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イベントレポート

2020/03/18
2020年3月18日 令和元年度総括セミナーがライブ配信で開催

令和元年度のがん対策推進企業アクションの活動を締めくくる総括セミナーが、東京・銀座の時事通信ホールにて3月18日(水)に開催されました。セミナーは、厚生労働省の新型コロナウイルス感染症対策の基本方針を鑑み、無観客による「ライブ配信」のみの開催となりました。

当日はがん対策推進企業アクション事務局の大石健司事務局長の開会の挨拶のあと、令和元年度の優れたがん対策を行った企業として“厚生労働大臣賞”と“がん対策推進パートナー賞”の5社が選ばれ、表彰されました。

その後、厚生労働省健康局がん・疾病対策課 課長の江浪武志氏、がん対策推進企業アクションアドバイザリーボード議長である東京大学医学部附属病院 放射線治療部門長の中川恵一准教授、東京医科大学 医学総合研究所 分子細胞治療研究部門 落谷孝広教授の講演のあと、表彰企業5社によるがん対策への取り組み事例の発表、中川氏と表彰企業による「企業におけるがん検診と就労支援の取り組み」についてのパネルディスカッションが行われ、その模様はライブ配信で中継されました。

「開会の挨拶」

(がん対策推進企業アクション事務局 事務局長 大石健司氏)

がん対策推進企業アクションは、職域でのがん検診受診率を向上させるための国家プロジェクトであり、厚生労働省の委託事業です。企業等におけるがん検診受診率向上とがん患者の就労支援を目的として2009年度にスタートし、今年度で11年になりました。

日本で1年間にがんになる人は約101万人、その3分の1が働く世代であり、65歳までに何らかのがんに罹患する確率は男女ともに約15%となっており、会社員の死因の約半数ががんとなっています。このようなことから、企業のがん対策は待ったなしの状況であるといえます。

講演の様子

今後、企業が取り組むべきがんアクションには3つあります。

① がん検診の受診を啓発すること

② がんについて会社全体で学び、正しく知ること

③ がんになっても働き続けられる環境をつくること

これらを実践することにより、がんによる人材の流出が抑えられ、社員が安心して働き続けられる環境が作れます。

また、女性の社会進出が今後ますます増えるとともに、定年の延長などで高齢化が進めば、従業員のがん罹患問題はより深刻になっていきます。本事業では、このようなことへの対応策を模索し、がんから従業員を守る、国民を守るため、これからも拡大・発展していきます。引き続きご協力・ご理解をよろしくお願いします。

【がん対策推進企業 表彰】

がん対策推進パートナー賞 検診部門
企業・団体名 受賞理由
テルモ株式会社
講演の様子
検診の受診率向上に向けて、就業時間内に勤務スタイルに合わせた実施とするなど、検診を受けやすい環境を整備。さらに、営業支店では、受診率を支店ごとに集計し、支店長・管理担当者へ連絡するとともに、支店評価に組み込むことにより、受診促進につなげています。
(執行役員 人事部長 健康管理担当 竹田敬治氏/プレゼンター:中川恵一氏)
がん対策推進パートナー賞 治療と仕事の両立部門
企業・団体名 受賞理由
田辺三菱製薬株式会社
講演の様子
両立支援制度の利用促進のため、健康保険組合、人事、産業保健スタッフへの相談体制を構築するとともに、社内のがんサバイバーと働き方を支える上司にインタビューし、社内事例として紹介するなど、制度の周知にも努めています。また、化学療法中の社員の感染予防のため、制度外でのテレワーク勤務や家族による通勤の送迎を個別に認めるなど柔軟に対応しています。
(人事部 部長 福田洋一氏/プレゼンター:中川恵一氏)
がん対策推進パートナー賞 治療と仕事の両立部門
企業・団体名 受賞理由
長野朝日放送株式会社
講演の様子
2012年より「信州がんプロジェクト」に取り組み、番組・啓発CM・イベント・ホームページなどを通じて、「がんを知り、がんと立ち向かう」活動を行っています。社内においても、両立支援では人事労務担当者が本人の意向を十分確認し、制度に合わせた勤務ではなく、本人の希望や治療内容に合わせた勤務ができるよう制度を柔軟に運用し、就労継続を支援しています。
(役員待遇 信州元気プロジェクト本部長 五十嵐洋人氏/プレゼンター:中川恵一氏)
がん対策推進パートナー賞 情報提供部門
企業・団体名 受賞理由
富士通株式会社
講演の様子
国内グループ従業員7万人を対象に、「がん予防と治療と仕事の両立支援」をテーマとして、がん専門医(がん対策推進企業アクションの中川議長)の講義とe-Learningを組み合わせた必修のがん教育を、企業におけるがん教育の先進的な取組として、本年1月より実施しています。
(健康推進本部事業推進統括部 統括部長 東泰弘氏/プレゼンター:中川恵一氏)
厚生労働大臣賞
企業・団体名 受賞理由
野村證券株式会社
講演の様子
「年内受診率100%」をNomura Work Style Innovation(働き方改革・健康経営)のガイドラインに設定し、上長や人事部より年に複数回受診勧奨を行うとともに、グループ各社と健康保険組合との意見交換等を実施し、受診率の向上に努めています。
治療と仕事の両立については、社員と上司向けの「治療と仕事の両立支援ガイドブック(本人編、上司編)」を作成し、治療を続けながら仕事をする社員が安心して仕事と治療を継続することができるよう、本人のみならず上司の対応方法も周知。社員向けの健康番組や社内報など様々な機会を通じて社として両立支援に取り組む姿勢を示しています。
情報提供については、社内健康番組において、社員ががん検診による早期発見、その後の検査、治療の必要性と治療と仕事の両立について学ぶことができるよう、がん特集を配信するなど、正しい知識の普及に努めています。 
(野村ホールディングス株式会社 執行役員Deputy CHO 兼 野村證券株式会社 執行役員 三輪悦朗氏/プレゼンター:江浪武志氏)

【講演①】
【国のがん対策の現状について】

江浪武志氏(厚生労働省 健康局がん・疾病対策課 課長)

がんにならないための一次予防として喫煙対策・受動喫煙対策を進めており、がんを早期に発見し、治療することでがんによる死亡を減らす二次予防として、効果的ながん検診受診の勧奨や受診者の立場に立った利便性の向上に取り組むとともに、がん対策推進企業アクションでの職域でのがん検診受診率のアップを目指しています。

また、がんとの共生として、働く人のがん対策において、がん対策推進企業アクションを活用しながら治療と就労の両立を支援していきます。

がんは、生涯で2人に1人が罹患し、3人に1人が亡くなる、対策が求められている病気です。関係者みなさまのお力を借りながら、法律と基本計画に沿ってがん対策をしっかりと進めていきたいと思いますので、引き続きご協力よろしくお願いいたします。

講演の様子

【講演②】
「早期発見と治療法の選択が両立支援のカギ」

中川恵一氏(東京大学医学部附属病院 放射線科 准教授/がん対策推進企業アクション アドバイザリーボード議長)

現在、働く人の死因の半分はがんであり、その割合はどんどん増えていく傾向にあります。

私自身もがんになりました。膀胱がんです。血尿が出るとか、違和感があるとかの症状は全くありませんでした。すぐに検査切除し、私の場合は3泊4日の入院で済みました。

がんは早期に見つけて治療すれば、すぐに仕事に復帰できます。治療と仕事の両立の問題では、社内の制度や周囲のサポートや理解などといったものが取りただされます。もちろんそれも大切ですが、もっとも重要なのはがんを早期発見するということなのです。

また、がんになってわかったことは、がんは症状を出しにくい病気であること。誰もが自分はがんにならないと思うものだということです。

がんを経験した私が、がんから身を守るために最低限知ってほしいことを7つにまとめました。

【がんを知る7か条】

① 症状を出しにくい病気

② リスクを減らせる病気

③ 運の要素もある病気

④ 早期なら95%が治る病気

⑤ 生活週間+早期発見が大事

⑥ 早期発見のカギはがん検診

⑦ 治療法も選べる病気

がんとは症状を出さない病気だということ。がんになるには運の要素もありますが、生活習慣を見直すことでがんになるリスクをある程度減らすことができます。そして、早期であれば95%治りますので、まずはがんにならないように正しい生活習慣を身につけ、もしものために定期的にがん検診を受診することが大切。もしも、がんになってしまっても手術だけが選択肢ではなく、放射線治療などの選択肢があることを知っておいてください。

講演の様子

新たな動きとして子どもの「がん教育」が始まりました。小中高の保健体育の授業でがんが学ばれています。長期的に見ると、がんに対する正しい知識を持った大人が育っていくわけです。では、学校で学べなかった大人にどのようにがん教育を行うのか、それはある種の強制力を持つ企業側が、従業員に対して「大人のがん教育」を行うことが有効です。ぜひ、がん対策推進企業アクションを利用して正しい知識を広めていただきたいと思います。

がん治療と仕事の両立について考えてみます。

がんの治療については、手術と放射線治療と抗がん剤治療の3種類があります。

日本では手術が最も多く選ばれていますが、欧米では放射線治療が多く選ばれています。胃がん、大腸がんは手術が標準ですが、多くのがんで手術と放射線治療は同等の効果といわれています。

放射線治療はハイテク医療の代名詞といってもよく、日進月歩で進化しています。肺がんのように、呼吸のたびに動いてしまう病巣に対しても、ロボットが正確に自動追尾して狙い撃ちする技術も進んでいます。

放射線治療には、切らないので体にやさしい、治療費が安い、短い時間での処置ですむ、通院で治療ができなどのメリットがあります。入院せずに会社に通いながらの治療もできますから、治療と仕事との両立もしやすくなります。

がんには手術と決め付けず、がんになる前に正しい知識を得て、最も納得できる治療を選ぶことが大切です。

治療と仕事の両立は、早期発見と治療法の選択がカギとなります。

【講演③】
がん検診の最新事情
「血液マイクロRNAによるがん早期発見の実用化と課題」

落谷孝広氏(東京医科大学 医学総合研究所 分子細胞治療研究部門 教授)

私は研究者の立場から、がんを早期発見するツールを永年にわたり研究開発してきました。残念ながら、現時点で今すぐに実用できるものではありませんが、その研究成果をお話しします。

私は「がんにならない、がんに負けない、がんと生きる社会をめざす」を理念にした国立がん研究センターに定年まで25年間、患者さんの体の中からがん細胞をゼロにする研究を続けていました。しかし、このような新しい医薬は開発にとても時間がかかります。

今の私の研究理念は「がんと共存する社会の実現」です。がんが転移していてもがんと共に生き、できるだけ天寿に近づける、そういった方法はないものかというアプローチに全力をかけています。

がんは早期で見つければ、ステージの進んだがんの方よりも長生きできます。つまり、いかに早期発見が大事かということです。

講演の様子

「なぜ日本のがん患者は減らないのか?」を考えてみましょう。

米国では大腸がんを減少させていると様々な論文に書かれています。どうやらこれは検診に差があるということがわかりました。

大腸がんは日本では右肩上がりに増えています。米国で大腸がんが減った理由は、8割が検診に力を入れたことでした。さらに食事療法、運動療法でした。

がんによる死亡を減らすためには“早期発見・早期治療”が必要であるということが、このようにエビデンスを持って証明されています。

残念ながら日本のがん検診受診率は、国際比較すると非常に低い数値に止まっています。それに加えて少子高齢化の社会到来により、医療費も莫大なものになり、このままでは若い世代が支えきれなくなってきます。

そのためにも、がんは早く見つけて早く治療する以外に手はありません。

問題は、がんがその兆候を示す前に発見できるのか、ということです。そして、一次検診としていかに痛みや不安の少ない検査方法を提供できるか、ということになります。

そこで浮かんでくるのが「Liquid Biopsy」です。

[※Liquid Biopsy(リキッドバイオプシー):主にがんの領域で、内視鏡や針を使って行なってきた従来の組織採取の生体検査(バイオプシー)をリキッド(血液や体液など)で解析する技術]

なぜ、体液診断=Liquid Biopsyがいいかというと、針を刺すような通常の針生検に比べて危険が少なく、コストも安くすむし、何度も針を刺すような状況にない場合においてもわずかな体液・血液によって、患者さんのがんの状態を探ることができます。患者さんにとっても医療従事者側にとっても大きな恩恵があります。

課題となるのは、そのような体液の中から、がんになったら変化するアナライトの組み合わせをどうやって見つけるかです。

[※アナライト:体液中に出現する「がん」の存在を示す何らかのサイン、物質のこと]

また、使用する体液は血液なのか、唾液なのか、尿なのか、おそらくそれはがんの部位によっても変わってくるでしょう。

Liquid Biopsyを大まかに説明します。

例えばあるところにがん細胞が生まれます。このがん細胞は、正常細胞とは趣の異なるサイン(シグナル)を出します。このサインは、血液中などのあらゆる体液に流れ出てきます。その流れ出たサインを捕まえて、がん細胞の存在を見つけるというものです。

現在世界中に42種類あるといわれる腫瘍マーカーは、残念ながらどれもがんの早期発見には向いていません。なぜなら、腫瘍マーカーは体の中のがん細胞が、免疫系の攻撃などによって死んだ後の、いわゆる残滓のようなものが偶然に血液の中に流れ出た際に見つける方法だからです。

そこで、我々が取り組んでいるのが新しいマイクロRNAというシグナルで、これは従来の腫瘍マーカーとは全く性質が違います。がん細胞が体の中で生き延びるために、積極的に分泌しているのがマイクロRNAです。ですから、体液の中のマイクロRNAを見つけることができれば、がん細胞がとても少ない状況でも早期に発見することが可能になります。

すでにメディアで報道されているように、我々は日本人に多い13種類のがん(食道がん、肺がん、肝臓がん、胆道がん、前立腺がん、内腫、神経膠腫、乳がん、胃がん、すい臓がん、大腸がん、膀胱がん、卵巣がん)を中心として、非常に早期にがんを見つけるプロジェクトを実施してきました。

これが“血液1滴でがんを見つける”国家的プロジェクトで、これによってがんの死亡率を改善し、医療費削減に貢献しようというものです。

2014年からプロジェクトは始まり、100名を超えるメンバーが集まって国立がん研究センターを中心として、日夜研究に励みました。

血液中のマイクロRNAは、朝起きた時、就寝中、食事の前後など、非常に大きく変動します。例えば、ストレスを受けた時なども、瞬時に変わることがわかっています。これが、他のたんぱく性マーカーとは異なる部分です。

非常に変動しやすい血液中のマイクロRNAですが、研究者たちの大きな努力により、がんだけに変化するマイクロRNAの一群を正確に把握できるようになりました。

このプロジェクトは昨年終了していますが、解析は続いています。例えば、乳がんでは100件中97件、大腸がんでは100件中99件の確率で早期がんを発見できたデータもあり、希少がんをはじめ13種類すべてのがんで同様の高い結果が出ています。なおかつマイクロRNAの組み合わせで、13種類のがんを完全に区別して発見することができるという素晴らしい能力を持っています。

マイクロRNAを体外診断薬としてがん検診に実際に取り入れるには、まだまだ臨床試験を重ね、国から認可を得なければなりません。しかし、マイクロRNAの一部は、2019年4月に「先駆け審査指定制度」の対象品目に指定されており、薬事承認に関する相談・審査で優先的な取扱いを受けて、承認審査の期間が短縮できる予定です。

さらに東レ、アークレイ、東芝など、民間も独自のシステムで事業開発に取り組んでいます。

現段階ではまだ研究室レベルの成果であり、これが社会で実践された場合の能力は我々もわかりません。これからはさまざまな機関と協力して、検証や臨床試験を重ねていかなければなりません。

また、マイクロRNAはがんを早期発見するという使い方以外にも、どの患者さんが要観察かバイオプシーか、どのオピオイド(がんの痛みを軽減する医療用麻薬など)がどの患者さんに有効か、どの患者さんに新薬が有効かなど、個別化医療を実現させ、最適な治療法を提供することで治療成績の向上を目指すことができます。

具体的には、前立腺がんの針生検は患者さんにとって苦痛ですが、前立腺がんが疑わしいとされた方にマイクロRNA診断を行い、本当に針生検が必要な方を選び出すことができます。乳がんのリンパ節転移の有無においてもマイクロRNA診断をすることで、しなくてよいリンパ節の郭清を見分けることが可能になるなど、患者さんにとって非常に恩恵があります。また、マイクロRNAによって抗がん剤の副作用を予測することもできます。

がんだけではなく、認知症や動脈硬化を中心とした虚血性心疾患、脳疾患などの疾患にも対応が可能です。

実はマイクロRNAはエクソソームといわれるカプセルで血液中に運ばれています。がん細胞はこのエクソソームの中にマイクロRNAを閉じ込めて、それを特定の相手の細胞に届けることでがんの転移を果たしています。

ですから、がん細胞からこのエクソソームが出ることを止めると、元のがんの大きさは変わりませんが、動物実験段階では他の臓器への転移が完全に消えることがわかっています。

また、自律神経とがんの関係について、我々は「がんは自律神経がコントロールしている」という論文を出しました。がんの組織の中に交感神経がたくさん入っている方は予後が悪く、入っていない方は予後がいいというデータがあります。逆に副交感神経がたくさん入っている方は再発せず、全く入っていない方は予後が悪いというデータもあります。

そこで、がんの局所の自律神経を操作するウイルスベクターを作って投与する新しいアプローチを試みました。動物実験レベルでは、交感神経をスイッチオンにすると、がんは瞬く間に全身転移して広がりました。一方、交感神経をスイッチオフにすると、がんは消えることはありませんでしたが、マウスはがんの転移もなく天寿を全うするにいたりました。

また、最近世間を賑わしているコロナウイルスなどの呼吸器疾患についても、動物モデルではエクソソーム治療で治せることがわかっています。皆さんの体の中には、良いエクソソームを分泌する細胞が存在しています。

今回のコロナウイルスでは、いち早く中国でエクソソームを使用した治療が開始されています。

このように基礎研究が進めば、もっともっとがんの新しい発見、新しい治療が生まれてきます。ぜひ我々の基礎研究に期待していただき、企業の社員とその家族をいかに守っていくかがこれからの大きな課題だと思います。

我々は診断と創薬をうまくつなげることで、今後がんをはじめとする様々な疾患に立ち向かっていきたいと思っています。

【表彰企業 事例発表】

厚生労働大臣賞
野村證券株式会社

水野晶子氏(人事部人事厚生課ヘルスサポートグループ 課長兼グループ長)

野村證券では2016年より、働き方改革とともに「野村グループの最大の財産は人材である」の考えのもと、健康経営を続けてきました。

治療と仕事の両立支援では、それまで医療職が復帰の支援を行なっていましたが、会社をあげての制度や社内の風土づくりはまだまだでした。うまく復職できる社員がいる一方で、自分1人で問題を抱え込んでしまう社員や離職してしまう社員もいました。

病気による社員の離職をもっと積極的に防ぎ、社員一人ひとりが自らの持つ能力や個性を十分に発揮できる環境を目指そうという認識が生まれ、2018年より両立支援の体制づくりを本格的にスタートしました。

講演の様子

具体的には、①早期発見、②早期治療、③両立支援、④風土醸成の4つです。

早期発見においては、それまで行なっていた30歳以上の人間ドックに加え、2020年度より29歳以下でも定期健康診断時に子宮頸部細胞診(子宮頸がん検診)を受診できるようにします。

また、人間ドックは通年受診できるのですが、毎年年度末に受診が重なるうえ、業務の都合や体調不良などの理由で未受診になるケースが多く見受けられたため、4月から12月のみに使える人間ドック休暇を導入したところ、現在では95%以上の社員が12月までに人間ドックを受診するようになり、受診率も向上しました。

早期治療においては、精密検査が必要とされた方に健保組合が受診勧奨を始めました。対象者には簡単に使えるツールで精密検査の受診状況を回答してもらえるようにし、未回答の人には受診・回答を呼び掛けます。

二次検査のために使用できる二次検査休暇も導入し、昨年度は約1800名がこの休暇を利用し再検査を受けています。

両立支援に関しては、両立支援サポーターとして社員本人や上司のゲートキーパーとして保健師がさまざまな相談に乗っています。また、医療職にすべてを任せるのではなく、人事部(会社)、上司、同僚が一体となって社員を支える体制を目指しています。

風土醸成については、当社オリジナルの両立支援ガイドブックを本人編・上司編の2種類を作り、本人には制度の説明や職場復帰の仕方などを、上司には部下からの相談の対処の仕方や復帰後の対応方法などを周知しています。

さらに、イントラサイトに治療と仕事を両立している社員の体験談を掲載することで、周囲の理解を深めています。また、社内向けに乳がんについての講演と体験者のトークセッションなどのがんに関するイベントを複数回開催しています。

このような取り組みを重ねることで、社内からは治療と仕事の両立に対しての意見が上がるようになってきました。

最大の財産である社員が、どんな状況でも輝いて働ける環境を目指して、まずはがん検診で早期発見、そして早期治療をしてもらうこと。安心して治療と仕事が両立できる環境づくりを進め、当社のコーポレートスローガンである「“今”以上の“未来”」を目指して歩んでいきたいと思います。

がん対策推進パートナー賞 検診部門
テルモ株式会社

竹田敬治氏(執行役員 人事部長/健康保険組合理事長/健康管理担当)

テルモの健康経営について大切にしていることは「トップダウンとボトムアップ」です。トップ自らが健康経営推進をコミットするとともに、グループ会社も含めた横断的な組織「健康経営推進チーム」を構成し、統括産業医を中心に、人事担当者、健康保険組合、各事業所の産業医・産業保健スタッフ60名ほどが連携して、健康経営を推進しています。

講演の様子

弊社の健康経営には4つの柱があります。1つ目が喫煙率・メタボ率の低減。2つ目ががんの早期発見・早期治療、そして職場復帰。3つ目が女性社員の増加に伴うウィメンズヘルス。4つ目が健康管理への自発的取り組みの奨励です。

今回のテーマであるがん対策については、まずはがん検診を受けやすい環境を構築するために、法定健診の受診項目にがん検診をあらかじめ組み込むとともに、検診費用(二次検診含む)を全額健保負担しています。がん健診(二次検診も含む)は業務の一環とみなし、就業時間内で実施しています。

また、工場勤務者には、敷地内での集団検診、営業や本社では最寄の提携医療機関で受診するなど、社員の勤務スタイルに合わせて受診しやすいように工夫しています。

さらに、がん検診に関する情報配信・セミナー等を実施し、ヘルスリテラシー向上を図っています。

そして二次検診をフォローするために、対象者へは産業保健スタッフが中心となって積極的に声がけを行なっています。それでも受診しない者に向けては、その上司に対して仕事よりも検診を優先するよう、人事部から働きかけます。

特に本社から目の届きにくい営業支店は二次検診の受診率が低かったのですが、支店の評価の中に検診受診率を組み込むことで、2012年度に28%だった二次検診受診率が、2018年度には88%まで向上しました。

女性向けの乳がん・子宮頸がんの検診については、他のがん検診よりも受診率が低かったため、女性限定のセミナーの開催や情報提供などを実施することで、がんに対する理解を深め検診受診率アップにつなげています。また、乳がんMRIドックに25歳から5年ごとに2万円を補助、子宮頸がん予防ワクチン接種にも2万円の補助をしています。

2017年1月からは、がんと闘う社員のためにがん就労支援制度を導入しました。失効有休の1日単位利用や無給休暇の付与、無給短時間勤務、無給時差勤務、時差勤務などです。

一つ一つの項目は珍しいものではないのですが、この制度を導入したことで、がんと闘っている社員やその家族、その周りの社員に対して、会社が本気で「治療と仕事の両立を支援する」という企業姿勢が明確に伝わり、非常に意義があったと感じています。

今後は、がん検診の地道な受診啓発活動を継続していくとともに、がんに対する正しい知識や制度の理解・浸透を強化し、一人ひとりが働きがいややりがいを持って、仕事に取り組めるようさまざまな取り組みを強化していきたいと思います。

がん対策推進パートナー賞 治療と仕事の両立部門
田辺三菱製薬株式会社

黒田和美氏(人事部健康推進グループ 統括産業看護師)

田辺三菱製薬の両立支援制度は、病気等を抱えながらも、働く意欲・能力のある従業員が仕事を理由として治療機会を逃すことなく、また治療が必要であることを理由として退職を余儀なくされることがないように、適切な治療を受けながらもいきいきと働き続けることを支援するために、2018年10月から導入しました。

支援するにあたって大切なことは、病気・治療に関する理解、社内の支援の仕組みに関する理解、適用できる社内・公的諸制度に関する理解で、特に産業保健スタッフは初動の段階で本人やその上司から相談されることも多いため、熟知しておく必要があります。

そして、本人との良好なコミュニケーションを基に両立を一緒に考える姿勢を持ち、プライバシーへの配慮をしながら社内の連携を取らなければなりません。社内制度を柔軟に運用して個別に対応することも大切だと思います。

支援の流れとしては、

① 支援を望む本人が産業医や産業保健スタッフ、上司に相談

② 支援制度の説明を受けて、本人が利用したいと望む

③ 主治医に意見書・診断書を書いてもらう

④ 産業医の面談

⑤ 産業医が意見書を作成し、上司に提出

⑥ 上司が部門人事と相談しながら両立支援プランを策定

⑦ 両立支援プランを本人に通知

となります。

両立支援制度を使った働き方には、短時間勤務と治療休暇があり、その両方も取得可能です。短時間勤務は1日2時間半までの時短勤務ができ、治療休暇は無給で1ヵ月最大5日間まで取得できます。

講演の様子

がんの予防対策としては、がん検診受診率の更なる向上のために従業員向けがんセミナーの実施、社内イントラネットに「がんを知ろう!」という情報サイトを設け、「働く世代のがん事情」「早期発見」「がんになっても働ける」「体験インタビュー」などを掲載しています。

また、がん検診受診率向上のために35歳以上から年1回健保組合が費用負担して人間ドックを行なっており、人間ドックの受診結果を提出することで定期健康診断結果として代替化を認可しています。大腸がん検査については、40歳以上の従業員に対し会社が全額負担しています。

今後の課題として、両立支援制度を選択するのは本人の意思のため、しっかりとしたコミュニケーションをとり、個人個人に合わせたフレキシブルな対応を取っていきたいと思います。

また、働き方の多様化によりテレワーク勤務も可能ですが、テレワークで健康状態が悪化しないように、Skype面談等で定期的に産業医や看護職の経過観察が必要だと感じています。

さらに、管理職への教育研修で両立支援制度のさらなる理解を深めていきたいと考えています。

がん対策推進パートナー賞 治療と仕事の両立部門
長野朝日放送株式会社

五十嵐洋人氏(役員待遇 信州元気プロジェクト本部長)

長野朝日放送の中には、社内横断的な取り組みとして「信州元気プロジェクト」というものがあります。信州を元気にする活動がいくつかあるのですが、その1つに2012年1月にスタートした「信州がんプロジェクト」があります。

このプロジェクトは「〜知ろう、考えよう、がんのこと〜」をキャッチフレーズに、番組やCM、webサイト、イベントを通してがんに関する確かな情報を届け、がん検診受診とがん患者支援を呼びかける“がんを知り、がんと立ち向かう”活動で、がんに負けない社会を目指す取り組みです。

設立当初は、早期発見・早期治療を目的にがん検診の受診率向上を目的としていましたが、近年はがんとともに生きる人生に寄り添い、応援することも活動の大きな柱となっています。2020年度の活動方針は、がん予防とがん検診の推進、治療と仕事の両立支援、女性のがん対策です。

講演の様子

弊社のがん対策は、早期発見し治せるうちに治し、ともに働き続けていこうというのが基本的な考えです。

がん検診については、2013年4月より人間ドック・生活習慣病予防検診時に、社員および配偶者が希望するがん検査項目への費用補助を2万円を上限に行なっています。また、2019年7月からは、PET検診を希望する役員・社員に対して1回10万円を上限に、在職中に2回までの受診費用補助をしています。いずれの検診も受診日は特別有給休暇扱いとしています。

治療と仕事の両立支援については、本人の希望や治療内容に合わせて、制度を柔軟に運用しています。

まずは、人事労務担当者が本人に対し、社内制度・公的支援について詳しく説明します。本人・家族の意向や治療スケジュールなどを、定期的にヒアリングし、治療と仕事を両立できる働き方を、会社と本人が一緒に探っていきます。

これまでの就労支援の実例としては、抗がん剤治療スケジュールに合わせた1週間単位での休職、手術入院後のならし勤務(短時間勤務)、勤務地の変更、抗がん剤治療の為に休職する社員に対し、治療後の通院を考慮して有休を一部残したまま休職を適用するなど、100人弱の会社でお互いの顔が見えますので、これからも働いていくことを大前提に個々のケースに合わせた就労支援をカスタマイズしていきます。

地域メディアとしてこれからも『abn信州がんプロジェクト』の活動を通して、信州の健康長寿を支え、がんに負けない社会を目指して活動に取り組んでいくとともに、一企業としても社員のがん検診受診を徹底し、早期発見・治療につなげ、例えがんになっても自分らしく安心して働ける社内環境と態勢の整備をさらに進めていきたいと思います。

がん対策推進パートナー賞 情報提供部門
富士通株式会社

東泰弘氏(健康推進本部事業推進統括部 統括部長)

富士通グループは2017年8月1日に「常に変革に挑戦し続け、快適で安心できるネットワーク社会づくりに貢献し、豊かで夢のある未来を世界中の人々に提供し続けるために、社員一人ひとりが心身ともに健康でいきいきと働くことができる環境づくりを目指します」という健康宣言を社内外に宣言しました。

その中で、5つの領域で重点施策を定めました。1つ目が生活習慣病対策、2つ目ががん対策、3つ目がメンタルヘルス対策、4つ目が喫煙対策、5つ目が職場環境等の改善と健康意識の向上です。

富士通の従業員のがん罹患状況は、毎年男性で40名弱、女性で10名程度の新規がん罹患者が発生しており、最近では女性のがんが増加傾向にあります。そして、毎年10名程度ががんで亡くなっています。

今後は従業員の高齢化、女性社員の増加、定年の延長などで、ますますがん罹患社員は増加すると思われます。そんな中で課題としては、生活習慣の改善、がん検診受診率や精密検査受診率の向上、がん就労者の増加に伴う治療と仕事の両立支援などの対応が挙げられます。会社としては、制度・サポート体制の拡充は当然やっていくわけですが、それにも増して社員一人ひとりが健康リテラシーを高めて、健康意識の向上を図っていかなければなりません。そこで今年度、がん教育を行うことにしました。

講演の様子

がん教育の内容は、がん対策推進企業アクションの議長でもある中川恵一先生の健康セミナーとeラーニングを組み合わせて、富士通の国内の従業員約7万名に提供しました。大きな目的としては、がん・両立支援の正しい知識の習得を通じて、生活習慣の改善、検診受診率向上を図ることです。

健康セミナーは今年の1月15日に行い、会場で200名強、ストリーミングで1000名強が聴講しました。このセミナー受講により、“新しい知識の習得があった”と答えた方が98%、“生活習慣の改善、がん検診の受診等に対する意識の変化があった”と答えた方が93%おり、セミナーの成功を実感するとともに、1時間のセミナーだけで社員の意識が変わる「大人のがん教育」の重要性を改めて感じました。

eラーニングは翌日の1月16日からスタートし、現在も実施中です。まずはリテラシーをチェックし、それからがんの基礎知識をグラフやデータを使って説明し、がんの予防や早期発見、治療と仕事の両立支援といった充実した内容をスライドやナレーションでわかりやすく提供しています。

今回のがん教育に使用したeラーニング教材については、がん対策推進企業アクションに提供し、日本全国で広く活用していただくことを予定しています。

【パネルディスカッション】
「企業におけるがん検診と就労支援の取組み」

座長
中川恵一氏(がん対策推進企業アクションアドバイザリーボード議長/東京大学医学部附属病院 放射線治療部門長)

パネリスト
水野晶子氏(野村證券株式会社)
竹田敬治氏(テルモ株式会社)
黒田和美氏(田辺三菱製薬株式会社)
五十嵐洋人氏(長野朝日放送株式会社)
東泰弘氏(富士通株式会社)

講演の様子

中川氏
本日はとてもよい取り組みを紹介いただきました。これらをいかに多くの企業にも取り入れていただくかも重要だと思います。
まずは野村證券さまですが、私の証券会社のイメージは体育会系で体力勝負なのですが、社風は変わってきたのでしょうか?

水野氏
以前は、たくさん働いて食べて飲んでちょっとしか寝ないという、どちらかというと不健康自慢のようなステレオタイプの社員も多かったと思います。しかし、健康経営の流れや女性の活躍、少子高齢化、多様な働き方などの影響で、健康であることの大切さがここ数年で高まっていると感じています。

中川氏
今回の取り組みは2016年からですが、その原動力はなんだったのでしょうか?

水野氏
弊社は何でも一番でないといけない、というような社風も影響していると思いますが、私個人としては、健康というものは奪い合うものではなく、いろいろな企業の方が健康になればWinWinだと思います。

中川氏
動機がなんであれ、とてもいいことだと思います。短期間でこれだけのことをするのは、産業保健スタッフも大変だったと思います。風土醸成の部分で紹介された両立支援ガイドブックの本人編と上司編はオリジナルですか?

水野氏
はい。当社の保健師が先頭に立って、いろいろなものを参考にしながら作っています。

中川氏
業界の中でリーダーシップを取り、それを他の企業が追っていくやり方もいいのではないか感じます。

テルモさまは、とても堅実ながん対策をやられていると感じました。法定検診にがん検診を組み込むのは盤石だと思います。人事部長が健保組合の理事長を兼ねるのは珍しいと思うのですが、これはどのような経緯があったのでしょうか?

竹田氏
健保組合は健保組合なりに地道な努力を続けていました。会社側でも人事行政の中での健康保険の施作を続けていましたが、過去を遡ると運営が別の時代には、相容れない部分もありました。そこで近年では、両方を同じ人物が兼ねることで本質的な部分を統一し、無駄のない効果的な運営が可能となりました。
弊社トップの社長も会長も健康リテラシーが高いのと同時に、健康に携わる企業として社員が不健康だと説得力がありませんので、社員とその家族の健康を経営の軸に加えることができました。

中川氏
会社側と健保側ともに個人情報の取り扱いなどもありますし、お互いにすくんでしまう部分もあるかもしれません。両方を兼ねることで、結果的に痒いところに手が届くように感じます。

田辺三菱製薬さまは、非常に堅実で模範的な取り組みをされていると感じました。特に治療と仕事の両立において、時短勤務を柔軟に取れるのは非常にいいと思います。何か過去にうまくいった事例はおありでしょうか?

黒田氏
両立支援は、がん以外にも不妊治療などに適用しています。それぞれの疾病で短時間勤務を選ばれる方も多くいます。がん治療においても外来治療も多いので、1日の休暇はいらないけれども通院の時間だけ休暇が欲しいなど、さまざまな要望があります。制度設計時には、実際にいろいろな人と面談し、それぞれの要望に応じられるよう気を配りました。

中川氏
産業保健スタッフの方が、がんにしても不妊治療にしても知識がないとできないことですから、素晴らしい取り組みだと思います。

長野朝日放送さまは、他の4社と比べると社員数は100名以下と少ないですが、実はがん対策推進企業アクションの参加企業の45%程度が100名以下の事業所です。大企業では質・量ともにこの10年間でがん対策は大きく進んだと感じていますが、今後は中小企業のがん対策が大きな課題になってくると思います。
そういう意味で優れた取り組みだと思いますが、あえて辛口で言わせていただくと、例えばがん検診の費用補助の中に腫瘍マーカーやPET検診が入っていますが、厚生労働省では職域のがん検診に一定のマニュアルを設けており、住民検診をベースにそこから合理的な範囲で考えていくほうがいいのではないかなと思います。
放送局としての公共への情報提供は素晴らしい取り組みで、これを始めたきっかけは何だったのでしょうか?

五十嵐氏
きっかけは、県内のある病院が陽子線の装置を導入する取材をしている時に、自分たちにあまりにがんに関する知識がないことに気づき、もっとがんについて県民に知らせる必要があるのではないかと思ったことです。
そして、ただ伝えるだけでなくキャンペーンとして継続的に長野県に役立つことができないかと思い、このプロジェクトがスタートしました。加えて、長野県内は中小企業が多いので、それらの模範となるがん対策の方向性を示せればとも考えました。

中川氏
長野県は健康県で、年齢調整したがん死亡率が一番低く、平均寿命もトップクラスです。言いづらいですが、この両方のワーストが青森県です。つまり、がん対策が進めば平均寿命は伸びるということです。がんの死亡率が高いと平均寿命は短いのです。
長野県がなぜこれだけ健康県なのか。しかも、以前はそうではなかったのですよね。

五十嵐氏
昔は、脳疾患や心臓疾患が多いと言われていました。現在、健康県と言われていますが、がん検診の受診率は全国平均よりは高いものの(肺がん検診以外は)いまだ50%を下回っており、決してがん対策が進んでいるとも思えず、まだまだ努力が必要だと思います。

中川氏
確かにそうですが、死亡率が低いのも事実で、ぜひ長野朝日放送さんにその秘訣を取材して、全国に放送してもらいたいと思います。

富士通さまのeラーニングには私も関わらせていただきましたが、非常に印象的だったのは、従業員のリテラシーチェックでした。私の講演に関しても高評価をいただいたみたいですが、それは取りもなおさず「知らなかった」ということです。
このeラーニングの内容は素晴らしく、がん対策推進企業アクションにも提供していただく予定ですので、今後はパートナー企業にも活用していただきたいと思います。
このように大規模な取り組みは世界的にもあまりないと思いますが、きっかけは何だったのでしょうか?

東氏
規模に関しては、たまたま会社の規模がそうだったというだけだと思います。
がん教育については、今までの会社の課題は社員が休んでしまう「メンタルヘルス」がメインでしたが、これからはがん患者が増えると命の問題になり、会社へのインパクトが非常に大きくなってくるため力を入れ始めました。
もう一つは、がん検診の婦人科検診に今までも力を入れてきましたが、受診率50%を超えると頭打ちになっていました。それを何とかしたいという思いもありました。
実際にがん教育を実施すると、女性の子宮頸がんのピークが30代ということを知っている社員は14%しかおらず、これでは受診率が低いのは当たり前だと気づかされました。

中川氏
ありがとうございます。
登壇されている方同士で何かご質問はありますか?

竹田氏
野村證券さまにお伺いしたいです。短期間でがん対策を立ち上げられていますが、そのための努力と工夫を教えていただきたいです。

水野氏
産業保健スタッフが自分たちでいろいろ勉強をしてくれていて、人事からすると突き上げで耳が痛いことも多いのですが、これらの専門職が近くにいてくれたということが大きいです。
また、企業同士情報交換の場に参加して情報交換をしつつ、ともに切磋琢磨して成長していけたのかなと思います。

中川氏
かなりドラスティックな変化だと思うのですが、人事部の中ではそこまでやらなくても、というような反対論はなかったのでしょうか?

水野氏
経営のトップをCHO(健康経営推進最高責任者)に据えて、CHOの指示として遂行したため反対意見を抑えることができました。

中川氏
それは大きいですね。

富士通の東さまがおっしゃったように、これからは乳がん・子宮頸がんが大切です。以前は会社というものは、男性が中心でした。今は女性の社会進出が進んでいますので、これからは女性のがん検診ががん対策の本丸です。
ご参加の方で、乳がん・子宮頸がんに関して何か考え方などありますか?

竹田氏
弊社では、女性オンリーでセミナーを開催しています。従業員の知識を深めていく中で受診率が上がったという実感をここ3年くらいで感じています。乳がん・子宮頸がんについて、何となく知っているものの正確に理解していなかったという社員が多く、正しく理解することでセルフチェックやがん検診受診につながっており、やってよかったと思っています。

中川氏
テルモさまは、子宮頸がんの予防ワクチンの補助までされています。現在、ワクチン接種をしている年代としていない年代では、今後子宮頸がんの発生率が異なってきます。ワクチン接種をしていない若い世代の女性にどうするか、ということも今後の大きな課題となるでしょう。

10年間がん対策推進企業アクションの活動を続けてきた中で、年を追うごとに企業のがん対策が質・量ともに素晴らしいものになっていることに大きな喜びを感じます。これを一つでも多くの企業に伝えていくことが大切だと思います。
本日は、ありがとうございました。

【閉会の挨拶】

中川恵一氏(がん対策推進企業アクションアドバイザリーボード議長/東京大学医学部附属病院 放射線治療部門長)

がんはわずかな知識やリテラシーで運命が変わるもの。逆に言うと、少し学ぶことで避けられる不幸はたくさんあります。がんは命、人生に直結する病気です。がんの情報を提供する場、あるいは予防を実践する場として企業は非常に重要です。

少子化が進む日本は、今後高齢者も働かなければなりませんので、企業のがん問題は国の大きな問題になってきます。人生100年と言われる中、人生を謳歌するためにはがんで死なないこと、そのためには企業の役割が非常に重要です。

このがん問題は大きな課題ですが、現在着実に問題解決に向けて進んでいますし、引き続き皆さんのお力をお貸しいただきたいと思います。

本日はどうもありがとうございました。

講演の様子

統括セミナーの様子は動画でも視聴いただけます

https://www.youtube.com/watch?v=hHPU3901KBY

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