厚労省が指針で検診を勧める5つのがん

胃がんイラスト

胃がん

進行がんでも治癒率は50%

戦後の食生活の欧米化や冷蔵庫の普及などによって、胃がんによる死亡は年々減少の傾向にあります。それでも、日本の男性がなるがんのトップであるなど、日本は依然として、胃がん大国です。
胃がんは、ヘリコバクター・ピロリ菌などの細菌が主な原因と考えられています。井戸水を飲まなくなり、冷蔵庫が普及して新鮮で清潔な食べ物を口にするようになったことによって、患者が減っています。ピロリ菌は免疫力が不十分な乳幼児期に、飲み水や食べ物などから感染し、そのまま胃にすみつくと考えられています。感染率は国によって異なりますが、先進国では低く、発展途上国、特に上下水道の普及率の悪いところで高い傾向にあります。

図:胃の構造と名称
図:胃の構造と名称

日本におけるピロリ菌の感染率は、年齢によって大きく異なります。10〜20歳で10%程度、50歳以降で40〜60%です。衛生状態が悪い時代に乳幼児期を過ごした世代の感染率が高いといえます。若い世代の感染率は減少の一途をたどっており、現在では、ほぼ欧米並みの感染率まで低下しています。
最近の研究で、ピロリ菌と胃がん発症の関連を指摘するさまざまな成果、動物実験の結果などが発表されています。日本はいまや、抗菌グッズと朝シャンの「衛生大国」です。ピロリ菌への感染が減り、胃がんはこれからもっと減るだろうと推察されます。
米国でも1930年ごろは、胃がんが、がん死亡のトップでした。しかし、日本よりも先に衛生環境がよくなったことから、今では胃がんは白血病よりも少ない、珍しいがんになりました。日本も米国の30〜40年遅れで同じような状況になるだろうと考えられます。外科医の努力などによって、胃がんの診断・治療技術が進み、胃がんは治りやすいがんの一つになっています。早期がんはほとんどが治りますし、進行がんでも治癒率は50%前後に達します。

胃がんは、胃の内側の粘膜の細胞の突然変異によって起きます。がんは、粘膜の表面から、徐々に胃の外側に向かって広がっていきます。それに伴って、リンパ節や肝臓、腹膜など胃以外の組織や臓器への転移の可能性も高くなっていきます。
早期の胃がんは、ほぼ確実に治癒する時代になっていますから、ただ治ればよいのではなく、いかに後遺症を少なく治すかに関心が移っています。一方、進行した胃がんは、半数が治るものの、この割合を高める研究が進んでいます。早期がんと進行がんでは、治療の目標が違うのです。

早期がんのうち、がんが粘膜内にとどまっているのが一番治療の条件がよいタイプです。おおよそ大きさが2センチ以下であれば、胃を切らず、内視鏡によってがんを切除することも可能です。
一方、進行した胃がんでは、胃を3分の2以上切除し、胃の周囲のリンパ節もやや広めに取り除く手術方法が一般的です。さらに、わが国で開発された「TS-1」という、口から飲む抗がん剤を手術後に使うことによって、治癒率が上がることも分かってきました。
胃を切ると、食べたものが急に小腸に届くため、「ダンピング」という不調を感じる人がいます。このため、胃を切ったあとの食事の基本は、軟らかめにした料理を、少しずつ、よくかんで食べることです。食事の回数を増やす工夫が必要な場合もあります。ただ、食事の楽しみは大事ですから、おいしいものを腹八分目でいただきましょう。たまには、お酒もいいですよ。ただし、ほどほどに。