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イベントレポート

2019/5/24
日本産業衛生学会で治療と就労の両立支援の「未来のかたち」を開催

第92回日本産業衛生学会(5月22〜25日、名古屋市熱田区・名古屋国際会議場)のシンポジウム10において『治療と就労の両立支援の「未来のかたち」』(5月24日、共催:厚生労働省委託事業がん対策推進企業アクション)が開催されました。

当日は400人収容のホールに立ち見席が出るほどの盛況ぶりで、治療と就労の両立支援をテーマに「がん治療と就労の両立支援 ~がん対策推進企業アクションの立場から~(中川恵一氏:東京大学医学部附属病院 放射線治療部門長)」「がん治療と就労の両立支援~疫学者の立場から~(産業医・産業保健に何が求められるか)(立道昌幸氏:東海大学医学部 基盤診療学系衛生学公衆衛生学)」「がん治療と就労支援-臨床家の立場から(齊藤光江氏:順天堂大学医学部 乳腺腫瘍学講座) 」「治療と就労の両立支援 ~IOTと就業規則標準フォーマットによる就労支援への挑戦~(遠藤 源樹:順天堂大学医学部 公衆衛生学講座)」「両立支援マインドを日常的に~社会で生きる患者からの声~(桜井なおみ:キャンサー・ソリューションズ(株)/一般社団法人CSRプロジェクト)」の5本の講演が行われ、その後に会場からの質疑応答が行われました。

当日の座長は、太田充彦氏(藤田医科大学医学部 公衆衛生学講座)と中川恵一氏。

講演の様子

がん治療と就労の両立支援~がん対策推進企業アクションの立場から~
中川恵一氏(東京大学医学部附属病院 放射線治療部門長/がん対策推進企業アクション アドバイザリーボード議長)

現在、女性の社会進出や定年延長などにより、働く世代のがん患者が増えています。女性は子宮頸がんや乳がんなど、比較的若い世代からがんへの罹患が多く、また男女問わず年齢を重ねるとがんの罹患率は高まるため、定年のさらなる延長を考えるとますます増加すると考えられます。

そのような状況の中、がん対策推進企業アクションは、「がん検診の受診の啓発」「がんについて会社全体で正しく知ること(大人のがん教育)」「がんになっても働き続けられる環境を作ること」の3つに取り組んでいます。65歳までにがんになる確率は15%、生涯では2人に1人ががんになるという、がんは人生において大変大きなリスクです。がんに罹患すると3人に1人が離職するデータもありますが、がん対策推進企業アクションでは「がんでもやめない、やめさせない」をキャッチフレーズに活動しています。小冊子の無料配布やがん関連のデータのweb閲覧、講師を派遣しての講演なども行っています。

今年で11年目となるがん対策推進企業アクションですが、現在の推進パートナー企業・団体数は約3000、総従業員は約743万人と国内全雇用者数の約1割が登録しています。大企業はもちろん中小零細企業も多く参加しています。

講演の様子

平成28年度に行った全国健康保険協会加入者(中小零細企業等)を対象とした「がん検診・がん対策に関する実態調査」で、がんに対するリテラシーを調べました。すると、経営者のがんに対する知識が高いほどがん検診受診率が高く、就労支援も多く行われていることがわかりました。翌平成29年度は健康保険組合加入者(大企業等)を対象として同じ調査を行ったところ、前調査と同様に担当者のリテラシーの高い企業ほどがん検診受診率が高く、就労支援も積極的に行われていることがわかりました。

平成27年度には、がん対策推進企業アクションのパートナー企業に同様の調査を行っています。従業員300人以上の企業と300人未満の企業で比較したところ、胃がん・肺がん・大腸がんの検診はほとんどの企業が実施していますが、女性のがん(乳がん・子宮頸がん)検診は300人未満の企業は2/3にとどまっています。また企業規模毎にみると、検診でがんと診断された従業員がいた企業は、従業員1000人以上では93.8%、300〜999人で64.5%、100〜299人で32.8%、20〜99人で22.1%、20人未満で5.9%。全体では46.1%にがん患者がいました。一方、従業員のがん患者を把握していない企業・団体は、従業員数が多いほど高くなっています。

しかし、従業員数の多い大企業はがん患者を把握していなくても傷病手当金(健康保険)や産業医や産業保険スタッフによる相談支援など、就労支援に関しての取り組みは進んでいます。ただ、勤務日や勤務日数の変更などは中小企業の方が小回りが利き、個別対応でがん患者に具体的配慮を行っています。また、精密検査受診まで把握している企業の方が大企業、中小企業を問わず就労支援に熱心であることもわかりました。

つまり、企業規模を問わず、経営者や担当者のリテラシーによって、がん検診や就労支援が左右されるということ。大企業の約半数が産業専門医スタッフによる相談支援の制度があるが、がんと診断された従業員を把握していない場合が多いということ。中小企業では、制度面では未整備の部分もあるが、個別対応で支援していること。精密検査の受診有無を把握している企業は、就労支援にも熱心であることがわかりました。

がんは早期発見が両立支援のカギであり、職域でのがん検診と両立支援は切り離せません。中小企業でも経営者のリテラシーが高まれば、がん対策を進めることができます。ぜひ、がん対策推進企業アクションに加入して、がん検診受診率の向上や就労支援に役立てていただければと思います。

がん治療と就労の両立支援~疫学者の立場から~(産業医・産業保健に何が求められるか)
立道昌幸氏(東海大学医学部 基盤診療学系衛生学公衆衛生学)

今、がんの罹患者の1/3は労働者で、さらに増加傾向にあります。特に特徴的なのは、子宮頸がんや乳がんの女性のがんが増えていることです。子宮頸がんは20〜40代が増加、乳がんは40代後半が大きく増加しています。

生涯でがんになる率は2人に1人と言われていますが、65歳以下の就労年齢では15%、約7人に1人ががんになります。企業規模で例に挙げると、65歳までの継続雇用の場合、従業員数1500人では1年に5.2人、300人では1.1年に1人、70人では5年に1人ががんになります。そして、直近の10年生存率は57.3%と約6割の人ががんを克服しています。職域でのがん対策の重要性を再認識しなくてはなりません。どのようにしてがんと向き合い、共生するかを考える時でもあります。

講演の様子

昨年閣議決定された第3期がん対策基本計画でも示されているように、がんを知り、がんの克服を目指すためには、がん教育を職域に普及させなければなりません。そして、科学的根拠に基づくがんの予防、がん検診を充実させることが必要です。がんとの共生という面では、がん治療と就労の両立支援をいかにしていくかということが重要です。

特に両立支援に関しては、がん患者本人が会社に申告して事業主が決めるスキームになっていますので、いかに社内でがん患者が手を上げやすい環境を整備するかが大切になってきます。そのためには、一次予防として、がんにならないためのリテラシーの向上、喫煙対策や生活習慣の改善、感染症対策など。リテラシーを高めるためには上司、同僚にがんという病気の理解が必要で、職域でのがん教育が重要です。二次予防として職域でのがん検診受診。早期発見して早期治療をすること。三次予防として治療と仕事の両立支援。現代は治療に専念というよりも治療しながら働く時代です。産業医等の窓口の整備も必要で、産業医は全労働者数に対し約4割にしか選任されておらず、6割の方が産業医の恩恵を受けられずに両立支援を難しくしているとも言えます。そして、自分ががんだと会社に言っても大丈夫か? という患者側の心配を払拭するためにも情報管理は不可欠で、社内で誰がどういう情報を扱うのかを事前に決めておくことが求められています。厚生労働省の「事業場における労働者の健康情報等の取扱規程を策定するための手引き」を参考に社内の情報管理を徹底してください。

がん治療と就労支援-臨床家の立場から
齊藤光江氏(順天堂大学医学部 乳腺腫瘍学講座)

順天堂大学病院の外来化学療法室において2017年3月〜2018年10月まで外来化学療法を行っているがん患者の中で、65歳以下(アンケート時)の200名に行ったアンケートでは、現在就労中は179名。うち同じ職場で就労中の方は168名でした。現在就労していない方は21名で、うち依願退職が10名。依願退職の理由としては、治療に専念したいがほとんどで、体力に自信がない、上司の催促・理解がないなどはありませんでした。

仕事を続けていく上で困った症状としては、就労中の方も退職した方も第1位が倦怠感、2位が脱毛でした。唯一違いがあったのは、就労中の方には皮膚・爪の変化という項目が高く上げられていた点です。

講演の様子

退職した方の就労形態では、非正規雇用の方の割合が非常に高く、中小零細企業の方も多くなっています。逆に就労中の方は、企業・団体の正社員が最多となっています。

診断書があればどの程度休めるのかというデータでは、12カ月以上休める職場では退職した方は少なくなっています。

産業医についての周知度は、就労中の方は知っている方が多いのに対し、退職した方は知らない方が多くなっています。

がんの治療と就労の両立に関しての相談窓口は、就労中の方、退職した方ともに上司が最も多くなっていますが、産業医や産業看護師に相談した方は就労中の方は多くはないものの存在するのに対し、退職した方は皆無でした。また、医療機関への相談は就労中の方も退職した方も相談していない方が最も多い回答でした。

このようなことから、治療と就労の両立支援に必要なのは、医療者側では副作用対策、相談窓口の機能充実と周知、支援の整備に向けての院内の議論。企業側では、産業医治療の周知と利用促進、非正規職員への支援であると考えます。

(参考:https://teambcc.jp/)

治療と就労の両立支援~IoTと就業規則標準フォーマットによる就労支援への挑戦~
遠藤源樹氏(順天堂大学医学部 公衆衛生学講座)

がん治療と就労の両立支援のキーパーソンは、企業の経営者、総務人事担当者、そして衛生管理者や産業医、産業看護師、社会保険労務士等です。キーワードとしては、事例性・疾病性と利害関係の調整です。

講演の様子

事例性とは、仕事や職場に影響し、業務を遂行する上で支障となる客観的な事実です。例えば、1日10回トイレで離席する、毎月3日以上の突発休を認めるなど。

疾病性とは、症状や病名に関することです。例えば、下痢、便秘、食欲不振、不眠など。上司や総務人事担当者は、疾病性のことに対して自分たちだけで解決しようとせず、主治医や産業医などの医療職に相談しながら対応を検討することが大切です。

この事例性と疾病性は、分けて考えることが重要です。会社側は主に事例性について対応しますが、現実問題として会社側と医療側では事例性と疾病性の持つ言葉の違いから、具体的な対処方法がわかりづらいことがあります。例えば、医療機関から「診断名 大腸がん:下痢、倦怠感を認めるが一定の配慮で勤務が可能」と記載された診断書が提出されても、実際に下痢や倦怠感とはどの程度のものなのかがわからなければ対応は難しくなります。そこで、疾病性の言葉を事例性の言葉に翻訳する必要があります。「1日5〜10回トイレのための離席の可能性。通勤ラッシュや長時間の車通勤は難しい。すぐにトイレがある環境が望ましい」という風にわかりやすく言い換えると会社側も具体的に対応がしやすくなります。この疾病性の言葉をわかりやすく事例性の言葉に置き換える役割をするのが、がん相談支援センター相談員や産業医をはじめとした産業保健スタッフになります。

我々、順天堂大学では、このような疾病性の言葉を事例性の言葉に簡単に翻訳するため、IoT(Internet of Things)化・AI化を進め、「がん健カード作成支援ソフト」を開発しています。これは、患者ががん相談支援センターで病状などを聞き取りながらがん健カードを作成し、このソフトでカードを読み込み、症状等と仕事内容をクリックするだけで就労に関する意見書の素案が数秒で作成されるものです。就労に関する意見書の素案を主治医にみてもらい修正や承認を得て企業側に提出することができ、今後、厚労省の両立支援のガイドラインや両立支援の診療報酬加算に対応できるような形に開発しています。

また、企業における、がん治療と就労の両立支援においては、罹患してからフルタイムで就業するまでの両立支援期間1〜2年限定の就業規則があってもいいのではというアイデアから、選択性がん罹患社員用就業規則標準フォーマットを作成しました。フルタイム勤務が原則となっている企業の就業規則を、時短勤務や在宅勤務、軽作業への変更、特別病休付与等、柔軟な勤務制度に期間限定で変更するためのフォーマットです。同フォーマットは、書籍だけでなくダウンロードでも利用が可能です。がん時代における働き方改革の就労支援ツール「選択制がん罹患社員用就業規則標準フォーマット」が活用されることを期待しています。

(参考:https://www.juntendo-caw.com/)

両立支援マインドを日常的に~社会で生きる患者からの声~
桜井なおみ氏(キャンサー・ソリューションズ(株)/一般社団法人CSRプロジェクト代表理事/社会福祉士・精神保健福祉士)

がんになった時に働いていた方300名を対象としたアンケートでは、就労継続に影響を及ぼした要因の1位は、体力の低下でした。体力の低下以外にも術後の後遺症や薬物治療による副作用など、身体に関する原因がかなりを占めています。そして身体の不調はメンタル面の不調につながり、身体と心の不調により、働き方が限定されることがわかりました。

薬物治療を受けたがん経験者300名のアンケートでは、就労継続に及ぼした要因の第1位は体力の低下でしたが、2位は薬物療法に伴う副作用がかなりの割合を占めました。具体的な例としては、倦怠感、慢性疼痛、気持ちの落ち込みや意欲の低下、食欲の低下、体重の増減など。また、副作用症状には、生活への影響が高い症状と期間が長い症状があり、適切な情報提供と支持療法の介入が必要です。

講演の様子

罹患後に職業を変更した人を調べたところ、変更した人は民間企業、特に中小企業が多く、無職や専業主婦になる人も顕著に多いことがわかりました。2年3年と就職できない人も多く、がん患者は仕事を手放してはいけません。

また、がん患者に産業医がうまく活用されていないこともわかっています。調査では65%の企業に産業医がいるにもかかわらず、実際に産業医を認知している社員は25%と低く、産業医の認知度を高めていく必要性があります。経営者側の産業医の活用度も低く、がん患者を雇用する不安を産業医に相談する環境づくりが大切です。

医療側からは、診療報酬の改定によりがん患者の治療と仕事の両立支援の充実が図られていますが、実際にはなかなかうまく回っていないようです。患者側からは、体調に合わせて働きたい、仕事量の調整がしやすくなるから、自分の症状に対応した治療説明が受けられるから等の理由で54%の人が両立支援プランを利用したいと思っています。しかし、まだまだ療養・就労両立支援指導料の請求、診断書・意見書の作成件数が少ないのが現状です。医療の現場では、両立支援とは何か、必要なのか、がわかっていないのではないでしょうか。ぜひ医療現場の方には、がん患者が早まって仕事を辞めないように伝えて欲しいです。また、相談支援センターでも相談ができることも伝えていただきたいと思います。

がん患者が離職する場合は、身体の問題、心の問題、社会の問題が複雑に絡み合っています。一旦離職してしまうと復職や転職はハードルが高く、社会コストは増大します。自分の目の前の患者を離職させないことが、将来の社会基盤や皆保険制度の維持にもつながっていくと思います。特に職場の環境調整をすることで、かなりのがん患者が働くことができるようになります。

企業側においては、自社の両立支援ポリシーを整理することが重要で、休み方を提案するのではなく、働き方を提案しなくてはなりません。産業医や産業保健師などを活用し、会社はあなたの守秘義務をしっかりと守りながら、働き方を考えていくというポリシーを持つことで、患者側から見ても治療と仕事の両立がしやすい環境を整えることができます。

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