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2024/09/30

令和6年度 メディアセミナー開催報告

<メディアセミナー開催概要>
中川恵一東大教授が語る「がん教育の意味」
~「ヘルスリテラシー最低国」からの脱出に向け~

開催日時:2024年8月27日(火) 14:00~15:30
開催形式:会場とオンラインのハイブリッド形式
会場:神田明神文化交流館EDOCCO

がん対策推進企業アクション(厚生労働省委託事業)は、2024年8月27日(火)にメディア向けセミナーを、会場とオンラインで同時開催しました。正しい情報を取得していただくこと、メディアを通じて世の中に広く発信・啓発することを趣旨としています。
当日は学校でのがん教育について、そして大人のがん教育について、がん対策推進企業アクションの議長であり、がんの緩和ケアに係る部会の座長も務める中川恵一先生(東京大学大学院医学系研究科 総合放射線腫瘍学講座 特任教授 がん検診のあり方に関する検討会構成員)による講演が行われました。

<学校での観教育について。そして大人のがん教育>
東京大学大学院医学系研究科 総合放射線腫瘍学講座 特任教授 中川恵一氏

学校でがん教育が始まっていることはなかなか知られていません。日本のヘルスリテラシーは世界最低となっており、先進国の中だけではなく、インドネシア、ベトナム、ミャンマーよりも低いのが現状で、このことが日本のがん対策に大きな影響を与えています。
男性の3人に2人、女性の2人に1人が生涯でがんにかかると言われています。

東京大学大学院医学系研究科 総合放射線腫瘍学講座 特任教授 中川恵一氏

女性の乳がんは女性ホルモン、子宮頸がんは性交渉によるウイルス感染に起因し、若い世代に多いことから、55歳まではがんの罹患者は女性に多いです。この2つのがん以外は、ほとんどのがんが遺伝子の経年劣化によるものです。従って日本が世界1のがん大国になったのは、世界で最も高齢化したからという単純な話です。
この高齢化の速度が、日本は非常に速いです。日本は先進国の中では非常に早く、戦後急激に高齢化したのです。近代化が遅れることで、がんが急増します。例えば55歳までに男性ががんになる確率は5%、あるいは50歳だと2~3%です。戦後の平均寿命が50歳ぐらいだった頃、がんはほとんど発生していなかった。あまりにも早いがんの増加に、社会としてキャッチアップできていない、特に教育も追い付いていないのが今の日本です。

■がん対策の遅れの背景にリテラシーの欠如
がんはある程度コントロールが可能な病気で、リテラシーを高めることでコントロールができます。そのためがんにならない生活習慣と、がんになった場合の早期発見が重要で、国が指針を出す5つのがん検診をまずはしっかり受診することが大切です。
日本のがん対策も課題は多く、受動喫煙対策の遅れ、がん検診受診率の低迷、手術偏重のがん治療、緩和ケアの停滞などが挙げられます。がん登録の遅れのほか、日本では患者側へのカルテや報告書の開示もありません。日本は、がん治療はむしろ優れていますが、システムとしてのがん対策が非常に遅れています。その背景に、ヘルスリテラシーの欠如があることは明白です。
がんの罹患リスクを下げるためには煙草を吸わない、受動喫煙を避けること、お酒は控えることが大切です。日本人の発がん原因のトップは感染で、ヒトパピローマウイルス感染による子宮頸がん、ピロリ菌感染による胃がん、C型B型肝炎ウイルスによる肝臓がんなどがあります。吐く息に発がん物質が入ることもあり、加熱式煙草は紙巻き煙草以上に悪い可能性もあります。お酒に関しても「百薬の長」という概念は否定されており、1滴も飲まないことが最も健康とされています。

■HPVワクチンキャッチアップ制度の期日迫る
感染によるがんで、発がん要因が最も強いのが子宮頸がんです。HPVに対するワクチンが2013年に法定化され、小学6年生~高校1年生の女子が接種可能です。性交渉を始める年代になる前に接種することで、子宮頸がんの発症リスクが9割回避できます。
しかし、副反応に関する過剰な報道で、政府は過去9年ほど積極的な勧奨を止めました。長年接種率が低迷し、子宮頸がんの罹患率が再上昇しています。現在は接種を逃した世代へのキャッチアップ接種という制度が、今年の9月末が1回目の接種の期限となっています。しかし該当の世代へのアンケートでも、この制度を知っているという回答は半分程度です。

■がん対策基本計画が4期目
自治体の5つのがん検診は健康増進法により規定されており、各自治体が費用負担をしています。個人負担がゼロの市区町村も多く、これは科学的に最も死亡率を下げるというエビデンスにより、法律で規定し税金を投入しているからです。検診も受診しすぎて過剰診断になるのは問題なので、まずは生活習慣と住民健診をきちんと受けることが大切です。
2007年にがん対策推進基本計画が定められ、現在は第4期となっています。基本計画は放射線治療、化学療法の推進・緩和ケア、がん登録の3つを掲げています。欧米ではがん患者の6割前後が放射線治療を受けますが、日本は3割に満たないのが実情です。
ほとんどの放射線治療は通院で治療が可能、99%は保険適用で、根治ができます。がんの病巣にだけ放射線治療を集中すれば、副作用も出ません。手術と同等、つまり10年~20年後の生存率が同じです。
緩和ケアについても、初期段階から行っていくことが当たり前です。医療用の麻薬の使用量は、日本は1人当たりの使用量がドイツの約20分の1で、現在は医療用麻薬の量が減っています。早期から緩和ケアを行うと、早期ではない患者よりも長生きすることがわかっています。

■中高でのがん教育に見える課題
日本は予防にかける費用が少ないという特徴があります。その費用の中で、教育あるいは情報提供に占める割合が非常に少ないです。世界では健康教育が非常に重要な課題として国家基準で定めている国もあり、特にヨーロッパ系は保健を理科の中でやりますが、日本の教がん教育はそこまで至っていません。保健の授業を行わないという例もあり、日本の中枢を担う官僚が保健の教育を受けないままだったということです。
がんの予防を行うことで3兆円に達する経済的負担を解消できますので、ヘルスリテラシーを向上させることで経済的なプラスになります。
中学校と高校の学習指導要領には、2017年よりがん教育が明記されています。「がんに関する理解」と「命と健康の大切さ」の2つです。外部講師の確保も非常に重要な、日本のがん教育の大きな柱になっています。
がん教育が日本の中学と高校で行われていることを知っている人はまだ非常に少ないので、今後も調査をしていきたいです。ヘルスリテラシーを向上させるためには、知識よりもグループワークなどで考える力を身に付けることが大事です。長期的にがん教育の効果があるかどうかも重要で、授業の前後でアンケート調査などを行っています。がん教育を行う市区町村では、親世代の検診受診率が伸びることもありました。
しかし令和5年のデータで、外部講師を活用したかという質問に、中学では16%、高校では11%に過ぎず、外部講師は医師が多い結果でしたので、ここも課題のひとつです。

子どもだけでなく、親世代、医学生にも有用
東京大学医学部付属病院 放射線科 助教授 南谷優成氏

東京大学医学部付属病院 放射線科 助教授 南谷優成氏

過去5年、80校ほどで授業をしてきました。健康教育に関する講演会も令和4年度、5年度に登壇させていただき、がん教育にスポットを当てた講演会で、およそ100名以上の養護教諭に参加していただきました。その中で、やはり教職員の相互理解、及び外部講師の確保はやはり課題であると話されており、その情報提供を要望する声が挙がっています。

昨年度より、新しい取り組みとして、医学生にもがん教育に携わっていただき、それが医学生の教育にも繋がらないかといったことを研究・実践含めて行っています。
やはりこのがん教育自体はいろいろな可能性があると思いますので、もちろん子どもの教育、あるいはその保護者の教育、また医学教育など様々なところで、有用性も高いと考えています。

東京大学大学院医学系研究科 総合放射線腫瘍学講座 特任教授 中川恵一氏

大人になって子供の頃のがん教育が本当に成果となるのかということが大切です。がん教育の効果の検証を、東大病院の保健治療部門と、高知県の公営財団法人高知県総合保険協会、この2者で計画しています。
高知県では2013年からがん教育を行っており、この総合保険協会が主催しています。中学校か高校でがん教育を受けた方たちが20歳になった場合にどうしているのか。特に子宮頸がんは20歳から子宮頸がん検診を行います。卒業生が20歳を超えている、つまり女性であれば、子宮頸がん検診を受ける対象年齢になっている生徒さんに限って、調査を計画しています。

■健康教育を受けた子どもが大人へ伝えていく

公益財団法人高知県総合保健協会 経営企画室 吉村 文臣氏

私どもが企業で健康診断を行っていますと、自身の健康に無関心、無頓着、あるいは無防備なことに気づかされます。こうした原因はまさにヘルスリテラシーの低さだと痛感をしています。
現状を打破するためには、幼少期からの健康教育が必要だと考えております。また健康教育を受けていない我々大人世代にどのようにして自身の健康に関心を持たせることができるのかを考えた時、一番効果が期待できるのは子どもからのアプローチではないかと考えています。我々は子どもたちへのがん教育が重要だと考え、子ども自身にがんの知識や自身の健康と命の大切さを伝え、そして子どもが大人に伝えていくことを意識し取り組んでまいります。