」を避ける予約システムの普及、②効果的な受診勧奨、③がん検診の優先度をあげるための正しい情報の啓発があげられます。

2020年の受診者30%減 約2100のがん未発見の可能性
解決策として期待できること、フェムテックの可能性

フェムテックとは女性(Female)とテクノロジー(Technology)を掛け合わせた造語です。フェムテックの普及は、コストやスピードなど従来の医療へのアクセスに関する課題を解決する糸口となり得ますが、安心安全にソリューションを選択し利用しやすくなるための工夫が必要です。法律や制度に関しては国が調整しておりますが、利用者の視点や利益に基づいた各ソリューションの評価に課題があるとされています。まだすぐには解決しない問題ばかりですが、市場と環境整備の同時進行が望ましいと考えます。

フェムテック市場動向
がん患者・体験者とその家族の声について

今回はがん対策推進企業アクションの認定講師ら8名の声をまとめました。一人一人のがんと人生のストーリーがつづられており、その中でもメディアから発信いただく際の期待として「患者やその家族として気になっていること」などをスライドにしました。「治療中の個人の気持ちを伝える ことは支えになることもあるが、過剰な感情はミスリードにつながる」という子宮頸がん経験者の女優、原千晶様のお声には、がんは十人十色で受け取る印象も様々であるため複雑にとらえないよう整理する必要がある。また、マスメディアではSNSの情報が発信されていることもあり、びっくりしているとありました。さらに、感想や専門家のコメントは要らないという声も上がっています。ご自身も子宮頸がん経験者で、夫と娘さんをがんで亡くされている経験をお持ちの和田智子様は、改名や高額な健康商品を勧められたそうで、娘さんの主治医からは「日ごろの行いが悪いとか先祖の問題ではない」と寄り添っていただき良かった、本当にそう思う人がいるのだとびっくりした。など様々なご意見が集まりました。

「コロナとがん」
中川 恵一先生(東京大学大学院医学系研究科 総合放射線腫瘍学講座 特任教授/
がん対策企業推進アクション アドバイザリーボード議長)

中川 恵一先生

▲中川 恵一先生

コロナ禍はがん対策にも影響

新型コロナウイルス(以下、コロナ)で病院もひっ迫し、大変な感染症であることは間違いありません。9月6日までのコロナ感染による死亡数は1日40人となっています。しかし、がんで考えた場合、年間の死者数は38万人、これを365日で割ると毎日1,040人がなくなっていることが分かります。がんによるリスクにも備える必要があります。

女性のがんは若い世代に多い

年齢50代前半までの若い女性ががんになりやすいです。乳がんは女性ホルモンの刺激で増殖し、簡単に言うと生理があるときに乳がんのリスクが上がり、50歳を過ぎて閉経を迎えるとリスクが下がります。また子宮頸がんはより若い世代にリスクが多く、乳がんは40代がピーク、子宮頸がんは30代がピークとなっているため、とりわけ若い世代が多いことが分かります。この女性がんの中では、子宮頸がんが増えています。子宮頸がんは感染型のがんで、欧米では時代とともに増えるのが当たり前となっています。
年齢調整死亡率という言葉があります。ほとんどのがんが減っているが、子宮頸がんだけが増えています。子宮頸がんは制圧可能ながんと言われており、仮に検診率が85%でHPVワクチン接種率が85%の場合、95%が感染を防げるという論文があります。現在の日本ではこの2つは機能していません。他先進国と検診率を比べても乳がん・子宮頸がんについて、日本はアメリカの約半分にとどまります。住民健診を推奨している対がん協会の発表によると、2019年に対し2020年の検診率は約30%が減少しており、かなりの市町村でがん検診が行われなくなったことを示します。上記に付随して、乳がんはマンモグラフィー検査を40歳から2年に1回、子宮頸がんは20歳から2年に1回受診することが国の指針となっており、2019年の国民生活基礎調査データでも子宮頸がんの検査は受けるべきだと示しています。子宮頸がんの検診受診率は40代前半で50%を超えていますが、20代前半では15%です。しかし、病院側から見ると20代の子宮頸がんは珍しくないのが現状です。

中学校から始まるがん教育

中学校・高校の学習指導要領の中にがんの教育が正式に明記されています。中学校では2021年から全面実施、高校でも来年度から随時実施予定です。教科書も改訂されており、中身を見ると検診の項目や方法が明記されています。高校では「二十歳のがん検診」を学校の先生に呼びかけていただきたいです。

HPVワクチン接種は女性だけの問題ではない

さて、子宮頸がんはおよそ(事実上)100%の原因はヒトパピローマウイルス(HPV)で、性交渉に伴い男性から女性に移るものです。HPVは子宮頸がん以外にも多くのがんになる恐れがあり、中咽頭がん、陰茎がん、肛門がんなどがあげられます。性行動の多様化に伴って子宮頸がん以外の臓器にも発がんされます。このウイルスは性行為の経験がある約8割が感染することが明らかになっており、多くの国では男性へのワクチン接種も進んでいます。
また17歳以下の接種でリスクは9割軽減ということも報道されています。2013年4月に定期接種化を推奨したものの同年6月には厚生労働省が中止を発表、接種を受けている年代にもばらつきがあり、今の20歳以下はほぼ0という結果が出ています。22~27歳の女性だけはリスクが半減しており、名古屋の疫学的調査ではHPVワクチンと報道されている症例の因果関係は示されなかったと発表し、全国疫学調査でも因果関係は言及できないと明らかにされました。最近HPVワクチン接種のパンフレットも改訂され、少し接種が進んだというデータもあります。共同通信のニュース記事よると、昨年の10~12月も接種率は20%近かったようで、0レベルから2割近くが戻ったことが分かります。しかし、世界各国と比べてカナダ、イギリス、アメリカでは80%が接種しているが、日本は0.8%の接種にとどまっているという報道もあります。HPVワクチンに限らず副作用とのバランスは難しいですが、国民のリテラシーにも大きく依存します。この中でHPVワクチンをどうしていくかが大きな課題であり、とりわけ定期接種化されたにもかかわらず打っていない世代に対してどうしていくか、仮に積極的勧奨に向けた議論が始まるならこの部分の話をすればいいと個人的には思います。今日申し上げた話は全て個人の見解です。ただ、間違いないことは若い世代の女性にがんが多いということです。そして子宮頸がんについては検診をみんなが受診する、ワクチンを85%が接種するとリスクは5%になることをお伝えいただきたいと思います。
このような状況は我々医療者側の力不足が否めませんが、変えていくためにはメディアの方々、そして政治の協力が必要だと思います。是非ともご協力よろしくお願いします。

【質疑応答】

メディアA

難波様のご講演より、「困惑したことは、周囲から改名や高額な健康食品を勧められたりしたこと」や「日頃の行いが悪いとか、先祖の問題ではないと言ってもらったこと」とあったがん患者の方のように、実際こういうことががん患者には多いのでしょうか。

中川先生

「サプリを買う」ということは今多く、がん患者の半分の方が買っています。サプリを買っていることは事前に言わない患者さんが多いです。サプリは有効なものはなく、むしろマイナスなものがたくさんあります。がんをビジネスにしたいという方は多いです。がんというリスクの大きさを正しく知るということは大切です。私は緩和ケアをやってきて、確かに積極的な治療薬が無くても支え続けるという手はあるが、なかなかそういうことは伝わりません。そうなると高額なサプリ等に付け込まれるのです。

メディアB

がん教育ではどんなことが行われているのですか。

難波氏

がん教育の内容は、1)がんという病気 2)我が国におけるがんの現状 3)がんの経過と様々ながんの種類 4)がんの予防 5)がんの早期発見とがん検診 6)がんの治療における緩和ケア 7)がん患者の「生活の質」 8)がん患者への理解と共生です。外部講師の活用体制を整えるなど授業の実施に向けて現場や教員との連携が期待されています。

中川先生

また上記の1)~5)は中高で学びます。小学校も指導要領上は小学6年生から少しずつがん教育がが実施されています。日本のがん教育は遅れてきたと申し上げましたが、中高通して行う学習は世界最高峰だと思います。ただ、私立においては学習指導要領において明記がなく、現在日本のエリート層に保健教育は欠けており、今後もこれは続く可能性があります。こちらもすべて個人の見解です。

メディアC

がん教育において、子宮頸がんの説明を躊躇する医師、さらにそれを聞いた親が反発してくるなど問題がありますが、この辺現場の先生としてどうでしょうか。

中川先生

子宮頸がんに関しては、教えていくことは重要です。例えば、保護者をがんで亡くした生徒、小児がんの経験がある生徒、この方々に対する配慮に関しては、「文部科学省 がん教育」で検索すると様々な資料が出てきます。150箇所の学校でがん教育を行ってきましたが、「つらくなったら言ってください」と伝えて、事前に把握するように努めていますが、言ってこない子もいます。放課後におばあちゃんががんで亡くなったなどをそっと報告してきます。その生徒たちでもがん教育は受けられます。保護者には来てもらって感想を言ってもらいますが、批判的な意見はほとんどありません。配慮は必要だが、そのことを必要とするあまりがん教育を躊躇するのはどうかと思います。まだ教育は始まったばかりなので乗り越える壁は多いのです。

メディアD

がん検診は、検診を受けるだけではなく、なにかしら異常が見つかったときに適切に医療機関へと接続できてはじめて意味のあるものになると認識していますが、日本のがん検診では、検診から医療への接続段階で離脱が多いと聞いたことがあります。現状どうなっているのでしょうか。

中川先生

精密検査のことを言われているのかと思いますが、受診率が低いことだけが課題ではなく、精密検査もやってもらわないと意味がありません。がん検診でみつかったがんは早期発見なので比較的治ります。一次検査で陽性のでた場合は個人で精密検査に行っていただく必要があります。しかし、それを促す仕組みとしてがん対策推進企業アクションではいろんな取り組みがあり、LINEによって監視をするという制度も企業によっては行われつつあります。

難波氏

本日の資料のがん経験者のお声で原千晶様は、「自分ががんになったことが怖くて逃げだしてしまった」と語っています。面倒くさかった、若かったからという当時の気持ちのお言葉もありますが、これは先生のおっしゃったように「知る」ことが大切で、がん教育の中でも解決していけるといいと思います。

中川先生

もう一つ、医療機関、社会としてがん検診で陽性となった方と医療機関で連携することが大事です。例えば、韓国では日本でいうマイナンバーに相当するもので一元管理しています。がん登録が整備されるとそういうことも可能になります。

本セミナーの様子

▲本セミナーの様子

動画メッセージを見る 動画メッセージを見る 動画メッセージを見る