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藤沢タクシー株式会社

藤沢タクシー株式会社は、「典雅なる品位」を社是として、社員にとって働きやすい職場環境の整備と乗務員の健康管理体制の構築を進めている会社です。
乗務員の高年齢化が進み、現在、平均年齢が62歳を超えるなか、乗務員の健康づくりを積極的に推進してきました。
根岸茂登美さんは、藤沢タクシー株式会社代表取締役であると共に、保健師であり、看護学博士の肩書きも持っています。
また、看護大学、看護専門学校で老年看護学、産業保健論等の非常勤講師も勤めています。
経営者であり、同時に専門家として従業員の健康を守るために、根岸社長が取り組んできた「治療と職業生活の両立支援」について、語っていただきました。

※この度取材をさせていただいた、藤沢タクシー㈱根岸社長は、2015年2月25日に開催された、がん対策推進企業アクション年度統括セミナーにおいて、就労支援についてご講演をいただいております。
今回は、その後のご活動も含めたお話をしていただきました。
https://www.gankenshin50.mhlw.go.jp/report/info_150225.html

藤沢タクシー株式会社 代表取締役 社長 根岸茂登美さん
▲藤沢タクシー株式会社 代表取締役 社長 根岸茂登美さん

家業であるタクシー会社の経営者として着任した2001年当時、まず着目したのは社員の定期健康診断における有所見率でした。全国の有所見率が約46%であったのに対し、80%を超える高さでした。
事業に専念するため、着任と同時に看護職としての道はきっぱり諦めるつもりでした。
しかし、断念するどころか、本腰を入れて社員の健康管理を始めようと思い立ちました。
自身が歩んできた道とスタートしたばかりの経営とが共存する生活を送ろうとは、思いもよりませんでした。

ご自身はがんサバイバーです。看護学校の教員として仕事をしていた30代前半に乳がんを経験しましたが、周りのサポートのおかげで救われました。
その時に強く感じたのが、周囲の人たちへの感謝の気持ちでした。それが原点となり、両立支援への気持ちが強くなりました。
根岸社長は、普段から乗務員に対して、積極的に声を掛けて、距離を近くしています。それぞれ個人差がありますので、一人ひとりと話しをしながら対策を決めて行きます。

経営者として保健師として

この18年間で18名のがん就労者のサポートを行ってきました。このうち、診断と同時に退職したのは、今年に入ってからの1名のみです。
大企業のような体系的でシステマティックな両立支援ではなく、根岸社長ならではの対面による個別支援であり、これが見事に奏功しています。

中小企業の強みと言える、社員との距離が近いことを生かして、一人ひとりの話を聞き、状態を見ながら、個別に対応してきました。
幸い、自身が看護師であり保健師として学んできた、症状や治療経過、抗がん剤による副作用などの知識が役立ちます。
この社員の場合には、どうしたら良いか、こうしたら良いんじゃないか、じゃあやってみようと、ケースに応じた柔軟性に加え、スピーディーに行動に移せるのも中小企業の強みです。
また、経営者として就労継続を保障できる立場にあることも強みだと思います。
がんになっても辞めさせられてしまう心配をすることなく、仕事が継続できれば、がん就労者は安心して仕事にも治療にも向き合うことができます。
就労継続保障を根幹としたマニュアルのない両立支援こそが、根岸社長のやり方です。

支援事例:
N氏、60代後半、男性、タクシー乗務員、大腸がんに罹患、本人の就労意欲が強く、手術前後と抗がん剤の副作用が増強した時の休み以外は仕事を続け、亡くなる10日前までハンドルを握り続けました。
その経過において、体調と通院を優先にしたシフトへの切り替え、すなわち夜間帯から昼日勤への変更、労働時間の短縮、フレックスタイムの導入、休憩時間の延長など、柔軟に対応しました。さらに、症状悪化に伴い、根岸社長はN氏の診察に同席し、主治医から直接話を聞いたそうです。
N氏は、売り上げが常に上位に入る、優秀な乗務員でした。N氏への支援は、最期まで本人が持ち続けた、強い就労意欲を支えることができました。

藤沢タクシー構内
▲藤沢タクシー構内

がんサバイバーとレジリエンス

根岸社長が注目しているのは、がん罹患者のレジリエンス(精神的な回復力、肯定的適応)です。がんは、生活の様々な面に影響を与えるものの、多くのサバイバーは驚くべき精神的回復力を見せ、職場に復帰し、がんを患う前の役割や活動を取り戻せるということを明らかにした研究があります。
一般的には、がん就労者支援は、生産性の低下、売り上げの低下への懸念があると思われがちですが、何人もの支援を通じて感じることは、たとえがんが進行しても、彼らの気持ちはポジティブで、大変な頑張りを見せることも少なくないのだそうです。

がんが進行している乗務員が退職を申し出てきた時、体がきつい時には休めば良い、治療が必要ならそちらを優先すれば良い、しかし、今、辞める必要はない、1日1時間でも構わないから働ける時に働けば良いと、説得しました。
体調に合わせ、労働時間を短縮し、昼日勤に変更しましたが、その後、回復して、今は元のシフトに戻り、通院しながらフルタイム勤務に戻りました。
その乗務員は、お客様からの評判が良く、後輩の指導力もあり、売り上げも上位から落ちていません。
会社にとってとても大切な社員です。一時的にパフォーマンスが下がっても、見事なレジリエンスによって、本人は頑張り、売り上げも戻り、プラスのスパイラルに入って行きます。

今後の課題について

根岸社長がこれから課題にしたいことは、がんに罹患した労働者を支えている家族への支援の必要性です。
早い段階から家族と関わりをもつこと、労働者が亡くなった後のグリーフケアなどが課題となるでしょう。そういう研究も自身のテーマとしていきたいと語っていました。

ところで、根岸社長が同業経営者にインタビューしてみると、多くの事業主は労働者の健康問題に対する関心は高く、どうにかしなければという思いがある一方、どうしたら良いかわからないと答えたそうです。
そうした経営者の意識を支えると共に、具体的な健康管理体制を構築するための専門職による関わりが必須と言えます。

また、経営者自身の健康問題も大きな問題であると述べておられました。
特に中小企業の場合、後継者不足や代わりがすぐ探せないという問題は深刻です。
自身が健康管理に気を遣うことも重要ですが、今の法律は労働者保護が中心であり、確かに経営者を守る制度というのは、課題かもしれません。

質疑応答

Q:上記健康管理対策を始めてから、離職率は変わりましたか?
A:がんに罹患したという理由で辞める人はいません。この18年でわずか1名です。
Q:他企業に伝えたいことはありますか?
A:特に中小企業の場合、経営者の考え方を社員に直接届けることが可能だと思います。
声を大にして健康の大切さを話し、がん対策については、がん検診を勧めてほしいと思います。
皆が自身の健康に関心を持ち、例えば、社員同士の会話に健康に関する話題が自然と増えていくような、そういう風土を作ることが大切です。
Q:これから入社する方に伝えたいことはありますか?
A:疾患があるから採用しないということは、基本考えていません。タクシー業界は乗務員の高年齢化が進んでいます。病気があってもコントロールしながら、やりましょうと伝え、服用している薬、現在の体調などを聞き、ケース毎に判断して、いかに両立していくかを考えます。
ハローワークにもがん罹患者の就労を歓迎しますと申し出ています。
懸念している方がいれば、是非面談したいです。ホームページにもそうした内容を掲載することを検討しています。
タクシー写真
Q:柔軟なシフト対応などのコストは?
A:タクシー業界では、給与体系に歩合制を取り入れています。
労働時間が半分なら売り上げも半分、生産性が下がる部分は否めません。しかし、がん罹患者のレジリエンスによる影響は大きい。頑張っている姿を他の社員は見ています。
いざ自分が病気になっても働き続けられる安心感を与えられるといった、良い波及効果があり、経営者としてもとてもうれしいです。
当事者からパワーをもらえるので、私もきちっと支援しなければと思い、良い相乗効果になっているのではないでしょうか。
一方、この方法で良いのか、もっと他に方法あるのでは、という迷いは常にあります。
経営者が安心して就労支援に取り組めるような環境づくり、身近に相談に乗ってくれる人の存在も必要です。
Q:やりたいことができないジレンマはありますか?
A:安衛法による企業健診は、生活習慣病対策が中心です。
がん検診を進めようとすると相応の費用が掛かります。
女性労働者が少ない職場ではありますが、乳がん、子宮がんなども含めて、積極的にがん検診を取り入れたいと思います。
両立支援も充実させたいです。しかし、金銭的な負担を考えると困難です。特に、中小企業はやりたくてもできない場合が多いでしょう。そこで、助成金制度を整えるよう、望みます。
東京都では助成金制度がスタートしましたが、両立支援コーディネーターの関与が必要だと聞いています。
業種、企業規模、支援するケース毎に異なった対応が可能な柔軟性ある制度の確立が求められると思います。
Q:がん関連団体との交流は?
A:中小企業の場合、情報量が少ないと感じます。特に両立支援をはじめ、健康に関する情報は入りにくいです。
幸い、がん対策推進企業アクションの登録パートナーであり、日本産業衛生学会など関連学会の会員であることから、学術集会や研修での学びが情報源として役立っています。

以上、穏やかな中にとても強い意志を込めて語っていただきました。
感じるのは、根岸社長は常に社員目線で考えていることです。
根岸社長の基本スタンスは、人を生かすことで、企業も生きるということなのではないかと、感じた次第です。

2018年6月12日 左、根岸社長
▲2018年6月12日 左、根岸社長
藤沢タクシー株式会社 会社概要
設立 昭和15年11月 
代表者 根岸茂登美
資本金 1000万円
従業員数 85名
本社所在地 〒251-0015 神奈川県藤沢市川名一丁目9番27号
事業概要 一般乗用旅客自動車運送事業
URL http://www.fujisawataxi.jp/
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