• がん対策推進企業アクションとは
  • がんについて
  • がん検診について
  • 就労支援
  • パートナー企業・団体
トップ>>お知らせ・イベント情報>>全国7ブロックセミナー

イベントレポート

2018/11/14
「職域におけるがん対策の最新情報」九州・沖縄セミナーを開催しました。

がん対策推進企業アクションの九州・沖縄ブロックのセミナー「職域におけるがん対策の最新情報」(主催:厚生労働省、がん対策推進企業アクション)が、鹿児島県鹿児島市のTKPガーデンシティ鹿児島中央にて11月14日(水)に開催されました。鹿児島県を中心に九州エリアから約120名の方にご来場いただきました。

講演の様子

「我が国におけるがん対策について」
(厚生労働省 健康局 がん・疾病対策課 主査 丸野正敬氏)

我が国では1981年にがんが死因の第1位になり、それ以降も死因の1位として死亡数は上昇し続けており、今では亡くなられる方の約3人に1人ががんといわれております。

平成18年にがん対策基本法が法律として成立し、それに基づいてがん対策推進基本計画が定められ、各種のがん対策が行われています。平成30年3月に閣議決定された第3期計画では、「がん患者を含めた国民が、がんを知り、がんの克服を目指す」を目標にし、「がんの予防」「がん医療の充実」「がんとの共生」を3本の柱に、これらを支える基盤の整備として「がん研究」「人材育成」「がん教育、普及啓発」を進めています。

講演の様子

がん検診の目的は、早く見つけて早く治すということ、がんによる死亡率を下げるということになります。がん検診受診率は年々上昇傾向にはありますが、まだまだ認知率・受診率は低く、国の目標とする受診率50%に達しているのは、男性の肺がん検診のみで、他の検診は40%程度です。

がん検診の受診率を国際的に比較してみると、日本は諸外国に比べて低く、アメリカの約1/2程度です。

がん検診の受診機会についての統計では、職域でのがん検診の受診者が多くなっています。がん検診未受診の理由は、1位が「受ける時間がないから」、2位が「健康状態に自信があり、必要性を感じないから」。しかし、生涯でがんにかかるリスクは2人に1人といわれており、早めに見つけて早めに治すことが必要です。

職域におけるがん検診は、福利厚生の一環として実施されているところが多く、その検査項目や対象年齢など実施方法はさまざまです。

厚生労働省では、職域におけるがん検診の実施に関して参考となる事項を示し、科学的根拠に基づく検診ができるよう「職域におけるがん検診に関するガイドマニュアル(https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000200734.html) 」を策定しております。

がん患者の3人に1人は就労可能な年齢での罹患といわれております。

働くことが可能で、働く意欲のあるがん患者が働き続けるようにするためには、どういう取り組みが必要だと思うか、という世論調査では、「病気の治療や通院のための短時間勤務」「1時間単位の休暇や長期の休暇が取れるなどの柔軟な休暇制度」「在宅勤務を取り入れること」など、柔軟な制度が求められています。

問題なのは、実際にがんになると仕事を辞める方がいらっしゃるということ。その理由は「仕事を続ける自信がなくなった」「会社や同僚、仕事関係の人々に迷惑をかけると思った」「治療や静養に必要な休みをとることが難しかった」といった理由が上位にきており、制度や社内の理解が不十分であることがわかります。がんになったことで、誰にも相談せず辞める方もいらっしゃいます。

国では、働き方改革実行計画を基に、治療と仕事の両立支援を開始しています。今年度、新たに患者と主治医、会社・産業医をつなぐ両立支援コーディネーターを養成し始めました。そして、その両立支援コーディネーターが、治療と就労の両立のために、患者と医療機関や会社をスムーズに連携させてサポートする「トライアングル型支援」も行っていきます。

がん患者の就労に関する取り組みは、厚生労働省健康局がん・疾病対策課、職業安定局首席職業指導官室、労働基準局産業保健支援室の3部局で連携を密に取りながら進めています。

【がん対策推進企業アクション事業説明】
(がん対策推進企業アクション事務局 事務局長 大石健司)

がん対策推進企業アクションは、職域でのがん検診受診率を向上させるための国家プロジェクトであり、厚生労働省の委託事業です。「今年も行こう、今年は行こう、がん検診」をキャッチフレーズに、がんになっても働ける社会を目指して活動しています。

講演の様子

現在の日本は、女性の社会進出、定年延長などを理由に、従業員の7人に1人ががんになる時代になっています。がん対策は、いまや福利厚生ではなく経営課題といえます。従業員ががんになっても働き続けられる環境を整えること、そして人財(材)を守るがん対策が必要とされています。

がん対策に関する環境も変化しています。平成28年度より学習指導要領にがん教育の実施が明記され、小・中・高等学校でのがん教育がスタートするとともに、自治体の取り組みも活発化しています。

がんに対する正しい知識を得ることが、今後の企業の成長にとっても大きなメリットとなることからも、職場での「大人へのがん教育」を提供することが求められています。

がんは早期発見・早期治療が基本で、早期発見(ステージ1)された胃がん・大腸がん、子宮頸がん、乳がんの5年相対生存率は95%を超えており、がんは早期発見であれば治癒する可能性は高くなるとともに、経済的・心因的負担も少なく、仕事と治療の両立もしやすくなります。

平成29年度にがん対策推進企業アクションで行ったアンケートの「経営者側のがんへの理解度と事業者におけるがん検診実施状況」では、がんに対する正しい知識を持っている経営者や従業員のいる企業は、がん検診受診率が高いことがわかりました。いかに「がんに対する正しい知識(教育) 」が必要かわかります。

現在は、医療も進歩し治療成果が上がってきただけではなく、仕事と両立しながら治療が行えるようになってきました。診断時点で勤めていた会社に、現在も勤務中あるいは休職中の人は57%と過半数を超えていますが、一方で依願退職・解雇された人も34%おり、ここでも、がんになっても仕事は両立できるという「がんに対する正しい知識」が必要です。

今後、企業が取り組むべきがんアクションとは、健康診断にがん検診を加えたり、検診の効果を啓発するなどの「がん検診の受診を啓発すること」。がんは早期発見が重要だということ、がんになっても働き続けられること、正しい生活習慣でがんになるリスクを減らせることなどの「がんについて企業全体で正しく知ること」。治療のサポート体制づくりや柔軟な休暇制度などの「がんになっても働き続けられる環境をつくること」の3つです。

人材を守るためには、がんの早期発見・早期治療が必要です。がん対策推進企業アクションは、職域でのがん検診受診率を挙げるためのサポートをしています。推進パートナー企業・団体(健康保険組合など)数と従業員数の拡大を行い、がん検診、がん対策の重要性を啓発しています。さらに、がん対策を啓発する科学的根拠のあるコンテンツ制作とマスコミなどへのパブリシティやパートナー企業相互間での情報共有。そして、がん検診受診の現状把握と課題の整理などを行い、受診率の向上を目指しています。

推進パートナー企業へのがん教育講師派遣や全国各地でのセミナー開催、がんに関する小冊子の配布、推進パートナーのがん対策事例の公開、各種データやツールの提供など、企業のさまざまながん対策をサポートしていますので、ぜひご利用ください。

【がん対策推進企業アクション 推進パートナー申請ページ】

https://www.gankenshin50.mhlw.go.jp/about/registration.html

【治療と就労の両立を支えるがん検診】
(東京大学医学部附属病院 放射線科 准教授/がん対策推進企業アクション アドバイザリーボード議長 中川恵一氏)

日本は事実上、世界で最もがんの多い国で、生涯でがんになるリスクは2014年の調査で男性は62%、女性は47%です。2018年の予測では、男性は3人に2人、女性は2人に1人が生涯がんになるとされています。長期的には、この数字はもっと上がっていくと考えられます。がんとは簡単にいうと細胞の老化現象で、人口構成が高齢化していけば、当然がんも増えていきます。ちなみに男性の方が多いのは、単純に男性の方が喫煙や飲酒、暴飲暴食など生活習慣が悪いケースが多いからです。

がんという病気は他人事ではなく身近で大きな問題です。企業においては、定年が伸びていくことで従業員ががんになるリスクは高まります。データによると、59歳までにがんになるリスクは、男性が8%、女性が11%ですが、これが歳をとるごとに上昇し、最終的には前述の数字になっていくわけです。定年の65歳を例にすると、男女ともに15%程度。つまり6〜7人に1人程度が働いているうちにがんになるということです。

少し古いデータになりますが(1999〜2003年)、サラリーマンが在職中に亡くなる原因の約半分ががんです。現在においては、もっと数字は上がってきていると予想されますし、実際に伊藤忠商事が独自に行った自社の調査では、在職中に病気で亡くなった社員の9割ががんでした。

講演の様子

がんになる原因は何か?日本では「がん家系」などという言葉があるように、遺伝が多くの理由だと思われている方が多いのですが、実は遺伝が原因のがんは5%しかなく、がんは家系でなる病気ではありません。がんという病気は早期発見すれば怖くない病気です。積極的にがんを知り、がんを予防し、早期発見し早期治療をするということが重要になってきます。

アメリカの調査によると、がんの原因は喫煙が1/3、食事(生活習慣)が1/3を占めます。残りの1/3は何かというと、残念ながら「運」ということになります。がんは遺伝子の経年劣化ですから誰にでも起こります。1/3は運だとしても、残りの2/3は、禁煙をする、生活習慣を整えるということで、がんになる確率を下げられるということを理解してください。

がんは「わずかな知識の有無で運命がかわる」病気です。あらゆる病気の中で、がんは基本的なことを知っているかどうかで運命がかわります。知らない原因は、今まで義務教育の中でがんを教えてこなかったからにほかなりません。これからでも遅くないので、がんのことを正しく知れば、自然とがん検診も受診するようになり、早期発見・早期治療が行えます。

がんを知らないということは不幸を増やす原因にもなります。

がんの治療は「敗者復活戦のない一発勝負」です。最初に間違った選択をしないことが重要です。正しい治療をすれば、がんは治せます。がん全体で見ても5年生存率は65%、早期がんに限れば95%が治癒します。決して不治の病ではないのです。試合に臨む前に相手(がん)のこと、ルール(治療方法)を知っておく必要があります。

現在、がんの告知率は100%です。がんと診断された患者の1年以内の自殺率は24倍になっています。こうなる原因は、がんになる前に、がんという病気を知らなかったからにほかなりません。

日本は健康や医療に関する知識、ヘルスリテラシーが低いのも特徴で、国別の調査では最下位となっています。これは学校で習ってこなかったからですが、昨年の4月から小・中・高等学校でがん教育が始まりました。学習指導要領にも明記され、次の教科書改訂では、がんの項目が教科書に追加されます。このようながんの正しい教育を受けた子どもたちが増えることで、将来的にはがんの正しい知識が広がり、ヘルスリテラシーも上がることが期待できます。

日本人は誤解していますが、「がんは、よほど進行しても症状を出さない病気」です。全身に転移したがんでも、よほど末期の末期にならない限り症状は出ませんから、早期に発見されるがんにおいては、自覚症状などまったくありません。普段の生活態度がよい人も、元気で健康だと思っている人も定期的に検診を受けなければなりません。

もしも進行がんや末期がんになってしまうと、完全治癒が難しいだけでなく、医療費もとてつもなく高額になっていきます。高い薬では、年間の薬価が1300万円かかるものもあります。富士通健康保険組合が独自に調べたデータによると、早期発見した大腸がんの4年間の医療費は約200万円、それに対し転移のあった大腸がんでは約1000万円と、大変な差が生まれています。がんは進行すれば、高い薬物療法をしなければなりませんから、高額になるのは当たり前です

日本の就労人口を見てみると、65歳以上で働いている方は12%。世界では、アメリカ5.1%、イギリス3.2%、ドイツ1.9%、フランス0.9%と、断トツで日本が多くなっています。社会は成熟していくと、少子化が進みますから、就労年齢は上がるのは当たり前です。欧米各国は、就労人口の高齢化を移民で補っている部分が多いわけですが、日本はそうはいきません。

日本老年学会は高齢者の定義を2017年に65歳から75歳以上に引き上げることを提言しました。確かに昔と比べて現代の65歳は若々しく元気ですが、がんになる確率は、外見の若々しさや運動能力とは全く関係ありません。がんは、遺伝子の経年劣化ですから、生まれて何年経ったかで、がんになるリスクが変わります。いくら肉体が若々しい方でも、歳を重ねればがんになるリスクは高まります。見た目にも若々しく、元気に働ける人でもがんになる「がん社会」は避けられないということです。

がんにならない、あるいはなっても死なないためにはどうすればいいのか? それは、予防と早期発見・早期治療です。正しい生活習慣と、早期発見のためのがん検診を受けることに尽きます。

正しい生活習慣は何か、というと禁煙、節酒、バランスのよい食事、適度な運動などとなりますが、もっとも重要なのは禁煙です。喫煙はがんの原因の1/3を占めます。喫煙は肺がんの原因になると知られていますが、実はほとんどのがんを増やします。咽頭がんは32.5倍、肺がんは4.5倍、食道がんは2.2倍など、全がんで平均してもリスクは1.65倍になるのです。吸っている本人だけではなく、受動喫煙により周りの人にもがんになるリスクを高めます。たばこを吸った後は、有害物質が45分間は出続けるといわれており、1日に20本以上吸う方の奥さんの肺尖がんのリスクは2倍になるといわれています。喫煙率を下げるということは、従業員のがんになるリスクを下げる大きな要因になります。

飲酒についても、酒は百薬の長といわれていますが、飲み過ぎはがんを増やします。咽頭がん、食道がん、大腸がん(男性)、乳がんなどは確実に高まりますので、飲み過ぎはいけません。さらに、お酒を飲んで顔が赤くなる方は、日本酒で3合以上飲むと、赤くならない方に比べて70〜100倍に食道がんのリスクが高まります。

がんの早期発見とは、1〜2cm程度の大きさで発見すること、いわゆるステージ1のがんです。がんは、もとは1つのがん細胞で、それが倍々に増殖して大きくなり、約20年かけて1cmほどの大きさになります。人間には毎日がん細胞が生まれ、通常はそれを免疫力で退治しているわけですが、何らかの原因で生き残ったがん細胞が大きくなるには20年かかるというわけです。検診では、どのような最新機器を使用しても1cmの大きになるまで、基本的には発見できません。1cmのがんが2cmになるには、早いもので肺がんは1年、乳がんで2年といわれており、1年あるいは2年ごとに検診が必要というわけです。ですから、どんなに絶好調でも検診は必要です。

国が推奨しているがん検診は5つ。年1回が胃がん、大腸がん、肺がん、2年に1回が乳がん、子宮頸がんです。

最後にがんの治療について。日本人はがん治療は手術だと思っている人が多いですが、がん治療には「手術」以外にも「放射線治療」「抗がん剤」があります。欧米ではがん患者のうち6割が放射線治療を受けていますが、日本ではまだ3割です。手術なら入院が必要ですが、放射線治療なら通院で可能ですし、通院なら働きながら治療を行うことも可能です。今では放射線医療機器も技術も進歩していますので、たった数回の通院で治療を終えることも可能です。がんの種類や病状によってはさまざまな治療の選択肢があるということを、がんになる前に知っておくことが大切です。

がんを克服するには、「がんを知る」ということです。がんという病気の特性、早期発見のための検診の重要性、がんになった時の治療方法の理解、こういったがんに対する正しい知識を、子供たちだけではなく、オトナが学ぶことが、がんの死亡者を減らし、不幸を減らすことにつながります。

「胃がんの経験をとおして伝えたいこと」
(がんサバイバー 澤田崇史氏/キョーワグループ 有限会社ヘルスサポート 代表取締役)

私は調剤薬局で薬剤師をしており、共働きの妻と3名の子どもがいます。

私ががんを発症したのは昨年、43歳の時です。胃がんのステージ2cでした。それまでは、少しコレステロール値が高いくらいで、胃に関する自覚症状は全くありませんでした。年に1回の会社の健康診断があり、その10日後くらいに胃がんの告知がありました。その後すぐに術前検査を受けて、2週間の入院や手術の予定を決めました。入院2日目に胃を切除する手術を行い、退院後3週間ほどで職場復帰をしました。告知から手術、職場復帰までは約2カ月です。

講演の様子

告知から1時間後には入院などのスケジュールが決まりました。私の胃がんは早期でしたので、「切る」ということが標準的な治療でしたが、がんの種類や進行度によっては、いろいろな選択肢があると思います。当時の私の心境は、とにかく体の中からがん細胞を1日でも早く全て出したいと、手術日程などを決めてしまったわけですが、今では、もう少し時間をかけて家族と相談したり、治療の情報を集めたりと、冷静になってもよかったのではと考えています。

私の胃がんは、低分化型といわれる進行の早いタイプのもので、告知時にすぐ手術をした方がよいと説明されましたが、すぐといっても仕事はどうすればいいのだろう、と思うと同時に、がん保険にも入っておらず、いくらくらい費用がかかるのかといった不安がありました。

同時に、早期発見ではありましたが「いつまで生きられるのかな」と、急に“死”という言葉が身近なものになり、家族ともさよならになるのか、子どもの成長を見届けてあげられないのか、といったことを考えてしまいました。

会社へは、サラリーマンですから予定が1カ月先、2カ月先まで決まっており、関係各所に説明をしなくてはならず、本当に慌ただしく大変でした。

私が入院してからは、妻も仕事を休みましたし、仕事の同僚にも迷惑をかけてしまっていて、がんというのは自分だけではなく、周囲にも大きな影響を与えてしまうものだと考えさせられました。がんの告知、そして治療は普段の生活を一変させるような出来事だと思います。

手術では胃の4/5を摘出しましたが、幸いリンパ節への転移も認められず現在に至っています。進行の早いがんタイプであったことから、もしも発見があと1年遅れていたらどうなっていたかと思うと、本当に早期発見できてよかったと感じています。

手術後は食事が2口3口で胃が苦しくなりほとんど食べられず、退院時には体重が15キロほど落ちていました。

治療前は、退院したらすぐに仕事復帰がでると安易に考えていましたが、さすがに体重がここまで減ると、自分の体が自分の体でない感覚で、当初の予定より復帰を2週間ほど遅らせました。会社には、体が本当によくなってから復帰すればいいと、親身になっていただきましたので本当に感謝しています。

復職時に心配だったのは、体力の低下と、胃の切除による1日5回の食事です。通勤に使う車の運転も不安でした。会社からは、できるだけ残業のない勤務体系と自宅に近い勤務先へ人事異動していただきました。

職場復帰は、がんの種類やステージによって個人差がありますから、就労支援の方法もそれぞれ異なると思います。職場復帰するにあたっては、会社に大まかな治療の予定や生活する上での注意点、通院の頻度などを伝え、無理のない業務や就労時間でスタートしていただけたらと思います。また、がん患者が職場復帰する場合は、職場に迷惑をかけた分、頑張らなければと思いがちですが、「無理しなくていいよ」と定期的に声をかけていただければ安心できると思います。

がんを経験すると、再発の不安、死の不安がずっと続きます。生存率9割といわれても、残り1割は死ぬのかとネカティブに考えるときもあります。毎回、検査の結果を知らされるたびに不安ですし、今後もこのような不安は消えることはないかもしれません。食生活でも、少しでも食べすぎると胸焼けや逆流が起こりますのでストレスを感じます。

しかし、がんになったことによって、命の大切さを再認識しました。命には限りがありますので、自分の人生を納得できるよう精一杯生きたいと思いました。また、いかに自分が周りの人に支えられて生きているのかもわかりました。生活習慣も見直す契機となりました。

がんは早期発見、つまりがん検診が大切です。早期発見できるかどうかで、運命が変わります。その後の治療やお金の負担も変わります。今一度、自分の命の大切さ、そして周りの自分を支えてくれている人々への感謝を忘れず、予防と発見に努めていただければと思います。

「地元企業による従業員へのがん対策の取り組み」
(ヘルスサポートセンター鹿児島 産業保健部 副部長 河村裕氏)

がんに限ったことではないのですが、復職するための4つの要素として、「日常生活に大きな支障を来す症状がない(疲労、症状等)」「復職する意志が十分にある(就労意欲) 」「就労に必要な労働等が持続的に可能である(就業能力)」「職場が受け入れ可能である(職場の復職支援/労働負荷)」が挙げられます。

最近はメンタルヘルスの問題もしかりですが、企業側が復職に関して、間違った対応をとると「安全配慮義務」が問われる場合も出てきますので、十分に注意が必要です。

復職までの流れとしては、主治医による「復職可能」の診断書が本人より提出され、本人と産業医との復職面接、本人・産業医・直属の上司・人事労務担当者との面接があり、復職の可否と就業制限の有無が決まるわけです。

復職判定のポイントは、生活リズムの確認、勤労意欲の確認、就業能力の確認、職場の受け入れ態勢の確認(時短勤務など)、治療と就労の両立に関する環境の確認(通院時間の確保など)です。なかでも生活リズムの確認は大切で、患者の病状や治療形態によって異なります。例えば、胃を切除した方などは食事の回数が増えますので、はたしてその職場でそのリズムが守れるか、ということを確認するわけです。

産業医の大きな役割は、復職を希望される個人と会社の間に入り、スムーズな職場復帰ができるように仕事環境を適正にコーディネートすることといえます。

復職された後、会社として気をつけたいことは、本人に対して頑張りすぎない、無理しすぎないように「安定した勤務」を提供すること、定期的に主治医の診察を受けてもらうこと、言える範囲内でいいので、会社側から配慮してほしいことを聞くことです。

また直属の上司は、本人と定期的に面接を行い、つねに現状を把握すること、突発休(特に3日以上)を認めた場合は、速やかに総務人事労務担当や産業医との情報共有を図ること、産業医の面接を定期的(月1回など)に受けさせること、などの対応も必要となります。

復職した本人、家族、会社、産業医、主治医などが、連携した情報を共有するということが重要です。

講演の様子

がんの治療と就労を両立させるためには、何よりも会社側の復職者に対する柔軟な対応がポイントとなります。復職される方の体調や治療計画などを理解し、残業、休日出勤、夜勤などを免除したり、時短勤務を適用したり、追加の休憩時間を設定するなど、ケースバイケースで対応していただきたいと思います。わからないことは、産業医との相談をベースにして対応されることをおすすめします。

このような配慮を、復職後は半年〜1年間ほど実施することが望ましいでしょう。

私は産業医の役割は、主治医の意見を会社に対してわかりやすく翻訳するものと考えています。つまり、各個人の症状や後遺症や抗がん剤副作用の有無、治療計画を医者の立場で正確に理解し、就業時間や労働内容はもちろん、通勤時間の過多、職場環境の整備、通院時間の確保など、復職者に必要な環境をわかりやすく、会社に伝えることです。また、必要以上に特別扱いせず、なるべく早く元の就労状態に戻れるように、お手伝いしたいと思っています。

そして復職者に対する配慮以外に、その周囲にいる社員への対応も重要となってきます。復職者に対して、時短勤務や残業の免除などを行うと、当然ながらその影響は周囲の社員に及びます。復職者以外の社員も、体調が思わしくない人、子育てで忙しい人、介護をしなければいけない人など、さまざまに事情を抱えた人がいらっしゃいます。この時、その社員たちに不満が生まれないように、適切に対応するのも産業医の仕事です。

そのためには、産業医は現場や作業を把握すること、就業規則を理解すること、社風や企業風土・企業文化を知ること、担当者の人柄を把握することなどが必要となってきます。

治療と就労の両立支援には、患者(労働者)、その家族、主治医、職場などが絡み合い、それぞれにわからない部分をどう解決していくかがポイントとなります。これらを横断的に結び、解決のお手伝いをするのが産業医や両立支援コーディネーターです。皆さんも有効に産業医を活用していただければと思います。

【質疑応答】

回答者

中川恵一氏(東京大学医学部附属病院 放射線科 准教授)

河村裕氏(ヘルスサポートセンター鹿児島 産業保健部 副部長)

【質問】せん虫検査についてご意見をお聞かせください?
【回答:中川氏】基本的にがん検診は、国で推奨している対策型検診をベースにしていただければいいと思います。対策型検診はきちんとした科学的根拠があり、がんによる死亡者を減らす目的でやっているからです。
せん虫検査に関しては、エビデンスも揃っていませんし、その検査が死亡を減らす、あるいは不幸を減らすものとは実証されていません。
【質問】放射線治療が選ばれることが少ないのは、日本人の放射能アレルギーからきているものでしょうか?
【回答:中川氏】 そうではないと思います。ただ単に、がんの治療=手術というイメージを持たれている方が多く、そもそも放射線治療の選択肢があるということを知らない方がほとんどだからだと思います。
がんについて学び、セカンドオピニオンを活用し、外科医の先生だけでなく放射線医の先生の話も聞き、そして治療方針を決められるとよいと思います。
【質問】治療と仕事の両立について、何か心にくるキーワードがあったらお教えください。
【回答:河村氏】このセミナーのパンフレットにもある「がんでもやめない、やめさせない」だと思います。
【回答:中川氏】同様です。「がんでもやめない、やめさせない」を浸透させていただければと思います。
講演の様子
ページトップ
  • 参加方法・登録申請
  • お知らせ・イベント情報
  • 調査レポート
  • がん対策スライド
  • 全国3ブロックセミナー
  • がん対策推進企業アクション公式小冊子「働く人ががんを知る本」
  • 令和4年度がん検診50%推進全国大会
  • 令和5年度がん検診50%推進全国大会
  • がん対策推進企業アクション Facebookはじめました
  • がん対策推進企業アクション Facebookはじめました
  • 両立支援の啓発動画の紹介