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2024/01/04

令和5年度
秋田県ブロックセミナー「職域におけるがん対策の最新情報」を開催しました

10月25日にTKPメトロポリタン秋田カンファレンスセンターで、WEB配信を併用したハイブリッド形式にて秋田県ブロックセミナーを開催しました。

主催者挨拶
厚生労働省 健康・生活衛生局 がん・疾病対策課長補佐 磯 高徳氏

厚生労働省 健康・生活衛生局 がん・疾病対策課長補佐 磯 高徳氏
▲厚生労働省 健康・生活衛生局 がん・疾病対策課長補佐 磯 高徳氏

我が国のがん対策についてです。平成18年に「がん対策基本法」が制定され、一気に加速しました。その後、平成28年の改正では、がん患者の雇用の継続や、がんに関する教育の推進など、新たな政策が盛り込まれたという経緯が今までの歴史となっています。そして今年度から、新たに「第4期がん対策推進基本計画」が閣議決定されており、第3期のがん対策推進基本計画から引き続き「がんの予防」「がん医療の充実」「がんとの共生」という3本の柱になっています。これらを支える基盤の整備として、がんの研究、人材育成、がん教育普及啓発などを進めることになっています。
このように、がん対策を着実に進めているところではありますが、依然として我が国では昭和56年からがんが死因の第1位であり続け、毎年約100万人ががんにかかり、38万人を超える方ががんで亡くなっているという現実があります。また医療の進歩などにより、がんは多くの場合、早期発見・早期治療により、治る病気となってきていますが、依然として、基本計画でも今年度から目標としているがんの受診率60%には届いていないという現実で、国際的なデータ比較を見ても、日本の検診の受診率が低いというのが現状です。
がんを予防するためには、たばこなどのリスク要因を下げて適度に運動する、そうした生活習慣の改善も効果的ですが、それだけでは完全にがんを防ぐことはできません。そのために1人でも多くのみなさまが、がん検診を受診し早期発見・早期治療に繋げることが非常に重要となっています。がん検診の受診機会については、受診者の3割から6割が職域でのがん検診を受診していると言われています。受診率の向上のためにはまさに、この職域での啓発が非常に重要になってくることから、厚生労働省では職域において科学的根拠に基づくがん検診ができるよう、平成30年に職域におけるがん検診に関するマニュアルというものお示しています。もしご覧なったことがなければ、企業アクションのホームページにも掲載しておりますので、ぜひご覧いただき、みなさまの職場でもご活用いただければと思います。
また、こちらの企業アクションは、今申し上げた職域におけるがん検診の受診率の向上、がんになっても働き続けられる社会の構築、まさに共生となりますが、こちらを主な目的として平成21年度から活動しています。現在、約5000社に及ぶ企業・団体様がパートナーとして登録をされています。企業アクションでは、がん対策に関する様々な情報をわかりやすくご提供し、ホームページが中心になりますが、積極的にご活用いただけると職場でのがん対策の推進にも役に立つと考えています。
最後になりましたが、本日のセミナーがみなさまのがん対策に関する知識を深め、それぞれの職場でがん対策を充実させる契機となることを期待しますとともに、みなさまの今後の益々のご発展とご健勝をお祈りしまして、私からの挨拶とさせていただきます。

挨拶・がん対策推進企業アクション事業説明
がん対策推進企業アクション事務局 藤田 武氏

がん対策推進企業アクション事務局 藤田 武氏
▲がん対策推進企業アクション事務局 藤田 武氏

日本では男性の3人に2人、女性の2人に1人ががんに罹患する時代です。企業では人材を守るために、がん検診受診率の向上、治療と仕事の両立支援などのがん対策が必要になってきます。私達は企業での「がんアクション」をサポートする活動を行っています。
企業が取り組める「がんアクション」を3つ挙げます。1つ目、がん検診の受診率を啓発すること。2つ目、がんについて、会社全体で正しく知ること。3つ目、がんになっても働き続けられる環境を作ることです。人材を守るために、がんの早期発見・早期治療、そして従業員ががんになっても働き続けられる環境が必要になってきます。
このような「がんアクション」をされる企業様をサポートするために、我々がん対策推進企業アクションは次の3つの活動を実施していきます。1つ目、推進パートナー企業・団体数の拡大。2つ目、がん対策を啓発するコンテンツ制作と情報発信の推進。3つ目、がん検診受診の現状把握と課題の整理です。
ここからは、令和5年度の活動を具体的にご紹介できればと思います。発信・広報、イベント、企業連携の主に3つの内容についてご説明いたします。
最初に発信・広報に関するものをいくつかご紹介します。まずは小冊子、ポスター、ニュースレターです。小冊子は、今回ご来場いただいたみなさまにもお配りしていますが、パートナー企業にご登録後、申請いただければ無料で配布しております。がんについて非常にわかりやすく記載してありますので、ご自身が読み終わった後に、ぜひご家族、同僚にもおすすめください。ニュースレターでは、がんについての最新情報をわかりやすく発信し、メールマガジンもがんに関する様々な情報を月2回お届けしています。またパンフレットも作成しています。こちらは中川先生からのメッセージをはじめ、アドバイザリーボードメンバーの紹介や、各施策の代表者の挨拶も掲載しています。
続いてYouTube、e-ラーニングです。YouTubeは、中川先生ががんについてわかりやすく教えてくれます。月1回更新し、本日ご登壇いただく認定講師の鈴木様との対談動画もございます。e-ラーニングは、今年度新たに修了証書を作成しました。従業員のみなさまだけではなく、家族の方も受講でき、がんのことを知ってもらうきっかけになります。
イベントについてです。今年度はこちらの秋田県をはじめ、香川県、宮崎県と三つの地域でセミナーを実施します。県庁と協力し共催することで、開催地域でのがん対策が根付いていくことを目標としております。後ほど、佐竹知事にもご登壇いただき、知事としては初めてトークセッションにもご参加していただく予定となっております。
企業連携についてです。ここでは企業コンソーシアム、Working RIBBON、中小企業コンソの3つの柱がございます。企業コンソーシアムでは約40社の企業を中心に、企業のためのがん対策を推進する活動を実施しております。
Working RIBBONでは、女性特有の乳がん、子宮頸がんの対策にフォーカスし、働く女性のがん検診やがん対策について議論、取材などを実施しております。今年度は特に子宮頸がんについての話題が多く、子宮頸がんにフォーカスしたチラシも作成中です。
中小企業コンソは、中小企業のがん対策について考えています。経営者の関心やリテラシーが高いほど、従業員の検診受診率は向上します。本日、ご来場いただいた方はお手元にあると思いますが、経営者や働く従業員の方へ向けたチラシも作成しました。
その他、セミナーのご紹介、企業への出張講座、パートナー企業の取り組みのご紹介、調査結果の公開なども行っております。出張講座のチラシも本日ご来場いただいた方はお手元にありますのでご確認ください。
最後になりますが、今後もがんに関する様々なことを発信し、企業のがん対策を全力で応援できればと思っています。ぜひ一度ホームページをご覧ください。最後までご清聴、ご視聴ありがとうございました。

がん対策の現状と今後の方針について
秋田県健康福祉部健康づくり推進課 課長 辻田 博史氏

秋田県健康福祉部健康づくり推進課 課長 辻田 博史氏
▲秋田県健康福祉部健康づくり推進課 課長 辻田 博史氏

秋田県のがんの現状と、県でどのような取り組みを行っているか、そして今後がん対策をどのように進めるか、この3点についてお話をしたいと思います。
まずみなさんに質問したいのですが、秋田県で、年間でがんにかかる方は何人くらいいらっしゃると思いますか。令和元年の数値ですが、年間11,099人の方ががんと診断されております。この数字は人口10万人あたりで換算しますと、全国で890.1人に対し、秋田県は1,149.0人と非常に高い状況にあります。内訳を見ますと、11,099人のうち男性が6,241人、女性が4,858人という状況です。大腸がん、胃がん、肺がんが男性の半分を占めております。女性の場合はそれに乳がんを加えますと、大体5割を超えているという状況です。
次にがんによる死亡の状況ですが、秋田県では年間どれくらいの方ががんで亡くなっているでしょうか。これは昨年1年間、令和4年の数字になりますが、4,260人の方ががんで亡くなっています。人口10万人あたりで換算すると全国が316.1人に対し、秋田県は460.0人、これは全国ワースト1位であり、26年この状況が続いています。
がんは高齢化するとかかりやすく、亡くなりやすいという病気です。全国と比較できるよう人口構成を調整し再計算した「年齢調整死亡率」を見ていただくと、全国も秋田県も減少傾向にはあります。ただ、秋田県は全国との差がだんだん開いている傾向にあります。年齢調整してもワースト3位という状況です。
以上のことから、秋田県民はがんにかかりやすく、そしてがんで亡くなりやすい県と言えます。では、このような状況に対して秋田県はどのような取り組みをしているのか、その一端をご紹介したいと思います。
まずひとつ、たばこ対策です。これががんの要因の大きな部分を占めていますので、たばこには秋田県も力を入れて取り組んでいます。喫煙率のデータがありますが、令和4年においては全国16.1%に対し、秋田県は18.2%と高い状況にあります。本県では三つの取り組みにより対策を行っています。そのひとつが受動喫煙防止対策です。令和2年4月に改正健康増進法より厳しい内容の条例を施行し、周知に取り組んでいるところです。例えば法律では事業所の中に喫煙専用室を設けることができますが、喫煙所を屋内に設けない取り組みをしている事業所さんを受動喫煙防止宣言施設として認定し、県民のみなさんにご紹介をしています。なお、この取り組みは県と市町村、全国健康保険協会秋田支部と一緒に取り組みを行っているものであります。それ以外にも、禁煙をしたい方への支援、あるいは若い世代の方々がなるべく喫煙しないような啓発を行っております。
次に塩分対策です。食塩の摂取量も秋田県は全国に比べてやはり高い状況にあります。食意識の向上のための啓発に加え、事業所のみなさま方の協力を得て減塩のメニューを作っていただき、県の一定基準を満たした企業を「秋田スタイル健康な食事」と認定し、普及をしているところです。現在26店舗、112のメニューが認定されています。
次に今日の話のメインになりますが、がん検診についてです。検診の受診率について、秋田県は、胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、子宮頸がんのどの部位を見ても東北最下位クラスにあります。
このため、対策としまして、がんの正しい知識の啓発、医療機関の先生方からの受診勧奨、あるいはがんに関する協定を結んでいる企業様からの受診の呼びかけをしてもらうといった事業を実施しています。がん検診の意義は申し上げるまでもないですが、がん検診を受診した場合、早期の段階でがんを発見することが可能ですが、受診しない場合は、ある程度体調が悪くなった状態で医療機関を受診され、ステージが進んだ状態で見つかるということになります。そうしますと、その予後が非常に悪くなるということが言われています。検診は早期発見、そして治療に結びつけるために必要なものだとご理解をいただきたいと思います。
今日みなさまに、職場でがん検診の受診機会を設けられているところはもちろんあると思いますが、もしその機会を設けられていないところがありましたら特にお願いがございます。市町村でもがん検診を実施していますので、もし職場で受診機会がないというところがありましたら、市町村のがん検診を受けるようにしていただきたいです。検診の詳しい内容は、市町村の広報誌などに記載されていますのでご確認いただき、もしご不明な点があれば市町村の担当窓口に問い合わせをいただければと思います。がんにならないためにはやはり予防が第一です。たばこ、食生活の改善など生活習慣を見直し、定期的ながん検診の受診が重要になってまいります。
では今後、秋田県がどのようながん対策を行っていくか、ご説明したいと思います。がん対策を進める上で、県ではがん対策推進計画を立てています。現在は第3期の計画ですが、来年度から第4期の新たな計画をスタートさせる予定です。
その大きな柱として、1つ目が先ほどから申し上げているがんの予防、これを推進していくこと。2つ目ががん医療、がんを専門的に診る病院の診療機能を強化していくこと。3つ目はがんとの共生、患者さんががんと診断され、社会で生活していく上で、より良く元気に生活ができる共生社会を目指していくこと。
この3本柱を支える基盤の整備ということで、がんの教育や啓発だったり、研究の推進など、総合的な取り組みにより、がん対策を進め、ひいては健康寿命の延伸に繋げていきたいと思っています。最後に目標と書いているところですが、これは国が策定しました「がん対策推進基本計画」の中に明記されている文言を引用しています。「誰一人取り残さないがん対策を推進し、全ての県民とがんの克服を目指す」ことを目標にして、県ではこうした取り組みを総合的かつ計画的に進め、がんで苦しまない社会を県民のみなさんと創っていきたいと思っています。

職域がん対策の進化
東京大学大学院医学系研究科 総合放射線腫瘍学講座 特任教授 中川 恵一先生

東京大学大学院医学系研究科 総合放射線腫瘍学講座 特任教授 中川 恵一先生
▲東京大学大学院医学系研究科 総合放射線腫瘍学講座 特任教授 中川 恵一先生

「職域がん対策の進化」副題としては「がん対策推進企業アクションと共に」ということでお話させていただきます。
これはご承知の通りだと思いますが、そもそも日本は世界で最もがんが多い国であり、簡単に言うと男性の3人に2人、女性の2人に1人ががんになります。私自身もがんの経験者で、まだ5年経っていないのでがん患者と言うべきかもしれません。
男性にがんが多い理由の一つは、生活習慣が男性の方が悪いということもあります。秋田県においても塩分が高い、喫煙者が多い、他にも飲酒などいろんな問題があります。この3人に2人ががんになるということ、これを非常に受身として捉えているのが日本人ではないかと思います。つまり、台風あるいは地震のような不可抗力だと考えることです。もちろん、がんは完全にはコントロールできません。しかしかなりの部分まで、がんは制御可能あるいは備えることができます。
自分で自分の体、あるいは命を守るということを、職域の中でもやっていただきたいです。今は学校でがんの教育が始まっています。その中で大人はどうするのか、ぜひそこは職域で、会社で進めていただきたいと思います。がんは知ることでコントロールできる病気です。実は多くの難病と比べると、ある意味非常にシンプルです。がんにならないようにするのが一点で、もう一つ、運の良さもある病気です。運悪くがんになった場合は、早期に見つけて完治させる。非常にシンプルです。1次予防2次予防とも言いますが、生活習慣プラス早期発見とがん検診ですので、この生活習慣とがん検診、このことを多くの働く日本人に知っていただきたいと思います。
日本人の死因の移り変わりです。戦前戦中は結核、高度成長期は脳卒中、そして一貫してがん死亡が増えており、現在年間100万人が新たにがんに罹患し、38万人近くがこの病気で命を落としています。この100万人のうちの3割くらいが働く世代です。そもそも、サラリーマンの死因の半分はがんですので、職場でのがん対策は非常に重要になります。数日前、がん対策に関する世論調査が公表されていました。がんの治療と仕事の両立に関して、53%の方が難しいと答えていました。そして検診受診率はむしろ減っていました。なかなか改善が見られません。調査方法が少し変わったというのもあるかもしれませんが、しかし一方で、がん治療の現場は変わっています。
例えば平均在院日数、これは半分近くまで減っています。そして、がん治療は基本的に外来でやるというのが常識になりつつあります。ですからもちろん、仕事と治療の両立は可能ですし、とりわけ私が38年間専門としてきました放射線治療については、治療のために入院する必要はゼロです。末期状態で入院しなければいけない人が放射線治療をすることはあります。しかし放射線治療のために入院するという必要はありません。しかも治療回数もどんどん短くなり、早期の肺がんは4回の通院です。日本の男性で一番多い前立腺がんは9人に1人が罹患しますが、これは進行がんであっても5回の通院で完了します。
前立腺がんの患者さんで、5回の通院の1回目です。服も着替える必要もなく、ズボンを少し下ろす程度です。これは非常に高精度な治療なのですが、適当に横になって、この体勢でCT検査をやります。適当に横になった状態でCTを撮り、臓器の位置関係などを確認し、リアルタイムに最適な治療を計画する。そして、治療が始まっていますが、入室から6分30秒で治療が終わって、そして7分足らずで、出て行かれます。入室から退出までおよそ7分です。実際に放射線のビームを受けている時間は2分もないですね。これを5回の通院ですから、間違いなく治療と仕事の両立は可能です。
ただ、やはりこういったことが知られていないというのも事実だと思います。例えば欧米では、放射線治療を受けている患者さんの割合はがんの患者さんの大体6割近くですが、日本の場合は少し増えたといっても3割に満たない程度です。多くの方ががんの治療は手術と思っています。どこでそういう意識が振り込まれたのか、テレビ、あるいは映画、そんなところだと思います。放射線治療のドラマってありません。全くドラマチックじゃないです。入室から退室まで7分ただ寝ているだけです。そのため結果的には「がんの治療は手術」というふうになってしまっています。 そしてもうひとつ。男性の方が、がんが多いです。しかしそこは生涯の話であって、これは日本人の年代とがんの患者さんの数ですが、55歳くらいまでは女性の方がずっと多いです。そして55歳で男性が追い抜き、その後一気に増えていくので、生涯を通して見ると男性は3人に2人、女性は2人に1人なのですが、55歳までは女性の方が多いということです。これは非常に重要な話です。女性が働くと、若いがん患者さんが職場に増えます。そして定年が延長されるということは、例えば55歳が定年だったこの方々は、定年退職後の年金生活者としてがんと診断されていたわけですが、今や現役のサラリーマン会社員として、がんと診断されます。女性が働き、かつ定年が延びるということは、会社の中でがんの患者さんが増えるということを意味します。
男性のがんの場合はまさに老化と言えるパターンで、簡単に言うと遺伝子に傷が積み重なって、指数的に増えていく。しかし、女性特有の2大がん、子宮頸がんと乳がんというこの二つのがんは、実は若い世代から増える。つまり老化とは関係のない要因で増えるという特徴があるのです。
子宮頸がんは、性交渉に伴うウイルス感染が原因のほぼ100%ですから、性的に活発な20代などに感染したものが、30代後半、あるいは40代初めに顕在化してきます。乳がんも二つ山がありますが、ひとつは40代後半。前立腺がんは日本の男性の9人に1人と言いましたが、乳がんも日本女性の9人に1人です。
「女性の部位別がん罹患率」ですが、大腸がん、胃がん、肺がん、乳がん。この大腸がん、胃がん、肺がんはまさに男性の罹患率にそっくり、要するに老化のパターンです。
その中で乳がんだけは40代後半がピークでそれから減っていくというのはなぜか。これは乳がんを増やす、老化以上の最大の要因が、女性ホルモンによる刺激だからです。男性ホルモンによる刺激で増えるのは前立腺がんです。男性ホルモンと女性ホルモンの違い、男性ホルモンは一生涯分泌されます。だから80歳過ぎた役者が子どもを作ったりします。一方、女性ホルモンって50歳過ぎで分泌が止まります。生理が止まる、閉経と言いますが、そうなってくると女性ホルモンによる刺激がなくなってくるので、50代以降は減ってくるということです。簡単に言うと、閉経の直前、40代後半に乳がんのピークを持つということ。
子宮頸がんも申し上げたように30代後半がピークで、これはヒトパピローマウイルス、HPVと訳されます。これが原因のほぼ100%です。ということは性経験のない女性には子宮頸がんはまずできないということです。ですので、性交渉を始める前の時期に、このウイルスに対するワクチンを打っておくと予防ができます。
実際に2013年からこのHPVワクチンが法定化されて、小学校6年生から高校1年生の女子に対して無料で打てるようになっています。ただ副反応に関する報道が大きく取り沙汰されて一時8割あった接種率がほぼゼロになりました。国際的に見ても、日本でだけ接種率が低いという状態が続きました。その結果、子宮頸がんの罹患率ですが、我が国でだけ再び上昇しています。おそらくこの減少していた時期は衛生化で、家庭にお風呂が普及するということがあったのではないかなと思いますが、その後日本でだけ罹患率が増えているというのが、やはり先ほどのこの接種率と関係すると思います。
さて、今再び9年ぶりに積極的な接種勧奨が始まっているわけですが、この間に接種対象学年であった女性に対してはキャッチアップ接種、具体的には1997年の4月から2006年の4月の間に生まれた女性に関しては、小学校6年生から高校1年生という定期接種の年代ではないですが、無料で打てるということになっています。ただ、これは性交渉を始める前に打った方が、遥かに効果が高いです。それでも接種をしていただけるならやるべきだと思います。17歳から26歳、つまり職場にいる方もかなり多いはずです。2025年の3月までの時限的な措置ですが、3回の接種が必要で、6ヶ月かかるということは、来年の9月までに打っていただかなければいけないです。このことも若い女子社員に周知していただけるといいと思います。会社でのがん対策が重要になってきているということです。
女性は若い頃からがんに罹患しますので、例えば仕事を持ちながら、治療している会社員という点で見ると、男性が19万人に対して女性は31万人。遥かに女性の方が多いということです。にも関わらず、実はがん対策推進企業アクションのパートナー企業の検診の受診率については、胃がん、肺がん、大腸がんは5割を超えているわけですが、乳がん、子宮頸がんについては低く、とりわけ子宮頸がんについては3割程度にとどまっている。非常に大きな問題があります。
そもそも日本は国際的に見てもがん検診受診率が低いわけです。アメリカの半分近くと思います。そしてこのがん検診の受診機会について、胃がん、肺がん、大腸がんに関しては勤め先が多いです。乳がん、子宮頸がんは当然主婦の方もいるので低く、職場でがん検診を受ける機会が多いということです。
先ほど秋田県の辻田課長から、もし職域で受けられないのであれば、住民検診、自治体の検診をということ、これは非常に重要なことだと思います。結果的に受けていただくということ、これが大事だと思います。簡単に言えば定年の延長と、女性が働くということを受け、職場でのがん対策の重要性が増している。そしてがん検診の受診者の多くが職域でのがん検診を受けているということです。
職域のがん対策が重要になってきている中、がん対策推進企業アクションが、厚生労働省が委託する国家プロジェクトとして、とりわけ職域でのがん対策の啓発をして15年を迎えています。恒久予算ではなく、それが15年間続くというのはかなり珍しいことです。言ってみれば必要性が認められていると思っています。参画されたパートナー企業の数は、5,000社に上っています。辻田課長も少し触れました国のがん対策基本計画の中にも、企業アクションが初めて引用されています。三つの課題があり、がん検診の受診率、職域での受診率を高めること、がんになっても働き続けられる環境を作ること、そして大人のがん教育を職場でやっていただくというこの三つを大きく掲げています。
先ほど触れましたが、第4期のがん対策推進基本計画、がん対策基本法が定めるマスタープランの中で初めて、がん対策推進企業と連携事業、がん対策推進企業アクションが引用されました。15年間でいろいろな事業を始めていて、みなさんのお手元にあります小冊子「働く人が、がんを知る本」を配布すること。それからブロックセミナーの実施です。今日がこの3大ブロックセミナーのひとつ、秋田セミナーです。後ほど鈴木様に認定講師としてお話しいただきます。その他にも表彰制度、出張講座、YouTube、コンソ40、e-ラーニングなど様々な取り組みをしています。
厚生労働大臣賞を過去に取られた伊藤忠商事さんからいただいた情報でこういうことがありました。がんと仕事の両立支援を始めることにより、もちろんその前から様々な取り組みがありますが、こういう健康経営を目指す中、伊藤忠商事さんは労働生産性が5.2倍に増えたということです。そして、もうひとつ非常に興味があったのは出生率の推移です。元々0.6人と非常に低かった出生率が、伊藤忠商事さんの場合ですが、2.0人近くまで増えたそうです。がん対策を含めた健康経営をすることによって労働生産性が上がり、そして少子化対策まで進むという事例でした。
さて、このパートナー企業数5,000、実は大企業中心ではありません。6割近くが100人未満の中小企業、もちろん東京が一番多いわけですが、秋田は20社です。これは今年の3月末の数字ではありますが、ぜひここを増やしていただきたいと思います。がん対策推進企業アクションは様々なことをやっておりますが、簡単にそのまとめをしていきます。
やはり職域がん対策の啓発、これが最大とも言える大きな柱です。これには先ほど私が申し上げた学校でのがん対策、学校でのがん教育がひとつヒントになっていると思います。今、学校でがんの教育が始まっています。ということは、大人はどうするのかという問題があります。中学校と高校の学習指導要領の中に、がん教育が明記されています。ただ保健体育という教科は、なかなか保健の授業がされてきませんでした。
欧米では体育会系の先生に教えていただくのはスポーツであって、保健というのは主に理科で習います。日本人のヘルスリテラシーの遅れが目立つというのは、こういったことにも起因するのかなと思いますが、いずれにしても学習指導要領にがん教育が明記されています。従って教科書も一新されています。
これは中学生の保健体育の教科書です。住民検診先ほど辻田課長からお話のあった対策型検診で、例えば子宮がん検診は、20歳から2年に一度、30代、40代での罹患が非常に多く20代の患者も珍しくありません。ですから20歳から検診をするということは、中学生高校生の女子生徒にとっては数年後の課題なわけです。がんができるメカニズム、がんの発生要因、これなどは非常に印象的なことでした。「身近な大人に向けて、がんに対してどのように行動すればよいか、アドバイスを考えてみましょう」これは普通逆ですよね。しかし親の世代はがんのことを習っていないので、むしろ中学生が親にアドバイスする。こういう時代になっています。こちらは高校の教科書ですが、これはロボット手術、手術支援ロボット『ダ・ヴィンチ』による手術です。あるいは高精度放射線治療、こういったものも実は子どもたちは今、習っています。従って大人のがん教育が非常に重要で、これをやはり職域で進める必要があります。
そんなつもりで「働く人が、がんを知る本」を監修しています。第5版ですが、全て合わせると約500万部というものすごい大ベストセラーです。ここに私が書かせていただいたものは、ほとんど中学生の教科書にも載っています。
職場においてはなんといっても中小企業に関してです。日本を代表するような大企業では、やはり当然のことながら啓発の活動をしっかりやられています。やはり中小企業がひとつのポイントだろうと思っています。
YouTubeについて、これは企業アクションのホームページからも遷移できます。今、最新が49回で、放射線治療が一番見られていたようですが、これひとつひとつ見ていただくと非常に参考になります。見ていただくと、がんで命を落とすリスクはどんどん減ると思います。企業アクションは厚生労働省の国家プロジェクトですので、全て無料です。ぜひ登録していただき、ご活用いただければと思います。
e-ラーニングなどもやっていまして、これらも全て無料です。最近はグローバル企業から英語版を作ってほしい、というようなリクエストもあって英語版も用意しています。
それからがん経験者の認定講師の方々が、出張講座等で啓発活動を行っています。今日は鈴木様よりお話ししていただきますが、出張講座もやっています。東京のがん研有明病院との連携で非常に豊富な講師陣が充実しています。
5,000社のパートナー企業が今あるわけですが、その中でも全体を引っ張っていただけるような、自社と他社に対して働きかける企業コンソーシアムというものも作っています。自然にできたと言うべきかもしれません。自社とともに他社の従業員を守る、これは5,000社の中のトップ40と言っていい、そういう企業が全体を引っ張るという構図です。様々な取り組みをしてもらっています。企業研修会、あるいは分科会は二つ作っていまして、がん検診などに関わる情報の取り扱い、それから両立支援について。この二つの分科会を作っています。これは令和5年度の実績とスケジュールですが、私も簡単なセミナーをさせていただきました。
この5,000社を引っ張るコンソ40のメンバーですが、必ずしも大企業ばかりではありません。従業員数100名以下の企業もあります。さらに、この全体を引っ張っていただきたいコンソ40の検診受診率と、それ以外の全体の受診率を比較するとコンソ40は非常に高い受診率、全て60%以上となっています。今、国の目標が50%から60%に変わっています。ただその中で精密検査に関すること、例えば要精密検査の対象者に受診の勧奨をしているか、これは全体もコンソ40も2割に満たないという大きな問題があります。
実は職域のがん検診の大きな課題が精密検査であり、現在企業アクションのパートナー登録数は約5,000社で、これは日本の会社の中でがん対策に関心があるからこそパートナー登録をしていただいています。コンソ40というまでにはいかないとしても、やはり非常にがん対策に関心がある会社さんですが、その中でもやはり乳がん、子宮頸がんの受診率が低いという問題があります。
その一方で、会社で働く方の中で女性の方ががんになりやすいです。若い頃は女性の方が多いわけですが、70歳になってようやく男性と女性のがんの発症リスクが均等になるわけです。それまでずっと女性の方が高いわけですから、本来は乳がん、子宮頸がんのところにも少なくとも注力してもらわなければならないのですが、そうはなっていないということです。この企業アクションでのがん検診受診率は、昨年の7月に国の「がん検診のあり方検討会」で私が報告をしました。
こういうデータは、実はほとんど国は持っていないです。ですので今後も、企業アクションがしっかり職域でのがん検診受診率を算定し、それを国に報告するという形を取ろうと思っています。 その中で、生命保険会社の大同生命さんとの共同調査で、経営者のがんへの関心度、がん対策との関係を調べたデータがありますのでご紹介します。
経営者の方のがんへの関心は、大いに関心がある、関心がある、あまり関心がない、全く関心がないなんてちょっと困るんですけど、この経営者のがんへの関心と、ちなみにこのデータは先ほどご紹介した第4期のがん対策推進基本計画の中でも「大いに関心がある」また「関心がある」と回答した経営者は7割だった。この経営者の関心と、各がんの検診の実施率、見事に相関するわけです。
ある意味当たり前かもしれませんが、こういったことも実証的に示されています。それから両立支援についても、経営者のがんへの関心度がこの両立支援を左右するということですから、やはり経営者の方ががんに関心を持っていただく。先ほどありましたが、社長さんががんあるいは健康というものに対して非常に関心があるということです。でも今、人手不足です。採用にしても、あるいは離職にしても、やはり健康経営がひとつ鍵になります。そういう意味では経営者の方にとって、健康問題、とりわけサラリーマンの死因の半分を占めるがんに関して関心を持っていただくことが、経営課題になってきていると私は思います。
この精検受診の問題ですが、これは自治体が行う住民検診における精密検査受診率です。大腸がんが一番少ないです。これは痔だからしょうがないという認識が、ひょっとしたらあるのかもしれません。しかし、実は便潜血検査は痔の出血は拾いにくく設計されています。それでも7割は精密検査を受けています。乳がん検診などは9割近くです。
一方で、この職域での精密検査受診率のデータがほとんどないのですが、健保組合を対象にしたデータとして被保険者、つまり社員さん、それから被扶養者の精密検査受診率のデータです。胃がん、肺がん、大腸がんは、実は社員さんの45%しか精密検査を受けていません。乳がん、子宮頸がんになると社員さんの受診率も上がりますが、被扶養者の方の受診率の方が高いです。
この社員さんが精密検査を受けていないという問題。これコンソ40に関しても、やはり共通だということをお話ししました。職域がん検診はそもそも法律の裏付けがありません。自治体が行う住民健診は健康増進法という法律があるため、自治体の職員が受診勧奨を行うことができます。しかし職域においてはある意味、任意の事業でありますので、同意がない限り受診勧奨ができないという問題です。
もうひとつ。精密検査が必要ということは、がんの疑いがあるのではないかという共通認識があるようですが、日経の連載コラム『がん社会を診る』の今年6月21日の記事に書きましたが、大腸がんの最初の検査、便潜血検査を1,000人が受けたとすると930人は陰性で66人が要精密となり、大腸内視鏡検査になります。66人のうち最終的にがんと診断されるのは2人です。33分の1です。
ですから、この便潜血検査陽性というのはがんの疑いではありません。ただし、この66人にとっては早期発見のチャンスです。がんの疑いではなく、早期発見のチャンスだと社員も会社も知っておく必要があります。しかし法律の規定がなく、ある意味福利厚生事業ですから、やはり情報の取り扱いに関しては誤れば個人情報保護法違反になるわけですね。この辺で足がすくんでしまっているんですが、簡単に言うと、きちっと同意を取る必要があるということです。精密検査の情報を、会社あるいは健保が知って、受診勧奨することに関して同意を取っておくということです。
これに関しても、企業アクションの方で情報提供しており、取り扱い規約あるいは同意書の例なども全て置いています。国の基本計画の中では、職域のがん検診について法的な位置づけを含めた対応の検討を行うと記されていて、今後この職域のがん検診に関する、位置づけというのも変わってくるかも知れません。それまではやはり、きちっと同意を取って行うということです。
私の義理の妹が48歳で大腸がんで亡くなりました。元々、大腸がんの便潜血検査を行っていなくて、それでステージ4と診断されました。私の弟も東大の医者なのですが、月々の医療費は60万から70万と言っていました。がん医療費の全国集計で、大腸がんのステージ4を抗がん剤治療で行う。そうすると最初の1年間の医療費は750万で、もしこれを便潜血検査で1期に見つけていれば、内視鏡切除をします。がんというのは臓器の上皮から出て奥側に向かって進みますので、早期に見つければ、がんの下に塩水を入れて浮き上がらせ、一気に切除するとこういうことができます。この手術をすると、医療費は約40万です。
750万と40万ですね。全てのステージ4、あるいは全ての末期がんは早期がんであった日々があるわけです。その期間というのは、がんの種類によって1年あるいは2年ですから、例えば乳がんや子宮頸がん、最近は胃がんもそうですが2年に一度検診をやりましょう、肺がんなどは少し早いので、毎年やりましょうということです。全ての末期がんの患者さんには早期の日々があったはずです。
私どもと富士通健保さんが共同で、大腸がん検診の費用対効果を調べたデータがあります。少々細かいですが、簡単に言うと、2014年に大腸がんの検査をした方の総コスト、しなかったことの総コストです。大腸がんになった方ですと、こちらのグラフが大腸がん検診をやっている受診群ですが、受診群には必ず余計なコストがかかります。まず便潜血検査のコスト、これは検診を受けない側には存在しないコストです。もし陽性だった場合、ほとんど結果的にはがんとはならないわけですが、疑陽性だった患者さんは内視鏡の費用がかかるわけです。ほとんどは最終的に白になるわけですが、この二つの部分は検診を受けない方たちには存在しないコストです。
しかし検診を受けない方々について、先ほど話したようにステージ1とステージ4では全く医療費が違うわけです。したがって、検診にかかるコストはこちらには発生しないのですが、総コストとしてはこちらが高くなっています。これは2014年にがんを発見された方々ですが、2017年にがんを発見された方々で同じことをやると差が広がります。というのは、だんだんと、このがんに関する薬物療法の医療費が上がってきているからです。今後の日本がもう経済的な余裕がなくなる中、この医療費の問題も今後大きなテーマだと思っています。
予防できるがんをきちっと予防できていたら、どうなるのか。がんによる経済負担は全体で2兆8,600億円と見積もられている中で、1兆円はセーブができます。その中にはピロリ菌の除菌、あるいは肺がんに関する喫煙、肝臓がんに肝炎ウイルスの治療、HPVワクチンの接種などがあります。
日本の発がんリスク要因のトップは感染で、この3つが重要ですね。感染は胃がんにおけるピロリ菌、子宮頸がんにおけるHPV、そして肝臓がんにおけるC型B型の肝炎ウイルス。こういったものも会社の中できちっと推進していく。
ただ、先ほどの企業アクションでのパートナーアンケートの中でも肝炎について聞いています。肝炎は大人になってから新たに感染することは基本的にないので、肝炎の検査は生涯1回だけやればいいのですが、検査の実施有無に関しては「実施していない」が4分の3にも及びます。この辺も、企業の中で「感染」という問題は非常にデリケートな問題であることはわかっていますが、しかしがん対策という面で、こういったことを進めることは経済的な効果もあるのだということを、まずはみなさんに知っていただきたいと思います。
がん対策推進企業アクションは今年、フィロソフィーを作りました。「がんと向き合い、社員と会社を更なる高みへ」ということ。がん対策は間違いなく経営課題です。そのことを多くの経営者に知っていただき、がんに関心を持っていただけば職域でのがん対策もさらに進化すると思います。

企業事例発表
株式会社和賀組 総務課長 近藤 真紀子氏

株式会社和賀組 総務課長 近藤 真紀子氏
▲株式会社和賀組 総務課長 近藤 真紀子氏

株式会社和賀組総務部、近藤真紀子と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
弊社は明治10年創業、時代の要請により、土木建築請負業へ進んだとされております。明治から大正、昭和の初めまでは木造校舎や橋梁建設、さらには木造船の建造を行っておりました。現在は男性67名、女性9名、計76名で土木、建築、舗装、鉄道工事、地盤事業、戸建住宅の六つの柱を軸に事業展開しております。また、コンクリート補修技術を導入し、積極的に県外への橋梁補修にも参入しております。昨年、創業145周年を迎え、現在は150周年を目指し、社員一丸となって励んでいるところです。
弊社はこのような認定や協定に取り組んでおります。特に4年前から取り組んでいる秋田県版健康経営優良法人認定と6年前から取り組んでいる健康経営優良法人認定は、非常に力を入れている取り組みの一つです。2021年と2023年には、ブライト500の認定をいただきました。現在、2024年に向けて認定申請中です。
それでは、両立支援に取り組むきっかけからお話させていただきます。少子化に伴い人手不足は、建設業でも深刻化しています。どうしたら人材確保できるのかを考えた結果、新卒者の採用、女性の雇用・活用、定年後の再雇用、そして今いる従業員に長く働いてもらうことが最も重要だと考えました。せっかく入社してもらった方に辞めて欲しくないのが一番です。
長く働いてもらうには、社員が健康であること。これが治療と仕事の両立に力を入れたきっかけでした。事例紹介でお話ししますが、長期療養になるとは誰も思っていません。いざそうなったときに、会社が対応できなければ、治療のために仕事をやめなければなりません。両立支援の実現のためにたくさんのことを改善していく必要がありました。
まずは弊社の事例をご紹介いたします。管理職の男性社員です。検診、2次検診をしっかりと行っていた方です。このときもすぐ2次検診を受けたことで、早期発見に繋がったと思います。現在は経過観察、定期通院により治療を続けております。
傷病手当や限度額申請、時間単位の有給、休暇サポート要員追加等のサポートを行い、本人の不安を軽減できるようにしました。管理職として取りまとめる立場におりますが、治療の間は代理が業務をフォローします。部門間でしっかりと連携が取れているからこそ安心して治療に専念できた事例です。
次に、途中入社の男性社員です。入社してすぐに受診した職場検診でがんが発見されました。自営業の後、出稼ぎに数年行き、地元に戻ってきて途中入社しました。職場検診を受けたことがなかったそうで、入社後初めての検診でがんが見つかり入院になりました。本人は入社して間もないのに迷惑をかけてしまったと気にしていましたが、見つかってよかったと仲間から温かい言葉が返ってきました。和賀組に入社していなかったら手遅れになるところだったととても感謝していました。入院、治療の間は傷病手当を利用し、復帰後は作業を軽減しながらできる範囲で働いてもらっています。現在も通院しながら治療しており、半日単位での有給休暇対応など一部労務免除の優遇措置を取ることで、治療に行きやすい環境を作りました。休業取得や作業の軽減もやはり周りの配慮が不可欠なので、社員への周知を徹底しております。
こちらも途中入社の男性社員です。健康診断のオプションにより、がんが発見されました。費用がかかるので希望者が少ない現状ですが、実際にこれで発見した事例は数件あります。この方はちょうど65歳継続雇用満了の年にわかりました。このまま仕事を継続しながらの治療を進めましたが、一旦退職し、抗がん剤治療に専念したいと要望を受けたため、本人の希望を尊重し、治療に専念してもらうことにしました。
その入院から5ヶ月後には見事復帰を果たし、5年間元気に現場で働き続け、70歳継続雇用満了を迎え、退職されました。今は趣味の畑やお孫さんとの生活がとても楽しそうです。病気がわかったときも、まずは治療に専念して頑張りたいと、自分の意思を伝え、その後復帰してくれたことに、双方が感謝の気持ちを持てた事例でした。こうしてオプションにより助かる命があるのだと実感できる事例です。特に前立腺がんは50歳を過ぎたら、ぜひ受診をお勧めします。
こちらは女性のがん検診での事例です。オプションの婦人科検診でがんが発見されました。毎年受診していましたが、4年前の検診で要精密検査になり、すぐに2次検診を受け、手術が必要との診断でした。早期発見のため完治できるとのことで、即治療しました。大切な仲間で、しかも同じ女性の立場としてわかりすぎてつらかったので、完治して本当に嬉しかったことを今でも忘れられません。
任意のオプション検診だからこそ、本人が希望しないと進行してしまっていたかもしれないと思うと、とても怖いと思います。婦人科検診は、もしかしたら触れづらいことかもしれませんが、女性は同じ立場に立って言えること、また、異性でも本当に思いがあって、伝える言葉はきっと変わるものだと思います。この場をお借りして、ぜひ女性のみなさまに勧めていただきたいと強く思います。
最後に、2次検診義務化により発見された事例をご紹介します。入社11年目ベテラン運転手の方です。数年前は2次健診を義務化していなかったので、検診の紙を見ないときもあったそうです。
7年前、要精密検査によりがんが発見され、長期入院、本人にとってとてもショックなことで「みんなに迷惑がかかるから」と退職も考えたようですが、社長から「今は仕事のことよりしっかりと治療すること、みんなでサポートするから大丈夫だ」と力強い言葉をかけてもらい、前向きに治療を始めました。限度額申請や傷病申請をして、5ヶ月の長期入院。退院後、体力の回復を見守り仕事へと復帰しました。短時間の治療が長期に続く場合は、時間単位の有給休暇取得、少し体調が悪い場合に休憩をとるなど一部労務免除の措置や、体調不良時の急なお休みにも業務が円滑に進むように、サポート要員を追加しました。
昨年、再度入院が必要になったときは、かなり悩んでいました。仕事が気になり入院に踏み切れずにいたところを周りが察し、業務に心配がないことや、治療を行うことを幹部から説得しました。数年前に導入した入院費の補助により、本人の負担がかなり軽減されることにもなったようです。2次検診の大切さを伝え続けることで、本人の意識が変わり、がんの早期発見に繋がったと思います。会社としても両立支援を取り入れる大きなきっかけとなった事例でした。
病気にならないために、会社ができること、本人ができること、そして治療と仕事を続けるために、課題として以下のことを考えました。
1、社員の健康状態の把握
2、社員の健康意識の改革
3、働きやすい職場環境の整備
まずは健康診断の見直しをしました。数年前までは、社員全員が検診車で受診していました。しかし検診車では、オプションの受診にやや限界がありました。もちろん特定健康診断を受けるだけならば何も問題はありません。ただ、日本人の2人に1人が生涯でがんになるという統計を知り、受診可能な検診は受けさせたいと会社に要望しました。
要望後、付加検診対象者、婦人科検診を希望の女性は医療機関で健康診断を行うことに変更しました。結果、オプションとして付加検診を受診可能とし、また今まで市町村で個別に数日かけて有給で受診していた婦人科検診を、健康診断と一緒に行うことが可能となりました。35歳未満の胃の検診も希望者は検診可能です。
途中入社した29歳の社員からは「前の会社では35歳未満の胃の検診はなく、今まで受けたことがなかったので受けたい」と要望があり、自分の健康状態の確認ができたと喜んでいました。
次は2次検診。就業規則の見直しをしました。「いつものこと」「面倒」「どうせ何ともないだろう」と未受診のままの社員も多かったのが現状です。そこで、2次検診受診の義務化と徹底を就業規則に盛り込みました。また、2次検診受診については、特別休暇を付与することにしました。特別休暇にすることで、仕事の一環として2次検診を受けるという認識に変わりました。
そして、さらに、毎月の会議で確認・発表、未受診者に促すことにしました。全員が検診に行くまで毎月促し続けます。そして、いつどこの病院に行ったか、結果はどうだったか報告してもらいます。その結果、2018年から5年間、2次検診受診率100%でした。
そして今では率先して受診し、結果を報告してくれる社員が増えました。今後も受診率100%を継続できるように頑張ります。
みなさんに珍しいとよく言われる手当の一つに「禁煙手当」というものがあります。これは2018年から導入しました。申請者には毎月3,000円が支給されます。申請後に、喫煙行為があった場合は全額返金となりますのでそこは気をつけなければなりません。この取り組みで禁煙に踏み切った方ももちろんいますが、一番効果があるのが、新卒者かもしれません。社会に出て喫煙の機会はどこかであると思いますが、踏みとどまる機会になっているのは確かです。
弊社は三つの事業所にわかれていて、それぞれ50人未満のため、努力義務ではありますが、ストレスチェックを毎年行っています。ストレスもまた、がんや様々な疾患の要因になるようですので、高ストレス者が面談を希望した場合は、産業医の先生と面談をします。要因は様々ですが、早期発見は重要と考えます。
かなり長い質問が続きますが、全員対象として健康アンケートを毎年実施しております。ストレスチェックと重なるところも多いのですが、これによって健康に対する意識がわかります。3年連続で行うことで、前年比も確認できて、会社としての課題も見えてきます。会社が実施していることと、社員が感じることのずれなどもわかり、とても良い取り組みだと思います。
次に、検診の結果、病気がわかったときの体制です。健康相談員として私、近藤と各所属部長が相談窓口となっており、順に対応する流れになっているので、本人が1人で悩む必要はありません。本人より相談窓口へ、窓口より会社への報告、今後の体制を話し合うとともにその結果と社内制度の伝達をします。医療機関より、治療計画や診断書などを提出してもらいます。
休むとなると本人は生活面や心苦しさから不安でいっぱいだと思います。会社として利用できる制度を総務より、休む間の仕事のことは管理者より説明します。入院治療に向けて、本人がどうしたいか希望を確認することも大事だと考えています。
職場復帰後、入院治療がわかり、職場復帰することが決まったら、本人より今後について報告。このときに本人の希望も再確認します。体力に自信がないときや、長期的な治療が必要な場合は、軽減作業や業務サポート対応をして検討して治療と仕事を両立できるようにします。それには周りの社員の理解や協力がなければ絶対に無理なことなので、各部署への周知、体制が整ったら本人へ今後利用できる制度対応などを伝えます。
長期療養になってしまった場合、会社ができるサポート内容をまとめてみました。本人が安心して制度を利用できるように、限度額申請や傷病手当の説明と対応を素早く行います。有給休暇は1日、半日時間単位で本人の意思で取得できます。職場復帰のサポートとして、業務内容の見直しや業務のサポートをします。必要であれば働きやすい環境への配置転換も行います。
次に会社の保険等を活用したサポートです。傷病労災手当に2割補填、1年半後は60歳まで、一定割合の保障が続く長期休業補償保険、病気による入院の医療費が全額補填となる任意労災付加保険、急な体調不良の相談などを24時間電話でいつでも相談できる24時間利用可能なサポート保険、他各種保険に全額会社負担で加入しております。
取り組みの成功事例です。長期治療への取り組み、有給休暇、治療と仕事の両立について、より良くするために課題となっていることを考えました。
取り組み前は、通院をするために有給休暇を使用していました。しかし、長期治療の場合は半日単位の利用でもすぐに有給が減ってしまいます。ひとつの例ですが、2時間程度の治療に対しても、半日の有給休暇を取得すれば、20日通院するだけで10日間消化してしまいます。入社1年目ならば、有給休暇がなくなり、本人はその後の治療に不安が残ります。そこで数年前、時間単位の有給休暇導入を検討しました。現在は時間単位の有給休暇を導入し、1日、半日、1時間からの時間帯を自由に選択できます。
最後に、人生100年時代とは、健康で働き続けるために何をしなければいけないのかを、一方通行ではなく一緒に考えていく時代だと考えます。会社にやらされている感覚ではなく、従業員自ら意見を出し合い、会社と一緒に進めていくことが大切です。この取り組みに至るまで、2次検診受診率はかなり低かったと思います。根気よく取り組みを進めてきたことや、就業規則を変更し、2次検診の義務化と特別休暇、そして社長自らが健康について思いを伝えてきた結果が、社員の意識向上に繋がり、5年連続2次検診受診率100%になっていると思います。
弊社の社長は社員が財産だと言ってくれます。その言葉にお返しできることは、我々社員1人1人が健康に明るく朗らかに働くことです。私たち従業員もその思いに応え、検診後の2次検診の早期受診、早期治療を積極的に行うように意識改革をしていかなければと考えます。決して他人ごとではなく、誰にでもあり得る病気やがんに対して、仕事と両立しながら治療を進め、自分の人生をしっかりと歩んでいけるよう、会社として引き続きサポートしていきたいと思います。
本日このような機会をいただきましたので、みなさまの取り組みも教えていただき、可能な限り取り入れていきたいと思います。これからも治療と仕事の両立支援に励み、安心できる職場環境作りを続けていきたいと思います。ご清聴ありがとうございました。

『明日、あなたががんになるかも!?』〜イザのときに焦らぬために〜
がん対策推進企業アクション 認定講師 鈴木 信行氏

がん対策推進企業アクション 認定講師 鈴木 信行氏
▲がん対策推進企業アクション 認定講師 鈴木 信行氏

今日は私ががんになった経験を少しお話しして、みなさまの企業活動においてお役に立つことがあればと思い、このようなお時間をいただいております。どうぞよろしくお願いいたします。3章立てにしてあります。第1章が私のがん体験についてお話をしまして、第2章、今思えば組織の一員としてどうだったのか。そして第3章、もっといろんな使える資源があるよね、という提案をさせていただければと考えております。
私のがん体験の話をする前に、この会場にいらっしゃる方、またオンラインでご覧の方、みなさん自分のことだと思って、少し考えていただきたいと思います。これからお話するのは、あなたのことです。
ここにいる多くの方が会社で、自分自身が健康診断を受けていると思います。あなたは先日、健康診断を受けました。この検診の後、産業保健スタッフ、看護師さんや保健師さんがいらっしゃる企業であればその方から、あるいはもう少し小規模だと人事の方でもいいかもしれません。その方から、あなたのところに電話が入ります。「至急来てください」と。そこに行きますと、そこには産業医がいました。あなたにこう言います。
「先日受けていただいた検診で、少し気になる結果があります。至急、大きな病院に行ってください。私の方で手配しておきました。上司にも話をしておきます」
あなたは、指定された日に少し離れた大きな病院に行きます。予約が入っています。そこに行きますと、採血やレントゲン、様々な検査を受けることになりました。一通りの検査が終わった後、あなたは診察室に呼ばれます。そこには初めてお会いする医師がいます。その医師はCT画像をあなたに見せてくれます。
「これはあなたの画像です。ここに白い点があるんです。これは、詳細は調べないと何とも言えませんが、間違いなくがんでしょう。このがんの場合様々な治療法がありますが、医師としては手術をし、そして放射線療法を受けることをお勧めします。しかも少し早めがいいんです。今日は10月25日、手術室を調べたら11月2日が空いています。前の日に入院をし、10日ほど加療していただくことは可能でしょうか?」さあみなさん、自分の手帳を開いてください。
どうですか。今こうやってお話をしましたのは、実際に私ががんを告知されたときの話を、少しだけアレンジを加えていますが、大体その通りにお話ししました。今あなたはがんの自覚がありますか?自覚症状ないですよね。だけど、今あなたは立派ながん患者になりました。私と同じ立場です。さあ、あなたは今何を思い、何を考えましたか。
考えていただいている間に少し自己紹介をしましょう。がんに関して言いますと、大学3年生の20歳のときに最初のがん、精巣腫瘍になりました。ここではわかりやすく精巣がんという言葉で表現させていただきます。その後、会社に入社しまして24歳のときに、精巣がんが再発し、そして治療を余儀なくされました。こちらの方は寛解と言ってひとまず治療を終えてもいい段階になっていますが、6年前に新たながん、甲状腺がんが発見され、現在はそのフォロー中ということになります。
先ほどの中川先生から引き続きまして、日本の中でいろんながんがある中で、検診の対象になっているがんがたくさんありますけれども、私がなったがんはあいにくどちらも一般的な検診ではなかなか対象としづらいがんなのです。一般的な検診の対象外のがんになった経験がある、私はそういう人間です。
現在はこのように障害があり、がんという経験をしたことを生かしまして、いくつかの組織を運営しております。患者と医療者を繋げていきたいという思いがあって立ち上げた組織、『患医ねっと』もあります。
オンラインの方に見づらいと思うので写真を持ってきました。左側は私の4歳か5歳ぐらい、かわいい頃の写真を持ってきましたけれども、二分脊椎によって既に右足にコルセットをはめていて治療中だとわかると思います。右側には杖をついた私の写真を持ってまいりました。こちらががんのときの写真になります。左側が抗がん剤を打っている24歳のときの私です。この少し前にあった抗がん剤で髪の毛が抜けましたので、大変髪の毛の短い状態です。また少し生えてきていますが、今打っている抗がん剤でまたこの後に髪が抜ける、それがわかっている状態の私です。右側、これは甲状腺がんの手術が終わったばかりのときです。妻がこうやって写真を撮ってくれて、ありがたいです。こうして講演で使うことができる写真を撮っておいてくれたんです。
私が今運営している『患医ねっと』ですけれども、患者と医療者を繋げたいという思いがありまして、例えば薬局、薬剤師向けの研修をしています。また、市民向けの啓発活動も行っています。ご高齢の方が対象ですけれども、そういう方にどうやったら病院や薬局をうまく選ぶことができるのか。あるいは医療者とどうやって付き合っていけばいいのか、そういうことをみんなで考えていこうという啓発活動をしております。またそういった話を1冊の本にまとめて書いています。
現在ちょうど共同通信社にコラムを書き終わりまして、ここ秋田の地の秋田魁新報さんに私のコラムを掲載していただいています。20回シリーズで先日17、18回目が掲載され、そろそろ終わってしまいますが、もしご興味があれば、魁新報さんの過去の記事を追っていただくと、本と同じような内容が載っていますので、そちらを参考にしていただければと思います。
さあ、私のがん経験がどんな状態か、どんな状況だったか、少し掘り下げてみたいと思います。
1回目がもう30数年前の話なので、ちょっと今の時代とは違うなと思いますけれども、そもそも私はがんの告知をされていないのです。全くもって病院の情報がないまま、医師に言われるがまま入院し、自分が何なのかもわからない。でも言われた通りにすればいいんだ。何も考えない無の境地だったなと当時の私を振り返ると思います。今はこんなことはないですね。先ほど、実際に皆さんにがんの告知させていただいたように、今は普通にがんという言葉も診察室で出てくる時代になったなと思います。
24歳の再発のとき、企業に入って1年目でしたけれども、こちらはがんとわかっていました。もう自分の中で、病気についての知識が多少ありました。そうすると、よく「情報があるといいだろう」、そういうふうに思われがちですが、このときの私は違いました。情報が中途半端にあるからこそ、不安でいっぱいです。しかし、医師はなかなか病気について言ってこない。家族も言ってこない。全てが遠まわしなのです。不安だけが押し寄せて、毎晩毎晩、入院しているベッドの中で涙を流していた。怖さだけがあった。そんな私でした。
時代が変わりまして、今はがんというのがわかるようになりました。私自身も成長することができました。がんは恐れる病気じゃないんだ。きちんと向き合えばいいんだ。そして、医療者とともに共同することができるんだ。医師に言われるがまま治療を受けるのではなく、自分がどういう生活を送り、どんな医療を受けていきたいのか、それを伝えればいいんだ。私はこの20年間、30年間で学ぶことができ、それを実践したのがこの甲状腺がんの治療だったと思います。
また、このときに私が感じたのは、人生の選択、そして集中だったなと思うのです。6年前私が甲状腺がんと言われたときの状態は、いくつかの組織を運営し、経営していました。左上の写真は私の飲食店で撮った写真で、左下の写真は講演会の写真です。人数が多いのが良い、多くの人の前に出たい、と生き生きゴーゴーみたいな話でした。ところが、自分がこの甲状腺がんになり感じたことは何か。
こういうことがやりたいのではないな。自分は今、人生の中で何をやりたいのだろうか。改めて考える良い機会になりました。今やりたいことを私は十分できている。それは何かというと、先ほどお話した『患医ねっと』の活動のように、少人数でいい。けれども自分が目指していることを、しっかりとみなさんにお伝えしたい。そんな活動に最近は規模を縮小し、活動することが自分にとってとても幸せに感じています。
みなさんは今さっきがん患者になりましたね。何を大切にこれからの人生を送りますか。今一度考える良いきっかけではないでしょうか?
さあ第1章はこんな話をしました。私のこの30年間で、がんを取り巻く社会は大きく変わっています。世界は激変していると申し上げました。これは何を示唆しているかというと、これからだって変わるのですよ。今日みなさんは、最新のがんに取り組む情報を取りに来たわけですね。今日聞いて、今日得たからこれでいいではない。これからも変わっていくのです。ですから、これから先も、みなさんとこうやってお会いする機会が多々あると思います。そのたびに最新情報は変わっている、変わっていく、そんなことをこの第1章の話から感じ取ってくれると嬉しいなと思います。
そして予防、検診、これはもちろん大切です。けれどもそれだけで終わるわけではなく、早期発見、そして早期治療も大切だということです。さらに医療者に任せればいい、病院に行けばがんが治るんだではなく、やはり発想の転換をすることによって、自分のこの体、自分の病気、みなさんからすると社員の病気でしょうか、そういったものも受け入れていくんだ――そういうような発想の転換が必要なのかなと、この第1章から受け取っていただけると嬉しいです。
私は今『患医ねっと』の自営業をしていますが、昔企業にいたとき、振り返るとこんなことがあったなと思い出話を含めながら、何かみなさんの役に立つ話をしようと思っております。
そのひとつ目が、産業保健スタッフの活用。活用という言葉が上から目線で申し訳ないですけれども、産業保健スタッフをもっともっと活用すればよかったと、今になって思います。ここでいう産業保健スタッフとは、産業医だったり、会社に置いている衛生管理者だったり保健師だったり。こういう方たちは、人事労務の管理スタッフや事業場外、場内ではなくて、他のところとの連携をしてくれる、あるいは身近な専門職としての知識や技量がある方たちと私は認識しています。私としては、今日はこのような定義でお話をしてまいります。企業の規模によっては、兼任するような方たちもいるかもしれませんが、そういう良い意味で「接着剤」になってくれるみなさんかなと思っております。ちなみに厚労省のウェブサイトの用語解説に、産業保健スタッフのみなさんの役割なども詳細がありますので、ご覧いただければと思います。
私が企業にいたときに、産業保健スタッフのみなさんに対する思いは何かというと、正直に言って立場がわからなかったのです。上司面談に同席してくれる、「なんかいる」という感じです。私からすれば、こういう言い方はなんだけれども、当時は健康管理士というより医務室などの保健師さんみたいなイメージでした。自分の中で、会社に勤めているときに体調が悪くなったら、怪我をしたら応急処置をしてくれたり、あるいは健康診断のいろんな手配をしたり、そういう調整役をされてる方かなと思っていたものの、「なんで私と上司との面談のときに、この人はいるのだろう」って、わからなかったのです。
何をできるのかもわからないし、どこまでどう頼っていいのかもわからない、そんな認識でした。いやいや、もっともっとできることがたくさんある方だったのです。今になって私は反省しきりです。私たち当事者としてはもっともっと産業保健スタッフのみなさんを会社と医療の繋ぎ役、そういうような認識をし、良き相談相手として業務に限らずいろんなことをお話すればよかったなとつくづく思います。
この中に産業保健スタッフの方もいらっしゃると思います。その方へのお願いは、みなさんの立場をもっともっと当事者である私たちに説明をしてほしい、日頃から社内でアピールをしてほしいということです。
例えば社内に掲示板があるなら、みなさんの健康をサポートしていますという言葉の中に少し「私たちはこんなことができます」と入れてアピールをしていただけると嬉しいです。
少し話は変わりまして、当事者として思うのは、つらいのは仕事とは限らない。先ほど皆さんがん患者になりましたね。何を思い、何を考えたか問いましたが、何を思いましたか。「自分のがんは何がんで、治療はどうで、これから先どんな治療プログラムがあり、治るのだろうか、治らないのだろうか」そんなことを思ったかもしれません。
また今日の立場はみなさんは、どちらかというと会社の仕事としてお越しいただいていますので、仕事について考え、今あるプロジェクトはどうしようかということを考えた方もいらっしゃるでしょう。
ですが、もっといろんなことが思いついたはずです。「うちの子どもの幼稚園の送り迎えは誰がするのだろうか」「親の介護はどうするのだろうか」「治療費はどうするのだろうか」――みなさんの生活そのものもいろいろ考えませんでしたか。がん患者になってつらい悩みは、仕事のことだけではないのです。
ところがここにいる多くの方は産業保健スタッフ、あるいはそれに関する方で、仕事上で、当事者と企業の中で会うと、つい仕事のことだけに視野がいきがちなのです。でも、その当事者は仕事のこと以外のことでも頭がいっぱいになっていると思います。
私自身発症時に何がつらかったのか考えてみました。もちろんいろんなことが思い浮かびましたけれども、何よりも、つらいなと思ったのは、慣れないことの決定をし、そして慣れないことを行動に移していかなければいけないということなのです。
病院に行くと、突然書類を渡されて、あなたは「個室に入っていいという、そこの承諾書にサインしてください」と、サインを求められてしまうのです。わかりますか?突然です。そして医師からは「この治療法で手術します。手術の承諾書をください」「入院するにあたっては――」と、入院のナントカ書、よくわからないのです。治療を進めるまでにいくつサインしたかすら覚えていません。もう何にサインしたかも覚えていない。
ひとつひとつをよくよく思い起こせば、慣れないことへの決断を求められているのです。会社に行けば会社に行ったで、長期傷病休暇の承諾書などが会社によってはあるでしょう。またプロジェクトの引き継ぎ書を書きなさいと求められる会社もあるでしょう。日頃やらないことがいくつもいくつも降ってくるのです。頭がパニック、そんなことを私は感じました。
私たち当事者に求められるのは、仕事のことよりもまず、生活全体を見られるのはあなただけなのです。誰もあなたの生活全般なんて関わってくれません。あなた自身で生活のこと全てを考えなくてはいけないのです。そのためには、いろんなことを可視化しておくことです。ご家族とともに「今こんなことをやったよ」「こんな決断を求められているんだよ」「こんなことを今考えなくてはいけない」と。可視化していないと、みなさんのご家族の方ですら理解をしてくれません。自分が今何を求められているのか、書き出しておくということが必要です。
そしてもうひとつ。ToDoはいつもより念入りにすること。みなさんは、ビジネスパーソンとして、もちろんToDoリストがあるでしょう。もっともっと細かなToDoが山ほど出てきます。面倒くさがってそれを省くと、慣れない決断や行動ですから忘れてしまいます。途中で訳わからなくなってしまいます。念入りなToDoが必要かなと思います。
今日ここで産業保健スタッフとして聞いていただいているみなさんには、当事者のみなさんに対して、可視化して具体的に作業内容を連絡するということが必要です。いつまでに何をどうするのか。絶対に駄目なのは口先だけでの依頼です。「この書類を3日後までにサインして出しておいてね」と電話で言ったって駄目です。そのことだけは、本人もその場ではわかるのです。だけど忘れられます。何か書類があるのならば、それに合わせてメールもしておく。そういう配慮も必要ではないでしょうか?
そして何よりもみなさんがお仕事として関わる、それはわかるけれども、そこに一言「ご家族には説明をどうされましたか」とか「治療を進めるにあたって何かご不安な点はないでしょうか?」と、全体への気配りをひと言つけてくれるだけでも、当事者からすると気持ちがちょっと楽になります。
復職時につらかったことについてです。先ほどは告知で治療に入る前でしたけれども、復職のときにも、今思い起こせばつらかったことがあります。
私の場合は8ヶ月も入院しました。先ほど中川先生は「今どき入院であまり治療しないよ」とおっしゃっていました。今、私と同じ状態でもほぼ入院せずに済むかなとは思います。しかし当時、何がつらかったか。8ヶ月も入院していると、もう時間の過ごし方の空気感が違う。そもそも階段も使わず、人混みもないのです。ですから復職のときにつらかったのは何か。
会社に着いたら、通勤でもう体がヘトヘトなのです。いくら仕事を楽にしてくれる、「時短でもいいよ」と言ったとしても、時短以前の話なのです。会社に着いて疲れた。だけども疲れたと言ってしまうと周りが気を使うのがわかるから、言えないのです。一生懸命頑張る、それでますます気づかれてしまう。そんな当時の私があったかなと思います。また復職すると、良かれと思って上司や先輩が「いやあ、鈴木くん戻ってきてよかったね!よし飲みに行こう!」、ありがたいのですが、それでますます疲れてしまう。
当事者の皆さん、生活を優先しましょう。仕事は後でも構いません。復職はゴールではないのです。あなたの体は今100%ではありません。遠慮なく甘えてください。産業保健スタッフの皆さん、仕事への復帰は最優先ではありません。だけどひとつ、仕事をすることで不安が紛れるということもあるのです。だから、先ほどの事例発表があった会社のように、本人の意向をじっくり聞いてあげてください。1人1人、状況や考え方は異なるのです。柔軟な姿勢を持って対処していただきたい、そう希望します。
さあ第2章はこんな形で話をしてまいりました。産業保健スタッフの活用をもっとすればよかった、そしてつらいのは仕事とは限らない、今は甘えようという意識があってもいい。いかがでしょうか?
第3章につきましては社会資源の活用法ということで、少し情報提供になります。これは当事者のみなさん、情報収集をしようと思ったら、まずあなたが情報発信をするという意識を持っていただきたいです。今ネットを見れば何でもわかると言いますが、玉石混交です。玉と石を選ばなきゃいけないのです。そのためには情報発信をしていくことです。
私は甲状腺がんになったときに、毎日の様子をインターネットやSNSで発信しました。そうしたら、いろんな方から様々な情報をいただきました。これ最新でフォロワーは468人とありますけれども、そういう方が見ていただいて、私がこういう状況だというと、いろんなコメントや情報をくれるのです。ありがたいなと思います。情報収集をしてもいいけれど、そのためには発信をするとうまくいくのかなと思います。
偽の情報もたくさんあります。いらない情報もあります。けれどもそれは情報発信者同士のやり取りを見るとわかるのです。またこういう発信をすることで、見ている方、親戚のように周囲の方に対しても安心感をお伝えできたのかなと思います。
また医療費リソースの中の一つとして、私は薬局、薬剤師の活用をとても推しております。これにつきましては、資料に添付資料としてつけさせていただきましたのでここでは省きます。
ただひとつ、お薬手帳はみなさん知っている方も多いと思いますが、これについてだけ少し補足をさせていただきます。お薬手帳の使い方で、多くの方は薬局に行ったときに持っていって、自分が飲んでいる薬の情報を薬剤師さんがシールを貼ってくれると思っているかもしれませんが、お薬手帳の役割はそうではありません。
これは自分が書くものなのです。これは厚労省も言っております。質問や疑問を事前に書いておく。医療者の説明も目の前でメモをする。今、みなさん私の話をメモしてくれているじゃないですか。そのように、医療者が当事者のみなさんに何か説明していたら、その場でメモをするものなのです。そして病名や治療方針の記録をする。そうすることで、自分が何がわかって何がわかっていないのか、ということを医療者が把握してくれるのです。そういったものに使うお薬手帳というのは、健康台帳です。そのお薬手帳、健康台帳をうまく活用し、情報を共有するためのツールとして、役立てていただければ嬉しいなと思います。詳細は、日経新聞に私がコラム記事を書いたものを添付しておりますので、そちらをご覧いただければと思います。
また先ほど中川先生から、このプロジェクトで「働く人が、がんを知る本」こちらが500万部配布されたというお話がありました。もちろんこれもすてきな本です。
あとこちらは私がちょっと関わったので少し共有させていただきますが、「がんと仕事のQ&A」というものがあります。現在第3版が出ていますが、この第1版を作ったときに私も書かせていただきました。こちらも中川先生ご紹介の本と引けを取らず良い情報ツールになっております。ネットで無料でご覧いただけますので、検索をしてPDFファイルで入手していただけると嬉しいです。
こちらは私の本の紹介になってしまいますが、「病院選び 鈴木信行」で検索していただければと思います。こちらも「病気でも健康に生きるために」この副題が伝えたいことです。病院や薬局、そして医者や薬剤師との付き合い方について、1冊にまとめておりますので、ご興味があればお手に取ってくれると嬉しいです。
さあ、第3章はこのような話をしてまいりました。情報を得たい、それはわかるけれども情報収集してもなかなか自分が今まで経験をしていないことは、玉石混交で情報を選びにくい。なので、それを選ぶためにはどうするのか。まずは自分のことを情報発信する、これが第一歩だとお話ししました。また、もちろん医療職、病院、そして医師との関わりも大切ですが、身近にある医療リソースとして、薬局、薬剤師ももうちょっと活用方法があります。これについては添付の新聞記事をお読みください。そして私も執筆させていただきました「がんと仕事のQ&A」こちらも紹介させていただきました。
今日はこういったお話をしてまいりました。どうでしたか、何かみなさんのこれからの活動の中でお役に立つことがあれば、私も光栄に思います。今日のお話の内容でわからないことなどありましたら、私の連絡先がお手元の資料にあると思いますので、遠慮なくご連絡をいただければ幸いに思います。また今日のご縁に引き続き、みなさんとの関わりを持たせていただければと思います。今日はご清聴いただきましてありがとうございました。

挨拶
秋田県知事 佐竹 敬久氏

秋田県知事 佐竹 敬久氏
▲秋田県知事 佐竹 敬久氏

がん対策推進企業アクション秋田セミナーの開催に当たりまして、ご挨拶申し上げます。今年で15年目を迎えますがん対策推進企業アクションの活動につきましては、全国約5,000の企業・団体の参加のもと、従業員のがん予防の啓発に取り組んでいると伺っております。その一心な取り組みに対し、敬意を表したいと存じます。
また今日お集まりの企業・団体のみなさまには、日頃から従業員やご家族の健康づくりにご尽力をいただきまして、厚く御礼を申し上げます。今日ご講演をいただきました東京大学大学院医学系研究科の中川恵一先生とは、昨年行われました秋田県健康づくり県民運動推進協議会の総会において、がん検診の重要性についてお話をいただいたことがご縁で、このたびの本県でのセミナー開催に繋がりました。
中川先生におかれましては、職域のがん対策についてご講演いただき、誠にありがとうございました。職場において、従業員ががんになっても生き生きと働き続けるためには治療と仕事の両立への理解が大変重要であり、県民みなさんで考えていく必要がある課題であります。また県内企業で先進的な取り組みを行っております株式会社和賀組の近藤様からは実践的な事例発表を、がん経験者でありがん対策推進企業アクション認定講師の鈴木様からは、当事者の立場からの大変貴重なお話をしていただきました。今日お集まりのみなさんにおかれましては、職場において必要な対策を考える際に、十分に生かしていただければ幸いでございます。
本年3月には、国において、第4期がん対策推進基本計画が閣議決定され、現在県においても、第4期秋田県がん対策推進計画の策定作業を進めているところであり、これからもがんの予防やがん医療の充実、がんになっても暮らしやすい社会の実現に向けた取り組みを強力に推進してまいりますので、みなさまにも一層のお力添えをお願いする次第であります。結びに、今日お集まりいただいたみなさまの更なるご健勝とご発展を祈念し、私からの挨拶といたします。本日は誠にありがとうございます。

トークセッション
中川 恵一先生、佐竹 敬久知事、鈴木 信行様、近藤 真紀子様(株式会社和賀組)、千葉 愛様(株式会社和賀組)

東京大学大学院医学系研究科 総合放射線腫瘍学講座 特任教授 中川 恵一先生
▲東京大学大学院医学系研究科 総合放射線腫瘍学講座 特任教授 中川 恵一先生
東京大学大学院医学系研究科 総合放射線腫瘍学講座 特任教授 中川 恵一先生
▲認定講師 鈴木 信行氏 と 秋田県知事 佐竹 敬久氏
株式会社和賀組 千葉 愛氏 と 近藤 真紀子氏
▲株式会社和賀組 千葉 愛氏 と 近藤 真紀子氏

秋田県知事 佐竹敬久様、地元企業である和賀組様、そしてここまでご講演いただいた講師のみなさまでトークセッションを行いました。和賀組様で実施している2次検診受診の義務化の取り組みについてや、秋田県のがん死亡率が男女ともに高い胃がんについて、県民の塩分摂取状況や、塩分摂取量をどう下げるかなど意見交換を行いました。

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